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高額報酬の真実

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 ここはウルレアナにある冒険者ギルド。

 そこでは一人のギルド職員の女性が深い、とてもとても深いため息を吐きながら絶デスクに頭を打ち付けていた。


「いやぁ~、もう無理ぃ~」


 夜が明けた空には太陽が昇り、窓から差し込んだ光がギルドの中を照らす。

 何度も頭をディスクに打ちつける女性職員は高く積み上げられた書類に埋もれているが、これは今ここにいる職員すべてにいえることである。

 それではなぜこの職員がこんなに追い詰められているかと言うと、積み上げられた書類とは別に一枚だけ置かれている依頼書、これが原因だった。

 もう嫌だと思ったその時、ギルドの扉が開かれた。


「おはようございまぁ~す」


 入ってきた女性職員は夜勤明けの同僚に挨拶をしてから自分のデスクにたどり着くと、まるで死んでいるような様子の同僚の姿を見つけてギョッとした。


「あんた、夜勤明けだからってひどい顔ね」

「………す………けて…………」

「はっ?なんだって?よく聞こえないんだけど?」

「たす…………け………て……」

「はっ?たすけて?いったい何からよ?」

「これよぉ~!お願いします~助けてください~!」


 突っ伏していた女性職員がガバっと起き上がり目の前にあった依頼書を押し付けると、そのまま子供のようにわんわんっと泣き出してしまった。


 同僚に泣きつかれた職員はよしよしと頭を撫でながら押し付けられた依頼書に目を落とすと、理由を察した職員は頭をかきながらため息をついた。


「そう言えば、今年はあんたがこれ担当だったわね」

「そうなのよぉ~、もう嫌なのよぉ~!」


 幼児後退していると言われてもおかしくないほど泣きわめく同僚を横目に、職員は手に持った依頼書を見ながら同情の眼差しを向ける。


 これはここ数年、このギルドを苦しめる呪の依頼と職員たちは呼んでいる。

 この依頼は報酬が高いのに誰も受けたがらないが、どうしても受けて貰う必要があり、職員が何度も頭を下げてようやく受けて貰っても、絶対にクレームが入るというこのギルドきっての負の依頼であった。

 毎年誰かがその贄となっているのだが、今年はそれが彼女だったというわけだ。


「そう嘆きなさんな。受けてくれそうな人に声かけてるんでしょ?」

「かけてるよぉ~、でもなかなかいい返事もらえないし、昨日も必死に声かけしようとしたらこれよ!」


 バンッと女性職員が自分のディスクに積み上げられた書類の束を見せつける。


「えっと……冒険者の身辺調査書?何よこれ?」

「このまえ、ギルドから騎士団に提供した盗賊団の情報あったでしょ、アレがどこかから漏れてたのよ~」


 ポロポロと涙を流しながら話し出す同僚に思わず女性職員の表情が険しくなった。


「ハァッ!?嘘でしょ!?」

「ホントよ!昨日、夜遅くに騎士がギルドに来て冒険者の取り調べまで付き合わされたのよ!おかげでみんな仮眠も休憩もなしで書類づくりよ!」


 だからみんな今日は元気がないのかと、女性職員が辺りを見回しながら呟いた。

 夜中のギルドは、はっきり言ってしまえば暇だ。

 街の門も十二時には閉められ併設の酒場もその時間で終わりだ。なのぜ冒険者が来ることもなければ、依頼者が来ることもない。

 街なかで何かが起こったときの緊急時のっと開かれているだけで、職員も日中の書類の片付けや新規の依頼書の張替えなどの雑務以外の仕事がない。

 加えて休憩もあれば一時間の仮眠もあるので基本的みんな元気だ。しかし、今日はみな覇気もなく疲弊していると思ったらそういう理由だったのかと納得できた。


「取り調べのことは後で聞くとして、話を戻すけど冒険者への声かけはどんな感じなの?」

「そっちも全然……報酬だけ見て聞いてくれる人もいるけど依頼内容を聞いて断ってくるし、受けても良いって冒険者もいるんだけど……その……」


 同僚が言い淀むのを見て何かあったのかと思って聞き返す。


「なによ、何かあったの?」

「その……依頼を受けてほしいなら……その、えっと……一晩、相手しろ……って、いわれて」


 一晩相手をする、その意味は言われなくても理解できた。

 理解できたからこそ女性職員の顔に怒りが灯った。


「その冒険者教えなさい………私がタマ潰して皮剥いで殺してやるわ」

「や、やめて!?そんなことしたら捕まるわよ!?」


 友人を貶されて怒りに震える女性職員とそれを止める同僚の職員、騒がしくする二人を止めるものは誰もいないのであった。


 ⚔⚔⚔


 朝になってスレイたちはリュージュ家の屋敷を出ることにした。


「お世話になりました」

「またいつでも来なさい。歓迎するよ」

「お兄ちゃん!お姉ちゃんたちも!また来てね」


 昨日は怯えていたはずなのに今日はやけに機嫌が良いロアに、アルフォンソとルルは嬉しそうに微笑んでいた。


「それではまた」


 屋敷を出たスレイたちは街の中を散策しながらギルドへ向かうことにした。

 屋敷を出てすぐの通りを歩いていたユフィは、一つの建物の前で足を止めた。


「どうしたの?」

「ここ貴族のお屋敷ばっかりかと思ったけど、お店なんかもあるんだね」


 ユフィが指差す先には一面ガラス張りの壁とマネキンにドレスが着せられ、いわゆるブティックのような店だった。


「ホントだ、けど………値段なんかみると、やっぱり貴族向けだな」


 展示品であるドレスの下には金額の書かれたプレートが置かれており、これ一着で金貨五枚と一般的な平民の家庭なら二ヶ月は贅沢な暮らしができる金額だ。


「買えないこともないけど、着る機会ないよね」

「何があるかわからないし一着くらい持っててもいいとは思うけど、ノクトはどう?………あれ?」


 振り返ったスレイがノクトの名を呼ぶが、そこにノクトの姿はなかった。


「……ねぇ、ユフィ。これって、もしかして」

「うん………はぐれちゃったね」


 マジかと呟くスレイの横でユフィが笑っている。

 貴族街とは言え朝は人混みができるが多少、人が多いくらいだと思っていたくらいなので迷うことはないだろうと、完全に油断してしまった。

 辺りを見回してもノクトの姿はないので、スレイは耳に手を当ててコールと呟いてしばらく待った。


『お兄さぁ~ん!どこですかぁ~!』

「落ち着いてノクト、とりあえずそこ動かないで、スワロー出して待ってて」

『はぁ~いぃ~!』


 涙声のノクトの声を聞きながらユフィに目配せしてオウルを出してもらったスレイは、空を飛んでいくオウルの案内でノクトのいるところに向かった。


「お兄さぁ~ん!お姉さぁ~ん!よかったですぅ~!」


 二人の姿を見つけて涙を流したノクトが駆け寄ってきて、ギュッとユフィに抱きついた。

 抱き着いてきたノクトの身体を抱きしめ、ユフィは優しく頭を撫でた。


「ごめんね~、気づかなくて」

「うわぁ~ん。会えてよかったですぅ~」


 知らないところで不安だったのだろうと思ったユフィは、安心するまでノクトの頭を撫でて落ち着かせることにした。

 このままではあれだろうと、腰がかけれそうな低い石垣を見つけた三人が腰を下ろし並んで休むことにした。


「ひくっ、ご迷惑……お掛けしました」

「まぁ、人通りが多いし仕方ないよ」

「気付かなかったボクたちも悪いし、またはぐれても良いようにスワローたち出しておこう」


 スレイはノクトの肩に停まっているスワローを見ながら答える。

 ノクトに渡しているスワローは女神アストライアの依代だが、スレイたちのレイヴンと同じ設計なので同一個体間で位置のやり取りも可能だ。

 そんな話をしていると、ノクトの肩に止まるスワローの目の色が変わった。


『みな、これから向かうのはギルドでしたね。やはりあの依頼を受けるのですか?』


 聞こえてきたのはアストライアの声だった。

 一度、周りの人たちも様子を伺うがこちらを気にしている様子はないので、そのまま話をすることにした。


「えぇ、そのつもりです」

「まぁ報償金が良いし、ランク不問って書いてあったからもう誰か受けちゃったかもしれませんけどね~」


 冒険者の依頼は基本、早いものがちだ。

 そうなれば縁がなかったということで諦めるだけだ。


『前に見ましたが冒険者の依頼争奪戦は鬼気迫る物がありましたね』

「報酬の良い依頼は冒険者にとっては死活問題ですから」

「……あの中に入っていく勇気、わたしにはありませんでした」


 遠い目で答えるノクトにスレイたちは笑って頷いている。

 基本的にスレイたちは朝一番の依頼争奪戦には参加しない、一度だけ興味本位で覗いたことがあったがアレは不用意に近づいたらタダでは済まないと思わせた。


「アレッ、でもノクトの場合って戦闘系の依頼は誰かと組まないといけないよね」

「はい。ですので受けるのはお使い系の依頼やポーションの納品なんかなので、競争率自体は少ないんですよね」

「得意分野は人それぞれだからね。今度はお姉さんたちと討伐依頼にも行こうね」

「はい!」


 おぉ~ッと拳を振り上げるユフィとノクトを横目にスレイは息を吐いた。

 もしも嫌がるノクトを無理矢理にでも連れて行こうとするのなら止めるつもりだったが、本人も興味がありそうなのでよかった。


 懐に手を伸ばしたスレイは、懐中時計を取り出して時間を確認してから蓋を閉める。


「二人とも、休憩はこれくらいにしてそろそろギルドに向かおうか」

「うん。そだねぇ~」

「はい!もう大丈夫です!」


 腰掛けていた塀からスレイが立ち上がると、それに続いてユフィとノクトも離れる。


 ⚔⚔⚔


 改めてギルドに向かった一行は、何度か人混みに飲まれてはぐれそうになりながらもどうにかたどり着いた。

 ギルドの前に立ちその巨大な建物を見上げる。


「さっすがに、首都のギルドは大きいな」

「はい。アルガラシアのギルドよりも大きいですね」

「そうだねぇ~、人も多いしだろうからね」


 ギルドの佇まいに圧倒されながらも、中に入ろうとしたその時ユフィがそう言えばと呟いた。


「ねぇねぇ、確かスレイくんって、始めて行く切り度でも何かに巻き込まれなかった?」

「……ユフィ、ここでフラグ立てるのやめてくれない?あと全部が全部じゃないからね」

「あれ、そうだっけ?」


 心外なッとユフィのことを睨むスレイ、そんな二人のやりとりを見ながらノクトはボソリと呟いた。


「あの……わたし一回、お兄さんとユフィお姉さんが巻き込まれたことを全部聞いてみたいです」

「面白い話なんてなにもないよ~」

「そうそう。ただのいつものことだから」

「うん。あっても喧嘩に巻き込まれたり、テーブルやイスが飛んできたりするだけだから~」

「十分大ごとですからね!?もしかして人が飛んできたこともあるんじゃないですか!?」

「いや、さすがにそこまではなかった……よ?」


 いきなり目の前に飛んできたのは、いままでこれだけは飛んできて欲しくない。

 飛んでくることはまずないなろうと思っていた、今まさに自分自身で否定していた物だった。

 いや、物と言うよりも、まごうことなき()()だった。

 それをスレイはなんの迷いもなく真上へと、()()()()()

 ──ドスン!

 やけに響く破壊音と共にパラパラと上からは木くずと誇りが落ちてくる。そして人を一人、天井にまで蹴りあげてしまったスレイは笑顔のままダラダラと冷や汗を流していた。


「……スレイくん」

「………お兄さん」


 二人から聞こえてくる冷めたような冷たい声色にスレイはさらに冷や汗を流す。


「これ不可抗力、ボクなにも悪くない」


 自分のみの潔白を証明するように二人を説得し出すスレイだったが、さすがに飛んできたからといっていきなり蹴り上げたあげく、首から上を天井に突き刺さらせるまではやりすぎではないかと、ユフィとノクトは思ってしまった。


「ねぇスレイくん、蹴りあげるのは良いけど、横に蹴るとか地面に蹴り落とすとか他にやりようはなかったの!?」

「とっさだったから、つい」

「つい?ついであんなことしたの!?私、生まれて初めて見たよ、人が天井に突き刺さるところ!ものすごい貴重な物見れちゃったよ!そこはありがとう!」


 お礼を言われているのにものすごく複雑そうな顔をしているスレイと、若干起こりながらも興奮気味のユフィ、真反対な表情をする二人を見ながらノクトが冷静にツッコミを入れる。


「あのユフィお姉さん、そこお礼をいうところじゃありませんよ」

「うっ、そうかも………」

「確かに人が天井に突き刺さるところなんて、まずまともに生きてれば見えるのとのなのでいある意味貴重な体験であるのは認めますけど、お兄さんなら受け止めるとかできましたよね?何で蹴る一択だったんですか!?」


 年下の女の子に説教をもらう年上の男の子の図がここにはあった。


「ごめん、とさなことで蹴りあげてました」

「とっさで蹴りあげるんですかお兄さん!?」

「まぁまぁノクトちゃん、スレイくんだからって──あっ!」

「ん?あっ」

「お兄さん!まだ話しは──えっ?」


 まだ納得の言っていなノクトだったが、スレイの後ろから再び飛んでくる人影をみてまたかと思った瞬間、振り向いたスレイが再び蹴り上げた。


「あっ、ヤベッ」


 天井には首から上が突き刺さった人間は増え、一連の流れを見ていたノクトはただただ呆然とその光景を眺めることしかできず、少しして思考が戻ってきたノクトがスレイに向かって叫ぶ。


「だからなんで蹴りあげるんですか!?」


 再び吠えるノクトにシュンと小さくなってしまったスレイだったが、どうにか誤解を解こうと必死に弁解した。


「すみません、今回は狙って蹴り上げました」

「狙ってやったんですか!?なぜッ!?」

「だって、受け止めきれなかったら二人が危ないし、上なら首も折れないだろうと思って」

「だからって人を蹴るのはダメですよ!早く引き抜いて治療してあげないと!」

「ねぇねぇノクトちゃんその前になんだけど、なんで人が飛んできたのか気にならないの?」


 ユフィの言葉にスレイとノクトは確かにと思った。

 今更だが怒られることと怒ることで忙しく、根本的なその事に気づかなかった。


「とりあえず、ユフィ。あの人たち引き抜いて天井直すから治療お願い」

「了~解ぃ~」


 天井に突き刺した二人の地面に下ろしたスレイは、風魔法で空中に浮かぶと錬金術であの空いた天井を修復した。


「よし、これでオッケー。ユフィ、治療は?」

「ヒーリング・シェルに任せたよ。それで、どういう状況?」

「さぁ、何やら揉めてるみたいなのはわかりましたけど」


 先程の二人が飛んできたであろう方向には人だかりができており、その中心では冒険者の首を掴んだギルドの女性職員が吊し上げている現場であった。


「あんたね!うちの親友にセクハラした奴は!!」

「ぐっ……ぐる、じぃ」

「もうやめてぇー!誰か止めてぇ~!?」


 なんだかカオスな現場を目撃してしまったと思ったスレイが、何をやったんだと嫌疑的な視線を向けていると服の裾をノクトが引っ張る。


「どうかしたの?」

「お兄さん、前言撤回します。セクハラ男には断罪が必要です」

「スレイくん、私ちょ~っとヒーリングシェル回収してくるねぇ~」


 セクハラと聞いて少女二人から先程スレイが蹴り飛ばした二人に対し、怒りを通り越して侮蔑の視線を送られることになった。

 ちなみに周りにいる女冒険者たちからも似たような視線と共に、締め上げられている冒険者に殺意のこもった視線を向けている。

 あの女性職員が手放した瞬間に襲いかかりそうな雰囲気だった。

 そこにこの二人まで参戦されてはかなわないと思ったスレイは、二人の手をとって取った。


「受け付け行こうか」


 二人を引きずって行こうとしたが、スレイの力を持ってしても動こうとはしなかった。


「ちょっ、何この力?動かないんだけど!?」

「ごめんね。女の子へのセクハラはちょっと許せないから」

「大丈夫です。わたしはあの人たちに懺悔を促すだけですから」

「いや、怖い怖い怖い!」


 二人の目が完全に処刑人のそれに見えてきたスレイは、どうにかしてこの場から移動しようと考え空間収納から黒鎖を取り出した。


「ノクトはともかく、ユフィはやばいからそこまで」


 起動させた黒鎖を巻きつけて付与している重力魔法で二人の身体を軽くさせ、浮かんだ二人を運んでいくことにした。


「あっ!ちょっとスレイくん、これってグラビティー付与した黒鎖じゃない!?」

「お兄さん!わたしたちが重いってことですか!?」

「二人とも羽みたいに軽いけど、一人一人運ぶの面倒だから」


 そんな理由で鎖で運ぶのは女性に失礼かもしれないが、今は勘弁してもらいたい。

 足が少し宙に浮いているので落ち着かないのか、それともただこの扱いが気に入らないのか暴れているユフィとノクトを無視して先へと進んで行く。

 ついでに鎖を斬るためにこんなところで魔法を使われても敵わないので二人から杖を没収し、周りも迷惑をかけるのでサイレンスの魔法をかけて声を消しておく。


「すみません」

「はい、はぁ~い──って、あなたのお連れさん浮いてますけど?」

「あっ、無視してくれて良いんで」


 受け付けにいた女性は宙に浮かんだままポカポカと、スレイを殴ったり蹴ったりしている二人をみて何かを思い付いたように手をポンっ打った。


「もしかして……そういう趣味?」

「違います。あそこのセクハラ冒険者にキレて動かなかったんでこうして連れてきただけです」

「納得しました。それで今日はどのようなご用件でしょうか?」

「依頼を受けたいんですが」

「それでしたらあちらに各依頼を張り出してあります」

「あの実は別の町でここの依頼を紹介されて来まして」


 サッとカウンターに依頼書を出したスレイ、受付の職員は依頼書を見ながら断りに言葉を入れる。


「確認させていただきますね」


 スレイはアルガラシアでもらった依頼書を見せると、受付の職員が目を丸くした。


「えっ、こ、これを受けるんですか!?」

「そのつもりですけど……なにか変でしたか?」

「い、いえ、すぐに担当の者を呼んできますが……確認しますよ、本当に受けるんですね!あとになって受けないとか言いませんよね!?」


 何度も念を押して確認されたスレイは、若干引きながらも肯定するように頷いた。


「えっ、えぇ……受けるつもりですけど」

「わかりました!すぐに呼んできます!」


 走っていく受付の職員を前にしてスレイたちは呆気にとられていた。

 取り敢えず二人も何とも言えない感じになってたので、黒鎖とサイレンスを解いて二人をおろした。


「なんだったのあれ?」

「さぁ?」


 三人でそう思っているとなにか足音が聞こえてくると、さっき騒動の中心にいた二人のうちの片割れのギルドの女性職員が走ってやってきた。


「うわぁああん!ありがとうございます!ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」

「ぐはっ!?」


 不意討ちだった。

 泣きながらやって来たギルドの女性職員がスレイの腹部めがけて飛び込んできた。


「うわぁああん!良かったよぉ~!」

「な、なんなんだこの人!?」


 なぜかすがり付いて泣かれ、周りではあらぬ噂が流れようとしているのだった。

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