化け物と怪物の激突
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いよいよリヴァイアサンとの戦いです。長くなってしまいましたが、読んでいただけると幸いです。
海底より姿を現したリヴァイアサン、その姿を目にしたのはスレイとユフィだけではなかった。
最初の冒険者たちの悲鳴を聞きつけて集まった他の冒険者たちも、その巨大な姿を見て誰しもが恐怖と共に動けなくなっていた。
何故ならば、彼らの目の前に現れたのは海の魔物の中でも、頂点に存在する三匹の魔物、海竜 シードラゴン、海の王 レヴィアタンに並ぶ一匹、海の覇者 リヴァイアサンだ。
ランクにしてAランク以上、この場にいる冒険者が束になって立ち向かったとしても倒すことの出来ない相手がそこにいる。
誰もが恐怖し、そしてこれから起こるであろう悲劇に目を逸らしている。
「だっ、誰でもいいから、あいつらを助けに行けよ」
「むっ、無理だ!?あんな………あんなのに敵うわけねぇ!?」
「俺は逃げるぞ!あんなのと戦うなんざ願い下げだ!!」
冒険者たちに震える声でおしつけあい、注意がそれている内に逃げ出そうとする船まであった。
そんな中、一隻の船がリヴァイアサンに向かって行こうとしていた。
「ルードス!おまえ、何やってんだ!?」
船に乗るのはこの街最強の冒険者で唯一のBランク冒険者パーティのルードスであった。
「助けに行くに決まってんだろ!あいつらだけ戦わせるわけにはいかねぇ!」
ランク試験の監視役、そのため招集を受けた時点でろくな装備を用意しておらず妻たちは陸で待機している。
「なに言ってんだ!?あんたも死ぬぞ!」
「関係ねぇ!ガキ放り出して逃げる大人がどこにいっんだ!」
ルードスがスレイとユフィを助けに向かおうとしたその時、リヴァイアサンが二人の乗る船に向かって爪を振り上げようとした。
「お前たち、逃げろッ!!」
あらん限りの声で叫びながらルードスが槍を持ち上げ投擲の構えを取ったが、槍が届くよりもリヴァイアサンが腕を振り下ろすほうが早い。
これから起こるであろう悲惨な光景を思い浮かべたルードスが、槍を投げようとしたその時だった。
「「「「はっ?」」」」
それは誰の口から出た言葉だっただろうか?ルードスたちは目の前で起こった光景が信じられずに目を見開いた。
なにが起きたかというと、二人を斬り裂こうとしたリヴァイアサンの腕はユフィの張ったシールドに弾かれ、その巨体を大きくのけぞらせたのだ。
「えっ、今何が起きた?」
誰もが信じれずにいる中、次々に攻撃を繰り返しては身体を大きく仰け反らすリヴァイアサン、もう何が起きているのかわからないとルードスたちが思っていると、今度はリヴァイアサンが一度海の中へと潜り大きく距離を取った。
「おい、気まずいぞ!」
リヴァイアサンの口に描かれが魔法陣のようなものをみて、今度こそ防げないと誰しもが思った。だが、そんな考えはすぐに覆された。
「「「えぇ~!?」」」
ルードスたちはまたしても間の抜けた声を上げた。
リヴァイアサンの放ったブレスは見えない壁のようなものに阻まれたかと思うと、そのままの威力で返されたのだった。ありえない光景を二度も見せられたルードスたちは、ふとあることを考えた。
もしかしたら、自分たちの助けっていらないんじゃない?ッと………。
⚔⚔⚔
リヴァイアサンのブレスを返したスレイは改めてこの巨体を相手にどう立ち回るかを考える。
「ユフィ、今の魔力量ででかいの何発いける?」
「うぅ~ん、今なら五回くらいだけどこれから魔力使うし、ちょっとの間だけ私は手伝えないよ」
一体何をと思ったがスレイはユフィの後ろで、横になる冒険者たちの姿をみてそういうことかと呟いた。
「彼らの治療?」
「うん。スレイくんが手当した人、多分このままじゃ危ないから、ここでできるだけの処置したら陸に戻すよ」
ユフィの言葉通りながら急いだほうがいい。ポーションであの冒険者の腹の傷は塞いだが、内臓のダメージは完全には治っていないのだろう。
放置していれば死ぬ。
「助けられるなら助けてあげて、それまでは一人でもたせるよ」
「お願い」
ユフィがシールドの中へと入ったのを確認したスレイは、空間収納を開いて無数のソード・シェルとミラージュ・シェルを取り出して配置すると、剣を鞘に納めて両手に魔道銃を握りしめる。
「行けっ、ソード・シェル!」
その声とともに展開されたソード・シェルに炎が灯り一斉に空中を飛び交う。
炎を纏った剣がリヴァイアサンに向けて放たれると、その刃は次々に鱗を切り裂いていく。
「シャアアアアアアァァッァァァァ!!」
声を上げながらシェルを弾き飛ばしていくリヴァイアサン、いくら鱗を切れるからといってソード・シェルの短い刃先で与えられるダメージなど微々たるものだ。
「まぁ、効かないよな」
分かりきっていたかのようにスレイは魔道銃を構えると、目の前に現れたプリズム型のミラージュ・シェルに銃口を向けた。
「だったら今度は、これでどうだ?──インフェルノ・ブラスト!」
左右に構えられた魔道銃の銃口に展開された魔法陣、そこに打ち出された魔力弾が通過すると炎の弾が打ち出される。
撃ち出された炎の弾はミラージュ・シェルを撃ち抜くと、内部で魔力が増幅、分裂して次々と増幅した炎の弾が四方八方すべての角度から分裂した炎弾がリヴァイアサンを襲った。
次々に撃ち出される炎弾の直撃を受けながらも、リヴァイアサンの身体はびくともしない。
「ガァアアアアァァァァァ――――――ッ!」
炎弾の集中砲火を受けながらリヴァイアサンが再び大きく口を開くと、今度はブレスではなく水弾を連続で放ってきた。
「そんな事も出来るのかよ───インフェルノ・ランスッ!」
撃ち出されたリヴァイアサンの水弾に対抗するように、スレイもまた業火の槍を打ち出した。
放たれた業火の槍は水弾の中央を狙って確実に潰していこうとする。業火の炎に焼かれ水弾が蒸発、爆発して当たり一面に白い靄が現れる。
「マズイな」
視界を白い霧で塞がれたスレイは、自分で降りな状況を作り出してしまったことを悔やんだ。
船が大きく揺れ波とともに何かが近づいてくる。ブオンッと白い靄を振りはらようにリヴァイアサンの巨大な腕が横から振り抜かれようとしていた。
「あまい!───ソード・シェル!シールド・リフレクション!」
スレイの言葉に合わせて飛来したソード・シェルは、切っ先を重ね合わせながら回転しシールドを展開、さらに新たに付与されていたリフレクションによってリヴァイアサンの攻撃を完全に防いだ。
お返しにとリヴァイアサンがブレスを放とうとした瞬間、銃口を重ねながら巨大な魔法陣を作り上げたスレイが一瞬速く魔法を放った。
「吹き飛べ───サイクロン・ブラストッ!」
同時に撃ち出された魔力弾をトリガーとして発動した巨大な竜巻は、リヴァイアサンの巨体を削りながら押しのけて、海の中へと沈めた。
今のは少し魔力を使いすぎた、そう思いながらポーションを飲もうとするスレイに、背後から声がかけられた。
「あれ、もう倒しちゃった?」
後ろからかけられた声に振り返ったスレイは、開かれたゲートから出てきたばかりのユフィと目があった。
「お帰り、あの人たちは?」
「陸にいた人に引き渡して、あの龍の写真渡してきたら大騒ぎしてた」
「まぁ、見た目の威圧感すごいからな」
「そうかもねぇ~」
普通の人よりも若干常識にズレのあるスレイとユフィは、他の人達が驚いている理由もただあの龍がデカいからだと思いながら呑気に喋っている。
「そんなことより、ユフィ気を引き締めて。来るぞ」
スレイが注意を促したその時だった。
突然、船の真下から何が強い衝撃が与えられ空中に浮かぶ浮遊感が二人を襲った。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
悲鳴を上げながら船ごと空中に投げ出された二人は、海面から顔をのぞかせるリヴァイアサンと目があった。
どうやら海底から二人の乗っていた船を押し上げて無防備なところを仕留めようとしているようだ。
「いい考えだけど、あまいよ」
空中で体制を立て直し飛行魔法と宙に浮かんだスレイと、空間収納からボードに乗ったユフィはそのままリヴァイアサンに向かって攻撃を加える。
「──インフェルノ・レイン!」
「──ライトニング・ボルト!」
魔道銃から放たれた業火の雨と、展開された無数の魔法陣より放たれた雷撃がリヴァイアサンへと直撃する。
「ギギャァアアアァッァアァァアァァァァァ!?」
魔法を受けて悲鳴を上げたリヴァイアサンが魔法を放とうとするのを見てユフィがスレイに問いかける。
「スレイくん。マジックリフレクション、まだ使える?」
「ごめん、ミラージュ・シェルに余裕がない」
ミラージュ・シェルはガラスの内部に魔道回路を刻み魔道具化した試作品だ。第一陣で半分を失い、今も限界を迎えて砕けていく。
すでに再度取り出したミラージュ・シェルの数も半数を切った。この数であのブレスは防ぐことは難しい。
どうするかスレイが考えるとスレイは頭上から黒い影が射すのを見て、ニヤリと口元を小さく吊り上げた。
「ユフィ、船使ってもいい?」
「どうぞぉ~」
ユフィの許しを得たスレイが飛び上がり、空高く打ち上げられ落下してきた船の船尾まで移動すると、右足に力を込めて蹴り抜いた。
「行ってこい!」
轟音と共に蹴り飛ばされた船は、撃ち出された弾丸の様に回転をしながら大きく開かれたリヴァイアサンの口の中に向かっていった。
「───グガッ!?」
これにはさすがのリヴァイアサンも予想外、魔物なのに驚きのあまり目玉が飛び出すのではないかと思われるほど目を見開いている。
ついでにどこかで、そんなバカな!?という驚きの声が聞こえてきたがたぶん空耳だろう。
蹴り飛ばされた船にリヴァイアサンのブレスがぶつかると、船底に付与されていたシールドがブレスを反らし船の回転に合わすように螺旋状にブレスが散っていく。
オマケとばかりにスレイは魔道銃の照準を船に向けて、大量の魔力を込めた魔力弾で船を撃ち抜く。すると膨大な魔力を与えられた船の動力炉が爆発した。
直撃で爆発を受けたリヴァイアサンが顔を背け、爆発で焼けた身体を海水で冷やした。
「かなりの魔力を込めたけど、今のでも殺り切れないか」
「結構丈夫だよね、あの龍。………次はどうしよっか?」
「決まってるでしょ。直接たたっ斬るから、援護をお願い」
「オッケ~!任されました!」
右手の魔道銃をホルスターに収め剣を抜いたスレイは、剣の闘気と業火の炎を纏わせるとリヴァイアサンへ向かって飛ぶ。
振り払われるリヴァイアサンの鋭い爪をかわし、懐深くへと潜り込んだスレイの一閃、二閃と炎を宿す刃が振るわれる事にリヴァイアサンの鱗を焼き斬れる。
「ウゥォオオオオオオオォォォ――――――――ッ!!」
声を上げながら振るわれるスレイの剣が速度を上げてリヴァイアサンを斬りつける。
素早く移動しながら、業火の炎を纏った斬撃を当て続けるスレイはリヴァイアサンの反撃を許さない様に立ち回る。
密着し、離れること無く攻撃を続けるスレイに向け、リヴァイアサンの掌が迫る。
「ボクは、ハエじゃないッ!───インフェルノ・ブラスト!」
押しつぶそうに迫るリヴァイアサンの掌に向けて銃口を向けたスレイは、トリガーを引き絞ると同時に撃ち出された
撃ち出された魔力弾によって発動された業火の弾丸がリヴァイアサンの掌で爆発、大きく吹き飛ばされたところでユフィから声がかかった。
「スレイくん、のいて!」
「──ッ!了解!」
答えたスレイが最後のダメ出しとばかりに最後の一撃でリヴァイアサンの身体を斬り裂く。血を流し、仰け反ったリヴァイアサンからスレイが素早く離れた。
倒れるリヴァイアサンの目に映ったのは巨大な魔法陣を展開したユフィの姿があった。
「凍てついて───アブソリュート・レイン!」
魔法陣を展開したユフィが杖を振り下ろすと同時に、絶対零度の氷の雨がリヴァイアサンに向けて放たれた。
次々に打ち出される氷の雨が海に落ちると一瞬にして凍りつき、撃ち出された雨はリヴァイアサンの身体をも凍らせていった。
氷
絶対零度の雨が止むと、氷の彫像となったリヴァイアサンがそこにいた。
「うひゃぁ~、流石は絶対零度の雨。えげつない」
「そんなに褒めたって何にもでないよぉ~」
恥ずかしそうに頬に手を当てながら告げるユフィにジト目を贈ったスレイだったが、ビシッと何かが割れるような音が聞こえ正面に視線を戻した。
パキンッと音を立てて氷が割れると、リヴァイアサンの咆哮が響き渡った。
「ァアアアァァァッァァアアァアァアッァァ――――――ッ!!」
叫び声を上げるリヴァイアサンに合わせるように氷がスレイたちの頭上から降り注いでくる。
「うわぁ~、あれくらって生きてるってマジですか」
「ホントだよね、普通の魔物だったら確実に心臓まで凍りついてるはずだもん」
氷を破ったリヴァイアサンが口を開いて巨大な魔法陣を展開すると、無数の水弾が次々に撃ち出される。
空中を飛びながら撃ち出される弾丸をスレイとユフィはかわし続ける。
「絶対零度の氷でもだめとなると、次はどうしよっか」
「だったら、ボクが行くよ」
水弾をかわしながら魔道銃 アルニラムに魔力を込めながら、その銃口に魔法陣を展開したスレイは水弾が途切れた瞬間を狙って連続でトリガーを引き絞った。
「喰らえ──インフェルノ・レイン!」
連続で引き絞られたトリガーと共に撃ち出された魔力弾が魔法陣を抜けると、数十の細かい炎弾となってリヴァイアサンへと放たれる。
次々に撃ち出される魔力弾が業炎の雨となってリヴァイアサンを襲う。
「ギャアァアアアアァァァアアァァァッ!?」
業火の炎は消えることなくリヴァイアサンの身体を焼かれ続ける。
リヴァイアサンは自分の身体に向かってブレスを放って業火の炎を消すと、スレイに向かって手を伸ばして掴みかかってくるが、スレイもユフィも後ろに飛んで距離を取りながら魔法を放った。
「業火の炎も消すか、凄いね」
「感心してないであの爪、斬って来てよ」
「了解」
次に伸ばされた腕に飛び込んだスレイの剣が爪を根元から切り落とした。
「そんだけデカいと斬りやすくて助かるよ!」
「ゥォオオオオオオォォッオォォォォォッ!!」
爪を斬り裂かれたリヴァイアサンがもう一度スレイを斬り裂くべく腕を伸ばそうとしたが、それより早くリヴァイアサンに向かって雷撃が走った。
「───ライトニングボルト!」
撃ち出された雷撃がリヴァイアサンに直撃するが、雷撃はその巨体をわずかに押し留めるのみで効果があまり見受けられない。
その隙に距離を取ったスレイはユフィのそばにまで下がった。
「ありがとう、ユフィ」
「どうも、どうも~。でも雷の魔法は得意だったのに……ちょっとショックかもぉ~」
ユフィが落ち込むように肩をすくめると、それを慰めるべくスレイが声をかけた。
「ボクの業火よりは効いてるから、もっとあいつを引き付けて!」
「わかってるよッ!こうなったらもうなんでもやってあげるからね!」
自信を喪失したユフィが一気にやる気を出すと、無数の魔法を複数のシェルで発動させる。
業火、吹雪、暴風、落雷、砂塵、五属性の嵐を発動させた。
「わぁー、ユフィさん。ガチっすか」
顔を引き攣らせたスレイが数歩、後ろに下がるとにこやかな笑みと共に杖を振り抜いた。
「行くよ~──オールマジック・フルブラスト!」
杖を振り抜くと同時に放たれた五属性の魔法が一斉にリヴァイアサンへと襲い来る。
魔法を正面から受けるリヴァイアサンだったが、全ての魔法を真っ向から受けることは出来ない。
「おぉ~、さすがユフィさん」
「感心してないで、あいつにトドメ刺してよ!」
ユフィが声を上げながらスレイを見る。
「あぁ~そのユフィさん、こんなときにいいたくないけど、そろそろ剣が限界です」
「嘘でしょ!?」
なんでとユフィがスレイの剣を見ると、炎を宿した剣が溶けかけているのを見る。
剣の限界、こんなときに来ちゃったのかとユフィが忌々しそうに顔を歪めたが、当の本人にはそんなもの感じさせない。
「その剣で倒せるの?」
「楽勝……じゃないけど、剣が完全に壊れる前にあいつを斬る」
ニヤリと口元を釣り上げたスレイの顔を見て、ユフィは目を伏せてから心を落ち着かせた。
「倒せるんだよね」
「任せて、ユフィ」
「うん。了解だよスレイくん」
ユフィの魔法が切れるのに合わせてスレイがリヴァイアサンに飛び込む。
「決着をつけるぞッ!」
向かってきたスレイに鋭い爪を振り下ろすリヴァイアサンだったが、振り下ろされた爪は見えない何かに弾き飛ばされる。
「援護は任せてよね」
接近したスレイの周りに浮かんだガードシェルがリヴァイアサンの攻撃を防いだ。そのままスレイがリヴァイアサンの懐にまで飛び込んだ。
「ハァアアアァァァァァッ!!」
上半身を大きく引き絞りながら業火を纏った剣を垂直に構えたスレイが狙うのは、今までの攻撃で砕けた鱗の隙間だ。
壊れかけのこの剣でトドメを指すことの出来る唯一の方法がこれしか無い。
大きく引き絞られた剣がリヴァイアサンの肩に突き刺さる。
──あと少し、保ってくれ!
半ば祈るように心の中で叫んだスレイは剣に業火の炎を流し込む。
「ギィヤァァァァアアアアアアッァァァァァ――――――!?」
壊れかけの剣の刀身に纏った業火の炎が刃となってリヴァイアサンの肩を貫いた。
「ウゥォオオオオオオオォォォォォォ――――――――――ッ!!」
業火の炎で延長された剣に力を込めゆっくりとその刃を押し込んでいく。
「ァァァアアアアアァァァ――――ッ!?」
肉体を焼かれ悲鳴を上げるリヴァイアサンがスレイを引き離すべくその手を伸ばした。だが、リヴァイアサンの手は見えない壁に阻まれてスレイに届かない。
「お願いだから、ここで倒されてね」
ユフィのシールド・シェルによって阻まれたリヴァイアサンが叫んだ。
「ォォオオオオオオォォォォォォォ―――――――――ッ!?」
叫び声を上げるリヴァイアサンが次々にブレスを放ってシールドを破壊しようとする。
やらせないとユフィがシェルに込める魔力を強める。
そんな攻防のさなか、リヴァイアサンの身体に剣を突き立てたスレイが叫ぶ。
「ゥウォオオオオオオオオォォォォォォ!!」
このまま斬る!振り抜く剣に力を押し込むと、リヴァイアサンが首を振り痛みから暴れる。
暴れるリヴァイアサンのブレスが海を撃ち抜きユフィも自分を守るためにシールドを張って防ぐ中、スレイが一気に剣を押し込もとする。
これで殺れる、そうスレイが確信したその時だった。
「なっ!?」
ガクンッと込めていた力が抜ける。
──剣が折れた。
振り抜こうと力を込めたスレイの剣の刃が根元から無い。
「しまッ──」
剣が壊れたことへで一瞬、スレイの注意がそれた。
「スレイくん後ろッ!?」
「はッ!?」
剣が壊れたことで動きが止まったスレイをリヴァイアサンは掴み取ろうとした。
「───シールド・ヘキサッ!」
握りつぶされるのを避けるべく、スレイはシールドで身体を包み込むようにしながら六枚重ねて身を守る。
球体状のシールドを掴み取ったリヴァイアサンは、力を込めて握りつぶそうとするも出来ないとわかると、即座にリヴァイアサンが叫び声を上げる。
「グラアアアアアァァァァ――――――――ッ!!」
「うわあぁああッ!?」
「スレイくん!───くッ!?」
球体状のシールドに閉じこもったスレイを握りしめたリヴァイアサンは、凍りついた海面を破壊してユフィに向かってブレスで牽制してから身を翻す。
「スレイくん!?逃さない!───テンペストアローッ!」
ブレスのせいで攻撃が遅れたが、逃げ出そうとするリヴァイアサンに向かって暴風の矢を放った。
撃ち出された矢はリヴァイアサンの身体を吸うか所、抉ったが倒すことは出来ず海の中へと潜られた。
「まちなさい!」
逃げるリヴァイアサンを追ってボードを飛ばしたユフィだったが、海の中に潜った魔物を追うことは出来ずすぐに見失ってしまった。
海の真ん中で止まったユフィの顔が一気に真っ青になった。
「ど、どうしよう……そうだ!──コール」
すぐにスレイの無事を確かめるため耳に手を当てて魔法の名前を呟いた。
⚔⚔⚔
リヴァイアサンに捕まり海の中に消えたスレイは、シールドのボールの中で座って考えていた。
「はてさて………どうしたものかな」
リヴァイアサンに捕らえられたスレイはと言うと、意外にものんびりとし過ごしていた。
多重に張ったシールドのお陰で水圧に潰されることもなく、風魔法を使えば窒息の心配もないが代わりに抜け出すことが出来ない。
「ゲートで脱出は出来るけど傷ついたこいつを逃がすわけにもいかないし、かと言ってこいつが浮上するのを待って討伐するとして、それまでシールド維持できるかどうか……」
度重なる魔法の使用で魔力を消費し続け、今もシールドと風魔法を常時発動しているので魔力がどんどん減っていく。
このままでは一時間もしない内に魔力切れで倒れるだろうと、ここまで考えたところでスレイはポンッと相槌を打つように手を叩く。
「あっ、これってなにげに詰んでる」
逃がすか賭けに出て死ぬか、そんな二択を前にしてスレイがうねっているとどこからともなく声が聞こえてきた。
『スレイくん!』
「ん?」
名前を呼ばれた、そんな気がしたスレイが辺りを見回してから気のせいかと首を傾げると、もう一度声が聞こえてきた。
『スレイくん!聞こえてる!?返事してスレイくん!』
「ユフィ?」
今度は気の所為ではなく、はっきりとユフィの声が聞こえた。
すぐにスレイは自分の耳に手を当て、コールと呟いた。
「やぁユフィ、そっちは──」
『やぁじゃないでしょ!スレイくんのバカァアアアァァァァアアァアッ!!』
耳がキィーンとなったスレイは耳を押さえて、すぐに直接耳に声を送っているので無駄だと諦めた。
「そんな怒鳴らないでよ、耳痛い」
『でも……スレイくんが連れていかれて……』
「平気だよ。シールドのお陰で溺れずに済んでるし、まぁ、今どこら辺かはわかんないけど」
リヴァイアサンの泳ぐ速度が速すぎてどこを泳いでるのかわからない。
『場所なんて良いから……スレイくん帰って来れる?』
「いくら移動しててもゲートは開けるけど、今こいつを逃がすわけには行かない」
今の瀕死の重傷を負ったリヴァイアサンを逃がせば、傷を癒すために船や冒険者たちを襲うことになる。
ここで逃がして被害が出ればスレイもユフィも逃がしたことを後悔する。
そんなことはしたくない、絶対にここで倒すのだとスレイが告げるとユフィは小さく息を吐いてから尋ねる。
『なにか案はあるの?』
「かなりかけだけど、太陽光収縮魔法を使ってこいつを水面にまで誘い出す」
『一人で平気?』
スレイがゲートを開けばユフィもそこに行ける。
剣がないスレイが一人で倒せるかわからないので、心配しながら問いかける。
「取り逃がしたのはボクのミスだ、なら後始末もボクがするよ」
『わかったよ、ちゃんと帰ってきてね』
「分かってる。終わったらこっちからコールをかけるから港で待ってて」
『うん。待ってる』
ユフィからのコールが切れたのを確認してから手を離したスレイは、大きく息をはいてから自分の足元を見る。
リヴァイアサンを地上に出すために太陽収縮魔法を放つ、シールドの強度も心配だったがやるしか無いと気を引き締めると、シールドの外に魔法陣を展開する。
「───ぶっ飛べッ!!」
展開された魔法陣が輝くと同時に海底にまばゆい光がともり、光が収まると同時に水が爆発した。
「グォオオオオオオォォォォォォッ!?」
水の爆発をまともにリヴァイアサンが驚きのあまり海上へと浮上する。
「やった、うまくいった!」
爆発に驚いたリヴァイアサンが海面へと向かっていく。
海面を照らす光がだんだんと明るくなっていくのを確認しながらスレイは空間収納を開き、刀身の半分を失った緋色の剣を抜き放った。
「あと少し、一緒に戦ってくれ」
今まで幾度となく共に戦ってきた緋色の剣に向けてそう呟きながら、リヴァイアサンが水面に出たと同時にシールドを解いた。
シールドから開放されると同時に飛行魔法でリヴァイアサンから距離を取ったスレイは、身を蛭が翻しながら魔法陣を展開した魔道銃の銃口を向ける。
「終わらせるぞ!──インフェルノ・スピアッ!」
トリガーを引くと同時に現れたん業火の槍がリヴァイアサンの肩を撃ち抜くと、ユフィにやられた傷もあってか腕が海面に落ちた。
「グギャアアアアアァァァァッ!?」
腕を失った痛みでリヴァイアサンが大きく後退すると、先ほどスレイが与えた傷めがけて剣を振るう。
「ウォオオオオオォォォォォォッ!!」
失われた刀身を補うように業火に炎が刃となり、リヴァイアサンの身体を両断するべく振るわれる。
「終われぇええぇぇぇぇ―――――ッ!!」
傷跡をなぞるように振り抜かれた業火の刃は、リヴァイアサンの肉体を完全に両断する。
「ギャアァォォオォオオォォォオオォォォォ―――――ッ!?」
リヴァイアサンが放った最後の断末魔が消えると、海には大きな水しぶきが上がったのだった。
⚔⚔⚔
リヴァイアサンとの激闘を制したスレイは、その巨大な亡骸を前にしてこんなことを呟いた。
「おぉ~、すげぇ~。ついに空間収納が埋まった」
討伐したリヴァイアサンの亡骸を空間収納に入れていると、ついに空間収納が埋まったのだ。
ついにかとスレイは感心の声を上げるものの、海の上にはその巨大な亡骸は残っている。
「しっかし……これどうするかな」
スレイは後ろに浮かばしているリヴァイアサンの上半身を見ながら呟いている。
海に沈めていては他の魔物を呼び寄せるので、重力魔法で空中に浮かしていたがいつまでもこんなことをしていられない。
どうしたものかと考えていたスレイは、あることを思い出した。
「おっと、ユフィに連絡しなくちゃな──コール」
耳に手を当てながら魔法を発動したスレイは、繋がっているはずの相手に声をかける。
「ユフィ、聞こえてる」
『スレイくん!───平気?怪我してない!?』
声の向こうで心配そうな顔をしてまくし立ててくるであろうユフィの姿を思い浮かべながら、スレイは小さく笑みを浮かべて答える。
「あぁ、平気だよ。怪我もしてないし、あのデカいのも無事に討伐した」
『良かったぁ~、すぐに戻ってこれるの?』
「そうしたいんだけど、空間収納埋まっちゃってさ。これを放置は出来ないよ」
コアは抜き取ったが強力な魔物の肉はそれだけでも膨大な魔力を有している。
誤って放置して魔物が捕食すれば、それだけでも強化種並の魔物が現れるかもしれないのだ。
飛んで帰るにしても魔力の残りからしても無理だと呟いたスレイにユフィがこんな提案をした。
『私、今からそっちに行こうか?』
「あぁ、その手があったか。じゃあお願い──ぅん?」
お願いします、そういう苦労としたスレイだったが不意に言葉を切ってしまった。
その声に不審に思ったユフィがスレイに尋ねる。
『なに、また魔物でもでちゃった?』
「いいや違うけど……今何か聞こえて」
何もない海の真ん中で異様な音が聞こえてきた、そんな気がしたスレイは辺りを見回した。
「やっぱり聞こえた」
『えっ、なに?いったい何が聞こえたの?』
「多分、なにかと戦ってる音が聞こえるんだ」
波の音しか聞こえないはずの海の真ん中で、金属同士がぶつかる音と、なにかが爆発する音が聞こえてきた。スレイは視力に強化を集中させ辺りを見回してようやく見つけた。
「ごめんユフィ、緊急事態だからコール切るね」
『あっ、ちょっとスレイく──』
何かを言おうとしたユフィの言葉を遮りコールを切ったスレイは今しがた見た物の場所にまで急いだ。
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スレイがリヴァイアサンを倒して少したった頃、海の真ん中で二隻の船が争っていた。
いや、正確には一方的にやられていた。
「てめぇら、水と食料、それに金目の物と女あるだけ全部奪え!男と歯向かうやつは殺してかまわん!」
嫌らしいゲスな声をあげる立派な髭を蓄えた男は、周りで略奪をしておる者たちに向かって叫んだ。
この男は攻撃を仕掛けている船の船長、そしてその船の旗には大きく髑髏のマークが描かれていた。
つまりは海賊だ。
「弱ぇな」
「貴様ッ!」
剣を持った一人の男が髭の男に斬りかかったが、あったりと倒されてしまう。
「護衛もいねぇなんて、定期便を襲うのも飽きてきたな」
「キャプテン、そうはいっても俺たちゃこの海一の海賊だ、相手になるやつなんていやせんぜ」
「確かにな、ギャハハハ!」
ゲスな笑い声をあげる髭の男、そんな男に向かって一人の少女が向かっていった。
「───ファイヤー・アローッ!」
「おっと」
一人の少女から放たれた炎の矢をなんなくかわす髭の男。
「なんだ、魔法使いが乗っていたのか、それもこんなに可愛らしいお嬢さんとは」
髭の男の前に立ちはだかったのはまだ幼さの残る黒髪の少女で、手には宝珠のついた杖が握られていた。
少女は髭の男に向かって叫ぶ。
「今すぐこんなことは止めなさい!」
「やめる?はっ、イヤだね!止めたきゃ俺を倒してみな」
「言われなくとも──キャアッ!?」
魔法を唱えようとした少女だったが、それよりも先に下っ端の海賊が少女を押さえ込んだ。
「なぁキャプテン、この女もらっていいか?」
「そんなガキでいいのか?」
「そこがいいんじゃねぇか、躾がいがある」
「相変わらず、物好きな。いい好きにしろ」
「ヘヘッ、ありがとうございやす」
感謝の言葉をのべた下っ端は、少女を甲板に押し倒すとその上に乗った。
そこで少女の目には涙が溜まりはじめていた。
「や、やめて……」
「ぁあ?なに口答えしてんだ。お前はもう俺のなんだよ?おとなしくしてろ!」
怒鳴るような口調に少女は恐怖する。
「まぁ、最初は痛め付ければいいだけだ」
「や、やめ──」
「ダメだ」
振り上げられた拳が少女の顔に振り下ろされる。
傷みを覚悟した少女は目をきつく閉ざしたその時、ゴキッと何かが折れる音が聞こえてきた。
「あっ……ぅあぁぁあああああぁあぁぁぁ――――――――ッ!?」
聞こえてきたのは少女の鳴き声出はなく野太い男の悲鳴だった。
もちろん少女の物ではない、ならば誰のものか。
「なんだ、どうした!?」
「うでがぁあああああ、俺の腕ががああぁぁぁぁ――――――ッ!?」
髭の男がのたうち廻る男に声をかけると、左腕を押さえていたが、どこか向きがおかしい。
一人の海賊が男に近づき腕を見ると肘からしたが完全に折れていた。
「おい、誰だッ!誰がやりやがったッ!?」
髭の男はカットラスを振り回し生き残っている船員に問うが誰答えない。
その代わりに声が聞こえてきた。
「どうにか間に合ったみたいだね」
海の方から聞こえてきた声に海賊たちは一斉に振り向く。
そこには空中を飛び、後ろには巨大な魔物の死骸を連れた一人の少年がいた。
「選べ海賊ども、ここで素直に降伏してアジトを教えるか、ボクにぶちのめされてから教えるか」
少年スレイはそう声を張り上げて言った。




