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騎士貴族の屋敷

 リーフからそんな提案をされたスレイたちは、その提案を受けてもいいものかと考えながらも、金がないのも事実なのでリーフから提案はとてもありがたいものだった。


 それでも女の人の暮らす家に全員で押し掛ける上に、男であるスレイが一緒であったならばあらぬ噂が流れてもおかしくないが、せっかく親切に泊めてくれようとしているのだ、それをむげにするのも憚られる。

 スレイは色々と頭で考えた結果、二人の方を見ながら口を開いた。


「二人だけ泊めてもらいないなよ。ボクは適当な宿に泊まるからさ」


 そうスレイが二人に提案する。


「スレイくん、せっかくリーフさんがそう言ってくれるんだから、お言葉に甘えたら?」

「それに入税を払ったらお金ほとんどなくなりますよ?」

「なんとかなるって、それよりもボクがリーフさんのうちに泊まって、変な噂が立ったらそっちの方が迷惑を掛けることになるだろ?」


 その話を聞いてユフィとノクトがスレイがそんなことを言い出した理由を察した。

 いくら騎士団に所属しているからと言っても、リーフはかなりの美人だ。恋人や婚約者が居るかもしれない、そこにスレイが家に泊まったとなればそっちの方が迷惑をかけかねない。

 それに気づいた二人も仕方ないかと思ったが、いきなりリーフが語りだした。


「あっ、あの自分は実家なので暮らしてます!それに親しい男の友人も恋人もおりません!我が家は部屋もたくさんあって皆さまを泊めても平気ですのでスレイ殿もぜひいらしてください!!」


 だんだんとリーフの言葉に力が籠っていき、それに比例するようにスレイとリーフの距離も近づいていった。

 その結果、最後の言葉を言い切ったときの二人の距離はあと少しで鼻先がぶつかってしまうような距離だった。


「は、はい……」


 驚いたスレイの口から短くそんな返答が帰ってきた。

 なにやら力の籠った声と有無を言わせないような迫力にスレイは先程と自分の言った言葉を覆してしまうほどであった。

 ついでに言うとその返答を聞いた時、リーフの強ばった顔が一気ほころび満面の笑みを浮かべられた。その笑顔を至近距離で見たスレイはドキリ心臓を高鳴らせてしまった。

 美女の笑顔はここまでの破壊力があるのかと、改めて思い知らされたスレイは、なにやら周りが騒がしいことに気がついた。


「おいおい、リュージュがなんか変だぞ!?」

「あの白髪の坊主、まじか……」

「相手はあの騎士団随一の堅物リュージュだぞ……!?」

「ついにリュージュにも春が……」


 彼らはいったい何をいっているんだ?とスレイが内心で疑問符を思い浮かべていると、今度は目の前から可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。


「はにゃ!?」


 スレイが視線を転じると、先程までの笑顔とは一転、顔を真っ赤にして狼狽えているリーフの姿を見つける。


「あ、あの……リーフさん?」

「あわわわわっ……………」


 耳まで真っ赤にしたリーフが目を回しながら慌て出したので、スレイはいきなり何があったのかとビックリしてしまった。


「だ、大丈夫ですか?」

「も……」

「もっ?」

「申し訳ありませんでしたぁあああッ!?」


 叫びながら馬車を飛び降りるとどこかへと走り去っていってしまったリーフ、その後ろ姿を呆然と見送っていたスレイはいったい何があったのか分かって無い様子でユフィとノクトに訊ねる。


「ねぇ、リーフさんどうしたの?」


 その問いかけにユフィとノクトは大きく肩を落とし、全く同じタイミングでため息をついた。


「スレイくん、あれだけされて分からないって……ある意味すごいよ?」

「わたし、リーフお姉さんがものすごく不憫でなりません……後わたしも同じ立場なので人のことも言えませんね」


 全く話についていけていないスレイは、首をかしげているだけだった。


 ⚔⚔⚔


 その後、なんとか日が暮れる前に戻ってきたリーフの案内で町の中を歩いていた。


「……申し訳ありませんでした」

「それはもういいですよ」

「で、ですが……」


 先程からこの調子なのでリーフ以上に、スレイたちの方がだんだんと申し訳なくなってしまうので、話題を変えるべくノクトが口を開いた。


「あ、あのその……今日みたいに、その戻ってきてすぐに帰れるってことはあるんですか?」

「えっ、あ、はい……そうですね今日みたいなことは少ないですね」


 本来ならば騎士団での報告があるそうなのだが、あの部隊の隊長が報告は自分がするといいリーフをはじめ他の騎士たちを帰したのだ。

 たぶんだがスレイたちが居なければ部隊は全滅していた。その事を上にどう判断されるかわからないのと、もしかしたら処分を一人で受ける気なのかもしれないとリーフが語った。


「でも、確か盗賊に待ち伏せされたって言ってましたよね?」

「……はい。信じたくはありませんが、ただの偶然かそれとも内部に裏切り者がいるかと」


 そうなると厄介なことになりそうだとスレイたちは思ったが、それと同時に一つ気になることがあったユフィがリーフに訊ねた。


「あの、盗賊のアジトの情報ってどこから仕入れたんですか?」

「たしか……ギルドからだったはずです」

「なら……もしかして」


 なにかを考え出したユフィにノクトとリーフが不思議そうに見つめ、そんな二人をよそにユフィが何を思ってそんな話をしたのかその訳に気がついたスレイがユフィに問いかける。


「ユフィ、もしかしてと思うけど……ギルドの中に内通者がいるとでも?」

「可能性だけど……ね」


 同じ冒険者がそんなことをしているかもしれないなど、あまり言いたくはないことだが自分の欲望に忠実な冒険者に前にも会ったことがあるので、信じたくはないがその可能性も否定できない。

 そう二人がそう思っていると、問題のリーフがどう思うかと思ったが意外にもどこか腑に落ちたと納得している様子であった。


「実は騎士団とギルドは折り合いが悪いのです」

「じゃ、じゃあ……わたしたちと一緒にいるのも不味いんじゃ」

「平気ですよ、折り合いの悪いのは上層部のことで……言いづらいですが、騎士団の上層部は冒険者の方々を見下していまして……我々騎士は国を守ってはいますが、街の人々の依頼などはすべてギルドが行ってくれている、お互い支えあっていると言うんですがね」


 寂しそうな顔をするリーフ、そんな顔をみてスレイもユフィもノクトも、冒険者と言う肩書きを持っているだけに複雑な表情だった。


「ボクたちも力になりたいですけど……知人がいるわけではないので」

「気にしないでください。これは自分たちの問題ですから」

「あの、余計なお世話かもしれませんが、私たちもできる限りは力になりますので、いつでも言ってください」

「はい……その時はどうか、よろしくお願いしますね」


 この約束は必ず守ろう、そう心の中に誓ったスレイたちだった。

 それからスレイたちは他愛のない話をしまがら、ようやく目的地であったリーフの家にたどり着いた。


「ここです。ようこそ我が家へ」

「「「………………………………………」」」


 スレイ、ユフィ、ノクトの三人は驚きのあまり固まってしまっていた。

 その理由は目の前にたたずんでいる豪勢な屋敷を見ながら、三人が揃ってよこで不思議そうな顔をしているリーフの横顔を見てから、もう一度目の前の豪邸をみてから口を開く。


「リーフさん……もしかしなくても貴族の方ですか?」

「スレイくん、これはもしかしなくてもリーフさんは貴族のご令嬢だよ……」

「わ、わわわっ、わたし失礼なこといっちゃいましたよ!?」


 三人の中で一番慌てているノクトを横目に、スレイとユフィも少し馴れ馴れしくしすぎたかもしれないと、内心で冷や汗を流してしまっていると、リーフはそんな三人のことを見て笑っていた。


「そんなに慌てなくていいですよ。一応貴族ではありますが、我が家は騎士伯で領地もなければ貴族としての爵位は全くといっていいほどありませんし、私もこの家の三女なので家督も継げない身、立場で言えばあなた方と似たようなものですよ」


 そうは言うもののさすがに貴族の家に泊まると言うのは、なんとも居心地の悪いような気持ちになるが今さら断ると言うのも憚られるので、そんなことはしない。


「さぁ、どうぞ中に」


 リーフの手招きで屋敷の敷地内に入っていく。

 鉄の門を潜ると、暗くてよくは見えないがきれいに整えられた芝生に植木、そして広い庭と、豪華な屋敷に引けを取らない庭だった。それを見ながらリーフを先頭にスレイたちは進んでいくと、リーフが扉の前に立ちノッカーを叩くと少しして扉が開けられた。


「リーフお嬢様おかえりなさいませ」


 出てきたのは古典的な執事服を着た老紳士といった感じの男性だった。


「ただいまブレッド、悪いのだけどお客様がいるの、お部屋の準備とお夕食の追加をお願いできるかしら?」

「かしこまりました。皆様お初にお目にかかります、私はこのお屋敷で執事をしておりますブレッド・エヴァロアともうします」


 きれいなお辞儀をみてスレイとユフィ、そしてノクトも名乗ってから屋敷の中に案内された。

 外から見えてもわかっていたが大理石で出来た柱、きれいに磨かれた床、高価そうな壺や絵画、そして部屋を照らしあげる豪華なシャンデリアと、よく想像する貴族の屋敷がそこにあった。

 招かれたはいいが根っからの市民思想である三人は、ものすごい場違いな思いをしていると、今度は数人の執事とメイドが出迎えてきた。


「皆様、外套と武具の類いは私どもが責任をもってお部屋にお持ちいたします」


 そう言われたのでスレイたちは旅のマントをメイドに預け、ユフィとノクトは杖と一緒にローブも預ける。

 念のために言っておくが、二人ともローブの下には普通の服──但し、スレイが魔物素材で作ったため、普通の服よりも丈夫だ──を着ている。

 スレイも同じようにコートと腰巻き状の鞘に納められたナイフ、そして二挺の魔道銃を納められたホルスターを預けると若いメイドがスレイの腰にある剣を見る。


「スレイさま、そちらの剣もお預かりいたします」

「あ、いや、これ、結構重いので自分で運びます」

「平気です。これでも旦那さまやお嬢様の剣をお運びしていますので」

「そ、そうですか……なら」


 スレイが帯剣のベルトごと外してメイドの手渡す。


「それではお預かりいたしま──ふにゃあ!?」


 メイドさんが可愛らしい悲鳴を上げながらガクンとぶれ、手に持っていた黒い剣を地面に落とした。

 さすがにこのまま地面に落ちれば床が傷つく、それをさせないために身体強化で出せる最高の速度で動き、なんとか地面に落ちる前に剣をキャッチすることが出来た。


「あっ………危なかった」


 冷や汗を流しながら剣を受け止めたスレイ。


「もうスレイくん!なにやってるの!?」

「お兄さん!こうなることわかってましたよね!?」


 ユフィとノクト二人に起こられたスレイは、ぐうの音もでなかったが、自分のせいで地面に座り込んでしまっているメイドに手を差しのべる。


「ごめんなさい、この剣、尋常じゃないくらい重いので自分で運びます」

「あ、はい……あの、申し訳ありませんでした」

「いいですよ。女性の方に持たせてしまったボクのせいですから」


 これ以上心配かけないために笑顔を送るスレイに、メイドは顔を真っ赤に染め上げて両手で顔を覆ってどこかへと駆け出してしまった。

 なにやら同じことを少し前にも見たような気がしたスレイは、何かやってしまったのか?と思い考えていると、二階へと続く階段から誰かがおりてきた。


「あらあら、今の悲鳴は何があったの?」


 そう言いながら降りてきたのはリーフを少し歳を重ね、鎧をやめてドレスを着たような女性だった。

 同じ容姿のため、もしかしたらリーフのお姉さんだろうかと思った三人だったが、リーフの口から聞こえてきたのはとんでもない言葉だった。


「お母様、ただいま帰りました」


 まさかのお姉さんという、驚きの言葉にスレイたちは目を疑った。

 どうみても二十代前半でも通りそうな若々しい容姿の女性にそう思った。


「リーフちゃんおかえりなさい……あら?そちらの方は?」

「この方々は私のお客人でして、我が家にお泊まりいただきたかったのですがよろしいでしょうか?」

「いいわよ。リーフちゃんがお友だちを連れてくるなんて珍しいわね~って、あら……あらあらあら!」


 リーフの母親がスレイのことをみて固まってしまった。

 これはいったい何があったのかと驚いていると、リーフの母親が音も立てずにスレイの目の前にやって来た。


「あなた、お名前は何て言うのかしら?」

「えっ、す、スレイです……スレイ・アルファスタともうします」

「スレイくんね!あなた歳はおいくつなのかしら?」

「今年で、十六ですけど」

「そうなの、ねぇ年上の女の子はお嫌い?」

「はっ?」


 いきなりなにかを言い出したリーフの母親に、スレイは目を丸くしていると、次の瞬間には姿を消した。


「お母様!?いったい何をいってるんですか!?」

「あらあら、私はリーフちゃんのことを思って言ったのに」

「どういうことですか!?」

「うふふッ、リーフちゃん、私はリーフちゃんのお母さんなんだから、あなたの気持ちはよくわかるわよ?」

「だからどういうことですか!?」

「リーフちゃん、あなたスレイくんにこい──」

「わぁああああっ!わぁあわぁあっ!お母様なにを言ってるんですかぁあああッ!?」


 まるで幼児退行したように叫び出すリーフと、それをたしなめるリーフの母親のやり取りを見ながら、スレイはユフィとノクトの方をみる。


「なぁ、ボクはいったい何を言われたの?」

「スレイくん、ホント~に一回、女の子の気持ちを私たちから教えてあげる必要がある気がするよ~」

「ユフィお姉さん、その時はわたしも一緒にお手伝いさせていただきます」


 なにやらユフィとノクトが硬い硬い握手を交わしあっているのをみて、スレイはなんだかノクトが旅の仲間に加わってから、初めて疎外感が増していた気がするのだった。


「そうだわ!お義父様ぁ~リーフちゃんが!ボーイフレンド連れてきましたわぁ~!」

「お母様!お話は終わっていませんよ!?」


 リーフが母親を呼び止めると、バタンッ!っとなにかが勢いよく開かれる音が聞こえてくると、少し遅れてバタバタと勢いよく誰かが降りてきた。


「誰じゃ!ワシの可愛い孫娘をたぶらかした野郎はぁあっ!!」


 降りてきたのは六十代ほどの老人だったが、その手には巨大な大剣を装備していたのだった。

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