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海賊船での再会

新章入らせていただきます。

 少女を襲っていた海賊を倒したスレイは辺りを見回して事態を把握する。

 襲われていた船の上には船の船員の他に商人か、あるいは旅行客らしき人たちの姿があった。

 すでに海賊たちによって船は占拠され乗組員たちに負傷者、死者が何人もでているようだ。

 少しでも早く来ていれば助けられたかもしれない生命があった。その事を考えたスレイは自然と握りしめる拳に力が込められていた。

 そんなスレイの心も葛藤を知らずか、見るからに海賊たちの船長と思しき男が人混みの中からやってくる。


「おい小僧。貴様、俺の船員になにしてくれる」


 空中に浮かんでいるこちらを見上げる形で声を上げた男は、スレイが睨んだ通り海賊たちの船長のようだ。

 このままでは話しづらいと降下したスレイは船の欄干におりてから、甲板に飛び降りながら海賊を睨みつけた。


「何してって、見たらわかりますよね。年端も行かない女の子を襲っている変態を成敗しただけですよ」

「なにカッコつけてだ小僧」

「カッコつけてる気はないんですけど……まぁいいか」


 周りに海賊たちが集まってくる。

 海賊たちの数はおおよそ三十〜四十人ほど、海賊船の大きさからしてもう少し船員がいるかと思ったが現実そんなものなのだろう。

 魔道銃をホルスターに戻して腰に差していた緋色の短剣を抜き放つと、剣を抜いたことで海賊たちも武器を構える。


「もう一度言います。ボクにボコられてアジトを教えるか、今すぐ略奪行為をやめておとなしく投降するか選べ」


 少しの間を開けて聞こえてきたのは男たちのバカ笑いの声だった。


「ガハハハハッ、このガキ、マジか?マジで言ってのか!?」

「おいおい、こいつ俺たちがこの海一の海賊団、デッドボーンって知らねぇんじゃねえか?」

「たった一人で何が出来るってんだ、ガキが!」

「英雄気取りのガキが!」

「大人の怖さってのを思い知らせてやらねぇとな」

「仕事に邪魔をしてくれたんだ、いたぶってから殺ってやろうぜ」


 完全に舐めた態度を取っている海賊たちを見据えたスレイは、静かに闘気を全身に巡らせていくが誰もそのことには気づかずに笑っている。


「わかりやすくしてるつもりだけど、全然気づかないんだな」

「あぁ?坊主、なんか言ったか?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて笑っている海賊たちを無視ししながら、大きく息を吐いたスレイは早々にこいつらを片付けることにした。

 交渉も決裂し、連戦のせいで闘気も魔力も削られ、疲労もそれなりに溜まっているので出来るだけ速く倒して取り押さえようと魔道銃に魔力を流した。

 その時、人混みの中から一人の海賊が近づいて、サーベルを振り下ろしてきた。


「てめぇよくもッ!」

「えッ、だれ?」


 叫びながら振り下ろされたサーベルをかわし、距離を詰めて海賊の腕を掴んで制圧しようとするがデタラメに振るわれるせいで下手に手が出せない。

 振るわれるサーベルをかわしていると、海賊は血走った目でスレイを睨んだ。


「テメェ俺の腕をッ!殺してやる……殺してやるッ!殺してやるッ!!」

「腕っ?」


 そこでスレイはようやく男の左腕がだらりと下がっていることに気がついた。


「あぁ、あんたあの女の子を襲ってた奴か」

「殺すッ!殺してやるッ!」

「うわっ、怖っわ」


 目を血走らせなが殺す殺すと何度も呪詛のように口走る海賊、それを援護するように他の海賊たちもスレイに向かって剣を振るってくる。


「おらガキッ!避けねぇと死ぬぞ!」

「オラオラ!踊れ踊れ!」

「いたぶってから殺してやるぜ!」


 好き勝手なことを言ってくれると思いながら次々に襲い来る海賊たちの攻撃をかわしながら、ふとスレイは最初に海賊に襲われていた少女はどうしたのか気になった。

 海賊たちの動きを目で追いながら人が集まっているところを探すと、すぐにお目当ての少女を見つける。

 船の乗組員や人質として連れ出された人たちと一緒に身を寄せ合い、握りしめた杖で必死に魔法を使って人々を守ろうとする姿を見て、スレイは良かったと一安心しているとふとこんな疑問が頭をよぎった。


 ──あの子、どっかで会ったような………?


 肩口にまで届く黒髪に灰色の目をした少女は、年の頃は十二、三歳ほどの、妹とそう変わらない成人も過ぎてなさそうな少女の知り合いなどいないのに、どうしてかスレイは懐かしさを覚えていた。

 そんななか、スレイと少女の視線が重なった。

 怖い目に遭いながらも人々を守っていた少女だったが、その瞳は不安と恐怖で濡れいる。


「全く、馬鹿だなボクは」


 怖い目にあったはずの少女が、気丈に振る舞っていることもわからずによかったなどと思ってしまったことを恥じた。

 足を止めて目を鎖したスレイを見て、海賊たちが怪しみ動きを止める中最初にスレイに腕を折られた海賊がサーベルを振り回しながら叫んだ。


「死ねぇえええぇぇ―――――――ッ!」


 スレイの頭を切り落とすべく振るわれたサーベルの一撃に、海賊たちが勝利を確信し、黒髪の少女と船員たちが災厄の光景を思い浮かんで息を呑んだその時だった。


「なっ、なに?」


 振り下ろされたサーベルに合わせるように伸ばされた手が、サーベルの刀身を掴んでいた。

 サーベルを振るった海賊は驚きながらも力を込めてスレイの指を落とそうとした。だが、スレイの指は斬れるどころか、押し込もうとするサーベルすらも動こうとはしない。


「おっ、おい!なにしてんだ!?」

「うご、動かねぇ!?」


 驚きの声を上げている海賊たちは、そこでようやくスレイの手に光が集まっていることに気がついた。

 闘気によって強化された手に力が込められると、サーベルの分厚い刀身にヒビが刻まれる。


「なっ!?」


 サーベルにヒビが入ったのを見た海賊が冷静さを取り戻し、そしてありえない光景に驚愕する中、ゆっくりと目を開いたスレイは静かにこう告げた。


「あなた、邪魔ですよ」


 闘気で強化された手に力を込めサーベルを折ったスレイは、身体を大きく捻りながら男の顎めがけて回し蹴りを食らわせ沈めると、崩れ落ちたところを狙って蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた男は仲間の海賊を巻き添えにしながら、まっすぐに甲板に積み上げられていた木箱へ頭から突っ込んだ。

 へし折ったサーベルの刀身を投げ捨てたスレイは、動きを止めている船長の方に振り向きながら、挑発するように声をかけた。


「お仲間、だいぶんやられちゃいましたけど、どうします?」


 降参するか、このまま続けるか、最後通告として船長に問いかけたが海賊の答えなどとうに決まっていた。


「おめえらァッ!このガキを殺せぇえええぇぇぇ―――――ッ!!」


 船長の号令と共に取り囲んでいが海賊たちが一斉にスレイの元へと押し寄せる。


「ハァ、やっぱりこうなるよね」


 もう手加減はしない、全身に闘気を纏ったスレイはその上に魔法による強化魔法をかけると、さらにスレイは魔法の重ね掛を行った。


「──ブースト・アクセル」


 闘気と魔力による身体強化の上に、さらに補助魔法重ね掛けしたスレイは握りしめた短剣を手放すと、短剣が床板に刺さったと同時にその場から消える。

 バンッ!っと空気が弾けるような音が船上に響き渡り、少し遅れて海賊が一斉に崩れ落ちた。


 黒髪の少女含めた船員たちは、何が起きたのか目で終えたものはいなかった。

 船員たちの目に映るのは倒れる海賊たちで埋めつくされた甲板の上で一人佇んでいる白髪の少年、唯一人であった。

 倒れた海賊たちの合間を歩いていき、床板に刺さった短剣を拾い上げたスレイは鞘へと収めながらやってしまったと呟いた。


「あ~ぁ、やっべぇ。全員倒しちゃったら話聞けないじゃん………まぁ、まだもう少し残ってるだろうから、関係ないか」


 怒りの籠もった目で隣に並ぶ海賊船を見据えたスレイは、こちらの様子を伺っていた海賊たちの姿を見ながらゆっくり歩いていくのであった。


 ⚔⚔⚔


 船に残っていた海賊を殲滅したスレイは、倒した海賊たちを纏めて縛り上げて無力化したあと、怪我人の運搬や応急処置を手伝った。

 一通り片付けを終えたスレイは落ち着いたところでユフィにコールを繋げた。


「あ、ユフィ。さっきはごめん」


 コールが繋がったのを確認して声をかけたスレイだったが、相手から返答がない。

 どうかしたのかと待っていると、ようやくユフィの方から声が返ってきた。


『……スレイくん、私は怒っています』

「急にコールを切ったのは謝るよ、でもそうしないと船が危なかったから」

『はぁ~。もぉ~、何があったか詳しく聞かせてよ』


 コールを切ったあとの事を簡単に説明すると、コールごしのユフィは何かを諦めたかのように大きく息を吐いはいた。


『ほぉ~。海賊に襲われていた遊覧船を助けたねぇ~』

「嘘っぽいけど、事実なんだよ」

『信じてないわけじゃないよ。ただ、よくもまぁ運悪くそんなことに出くわしたなぁ~って』


 たしかにそうだとスレイが同意するように頷いてから、話を戻した。


「真面目な話だけ、こっちは船の乗組員に怪我人も出てる。ボクもこれから治療を手伝うつもりだけど、人手が足りないんだ」

『私もそっちに行くよ。レイヴンの目をもらえるかな?』

「それは後で、それよりも先にアレクさんに伝言をお願いしたいんだ」

『治癒魔法使いの派遣?』

「それもあるけど、拘束している海賊の引き渡しを頼みたいんだよ」

『りょ~かい。用意できたらすぐにそっち行くから、レイヴン出しといてね』

「あぁ。お願い」


 コールを切ったスレイは空間収納を開きレイヴンを起動させる。


「かぁ~」

「ユフィがこっちに来るから、適当なところで待機してて」

「かぁ~」


 了解と言うようにレイヴンが一鳴きするとバサッと羽根を羽ばたかせてマストの方へと飛び上がった。


「さて、レイヴンは出したし……次は」


 踵を返して辺りを行き交う船員の一人に声をかけた。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」

「はい。あぁ、何でしょうか」

「この船の船長にお話があるのですが、あんない頼めます」

「わかりました、こちらに来てください」


 先を歩く船員の後を追って船内に移動したスレイは、先を歩いていた船員が足を止めた。


「船長、先程の少年がお話があるようです」


 船員が声をかけた先にいた人物を見てスレイは驚いてい。


「おぉ、そうかい」


 なんとこの船の船長は女性だったのだ。

 燃えるような赤色の髪に年の頃は二十代後半か三十代前半といった具合か、女性らしさの中に男性のような強い眼差しが見えた。

 驚いているステイの表情をみて、フッと微笑んだ船長がそっと手を差し伸べた。


「まだ名乗ってなかったね。アタシがこの船の船長、レベッカ・コルネアだよ」


 差し出された手をみて、ハッとしたスレイがすぐに握り返して名乗った。


「冒険者のスレイ・アルファスタです。挨拶が遅れて申し訳ありません」

「構わんよ。あなたもアタシが女で驚いた口だろ?」

「お見通しのようで、気分を害されたのなら謝ります」

「気にしてなさ。よくあることだからね」


 随分とさっぱりとしている性格だと思っていると、船長 レベッカはスレイに頭を下げた。


「今回は助かった。偶然とは言えアタシらの命を救ってくれて感謝する」

「礼は不要です。それに、こんなことも言うのもあれですが、もう少し早く着ければ良かった」


 首を横に振りながらスレイは顔をしかめながら、甲板に並べられた遺体の姿を思い出していた。

 ここに来るのがあと少し早ければ、助けられた命もあった。

 速く海賊たちを制圧していれば間に合った生命があった。結局スレイは遅かったのだと、痛感させられていた


「そんなことはないよ。あんたがきてくれたからアタシらは生きてるんだ。死んだ奴らも、あんたに感謝こそしても恨んだりなんかしないさ」

「そう言っていただけると助かります」


 助けられなかったことへの負い目はあったが、その言葉で少しだけ気が楽になったスレイにレベッカが問いかけた。


「それで、アタシになんの話だったんだい?」

「実は拘束した海賊の件で少しお話があったんですけど」

「あぁ、あいつらをどうするんだい?」

「もうすぐボクの仲間がデイテルシアから冒険者を連れてこっちに来ますので、そのときにギルドに引き渡そうと考えていました」

「そうか……あいつらを捕らえたのはあんただよ。好きにしな」


 意外にもあっさりと引き渡しに応じたレベッカにスレイは少し驚いた。船員を殺されているので、引き渡すくらいならここで殺しておけ、っとでもいわれるのではないかと思っていた。


「どうせ海賊なんざ捕まりゃ拷問受けて縛り首か打首だからね。ここで死ぬよりも、辛い方をくれてやるのさ」

「なるほど、そういうことですか」


 納得したスレイはそのまま話を続ける。


「それでは海賊はギルドに引き渡しますね。あと、怪我人はどちらに?」

「うん?奥の船室だが、どうしたんだい?」

「治癒魔法を使えるのでよければ治療を手伝おうかと思いまして」

「おぉ。それは助かるよ。船医もやられてお嬢ちゃんだけじゃ手が回らなかったところでね」

「お嬢ちゃん?」


 いったい誰のことかと思ったスレイだったが、すぐにあのとき助けた魔法使いの女の子のことだと思った。


「あの子って、この船の船員ではないんですよね?」

「あぁ、治癒魔法が使えるからって治療を引き受けてくれてね」

「そうですか、じゃあボクもすぐに行きますよ」

「ありがとうね」


 一人では大変だろうし、すぐにでも向かったほうがよさそうだ。


「それじゃあ、あんた。スレイを船室に案内してあげて」

「了解です。それじゃあ、ついてきてください」


 スレイをここまで案内してくれた船員がそのままけが人のいる船室まで案内してくれることになった。

 先を歩く船員の後をついていこうとしたスレイは、すぐにレベッカに伝え忘れたことがあったのを思い出した


「あっ、レベッカさん。一つ言い忘れたことが」

「なんだい?」

「ボクの仲間が甲板にゲートを開きますので、間違えて襲わないでくださいね」

「さすがに海賊と冒険者の見分けはつくさ」


 一応伝えてから先を行った船員の後を追ってしたへ通りていくと、大部屋の前で足を止めた


「こちらです」

「ありがとうございます」

「いいえ、仲間を助けていただいた恩人に当たり前です。礼を言うのはこちら方です」


 頭を下げて去っていく船員の後ろ姿を見ながらスレイは奇妙な縁が出来たものだと思った。

 偶然リヴァイアサンに連れ去られた先で、偶然襲われている船と女の子を助けて感謝されるとは思わなかった。

 踵を返して部屋の扉を開けようとしたスレイだったが、それより速く扉が開いた。


「きゃッ!?」

「おっと」


 扉が開き飛び出してきた少女がスレイにぶつかりそうになって足を止める。だが、急に足を止めたせいで足がもつれ、少女が倒れそうになる。


「危ない」


 手を伸ばしたスレイは倒れそうになった少女の身体を優しく抱き締めるように受け止める。


「セーフ……えっと、大丈夫かな?」

「あっ、あの……えっ、えぇっと……はっ、はい」


 スレイの腕の中にいる少女が恥ずかしいのか顔を赤らめていた。

 大丈夫そうだと思ったスレイが少女を離した。


「それより何かあったの?そんなに慌てて」

「ッ!?あのッ、助けてください!船乗りさんたちが大変なんです!!」


 切羽詰まった様子の少女の顔を見てスレイはすぐに状況を理解した。


「わかった。君は誰でもいいから人を呼んできて」

「はっ、はい!」


 スレイが部屋の中に入ると、ずらりと並べられたベッドの上には大量の汗を流し苦しそうに胸を押さえ叫び声をあげている男たちの姿があった。


「これは………まずいな」


 事態は一刻を争う、そう判断したスレイが即座に動いた。

 空間収納から治療時に使う手袋を取り出したスレイは、すぐに側に寝かされている男の容態を確認する。


「発汗に胸の痛み……いや、これは幻覚症状か?」


 即座に思い付く病名はいくつかあったが、それでもここまで早く症状が出るにはおかしい。

 他の船員の様子を見たスレイは辺りを見回して部屋の奥に置かれていた物を見つけて駆け寄る。寝台の上に置かれていたのは船員たちに刺さっていたであろう血のついたナイフだった。

 ナイフを手に取りよく観察すると、ナイフの根元が何かで濡れているのに気が気づき、素手で触って匂いを嗅ぐ。


「クソッ、やっぱり毒かッ!」


 握りしめたナイフを置いたスレイは水で手を洗ってから、ナイフを片付けて台に治療に使うポーションを取り出して並んで行く。

 発汗と体力の消耗は回復ポーションで治せるが、毒の方はどうするかを考えていると部屋の扉が開かれる。


「あっ、あの!船乗りさんをつれてきました!」

「これ、どうなってるんだ!?」


 少女と連れてこられた船員が仲間の異変を見て驚いているが、あまり悠長にしていられない。


「海賊の使っていた武器に毒が塗ってありました」

「どっ、毒だと!?」

「すぐに治療すれば助けられます」


 本当かと船員が聞き返してくるが、スレイはすぐに否定の言葉も告げる。


「でも、毒の発症から時間が経ってますので覚悟してください」

「───ッ!?俺は、どうすればいい?」

「いますぐ船長のレベッカさんを連れてきてください」

「あぁ、わかった!他には何かあるか!?」

「それじゃあ……多分ですが、甲板にボクの連れが来ていると思うので、ここに連れてきてください」

「わっ、わかった!」


 スレイの指示を受けた船員が急いで部屋を出ていく。

 残されたスレイは、並べていたポーションを手に取りながら少女の方へと振り返る。


「ねぇ君。名前は?」

「えっ、あ、あの……ノクト……です」

「ボクはスレイ、よろしく」


 おずおずと答える少女の顔を見ながら、やはり気の所為だったのかと思った。

 この少女とはどこかであったような気がしていたが、はじめて聞く名前なので初対面なのだろうとすぐに頭の中を切り替えたスレイは、治療のための算段をたて始める。


「ノクト、君の魔力はまだ余裕がある?」

「はい!まだまだ平気です」

「ならいますぐ、彼ら全員にヒールをかけて」


 スレイが声を掛けて指示を飛ばすが少女はその指示に首を傾げる。


「あっ、あの!……毒なら、状態回復のリカバーの方がいいんじゃないですか?」

「初期ならそれでもよかったけど、ここまで毒の進行が早いとそれじゃあ、間に合わないんだ」


 解毒ポーションもいくらかはあるが手持ちでは数が足りない上に、毒の症状に合ったポーションを使わなければポーションも効果がない。

 なので、今のスレイに出来るのは少しでも体力を回復させて耐えさせることだけだった。


「ノクト、君は症状が重い人を優先にヒールで回復させて」

「わかりました、お兄さん!」

「えっ?お兄さん!?」


 名前を教えたのになぜそう呼ぶのかと思ったスレイだったが、すぐに思考を切り替えた。


「ポーションも用意しておくから、必要なら使って」

「はい!」


 ノクトの返事を聞きながらスレイは治療を開始するのであった。

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