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初めての海戦

いよいよ海での戦いに入ります。

 ナイトレシア王国にたどり着いた翌日、いつもより少し遅い時間に目を覚ましたスレイは昨夜の飲み過ぎで痛む頭を押さえながらベッドから抜け出した。


「うぅ~、頭いてぇ……完全に二日酔いだよ───キュリア」


 二日酔いは体内に残ったアルコールの毒素が悪さをしている、いわば状態異常の状態なのだ。つまりは解毒魔法で打ち消すことが出来るのだ。


「これでよし……とりあえず、しばらく禁酒しょ」


 状態回復魔法で酒が抜けスッキリしたスレイは、隣のベッドでうなされているユフィをそのままにして、先に着替えを済ませてからたらいに水を張った。

 顔を洗って歯を磨き寝癖を整えて無造作に伸ばされた髪を束ね一通りの身支度を終えたスレイは、たらいの水を消して新しい水を用意してからユフィを起こした。


「おぉ~い、ユフィ。起きて、朝だよ~」

「うぅ~ん………いやぁ~、眠いぃ~、気持ち悪いぃ~、頭痛ぁ~い」

「そりゃ、昨日エールを十杯も飲んだら二日酔いにもなるっての」


 二日酔いで顔色が真っ青なユフィ、こんなところで吐かれてもたまったものではないのでスレイは状態回復魔法をかけると、今までの顔色が嘘のように良くなった。

 気分が良くなったユフィが勢いよく起き上がると、スレイと目があった。


「おはようユフィ。気分はどう?」

「おはようスレイくん。もうバッチリ!………ただ、しばらくお酒は良いかもって気分」

「それは同感。とりあえず着替えて顔洗ったら下に降りてきて、適当に朝食頼んでおくから」

「りょーかいです!」


 ビシッと敬礼をしたユフィに笑いかけスレイは部屋を出ていった。


 宿屋で朝食を食べたスレイとユフィは、食後のお茶を飲みながら本日の予定を立てていく。


「ランク試験まで時間がないけど、昨日の職員が居たら私たち試験受けられないよ?」

「ギルド職員だって二十四時間出ずっぱりってわけじゃないだろうし、依頼を受けて戻ってきてもいるようなら夜にでも改めて出直そう」

「やっぱり、それしかないかなぁ~」


 面倒だなっとユフィが呟いているのを聞いて、同感の意を示しめしたスレイは残っていたお茶を飲み干すと、懐に忍ばしていた財布から二人分の料金を置いた。


「さて、部屋戻って装備を確認したらギルド行こうか」

「うん。ごちそうさまでしたぁ~!」


 ユフィが女将に声を掛けて立ち上がると、スレイもそれに続いて席を立って部屋へと戻っていく。


 部屋に戻ったスレイとユフィは自分のベッドに手持ちの荷物を広げてみる。


「やっぱり、ポーション類が残り少ないな」

「ミノタウロスとの戦いで大放出しちゃったし、出立まで時間なかったからねぇ~」


 二人の手持ちのポーションは出立までの短い時間の間で用意できたのは、粗悪品とまではいかないもののあまり効果が高いものでは無い。

 これでもいい物を選んだのだが、いかんせん自分で作るほうが品質がいいので文句は言えない。加えて、現状スレイたちの問題はポーションだけではなかった。


「ポーションもそうだけど、ボクの剣も新しくし用意しないとな」


 緋色の剣を失ったスレイが代用品として買い求めた剣はここに来るまでも間、少なくもない戦いを経験して刀身が限界を迎えようとしていた。

 理由は単にスレイのミスだった。強化を施したところで鉄製の剣では到底耐えきれない力で剣を振るい、やむにやまれぬ理由から業火の炎を纏ったせいで刀身にガタが来た。


「スレイくんの剣もだけど、私の杖も宝珠がもうそろそろ限界かも」

「えっ、もう?村を出る前に新しいのにしてたよね?」

「そうなんだけど、ミノタウロス戦でむちゃしちゃったから」


 魔法使いの使う杖の宝珠は基本的には消耗品である。

 使い続ければ限界を迎えて宝珠は割れる。それ以外にも宝珠を作る過程で使用する魔物のコア、それを超える魔力量で使用すれば寿命を縮めてしまう。


「たしか今の宝珠のコアってグレイウルフのコアだっけ?」

「うん。手元にあったコアの中で一番魔力量が多かったんだけどね」

「やっぱりボクの持ってるコア使えばよかったじゃん」

「ダメダメ。アレに見合う魔石がないんだもん」

「ボクの剣よりも先に、ユフィの杖をオーダーメイドしたほうがいいかもね」


 杖のオーダーメイドは金がかかるが、それ故に一生使い続けられるという。その理由は宝珠に使われるコアが高ランクのものだからだ。

 ダンジョンのコア同様、魔物のコアも魔力を生成蓄える事が出来き、杖の宝珠もその性質を利用している。

 ちなみに前にクレイアルラに聞いた話なのだが、今使っている杖は五十年前に作り今まで使い続けているそうだ。

 冒険者を続けるならいつかはと言っていたが、いい機会なのでどうだろうかと提案するとユフィがかなり渋い顔をしていた。


「オーダーメイドかぁ~、私そんなお金ないよ~」

「今まで狩ってきた魔物のコアを売れば?」

「でも、前に先生に聞いたけど最低ラインでも白金貨十枚はするって」

「げっ、そんなにするの!?」


 用意できるかと聞かれればギリギリ用意出来ない額ではないが、手持ちの素材のほとんどを売却すればどうにかなると言った具合だった。

 ただしそれは最低ラインのはなしであり、それ以上ともなると少し厳しい。


「まぁ、作る作らないは置いといてコアと魔石の値段って言うし、コアを持ち込めばかなり安く済かもね」

「だとしても杖自体も魔物の素材を使用するなら、かなり値が張るだろうな」

「結局はお金だよねぇ~」


 それなりに稼いでいるとは言え、二人共まだまだ新人で稼ぎも少ない。

 結局はランク上げてもっと稼がないといけないのだ。


「確認終わったし、ギルド行こうか」

「そうだね~」


 朝からお金の話をして気落ちした二人は、広げた持ち物を片付けてギルドに向かうのであった。


 ⚔⚔⚔


 ギルドにやってきた二人は、昨日の職員が受付にいるのを確認してから当初の目的通り依頼のボードを眺めていた。


「当たり前だけど、討伐依頼は海生の魔物ばかりだな」


 依頼が張り出されているボードを見ながらスレイが小さく呟いた。

 朝のピークが過ぎているため、依頼はほとんど残っていないボードには、常設の依頼の他には初心者用のお使い系の依頼か、高ランクの討伐依頼しか残っていなかった。


「えぇっと、サファギンにロッククラブ、あっ!こっちにはクラーケンの討伐依頼なんてのもあるよ」

「あったところボクらじゃ受けられないでしょ。他には………シーサーペントの討伐に、レッドシャークってこんなのどうやって探すんだろ」


 海の中にいる魔物をどう倒せば良いのかと思う一方で、このまちの冒険者はどのような方法で魔物を探して討伐しているのでだろうか、そんな疑問が頭に浮かんだ。

 まさか潜って討伐するわけは無いだろうと思った。


「海の中で活動できる魔法、なんて無いしホントどうするんだろう」

「あっ、船の上から竿で釣り上げる!とかだったりして」

「いやいや、下手すれば船が沈むだろそれ」



 なんてことを言って二人で静かに笑っていると、誰かが二人へと声をかけた。


「やぁ、君たち見かけない顔だね」


 声をかけられた二人が揃って振り向くと、二人の背後に左目に眼帯をした長髪の青年が立っていた。

 年は二十代後半くらいの青年の姿を見ながら二人が警戒する。

 以前にこうした場面でひどい目にあったことがあるせいで二人が身構えていると、青年は少し困った様子を取りながらも話を続けた。


「君たち、もしかして新人かい?」

「いいえ、昨日この町に来たばかりですがこれでもEランクの冒険者です」

「それはすまないな。どうも装備がアレだったもので」


 腰にある剣を見ながらそう呟く青年にスレイは正直に答える。


「今まで使ってたのが折れて繋ぎで持ってるだけですよ」

「そうか、どこから来たんだ」

「……デイテルシアです」


 これくらいながら話しても大丈夫だろうとユフィが答えると、青年は意外にも反応を示した。


「ほぉ~内陸の国か、ならここの魔物は珍しいだろうな」

「はい。あの……ここの魔物ってどうやって倒してるんですか?」

「それは船に乗って倒すしかないんだが……君たちは船なんか持ってないな」


 詳しく聞いてみるとこの国の冒険者はパーティーごとに一隻の船を持ち、それを使って魔物を討伐しているそうだ。

 この国にそう長居するつもりはないが、手持ちの素材やら何やらを使えば船を作れるので、先にそれを用意する必要がありそうだった。


「仕方ないし、今回は諦めるか」

「船はないしそうしよっか」


 せっかくなので討伐依頼をこなしてみたかったが、今日のところはお使い系の依頼をこなそうと思い手頃な依頼を探そうとすると、青年から待ったの声がかかった。


「なぁ君たち、これから依頼に出る予定なんだが、よければ一緒に行かないか?」


 青年からの提案を受けた二人は揃って複雑そうな顔をした。

 前にそういわれて襲われかけたことがあるので、ついさっき顔を会わせて名前さえも知らない相手と一緒に依頼に出掛けることは出来ない。

 二人が警戒していると、青年もしまったという顔をした。


「あぁ~、そうだよな。警戒してるのは仕方ないな」

「すみません」

「気にするな、俺が君たちの立場でも同じ反応をするだろうからな」


 きっと親切で言ってくれたことだろうが、いきなり信用できるかと言われても無理だ。

 この青年には悪いが断ろうとしたそのときだった。


「ルードス、何してんのよー!」

「あなたぁ~、遅いわよぉ~」

「もしかして依頼とられちゃいました?」


 なにやら若い女性たちが誰かを呼んでいると、その声に青年が反応した。


「あぁ、お前たち、こっちだ。ちょっときてくれ」


 目の前の青年が女性たちを呼び寄せると、それぞれタイプの違う美女が三人やってきた。

 始めはこの青年のパーティーメンバーかと思ったが、なんだか違うとすぐに思った。なぜならやって来た三人の薬指に同じ意匠の指輪がはめられているのに気がついたからだ。

 これはもしやそういうことなのかと思っていると、続く青年の言葉でその疑問は確信へと変わった。


「紹介するよ。俺の()()()()


 眼帯の青年が彼女たちをそう紹介するのを聞いてスレイとユフィは驚いた。


 コルクボードの前で固まっているスレイとユフィだったが、いち早く硬直から回復したユフィが彼女たちに名乗った。


「は、初めまして……ユフィです」

「スレイです……よろしくお願いします」


 取り敢えずといった具合に名前を告げるスレイとユフィ、その前に眼帯の青年改めルードスの嫁のうち栗色の髪の女性が二人の前にたった。


「あらあらあらぁ~、かわいいわぁ~!」

「ひやっ!?」

「ゆ、ユフィ!?」


 突然栗色の髪の女性がユフィを抱きしめたかと思うと、今度はスレイの方に狙いをつけた。


「あらあら、こっちの子もかわいいわねぇ~」

「むがっ!?」

「あっ!スレイくん!?」


 栗色の髪の女性がユフィをその豊満な胸の中に押し潰し、流れるようにスレイも抱き寄せた。

 抵抗すればよかったが、下手に振り払って怪我をさせるわけにもいかず二人がなすがままに撫でられていると、突然怒鳴り声が響き渡った。


「コラ!ユリーシャ!!いきなりそんなことすんじゃないわよッ!」


 ゴンッ!ッと鈍い音が鳴り響くと同時に二人が開放される。

 何が起こったのかと思っていると、拳を握りしめた赤毛の女性が栗色の髪──状況から察するにユリーシャ──をつかまえて説教をしていた。


「あんたは!気に入った子を見つけると誰彼構わず抱きつくクセ、直しなってって言ってるでしょ!」

「痛ったぁ~い、もうリリアったらぁ~酷いわぁ~」

「私もリリアさんに同感ですね」

「マリナも酷いわぁ~」


 赤毛の女性リリアが栗色の髪の女性ユリーシャの頭を叩いたことに文句を言うが、眼鏡をかけた銀髪の女性マリナもリリアの言い分に同感している。


 もはや何が起きているのか理解が追いつかないスレイだったが、ふと隣のユフィから嫌な気配が漂ってきた。


「ねぇスレイくん、あの人にあんなことされて変な気おこしてないよね?」

「ユフィさん。ボクも男だけど、人妻は対象外だ」


 そう断言したスレイだが、ユフィはそれを信じられないらしくジト目を向けていた。

 取り敢えずこの状況が収まるのを待とうとすると、眼帯の青年ルードスが申し訳無さそうに声をかけてきた。


「うちのがすまんな。びっくりしただろ?」

「えぇまぁ……でも悪い人たちではなさそうですね」

「そう言ってもらえて助かるよ」


 言い争いをしている三人を横目に、本当に悪い人たちではなさそうだと思ったスレイは、ユフィに先程の依頼について問いかけた。


「なぁユフィ、さっきの話だけど」

「うん。大丈夫そうだし受けてもいいかもね」


 どうやらユフィも同じことを思っていたようで、先程の提案を受けることにしたのだった。


 ⚔⚔⚔


 あの後、三人の喧嘩が終わると眼帯の青年ルードスがスレイとユフィをパーティーに加える旨を伝えた。

 栗色の髪をしたユリーシャは喜んだが、赤毛の女性リリアと銀髪の女性マリナは渋い顔をした。事情を話したところ快く、とまではいかないまでも受け入れてくれた。


 受付を済ませて船に乗り込んだスレイとユフィは、目的地にたどり着くまでに依頼の内容を確認していた。

 依頼の内容はBランクのシーサーペントの討伐で、この時は初めて知ったがルードスたち四人ともBランク冒険者だそうだ。


「今更ですけど、ボクたちEランクですけど連れてきても良かったんですか?」

「家の旦那が責任持つから良いわ。それにあんたら強いわよね」


 強いと言われて少し照れるスレイとユフィだったが、あまり天狗にならないようにと気をつける。

 そんな事を考えていると、船を操縦していたルードスの声が響いた。


「お前ら、そろそろシーサーペントのいる海域につく。いきなり襲われないとは思うが警戒を怠るなよ」


 ルードスの声を聞いたスレイとユフィは、剣を杖を握り締めているとリリアの声が二人に届く。


「二人ともぉ~、海での戦いは初めてなんだから、後ろに下がってていいわよぉ~?」


 外見には似合わない鉄製のロングボウを握ったユリーシャに、そういわれたそろって二人は首を横に降った。


「連れてきてもらって足手まといになる訳にはいけません」

「私たちも冒険者ですから、精一杯がんばりますよ!」


 スレイとユフィも一緒に戦うことを伝えると、今度は身の丈ほどの長さの大剣をもったリリアとこちらは普通の杖を持ったマリナが並んだ。


「いい心がけだけど、その剣じゃシーサーペントは倒せないわよ」

「ユフィさんの杖も限界が近いようですし、無理はなさらないように」


 心配してくれているのか、二人がそんな言葉をかけてきた。


「おしゃべりはそれくらいにしな、餌も撒いたからもうじきやってくるぞ」


 そういいながらルードスは長槍を肩に担ぐと、今までの険呑な雰囲気から一転、張り積めた空気が流れる。

 どこから来てもいいように、スレイたちは周りを一望出来るように船の上で広がっていると、


「こっちから来るみたいよ!」


 リリアの声が聞こえると同時に、ザパァーンと大きな音と波が船を揺らした。


「おぉ、珍しく当たりを引いたな。しかもかなりの大物だぜ!」


 海の中から現れたのは巨大な竜、ではなく巨大な蛇なのだが、みる者によっては竜と捉えられても不思議ではないほどの巨体を誇っていた。


「わぁ、大っきな蛇」

「前に倒したマッドサーペント以上だな」


 大きさに驚いているスレイの肩が叩かれた。誰だと思って横を見ると、槍を担いだルードスが側に立っていた。


「お前は見てるか?」

「まさか、一緒に戦いますよ」

「なら行くぞ!あので怪物を海に潜らせるなよ!」


 ルードスが指示を出すと同時に船の上に取り付けられた大砲から銛が放たれ、シーサーペントを海上に縫い付けた。


 ⚔⚔⚔


 海生の魔物との戦いのセオリーは船からの攻撃だった。

 撒き餌を使って海上に魔物をお引きだし長槍やロングボウ、魔法などでの遠距離からの攻撃によって魔物を倒す。海の中から船に攻撃をされるのではないかとも思ったがどうやら船底にシールド付与されているらしい。


「──ウイングカッター!」

「──エアロブラスト!」

「──ストーンバレット!」


 上からマリナ、ユフィ、スレイの順に魔法を放つがシーサーペントの鱗が固すぎて魔法が効きづらくたいしたダメージにはなっていない。


「おぉ、硬ったいな」


 これならどうだとスレイが魔道銃を撃ったが、弾丸の鱗に阻まれでしまった。

 弾丸も矢も魔法も、遠距離からの攻撃は全く意味をなさない。


「あらあら、効かないわねぇ」

「文句言ってないで撃ち続けろ!」


 ルードスがユリーシャに指示を飛ばす。

 シーサーペントの攻撃を受けて船の船体が揺れ、足場が不安定になり狙いが定まらない。


「手強いわね。マリナ、あたしが前に出るわ!足場を作って」

「わかりました!」


 リリアの言葉を聞いてマリナが空中に足場として無数のシールドを展開する。


「行くわよ、ルードス!」

「おう!」


 船から近場のシールドに乗り移ったルードスとリリアは、シールドの上飛び写りながらシーサーペントの巨体に槍を突き立て、大剣で肉体を切りつける。

 明確なダメージを受けてシーサーペントが暴れると、銛を通して繋がっている船体が激しく揺れる。


「うわっ、とっと………危なっ、落ちるかと思った」


 船が揺れた衝撃で船から落ちかけたスレイは、済まないと思いつつも剣を船の床に突き刺して踏ん張る。


「スレイくん!おちてない!?」

「平気!」


 危なかったのでスレイは空間収納から取り出した黒鎖でユフィの身体を船に絡めて落ちないようにした。


「ありがとう!」

「にしても、シールドを足場にして戦うのか」

「普通は思い付かない戦い方だよね」


 シールドを足場にして戦う二人の動きを見ていたユフィが、チラッとスレイの方を見る。自分もあそこで戦いたくてうずうずしている。


「スレイくんも行ってきたら?」

「うぅ~ん……いいのかな?」

「構いませんよ。足場を増やしますので少しお待ちを」

「必要ありません、自力で飛べますので」


 フライを唱えたスレイがゆっくりと浮かび上がると、ユフィの方に声を掛ける。


「行ってくる。援護よろしく」

「任せて」


 業火を纏った剣を握りしめたスレイは間近で戦う二人の合間を抜け、シーサーペントへと接近するとすれ違いざまにその巨体を切り裂いた。


『ピシャァアアアアアーーーーーーー!?』


 身体を斬られると焼かれる、今まで体験したことのない痛みを受けてシーサーペントは雄叫びをあげながら暴れる。


「ユフィ!あいつの動きを止めて!」

「りょーかい!───アイス・チェーン!」


 いつの間にか配備されたアタック・シェルから展開された無数の魔法陣、そこから放たれた氷の鎖がシーサーペントの動きを封じる。

 氷の鎖によってシーサーペントの身体が凍りつき、動きを止めると同時に足場を蹴ったルードスの槍とリリアの大剣がシーサーペントの身体を斬りさいた。


「ははっ、良いねぇ?お前ら!」

「あんたら!このままどんどん攻めなッ!」


 シーサーペントを取り囲むように展開された足場を次々と移動するルードスとリリアは、移動と同時にその巨体を刺し穿ち斬りつける。

 二人の連携を支えるようにマリナがシールドを展開し、移動した瞬間を狙って放たれるユリーシャも矢がシーサーペントを苦しめる。


「おぉ、良い連携してるねぇ~」

「感心してないでボクたちも続くぞ!」

「わかって───ッ!スレイくん!前ッ!」


 ユフィの叫び声が響くとスレイがシーサーペントの方へと視線を向ける。

 ユフィの氷の拘束を破ったシーサーペントが大きく口を開くと、巨大な魔法陣が展開されると同時に膨大な水のブレスが放たれた。


「ッ!まずい!───シールド・ヘキサッ!!」

「───セイクリット・シールドッ!」


 シーサーペントの口から放たれる水のブレスから船を守るため、スレイとユフィが自身の使える強固なシールドを同時に展開する。

 ブレスを防いだスレイはすぐに当たりを確認する。


「ルードスさんたちは!?」

「平気です!ブレスが放たれる寸前に私のシールドで避難させました!」


 船上からマリナの声がスレイに投げかけられ当たりをよく見ると、確かにシーサーペントから離れた場所に球体状のシールドに収まった二人の姿があった。


「よかった」


 直撃を受けて死んだのではないかと思っていたユフィが安堵の声を漏らす中、ユリーシャが良くないと叫んだ。


「見てよぉ~!今ので打ち込んでた銛に結んでた縄が切れちゃったわ~!」

「ッ!?それって」


 不味いんじゃないか、そう思ったユフィの考えどおりザバンッと船のすぐ近くで水しぶきが上がり、シーサーペントが直ぐ目の前に現れると、先程の水のブレスを放つべく魔法陣が展開される。


「ッ───シールドッ!」

「間に合って───セイクリット・シールド」


 水のブレスが放たれると同時にユフィとマリアのシールドが展開される。だが、真上から近距離で放たれたブレスを受け止め続けられるのは難しい。


「ぅぐぐッ、そう……長くは、持たない……かも……」

「がん、ばって……くっ、くださ……い」

「ッ!これじゃあ撃てないわ!」


 必死にシールドを維持し続ける二人のそばでユリーシャが弓を構えるも、ブレスは途切れることなく放たれ続けている。

 ルードスとリリアも球体に閉じ込められたまま動けない、このままでは沈められると誰もが思ったその時だった。


「やらせるかッ!」


 業火を纏った剣を大きく引き絞ったスレイは、、風魔法で加速しながら剣を勢いよく突き出すとシーサーペントの鱗を貫き突き刺さった。


『ギシャアアァァアアアアーーーーーッ!?』


 突き刺されたと同時に体内を焼かれたシーサーペントが暴れながらブレスを放つと、スレイは剣を手放して船の前へと移動した。


「ユフィ!そのままシールド維持しててッ!」

「スレイくん!?」

「一か八かだっ!」


 空いた右手を胸のホルスターに伸ばし、魔道銃アルニラムを抜き放った。

 左右に握る魔道銃の銃口をシーサーペントに向けると同時に、二つの魔道銃の銃口に巨大な魔法陣が展開される。


「撃ち抜け──インフェルノ・スピアッ!」


 アルナイルとアルニラムのトリガーが引かれると、魔法陣から通常の倍のサイズの業火の槍が現れ、シーサーペントの首だか胴体だかを焼きえぐっていった。


『シャァアアアーーーーーーーーッ!?』


 致命傷を受けたシーサーペントが最後の断末魔を上げながら、空中へと最後のブレスを放ちながらその巨大な亡骸がゆっくりと倒れ、巻き上げられた水しぶきが雨のように降り注ぐのだった。


 ⚔⚔⚔


 帰りの船の中、スレイとユフィはユリーシャたちから質問を受けていた。


「ねぇねぇねぇ、さっきのあの魔法、どうやったのぉ~?」

「ホントです!普通はあんな場所に魔方陣は展開できるはずがありません!」

「アレはですね──」

「あなた強いわね!帰ったらあたしと手合わせしましょうよ!」

「遠慮します」


 ユリーシャたちの相手はユフィに任せてスレイは操舵室を見せてもらっていた。

 船を買う金は無いが、作れるだけの資材はあるので帰ったら作るつもりでいると、ルードスがスレイに声をかけてきた。


「ところで、お前たちはどうしてこの町に来たんだ?」

「なんです、急に?」

「そういやぁ聞いてなかったからな。いいたくない事情なら言わなくてもいいけど」


 後ろ暗い理由があるわけでもないのでここに来た理由について説明し、ついでに昨日のギルドで合ったことも話しておいた。


「なるほどな、Dランク試験を受けるためにこの国に来たのか」

「はい。それでも、受付拒否されまして途方に暮れてる始末です」

「厄介な奴に頼んじまったな」

「あの人、そんなに有名なんですか?」

「あぁ。あの職員、豪商の跡取りらしくてね。ギルドも下手に追い出せずに冒険者とも関わらせないことにしてたんだ」


 そう言う割には今日も昨日も受付にいたようなと思いながらスレイは話を聞いている。


「お前たちがギルドにいた時間は特段、冒険者の少ない時間だっただろ?」

「あぁ、なるほど……それで」


 運が悪かったということだろう、自分を納得させるように心のなかで呟いたスレイは大きく息を吐いた。


「悪いな力になってやりたいがギルドにゃ逆らえん」


 冒険者がギルドに逆らってもろくなことがないのはスレイもよくわかっている。あの職員の性格上、冒険者資格の剥奪などもあり得そうなので、スレイも下手なことは言えない。


「心遣いはありがたいですが、ボクたちの都合ですのでなんとかします」

「そうか、すまんな」


 ルードスの謝罪を聞きながらスレイは小さく頭を振った。

 近づいてくる陸地を見てスレイはどうにか事が上手く進みますように、そう祈るしか無かった。

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