ミノタウロスとの死闘 ①
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さて、ここからはダンジョン編も大詰め、サブタイからもわかる通りミノタウロスが出てきます。
始めは、普通のミノタウロスだと思っていた。
スレイが調べた付近を重点的に調べたユフィたちは、ようやく目的の魔物を見つけた。
通りの角から覗き込むようにその魔物を見ていたユフィが思ったのは上記のような感想だった。以前戦ったゴブリンの変異個体のように劇的な変化は見られなかった。
「なんていうか、普通の魔物だな」
そう、ヴィヴィアナの言う通り普通の魔物にしか見えないのだ。ただ、違うのは両腕に岩が突き出しているくらいだろう。
「なぁユフィ。ホントにあいつがこのダンジョンのコアを食べたのか?」
「たぶんね。見た目は大きく変化していないけど、魔力はものすごいよ」
魔力感知であのミノタウロスの魔力を確認したユフィは、あの魔物から感じる尋常ならざる魔力に冷や汗を流している。
ミノタウロスの異常なまでの魔力を感知したユフィは、近くで魔力感知を使っていたジュリアの方を見るとユフィと同じ結論に至ったようだ。
「あのミノタウロスが今回の標的で間違いなさそうよ」
「おっし、お前ら武器を抜いて準備しろ」
剣を抜きながら指示を出すフリードの言葉に従い、各々の武器を構えたユフィたちは続くフリードの言葉に耳を傾ける。
「ミノタウロスの相手は俺とジュリアさんでするつもりだが、何かあったときのためにお前たちにもミノタウロスについて簡単に説明しておくぞ」
そんな時間はあるのかとユフィがツッコミを入れそうになったが、フリードは気にせずに話を続ける。
「あいつらはまんま牛だ。瞬間的な突進力はかなり高く、加えて強靭な筋力も持ってるから掴まれないように気をつけろ」
「ならば自分の盾はあまり役にたちませんね」
「お前は盾以外も使え」
パックスに窘められたアーロンが気まずい顔をするのを横目に、フリードは話を続けた。
「後はミノタウロスの身体は断ち辛い、ヴィーちゃんのダガーもあんまり効かねぇかもな」
「あいよ。元々あたしじゃあれは無理だし、戦うことになったら素直に援護に回るよ」
刃渡りの短い短剣やダガーであの大物を相手取ることは無理だと分かっている。今回は援護や撹乱、援護をメインに戦うことを決めていた。
全員が自分の役割を理解したうえで、最後にフリードたちから言うことがあった。
「それと最後にこれだけは覚えておいて、変異個体は食べたコアの特性を引き継ぎ変異するわ。ただの魔物とはわけが違う上に、ダンジョンを取り込んだケースなんてほとんど無いから見た目からもどんな変異を遂げたのかその判断も難しわね」
「だからこれだけは言っていくぞ、もしも俺たちに何かあってお前たちが戦うことになったら、まずは見極めろ。なんでもいい、あいつの弱点になりうるものでも、それでも勝ち目がないと思ったらな、逃げていい。絶対に生き残れ」
フリードとジュリアの言葉を聞いた全員が首を縦に振って答える。
ミノタウロスの様子をうかがっていたフリードは、何かを警戒するように辺りを見回しているミノタウロスが後ろを振り返った瞬間、合図とともに全員が一斉に飛び出した。
アーロンたちが前で武器と構え、その後ろでユフィとヴィヴィアナがいつでも援護できる構えを取っている。
ユフィたちを置き去りにして前に出たフリードとジュリアは、ミノタウロスをに向かって走っていく。
「ブモッ!?」
突然のフリードたちの急襲に驚きの声を上げるミノタウロス、それを見逃さないフリードが剣を一閃してミノタウロスの指を数本落とした。
「くッ、やっぱり硬ってぇな!」
振り抜いた剣を引き戻しもう一撃与えようとしたフリードだったが、それよりも速く握りしめられたミノタウロスの拳が振り抜かれたが、フリードはわずかに身体をずらすことで拳をかわし、振り抜かれた腕を斬り落とす。
「ブモォオオオオォォォ―――――ッ!?」
切り落とされた腕から血が吹き荒れ暴れ狂うミノタウロス、それを見たジュリアが杖に魔力を流す。
「──フリージング・ブラスト」
放たれた氷の魔力がミノタウロスの両足を凍てつかせると同時に砕け、ミノタウロスの巨体が地面に倒れた。
「なんだコイツ、弱いな」
あっけなく倒されたミノタウロスを前に、あまりにも拍子抜けだと思ったフリードがそう呟いた。だが、経験上こういった場合が一番危険なのは重々理解していた。
速くとどめを刺さなければ、そう思いながらミノタウロスの首を刎ねようと剣を振り上げたその時、目を血走らせたミノタウロスの咆哮が響き渡った。
「ォオオオオォォォ―――――ッ!!」
叫んだミノタウロスの声にフリードが怯んだ。
何をするつもりだろうとも剣を掲げて振り下ろそうとしたその時、踏みしめたその瞬間フリードの足元に魔法陣のようなものが現れ輝き出した。
「なんだ、これ?」
どこかで見たような、そんな感想を思い浮かべたその時背後からジュリアの声が聞こえた。
「フリードさん!!」
声に反応して振り返ったフリードの視線の先では、ジュリアの足元にも同じ物が浮かび上がりそして一瞬にして姿が消えた。
「ッ!?ジュリアさん!!」
ジュリアの名前を呼んだフリードはその時点で察した、この魔法陣はダンジョンのトラップの一つ、転移の魔法陣であるということに気付くと同時に目の前の景色が変わる。
フリードはただ一人、どことも分からない場所で無数の魔物取り囲まれるのであった。
⚔⚔⚔
戦いを見守っていたユフィたちは、フリードとジュリアの戦いを見てこれはすぐに方がつくと思っていた。
「なんだよあの牛野郎、てんで弱いじゃねぇか!」
「そうだね」
ヴィヴィアナの言う通りあまりにも一方的な展開に拍子抜けしてしまったユフィだったが、本当にそうなのかという疑問もあった。
変異個体特有の能力もみせず、ただ一方的に勝負が決まりそうなことに疑問を感じた直後、ジュリアとフリードの足元に魔法陣が展開された。
───なに、あの魔法陣!?
そうユフィが心のなかで叫んだと同時にジュリア、フリードの順でその姿がどこかへと消えていった。
目の前で何が起きたのか、呆然と目の前で起きたことを眺めていたユフィは思考が追いつかない。
二人が消えた、死んだ?一瞬頭の中によぎったその言葉がユフィの意識を暗い闇に引きずり込もうとしたその時、真横から必死に呼びかける声が聞こえた。
「おいユフィ!何ぼさっとしてるんだ!!」
ヴィヴィアナの声にハッと我に返ったユフィは、こちらを見ているヴィヴィアナに声を返した。
「ごめん、平気。ありがとう」
「気にすんな、それより行けそうか?」
「うん」
「じゃあ構えろ、あいつ何かする気だぞ」
武器を構えたアーロンとパックス、その前方では倒れていたミノタウロスが身を起こそうとしていた。
残った片腕で地面をついたその時地面が蠢いたかと思うと、今しがたフリードに斬り落とされた指に岩が繋がっていき再生していた。
「何じゃあれは!」
「岩がくっつきましたよ!?」
驚きの声を上げる二人、その思いはユフィも一緒だったが今のであのミノタウロスのことが少しだけ理解できた。
「たぶん、アレが変異機体としてのあのミノタウロスの能力だよ」
冷静にユフィがそう解説すると、両足の再生を行っているミノタウロスに注意しながらアーロンが問いかけた。
「どういうことですか?」
「ダンジョンはいくら壊されても、すぐに修復されるでしょ?それと同じであのミノタウロスも同じことが出来るの」
「自己再生か、厄介な力じゃがなぜ岩なんじゃ?」
「変異個体は取り込んだコアの特徴を引き継ぐの、だからあのミノタウロスはダンジョンそのものってわけ」
そう説明しながらユフィは何かに思い至り、懐からプレートを取り出して起動させる。
マップを呼び起こし皆につけている発信機の信号を確認していたユフィは、ここより遥か階層に探していた反応を見つけて安堵の息をついてから話を続けた。
「あのミノタウロス、再生能力以外にもダンジョンのトラップなんかも使えるみたい」
「あぁん?なんでそんなこと言えんだよ」
「さっき、二人を消したのたぶんダンジョンの転移トラップだよ。その証拠にこれ見て」
ユフィはみんなに見えるようにプレートのマップを見せると、そこにはここより遥か離れた場所に二人の位置を示した反応があった。
「簡単には死なぬとは思っていたが、合流はできそうかの?」
「無理だと思うよ。忙しなく動き回ってるところを見ると二人共戦闘中みたい」
「なら、あたしらでやるってわけか」
タガーを構え直したヴィヴィアナの視線の先では、切り落とされた片腕、そして砕かれたはずの両足を再生させ立ち上がったミノタウロスがそこにいた。
このメンバーであのミノタウロスと戦って勝機はあるのか、そんな不安がアーロンの中にはあった。
「とんだ新人研修になったもんじゃな!」
「えぇ。全く!」
盾と斧を構えはアーロンとパックス、その後ろではヴィヴィアナが左右のダガーを構えている。
「みんな、ここから逃げるって事もできるけど、いいの?」
戦う意志を見せる三人にユフィがそう告げると、ヴィヴィアナが否定した。
「冗談言うんじゃねぇ!あたしらは冒険者だぜ!ここで逃げたら名がすたるってもんだろ!」
「倒せずとも、お二人が戻られるまで粘ってみせます!」
「わしもここで逃げるようなら冒険者なんぞやっておらんわ!」
三人の意気込みを聞いたユフィはコクリと頷いてから空間収納を開くと、数体のアタックシェルとガードシェルを起動させた。
「わかったよ。援護するからみんな、存分に暴れて!」
「「「おうッ!」」」
ユフィの言葉に答えた三人がミノタウロスに向かっていく、戦いの火蓋が切って落とされた。
⚔⚔⚔
ユフィたちがミノタウロスと戦いを始めた頃、クロガネの仲間である仮面の二人組はかなり遠くか聞こえてくる戦闘音、そして魔法を使用した時の魔力の残滓を感じていた。
「遠いけど、この音………誰かが戦ってるわね」
「微かに魔力も感じるが、遠すぎて旦那さまの物かはわからぬな」
「行ってみましょう。どのみち人に会えるならそれに越したことはないわ」
「賛成じゃ。敵であろうと旦那様を見つける手がかりにはなる」
そう話し合った二人は武器を握りしめて音のする方へと向かっていくのであった。
⚔⚔⚔
ミノタウロスと戦っていたアーロンたちは変異個体の恐ろしさを身を持って味わうことになった。
「今ので、何度目ですか?」
「分からぬ。数えるのも飽きたわ!」
もう何度あのミノタウロスを攻撃したかも分からない。
始めはアーロンが盾で抑えパックスの斧で上半身を斬り裂いたが、その傷もすぐに癒え続くヴィヴィアナの攻撃も全く通用しなかった。
「クソッ!こいつマジでめんどくせぇ!!」
「ヴィーちゃん、文句言わないで頑張って!」
ユフィとヴィヴィアナは前衛二人の側に現れる岩の棘を破壊していた。
ダンジョンの地形変化、それを利用してミノタウロスが攻撃を繰り返す。
ヴィヴィアナが目の前の岩の棘を全て斬り裂き、前がひらけたところで叫んだ。
「おいユフィ!次ッ!!」
「分かってる!みんな下がって!───ウィンド・ストーム!」
杖から放たれた風がミノタウロスを飲み切り刻んだが、ミノタウロスの身体を僅かに傷つけるに留まった。
「これもダメか」
「ユフィさん!ヴィーさん!もう一度行きます!」
「今はお前の魔法しか勝機がないんじゃ!頼んだぞ!」
「了解!援護しつつもう一度行くよ、ヴィーちゃん!しばらくお願い!」
「あぁ、あぁ!わかったよッ!」
今現状、ユフィの魔法はあのミノタウロスにダメージを与えられる唯一の攻撃手段だが、今のところミノタウロスを倒せるほどのダメージを与えられていない。
三人でミノタウロスを押さえながら何度もユフィの魔法で攻撃を与え続けたが、ミノタウロスは倒れることなく向かってくる。
加えて、生身の肉体を失うごとにミノタウロスの再生速度が上がっていく。
「どうしたらあれを倒せるんじゃ!?」
「分かりませんよっ!」
振り抜かれた拳をアーロンの盾が受け止め押し留めたところをパックスの斧がミノタウロスの足を砕いた。
「今じゃ!」
「うおぉおおおおおおおぉぉぉぉ―――――ッ!!」
両足を斬られ崩れ落ちるミノタウロスに向かって盾を構えたアーロンが突っ込んだ。
身体強化を施したアーロンの脚力がミノタウロスを押して壁へとぶつけた。
「ブモッ!?」
「ユフィさん!今ですッ!」
ミノタウロスを壁へと押しやったアーロンが飛び退くと、その後ろで魔法の準備をしていたユフィが魔法を放った。
「行くよッ───アクア・ブラスト!」
ユフィの杖、そして無数に配備されていたアタック・シェル、死角をなくすように展開された魔法陣から水魔法が一斉に放たれる。
水魔法がミノタウロスをさらに壁へと押し付け、魔法が止まるとミノタウロスはその巨体を地面に横たえたがダメージを与えれているとはいい難い。
なんでこの場面であんな魔法を?そうアーロンたちが思っていると、ヴィヴィアナがユフィに向かって叫んだ。
「おいユフィ!なんだよあれ、いまさらあんなの効くわきゃねぇだろ!?」
「それでいいの!それよりヴィーちゃん、これ投げて!」
次の魔法の準備をしていたユフィは、叫ぶヴィヴィアナに投擲用のナイフを渡した。
「目でもどこでも良いから速く!」
「えっ、あっ。わかったよ!」
渡されたナイフを受け取ったヴィヴィアナは、ナイフに闘気を流し込みながらユフィに言われるがまま投擲した。
闘気を纏ったナイフは真っ直ぐミノタウロスの身体に突き刺さった。
「これで良いのか!?」
「オッケー!みんな離れて!」
真っ直ぐ構えられたユフィの杖、その宝珠に浮かび上がっている魔法陣が僅かに輝きスパークするのを見たヴィヴィアナたちは、即座にその場から離脱した。
「外がダメなら内側から───ライトニング・ボルトッ!」
先程の水魔法と同じように杖とアタック・シェル、四方から放たれた落雷がミノタウロス身体へと落ちるが、誰もが効果はないと思った。
「グモォォオオオオオーーーーーーーッ!?」
雷に撃たれたミノタウロスが苦しみの声を上げてその巨体が今度こそ地面に倒れ活動を停止した。
しかし、いったいなぜ雷がミノタウロスに効いたのか、理由がわからないヴィヴィアナたちが考えているとユフィがその答えを言った。
「いくら身体が頑丈だからって言っても、内側はそうはいかないかなって思ったんだけど、考えがあたって助かったよ」
「ってことは倒せたのか?」
「わからないけど、身体の中が焼けてるから多分」
いくらダンジョンのコアを捕食した変異個体であっても肉体は生き物のまま、身体の中を焼かれれば生きてはいられないはずだ。
「動きはしませんが、念の為頭を落としておきましょうか」
「わしがやろう。下がっておれ」
パックスがミノタウロスに近づくと握りしめてた斧を大きく振り上げ用としたその時、地面に無数の魔法陣が展開される。
展開された魔法陣を見たユフィは嫌な予感がして叫んだ。
「ッ!?パックス下がって!!」
ユフィの声を聞いてパックスが後ろに飛ぼうとしたその時、魔法陣が輝くと無数の棘がパックスの身体を貫いた。
「ごふっ」
全身を石の棘で突き刺されたパックスが血を吐きながら意識を失った。
「パックスさん!」
「クソッ!」
意識を失ったパックスを助けるべくアーロンとヴィヴィアナが駆け出そうとしたその時、ユフィは彼らの正面で動く影を見て叫んだ。
「二人共、危ないッ!」
その声が届いたその時、二人は自分たちの前に迫りくる巨体を目にする。いつの間にか起き上がったミノタウロスが拳を振り上げて向かってきたのだ。
アーロンとヴィヴィアナが守り構えを取り、ユフィがガード・シェルを操ってシールドを展開させたが、ミノタウロスの拳はシールドごと二人をなぎ倒した。
「───ッ!?」
ユフィの目の前でなぎ倒された二人が壁に叩きつけられ血の花を咲かせる。
あれはまずい、速く治療しなければ、そうユフィは考えるも動くことは出来ない。なぜなら目の前にいるミノタウロスは絶対に逃がしてはくれないからだ。
ミノタウロスが拳を振り上げたその瞬間、ユフィは杖を構えて魔法を発動する。
「───シールドッ!」
真上から振り抜かれる拳に対してユフィは、自分をすっぽりと覆うようにドーム状のシールドを張って受け止める。
ドスンッ!とミノタウロスの拳が振るわれる事に地面が割れ、シールドが軋む音が聞こえる。
「っ、このままじゃ」
すぐにでも破られる。
ゲートを使ってダンジョン逃げることを考えたユフィだったが、そんなことをしたらみんなが助からない。どうすれば良いのか、考えを巡らせながらギリッと奥歯をかみしめたその時、キィーンッと何かが当たる音が響いた。
「なに?」
音とともにミノタウロスの動きが止まった。
魔力を込めながらシールドを修復したユフィは辺りを見回しながら、今の音は何だったのかと探っているとミノタウロスの足元に何かが落ちているのが見えた。
「あれは……黒い、ナイフ?」
どこかで見覚えがあるようなナイフをみながらそう呟いた瞬間、通路の奥から吹き荒れた風の礫がミノタウロスを吹き飛ばした。
「なに、今度は魔法!?」
風から感じる魔力にまさかと思ったそことき、通路の奥から剣を握り仮面をつけた赤髪の女性が現れミノタウロスに向かっていった。
「なんじゃこやつ、厄介そうじゃな!」
嬉々としてミノタウロスへと戦いを挑む赤毛の少女を見ながら、あれはいったい誰なのかそう思っていると、赤毛の少女が現れた通路から気配がした。
「しぶとく生きてたみたいね、ユフィ」
聞こえてきた女性の声、そして通路の奥から現れた仮面の少女の姿を見たユフィは、安心したように乾いた笑い声を上げていた。
「あはははっ、なんだ。本当に来てたんだ。アカネ」
仮面の少女アカネの名を呼びながらユフィはシールドを解くのだった。
⚔⚔⚔
シールドを解いたユフィは赤毛の少女がミノタウロスの注意を引いているうちに皆を助けることにした。
「みんな、ひどい怪我だけど……まだ間に合う」
よかったとは言わない、まだ間に合うとは言え一人で重症者三人の手当は難しい。ポーションが残っていれば、そう思っていたユフィの目の前にポーションの瓶が差し出された。
「あげるわ」
「でっ、でも……いいの?」
「どの口がって言われるかもしれないけど、目の前で死なれるのは目覚めが悪いのよ」
初対面のときアカネたちはスレイの師ルクレイツアを殺すために現れた。
それでも今の言葉は信じても良い、そんな気がしたユフィは差し出されたポーションを受け取った。
「ありがとう。後でちゃんと返すから」
「いらないわ。それよりもあの魔物の情報をよこしなさい」
アカネはミノタウロスと戦う赤毛の少女を心配しているのだろう、ポーションをもらった手前断るわけにもいかない。
「ダンジョンコアを捕食したミノタウロスだよ。身体の再生でじゃなくってダンジョンの操作も可能みたい」
「なるほどね。だからあんた、そいつらの足元にシールドを張ってるのね」
「うん。私の魔力でダンジョンの魔法を阻害してるんだけど、さっきからバンバン殺す気で使ってきてるわ」
これもいつ破られるかわからないが、治療をやめることだけは絶対にできない。
「あれを倒す方法、何かないわけ?」
「……体内に雷を流しても生きてるくらいだから、後できることは残った生身の身体を全部吹き飛ばすくらいしか思いつかないけど」
「だったら、それで行きましょう。アレの相手は私たちがするから治療を終えたらあなたの魔法でやって」
短剣を構えてミノタウロスの方へと向かおうとしたアカネ、それをユフィが呼び止める。
「アカネ待って!これ持っていって」
ユフィは懐から小さな小瓶を取り出してアカネに投げ渡した。
カランと音を立てたそれを見ると、中には小さな貝殻のような粒が二つはいっていた。
「なによ、この小さな貝殻みたいなの?」
「私のゴーレム、魔石を内蔵した試作品だから強度はないけど、三回までなら守ってくれるから」
「助かるわ。それで使い方は?」
「瓶を開けて"オン"って唱えればいいから」
「分かったわ」
走りながら瓶を開け、小さくアカネが起動音を唱える。
すると瓶の中から瓶の中で姿を変えたそれはアカネの周りを浮かんでいる。ちゃんと起動したのを確認したアカネは、瓶を捨てると、袖口に隠していたナイフを取り出し指の合間で掴んで闘気を流した。
「レティシア、待たせたわね!」
声をかけながらレティシアと呼ばれた少女めがけてナイフをすべて投擲すると、レティシアは身をかがめるとナイフはすべてミノタウロスへと当たった。
ナイフでミノタウロスが怯んだのを見たレティシアは、剣に魔力を流しながらその切っ先を向けた。
「吹き飛べ───ウィンド・ストーム!」
剣の柄頭につけられた宝珠が輝くと、剣の切っ先に魔法陣が展開され発動された風魔法がミノタウロスの巨体を吹き飛ばした。
「全く遅いではないか。よもや妾のことを忘れておったわけではあるまいな?」
「なわけないでしょ。ユフィから情報をもらってきたわ」
「それとなしにではあったが聞こえておった。よもやダンジョンの力を持った魔物とは、奇妙なものじゃない」
流石だと思ったアカネは起き上がったミノタウロスの姿を見ながら短剣を構える。
「さてアカネ。作戦はあのユフィとか言う娘がとどめを刺すので間違いなんじゃな?」
「その通りよ。何か問題ある?」
「ありゃせんがな、あわよくばこの場でお主を抹殺、なんぞ考えぬのかと思ってな」
「その時は私が先に殺すわよ」
アカネの返しにレティシアは笑って答えると、向かってくるミノタウロスを見ながら二人は武器を構えるのであった。
⚔⚔⚔
三人の治療をしながらミノタウロスと戦う二人を見ていたユフィは、ただ一言すごいと溢した。
基本的にアカネが撹乱しその隙に赤毛の少女レティシアが剣の杖、剣杖による魔法と近接戦でミノタウロスを翻弄している。
あの二人だけでミノタウロスを倒せるのでは?一瞬ユフィがそんな事を考えたが、それは難しそうだった。
アカネの短剣もレティシアの魔法も剣技もミノタウロスには通じていない。
「ちょっとユフィ!あんた、まだ治療終わらないの!?」
「もう少しだから待ってて!」
急かされるユフィだったが本当にあと少しで治療が終る。速く、ゆっくりそれでいて丁寧に治療を進めていき、そしてようやく治療を終えた。
「ふぅ……アカネ!こっち終わったよ!」
治療が完了しみんなを守るためにシールドを何重にもかけてその場から離れる。
「だったら速く来なさい!」
ユフィの返事にノールックで返したアカネは、魔法陣から突き出してきた岩のトゲを切り裂きながらナイフでミノタウロスを迎撃し、怯んだ隙にレティシアが接近して剣杖で二の腕を斬り裂いた。
「チィ、やはり倒せぬか」
「ユフィ!さっさと魔法使いなさい!」
アカネが叫ぶのを聞いたユフィだったが、あれを一撃で倒すには今の魔法では倒しきれない。
今ある全ての魔力を消費すれば出来るだろうが、もしもそれで倒しきれなかった場合を考えるとそれは出来ない。ならばどうするか、答えは簡単、今この場で魔法を改変するのだ。
「アカネと、レティシアさんだっけ?ちょっと間でいいから時間稼いで!」
叫びながらポーションを飲んだユフィは杖を構えながら魔法陣の構築を行っていく。
「具体的にどれくらいよ!?」
「二分!出来なきゃ一分でもいいよ!」
「わかったわよ!行けるわね、レティシア!」
「問題ありゃせん!」
そう答えた二人がミノタウロの注意をひくために攻撃を続けている。
使うのは炎魔法だが、今のままでは少しでも威力を上げるための改変、炎魔法だけでな風魔法を組み込み威力補強し、組み上げられた魔法陣が構築されていく。
「二人共、避けて!──フレイム・ブラストッ!」
ユフィが魔法の名前を叫んだその瞬間、炎が光のように放たれる。
魔法が発動したのを察知したアカネとレティシアが回避すると、正面にいたミノタウロスが炎に飲まれて崩れていった。
「やった、のかな?」
ミノタウロスの魔力や気配が感じないのを確認したユフィが杖を下ろすと、アカネとレティシアが近づいてくる。
「全く、時間かけすぎよ……まぁ、倒せてよかったけど」
「即興での魔法改変、なかなかに良かったぞ」
「えへへっ、ありがと」
敵にお礼を言われるには何だか変な気分がしたが、それでもミノタウロスを倒せて良かった。
ダンジョンの脅威も倒され後はみんなと合流するだけだ。空間収納からオウルを取り出すと懐から取り出した手帳に何かを書く。
書き終わったページを破り脚にくくりつけた。
「オウル、スレイくんのところにまで行って」
「ほぉ~」
「あなたたちも一瞬に行けば?多分、クロガネもそこにいると思うよ?」
「そうか。ならば案内任せようか」
意外にもその提案を了承したレティシアに驚きつつも、ユフィはオウルに指示を出そうとしたそのとき突如三人の足元に影が差し込んだ。
「「「────ッ!?」」」
真上から感じる強烈なプレッシャーに気配、間違いなく奴がいるのだと感じ取った三人は同時に動いた。
「───ガード・シェル!」
「ハァアアアアーーーーッ!」
「ヤァアアアアーーーーッ!」
ユフィが身を守るためにガード・シェルを配備する中、殺られるならばと前に出るアカネとレティシアだったが、二人の目の前に現れた巨大な刃が二人の身体を払い除けた。
「アカネッ!レティシアさん!?───くッ!?」
杖を構え魔力弾で二人を払い除けた主を攻撃した。爆炎が吹き荒れ視界が塞がれたの見ながら倒れた二人のもとに駆けタユフィは、治癒魔法を使いながら声をかけた。
「二人共、生きてる?大丈夫!?」
「けほっ……いっ、いきてるわよ」
「わっ、妾……もじゃ」
どうやら深い傷は負っていないようで安心したユフィは、治癒が終わると同時に杖を前に構える。
「ねぇ今のって」
「えぇ。なんで生きてるのよ!」
「全く、どうやれば殺せるのやら」
焦りを隠せないでいるユフィとアカネ、対して冷静を装うも内心では焦りを見せるレティシアの三人の前には岩の身体を持ったミノタウロスが立っていた。
なぜ生きているのか、そんな疑問を考えながらも今はやつを倒すしかない。
「オウル、スレイくんのレイヴンに連絡、緊急事態!」
「ほぉ~!」
ユフィがオウルにそう叫んだ瞬間、ミノタウロスが魔法陣を展開してオウルを叩き落とした。
「オウル!?」
「ユフィ前っ!」
「えっ、あッ!?」
発動された魔法に気を取られ接近したミノタウロスに気づかなかった。
身体と同じように石を使って作り出した剣を振り上げるミノタウロス、杖を前に構えシールドを発動するが魔力が足りずに簡単に破られてしまった。
「キャァッ!?」
シールドを破られ杖を構えて受け止めたユフィだったが、ミノタウロスの筋力には勝てずに吹き飛ばされる。
「こいつッ!」
「なっ、待つんじゃアカネッ!」
レティシアの静止の声を聞かずに駆け出したアカネは、短剣を突き刺そうと走り出したところをミノタウロスが掴んで引き寄せる。
引き寄せられたアカネの身体にミノタウロスの膝が突き刺さると、ミノタウロスの膝から岩の杭が伸びる。
「カハッ!?」
アカネは咄嗟に身体を反らしてかわしたが、伸びた杭がアカネの腹部を掠め血が流れ出る。
「アカネッ!?クソっ!」
血を流して倒れるアカネを見たレティシアは、懐から取り出したポーションの瓶を開けてアカネの身体に投げる。
震える手で投げられたポーションを受け取ったアカネは、傷口にポーションをかけて傷を癒したがこれでは動けそうにない。
「許さぬぞッ!」
アカネとユフィをやられ、ひとり残ったレティシアが剣杖に炎をまとわせて向かっていく。
炎をまとった剣が連続でミノタウロスの岩の身体を切りつけるが、これでも効果は望めない。ならばと距離を取ったレティシアが剣の切っ先を向けながら魔法を放った。
「これならどうじゃ!───アクア・エッジ!」
高圧の水の刃がミノタウロスの身体を両断したが、すぐさま遺された下半身から上半身が生え伸びた腕がレティシアを捕まえた。
「くっ、離さぬかッ!?」
ミノタウロスの口元が歪んが、そう思った次の瞬間レティシアの身体が離され振り下ろされた拳によって地面へと叩きつけられた。
「がはっ!?」
血を吐き、レティシアも倒れる。
ミノタウロスは地に伏せるアカネとレティシアに岩の拘束を付けると、遠くで倒れるユフィにも同じ拘束具を付けて持ち上げた。
あぁ、死ぬんだ。
迫りくる死を前にしてユフィの頭は至って冷静だった。
ゆっくりと振り上げられる剣を見て自分の最期を悟る。
「ごめん、ね……スレイ、くん」
赤黒い炎の閃光とともにミノタウロスの身体が吹き飛び、続けて誰かが駆けてくる足音とともに身体の拘束が解かれた。
わずかな浮遊感と共に身体が倒れると、誰かに受け止められた。
「ごめんユフィ、遅くなった」
その声を聞いたユフィは両目をパッご見開かれ、そして小さく笑みを浮かべるのであった。
「ありがとう、スレイくん」




