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使徒との戦い ①

いよいよ使徒戦!どうかこれからも本作をよろしくお願いいたします。

 新たな武器を受け取ってから二日、スレイとユフィ、そしてノクトの三人はこれから始まるであろう使徒との戦いに向けて最後の準備を始めていた。


 鏡の前に立ったスレイは自分の姿を見ていた。

 腰には無数の小型ナイフを納められた腰巻きのようなベルトを下げ、腰のところに長さの揃った二本の短剣を身体の左右には魔道銃アルナイルと魔道銃アルニラムの収まったホルスターを身に着ける。

 全身に武器を装備したスレイはテーブルに置かれていた黒いグローブを嵌める。最後の確認とばかりにスレイは短剣を抜いて、その刀身を確認してから鞘に戻した。


「よし」


 気合を入れ直したスレイは空間収納を開き、取り出したそれに袖を通した。

 身に纏った黒いロングコートの裾がはためく中、最後の武器を手に取った。


「頼んだぞ」


 握りしめられた黒い剣を帯剣に指したスレイは、ゆっくりと部屋を出るのであった。


 ⚔⚔⚔


 ユフィとノクトは新しく仕立てられたローブを着込む。

 ユフィはいつの通り白を基調にしたローブを、ノクトは白と青を基調とした物を選んだ。デザインはスレイが行い、それを元にアラクネたちが作った物だ。

 死霊山の魔力を豊富に宿した魔物の素材を編み込んだこのローブは、そこらの鎧よりも優れた防御力を有している。だが、それもどこまで通じるかわかったものではない。

 不安を感じながらも、ユフィは隣にいるノクトの姿を見ながら話しかける。


「ノクトちゃん、そのローブ良く似合ってるね」

「ありがとう、ございます」


 いつになく硬い口調のノクトにユフィは小さく微笑みながらそっと抱きしめる。


「おっ、お姉さん!?何を」

「大丈夫だよ」


 優しく語りかけるユフィの言葉をきいてノクトはぎゅっと抱きしめる。


「ノクトちゃんは、何があっても私たちが守るからね」

「ありがとうございます」

「よし、それじゃあ行こうか」

「はい!」


 杖を手に取り部屋を出た二人は階段を降りロビーに向かうと先に降りていたスレイと目があった。

 三人は何も言わずに頷きあうと宿屋を出て、そのままの足取りで町の外にまで足を運んだ。


 ⚔⚔⚔


 アルガラシアの街を出たスレイたちが向かったのは、街道を外れてしばらく歩いた先にある変哲もない小さな森だった。

 元々海の近くの草原や森の中には無害な生き物、つまりは普通の鹿や猪などの動物がほとんどで、魔物の数はそれほど存在しない。

 それ故に普段は誰も訪れないような森を戦いの場に選んだのだ。


「ここまで来れば、人を巻き込まずにすむか………二人共どうだい?」

「森の中に人の気配はなさそうです」

「念のため森の続く街道に人払いの結界張っておいたよ」

「ありがとう」


 二人の声を聞いたスレイは最後に確認する。


「二人とも作戦は覚えてるね」

「大丈夫だよスレイくん、このためにあんなに徹夜して頑張ってたんだもん!」

「はい!わたしもこの日のために作れるだけポーションを作ってきたんですから!」


 準備は万端だと真っ直ぐ見つめ返してくるユフィとノクトの目を見ながら、覚悟を決めたスレイが大きく息を吸った。


「ユフィ、ノクト、正直に言ってこれは賭けだ。ここで使徒を倒せる確証も、ましてや生きて帰れる保証もなにもない、だけど、二人の命、今だけでもいいボクに預けてくれないか?」


 真剣なスレイの言葉を聞いて、ユフィとノクトはそれって苦笑したのを見てスレイはムッとした。


「そんな笑うことないだろ?……確かにちょっとらしくない台詞を言った気がするけど」


 不満ですと言いたげに眉を潜めるスレイを見て、ユフィとノクトが顔を横に降った。


「違うのよスレイくん。私たちが笑ったのはおかしいからじゃないの」

「ならなんで笑ったんだよ?」

「そんなの決まってますよお兄さん」

「私たちは最初っからスレイくんを信じてるからだよ。だから、改まって言われちゃうとね」

「えぇ。わたしたちはお兄さんを信じてますから、絶対に勝ちましょう」

「………わかった。二人とも、勝つぞ!」


 スレイがユフィとノクトに向けて拳と突きつけると、二人はコツンと拳を合わせた。


『それでは力を使いますね』


 スワローの中から元の半実体化した姿を表したアストライアが神々しい光が辺りを照らしあげると、すぐに禍々しいまでの殺気と共に光の柱がスレイたちの元に降り注いだ。


「見ツケタゾ」


 その姿は五日前のあの日、初めて見たものと同じだった。

 大きな巨体と魔物のような後ろにねじれた巻角、そして顔は大きな牛のような顔へと変じていた。


「はははっ、今回はいきなりその姿かよ」


 その姿を見るには今回で二度目、前はまだ人とわかるような姿をしていたが、今回は違うようだ。

 始めっからスレイたちを殺すつもりで、戦闘の姿になり立ち上らせる殺気は前回対峙したときの比ではなかった。


「あははっ。いやぁ~、すごい殺気だね~」

「お姉さん………そんな、のんきな事を言っている場合じゃないですよ」

「うふふっ。言われなくても、分かってるよ」


 ノクトの言う通りのんきに構えている余裕はないのは重々承知だ。

 前回の襲撃ではアストライアの居場所を知っているかもしれないノクトを連れ去るため、本来の力を押さえていた可能性があった。

 だが、今回は訳が違う。

 あの使徒が放っている殺気は間違いなく殺す気できていると、スレイたちは十分に理解できた。

 スレイは腰にさげていた剣の柄に手をかける。


「二人とも覚悟はいいな」

「そんなもの始めっからできてるに決まってるでしょ?」

「そうですよお兄さん」


 二人の頼もしい言葉を聞いたスレイは柄を握る手に力を込め、そして一気にその剣を引き抜いた。

 シャンッと音を立てて抜き放たれた漆黒の刃は恐ろしい存在感を見せつける。木々の合間から零れ落ちる陽の光を反射することなく切り裂いた。

 手に馴染む黒い剣をゆっくりと持ち上げたスレイは、剣の切っ先を使徒へと向ける。


「さて、命がけの第二ラウンドと行こうか」


 剣を回転させ黒い剣を大きく引き絞ったスレイは使徒の姿を睨みつける。


 ⚔⚔⚔


 向かい合うスレイと力の使徒、二人の間で渦巻く殺気の応酬が繰り広げられる。

 見えない戦いを繰広げる両者を前にユフィとノクトは後ろに下がり、スレイの援護をするために新しい杖に魔力を込めている。


「ノクトちゃん、いつでも魔法使えるように」

「はい!」


 力強く答えるノクトはジッとスレイと使徒の様子を伺っているが、両者は動くことはない。

 いったいいつ動くのか、ノクトがジッと二人の様子を伺っているとそこに大きな風が吹き荒れる。


「はぁあああァァァァ―――――っ!!」

「ウヲォオオオォォォッ!!」


 掛け声とともにスレイと使徒が同時に地面を蹴って駆け抜ける。

 打ち出された弾丸のごとく飛び出したスレイは引き絞られた黒い剣を突き出し、力の使徒は大きく拳を引き絞り突き出した。

 剣の突きと拳の突きが重なり合い衝撃が走る。


「ぐっ!?」


 突き立てた黒い剣が押し負けた。

 大きく弾かれたスレイの黒い剣、そこを狙い力の使徒が距離を詰めて拳を振り抜いた。

 ドンッと風が爆ぜる音と共にスレイの身体が吹き飛ぶ。


「スレイくん!?」

「お兄さん!!」


 二人の声が響き渡る中吹き荒れる土煙の奥から一つの影が駆け抜ける。


「ウォォオオオオォォォォッ!」


 掛け声と共にスレイが黒い剣を片手に再び力の使徒へと向かって駆け抜ける。

 切っ先を大きく後ろへと向けたスレイは、間合いに入ったと同時に真横からの力強い一閃が放たれる。

 振り抜かれた黒い剣の一閃を受け止めた力の使徒は刃を押し返し拳を振るう。


「───ッ!?」


 振り抜かれた拳を後ろに飛んでかわしたスレイは、続く連打を剣の腹で受け止めた。

 黒い剣の柄を両手で握り、全身の強化を最大限まで施してようやく受け止めることができた一撃を前に、スレイは悔しさからギリッと奥歯を噛み締める。


「今ノデ折レヌカ」

「生憎と特別製でね。それより、いいのか動きを止めて!」


 ニヤリと笑ったスレイの背後から何かが飛んでくる。

 それを察した力の使徒は、黒い剣に受け止められた拳に力を込めスレイの身体を押して吹き飛ばし、仲間の攻撃で自滅を誘おうとした。

 だがここで使徒の思惑から外れる出来事が起きた。

 飛ばされたスレイの背後に迫りくる無数の火球、このまま焼け死ねと使徒が思ったその時、火球の軌道が突如変わり使徒の方へと向かって行った。


「───ナヌッ!?」


 力の使徒から発せられた驚きの声と共に火球がその顔面に直撃し体勢を大きく崩した。

 空中で身を翻して着地したスレイは黒煙を上げる使徒の姿を一瞥する。

 仰け反った身体を起こし黒煙を払ったしとは、火球を受けて煤けた顔のままスレイと火球を放ったであろうユフィの姿を順に見てから、ドスの効いた声を放った。


「ヤッテクレタナ人間ッ!」


 怒りの孕んだ声にスレイの顔が引き攣った。


「うわぁ~、わかってたけことだけど、直撃受けて平気ってタフすぎだろ」


 流し目で後ろにいるユフィとノクトの姿を見ると、二人共コクリと頷いたのを見てスレイは黒い剣を片手に持ち直し懐へと手を差し込む。

 するとドンッと空気が弾けるような音が聞こえたと思ったその時、力の使徒が目の前に現れた。


「───ッ!?」


 気を抜いていないにも関わらず強化を施した目でも追うことの出来ない速度にスレイの反応が遅れる。

 間に合わない、そう思ったスレイの元にノクトの声が届く。


「お兄さん!───アクセルッ!」


 身体を魔力の粒子が纏うと共にスレイの身体が今までにない速度で動く。紙一重で使徒の拳を交わしたスレイに振り向きざまに拳を撃ち抜こうとする使徒だったが、スレイは踏み込むと共に懐から抜き出した物を外へと向ける。

 ホルスターから抜き放たれた魔道銃 アルナイルの照準が真っ直ぐ使徒を射抜く中、それがどんな武器だとしても負けることがないという自信から、使徒が拳を振り抜こうとした。


「させないよ───ゲイル・ブロウッ!」


 微引き渡ったユフィの声と共に、振り抜かれようとした拳の直ぐ側に極小規模な魔法陣が展開され、圧縮された風の礫が使徒の腕をいなした。


「グッ!?」


 驚きの声を上げる使徒の目の前でスパークが恥じる。


「喰らえッ───グラビティーバレット!」


 至近距離で向けられた魔道銃より電磁加速された超重量弾が放たれる。

 使徒は防御しようと左腕を前に構えたが、撃ち出され弾丸は腕を吹き飛ばし使徒の顔半分を撃ち抜いた。ここにきて明確なダメージを与えたスレイは、後ろに飛びながら次々に重量弾を打ち出す。

 撃ち出される弾丸が使徒の肉体を削っていく中、スレイはユフィとノクトに叫びかける。


「ユフィ!ノクト!撃ちまくれッ!!」


 スレイの声を聞いたユフィとノクトは同時に魔法を放った。


「───ライトニング・ドラゴラムッ!」


「───ボルカニック・ウェーブ!!」


 掲げられたユフィの杖から放たれた雷撃の竜と、ノクトの杖から放たれた火炎弾が絶え間なく使徒を襲う。

 魔法の効果が消え見事にえぐれた地面に上に使徒は悠然と立っていた。


「防御力を上げたってところかな?」

「わたしの全力だったんですけど……悔しいです」


 新しい杖のお陰で今まで以上に魔法の威力が上がっているにも関わらず、あの使徒には通じないその悔しさから二人は握る杖に自然と力がこもる。

 憤る二人を横目に駆け出したスレイが、二人に向かって叫ぶ。


「ユフィはどんどん魔法を撃って!ノクトは援護!」


 駆け抜け悠然と佇む使徒へと斬りかかるスレイ。まだ作戦は続いている、そういうかのごとく攻め続ける姿を見てユフィは素早くノクトに指示を与える。


「ノクトちゃん、スレイくんに補助魔法を重ねがけして、タイミングを見て治癒魔法をお願い!」

「わかりました!……あの、お姉さんは?」

「私も、そろそろ杖に慣れてきたから攻めるよ」

「わかりました。行きます───ブースト・アクセル!」


 その一言を聞いたノクトが頷くと共にスレイへ向けて補助魔法が放たれ、魔法の光を纏った。


 補助魔法のお陰で筋力と敏捷性が上がったスレイは、力の使徒相手に同様の戦いを演じている。

 逆に言えば、闘気と魔力で身体強化を施した上からさらに補助魔法をかけなければ太刀打ちできないのだ。

 黒い剣を振るい力の使徒へと攻撃を受け続けると、力の使徒は心底呆れたような声を上げた。


「無駄ナコトヲ」

「なにっ!?」


 至近距離で掛けられた使徒の言葉にスレイが反応する。


「無駄ダト言ッタノダ、人間。貴様ガドレダケ向カッテコヨウガ我ハ倒セヌ」

「やってみなくちゃ、わからないだろッ!」


 身体を大きくねじりながら脇に抱えるように構えられた黒い剣を一閃、今度こそと思い振り抜かれた剣は力の使徒によって弾かれる。

 剣が弾かれスレイの顔が驚愕に彩られる。


「貴様ノ剣ナド通ジヌゾ」

「そのようで」


 スレイの剣よりも力の使徒の防御力が上回った。

 アストライアの話では、使徒は神気と呼ばれる神の気を使い自身の能力を上限なく使うことが出来る。故にスレイの攻撃力を上回る防御力を得た使徒にスレイの攻撃は通じないのだ。


「化け物がッ!」

「我ハ神ノ守護者ダッ!」


 鋭い蹴りがスレイの身体を折るように振り抜かれ、木々をなぎ倒しながら森の奥へと消えていく。

 スレイがやられたのを見たユフィは膨大な魔力を使って魔法を放った。


「よくもッ!───インフェルノ・レインッ!」


 構えられた杖の宝珠から無数の魔力のラインが伸び、力の使徒を取り囲むように魔法が陣が展開される。

 魔力のラインによって繋がった無数のアタック・シェルから展開された魔法陣から、文字通り業火の雨が使徒に降り注ぐ。

 剣がダメでも魔法ならどうだと、広範囲魔法で逃げ場を無くしその隙に新たな魔法を放った。


「───ライトニング・スピアッ!」


 構えられた杖の宝珠に展開された魔法陣より放たれた雷撃の槍が力の使徒を撃ち抜いた。

 赤黒い炎が木々を燃やし、その中心で立ち尽くす使徒はユフィの姿を見据えながら冷徹な声で告げる。


「無駄ナコトダト言ッテイルゾ」

「ふふふっ、無駄なんかじゃないよ」


 ユフィが不敵な笑みを浮かべながらそう告げると、力の使徒が訝しむように眉間にシワを寄せたその時、背後から何かが飛んでくる。

 振り向きざまに放たれた拳がそれを撃ち落とした。


「ナイフ、ダト?」


 使徒が撃ち落としたナイフに目を向けたその瞬間、頭上から何かが飛来するといち早くそれに気付いた使徒が前へと飛んだ。

 着地と同時に視線をむけると、今まで使徒が立っていた場所にもやはりナイフが突き刺さっていた。

 何が起こっているのかと思い当たりを注意深く見回していると、外の目の前で空間が歪み小さな穴が現れる。なんだと使徒が思った次の瞬間、使徒を狙って放たれたであろうナイフが飛び出してきた。

 頭を傾けてナイフをかわした使徒は一体何が起こっているのかがわからなかった。

 困惑する使徒の耳に不敵な笑い声が聞こえてきた。


「ふふふっ、ゲート・シェル大成功!」


 不可解なナイフの出現、それは全てユフィの新型魔道具 ゲート・シェルの効果であった。

 その名の通り、ゲートを付与した小さなシェルだ。

 原理としては入口と出口をそれぞれのシェルに付与して扱う二つで一つのシェルである。


 現在このシェルは入口をスレイが持ち出口をユフィが操っている。

 ユフィの指示でスレイがゲートの入口に向かってナイフを投擲してこの状態を作り上げていた。


 ユフィがこの不可解な状況を作り出していることに気付いた使徒は、次に飛んできたナイフを弾き飛ばすと拳を握りしめユフィの元へとかける。


「貴様カラ殺シテヤロウ!」

「えぇ~残念だけど、お断りかなぁ~」


 ユフィが杖を掲げた瞬間、向かってくる力の使徒の眼前のゲートが現れ、先程まで立っていた場所へと戻した。


「残念だけど、もう少しそこに居てね──ライトニング・アロー!」


 ゲートで戻した瞬間を狙って放たれたユフィの雷撃の矢が使徒を撃ち抜く。

 使徒は両腕を交差させて魔法を受け切ると今度こそ殺すとユフィの方を見たと同時に驚きの光景を目の当たりにした。

 目の前を取り囲むように浮遊する無数のナイフ、これは一体なんだと思い目元のシワをより深くした。


「何ダ、コレハ?」

「ボクの武器 ソード・シェルだよ」


 倒れた木々の奥から出てきたのは額を血で濡らしたスレイだった。

 スレイは黒い剣の切っ先を使徒へと向けると、取り囲んでいる短剣型ソード・シェルの刃に炎が宿ると一斉に飛び出した。

 縦横無尽に襲い来る業火を宿した刃が使徒の身体を切り裂く。

 オマケとばかりにユフィが配置したシェルからも魔法が使徒を襲った。


 ソード・シェルによって使徒の動きを止めたスレイは、黒い剣を支えにしてうずくまった。


「あぁ~、いってぇ」


 蹴り飛ばされた際に打ち付けた頭を押さえながら回復魔法をかけようとしたが、クラっと僅かに目眩を感じて上手く魔法が構築できない。


「お兄さん!大丈夫ですか!?」

「ノクト……ありがとう」


 駆け寄ってきたノクトの治癒魔法がスレイの傷を癒す。

 頭の痛みが抜け身体の不快感が抜けたスレイは、ノクトにお礼を言いながら立ち上がった。


「お兄さん、動かないで」

「もう平気だよ。それより──勝ちに行こう」

「ッ………はいっ」


 剣を構え直したスレイは最後の一本を叩き折った使徒へ向かって駆け出す。


「ウォオオオオオォォォッ!!」


 間合いに入ると同時に振り上げられた黒い剣を使徒は片手で守る。

 先ほどと同じように剣は弾かれるはずだと力の使徒が思ったその時、スレイが振るった黒い剣の刃が使徒の腕を切り裂いた。


「ッ!?」


 使徒の口から始めて驚きの声が漏れ出たのを聞いてスレイは不敵な笑みを浮かべると、振り上げられた黒い剣の刃を返し真上から振り下ろした。

 続く切り落としを再び受けた使徒の腕がまたしても切られ、続けざまにスレイがさらなる連撃を繰り出すと、たまらず両腕を交差させて守りの態勢に入った。

 振り抜かれたスレイの黒い剣が再び使徒の腕に触れると、その皮膚を裂き両腕を切り落とした。


「悪いね。全力じゃなかったのはこっちもだよ!」


 両腕を失った使徒の向けてスレイが黒い剣を一閃しその身体を斬ったが、再び防御力を上げたのかスレイの攻撃では薄皮を斬るに留まった。

 スレイがさらに踏み込み使徒を殺すべく剣を振るうが、即座に使徒の反撃がスレイを襲った。


「グッ───アース・ウォールッ!」


 再生のはじめた腕を使い殴り飛なされたスレイh、地面を転がりながら魔道銃の銃口に魔法陣を展開し城の足元に向けて発砲した。

 弾丸を撃ち込まれた地面が盛り上がり力の使徒を取り囲むよう壁が現れたが、壁が出来上がると同時に力の使徒は拳で破壊した。

 使徒の視線が塞がっているうちに立ち上がり距離を取ったスレイは切っ先を向けるように剣を構えた。


「イイ加減、我ニ殺サレロ人間。無駄ニ抗ッタトコロデナンニナル」

「はっ、無駄かどうかなんてわかりませんよ」


 構えを解いたスレイはだらりと下ろされた剣の刀身を見つめながら小さく呟いた。


「よし、もう行けるな」

「何ヲスル気ダ」

「何をって、決まってるだろ───あなたを倒すんだよ」


 凛とした声でそう告げたスレイの剣に赤黒い炎が灯る。

 灯されが炎は剣の中へと吸い込まれると刀身が燃え上がり、炎が収まると漆黒の刀身が紅い輝きを帯びる。

 刀身に輝きを帯びたのを見て口元を吊り上げたスレイは、銃身を落とし魔道銃を真っ直ぐ力の外へと向け黒い剣を大きく後ろに構える。


「行くぞッ」


 短く告げたスレイが地面を蹴り力の使徒に接近しながら魔導獣の弾丸を撃ちながら、スレイは身体を大きく捻り黒い剣を脇に抱えるように構えた。

 対して力の使徒が拳を握りしめた。

 前に破った技、剣技すら意味をなさない絶対的なまでの防御力を誇る力の使徒は握りしめられた拳を振るい真っ向から迎え撃った。

 スレイの剣と使徒の拳が重なり合い交差した二人は、剣と拳を振り抜いた構えで立ち止まる。過ぎ去った二人の合間に、黒い影が落ちていく。


「グッ───ナゼダッ!?」


 力の使徒よりこぼれ出たその言葉は全てを表していた。

 振り抜かれたはずの使徒の腕は肘から先がなく、その断面には黒い炎が宿り傷の再生を鈍らせる。


「悪いね。前の剣とは違うんだよ」


 身体を捻り左足を軸に回転したスレイは炎が宿る黒い剣を、下から上へと振り上げ力の使徒の身体を両断した。

 斬り裂かれた身体が中を舞う中、力の使徒はスレイの握る剣を刃を忌々しそうに睨みつけるのであった。

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