全てが終わってから
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変異個体のミノタウロスを討伐してからのことを簡潔に話すことにする。
ミノタウロス討伐した二人は傷ついた身体を癒したあと、出血のせいかふらつく足取りになりながらもどうにか元の部屋へと戻りユフィたちと合流した。
部屋に戻ってきたのはスレイたちが最初だったようで、未だにフリードたちの姿はなかった。
シールドの中から出迎えたユフィたちは、二人が無事に帰ってきたことを喜び笑みをこぼすのであった。
フリードとジュリアが戻ってくる前にクロガネたちはここ場を去ることになった。
元々三人はこのダンジョンに不法侵入をしたようなもの、二人に見つかれば確実に捕まるからだ。それをよく理解しているクロガネたちは、ゲートで何処かへと消えていった。
スレイもユフィも限界だったため追うことはせず三人が消えるのを見送ると、クロガネがゲートを潜る寸前スレイにこう言い残した。
『次こそテメェの首を取る。それまでに、せいぜい新しい剣を用意して待ってろ』
二度目の再戦を取り付けたクロガネはスレイの答えを聞く前にゲートをくぐっていく。残されたスレイは、聞こえないはずの相手にこう答えるのであった。
『次は、きっちりお前を倒すよ』
クロガネの宣戦布告に対してスレイもまた決意を新たに、戦う意志を高めていくのであった。
⚔⚔⚔
クロガネたちが立ち去ったあと、未だ意識の戻らないヴィヴィアナたちをユフィに任せスレイはフリードとジュリアにコンタクトを取っていた。
スレイとユフィが徹夜で仕上げた簡易通信機を使い、遠くへと飛ばされてしまった二人に連絡を取ってみると、二人共特に大きな怪我も無いことがわかった。
『ずっと転移されてくる魔物を一人で相手してたから、魔力がもう空っぽよ。魔力がある程度回復したら戻るわ』
『俺の方は自分がどこにいるかわからねぇから、マッピングしながら戻っから合流まで時間かかりそうだな』
プレートから映し出されたフリードとジュリアの姿を見ながら話を聞いていたスレイは、やはりそうだったのかと納得した。
ミノタウロスとの戦闘中、クロガネが言っていたミノタウロスが転移魔法を使用しなかった件はスレイの予想通り、フリードとジュリアの足止めを行っていたからに他ならなかった。
あのミノタウロスはスレイとクロガネを相手取りながら、あの二人のもとにずっとダンジョン内の魔物を送り続けていた。そんな頭のおかしなことをやっていたとは、本当に規格外な魔物だとスレイが呆れていた。
『おいスレイ。どうかしたのか?』
「うんん。なんでもない。それより父さん、今さっきそっちにレイヴンを向かわせたからそいつの案内に従って戻ってきてよ」
『おっ、マジか。助かるぜスレイ』
「母さんは平気そうなの?」
『えぇ。たぶん、十分か………二十分くらいで戻れると思うわ』
「わかった。戻って来るまでこっちは任せて、ゆっくり休んで」
スレイの言葉を聞いたジュリアが小さく笑みをこぼした。
『立派になったわね』
「えっ」
『しばらくしたら戻るわ。じゃあね』
ジュリアから一方的に通信が切られると残されたフリードの顔を見ながらスレイは問いかけた。
「なんだったの、今の?」
『さみしいんだろ。お前の成長が……ジュリアさんほどじゃないけど、俺だって寂しいんだぜ』
「えぇ~どこが?」
少し崩したスレイの言葉に対してフリードは真っ直ぐと、いつもよりも真面目な顔で答えた。
『俺とジュリアさんにとっては、お前はまだ子供だった。それがいつの間にかあんな魔物を討伐するまででっかくなってたんだ。淋しくもなるって』
「それは……ボク一人じゃないよ」
『分かってる。でもな、お前は強くなったよ。ホント、親の贔屓目抜きにしてもお前は強くなったよ』
こんなこと初めて言われたなと思いながら少し照れくさそうに頬を染めるスレイを見て、フリードが笑いながら話を変えた。
『それはそうと、スレイ。このプレートってやつ、便利だな。魔法が使えない俺でも離れたお前と話せるなんてな』
「それが目的で作ったからね。今はこれが限界だけどゆくゆくはもっとすごいことも出来るようになるよ」
『いいね。もし売り出すんなら言えよ。買ってやからさ』
「父さん。ボクもユフィもこれで金儲けをするつもりはないよ」
プレート、通信機の販売はいらぬ争いを産みかねない。通信技術などがないこの世界で、遠くの人とのやりとりは手紙か魔法使いならコールでしか行えない。
仮にこれが戦場ならば、刻一刻と変わる戦場を伝令が伝えるのが常、しかしそれがリアルタイムで伝わるとどうだろう。
そうなれば戦場の風景は一転する。
ありえないことだが、もしもプレートを売り出しそれに目をつけたどこかの国あるいは大貴族などに技術を独占するために抹殺、なんてことになったら目も当てられない。
「どこかの国が似たようなものを出したら売り出すかもしれないけど、それまでは身内のみに使うよ」
『うぅ~む、そうか……いやそうだな。そうしておけ』
スレイの考えをくんだフリードがそう答えると、映像の外からレイヴンの鳴き声が聞こえてきたのでフリードはこちらに戻って来るそうだ。
気を付けて、そう言って通信を切ったスレイはユフィの方に向かった。
「ユフィ、そっちどう?」
「あっ、うん。みんなもうすぐ目が覚めると思うよ。それよりも、おばさんたちはどうだったの?」
「父さんはレイヴンが連れて来る。母さんは魔力が回復次第戻るって」
ふぅっと息を吐いたスレイは、ユフィの隣に腰を下ろした。
「あぁ~疲れた〜」
「ふふふっ、お互いボロボロだね」
「よく生きてたよ、ホント」
身体はボロボロ、魔力も闘気も底をつき気を抜けば意識が遠のきそうな二人は肩を寄せ合うと、お互いが意識を失わないため他愛のない会話を続ける。
帰ったら何をしよう、ゆっくり休みたい、そんな他愛ない会話をフリードとジュリアが戻って来るまで続けるのだった。
⚔⚔⚔
転移で飛ばされた二人が戻ってきてすぐ、スレイとユフィは意識を失った。
張っていた緊張の糸が切れ意識を手放した二人が目を覚ましたのは、それから一時間ほど経過してからだった。
「おっ、目が覚めたか」
「父さん……そうか、ボク気を失ってたのか」
二人を出迎えたところまでは覚えているが、それ以降の記憶が抜け落ちているので総判断したスレイは、辺りを見回すとジュリアがヴィヴィアナたちの怪我の具合を確認していた。
「みんな、目を覚ましたんだ」
「あぁ。お前たちが気を失って少ししてな」
寝起きのせいかボンヤリとする頭で辺りを見回したスレイは、隣にいたはずのユフィの姿がないので尋ねる。
「ユフィちゃんなら、目を覚ましてすぐに鉱石採取だってどこか行っちまったよ」
「なにそれ、ボクも行きたい」
起き上がり錬金術のグローブを手にはめたスレイが採取に向かおうとすると、フリードがスレイのジャケットの襟を掴んで止めた。
「待て待て、お前はさっき十分すぎるほど採ってただろう」
「あぁ言うのはいくらあっても足りないんだよ。買うのもタダじゃないんだ、埋められる前に採り切るぜ!」
「決め台詞っぽく言ってもダメだ。どうせまだ二三日は居るんだ、その間に採取しろよ」
ミノタウロスを討伐し仕事も終わったのにまだこの街に居るのかと尋ねると、フリードは当たり前だと返した。
「俺たちの仕事はダンジョンを埋めるまでだ。明日、もう一度入って調査してそれから完全に埋めるからな」
「へぇ~、そうなんだ。じゃあ、とりあえずその前に少しだけ」
「だからダメだっての」
懲りずにまたもや採取に向かおうとするとスレイをフリードが止めた。
「お前、先に出すもの出してからにしろ」
「出すもの?……あぁ、これのこと?」
スレイは懐から小さなガラス瓶を取り出した。
ガラス瓶の中には小石程度の大きさになったミノタウロスのコアが収まっている。
「ボクらが討伐したミノタウロスのコア、倒すために欠片にしたけど回収できる分は回収してきたよ」
「助かるが、もう少し大きく斬れなかったのか?」
「さっき説明した通り、半端に破壊すると分裂して厄介だったんだ。活動できないほど小さくするにはこれくらいにしなきゃならなかったんだ」
回収したコアの欠片を収めた小瓶は六個、それを全てフリードに託したスレイはようやく解放されたかと思ったところでユフィが戻ってきた。
短時間でかなりの量が確保できたのか、ホクホク顔でやって来たユフィが自慢してきたり、ジュリアの治療を受け終わったヴィヴィアナたちがお礼を言いにきたりと、結局スレイは採集に行く暇がもらえなかった。
「よし、帰るぞ」
フリードの発した一言で帰還することになったスレイたちは、ダンジョンの入口にゲートを開き外に出ると、入口では兵士たちが騒いでいた。
なにがあったのかと聞くと、何でも門番は誰かに気絶させられたと大騒ぎになっていた。やったのが誰かはわかるが、説明したところで余計な混乱を招くだけなので黙っておくことにした。
「スレイちゃん。後でちゃんと説明しておきなさいね」
「嫌だよ。それにアカネはボクじゃなくてユフィの相手だよ」
「絶対にいやぁ~」
「そんなん、どうでもいいから早く宿戻って休もうぜ」
すでに東の空は紅くなり、ミノタウロスとの戦いで全員が重要の上疲労困憊、休んだとは言えそれでも動ける最低ラインでしか無いため早く休みたかった。
ヴィヴィアナの言葉に全員が賛成するなか、フリードは違った。
「悪いけど、俺とジュリアさんは先にギルドに報告入れてくるわ。ついでに門番の件もうまく言っておくわ」
「父さん……ありがとう」
ひらひらと手を振って去っていくフリードとジュリアを見送り、スレイたちは昨日と同じ宿屋に戻る。
「お腹すきましたね」
「そうじゃな。飯とくれば酒が欲しいところじゃが、この怪我じゃ今晩は抜きかの」
「なんでもいいから飯!腹減ったッ!」
ゾロゾロと宿に入るなり腹が減ったと騒ぐ三人を横目に、スレイとユフィは先に風呂に入りたいと思ったがそれをする前に確認することがあった。
「みんな先にやることがあるだろ」
「やること……なにかあったかのぉ?」
「アリスちゃんたちにただいまって言わなきゃ」
そうだったとヴィヴィアナが言うと、男たちはベネディクトのところへ、アリステラのところへはユフィたちで向かうことにした。
「ベネディクトさん。ただいま帰りました」
「…………みな、無事で何よりだ」
「無事では無いわい。見事に全員ズタボロじゃ」
ベネディクトと会話をする二人だったが、スレイは辺りを見回してから首を傾げた。
「…………スレイ、どうかしたのか?」
「いや、ミハエルがいないなって」
「…………あいつならアリステラの部屋にいるぞ」
治療のために一緒にいるのかと納得したが頭のどこかでなにか引っかかった。なんだろうと考えていたその時、
「うわぁああああぁぁぁぁぁ――――ッ!?」
突然宿屋に響き渡るヴィヴィアナの悲鳴、なんだなんだとスレイたちが声のした方へと向かうと開け放たれた部屋の扉からヴィヴィアナが飛び出してくる。
「ヴィー、いったい何が──」
あったのか、最後まで言い切る前にヴィヴィアナがスレイの胸ぐらを掴むと、ぐわんぐわんっとスレイの身体を前後にシェイクし始めた。
「おいスレイ!頼む、アタシにヒールかけてくれ!ひどい幻覚が見えるんだッ!?」
意味の分からないヴィヴィアナの言葉にアーロンたちが一様に首を傾げる中、混乱するヴィヴィアナはさらにスレイを激しくシェイクし続けるのであった。
⚔⚔⚔
興奮したヴィヴィアナを落ち着かせようとしたが無理だったのでユフィに話を聞くと、なんでもアリステラの部屋を訪ねたらミハエルも一緒にいたらしい。
ここまではベネディクトに話を聞いていたので誰も驚かなかったが、続く言葉に全員耳を疑った。
「私たちが尋ねたらね、ミハエルがアリスちゃんのこと口説いてたの。愛してるとか、俺には君しかいないとか」
「「「…………はっ?」」」
男たちの口から同じ言葉が漏れ出た。
「えっ、ちょっと待ってください………えっ、何言ってるのか理解が出来ない」
「アーロン落ち着け、大丈夫誰も分からないから」
「おい、ベネディクト。お主何か知らぬのか?」
「…………知らん」
混乱するアーロンを落ちつかせ、何か知ってるかもしれないベネディクトに話を聞いても知らぬと返された。
一体何がどうなっているのかと宿屋の廊下で混乱するスレイたちだったが、その混乱を意外な人物が解消してくれた。
「混乱するのも無理はないだろう。ここは私から説明させてもらうとしよう」
「おい。混乱の原因が何か言っておるぞ」
「とりあえずアリスを離しやがれ!」
部屋から出てきたミハエルは顔を赤くするアリステラを腕に抱きながら現れたのだ。
ここではなんだからと、一度荷物をおいて下の食堂に集まったスレイたちは元凶であるミハエルから話を聞くことにした。
「まずは皆、今まで済まなかった」
突然みんなへの謝罪を口にしたミハエル、さらには頭まで下げた姿にヴィヴィアナは引いた。
「おい、こいつ死にかけて頭変になったんじゃねぇか?」
「うぅ~ん。否定できないかも」
「ふっ、二人共……ちっ、違う……よ」
「そうだ。アリスの言う通り私……いいや、俺はまともだ。ッと言うよりもこれが俺の本心なんだ」
「どういうこと?」
スレイが問いかけるとミハエルは自分の生い立ちを語りだした。
ミハエルの生家は没落した貴族の家系だったそうだ。元はこの国の端で小さな領地を有していた弱小貴族だったが、ミハエルの祖父が手掛けた羊毛の事業が成功したが、祖父の死後領地を引き継いだミハエルの父がまずかった。
祖父が築き上げた事業を終わらせ、不祥事に続く不祥事でたった数年で家を没落させたらしい。
「俺が冒険者になったのも、父の命令なんだ。子なら親の言う事を聞け、我々は選ばれた血族だ。下賤のもの、人ならざるものとは関わるな。お前の働きで貴族に返り咲けるのだ。俺のためにお前は働け、それが父の口癖だ」
「はっ。ひっでぇ親だな」
「いいや、父の言う通りさ。実際に五人いる兄妹の中で俺は落ちこぼれだった。剣だけが俺の全てだった」
子に親を選ぶ権利はない、それをよく知っているスレイは目を伏せるとユフィがそっとスレイの手に触れた。
「ミハエル。あなた、これからどうするの?」
「家族とは縁を切る。元から俺は死ぬつもりで冒険者になった、それがどういう訳か生き残ったがね」
そう言えばとアーロンが呟いた。
以前からミハエルが危険な依頼を一人で受け続けているという話は聞いていた。
その時はいつものようにミハエルの強い自尊心から来る根拠のない自信だと思っていたがそうではないらしい。
「はっ、死にてぇならなんでアリスを口説いてんだよ?」
「それは……アリスが、俺の好みだったからだ」
恥ずかしそうに目をそらしながらもはっきりアリステラに告白した。ミハエルの告白を聞いたアリステラは、漫画に出てくるヒロインのようにポンッと一気に顔を赤くした。
面白いくらいいい反応をするアリステラを見てユフィがいじろうとしたが、スレイがユフィの襟首を掴んで止める。
「かっ、親父に言われてたからって、テメェが今までにアタシらにして来たこと全部忘れられるわけねぇだろ」
ミハエルの境遇は理解できるが、ヴィヴィアナの言うこともよくわかる。だからスレイは何も言わずにミハエルの言葉を待っていると、ミハエルはもう一度頭を下げた。
「俺の境遇を話したからと言って、俺が今までしていたことが許されるとは思っていない。だから、これからの俺を見てくれ」
「見てどうする?人が早々変わると思わねぇがな」
「俺が変わらないと思ったのなら、それまででいい。アリスのことも、諦める」
物凄い嫌そうな顔で答えるミハエルに、少しだけ好感が持てるような気がしたユフィは、ミハエルに心を寄せられアウアウと狼狽えているアリステラに問いかける。
「ねぇねぇアリスちゃん。どうするのぉ~」
「どっ、どうする……って、なに……を?」
「もぉ~、わかってるじゃん。ミハエルの告白だよぉ~」
「えっ、えぇっと……ごっ、ごめん……なさい」
ペコリと頭を下げたアリステラにミハエルはショックから石化した。まぁ、仕方がないと思いながらミハエルを慰めようとしたその時、ユフィがズケズケと踏み込んでいく。
「えぇ~、なんでなの?」
「おいこらユフィさん、可哀想なミハエルくん心の傷にファイヤ・ボールを放つのはやめたげて」
「いや、ファイヤ・ボールどころかエクスプロージョンお見舞いしてますよ!?」
「えぇ~どっちでも良いじゃん。それよりなんでなの?」
スレイとアーロンからのツッコミを物ともせずにユフィはアリステラに問いかけた。
「えっ、えっと……だっ、だって……よく、しっ、知らない……から」
まぁそうだとスレイたちが思わず頷いた。
「だっ、だから……おっ、お友達……から……おっ、お願い……します……」
恥ずかしそうに頬を染めながらペコリとアリステラが頭を下げると、石化していたミハエルの身体が軟化し顔にも緋色が灯った。
「こっ、こちらこそよろしくお願いします!」
嬉しさのあまりゴツンっとミハエルがテーブルに頭を強く打ち付ける。
今までのミハエルの姿からかけ離れた行動に皆が笑いだし、話が上手くまとまったのを見てひとまずは安心かとスレイは思うのであった。
⚔⚔⚔
ダンジョンの調査から三日後スレイたちは仕事を終えて街へと戻った。
結局、あのあと一日かけてダンジョン内を捜索した結果、魔物の残党も見当たらず調査は終了、ギルドへは今回のダンジョン消失は魔物によるコアの捕食が原意の自然消滅という報告がなされた。
死んだダンジョンはジュリアの魔法によって破壊された。
街に帰るとフリードとジュリアは村へと帰った。
「んじゃ、またな」
「ユフィちゃん。マリーも寂しがってるから、手紙書いてあげてね」
「はい!」
「二人共、元気で。ボクが居ないからって新しい弟妹作らないでね」
バシンッと下世話なことを言ったスレイの背中へユフィの強化した張り手が炸裂した。
「ゆっ、ユフィ……なに、すんの」
「変な事言わないの」
スレイとユフィのやりとりを見ていた二人は、笑いながら去っていく。
フリードとジュリアが帰ってから数日後、スレイたち八人はギルドマスターに呼び出された。
「今日、お前たちに集まってもらったのはお前たち全員をDランクに昇級させることが決定した」
ランクアップの方を聞いたスレイたちがざわめき立中、ミハエルはそっと手を挙げた。
「ギルマス。このランクアップ、あのダンジョンでのことを評価してでしたら俺は辞退します」
「理由を聞こうか?」
「俺はただやられただけ、戦ったのはこいつらだ」
「そっ、それなら……わっ、わたしも……じっ、辞退……します」
「…………俺も辞退する」
ミハエルに続きアリステラとベネディクトも辞退すると言い出した。
ヴィヴィアナはどうして受けないのかとアリステラを説得しようとしたが、アリステラの意志は固く参加を拒みヴィヴィアナは諦めた。
ヴィヴィアナ、アーロン、パックスの三人がDランク昇格を受け入れる。
「お前たちはどうするかね?」
「もちろん受けます」
「私も!」
「では五人にDランク試験の参加資格を与える。三ヶ月後の試験、頑張ってくれ」
ギルマスの言葉にスレイとユフィは質問を投げかけた。
「あの、試験ってそんなあとなんですか?」
「あぁ。ランク試験は半年に一度じゃ」
「すぐに受けることって、出来ないんですか?」
「ふむ。他国のギルドでなら受けれるところもあるが」
「そのギルド教えてもらってもいいですか?」
スレイがギルマスに問いかけると、目を見開いて驚かれたがすぐにコクリと頷いた。
「わかった。明日伝えよう、今日はこれで帰ってもらって構わんよ」
挨拶をしてマスタールームをでると、すぐにヴィヴィアナたちからの追及があった。
「お前ら、国を出るつもりか!?」
「うん。もともと冒険者の仕事に慣れたら出るつもりだったし」
「いい機会だからね。さて、そうと決まればユフィ、宿に戻って旅支度を始めようか」
「うん」
みんなに別れを告げ宿屋に帰った二人は、早速旅に出る支度に入るのだった。
⚔⚔⚔
三日後、ギルドから試験を受ける国を聞き旅へと出ることにした。
向かう国は沿岸沿いにある海洋国家ナイトレシア王国のアスガラシアで行われる。試験は今から二十日後、ここから馬車などを使えば数日ほど、有に間に合う距離にあった。
「ユフィそろそろ行くよ」
「うん」
部屋の片付けを終えた二人は部屋を出る。
「それじゃあ、長い事お世話になりました」
「アニタさん、オリガさん、お世話になりました」
「お二人ともお元気で」
「またいらして下さいね」
二人への挨拶を終えてスレイとユフィは宿屋を後にする。
この町で知り合った人たちへの別れは昨日済ませ、その時にヴィヴィアナたちからは引き止められたがスレイたちの意思は変わらないと知るとようやく諦めた。
今まで何度も挨拶を交わした門番に簡単な別れの挨拶をして町を出た。
「歩いて半月、何事もなければ間に合うけど走る?」
「うぅ~ん。時間はあるし、今日くらいはゆっくり行こうよ」
「そうだな」
来るときは走った、なら去るときくらいは歩いていこうと思い歩きながら街を去っていく。
「ねえ、スレイくん」
「なに?」
「あんまり時間がなかったとはいえ、本当にそんな剣で良かったの?」
ユフィはスレイの腰に下げられた剣をみながら問いかける。
今のスレイの腰には折れた緋色の剣に代り新たな剣が下げられている。
「前の剣に比べれば随分頼りないけど、仕方ないよ」
緋色の剣に比べてあまりに貧相なその剣は、安価で買える数打ちの剣だった。
旅の準備の合間に剣を探し歩いてみたものの、あまりスレイ好みの剣が見つからず時間もない関係で数打ちの剣を購入することにしたのだ。
腰から剣を抜いたスレイは改めて剣を振ってみる。
「やっぱり軽いな」
「スレイくんって、重い剣好きだよね~」
「子供の頃から重い剣を使ってたから、パックスに頼めば打ってもらえたけど時間もなかったからね」
パックスが新しい剣を打ってくれると言ってくれたが、時間もなかったので今回は断った。
剣を鞘に戻してあるき出したスレイはユフィの方を見ながら話を続けた。
「次の街は他国との交易が盛んな港町だし、剣も見つかるだろうな」
「そうだね~……ついでに、私たちが永年探してるアレもあるかもしれないよね」
アレ、そう言われたスレイはユフィの方を見ながらコクリと頷いた。
「有るだろうね、アレ……いいや、絶対に有るさ」
「そうだよね。絶対に有るよね!」
ニヤリと笑みを浮かべあう二人は声を揃えてアレの名前を叫んだ。
「「お米!」」
例え肉体が違えど、魂はいつまでも日本人な二人は日本食を、日本人のソウルフードを求めやまないのだ。
つい熱くなった二人は心を落ち着かせながらそう言えばとユフィが呟いた。
「ねぇスレイくん。ダンジョンにあったあの場所、なんだったのかな?」
ユフィの言うあの場所とは、ダンジョンにあった隠し部屋のことである。
ダンジョンから抜け出したあと、スレイとユフィはプレートのマップ機能をテスト中に地図を立体で映し出してみたところ、ダンジョン内に一箇所不自然な空間を見つけた。
翌日にその場所を調べてると、そこはすでに探し当てられ何も見つからなかった。
「分からない。そもそも、あのダンジョン自体がおかしかったからな」
まずあのダンジョンは魔物がほった穴がダンジョン化したはずの場所のはず、なのに明らかに人の手が加えられた形跡があった。
ダンジョン内の道がわずかに段差が出来ており、螺旋状に形成されていた。
「時間があったときに調べたけど、あそこに遺跡があった記録もなかった」
「でも明らかに祭壇みたいな作りだったよ?」
ユフィの言う通り隠し部屋はどこか祭壇のような作りをしており、祭壇の奥には何かが祀られていたあとがあった。
「そうなんだけど、記録がないし分からず仕舞いってことだね」
一体何があったのかは結局は分からず仕舞いの結果となった。
「やっぱり、アカネたちが持っていったのかな」
「そうじゃないかな」
あの三人がいた理由に興味もないがあそこに何かあったかは気になる。
「アーティストだったら、売れば一財産になったかもね」
「そうだねぇ~………あっ、城門見えなくなってきたね」
ユフィの言葉にスレイが振り返ると、今まで見えていた城門が小さくなりもうすぐ見えなくなる。
この国に着て数ヶ月、色々あったと思いながらスレイとユフィは歩き出すのであった。
⚔⚔⚔
薄暗い部屋の中で黒髪の青年、クロガネは耳に手を当てながら誰もいない場所に向かって話ていた。
「はい、報告は以上になります……わかりました、それでは回収した物を送ります」
クロガネは魔方陣の描かれたテーブルの上に、銀色の胸当てを置いた。
これは今回の任務先のダンジョンに封じられていた物で、長い年月その場所に置かれていたにもかかわらず、色あせることもなくさらにはとてつもなく強い力を宿していた。
テーブルの上の魔方陣から光が放たれると、置かれた胸当てはもうその場にはなかった。
「はい、それでは次の仕事がありましたらご連絡をお願い致します」
耳から手を離したクロガネは大きな息を吐いてベッドの上に寝転がると、少しの間天井を見て
「アカネ、レティシア、終わったから入って良いぞ」
クロガネがそう言うと、少しして部屋の扉が開かれ、中に入ってきたのは特徴的な仮面を外して素顔をさらけ出した二人だった。
「あのお方はなんて」
「次も期待している、それだけだ」
「アレだけ苦労した旦那様への労いの言葉がそれだけとはの」
不服が行かないのかレティシアがアカネのいう、あのお方に対しての文句を言うとアカネが鋭い睨みを効かす。
「レティシア、それ以上は言わない方がいいわよ」
「分かっておる、しかしの妾はあのお方へ忠義を誓ってはおらぬし、あのお方もそれは承知じゃ」
「もういい、二人とも、もう休もうまたいつ仕事を頼まれるかわからないからな」
二人が出ていったのを確認したクロガネは、再びベッドに倒れこみ染み一つない天井を見ながら。
「何があってのオレは──」
消え入るような声で何かを呟いた。
この章はこらで終わりです。次からは海の町が舞台となります。
これからもよろしくお願いいたします。




