表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/408

地獄の山にハイキング

学園編の続きです。


 笑顔で生徒たちに告げるスレイと、その横で複雑そうな顔をしているユフィ、そしてやはりエリックの表情が死滅していると錯覚してしまうほど無表情だ。

 なぜだか三人が三人とも違う表情をしているために、生徒たちはいったい今の時間になにがあったのかと思ってしまったため、生徒たちはまずはそれを確認することにした。


「おい、アルファスタ、お前エリックになにしたんだ?」

「なにも?後エリックじゃなくて、エリック先生だよロッドくん」

「あ、あの……ハイキングってどこに、行くんですか?」

「秘密だよ。さて、時間もないし行きたくなかったら残っててもいいよ」


 ゲートを開いて見せるスレイに、生徒たちはどうするのかと顔を見合わせている。その理由は先程のスレイが言っていた、危険な山と言うところにもあった。

 危険があるということはそこには魔物が存在すると言うことだ。

 彼らは魔物との戦いはいまだに経験したことはな、それどころか魔物を見たことすらないのだ。そんな所に行くのにはかなり勇気がいるらしい。


「はっ、俺は行くぜ」

「ロッド、あんた」

「強くなって俺たちのことをバカにしてた、あのクソみてぇな奴らを見返してやろうぜ」

「そうね。あんた不良のわりにいいこと言うじゃない」

「うっせんだよ」


 ロッドの言葉にシャルムが同調し、他の生徒たちもそれに同調してなぜか剣を掲げてからゲートの前に揃ったのを見て。


「それじゃあみんな、マジで危険な山登りに行くぞ!」

「「「おぉおおおっ!!」」」


 クラス全員が手を上げて声をあげてゲートの中に入っていくと、それに続いてゲートに入ろうとするスレイとユフィの元に、リーフとノクトがやって来た。


「スレイ殿、いったいこれからどこに向かうつもりなのですか?」

「わたしも聞いていないんですけど……それにあのエリック先生の顔は……どういう」


 スレイとユフィは顔を見合わせて、いきなり決めたことなので場所についてはエリック以外には話していなかった。

 それどころか、見せてすらいないのだ。


「いけばわかりますよ」

「……ノクトちゃんはいいけど、リーフさんは……覚悟をしておいてください」

「「?」」


 スレイとユフィの後に続いてゲートをくぐったノクトとリーフは、そこから見えた真っ黒な木々が立ち並ぶ景色と、肌に撫でるなま暖かいねっとりとした魔力を含んだ風にどこか身体にまとわりつくような恐怖に覚えのある。

 そして始めてきたはずなのに昔から知っているよう場所に、リーフと生徒たちはスレイの方を見た。


「お兄さん……ここは、も……もしかして」

「す、すすすっ、スレイ殿……こ、ここは……その……いったい」


 たっぷり数分の間、生徒たちと一緒に景色を堪能していたノクトとリーフがそろえて口を開いた。


「さて、みんな、ここは南方大陸、そこにある世界で最も有名な山だよ」


 南方大陸と世界で最も有名な山、その二つのワードでリーフと生徒たちは頭の中にその名前を頭によぎった。


「ま、まままままっ、まさかここは………」

「はい、言わずと知れた死霊山です」


 さらりと答えを言ったスレイ、リーフの顔から笑顔が消えて絶望にも似た表情になり、生徒たちの表情が赤から一気に青へと変わると、そこからさらに真っ青に変わっていってしまった。


「いったいどうしたのみんな?」


 驚いた顔をしているスレイに、ユフィはふるふると首を横に降ってからポンッと肩をたたいた。


「スレイくん、わかってると思うけど、ここって普通の人からしたら恐怖の対象だからね?」

「えっ、ここって普通より魔力が濃いくて魔物が強いだけのただの山じゃん」

「………まずいよぉ~、スレイくんの常識が壊れてるぉ~」


 なにやら悲しそうな表情のユフィにスレイは優しく声をかける。


「ユフィ?大丈夫?」

「私もさぁ、大概感覚がずれちゃってるかも知れないなぁ~って思ってはいるんだけどねぇ~、でもねぇスレイくん、この子たちはまだ、純粋なんだから毒しちゃだめ!絶対にダメなの!」


 両肩を叩いて説得するユフィにスレイは何をしてるの?という顔をしている。


「いや、下に降りる気はないよ?いま下に降りても確実にこの子たち死ぬし」

「ならなんでこんなところに来ちゃったの!?私も特に考えてなかったけどね、よく考えたら死んじゃうんだよみんな、多分骨も残らないよ!?」

「うん。一分でみんな仲良くマッドスネークに食べられるだろうね」

「そうだよ!だったらなんでなの!?なにする気なの!?みんな死ぬって聞いてなにもしてないのに真っ白に燃え尽きたぜ、状態になっちゃってるんだよ!?」


 ユフィがビシッと生徒たちの方に指を指すと、そこにはリアルに真っ白に燃え尽きて、風が吹けば一瞬で飛ばされてしまうのではないかと思うほどだった。

 それを見てさすがのスレイも気まずそうに頬をかいている。


「まずはここの空気に慣れて、それから下に行こうかなって」

「それで?」

「当初の目的だったら二週間は向こうでしごいて、ボクの銃弾くらいは避けれるようになってからここに連れてくるつもりだったよ」

「なら中腹でも良かったじゃん、なんでいきなり頂上なの?」

「下からだと、上に行った時に足がすくむから、後はここにこれる魔物なんて早々いないからさ」


 一応はなにも考えずに連れてきたのではないのだと思ったユフィは、もう良いかと諦めたように息を吐いた。


「スレイくん……もういいよ……わかった……それでいいよ、ここであの子達を鍛えよう」


 そういうとユフィは空間収納からシェルを取り出した。

 それは盾のような形に左右には六つの筒のようななにかが取り付けられていた。それはどこからどう見ても、地球に見たロボットアニメのあのシールドだった。


「ユフィ……そ、それって」


 まさか、まさかと目を輝かせるスレイにユフィはニヤリと口元を吊り上げた。


「新作のガンナーシェルだよ~。スレイくん、こういうの好きでしょ?」

「そりゃあもう、大好きです!」


 こんな物見せられてテンションが上がらないないはずもなく、ニヤけそうな顔を必死に抑えたスレイは生徒たちの方へと向き直る。


「よし!やるか!」

「うん!みんな!やるよ!」


 スレイとユフィのやる気に火がついた。

 生徒たちに心には絶望が指した。

 ノクト、リーフ、エリックの三人からは表情が消えていたのだった。


 ⚔⚔⚔


 それから一時間、死霊山には銃弾の飛び交う音が聞こえてきていた。


「ほらほら、ユースくん闘気にムラが出来てるよ!ククルちゃんは強化が雑すぎる。まずはイメージを固めて!マックスくん、ガードするときは魔力をもっと増やして!ツルギくんは視野を広くして周りを見て!」

「ユンちゃん、動きが固いよ!イルナくんは魔力が少ないよもっと増やして!ロッドくんは闘気だけじゃなくて魔力も使って!シャルムちゃんもだからね!」



「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」」



 魔道銃のトリガーを引くスレイとガンナーシェルを動かているユフィ、二人は動きの悪い生徒に今出来てない点を注意する名前を呼ばれた生徒たちが返事をする。

 この一時間で大分動きがよくなってきた。

 もともと身体強化が出来なかっただけで身体能力はみんな十二分にあった。下地が出来ている分、成長は早いがそれでもまだまだダメだ。

 今まさにそれを痛感させるように額を撃ち抜かれた生徒が地面に倒れる。


「魔力の練りが甘い!」


 容赦のない一撃が生徒たちを襲う。それを見ていたノクトとリーフはなにかを悟った様子でお茶を飲んでいた。


「ノクト殿、スレイ殿はほんとに人間なんでしょうかね」

「あぁ~わかりますよ、お兄さんたまに化け物って呼ばれてましたから」

「ひどい言い方ですけど………少し納得してしまうところもありますね」

「こうしてみてるとユフィお姉さんも言われてもおかしくないですよね」

「あぁ~、想像出来ますが、それ以上にそれにキレるスレイ殿の姿が思い浮かびますね」

「たしかにそうですね」


 話してはまたお茶を啜る。そんなやり取りがこの一時間ずっと続いていた。


「リュージュ……お前、こんなところでどうやったらそんな呑気にお茶が飲めるんだ!?」

「どうって言われましても……アレを見てしまいますと……」


 そういってリーフがチラリと横をみると、そこには音に反応して近づいていた魔物たちをスレイとユフィがさりげなく殺気で威嚇しそれでも向かって来るようなら、高速で打ち出された魔道銃の魔法弾。

 もしくはユフィが警戒用に配置していたアタックシェルで攻撃するその全てを一撃で仕留めていたのだった。

 その光景を見てしまったエリックも、なにかを悟ったような顔をして一緒にお茶を飲み始めるのであった。


「ノクト先生、あのお二人ってランクいくつなんですか?」

「お兄さんもユフィお姉さんもCランクでしたね」

「アレでCランクって、ふざけてるんですかね?」

「自分はてっきりAランクか、本当はSランクなのではないかと思ってました」

「Sランク……たしかこの大陸のSランク冒険者の中に、白い髪の魔法使いがいましたね」

「はい。もしかしたらスレイ殿、でしたりして」

「そんなわけないですよ」


 再び笑いあっていると、最後まで倒れずに残っていたロッドが倒れたのを見てお茶会を中断した。


「お疲れ様ですスレイ殿、ユフィ殿」

「マジックポーションありますよ」

「ノクトちゃ~ん。一本ちょうだぁ~い」

「はい!お兄さんもどうぞ」

「ありがとう、でもまだいいよ」


 魔道銃二挺をホルスターに納めたスレイは、空間収納の中から黒い剣を取り出すとベルトに吊るした。


「どこに行くんですか」

「みんなの昼ごはん取ってくる」

「あぁ、食事も現地調達なのですね」

「もちろん、とは言えこの時期にこの人数で食べれる魔物いたっけ?」


 スレイが困った様子で空を見上げると、ある物を見つけニヤリと笑うとリーフとエリックにこの辺り一帯を空けるように頼む。

 つまりは地面に疲れて伏せている生徒たちを一ヶ所に集めてもらうのだ。


「ノクト、悪いけど巻添えにならないようにシールド、三重くらいで張って」

「えっ?そんなにいるんですか?」

「大丈夫、悪くてここが消炭になるだけだから」

「一大事じゃないですか!三倍で張っときます!」

「お、おう」


 なぜだかすごい気迫だと思ってしまったスレイは、微かに押されぎみになりながら魔法を使うことにする。


「───フライ」


 飛行魔法を使ったスレイは空へと飛び上がるとそれを見ていたリーフは、呆然としながら空へと飛んでいったスレイの姿を目で追っていると、その進行方向に飛行する魔物を見て目を丸めて驚いていた。


「ゆっ、ユフィ……殿……あっ、ああああっ、アレ……!」

「うん、いますね」

「いますね、って……あ、アレはまずいでしょ!?あそこにいるの()()()()()ですよ!?」


 そう、スレイが狩りに行った魔物は少し大きな空飛ぶトカゲ、ワイバーンだった。

 ワイバーンは竜と同じ種類に分類される魔物だが、強さで言ったら最弱レベルだ。

 だが仮にも死霊山にいるワイバーン、そんじゃそこらのワイバーンとは比べ物にならないほど強い。


「ノクト殿!ここからでも魔法で援護をッ!?」

「必要ないですよ」

「ですが!」

「だって、ワイバーンなんてここじゃ弱いですから」


 リーフがユフィに対して言おうとしたとき、ドスン!という音が聞こえてきた。


「いやぁ~、この大きさだと血抜き大変そうだな」


 その言葉と共に首を失ったワイバーン片手で持ち上げて戻ってきたスレイを見て、本当に心配するだけでムダだったのだと思ったリーフだった。


 ⚔⚔⚔


 狩ったばかりのワイバーンの肉を切り分けたスレイは、即座に作り上げた土魔法製のフライパンで手持ちの調味料を使って作った肉料理を人数分用意した。


「お代わりたくさんあるから欲しかったら言ってね、すぐ焼くから」

「うぅ~んここのお肉はやっぱり美味しいね~」

「だな、やっぱり脂の乗りもひと味違う」

「スレイくんの味付けも最高だよ」


 スレイとユフィがワイバーンの肉を食べながらうなずきあっていると、生徒たちの顔は真っ青になってとても気持ち悪そうだった。


「おい、アレを見た後で食えって……お前は鬼かなにかか?」

「何って私たち全員あのワイバーンの内蔵見たんですけど……?」

「………言うな思い出したら吐き気が……」

「アレを見た後に食えって……うっぷ」

「あたしもうダメ」


 生徒たちが青い顔をしてスレイのことを見る。

 そんな中には口元を押さえてうずくまっている生徒もいるほどだった。いったいどうしたのかと、スレイが思っているとそれをみかねたエリックがそっと耳打ちした。


「うちの生徒たちは野外演習など初めてでして……申し上げにくいんですが魔物の死骸を見てそれを食べるのも初めてなんです」

「本来なら騎士団の新人研修の一貫で体験することなのですが、その時も似たような反応されますね」

「なるほど、そういうことなのか……」


 そうなってしまう気持ちもわかる。

 まだ今日は初日ということもあるので今日はこれでやめようかと思ったスレイは、焼いた肉を空間収納に仕舞おうとすると一人の生徒が肉の固まりにフォークを突き立てた。


「いっ………いただきます!」


 そういって食べ始めたのはユンだった。


「う……うっぷ」

「ユンちゃん!無理しなくてもいいんだよ?」

「だ、大丈夫……です。わ、わたし……これを食べて……もっと、強くなりたい……だから……食べます!」


 いままで見下され、卒業もできずに留年し今年卒業できなければ退学処分、ずっとユンはそう思っていた。

 だけど、スレイの指導によっていままで出来なかった闘気の使い方を教えてもらった。微かに見えた希望を失わないためにもユンは頑張った。


「くそ、ユンの癖にカッコいいこといってんじゃねえっての」

「そうね。食べなきゃ、頑張れないもんね!」


 ユンに続いていたロッドとシャルムも食べると、それに続いて他の生徒たちも食べ始める。


「お、俺も食う」

「わたしだって!」


 がつがつと皿に添えられた肉を食べ始めた生徒たちを見て、スレイは午後からの特訓は少し趣向を変えてみようかと考えながら、次々とかけられるお代わりの声を聞いて焼いていた肉をアラクネに指示を出して切り分けてもらったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ