首都ウルレアナ
本日二話目の投稿になります。
海の街アルガラシアを出発してからはや半月ほど経った。
国境を越えてロークレア王国に入ったスレイたち一行は、いくつかの村や街を通りようやく首都ウルレアナにたどり着こうとしていた。
しかし、その目と鼻の先と言う場所で、一行は騎士団と盗賊団との戦闘に半ば巻き込まれる形で参戦していた。
「ホント、スレイくんってよく事件に巻き込まれるよね?」
呆れたように告げるユフィの側には次々の傷ついた騎士たちが運ばれてくる。
その間もゲート・シェルで傷ついた兵士たちを集め、ヒーリング・シェルで治療を続け、並行してアタック・シェルで攻撃を加えると言う離れ技をやってのける。
「………いや、マジで言い訳させてもらうけど偶然だからね!?」
もう疲れたよと言いたげに目を伏せて斬りかかってくる盗賊の剣をかわし、懐へと潜り込み魔道銃の底で首を叩いて気絶させたスレイが言い返す。
「お兄さん、一回厄祓いやってみましょうか?たぶんマシになるとは思いますよ?」
低威力の魔法を撃ちながらノクトがお祈りを捧げようかと提案する。
「………ノクト、それ死体斬りだから……これ以上、ボクの傷ついた心を傷付けないで泣けてくるから」
魔道銃を撃って盗賊を牽制し、背後をとっては剣の柄頭で首元を打ち付けて気絶させる。
『スレイのそれは、もはや不幸とでは言い表せないレベルですね。やるだけ無駄ではないでしょうか?』
スパローの中に入っているアストライアが、スレイの肩に止まってそんなことを言った。
「アストライアさま?まさかボクの不幸って女神さまにも見放されちゃうレベルなの?」
こんな話し合いをしているスレイ、ユフィ、ノクト、アストライアの三人プラス一柱だが、念のために言っておきますが、真面目な戦闘中です。
⚔⚔⚔
なぜこうなったかを簡単に説明することにしよう。
時は遡り一時間ほど前、スレイたちが街道を歩き首都ウルレアナを目指していた。
「うぅ~ん。あそこがアレで、今はここら辺だから………」
地図を片手に持ったスレイは辺りの風景をみながらうねっている。
一つ前の町を出てからすでに三日、町で聞いた話ではもうすぐ首都が見えてきて良い頃だったが一向に街の影も見えず、不安になったスレイは地図をみながら自分のいる場所を確認していた。
「ねぇ~スレイくん。まだぁ~?」
「お姉さん、話してだめですよ」
不満の声を上げるユフィとそれをたしなめているノクト、二人は道の端に置いてあった石の上に座って足をバタバタと振っていた。
「うぅ~ん。多分だけど、後半日ってところかな」
顔を上げて自分たちのいるであろう場所に丸を付けたスレイは、二人もわかるように地図を見せる。
すると、未だ慣れない長旅に疲れたノクトが大きなため息をついた。
「はぁ~、まだまだ遠いですね」
「このまま休まずに進めば、夕方に着くと思うけど……時間も良い頃だし昼にしようか」
「うん!賛成ぇ~!」
手慣れた様子で昼食の準備を始めるユフィとノクト、スレイもなにか出来るものがないかと考えながら近くの森を見る。
「ふむ……ユフィ、ちょっとそこの森に行ってくる」
「はぁ~い。頑張って」
荷物をおいて剣とナイフだけを持ったスレイは一人森の中に入っていく。
浅瀬でも何かしらの獲物が居るだろうと踏んだスレイだったが、森に入ってすぐに異変を感じた。
「ん?これは……新しいな」
見つけたのは大人数がくさきをかき分けたであろう後と大量の足跡だった。
街からもかなり離れた森に大勢の足跡、仮のこの森に狩りに来た冒険者だとしても足跡の数からして少人数ではなさそうだ。大まかであるが二十人規模の一団、仮にこれが冒険者の大規模パーティならいいが、もしもそれ以外、盗賊たちのならと考えたスレイは何やら嫌な予感がした。
「狩りは中止だな……戻るか」
気配を殺しできるだけ早く森を出て移動しよう、そう考えたスレイが踵を返したそのとき近くの茂みが揺れる音が聞こえる。
反射的に振り向くと同時に黒い剣をいつでも抜けるように構える。
「…………」
気配を殺し、もしものときに備えるスレイだったが、次の瞬間茂みの奥から現れた人物を見てスレイは慌てて駆け寄った。
「おい、ちょっと大丈夫ですか!?」
茂みの奥から現れたのは全身を血で染め上げた鎧姿の男だった。
男はスレイの顔を見ると同時に倒れて流れ出た血が水たまりを作るのを見て、スレイは駆け寄って治癒魔法をかけ始める。
「しっかりして!大丈夫ですか!!」
「あっ……あぁ………」
意識があるのを確認しながら治癒魔法をかけ続けるスレイは、治療のじゃまになる鎧と服を脱がせながら何度も声をかけて男から事情を聞き出す。
この男から聞いた話を要約すると、この男はウルレアナの騎士団に所属しておりこの森へはここらを縄張りとする盗賊団の殲滅作戦にきたらしい。
その途中、騎士団は奇襲をかけられて援軍を呼ぶために彼は一人逃されたが、別に隠れていた野盗に襲われて必死にここまできたそうだ。
「たの……む。なか、まを……たすけ、て………くれ……」
「あっ、おい!しっかりっ!?」
スレイに託したことで力尽きたのか意識を失った。
息があることを確認したスレイは、コールでユフィとノクトを呼び寄せ騎士団の救援に向かうのであった。
⚔⚔⚔
こうして戦いに巻き込まれたスレイたちは、至って真面目に戦いを繰り広げている。
「それにしても、ノクトも慣れてきたね」
「お兄さんそれっていったい何にですか?」
盗賊に接近し首を打ち付けて意識を刈り取ったスレイを横目に、ノクトは杖に魔力を流して魔力弾を放った。
「その杖、前は使いづらそにしてたのに、今じゃ直ぐに魔法を射ててるしさ」
「いや、まだお姉さんと比べると……まだまだ練習が必要です」
「そんなことないよ。それにノクトちゃんって攻撃魔法より援護系の魔法が得意なんでしょ?」
「へぇ~、どんなの使えるの教えて欲しいな」
「えっと……パワーブーストや、アクセルなんかなら一通り使えます」
どちらも自身や他者の身体能力を一時的に増幅させる魔法で例えばパワーブーストは力を上げる魔法で、アクセルは脚力を強化する魔法だ。
身体強化も似たような効果を持っているのだが、この二つは身体強化の上からさらに重ね掛けもできる。
そんな話しなどをしているとついに盗賊たちが声を揃えて訴える。
「「「お願いですから真面目に戦ってもらえませんかね!?」」」
なんだか真面目に戦っているはずなのに、よそ見しながら戦っているスレイたちに負けることが虚しくなったのか、倒された仲間たちを不憫に思ってなのか立ち上がっている盗賊たちの悲痛な叫びが森の中に響いた。
ちなみにユフィによって治癒された騎士たちも同じように、ウンウン、と首をかしげているのであった。
⚔⚔⚔
最後の一人を倒し終えたスレイたちは、地面に倒れている盗賊たちを魔法で作った拘束具でしばり上げる。
「よし、こんなもんかな?」
「こっちも終わったよぉ~」
「こっちもです!」
盗賊たちの拘束も終わった頃に一人の騎士がスレイたちの元にやってくる。
「皆さん、この度は我々騎士団にご助力いただきありがとうございました」
やって来たのは騎士たちと同じ意匠の鎧を身に纏った女性だった。深い緑色の髪を短く切り揃えられ、整った顔の美女と言っても過言でなかった。
現れた美女を目の前にスレイもユフィ、そしてノクトも少々意外だったので少し驚いていた。
「あの自分の顔になにか?」
「いえ、違うんです。そのあなたがとてもお若かったので」
「すみません女性の方が騎士団にいるとは思いませんでした、ごめんなさい」
「よく言われますので気にしないでください」
笑っている女性騎士は手甲を外すと、そっと手を差し出した。
「改めまして、リーフ・リュージュです。よければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「私はユフィ・メルレイクです」
「ノクト・ユクレイアです。この出会いに感謝を」
緑色の髪の女騎士 リーフはユフィノクトと握手を交わしてからスレイの方を見てる。
「ボクは……ん?」
手を差し出し名乗ろうとしたスレイは視界の端でなにかが光ったのを見つける。
「──ッ!危ない!」
「えっ、きゃあっ!?」
スレイは差し出されていた女騎士 リーフの手首を掴むと、そのまま自分の胸の方に引き寄せる。
いきなりのことに驚いたリーフが少女のような悲鳴を上げると、今までリーフが立っていたすぐ横をなにかが飛んでいき木の幹に刺さった。
「ッ、なに!?」
「お姉さん、あそこッ!」
ユフィが木の幹の刺さった矢をみながら叫ぶと、すぐにノクトがある一箇所を指さした。
茂みの奥でボウガンを構えた盗賊の一人が身を隠していた。
「──チィ!」
隠れていた盗賊は敵討ちが失敗するとボウガンを投げ捨て森の中に消えようとしていた。
「逃げられると思うなよ!」
魔道銃をまっすぐ構えたスレイが照準を合わせるが、森の中には障害物が多く狙いが定まらない。
「スレイくん、なにしてるの追わなきゃ!」
「大丈夫、信じて!」
ユフィが銃を構えるスレイに叫びかけるが、それを聞かずにスレイは魔道銃のトリガーを引き絞った。
魔道銃から撃ちだされた一発のゴム弾モドキは、木に当たる直前なにかに弾かれたように方向を変える。
さまざまな向きに跳弾を繰り返すと、最後の跳弾で背後から撃たれたはずのゴム弾モドキが盗賊の正面から額を撃ち抜いた。
あり得ない向きからのヘッドショットにユフィが目を見開いた。
「うっそぉ~ん」
「かっ、確保ぉおおおおぉぉ――――ッ!」
騎士の一人が叫ぶと他の騎士たちが一斉に駆け出し、倒れた盗賊を取り押さえた。
魔道銃を降ろしたスレイの側にノクトが問いかけた。
「お、お兄さん………今、何をしたんですか?」
「ソードシェルで銃弾を反射して正面から額を撃ちました」
「もう、お兄さんの頭のなかを一度覗いてみたいです」
なに無茶なことを言ってるんだ?そう思いながらスレイはノクトのことを見ていると、隣りから肩を叩かれそちらを振り向くと、なぜかニコニコと笑顔を浮かべているユフィがいた。
「ねぇねぇスレイくん、ちょっといいかな?」
「どうしたのユフィ」
「いつまでリーフさんを抱き締めてるつもりなの?」
「?」
スレイが自分の腕の中を見てみると、自分よりも少し低い位置に見える緑色の髪、つまりはリーフの髪なのだが、矢が飛んできたときにとっさに抱き寄せて今まで抱き締めてしまっていたようだ。
「あ!ごっ、ごめんなさい!初対面の女性になんてことを!?」
あわてて抱き締めていたリーフを離し謝ったが、女性に対してセクハラまがいのことをしてしまった。
災厄平手打ちされることも覚悟したが、特に平手打ちが飛んでくるような気配もないどころか、なにも言ってこないので不安になったスレイは、リーフの顔を覗き込む。
「えっと……その、リーフさん?」
「い……いや………あの、わわわ私……い、いえ……じ、自分は、平気ですので……それでは、また!」
なにやらたじたじになって顔を真っ赤にしながら慌てて去っていくリーフ、そんな姿を見ていたスレイはキョトンとしながらその後ろ姿を見送る。
「えっ、リーフさんどうしたのかなって、二人ともその顔はなんなの?」
振り返ったスレイが見たのは、先程と同じようにこちらをニコニコしながら見ているユフィと、ジトぉ~っとした目でノクトがこちらを睨み付けて来ている。
ついでに器用にも機械の羽でやれやれと呆れているアストライアがいたのだが、その理由に全くわからないスレイだった。
「お姉さん、前から思ってたんですけど……お兄さんってどうしてこんなに鈍感なんでしょうか?」
「それはまぁ………スレイくんだからとしか言いようがないしね……」
『スレイには女心を教えた方がいいのではないですか?』
なにやらこそこそと二人プラス一柱で話し出してしまったため、なにやら疎外感を覚えてしまったスレイは暇なので騎士の手伝いをしていた。
「助かるよ」
「いいですよ、なんかうちの連れが話し出しちゃって暇なので」
騎士と一緒に地面に倒れ込んでいる盗賊を担いで騎士団の場所に放り込んでいく、なんでも犯罪者奴隷としてギアスをかけて鉱山で働かせるそうだ。
「しかしお前強かったな、こんだけの人数をたった三人で倒すなんてな」
「確かに誰かに習ってたのか?」
「小さい頃に師匠に剣を教えてもらってまして………なんど死ぬかと思ったことか……いやぁ~……あれは悪夢の日々でしたよ、マジで」
思い出して泣けてきてしまったスレイは、地面に手を付いて四つん這いになってしまった。そんなスレイの姿に騎士たちは哀れみの表情を浮かべるのだった。
⚔⚔⚔
騎士団を助けたスレイたちは、ウクライナまでの残りの道を騎士団の馬車で向かうことになった。
その道すがら同じ馬車に乗り合わせたリーフが、スレイたちがどうしてウクライナに向かっているのかを聞いてきたので、その理由を説明していた。
「皆さまは冒険者の方でしたか」
「そうなんですよ、ノクトちゃんが高額報酬につられちゃって」
「ちょ、お姉さん!それじゃあわたしが守銭奴みたいじゃないですか!?」
「ふふ、ノクト殿はお金が欲しいですか?」
「リーフお姉さん違いますからね!?」
「すみません、ノクト殿」
ノクトが必死に弁解する姿を見て面白いと思ったリーフは、失礼と承知でくすくすと笑っていると、何を思ったのかユフィがムスッとしながらノクトを見た。
「えぇ~、リーフさんはリーフお姉さんなのに、私はただのお姉さんなの?」
「えっ、何ですかいきなり?」
「ねぇねぇ、私もユフィお姉さんって呼んでみて」
「良いですけど……ユフィお姉さん」
「うんうん!ノクトちゃん、今日から私のことはそれで呼んでね」
「別に構いませんよ」
「お二人は本当になかがよろしいんですね」
女三人、仲良く話している馬車のなかには他にも騎士が乗っている。
ここにキザな男がいれば、美女三人を前にナンパの一つでもする者がいただろう、だがさすがは騎士と言ったところか、そこは出来た大人なのか、誰も声を掛けようとしなかった。
ちなみにここでもスレイは騎士たちと一緒に空気になりかけていた。
「皆さん、そろそろ着きますよ」
御者をやっていた騎士からそんな声がかかってきた。
スレイが馬車から身を乗り出して進行方向を覗いてみると、街を守っている巨大な壁と、遠目で見えるように中心には少し小高い丘に建てられている白亜の城がよく見えていた。
「おぉ、大きな街だな」
「えぇ、この国最大の街ですからね……ところで、もうすぐ夕暮れですが、皆さまは今夜の宿はお決めになっているんですか?」
「いつもならギルドの宿に泊まるんですけど……もう夜ですし、適当に探そうかと思っています」
「あの……わたしそんな、というかお金もってないです」
「あ、そういえば私も手持ちないや」
二人とも一つ前の町でも預金の引き下ろしをしていないかったので手持ちが心もとない。
すがるような思いで二人がスレイの顔を見てきたので、空間収納から財布を取り出してみるが、スレイも旅の準備の資金などをすべて出したため銀貨と銅貨が少々あるくらいだった。
「三人で一泊出来ていいくらいかな?」
足りなければ少し面倒ではあるが、ギルドに預けてある金を下ろしに行くことも可能なので特に問題はないので、のんきに答えているとリーフがある提案をしてくれた。
「もしよろしければ、我が家にいらっしゃいませんか?助けていただいたお礼に」
そんな提案がされたのは馬車が止まったのと同時だった。




