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船着き場の冒険者

評価ありがとうございました。


 アルガラシアのギルドマスター、アレクシスとの対談から二日後、スレイとユフィはシーサーペントの討伐の時に使った船着き場に足を運んでいた。


「おぉ~スゲー人」


 スレイは船着き場を埋め尽くすほどの人の数に驚きの声をあげる。大きな町に住んでいればこれくらいの人だかりなど珍しくはない。

 実際ここに集まっているのは百人ほどなのだが、スレイが驚いているのはそこではない。

 ならば何に驚いているのかと言うと、ここに集まっている人のほとんどが冒険者なのだ。


「デイテルシアのギルドも人はたくさんいたけど、さすがにこの人数はいなかったね」

「それだけこの討伐戦が大変なんだな」


 人の生活がかかっているので当たり前と言えば当たり前なのだが、普段ギルドで見かける冒険者の部屋数よりも確実に多いと思った。

 そんな人たちの中を歩いていた二人。


「お前らも来てたんだな」


 中央へと向かって歩いていたスレイとユフィに声をかける者がいた。そちらを見ると、ここに来て初めての依頼の際にこの場所での戦い方を教えてもらいお世話になったBランク冒険者の姿だった。


「ルードスさん、こんにちわ」

「よう」


 スレイとユフィは目の前に立っている眼帯の冒険者ルードスだけ、その事に疑問を覚えた二人は周りを見回している。


「なにしてんだ?」

「いや………今日はユリーシャさんたちいないんですね」


 そう、ルードスの妻であるユリーシャ、リリア、マリナの三人がここにいなかった。

 てっきりルードスがここにいるのなら一緒にいると思っていたのだが、どうしたのかと問いかける。


「あいつらは留守番だよ。今日は俺が、お前ら受験者の試験官だからな」


 今さらだが、この討伐戦はランクアップ試験を兼ねている。そのためこの町の最強の冒険者であるルードスが呼ばれているのは当たり前だ。


「あ、そうなんですか」

「よろしくお願いしますね」


 ニヤリと笑みを浮かべたルードスがスレイの肩に手を置いた。


「まぁ、お前らに付くとは思わないが、そんときゃ厳しく見てやるから覚悟しろよ」

「お手柔らかにお願いしますね」

「はははっ。そんじゃ俺はギルマスに呼ばれてっから、先に行くわ。遅れるなよ?」


 ルードスが離れていくのを見送ったスレイとユフィは、時間になるまで適当にふらついてみることにした。

 いま港に集まっているのは冒険者だけでなく、露店も開かれている。


「賑わってるねぇ~」

「大々的に触れ込みでもしたんじゃい」


 冒険者の大規模な討伐戦ともなると道具が足りなかったりするだろう。なので商人からすればかきいれ時なのは間違いない。


「そこ行く冒険者の兄ちゃん!このポーションのセット買わないか?今なら最高品質のポーションが二十本で金貨一枚だよ!」

「おやおや?そこの君、これから海に出るってのにそんな剣じゃいけないね。どうだい、この槍、ロッククラブの殻を貫いても欠けない逸品だよ」


 面白いものかはないかと覗いてみてはいいが、次々に集まってくる商人にいささか嫌気が差していた。


「ポーションはあるので結構ですし、槍も使わないので結構です」

「ならそっちのお嬢さん、この真珠のネックレス等は」

「戦うときに邪魔なので要りません」


 少し歩けば露店の店主が纏わり付いてくる有り様だったが、二人とも財布の紐をしっかりと閉めている。

 欲しいものは無い、ッと言うよりもどれもぼったくる目的の粗悪品ばかりなので買う気はない。


 最初のポーションは、よく見ると瓶の底に薬草のカスが沈殿しているにも関わらず、色が鮮やかなのは食紅で色をごまかしているのだろう。

 武器に関してもこれから魔物と戦うと言うのに、今までの使い慣れた物を捨てて、直前に新しい物を買うような者などただのバカだ。

 ネックレスは論外。

 そんなこんなで冷やかし目的で露天を見回っていた二人は、いつしか受付の開始時刻になっていることに気がついた。


「そろそろ時間か」

「見るもの無いし、戻ろっかぁ~」

「そうだな」


 ぶらつくのも飽きてきたので初めの場所に戻ると、船着き場の前に小さな台が設置され、そこにはアレクシスが()をついて壇上にたっていた。


「今日はよく集まってくれた。分かっていると思うが今回の討伐戦はランクアップ試験をかねている。だが、それ以前にこれは人々を守るためのものだ!お前ら気合い入れて魔物どもをぶち殺せ!」


『ウォオオオオ──────ッ!!』


 アレクシスが拳を掲げて叫ぶと、周りの冒険者たちもそれに呼応して声をあげていた。


「さすがギルマス。冒険者のツボってのを心得ていらっしゃいますね」


 スレイが感心したように呟くと、アレクシスが壇上から降り入れ替わるように女性職員が壇上に上がる。その顔にどこか見覚えがあると考えていたら、前にスレイとユフィをマスタールームに案内した受付の女性だと気づいた。


「それではこれほりランクアップ試験の受付を開始します。受験される冒険者の方はギルドカードを出してこちらに集合してください」


 手を指す方には小さな簡易受付が出来ていた。人混みが移動するのを確認しながら、スレイは隣のユフィに声を掛ける。


「ボクたちも行こうか」

「うん」


 人混みから移動して受付の列に並んだスレイとユフィ、二人の前にはすでに十人ほどの冒険者が並んでおり、その後ろにも続々と並び始める。

 他の列よりも進みが遅いような気がしたが、気のせいかと思いながら待つこと十分ほど、ようやくスレイたちの番がやってきた。


「次の方どうぞ」


 なんだかやる気の声だとお思いながら前に出ると、どこかで見たことのある職員だと思ったスレイはすぐに目の前の職員が誰か思い出した。


「あっ」

「おや、あなたは確か」


 スレイと目があった受付の男は眼鏡を押し上げると、あからさまに怪しむような顔をした。


「なぜここにいるんですか?」

「試験を受けるためですけど、なにかいけませんか?」

「お帰りください、でなければ書類偽造の疑いで資格剥奪を言い渡しますよ。後ろに並んでいるあなたもです」


 眼鏡の職員はスレイだけでなくその後ろに並んでいるユフィにも同じことを言った。


「次の方、どうぞ」

「すみません。まだボクの受付終わってないんですが?」

「はぁ、受理できませんって、これで二度目ですよ。次はありませんよ、早く立ち去りなさい」


 いくら言っても話を聞かずに追い返そうとしてくるメガネの職員をスレイが睨みつけると、それが気に食わないのか職員が大きなため息を一つついた。


「早くどいてください。邪魔です」

「だったら、ボクの言い分も少しは聞いてくださいよ」

「はぁ、なんですか?」

「あなたに付く返された推薦状はギルドマスターのアレクシスさんが確認して、正式な手順を踏んで申請しました。それでここにいるんです」

「ギルマスが直接確認した?はっ、なんとも疑わしいですね?それにこれで忠告は三度目です。冒険者資格の剥奪を言い渡します。後ろのあなたもですよ」


 話もちゃんと聞かずにスレイたちを追い返そうとする眼鏡の受付を前にして、もはや冷静ではいられない。ブチっとスレイは自分の中で何かが切れる音が聞こえた。


「いい加減にしてくださいよ」

「何を──ひぃッ!?」


 下を向いていた顔を上げた眼鏡の職員がスレイの顔を見たその時、腰を抜かして椅子から転げ落ちた。


「ちょっとスレイくん!?」


 まずい予感がして止めに入ろうとしたユフィがスレイの肩を掴んで後ろに振り向かせると、向けられたスレイの両目に宿った殺気が放たれる。

 濃密で身体に絡みつくような濃厚な殺気がスレイから放たれると、ユフィが息を呑んで後ろへとたじろいでしまった。

 死霊山で鍛えられたスレイの殺気は並のものではない。一般人なら泡を吹いてもおかしくない殺気を受けて、冒険者たちは額に大粒の汗を流しながらたじろいだ。


「おっ、おま……お前っ、ここ……こんなところで私を殺したら………どうなるか分かっているのかッ!?」


 腰を抜かした眼鏡の職員がハッと我に返って叫びだすと、振り返り様にスレイが睨みつけた。


「殺す?そんなことするわけないじゃないですか?」

「なっ、なら何をする気だ!?」

「なにって、ただちょっと話をしようって言ってるだけじゃないですか」


 目を細めてたスレイはさらに強い殺気を放ち始めると、眼鏡の職員の息が詰まるように呼吸が苦しくなる。


 ──コツン!


 何かがスレイの後頭部を叩いた。

 注意がそれスレイに放った殺気が解かれると、眼鏡の職員は激しく咳き込みながらゼイゼイと呼吸を繰り返す中、頭を叩かれたスレイは後ろを振り返った。


「そこまでだよ、スレイくん。ちょっとキレすぎだよ」


 杖を持ったユフィが大きく肩を落としてあきれていた。

 その姿を見て冷静さを取り戻したスレイは、恐怖で固まっている人たちを見て殺気を解いた。


「ごめん」

「いいよ。スレイくんがキレなかったら私がキレて魔法撃ってたし」


 なんとも物騒なことを言い出したユフィに、回りの冒険者たちが恐怖から回復し出すと人を掻き分けてある人物がやって来た。


「おい!なんだ今の物騒な殺気は!?誰がやった!?」


 やって来たのは先ほどと同じように杖を付きながら、アレクシスがやってきた。大慌てでやって来たのだろう、少し息の荒いようだ。


「すみません、今のはボクです」

「スレイか……理由を」

「ギルマス!」


 聞こうか、アレクシスがそう言いきる前に、先ほどスレイの殺気で腰を抜かした眼鏡の職員が何とか立ちあがりアレクシスの言葉を遮った。


「そ、そいつは、私を殺そうとしました!即刻、資格剥奪と憲兵に身柄の明け渡し要求します!!」


 足をガクガク震わせ、目の焦点さえもあっていない眼鏡の職員の話を聞いたアレクシスは、真剣な表情でスレイのことを見る。


「スレイなんでこんなことをやった?」


 殺気を放ったのは事実なのでスレイが大人しく謝ろうとしたのだが、眼鏡の職員はそれをよしとせずに自らの保身に走る。


「ギルマス!今私がお話しした通りです!ですから早く──」

「うるせぇ!俺はテメエじゃなくこいつに聞いてんだ、黙ってろ!!」

「ひぃい!?」


 本日二度目の殺気による威圧を受けた眼鏡の職員は、恐怖に身を震わせて女の子のような座り方で力なくへたりこんだ。


「それで理由を聞こうか」

「……その人は、ボクとユフィの書類が偽造したもので、今回の試験も不正を働き受けたと思ったらしいです。何度も誤解を解こうとしたのですが、信じてもらえず、果てには資格剥奪を言い渡されキレてしまいました。罰は受ける所存です」


 ギルドの職員と言っても一般市民に向けてあれだけのことをしでかしたのだ、災厄本当に資格剥奪もあり得る。

 そのときはあまんじてその処分を受ける覚悟がスレイにはあったにだが、アレクシスはスレイから視線を外し、いつまでもへたりこんでいる眼鏡の職員に向き直った。


「おい、立て」

「へっ?」

「立って、いってんだ!さっさとしろやがれッ!!」

「は、はいっ!」


 有無を言わさない殺気のこもった怒号の声に震えながら立ち上がった男に、アレクシスは淡々と話しをする。


「こいつとそこの嬢ちゃんの試験を受領したのは俺だ、なぜお前の判断で受けさせようとしなかった?」

「そ、それは……その紹介状が、偽物で」


 眼鏡の職員がいい切る前にアレクシスがテーブルを叩いて言葉を遮った。


「あの封蝋にははなぁ、ギルマスしか持ってない特殊な印が押されてあった。それの製造を行っているのは国だぞ?つまりなにか、こいつらはそれを盗んだとでも言いたいのか?」

「う、うぅっ……」


 なにも言えなくなったのか、下を向いてうつむき出してしまった眼鏡の職員を、ここにいる冒険者や同僚であるはずのギルド職員が同じような白い目を向けていた。


「そこのお前、こいつをギルドに連れて行って話を聞いとけ」

「はっ、はい!」


 アレクシスが側にいた職員に眼鏡の職員を任せるとその場を去ると、アレクシスもどこかへ行こうとした。


「あの、すみませんでした」

「あ?……あぁ、気にすんな」

「いや、ですが……」


 流石にギルドの職員を脅した時点でペナルティを覚悟していたが、アレクシスはめんどくさそうにしながらも首を横に振って話し出しがた。


「ここにきたばかりでもお前らもあいつの噂くらいしってるだろ?」

「えぇ。豪商の跡取りだとかなんかなんですよね」

「だからギルドも下手に手を出せなかったんだが、今回ばかりはギルドもかばいきれねぇ。あいつを追い出す口実ができたってわけさ」


 悪い笑みを浮かべているアレクシスを引いた目で見ていた二人は、アレクシスに見守られながら受付を済ませる。


「そんじゃあ、頑張れよ。オレはこれから楽しい取り調べだ」


 不吉な笑い声を上げて去っていくアレクシスを見送った二人は、自業自得とは言えこれから取り調べを受ける眼鏡の職員にそっと手を合わせるのであった。


 どうにか受付を済ませたスレイとユフィは、試験の開始まで静かに待っている。

 心做しか、他の冒険者からあからさまに嫌煙されているのは気の所為ではない。


「ホントに良かったのかな」

「気にしないことが一番だよスレイくん」

「でもなぁ……わかった、わかったからそんな目で見ないで」


 そんな目と言うのは、怒っているわけではないのだがあからさまに不機嫌です、と訴えかけてくるような目のことだ。

 この目の意味は、スレイくんは悪くないんだから気にしちゃダメ、と言ったところだろう。

 その目を見ながらスレイはユフィを見ながら


「それはそうと、さっきの職員、逆恨みで襲ってこないよね?」

「スレイくん、それフラグだよ」


 ジと目で睨んでくるユフィにスレイは横を向いている。


 ──なんだか、ユフィにジト目を向けられる慣れてきたかも


 余計なことを考える余裕が出てきたスレイたちの元に、試験の開始を知らせる声が聞こえてきた。

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