宣戦布告
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別室に通されたスレイ、ユフィ、ノクトの三人は、先程いきなり泣きついてきた女性のギルド職員と一緒に、対面するような形で座っていた。
「先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
正面に座った職員は、深々とスレイたちに頭を下げる。
「いや良いですって、あなたの同僚が説明してくれたお陰でボクへの被害はなにもなかったので」
「大丈夫ですよ、うちのスレイくん、大体こういうことに慣れ親しんでいますから」
「お兄さんは、本当にこういうことに巻き込まれるみたいなんで大丈夫ですよ」
「あのさぁ二人とも、お願いだから君らの中ボクに対する認識っていうの教えてもらっても良いかな?」
手で目元を覆いながら二人に確認を促してみると、ユフィとノクトは顔を見合ってからスレイに視線を向ける。
「だって、そういう体質でしょ?」
「だって、そういう体質ですよね?」
息がぴったりと合っていた。
この二人が出会ってからそんなに時間が経っていないはずなのだが、なぜこんなにも息があっているのか、本気で一度よく話し合って聞いてみたいと思ってしまった。
「うふふふっ。皆さま仲がよろしいんですね」
笑ってこちらを見ている女性職員にスレイが複雑そうな顔をしている。
「……あの、本題を話していただいても良いですか?」
「あ、そうしたいのですが……すみません、先方をお呼びしましたので少々お待ちください」
どうやらここに依頼主も来るようなので、スレイたちは出されたお茶を飲みながら待つことにした。
待つこと十分ほど、待合室の扉が開いたのを見ていると開いた扉の先から聞こえてきたのは、あまりにも予想外の言葉であった。
「ふん、ギルド風情が我々を待たせるとはずいぶんと偉くなった物だな」
「おいベスター!口を慎まんか」
入ってきたのは赤髪の目付きのキツイ男と茶髪の男、二人は待合室に入ると同時に言い合いを始める。
言い争いをする二人を横目にスレイはあるものに注目していた。
それは二人の男が着ている服、その胸元に刺繍されているエンブレムだった。
所々の作りは違うがアレは昨日、リーフの家で出会ったアルフォンソが着ていた騎士団の制服と同じものだ。
「なんで、騎士がこんなところに?」
てっきり依頼主がやってきたとばかり思っていたが、さっきの口ぶりからしてもしかして、そうスレイが思った瞬間、赤毛の男がこちらに気づいた。
「あれ?君たちは確か、昨日の……」
そのうちの茶髪の騎士がスレイたちの顔を見て驚いた様子だが、スレイには全く心当たりがなかった。
「ユフィ、ノクト、知り合い?」
「さぁ?」
「わかりません」
ユフィとノクトに問いかけるもそろって首を横に振ったのを見て完全に知らないようだ。
「すみませんが、どこかでお会いしましたっけ?」
三人を代表してスレイがそう訊ねると、茶髪の騎士はなにかを思い出したように話し出した。
「いやすまん、あのときは兜を被っていたからな……昨日、あなた方に助けていただいた隊の者です」
そう名乗られてようやくスレイたちは納得したようにうなずいた。
「あぁ~……そういえばあのときの隊長さんの声と似てるような気がぁ~」
「確かに……そんな気も、するような、しないような……?」
「ごめんなさい、ちょっとわからないです」
あの時はリーフ以外とはちゃんと顔を合わせていない。何人とは素顔で会話をしたものの、直後の襲撃を受けてみんな兜をしっかりとかぶって警戒していたのだ。
なので同じような、違うような曖昧な返事しかできなかったが茶髪の男は軽快に笑っていた。
「いや構わんさ。それよりもまた改めてお礼を」
「おい、いい加減にしろ私は忙しいんだ。我々に気安く話しかけるんじゃない!」
「ベスター!話しかけたのは俺だ!」
再び言い争いを開始する二人を前に、スレイたちは黙って成り行きを見守った。
昨日のリーフの話である程度は予想していたが、思っている以上に冒険者と騎士団とでは相いれぬ部分があるようだ。加えて、目つきのキツイ赤髪の男ベクターはよほど冒険者を認めたくないらしい。
しかしながら、このまま言い争いを続けられれば話が一向に進まない。仕方ないと思ったスレイは、赤髪の騎士の前で頭を下げた。
「申し訳ありません騎士様、私めが気が利かないばっかりに不快な思いをさせてしまい。深く謝罪させていただきます」
唐突に頭を下げたスレイに茶髪の騎士が辞めるように言おうとしたが、それを遮るように赤髪の騎士ベクターの声が響いた。
「わかればいいのだ、以後気を付けるようにな、卑しき冒険者よ」
「はい」
赤髪の騎士ベクターがドサリとオスに腰掛けたのを見て、スレイが頭を上げると怯えたような目をする女性職員と目が合った。
大丈夫、そう見えるように笑ってみせるとドンッとテーブルが叩かれる音が鳴り響いた。
「おい、そこの女!さっさと説明を始めろ」
「はっ、はい!」
突然の怒鳴り声に女性職員がおびえて震えるとそれをたしなめるように声が上がった。
「ベスター!もう少し丁寧な言葉遣いをしろ!おびえてるじゃないか!」
「お前は一々うるさいんだ。しずかにしろ」
「なんだとッ!」
先程からベスター呼ばれている赤髪の騎士が女性職員を怒鳴り付け、茶髪の騎士に叱られるが全く聞く耳持たないといったご様子だ。
そんな二人の様子を見ながらスレイは小さな声で呟いた。
「なんか、武器を預けた理由がわかった気がする」
今のスレイたちは武器を持っていない。
理由は聞かされていなかったが、あのベクターという騎士の態度でその理由がよくわかった。
大方、以前に冒険者と騎士との間に同じようなやり取りがあり、流血沙汰、あるいはそれに近いことが起きたのだろう。それを防ぐための処置だろ。
「なんだか、面倒な依頼になりそうだ」
「うん、そうだね~」
「そうですねぇ~」
独り言を呟いたスレイに二人が抑揚のない声で返してきた。
スレイがちらりとユフィとノクトの方を見ると、二人とも笑顔でピクリとも動かなかった。
これは完全に怒っているなと思ったスレイは、無事にこの話し合いが終わることを切に願うのだった。
「それでは依頼の内容をご説明します」
「……お願いします」
女性職員の準備が終わり説明が始まった。
「まず依頼の内容ですが、お三方にはロークレア王立騎士学園で学生たちの指導をしていただきます」
「確認なのですが、ボクたちは何を教えればいいんでしょうか。騎士学園と言うことは戦いかたではなさそうですけど」
「いえ、その戦いかたなのです」
「えっ、それって……」
「おい、要らない話をしてないでさっさとしろ!」
疑問を問いかけようとしたスレイにベクターが食って掛かった。
質問する度に一々突っかかられるには面倒だと思ったスレイは、ユフィたちに習って黙って話を聞くことにした。
「すみません、話を続けてください」
「は、はい……それで期間なのですが二月後、つまり新しい年の始めに行われる対抗戦までになります」
二カ月、拘束期間としてはかなり長いが、報酬からしてもそれくらいの拘束期間は妥当だろうとスレイたちが納得した。
「それで、報償金のことなのですが………」
「そこはいいだろ、どうせ手に入ることはないんだからな」
「……どういうことでしょうか?」
「なんだ、知らんのか?その対抗戦、お前たち冒険者が受け持つクラスと、我々騎士が鍛え上げたクラスで戦う、そこでお前たちのクラスが勝てば依頼は達成となるのだ」
スレイがちらりと担当の女性職員を見ると、申し訳なさそうにうつむいてしまった。
そこで、スレイはようやくこの高額報酬の依頼が今まで残っていた理由を理解した。
つまりは頑張って二ヶ月働いても、試合で勝てなければ賞金がでない。
二ヶ月分タダ働きなる可能性があると、その日暮らしが殆どの冒険者には酷という物だ。ベクターのような騎士が毎回立ち会うとすると短気な冒険者だと問題を起こすかも知れない。
「まぁ、今までもそうだが冒険者等という落ちこぼれが鍛えたクラスが、我々の鍛えた生徒に勝つことなどまずはないがな!ハッハッハッハッ!」
侮蔑の意味をこもったベクターの笑い声にスレイがムッとした。
今までは多少のことならながしていたが、さすがに冒険者全体をバカにされては黙っているわけには行かない。
「そうですか……なら、遠慮なくやらせていただいてもかまいませんよね?」
「なんだ──ッ!?」
「ひぃ!?」
「ほぉ~」
ジッとベクターを見るスレイのその目には、冷徹なまでに冷ややかな物だった。
「貴様!その目はなんだぁ──ッ!!」
「おや、なんだとはなんでしょうか?ただ、あなたを見ていただけですよ?それとも、あなたが見下している、冒険者風情に怯えているんですか?」
嘲笑うかように失笑するスレイを見て怯えきったベクターが立ち上がると、腰に下げていた剣、その柄を握ると間に遮るように置かれていた机を投げ飛ばす。
さすがにこれは見過ごせないと思ったのか茶髪の騎士が止めようとしたが、スレイが優しい表情で笑いかけるとその動きを止めた。
「その目をやめろぉおおおおッ!!」
振り下ろされた剣をスレイはニッコリと微笑みながら、動こうともせずに見ている。
剣がスレイの身体に触れようとした瞬間、身体から溢れ出た黒い炎が剣を溶かした。
「おやおや、剣が溶けてしまいましたね?でも、剣を抜いてしまってもいいんですか?」
「なにを!」
「おい、ベクター、これ以上やるのなら、団長へ報告するぞ」
「───ッ!……勝手にしろ!」
半ばから溶かされた剣を鞘に納めたベクターはスレイを睨み付けながら部屋を出ていった。
バンッと力強く扉が閉められ足音が遠ざかるのを聞いたスレイは、部屋の隅で丸くなって怯えて居る職員にそっと手を差しのべる。
「すみません、怖い思いをさせてしまって」
「へ、平気です……で、ですが……その……依頼は、キャンセル……ですよね?」
「なんでですか?ボクも彼女たちもやる気ですよ」
スレイがユフィとノクトを見ると、身体中からほとばしるやる気をみせる。
「ノクトちゃん!あんな奴ぶっ潰しちゃおうね!」
「はい!わたしたちの本気見せつけてやりましょう!」
拳を天井に突き上げてやる気を表現している二人をみて、スレイは口元をつり上げる。
「それに、個人的にああいうの大嫌いなんで、全力を出してぶっ潰しますよ」
三人のやる気を聞いた女性職員が満面の笑みを浮かべる。
「で、では、手続きをさせていただきますので、カードをお出しください!」
スレイたちがギルドカードを渡すと、満面の笑みを頭を下げて部屋を後にして行った。
残されたスレイたちは、同じく部屋に残っていた茶髪の騎士のほうに向き直った。
「あの……お仲間にあんな態度をとってしまって申し訳ありません」
「いやなに、構わんさ。あいつの言動にはいい加減腹が立ってたからな」
「そういってもらえると助かります……えぇっと……」
「ん?あぁ名乗ってなかったな。ロン・ハーベストだ、改めてよろしく」
「スレイ・アルファスタです。改めてお願いします」
出された手を握ってあいさつしたスレイは、女性職員が戻ってくるまで他愛のない会話をした。
「ロンさんも、あの人と一緒に教えるんですか?」
「いや、俺はあいつを押さえる役目でな、多少の助力はするつもりだがな」
助力と聞いたスレイはフムと考えを巡らせてから、ニッと口元を吊り上げた。
「なら一つお願いが」
「おう。言ってみ」
「騎士の方を誰でもいいので付けてください」
「構わんぞ。だがどうしてだ?」
「いや、ボクたちだけじゃ指導しきれない部分もありますし、大前提として集団戦の経験がないもので」
元々スレイとユフィの二人パーティ、今はそこにノクトを加えた三人パーティで活動しているが集団戦闘などやったことがない。
知らないものを教えることも出来ないので、そこは適材適所というところだ。
「あと、ボクたちまだこの国をよくわからないので、案内をお願いしたいんです」
「なるほど、なら明日にでも君たちの所につかせるよ。宿はどこに泊まってるんだい?」
「それがまだ決まってないので、これから決めに行きますよ」
そんな話をしていると、先程のギルドの女性職員が手続きを終えて戻って来たので、ついでにギルド提携の宿やの場所を聞き出し、空いているようならそこに泊まることにする旨を伝える。
「そこに居なかったら、お手数ですがギルドに来てもらえますか?」
「わかった。それでは先に失礼するよ」
敬礼したロンを見送ったスレイたちも個室を後にして、ギルドのエントランスに戻ると女性職員によるセクハラ冒険者のお仕置きは終わった代わりに、今度は女性冒険者たちによる暴力ではなく言葉の暴力による吊し上げ会が行われる。
女性っ怖いなぁ~っと思っていると、ユフィとノクトも参加しかけたので、先程と同じように黒鎖で縛って参加させないようにしする。
途中金を引き下ろしてからギルドをあとにした。
どのみち目的も終わったのでギルドを出て問題はなかったため、適当な場所で昼食をとった後、街の観光をしてから紹介しされた宿に行く。
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宿の夕食後、スレイはユフィとノクトの部屋で話をしていた。
「ここの宿当たりだね~ご飯も美味しいし、料金はかかるけど広いお風呂もあるし」
「そうだな……今さらだけど、派遣してもらう騎士どんな人が来るのかな?」
「わたしは、あのベクターとかいうのと同じタイプが来なかったらいいんですが」
『あの男のことです、自分と同じタイプの騎士を派遣してくれると思いますよ』
「まぁ明日になればわかることだし、今日は早く休も」
その一言でスレイたちは自分の部屋に戻って早めに休むことになった。
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次の日、夜明けと共にスレイは起きた、正確に言えば部屋の扉を叩く音に起こされた。
部屋の扉を開けるとこの宿の女将だった。
「はい……こんな朝早くにどうしたんですか~?」
「おやすみちゅう申し訳ありません。下にお客様が来ています」
「客……?」
「それが騎士の方なんですが」
「あぁ、そっか……時間指定してなかったっけ」
今更ながら自分のふがいなさに気づいたスレイは頭をかきながらそう呟くと、何やら不安そうな顔をしてる女将をみてどうしたのかと思ったと同時にその顔の理由がわかった。
「何かしたって訳じゃないですよ。ギルドの依頼が騎士団と合同でそれで」
「もしかして騎士学園のですか?」
「えぇ……有名みたいですね」
「それはもう、うちを利用する冒険者の方々この時期になるとよく愚痴を口にしてますね」
「目に浮かびます。それで騎士の方は下ですか?」
「あ、はい、そうです」
「じゃあ着替えを済ましたらすぐに向かいますので伝えておいていただけますか?」
「かしこまりました」
着替えを終えて部屋を出たスレイは、ユフィとノクトを起こした方がいいかと思ったが、まだ夜が明けたばかりなのでまだ寝かしておこうと思い一人で下に降りる。
「すみませんお待たせしました」
「いえ、こちらもこんなに朝早く申し訳ありません」
スレイが降りていくと、聞いたことのある声だと思ったら、そこにいたのはまさかの人物だった。
「おはようございます。スレイ殿、本日から二ヶ月の間よろしくお願いします!」
そこにいたのはここに来て初めて知り合ったリーフだった。




