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ミノタウロスとの死闘 ③

本日二話目の投稿です。

次でこの章をおえて、次に進みます。

 たしかにミノタウロスのコアを斬った。

 コアがない、その事をスレイ聞いた時に時にクロガネが思ったのはそれだった。業火の炎に焼かれながら外へと露出したコアを斬った手応えは確かにこの手に残っていた。

 なのになぜやつは復活し、ましてや二体に増えているのか?疑問が尽きないながらもクロガネは必死にミノタウロスの攻撃をかわしながら倒れるスレイを見る。

 ミノタウロスに殴られ意識を失っているスレイはまだ起きる気配はない。唯一救いなのはミノタウロスが倒れたスレイに興味がないところだが、それもいつまで続くかわからない。


「クソがッ、呑気に眠りやがって、さっさと起きやがれ!そんな永く持たねぇぞ!!」


 クロガネが叫ぶと正面に立ったミノタウロスが大剣を頭上に掲げて振り下ろす。クロガネは剣を両手で握りしめ頭上で構えると、剣の腹で大剣の一撃を剣で防ぐ。

 するとそこにもう一匹のミノタウロスが戦斧を大きく引き絞り、真横から振り抜いてくる。


「チィッ!!」


 これは交わすことが出来ない、そう思ったクロガネは大剣を受け止めている剣を傾けていなすと、身を翻す要領で振り返りながら戦斧と斬り結んだ。

 剣と戦斧の刃が重なり合う中、クロガネは戦斧の腹を蹴り上げ上へと勝ち上げると背後から迫るミノタウロスへと斬りかかる。

 連続で斬りつけながらもう一匹の動きを注意しながら戦うクロガネは、速くスレイが目覚めることを望むものであった。


 ⚔⚔⚔


 目が覚めて最初に感じたのは脳天にまでかく抜けるほどの左足の痛みだった。


「ぐっ、あがっ……うぅぅっ」


 脚に触れなくても、足の骨が完全に砕かれていることはわかった。

 こんな足ではまともに戦えない、どうすれば良いかと考えているスレイのもとに怒号のような声が投げかけられた。


「おいスレイ!テメェ呑気に眠りやがって!ようやく起きやがったかッ!」

「っ!?クロガネ!?」


 声のした方へと視線を向けるとクロガネが一人、二体のミノタウロスと戦いを繰り広げる姿であった。

 ミノタウロスの姿を見て夢ではなかったのだと思ってると、クロガネが再び叫んだ。


「俺一人じゃそんな永くは持たねぇぞ!」

「分かってる!でもッ」


 この足では戦えないとスレイがクロガネに返したが、いちいちそんなことに構っている暇のないクロガネがキレ気味に言葉を返した。


「うるせぇな!さっさと治してこっち来い!でねぇと、この牛を始末する前にテメェを膾切りにしてやるぞッ!」

「ううわっ、すっげぇ口悪い」


 若干クロガネの口の悪さに引きながらも、目が覚めるまでの間守ってくれていたのは他ならぬクロガネだ。心のなかでクロガネに感謝しながら足の治療を始める。

 まずは砕けた足の骨の補強、これは魔力で砕けた骨をパズルのように繋ぎ合わせ、その上から闘気によって補強すれば簡単に終わるが問題はその後だ。

 組み合わせて補強した骨を治癒魔法で接合すればいいのだが、スレイの治癒魔法の腕はユフィたちと比べてかなり劣っている。


「こんなことなら、もっとちゃんと腕を磨いておけば良かったな」


 嘆いたところでその事実は覆らない、空間収納の中から種類の違うポーションを三本取り出して一本ずつ飲み干していく。

 まずは一本目は少し強めの麻酔薬、骨の治療は痛みを伴うのでそれを和らげるためのもで、通常は治療に少量服用するだけで良いのだが、幼い頃より毒に耐性をつけてきたスレイは一瓶まるまる必要になる。

 二本目は自作の低品質の治癒ポーション、これは治癒魔法と併用することで治癒力を底上げするために使用するのだが、自作品の中でも粗悪品のためそこまでの期待はできないうえに、味も悪いので緊急時以外は飲みたくはない。

 そし最後の一本はクレイアルラからもらったデュアル・ポーション、通常のポーションで間に合わない場合に飲むつもりの物だ。

 デュアル・ポーションを横においてスレイは自分の足に触れ、痛みがないことを確認する。


「よし、麻酔が効いてきた……やるか」


 スレイは砕けた脚に手を触れながら体内の魔力を操作して砕けた骨の位置を治していく。骨を動かす時の痛みは麻酔が中和してくれているが、実を言うとそこまで効いていない。

 激痛とまではいかないが、わずかに感じる痛みに耐えながらスレイは慎重に、丁寧にそれでいて速く骨の位置を修復していく。痛みで集中が切れない方に注意しながら魔力を操作していく。

 あと少しそう思いながら魔力を操るスレイは全ての骨を繋げた瞬間、治癒魔法を唱える。


「───ヒール!」


 治癒魔法の光が灯ると砕けた骨はゆっくりと繋がっていき、同時に切れた筋肉の繊維も治っていく。

 治癒魔法をかけ終わると今度は飲んだ麻酔薬を消すために状態回復魔法のリキュアを唱える。すると麻酔で鈍っていた感覚が戻ったのを確認すると、立ち上がって足の感覚を確認する。

 トントンッと足の感覚を確かめてみたが、やはり自分の治癒魔法ではすぐに全快は難しかったようだ。


「仕方ないか」


 そう言いながらステイは残していた三本目のデュアル・ポーションを一息に飲み干すと、足の痛みが嘘のように引いていき体中の痛みの他に魔力もかなり回復しているのがわかった。

 さすがは先生だッと心のなかで師クレイアルラに感謝したスレイは、戦いの場に戻るために剣を探すと自分が倒れていた直ぐ側に落ちているのを見つける。

 手を伸ばし拾おうとしたスレイだったが、その手は一瞬止まり表情を暗くしながら目を閉じてから剣を拾い上げた。


「今までありがとう………さて、もう出し惜しみはなしでいくぞ」


 剣を掴んだスレイは空間収納を開くと同時に、中から無数の短剣を取り出してそして叫んだ。


「行くぞ───起動(オン)


 起動の語句とともに取り出された短剣は空地へと浮かび上がり、スレイの指示を受けてミノタウロスと戦うクロガネの方へと飛んでいくのであった。


 ⚔⚔⚔


 二体のミノタウロスと戦い続けるクロガネはそろそろ限界が近いと感じていた。

 今までにも一対多数の戦闘は何度も経験しているが、今回のような戦いは経験がない。いくら斬っても殺せず、倒したと思ったら分裂して復活、終わりの見えない戦いはクロガネの精神を疲弊させる。

 加えて容易にコアを狙うことも出来ない。不用意にコアをコアを傷つけて三匹、四匹とさらに増えても対処することなど出来ない。

 どうすれば、そう考えながらミノタウロスの攻撃を防いでいるクロガネだったが、戦斧の一閃を剣で防いだ瞬間ミノタウロスが戦斧を振り回しクロガネの剣を上へとかち上げた。


「クソッ!?」


 剣を弾かれたところにもう一匹の剣が振り抜かれようとすると、クロガネは体を後ろに倒しながら地面に倒れて剣をかわすと、続けてミノタウロスの戦斧が上から振り下ろされる。

 ゴロゴロと横に転がって避けながら立ち上がったクロガネだったが、その先にすでにもう一匹のミノタウロスが待ち構えていた。

 立てられた大剣の切っ先がクロガネを刺し穿つために狙いを定める。これは防げない、剣を構えるよりも速く届くであろう切っ先を前に少しでもダメージを減らすすべを考える。

 闘気と魔力で身体強化を施して防御力を底上げしようとしたその時、クロガネのすぐ横を何かが飛んでいく。

 なんだ?そう思ったクロガネだったがすぐにそれが目の前に現れる。

 それは無数の短剣だった。切っ先と切っ先が重なり合い回転しながらシールドを展開した短剣は突き立てられた刃を防ぐだけでなく弾き返した。


「なんだこりゃ、魔道具か何かか?」


 突然のことに驚きの声を上げるクロガネは、すぐ背後から迫るミノタウロスに反応が遅れる。

 振り返りながら戦斧を受け止めようとしたクロガネだったが、その前にさっそうと現れたスレイの剣が戦斧を防いだ。


「悪い、遅くなった………」

「遅ぇんだよ、このバカがッ!」


 クロガネに叱咤されたスレイは、受け止めた戦斧を押し返し崩れたところを狙って懐へと潜り込むとミノタウロスの胴体を、魔道銃の銃身で殴りつける。

 ミノタウロスの身体がぐらつき後ろへと倒れた瞬間、魔道銃の銃口に魔法陣を展開させる。


「吹き飛べ───インフェルノ・スピアッ!」


 撃ち出された漆黒の槍がミノタウロスの上半身を吹き飛ばすと、残された下半身に空中から降り注いだ短剣が突き刺さり身動きを止める。

 振り返ったスレイがクロガネの横に並び立つと、円形に回っていた剣が止まりスレイの方へと戻って来る。


「その剣、やっぱりテメェのか」

「ユフィのシェルを参考に作った"ソード・シェル"だよ。攻撃と防御の両方が可能なボクの魔道具」

「そうか………そう、だよな」


 クロガネの言葉にどこか違和感を感じたが今そんな事を気にしている場合ではなかった。

 剣を抜いて構えるスレイとクロガネ、並び立った二人はこちらの様子を伺っているミノタウロスを警戒しながら話し出す。


「おい。あのミノタウロスが増えた理由、テメェ分かるか?」

「知らない……って言いたいけど、ボクの推測でよければ話すよ」

「未知の相手だ。推測でも何でも構わん」

「じゃあ、キミ。世界で初めて死んだダンジョンについてどれくらい知ってる?」

「あぁ?今関係ねぇだろ?」

「それが、在るんだよ。不注意で破壊されたダンジョンのコアは、その後研究資料として国が接収したんだけど、そのコアは死んでいなかったんだ」


 どういうことだとクロガネが尋ねてきたが、もちろんそのままの意味だ。

 通常、魔物のコアは破壊されれば魔力が霧散してただの綺麗な石ころになってしまい、この状態ではコアとしての価値はなくなってしまうのだが、ダンジョンのコアは違った。

 ダンジョンのコアはその性質上、膨大な魔力を生成保有することができきるのだが、破壊されはコアはその後百数年もの間、魔力を生成保有し続けたという記録があった。

 話しを聞き終えたクロガネは引きつった笑みを浮かべながら尋ねた。


「じゃあ何か?コアを破壊したところで、あいつはコアが寿命を迎えるまで不死身ってわけか」


 スレイの言う話が本当ならばあのミノタウロスはコアが分割される度に増え続け、命が尽きるまで死ぬことなく戦い続ける事ができる化け物ということ気になる。


「いいや、そうでも無いみたいだよ」

「何か手があるのか?」

「これ見て」


 スレイは銃を握る手できれいに輝く石を見せる。


「お前が斬ったミノタウロスの残骸のところに落ちていたコアの欠片だ。ご覧の通り魔力を生成することは愚か、魔力を保有することも出来てない」

「ハッ、なるほどな。粉々に斬り裂きゃあの肉体を作り出すことは出来ねぇって訳だ」

「そういうこと。ついでにもう一ついいこと教えてやるよ。あいつが操れるのは、このダンジョンで生成された鉱物だけみたいだ」

「なぜそう言い切れる」


 スレイは無言で自分の背後を指差しクロガネもそちらに視線を向けた。

 クロガネの視線の先には先程スレイが吹き飛ばしたミノタウロスの下半身が残っているだけだった。


「アレがなんだって言うんだ?」

「実はあのミノタウロスに突き刺したソード・シェルには錬金術が付与されていて、刀身をボクの好きな形に作り変えることが出来るんだよ」

「ほぉ~そうか……いや、だからなんだよ?」

「さっき逃げ出そうとするコアを糸状に伸ばした刀身で絡め取って拘束してるんだ」


 説明を聞いていたクロガネもスレイの言わんとすうることがわかったのか、口元を吊り上げながら正面へと向き直った。


「鉱物を操れるならミノタウロスに突き立て食べボクの剣が取り込まれておかしくはなかった。けど刀身は取り込まれることなく残っていたから試したんだけど、当たっていたよ」

「取り込めねぇ上に、いくらコアそのものを動かすことが出来ると言っても形は変えられない、だからいつまでたってももう一匹が出て来ねぇってわけか」


 そう言うことッとスレイが頷くのを見ながらクロガネが問いかける。


「勝ちへの道筋が見えたのはいいが、テメェそんな剣で戦えるのか?」


 クロガネがみるスレイの剣は半ばから先が欠落している。

 ミノタウロスに殴られたあのときスレイは咄嗟にダメージを減らすために剣を滑り込ませた。その結果スレイの代わりに剣は砕けてしまったのだ。


「あいつを斬るのは心もとないけど、牽制位は出来るよ」

「なんでそんな剣を使ってやがった」

「もう、随分長く使っていたし無茶もしていたからな、いつ寿命がきてもおかしくなかった。それがたまたま今、このときだったってわけだ」

「………予備の剣は?」

「あいにくと、手に馴染むものが見つからなくてね」


 その代わりにとスレイが魔道銃を見せるとクロガネは呆れたように黒い剣を差し出してきた。


「使え。そんな剣使って死なれたらこっちが迷惑だ」

「はっ?えっ、使えってキミの剣はどうするんだよ」

「俺は別のがある」

「そう……じゃあ、ありがたく」


 受け取った剣を握りしめたスレイは業火の炎を剣に灯すと同時に、クロガネは空間収納から別の剣を取り出した。

 虚空の穴より抜き出された物は直剣ではない、わずかに円を描いた曲刀。だがタルワールやカットラスのような無骨な物ではなく、細くしなやかなその剣は明らかにこの辺りのものではない。


「お前、それってドランドラの刀か?」


 クロガネの握るのは日本の刀に似た剣は、ここより遥か東にある龍の形をしたドランドラという島国にしかない。


「こっちじゃ知ってるやつはほとんどいねぇんだがな」

「父さんの書斎の本にたまたま乗ってたんだよ。それよりお前、その剣───」

「答える義理はねぇ。さっさと構えろよ。来るぞ」


 そう言われ前を向いたスレイは、絶対に問いただしてやると思いながら向かってくるミノタウロスへと剣をふるった。


 漆黒の剣がミノタウロスの剣を弾き返し、そこへすかさずスレイはソード・シェルを操り本体を突き刺すべく放った。

 ミノタウロスは飛んでくるソード・シェルを空中で捕まえと、掴んだ刃を握りつぶして破壊する。


「壊すなよな、作るの大変なんだからさ!──インフェルノ・スピア!」


 ソード・シェルがダメならっと、魔道銃のトリガーを引き絞ると同時に放たれた業火の槍がミノタウロスを穿とうとしたその瞬間、ミノタウロスの目の前に土の壁が現れて防いだ。

 ダンジョンの地殻操作が厄介だっとスレイいながら、土の壁を迂回しながらミノタウロスへと接近しようとすると、スレイよりも速く底へとたどり着いた人物がいた。


「おせぇんだよ!」


 ミノタウロスの背後、いつの間にか接近していたクロガネが鞘走りと共に抜き放った刃は見事なまでの漆黒だった。

 僅かな光源までも吸い込んだかのような漆黒の刃が輝くと、左からの横薙ぎでミノタウロスの首を落とし返す刃で胴体を斜めから斬り裂いた。

 たった一瞬での出来事にミノタウロスは反応することもができなかった。

 首も上半身を切り裂かれたたミノタウロスは、ここで終われないと振り返り様に大剣でクロガネに切りかかったが、その攻撃はクロガネによって止められる。

 クロガネは受け止めた大剣を刀を傾けて空中で円を描くようにしながらいなすと、ミノタウロスは大きく体勢を崩した。


「スレイ!今だッ!」


 その声を聞いたスレイは残ったソード・シェルを全てミノタウロスめがけて突き立てると、ミノタウロスの全身に魔力を流して肉体の動きを妨害し、加えて錬金術を起動させてコアを絡め取ろうとした。


「───ッ、なんだコレ!?」


 スレイの口から漏れ出た苦悶の声にクロガネが叫んだ。


「どうした!?」

「わからない。なんだか、うまく捉えられない………いや、違う………何かに抵抗されるような」


 魔力がうまく通らない訳では無い、遠隔だからかもしれないと理由は色々あるがそれはどれも違うような気がするスレイは両目を凝らして、より深く魔力を見定めようとする。

 するとミノタウロスの身体の中で不自然な動きをする魔力を流れを見つけ、その理由を思い当たることになった。


「………あぁクッソッ、そう言うことかよ!」

「なんだ、何がわかった!?」

「こいつ、自分のコアをダンジョンの鉱物で覆って形を変えているんだ!そこで寝てる半身みたいに、拘束されないようにしてるんだよ!」

「ハァッ!?クソがッ、どうにかできねぇのか!?」


 どうにか、そう言われたスレイは手持ちの武器を思い浮かべながら、このミノタウロスを倒す方法を模索して一つ案を思い浮かべた。


「先に、倒れてる方を仕留める。魔力に余裕さえあればあいつを抑えられる……はずだ」

「言い切れよ。信じるぞ?」

「任せて」


 スレイが自信満々に告げるのを聞いてクロガネは静かに頷いた。


「任せたぞ」

「うん。それじゃあ、あいつのコアを空中にさらすから、頼むぞ」

「何度も言われねぇでもやってやるよ」


 行くぞ、その言葉と共にスレイはミノタウロスのコアを力ずくで体外へと引きずり出した。巻き付いていた拘束を解くと半円状になったコアが空中に放り投げられる。

 空中に投げ出されたコアは、引き寄せるように地面を操って身体を再生させようとするが、ズドン!ッと重低音と共に撃ち出された弾丸が伸び出る岩を打ち砕く。


「今更逃さないっての」


 伸び出る岩を次々とスレイが打ち抜いていく内にクロガネが接近すると、鞘に納められた黒刀を一閃する。


「うぅぉおおおおおおおぉぉぉ――――――――ッ!!」


 居合の一閃がコアを斬り裂き、返す刃でさらにもう一閃が振るわれる。

 振り下ろされた刃を切り返しさらに一閃、二閃、三閃っと、黒刀の刃が振るわれる事にコアは切り裂かれ、小さく欠片となって落ちていき、ついに小さな欠片となったコアはその輝きを失った。

 片膝をつき刀を地面に突き立てたクロガネは、荒い呼吸を繰り返していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……こっちは終わったぞ!」

「ありがとう。絶対に引きずり出すッ!」


 抜き取られたソード・シェルに続けて空間収納から黒蛇を取り出したスレイは、地に倒れるミノタウロスの身体へ巻き付き錬金術を発動させる。

 スレイの身体から発せられる魔力の輝きが辺りを照らし、吹き荒れる魔力の奔流が地面をそして壁を砕いていく。


「ハッ、なんて魔力してやがる」


 クロガネが声を震わせながらそう呟く声が聞こえてくる。

 ミノタウロスの体内で起こっているコアとスレイの戦いは熾烈を極めている。


「クッ、ソッ……抵抗が、つよ……すぎるッ!」


 ソード・シェルと黒蛇を錬金術で変化させて体内のコアを守る金属の殻を破壊しようとするが、薄くしならせる刃は金属の殻に決定的な攻撃が与えられない。

 攻撃力が低い上にこれ以上は魔力が続かない、これ以上はもう無理だと思ったスレイは最後の悪あがきとしてミノタウロスのコアを肉体の外へと押しやることにした。

 片腕を突き出しながら魔力を注ぎ続けるスレイは、クロガネに向かって叫んだ。


「クロガネッ!あいつのコアを外へと押しやるッ!」

「あぁ!?」

「抵抗が強すぎて、これ以上は……もう無理……お前が……やってくれッ!」


 肉体の外へと押しやられたコアは自身を守る金属の殻を変形させ、鋭い刃とかして辺りを突き刺して操ろうとする。


「オイッ!本当に出来るのかッ!?」

「任せろッ!」


 伸びる金属の槍を黒刀で切り裂いていくクロガネは、ジッとその場から動かないスレイに向かって問いかけると、伸びた刃がスレイの頬を斬り裂いた。


「大丈夫、ボクがあいつの動きを止める……だから、やってくれッ!」

「ッ!?───わかった」


 それをさせまいとスレイの黒蛇とソード・シェルが押さえる。

 伸びてくる刃がスレイの肩を貫き、血が噴き出す。


「グッ、痛ってぇ………けど、掴んだぞッ!」


 肩に刺さった金属の刃を握りしめたスレイは錬金術を使ってコアを押さえつける。


「今だ……ッ!クロガネッ!」


 スレイの声を聞いたクロガネは金属の刃の動きが止まったのを見て黒刀を鞘へと収めると、大きく足を開いて腰を落としたクロガネは上半身を前に倒し、身体を屈めながら闘気を抑える。


「俺のとっておきだ、喰らいやがれッ!」


 黒刀を鞘へと収める身を屈めたまま駆け出したクロガネは、自身の間合いに入ったと同時に鞘から刃を抜き出す。


「───居合の型 絶華」


 黒刀を抜くと同時に放たれたのは八つの斬撃だった。

 四方八方を囲うように放たれた黒刀の斬撃はまるで花びらのように斬撃の軌跡を残した。斬撃から遅れるように空気が震えるほどの衝撃が部屋全体を震わせ、金属の殻に隠れたコアが破壊された。


 コアの魔力が霧散し残された金属の刃が崩れ落ちていく。

 しばらく辺りを警戒する二人は、今度こそミノタウロスが復活しないことを確認すると握りしめた武器を手放し、ゆっくりと地面に倒れ込む。


 そして、二人は握りしめた拳を同時に天高く突き上げるのだった

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