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海の町の市場

 シーサーペントの討伐から陸に帰ってきたスレイたちは、始めに向かったのはギルドではなく港の市場だった。


「さぁさぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい!今日あがったばっかの新鮮な魚だよー!」


「今日東方から届いたばかりの珍物だ、これを逃すと二度と手に入らない逸品ばかり!」


「見て見てお嬢さん、この新鮮な魚が今なら銅貨三枚だよー!どうだい、今晩のおかずに?」


 夜が近いた店主たちがこぞって呼び込みを始めている市場には、商品を買いに来た主婦や観光客が集まっている。人の波をかき分けながら、二人は先を進んでいくルードスたちを追っていく。


「あのぉ~ルードスさん。これ、どこに向かってるんですか?」


 どうしてギルドではなく市場に来たのか、その理由を聞いていない。


「ん~?懇意にしてる卸問屋だ。お前さんの持っているシーサーペントの肉を市で出すんだよ」

「市場に売るんですか、獲物を?」

「そうよ。内陸じゃ違うの?」

「こっちじゃ狩った魔物はギルドで買い取りでしたけど……そっか、これだけ大きな市場があればこっちのほうが早いか」


 ギルドで魔物を買い取る際は解体の手間などで金額の査定が変わってくるというし、一度ギルドで買い取った物を市場に卸すというサイクルになっている。

 しかしこの街では冒険者が直接市場に売ることで、ギルドの仲介をなくすので冒険者はその分の差額をそのまま手に入れ、ギルド側は解体人を雇う人件費を抑えることが出来るという具合だ。

 街の特色に合わせたシステムだと思った。


「あの、リリアさん。シーサーペントって美味しいんですか?」

「なに、あんたたちシーサーペント食べたことないの?もったいない」

「私たち、この前まで海のない場所にいたので」


 海に住む魔物が陸地に流れてくるとは少ない、フリードたちもお土産で生肉なんぞを持って帰ってきたことがない。


「そう言えば、前にマッドサーペントっていう蛇食べたんですけど、まずかった記憶しかないんですけど」


 泥臭く血生臭くあんな蛇を好んで食べようとは思わないとスレイが呟くと、それを聞いたリリアたちは信じられないと言った顔をしていた。


「シーサーペントのお肉はそこらのお肉よりも美味しいんですよ?」

「そうよねぇ~、わたしあのお肉とっても好きなのよぉ~」

「食べ応えもあるしね」


 生真面目に説明するマリナと、シーサーペントの味を思い出してうっとりとしているユリーシャ、そして味よりも量と言った具合のリリア、三人の話を聞いていたスレイは自然と喉がゴクリとなった。

 現地の人がこれほどまで美味しいと語るシーサーペントの肉、スレイも食べてみたいと思ってしまった。


「おっと、ここだここ」


 スレイたちが立ち止まるった店の前には、見たこともないほど大きな魚が逆さ吊りで吊るされていた。

 これがなんの魚なのかスレイとユフィにもわからないが、一つだけ言えることがあった。

 この魚は普通の魚ではない。

 魔物だ。

 決定的な事実としては、普通に魚にあんな大きな角が何本も生えているはずがない。そんなことを考えていると、ルードスが店の奥に声をかける。


「おっちゃん、いるかい?」

「オォ、ルードスか。それに嬢ちゃんたちも、いつ見てもべっぴんさんじゃの」


 出てきたのは頭のてっぺんがハゲ散らかしたおっさんは、ユリーシャたちを見ると、嫌らしい手つきをしながらわさわさと動かしていた。


「そんなこと言ってもさわらせないよ?」

「おじさぁ~ん?長生きしたかったらぁ~、セクハラは大概ですよぉ~」

「魔法、撃ちましょうか?」


 リリアは背中に吊っていた大剣の柄を握り、ユリーシャは腰にあるナイフをつかみ、マリナは杖の宝珠を店主のおじさんに向けてる。


「わぁー!ちょっとストップ、ストップ!」

「ルードスさん!?奥さんたち止めて!?」


 明らかに殺気立っている三人を慌てて止めにかかろうとした二人だったが、それよりも早く店主が手をブンブン降って後ろに下がった。


「冗談だ冗談だ!……全く、お前の嫁さんは危なすぎんぞ」

「いつものことだが、人の嫁にセクハラしようとしたおっちゃんの自業自得だ。一回締められろ、俺が許す」


 慣れた会話をしている二人の姿を見ながら、どうやらいつものことらしく安心した。


「おや、そっとの二人は見ない顔じゃな。お前さん、いつの間にこんなデカいガキ拵えた?」

「アホか、まだいねぇよ──こいつら内陸からはこっちに来た奴らでなく、海戦のレクチャーするためにパーティー組んだんだ。お前ら挨拶しろ」


 ルードスに言われて店主に挨拶を交わすと、店主がユフィのことをじっと見つめる。


「あのぉ~、なんですか?」

「いや、まだまだ若いがお前さん、なかなかにいい女じゃねぇか」


 なんだか店主から邪な視線を感じたユフィが小さな悲鳴を上げると、スレイはユフィをの前に入り庇うように間に入った。

 そのままユフィを背でかばいながら魔道銃をホルスターから抜き放ち、その銃口を店主の額に押し付ける。


「おじさん。女好きも良いですが、人の彼女に手を出さないでくださいね?」

「おっ、おぉ………こっちは女より坊主の方がおっかねえな」


 切っ先を向けた瞬間に逃げ出す店主を見て、スレイは魔道銃をホルスターにしまった。

「スレイくん。やりすぎちゃダメだよ?」

「撃ちはしないよ。脅すだけ」


 なんて笑っていると逃げていた店主が台車と人でを連れて戻ってきた。


「そんで、今回は何を売りに来たんじゃルードス」

「おいスレイ、ここにあれをだしてくれ」

「はい」


 スレイは空間収納の中からシーサーペントの死体を台車の上に置くと、その巨大さから台車からはみ出してしまった。


「ほぉシーサーペントか、それもかなりの大物じゃ」

「内臓処理と血抜き、討伐証明の鱗とコアはすでに抜いてある。それ以外は全部売却で構わねぇ」

「ふむそうだな、これだけの大物なら解体の手間賃を取って、金貨三枚と銀貨八枚ってとこか」

「結構いくな」


 店主から金貨と銀貨の入った袋を受け取ったルードスは、そのまま袋をスレイの方に差し出した。


「なんです?」

「なにって、アレを討伐したのお前だろ?ならこれはお前のだ」

「受け取れませんって!そもそもボクたちは同行させてもらった側ですよ」

「そうそう!私たちで金貨一枚が妥当ですよ!」


 スレイの手から袋を奪い取ったユフィは、中から金貨を取り出して残りを全て押し返した。


「なかなか強情だな……その代わり達成報酬はしっかり受け取れよ?」


 渋々といった具合で袋を懐へとしまったルードスは、ここでの用事も終わったのでギルドに行こうと歩き出した。


 ⚔⚔⚔


 シーサーペントを売却を終えたスレイたちは、ギルドに戻り依頼の完了の報告を行った。

 その際の受付は朝にいたあの眼鏡の男性職員ではなく、別の若い女性職員だった。ルードスが代表して達成報告を行い、コアと剥ぎ取った鱗の査定を行ってもらった。


「それではコアと鱗を確認しましたので、報酬をお渡しします」

「ありがとさん。後こいつらが用があるそうでな」

「はい。ご用件はなんでしょうか?」


 ルードスに言われてスレイとユフィが受付の女性に例のことを話す。


「あの私たちDランク試験を受けたいんですけど」

「……失礼ですが、Dランク試験はある程度の評価を得なければいけませんので、なにか推薦状のようなものがなければ」

「これで構いませんか?」


 スレイは懐からデイヴィッドからに推薦状を取り出し差し出すと、女性職員は差し出された推薦状を受けとって確認する。

 その際、中身の確認をするために封を破った女性職員は中身を確認する。


「少々お待ちください、ギルマスに確認を行います。それと身分を確認するためにお二人のギルドカードをお預かりします」

「はい。じゃあこれを」

「はい。お預かりします。それでは確認が取れましたらおよびしますのでギルド内でお待ち下さい」


 二人のギルドカードと推薦の手紙をもった受付の女性は、少し小走りぎみに階段を上がっていってしまった。

 女性職員が戻ってくるまでの間、スレイたちは酒場へと移動して今回の報酬の分配を行うことにした。


「二人とも、これ今回の報酬だ」

「ありがとうございます」


 きっちり六等分された報酬の中からスレイとユフィの分を差し出す。お礼を言いながら受け取った二人は、なんとも嬉しそうな顔をしていた。

 今日一日でも金貨一枚以上の稼ぎがあったのだ、喜ばずにはいられない二人だった。


「うふふっ。試験、受けれそうで良かったわねぇ~」

「あたしたち、今日はもう帰るけど、また何かあったら声かけなよ」

「はい。お世話になりました」


 ユリーシャとリリアにユフィがお礼を言っていると、スレイの方にマリナがやってくる。


「これ、ここらの海域に出る魔物の種類と生息地地域が書かれた地図です、よかったら使ってください」

「いいんですか?」

「えぇ、どこでも買える市販品ですから、気にしないでください」

「ではありがたく」


 ギルドを出ていく四人を見送ったスレイとユフィは、改めてテーブルに座り直してマリナから受け取った地図を広げて見ていた。


「へぇーけっこう詳しくか書かれてるんだな」


 地図の上にはどこにどの魔物が現れるのかが書かれていた。

 市販品と言っていたので、この海を通る船乗りたちが安全に海を越えるためにも、ここまでしっかりと書き込む必要があるんだなと、思った。


「海域を自由に動き回る魔物の情報は流石に書かれてないみたいだね」

「魔物だって生きてるしな、今日のシーサーペントもあの辺りで見かけたからだろうな」


 スレイが手元にもったプレートの映像と、テーブルに広げられた地図を見比べていた。

 プレートに写し出されている映像は、今日の依頼で行った場所をレイヴンの目を使って上空から撮影した映像なのだが、地図に書かれた場所と映像で向かった場所にはシーサーペントの存在はかかれていなかった。


 今回は事前に確認させてもらった依頼書に、シーサーペントの目撃された海域の場所が書かれていたので、特定の討伐依頼では、依頼主側からこう言った場所の目安が送られてくるようだ。


「海域の地図も貰えたし、戦い方も学んだし、後は船だけど必要かな?」

「小型のボートくらいなら、一日あれば作れるね。スレイくんなら」

「ボク任せかよ」

「えぇ~、そのためにルードスさんに色々見せてらってたんでしょ~」

「目ざといなぁ。わかったよ、魔物素材なんかもあるから作れるけどちゃんと手伝ってよ?」

「わかってま~す!」


 調子のいいユフィを横目に二人で制作する船の案を詰めていると、先程の女性職員が二人の下へとやって来た。


「スレイさん、ユフィさん、おまたせしました」

「あっ、さっきの……どうでした?」

「確認したのですが、ギルマスがお二人をお呼びでして」

「えっ、もしかして推薦状になにか不備でもありました?」

「わかりませんが、お二人と話がしたいとのことでして、マスタールームまでご一緒してもらえますでしょうか?」


 わかりましたと答えながら立ち上がった二人は、女性職員の案内でギルドマスターの部屋へと案内される。

 まさかこんなすぐにギルドマスターの部屋に通されるようなことになるとは思わなかった。


 階段を上がり職員フロアへと足を踏み入れた二人は、一番奥の部屋の扉の前にまでやってくる。女性職員が部屋の扉をノックしてから、部屋の主に声をかけた。


「ギルマス、お二人を連れてきました」

「おう、入れ入れ」


 なんだか部屋の中から聞こえてきた声がけっこう若い気がしたユフィは、横にいたスレイのことをみると同じことを思ったのらしく意外そうな顔をしていた。

 そんな顔のまま二人が中にはいると、年の頃は三十代半ばか、四十手前といった感じの比較的若い男が座っていた。


「急に呼び立てて済まないな」


 声をかけながら立ち上がった男はスレイたちの方へと歩いてくる。

 その時、男の歩き方に違和感を感じたスレイだったが、あまり人様のことに口を出すのも箭日だと思い口を閉じた。

 男がスレイたちの前にやってくるとそっと手を差し出し口を開いた。


「オレはこの町のギルマス、アレクシスだ。気軽にアレクとでも呼んでくれ」

「スレイです、どうかよろしく」

「ユフィです。よろしくお願いします」


 スレイとユフィは順に名乗りながら握手を交わすと、ギルドマスター アレクシスは交互に二人の顔をまるで見定めるように見ていた。


「えっと……なにか、ありました?」


 耐えられなくなったユフィがアレクシスを見ながら訊ねる。


「いや、すまんな。お前らがあいつらによく似てたもんで、ついな」


 アレクシスの言葉にようやくここに呼ばれた理由を察した二人。


「やはり、父と母のお知り合いですか」

「おう、あいつらに最後にあったのはお前らが腹ん中にいるときだったな」


 懐かしむように目を細めたアレクシスは懐かしむように言葉を紡いだ。


「しっかし、じいさんの手紙を読んだときにゃ信じられんかったが、あいつらの腹ん中にいたガキがこんなでっかくなってるとは時間の流れを感じるな」


 どう答えていいか考えていたスレイとユフィだったが、二人が声を出すよりも先にアレクシスが口を開いた。


「いつまでも立ってないで座れ座れ」


 促されるようにソファに腰を下ろしたスレイとユフィの前に、アレクシスは一枚の手紙を置いた。

 それはスレイがデイヴィッドに書いてもらった推薦状のようであった。


「じいさんからの手紙は読んだが、困ったことがあってだな」

「「?」」


 アレクシスの話を要約して説明すると、以下の通りとなる。


 曰く、今年は海の魔物が異常に凶暴化し、さらには異常に繁殖しているらしく他の大陸からの連絡船や、漁船が通れる安全なルートに弱い魔物が出現することが起きているらしい、なので力をつけた魔物を一掃する大規模な狩りが計画されており、ランクアップ試験を行っている場合ではないらしい。


「他の国の冒険者に頼んでもいいんだが、呼ぶのに金がかかる上に大変でな」


 そんな理由があるのなら次の試験まで待つか、そう二人で考えていたが、アレクシスはある提案を二人にした。

 その提案を聞いて、スレイもユフィもその討伐作戦に参加することにしたのだった。


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