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ミノタウロスとの死闘 ②

スレイ&クロガネVSミノタウロス戦の開始です。

ブクマ登録ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

 ミノタウロスを蹴散らしたスレイは、岩の拘束具に捕らえられたユフィの側まで駆け寄ると、鞘に納められた剣を抜いて拘束を破壊した。

 拘束から解き放たれたユフィは力なく倒れるのを見たスレイは、剣を逆手に持ち替え倒れるユフィを優しく受け止めの身体を抱きしめた。


「ごめん、ユフィ。遅くなった」


 抱き締めたユフィと至近距離で目が合うと、ユフィは驚いたような顔をしながら最後には嬉しそうに破顔していた。


「ありがとう、スレイくん」


 背中に回されたユフィの手が少し震えている。

 怖かったのだろうとすぐに察したスレイは支えている手につい力が籠もっている。自分があそこで離れなければと思うも、起きてしまった事を悔やんでも意味はない。

 ユフィを抱きしめながらシールドの中で横になっているヴィヴィアナたちを見つけた。


「みんなもやられたのか」

「うん。でも、みんな生きてるから安心して」

「それはよかった……それで、あれは何?」


 そっとユフィを放したスレイは背後で身体を再生させ、こちらを睨んでいるミノタウロスを見ながらそう尋ねた。


「ダンジョンのコアを食べたミノタウロス、どういうわけかいくら倒してこ身体が再生して蘇るの」

「そういうことね……やっとみんながやられた理由を理解したよ」


 再生したばかりのミノタウロスをにらみつけるスレイ、その目に込められた殺気がミノタウロスをひるませているのか一向に動きを見せない。

 ミノタウロスを殺気で押さえつけているスレイは、シールドの中で眠るヴィヴィアナたちのことを一瞥してからユフィに方へと視線を戻した。


「……ユフィ、後はボクがやるからあの中でみんなと休んでて」

「いや、私も………ううん。ごめんね、今の私じゃ足手まといだもんね」


 一緒に戦おうと言いたかったが、この怪我に加えて魔力も残りわずか無理を言ってはいけないと思い直したが、スレイはユフィのその言葉を否定した。


「そんなんじゃないよ。ただボクがブチギレてるんだよ。ユフィをみんなをあんな目に合わしたあいつと、クロガネとの決着を優先してみんなの元を離れた自分自身にさ」


 静かにそれでいて冷静に怒りを爆発させるスレイに、近くにいたユフィは恐怖し息が詰まった。

 ここまでキレるスレイを前世を含めても初めて見たことがなかった。それ故に、このままスレイを戦わせたら何か大きな間違いが起きるのではないかと思うほどだった。


「スレイくん、死なないでね」

「大丈夫、死なないよ」


 今までの恐怖が嘘のように優しいスレイの口調にユフィは安心した。

 移動しようとスレイがユフィを横抱きにして抱き上げると、ユフィは自分で歩くと言ったがスレイはそれを拒否してシールドの方へと歩いていくと、背後から声がかけられた。


「悪いが、こいつらも入れてやってくれねぇか」


 そこには傷つき意識を失っているアカネとレティシアの二人を抱えたクロガネの姿があった。


「ユフィ、どうするの?」

「いいよ。あの二人には助けられてるし、怪我の治療もしなくちゃね」


 ヴィヴィアナたちを治療するためにもらったポーションの変わりと言っては何だが、あの時のアカネの言葉を借りるならここで死なれては目覚めが悪いのだ。

 そうクロガネに伝えると、小さく笑ってから一言頼むと言った。


「一つだけ頼みがある。そいつらの仮面は外さないでやってくれ。特にアカネのはな」


 なんでそんなことを、っと聞きなくなったがそんなことを聞いている余裕はなさそうだと思ったユフィはわかったと答える。

 シールドのの一部を解いて中に入ったユフィは、横に寝かされたアカネとレティシアに治癒魔法をかけ始める。


「二人の治療、頼んだぞ」

「任せて」

「ユフィ、行ってくるね」

「うん。行ってらっしゃい」


 シールドの外へとでていく二人の背中を見送りながら、ユフィは一緒に戦いたかったっと思った。

 だけど、今はそれが出来ないのだから自分の戦場で戦おう、そうユフィは心に決めながら遠ざかっていく二人の背中を見つめているのであった。


 ⚔⚔⚔


 ユフィたちの側から離れたスレイは逆手に握っていた剣を持ち直し懐から魔道銃を抜き放った。並びながら歩いているクロガネもまた鞘に納めた剣を抜き放った。

 武器を握り直したスレイとクロガネがミノタウロスと対峙する。


「さぁって、どうやってあいつを殺そうか。実質不死身なんだろ」

「ダンジョンのコアを取り込んでいるからね。コアを破壊しなければ倒せないだろうね」

「厄介この上ねぇ奴だな。ここでやり合うか?」

「いや、場所を変えよう。ここじゃユフィたちが危険だ」


 シールドの中にいるユフィたちに視線を向けると、クロガネもそれに同意したように答える。


「どうやって移動するつもりだ?」

「ボクに考えがあるから任せて………それよりクロガネ、目に魔力を纏ってみてよ。面白いものが見えるよ」


 一体なんのことだと思いながらもクロガネは両目に魔力を纏うと、スレイの言う面白いものの意味がよくわかった。


「なんだありゃ、魔力の塊かよ」


 魔力を目に纏うことで魔力の流れを見ることが出来る。

 ミノタウロスの身体の中心から溢れ出す膨大な魔力、人の魔力な何倍いいや何十倍もの魔力を内包している化け物だった。


「あれが不死身の元だよ。あいつが捕食したダンジョンのコアは超高濃度の魔力の結晶だ。アレがある限りミノタウロスは何度も復活するだろうな」

「殺すのに苦労しそうなやつだな。勝算はあるのか?」

「さぁ。あいつのコアさえ破壊できれば何とかなるんじゃないかな」

「そいつは、俺らしいやり方じゃねぇか」


 ニヤリと笑ったクロガネにスレイも笑って答えると、二人はこちらを睨みつけているミノタウロスの方へと視線を戻した。


「じゃあ、とっととここから移動するぞ」

「オッケー。それじゃあクロガネ、あいつの足を切り落として」

「命令すんじゃねぇよ!」


 文句を言いながらも駆け出したクロガネは、殺気で動きを鈍らせれているミノタウロスへと斬りかかる。

 クロガネの接近に気づいたミノタウロスはダンジョンの地面を変化させ、無数の岩の棘を創り出して進行を阻もうとした。

 だがクロガネは足を止めることなく加速し、構えた漆黒の剣に闘気を纏わせて一閃すると突き出してきた岩の棘が綺麗に両断されていく。

 道は開けたと同時に強く前へと踏み込んだクロガネは距離を詰めると、身体と同じように作り出した岩の大剣を頭上に構えて振り下ろす。

 ブォンッと風を切る音と共に振るわれるミノタウロスの大剣がクロガネを襲う。振り下ろされた大剣に対して横へと飛んでかわしたクロガネは、すれ違いざまに両腕を切り落とした。

 両腕を切り落とされたミノタウロスはクロガネの足元に魔法陣が展開されると、岩の壁がせり上がりクロガネを天井に押し上げようとしたが、クロガネが漆黒の剣を振るい岩の壁を斬り裂いた。

 落下しながらクロガネがスレイに向けて叫んだ。


「行くぞ、スレイ!準備いいか!?」

「オッケー!いつでもいいぞ!」


 着地すると同時に両腕が再生したミノタウロスが斬り掛かったが、漆黒の剣でミノタウロスの剣を正面から両断すると両腕、両足を斬り落とした。

 上半身だけになったミノタウロスが地面に倒れ走になった瞬間、無数の黒い鎖が伸びていく。


「絡め取れ"黒蛇"!」


 スレイの腕から伸びしていく黒い鎖は空中に投げ出されたミノタウロスに巻きついた。

 鎖の先には金属で出来た蛇の骸骨がある。これはスレイが作った魔道具"黒蛇"は約十メートルほどの鎖の先に蛇の頭部がついている魔道具だ。

 魔力を通すことで自在に操るだけでなく、頭部の牙に仕込まれた麻痺毒で魔物を捕らえる事ができる。


 黒蛇に絡め取られたミノタウロスは、鎖を引きちぎろうとするもそれよりも速くスレイが動いた。


「逃がすかッ!───ゲート!」


 身体強化によって強化された腕力で鎖を振り回しミノタウロスをゲートへと押し込むと、その後を追ってクロガネがゲートを潜ると遅れてスレイも走っていく。

 その途中スレイはユフィと視線があった。

 頑張って、そう言うようにユフィが拳を突き上げると、それに応えるようにスレイは小さく頷いてゲートへと走っていく。


 ⚔⚔⚔


 ゲートを抜けた先、そこはスレイとクロガネが戦った場所だ。


「てめぇ、なんでここなんだよ?」

「良いだろ。ボクたちが動いても平気な広い場所がここだったんだ」


 ゲートを開く場所として最適だとパッと思いついたのはこの場所だったと言いながら、黒蛇を回収したスレイはすでに再生を始めたミノタウロスを見ながら剣と魔道銃を構える。


「来るよ。構えろよクロガネ」

「言われねぇでも構えるさ」


 両手で剣の柄を握り頭上で水平に構えたクロガネは、スレイの方を見ながら問いかける。


「あいつを殺す策はなにかあるか?」

「何も無いよ。だから、戦いながら見つける!」

「いいねぇ、乗った!」


 クロガネの返事を合図にスレイが先行し、それ見続くようにクロガネが後ろから後を追うように駆け出す。


 正面から駆け出したスレイに対してミノタウロスが握りしめた拳を振り抜く。振り抜かれた拳に対してスレイが剣を振るって迎え撃とうとする。

 振り抜かれた拳と振り下ろされた剣が重なり合った瞬間、スレイの剣が拳を打ち合うと火花をちらして弾かれる。


「グッ!?」


 剣が弾かれたところを狙ってミノタウロスの脚がスレイを蹴り抜き、吹き飛ばされたスレイは部屋の端にまで飛ばされる。

 吹き飛ばされたスレイの後ろから駆け抜けたクロガネは、拳を振り抜いた状態で佇むミノタウロス横へ移動すると、すれ違いざまに脇に構えた漆黒の剣を振り抜いた。


「ぐっ、硬ってぇ!?」


 振り抜かれた剣に伝わってくる感触は先程の物よりも明らかに硬質な金属の物だった。

 なぜ、そんな疑問を考える前にクロガネが動く。一瞬でも動きを止めればスレイの二の前になりだけ、ならばと接近したクロガネのラッシュがミノタウロスに降りかかる。

 袈裟斬りからの切り上げ、さらには横薙ぎと息つく魔もない連撃を繰り出すクロガネだったが、攻撃すればするほど剣から伝わる衝撃が腕に響く。


「クソがっ、全然効いてねぇ!」


 岩の身体になったせいで痛覚がないのは分かっている。だが、硬質な金属をいくら斬りつけても傷一つついていない。

 いくら攻撃しても意味がないが、攻撃の手を緩めればミノタウロスが暴れ出す。どうすれば、っと剣を振るいながら悩んでいるクロガネの元に声が飛んだ。


「どいて、クロガネ!」

「───ッ!」


 その声を聞いたクロガネは最後の一撃としてミノタウロスの頭部に一撃を与え、大きく後ろに飛んだ。

 そこには巨大な大筒状の砲身を持った巨大な魔道銃を両腕で支えるスレイの姿が底にあった。

 バズーカ型魔道銃サルガス、その巨大な銃口の奥には魔力を貯蔵、圧縮することができ一度のチャージに時間がかかるのが難点だ。


「消し飛べッ!」


 サルガスの巨大な銃身の両端に取り付けられたグリップを握りしめると同時に、銃身の奥で圧縮されていた膨大な魔力が解放される。

 膨大な光が極太のレーザー光の様になって放たれたそれは、スレイとクロガネの視界を白く塗りつぶしミノタウロスの巨体を飲み込んだ。


 光が収まるとそこには巨大なクレーターが伸び、高温で熱せられたせいか地面がわずかにガラス化している。


「やべぇな。なんつう破壊力を持ってやがる?」


 後ろに下がりスレイの横で剣を構えたクロガネは、スレイの魔道具が作り出した光景に唖然としながら尋ねる。


「この魔道具、一発撃つのに時間がかかるんだよ。おまけに最大限まで魔力を貯蔵すると、銃身が焼けて使い物にならないんだよ」


 スレイは銃口が耐えられずに溶け出し、銃身の至る所に取り付けた排熱口が開き白煙を上げるサルガスを見ながらそう語る。

 こうなったらこの魔道銃はもう使えない、銃口の先を切り離し排熱を行っている残りの銃身を空間収納にしまったスレイは鞘に納めた緋色の剣を抜き放った。


「おい。生きてたみたいだな」

「勝手に殺すなっての」


 並び立ったクロガネを一瞥したスレイはすぐに視線を戻すと、声のトーンを落としたクロガネが問いかける。


「今ので殺れたか?」

「いいや、ダメだ。逃げられた」


 魔力を纏った眼で辺りを見回したスレイは小さく呟いた。

 ミノタウロスの体内にあった膨大な魔力が地面の中を移動して再び、地上に現れて鋼鉄の肉体を作り出した。


「今更だがなんでコアが移動するんだよ」

「多分、コアそのものがあの魔物の本体なんだよ」

「どう言うことだよ?」

「あくまで仮説なんだけど、変異個体は取り込んだ魔物の特性を取り込んで変化する。ダンジョンのコアをミノタウロスが取り込んだことによって、無機物でしかないコアそのものに意志を持ったんだ」

「じゃあ何か、ダンジョンの力を持ったミノタウロスじゃなく、意思を持ったダンジョンだってことか?」

「確証はないけど、そう考えたほうがしっくりくるだろ」


 ダンジョンコアぞのものが移動数することなどあるはずがない。それが実際に起きていることから、立てたスレイの仮説は案外的を射ている物だった。


「だったらなんで俺と戦った時の戦法を取らねぇんだ」

「そう言えば、キミあのミノタウロスと戦ったんだっけ?」

「あぁ。ちょっと小突いたら転移トラップを使って魔物をけしかけやがってな。おかげで取り逃がしたんだ」


 その説明を受けてスレイはここからユフィたちのいる場所に向かう中、なぜか魔物に遭遇するどころか魔物の気配そのものがなかった。

 その理由は、未だにフリードたちが同じ場所に留まっていることから想像がついた。


「その理由はなんとなくわかったけど、今はどうでもいいだろ」

「はっ、それもそうだな」


 二人は改めて金属のミノタウロスの方へと向き直る。

 今二人が話している合間、ミノタウロスは自身の肉体を作り変えようとしていた。

 肉体が膨れ上がり今までよりも一回りほど大きくなったその身体は、それだけでも質量の暴力となりうる。さらにはその巨体に見合う巨大な戦斧を握る姿はまさに物語に出てくる牛の怪物を彷彿とさせる。


「おい。テメェ、あいつの身体を斬れるか?」

「魔法を使えばなんとかいけると思うけど、そういうお前はどうなんだ?」

「こっちも同じようなもんだな」

「だよな」


 スレイは緋色の剣に漆黒の業火を、クロガネが漆黒の剣に暴風の魔力をそれぞれの剣に纏わせると、肉体を作り変えたミノタウロスにその切っ先を向ける。


「そんじゃあ、牛狩りといきますか」


 ニヤリと笑ったスレイとクロガネが同時に駆け出すと、ミノタウロスも迎え撃った。

 ミノタウロスの身体はただ質量を増やしただけではないようだ。一足の距離が今までよりも速くそして鋭い。


「くッ!?」

「チィッ!!」


 間合いを読み間違えた二人は、振り抜かれる戦斧の一閃を受け止めずに避ける。

 スレイは上に飛び上がりながら、クロガネは地面を滑るようにかわしながらもすれ違いざまにミノタウロスの身体を斬り裂いた。


「ッたく、あぶねぇじゃねぇかッ!」

「ギリギリセーフ、だったね」


 地面に着地したスレイと手をついて起き上がったクロガネは、こちらへと振り返ったミノタウロスを見ながら口角を吊り上げた。

 正確に言うならば、業火の炎を纏った剣で焼き斬った胸板と、暴風を纏った剣で削り斬った左足首を見ていた。


「殺しきれねぇが、行けそうだな」

「そうだね。これでどうにか戦えそうだ!」


 これを好機と見たスレイとクロガネは果敢に攻めていく。

 スレイとクロガネは業火と暴風をまとた剣で立ち代わり入れ替わりながら攻撃をし続ける。対するミノタウロスはせっかく作り出した身体を生かし切ることができずただ守りに徹している。


「はっ、デケェ身体が仇になったな!」


 身体を巨大化させ全身を金属に置き換えたミノタウロスのスピードは、生身であった頃よりも格段に落ちている。

 緋色と漆黒、魔法を纏った二振りの剣を操る二人がが織りなす剣技が鋼鉄のミノタウロスを削っていく。

 背後に回ったクロガネが剣を脇に抱える様に構え、鋭い一閃を放つと身を翻したミノタウロスが戦斧の柄で受け止めるも、クロガネの剣はそれを削り斬った。


「終わりだッ!」


 一本強く踏み込み奥へと入り込んだクロガネを、払いのけるようにミノタウロスが極太の腕を振るおうとした。


「させないよ」


 いつの間にか接近していたスレイが振り払おうとする腕目掛けて業火を纏った剣を振るい肘から先を捨てる。

 斬り落とされた腕がゆっくりと地面に落ちる中、ミノタウロスが腕を再生するよりも速くクロガネが黒い剣を頭上に構えると、上段からミノタウロスの身体へを振り下ろした。

 脳天から股下へと体の中央から二つへとミノタウロスの身体が両断された。

 今度こそやったかっとクロガネが思ったその時、二つに別れた内の半身、ちょうど腕が切られていない方の身体が動いた。


「何ッ、グッ!?」

「クロガネッ!」


 残った半身が動いたかと思うと残された腕を振り抜いてクロガネを薙ぎ払った。

 殴り飛ばされたクロガネが壁にぶつかり動かなくなる。

 スレイは魔力眼で魔力の流れを見ると残された半身のちょうど胸のあたりに魔力の反応があった。斬られる寸前に身体の中を移動してコアを守ったのだ。


「全く、やりづらいな」


 魔道銃と剣を構え直したスレイは、一瞬殴り飛ばされたクロガネのことを心配したが、あれでやられるはずもないので考えないことにした。

 魔道銃の銃口を正面に向け剣の切っ先を後ろに向けたスレイは、すでに身体を再生を終えたミノタウロスを見据えてから一気に地面を蹴る。


「ハァアアアアッ!」


 気合の声と共に放たれたスレイの一閃、対するミノタウロスは拳で受け止める。業火の炎を纏った剣はミノタウロスの拳を正面から斬り裂き、返す刃で肩口から両断する。

 スレイがさらに切り返すよりも速くミノタウロスが動く、無事な逆の腕でスレイに殴りかかろうとするも拳が当たる寸前に身を低く落としてかわした。


「シィッ!」


 低い位置からスレイが剣を一閃してミノタウロスの脚を切り飛ばしたが、このままでは即座に接合される。

 ならばと身を捻ったスレイが切り飛ばした足を蹴り払うと、支えを失ったミノタウロスの身体は前に倒れようとしたのでスレイが飛び退こうとしたその瞬間、遥か後方から声が投げかけられた。


「そのまま寝てろッ!」


 投げかけられた声を聞いたスレイは背後から迫る魔力を感じ取ってその言葉に従うと、倒れようとしていたミノタウロスに向かって竜巻が吹き荒れ壁際へと押しやった。


「チッ、クソが!よくもやってくれやがったな、牛野郎」


 血を垂らしながら立ち上がったクロガネの姿を見てスレイが声を掛ける。


「直撃受けてたってのに元気そうだな」

「元気じゃねぇクソがッ!やべぇとき用のとっておき使っちまったわ!」


 愚痴をこぼすクロガネの身体は血に濡れており、かなりの重傷を負っていたに違いない。

 それを短時間で回復させるポーションはかなりの上位のものだろう、クロガネの言う通り本当にとっておきを切ったのだと思ったスレイは視線を外して前を見る。

 吹き飛ばされたミノタウロスは新しい身体を作っていた。今度の身体は先程のものと違い、岩と所々を金属のもので補ったツギハギな身体だった。


「全身金属じゃ敵わないから、色々混ぜるって本当に魔物に似つかわしくないな」

「知能高すぎだろうが」

「そうだな………ところで、身体無理そうなら休むか?ボク一人でやるぞ」

「冗談、あんなやつオレ一人で十分だ」

「言ってくれるじゃん」

「うるせぇ」


 クロガネがゆっくりと歩く出すのに合わせて、スレイは魔道銃をホルスターに戻すと短剣を抜き放ちその刀身にも業火の炎を宿した。


「もう一度一緒に行くぞ」

「命令すんじゃねぇ」


 スレイとクロガネが動くのに合わせてミノタウロスも向かってくる。

 手にしているのは先程と同じ長柄の戦斧、ミノタウロスは両腕で戦斧の絵を握りしめると大きく引き絞りながら振り払う。

 前にでたクロガネは足を止め漆黒の剣を立ててミノタウロスの戦斧を受け止める。両手に伝わる衝撃とジリジリと押される物のどうにかこらえる。


「クッ、行けっ!スレイ」

「おう!」


 クロガネの言葉に答えたスレイが踏み込むと同時に上へと飛び上がると、ミノタウロスの戦鎚を蹴って前へと駆け出す。

 目の前に迫りくるスレイを前にしてミノタウロスは即座に戦鎚の形を変え、クロガネの足元と頭上にに魔法陣を展開させると上と下、二方向から無数の槍が現れる。


「チッ!?」


 槍が振りそして突き上がる寸前に後ろに下がったクロガネはどうにか串刺しにならずに済んだが、問題はスレイの方だった。

 足場にした戦斧が消え空中に投げ出されたスレイの前にあるのは、分厚い刀身を持った大剣の切っ先だった。


「クッソッ!」


 空中に投げ出されたスレイの前にゆっくりと形作られた大剣の切っ先が伸びてくる。前へと進んでいたスレイは勢いがついて止まることが出来ない。

 ならばこのままやるしかないと決めたスレイは、短剣に纏っていた炎を消して思いっきり伸びてくる大剣の横っ腹を叩くと、激しい火花と甲高い金属音が鳴り響く。

 そして剣同士がぶつかり合った衝撃を利用して身体を回転させてミノタウロスの剣をかわした。


「まだだぁあああああ―――――ッ!!」


 空中で身体を捻りながら緋色の剣を真下から振り上げて大剣を両断する。スレイが地面に着地すると、またしても魔法陣が展開されその場を離れたと同時に巨大な岩の柱が現れる。


「邪魔させないッ!」


 離れたと同時に前に出たスレイは岩の柱を斬ってミノタウロスに迫ると、またしても大剣を作って上段から振り下ろす。

 対してスレイは頭上で揃えるように構えられた緋色の剣と短剣で受け止め、角度をつけて大剣を受け流すとその隙をついて駆け寄ったクロガネがミノタウロスの腹を削り切る。


「チッ、浅いかッ!」


 やられたことにムカついたのか、ミノタウロスはスレイの足元と頭上に魔法陣を展開して岩の槍を作り出すと、逃げるスレイを追う様に何度も何度も魔法陣を作り出して距離を取らせる。

 そしていなされた大剣を持ち上げたミノタウロスは、そのままクロガネに向けて振り回す。だが、クロガネはそれをいとも簡単に受け止めてみせる。


「ハッ、ただ力任せに振るってるだけじゃ俺はやれねぇよ!」


 力を込めて大剣を押し返したクロガネは、そのまま切っ先を左下へと向けてから斬り上げ、さらに頭上からの振りおろし右下から斜めへ切り上げて左横薙へと繋げて切りつける。


「ハァアアアア――――――ッ!」


 漆黒の剣を大きく引き絞ったクロガネが渾身の力で放った突きがミノタウロスに突き刺さる。

 既のところで大剣の腹を滑り込ませて受け止めることが出来たミノタウロスだったが、その身体は大きく後ろへと下げられてしまった。

 攻撃を受けきったミノタウロスは現状ギリギリのところで受け止めているが、気を抜いたら殺られると感じていたその時、強烈な死の予感とともに強い衝撃がミノタウロスの体を襲った。

 ミノタウロスの首が左下へと向けられると、そこには深々突付きつけられたスレイの緋色の剣があった。


「あいつのばっか気を取られすぎたな!」


 ミノタウロスはクロガネの攻撃を防ぐのに気を取られすぎてしまい、スレイへの攻撃の手を疎かにした。


「お前は外側からの攻撃には強いけど、身体の内部から焼けるとどうなる?」


 そうスレイが問いかけた瞬間、ミノタウロスが焦るようにスレイの頭に手を伸ばそうとしたがすでに遅かった。

 剣の刀身を通して放たれた業火の炎がミノタウロスの体内を溶かして燃え上がらせる。

 生身の肉体をを失った故か叫ぶことは出来ずとも苦しそうにもがくミノタウロスは、内部から崩れ落ちそして体内に隠れていたコアが露出した。

 露呈した握りこぶしほどの大きさのコアは、必死に体内にコアを隠そうとするも炎が岩を溶かして隠れることが出来ない。


「今だクロガネッ!」


 緋色の剣から手を離し業火の炎を消したスレイが後ろへと飛び退くと、クロガネが前に飛び出した。


「終わりだ、くたばれ!」


 露出したコアへとクロガネが剣を一閃し露出したコアを両断した。

 コアを破壊されたミノタウロスは暴れだすと、錯乱したかのように魔法が暴発、部屋いっぱいに現れた無数の魔法陣とともに棘や柱が現れては崩壊する。


「クソッ、最後の悪あがきってか!?」


 次々に現る岩の柱や槍、果には剣までもがスレイを襲ってくる。

 剣は無く短剣一本で防いでいるスレイは、これがいつまで続くのかそう思った瞬間ミノタウロスの動きが止まり地面に倒れる。

 ミノタウロスが倒れて動かなくなると同時に、魔法陣が停止し岩の攻撃も止まって崩れ去る。攻撃が止まったのを見た二人ははぁ~ッと大きく息を吐いてから全身から力を抜いた。


「終わったぁ~」

「クソがッ、手間取らせやがって」


 のどが渇いた、そう思いながら空間収納を開いたスレイは果汁水の入ったボトルを二本取り出し、一口煽りながらもう一本をクロガネの方へと投げ渡した。

 初めは疑うの眼差しを向けるクロガネだったが、すぐにボトルの栓を開けて一息に飲み干した。


「うまいな」

「本当に、生きてる実感が湧くよ」


 最後の大暴れは流石に焦ったとスレイが呟くと、剣を杖にしてクロガネが立ち上がった。


「標的は討伐したんだ、さっさとあいつらのところに戻るぞ」

「そうだね。破壊したコアも回収したいし……あっ、ところでボクたちの方はどうする?」

「仕切り直しだ。今日はもうテメェとやり合うのはごめんだ」

「ボクもだよ」


 今日はもう早く休みたい、そう思いながらスレイも立ち上がると剣とミノタウロスのコアを回収することにした。

 破壊したコアはもちろんギルドへ提出するため、ダンジョンが死んだ証拠となるので回収は重要な仕事だ。

 ミノタウロスの身体に近寄ったスレイは先にコアを回収することにする。


「えぇっと、コアは…………ッ!?」


 コアがあるはずの場所を見たスレイは息を呑み辺りを見回した。


「クソ。どこにいった!?」


 キョロキョロと周りを見回しているスレイを不信に思ったクロガネが声を掛ける。


「おい、どうした?」

「どうしたじゃない!お前も探せッ!」

「はぁ?何がないんだよ」


 クロガネからしたらスレイが慌てている理由が分からないでいると、続いて必死な形相のスレイの口から出た言葉が全てを物語った。


「無いんだよ、()()()ッ!」

「───ッ!?」


 確かにコアは破壊したはず、なのにどうしてと思うよりも早く剣を構えたクロガネも辺りを見回しながら警戒を強める。

 ミノタウロスの残骸をくまなく調べたスレイはやはりどこにもコアがないことを確認し、まだあのミノタウロスは生きているのだと思ったその時、残骸の中に光り輝く何かが落ちていることに気づいた。


「これは………」


 それを拾ってマジマジと見ているスレイは、背後で何かが動く音が聞こえて振り返るがそこには何もなかった。


「なんだ?」


 嫌な予感がして倒れるミノタウロスの残骸から剣を抜いたスレイは、クロガネと合流しようとしたその時足を何かに強く掴まれる。

 なんだと視線を落としたスレイの目の映ったのは、地面から伸びる巨大な腕と牛の頭だった。


「クロガネ、こっちに───ッ!?」


 いたぞ、どう言おうとしたスレイだったが、その言葉は飲み込んだ。それはクロガネの目の前にもう一匹同じミノタウロスがいるからだ。

 なぜ?どうして、そんな感情がスレイの思考を止めたその時足元から何かが握りつぶされる音と痛みがスレイを襲った。


「ぁあああぁぁぁああぁぁぁぁ―――――ッ!?」


 足を握りつぶされ悲鳴をあげるスレイ、ぐらつき倒れそうになるスレイに全身を作り出し姿をミノタウロスが振り絞った拳が辺り壁へと突き刺さる。

 意識が遠のくのを感じながらスレイは、どうして増えるんだッと頭の中はその疑問でいっぱいだった。

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