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ダンジョンの街

ブクマ登録、誤字報告ありがとうございました。

以前次の話でダンジョンの探索に入ると言いましたが、すみません後一話だけダンジョンの外のお話をします。

 首都デイテルシアを出発して二日と半日、ダンジョンのそばにある小さなその街にたどり着いた。街は明るい日差しが射しているにもかかわらず、多くの人たちが下を向いて暗い表情を浮かべていた。

 街の中を歩いていたスレイはそんな人たちの表情を見ながら小さな声で呟いた。


「みんな、顔が暗いな」

「そりゃそうだろうよ。なにせこの街の住人みんなが稼ぎをなくなったんだからな」

「仕事だけじゃないわよ。見て故郷をなくした子供たちもいるわ」


 ジュリアがある一点を見ながらそう告げるとスレイとフリードも、釣られるようにジュリアの見ている方を見る。すると、そこでは小さな子供が両親と一緒に馬車に家財道具などをのせている姿を見ていた。


「仕方ないさジュリアさん。これはどのダンジョン都市に言えることなんだから」

「………そうね」


 ここでなぜダンジョンについてより詳しい説明をしておく。

 以前にはダンジョンの生まれかたについて説明したことがあったが、これについて一つ説明を追加する。

 ダンジョンに存在する多くに魔物は、過去にダンジョンの元になった洞窟や迷宮に住み着き死んだ魔物が、長い年月を経て生れたダンジョンが新たに産み出したものだ。

 なのでダンジョンに生きる魔物のほとんどは姿や形が今の物よりも違う場合が存在する。

 その理由は魔物も時間をかけて進化するものだからだ。

 なのでダンジョンが古ければ古いほど、なかで産み出される魔物の姿形も違ってくるのだが、そんなことは今はどうでもいい。


 ここからが本題だが、なぜダンジョンの存在する場所に街があるのかを説明しよう。

 まずはダンジョンでは当たり前だが魔物が存在する。

 当たり前だが魔物と戦えば武器や防具が痛む。その度に近くの街の工房に修理の依頼に行けばその分ダンジョンに潜れず大きな損をする。

 ならばどうするか、答えは簡単だダンジョンの近くに工房を建てればいい。

 だがそれだけではダメだ。

 連日多くの冒険者がやって来るが、一度ダンジョンに入れば時間がわからない。

 出てきたら夜だったと言うこともあるだろう。ならばどうするか?そうダンジョンの近くに宿屋を建てればいい。

 食べ物がなければ飲食店を、服がダメになったら服屋を、靴がダメになったら靴屋を、武器がダメになったら武器屋を、そうして作られてきたのがこうしたダンジョンの街だ。


 長くなってしまったが、ダンジョンが死ぬと言うことは多くの人の生活がなくなると言うことだった。


「さて、そんじゃあ今日はこの街で休んで明日ダンジョンの調査に行くぞ」


 フリードの声を聞いてスレイたちも賛同したが、この状況でまともにやっている宿屋があるのかとも思ったが、かなりの宿屋が未だに開店していた。

 ついでに言えばなぜか娼館も開店しておりスレイたちの元に娼婦が客引きしてきたが、ユフィとジュリアの放った本気の殺気で一瞬にして散っていったのだった。


 ⚔⚔⚔


 カランとドアのベルが鳴った。


「いらっしゃいませ。宿泊ですか?お食事ですか?」

「宿泊で、部屋八人分空いてる?」

「はい。空いてます」

「そんじゃ一泊たのんます」

「はい。それではご記名をお願いします」


 フリードが代表して全員分の名前を記入していた。


「それでは鍵になります」

「ありがとね」


 戻ってきたフリードの手には八人分の鍵が握られており、一人ずつ鍵を渡していき最後に残されたスレイの元に鍵を渡したとき、こっそりとこんな事を言った。


「お前の部屋ユフィちゃんの隣だけど、夜這すんなよ?」

「まだ言うか!?」

「あぅぅ……ッ」


 未だにこのネタでからかわれるスレイ、ちなみにユフィは顔を真っ赤にしてうつむいている。


「まぁ、あんなことをしてたらね~」

「うぅぅ………ごめんなさい」

「…………申し訳ありません」


 ニヤニヤとしたジュリアの顔を見てスレイとユフィは揃って顔を赤くする。


「恥ずかしがんなら最初からやんなっての」

「ヴィ、ヴィーちゃん……だ、ダメだよ。そんなこと言っちゃ……?」

「いいんだよ、一番の被害者はアタシなんだからよ」


 ぐうの音も出ないスレイとユフィは、これ以上は何を言ってもただ単に傷口に塩を塗るだけだ。それどころか傷口を無駄に広げるだけなので、二人は諦め顔で自分の部屋に向かおうとした。


「明日、昼に集合だからな」

「りょーかい」

「わかりましたぁ~」


 出発の時間をフリードから聞いた二人は、適当な返事を返してから自分の泊まる部屋の前にやって来た 、


「……それじゃあユフィ」

「……うん。また後でね」


 それだけ言って二人は部屋の扉を閉めた。


 ⚔⚔⚔


 夕食後、スレイは自分の部屋のベッドに横になりながらアラクネの視界にリンクしていた。

 左目をつむり片方だけ開けている目に写っているのは、スレイの泊まっている部屋の天井ではなくどこかの木の上から見える茂みと、これまたどこかの宿屋の壁だった。


「ミハエルは別の宿か、一応アラクネはこのままにしておくか」


 そうこの風景はスレイがミハエルの後をつけさせたアラクネの見ている光景だ。

 宿の中に入っていないのは、これ以上近づいたらさすがに誰かしらに気づかれる可能性があったからだ。

 ちなみにストーカーじゃないかとユフィに言われたがそんなことは無視だ。

 なぜかと言うとまずそんな法律がこの世界に存在してない、つまりはかなりグレーゾーンではあるが大丈夫だという理由だ。

 アラクネとのリンクを切ったスレイはベッドに横になった。


「ふはぁ~、そろそろ寝るか」


 明日は昼に集合と言われたが早めに眠ろうと思ったスレイは、部屋着から寝間着に着替えようとした時部屋をノックする音が聞こえた。


「はーい、だれ」

「私だけど、今いいかな?」


 返ってきた声の主はユフィの物だった。

 こんな時間にどうしたんだろうと思ったスレイは、扉の奥のユフィに声をかける。


「開いてるからどうぞ」

「おじゃましまーす」


 部屋に入ってきたユフィは風呂上がりらしく濡れた髪に、微かに頬を紅く染めていた。さすがに寝巻きではなくシャツと半ズボンと部屋着のようだ。


「風呂上がり?」

「うん。いやぁ~久しぶりのお風呂は気持ちよかったよ。スレイくんも入った?」

「さっきね、椅子無いからベッドに座って」


 コクリと頷いてからベッドに腰を下ろしたユフィに、備え付けの水差しからコップに水を入れて差し出した。


「水、どうぞ」

「ありがとうスレイくん」


 コップを渡したスレイは壁にもたれかかりながらユフィが部屋に来たことを問いかける。


「それで、こんな時間に何のよう?」

「実はね、前から作ってた魔道具なんだけど明日のダンジョンの攻略のときに使えそうだから仕上げたかったんだけど、私一人じゃ間に合わなくて」

「つまり、魔道具造りを手伝えってことか」

「うん。後レイヴンを貸してもらいたかったの」

「あぁ、それなら良いけど………おいレイヴン起きろ」

「……カァー」


 スレイは机の上で寝ていたレイヴンに声をかけると、翼で目元をこすったレイヴンは浮かび上がりスレイの肩に止まった。

 二人は肩に止まるレイヴンを見ながら複雑そうな顔をしていた。

 その原因は目の前に座っているレイヴンの行動だった。

 設定や覚えさせたことのないコミカルな動き、まるで人間がしているような自然なまでの目を擦る行為、前々からいつかやるのではないかと思っていたそれを、ついにやったことに絶句した。


「……こいつマジで何か取り憑いてんじゃないか、こいつ」

「……ねぇスレイくん。私前から思ってたんだけど、一度教会でこの子達お祓いしてもらわない?」

「……実害はないし、ほっといてもいい気がするけど……頼んでみるか」

「……そうしよ。絶対にお祓いしてもらおうね!」


 ユフィがスレイに必死で訴えかけるので、この依頼が終わったら速攻で海を越えてはるか遠く南方大陸、ルーレシア神聖国に行こう、そう心に決めたスレイとユフィだった。


 ⚔⚔⚔


 二人で盛大に話を脱線させたが話を戻した。


「それで、これがその魔道具?」


 スレイは渡された小さなバッチを手にいろんな角度から眺め、刻まれている魔力回路を見ながら問いかける。


「これね、発信機なんだけど」

「発信機!?なんでまた」

「本当はパーシーちゃんの一件で作ってたんだけど、途中まで作ったんだけど必要なくなったからそのままにしてて」

「あぁ~、そう言えばこってり絞られてたもんねあの子達」

「うん。それでダンジョンで転移トラップがあるって聞いて、対策で使えないかなって」


 転移トラップによる遭難や死亡の事例はよく聞く話だ。

 死んだダンジョンとは言えそういうトラップがまだ機能している可能性もあるので、これが有ると無いとではダンジョンでの安全性が格段に変わってくる。

 改めて魔力回路を確認したスレイは、そこに付与されている魔法を読み取りながら感心したように呟いた。


「あぁ、なるほど……原理としてはトレースの魔法を組み込んでるのか、でもどうやって追跡するんだ?」

「んっとね。私のオールとレイヴンに付与してるコネクトを組み込んで、その形跡を追跡できるようにするつもり」

「そうか……それならアラクネにも付与できるな」


 時間の関係であまり多くのアラクネには出来ないが、人数分くらいはできるだろうと呟いた。


「それじゃあ、ボクはレイヴンたちへの付与のしなおしを担当すればいいの?」

「うんん。そっちは私がやるよ」

「えっ、それじゃあボクはなにを?」

「スレイくんは、これをお願い」


 差し出されたのは筒状に丸められた紙だった。

 スレイは受け取ったそれを広げて見るとそれはどうやら魔道具の設計図のようだ。書かれている回路と付与予定の魔法を確認したスレイは、すぐにこの魔道具がなんなのか理化した。


「ユフィ、これをマジで作る気?」

「うん。そのつもり」

「ちょっと待って……今これを作るリスクを考えるから」


 ユフィが作ろうとしている魔道具はそれ一つで今の常識を変えてしまうだろう。


「なぁ、これに似た魔道具って現状で開発されたって話はなかったよね?」

「無いはずだよ」

「そうだよね。ボクも聞いたことがない」


 それを確認したスレイはコクリと頷いて作ることを了承した。


「ユフィ、これを作るにあたっていくつか条件がある」

「うん」

「まずはこれを信用できる相手以外に渡さないこと、それと万が一盗まれた時こっちで破壊できるようにすること」

「うん。それだけ?」

「取り敢えずはそれだけ……後、もしもこれを売り出すことがあればまた考えるか」


 設計図に視線を戻したスレイは空間収納から懐中時計を取り出した。

 現在の時刻は十時を少し過ぎたところ、もしもここに書かれている魔道具を完全な形で作ろうとした場合、徹夜して作ったとしても間に合わない。


「回路自体もまだ未完成……ユフィ、これ全部を作るにはかなりの時間がかかるよ」

「分かってるよ。これは最終的にこれくらいは欲しいってだけだから」

「それじゃあ、機能は省略するとしてどれが必要なの?」

「えっとねぇ……これとこれかな」


 ユフィは設計図に書かれている中から今欲しい機能を選択しスレイに伝える。

 それを見たスレイは頷いて答える。


「これだけなら、まぁなんとかなるか……回路の製作で二三時間、製作と実験と手直しで同じくらいってところか?」

「ギリギリまで時間をかければどうにかなりそうだね」

「そうだな。一応日付が変わったら一度休んで、早めに起きて残りの作業を終わらせようか」

「うん!そうしよぉ~」


 こうしてスレイとユフィの魔道具製作が始まるのであった。


 ⚔⚔⚔


 朝も早いうちにスレイとユフィは正座させられていた。


「さぁあなた達、こんな時間に何をしていたのか説明しなさい」


 正座をする二人の前では腕を組んでこちらを見下ろすジュリアが立ちふさがっている。

 時刻は朝の四時過ぎ、まだ夜明け前の時間であるにも関わらずジュリアがこうしているのに理由があった。

 遡ること数分前、目が覚めたジュリアはなんとなく窓の外を見た。旅の間もあの二人は早い時間に起き出していたので、もしかしたら早朝稽古をしてるかもしれないと思ったからだ。

 窓の外を見たジュリアは外に二人の姿がないのを見て安堵した。いくらあの二人でも大事な仕事前には睡眠をよく取るはずだと安心した。

 そうと分かればもう一眠り、する前にお手洗いに行こうと外に出た時、スレイの泊まっている部屋に灯りがついていた。

 やっぱり起きていたのかと思ったジュリアは注意するために部屋をノックした。


「スレイちゃん?起きてるの?」


 ノックしたが返事がない、何をしているのかと思ったジュリアは部屋のノブに手をかけると鍵がかかっていなかった。

 不用心だと思いながらも、注意をするために部屋の扉を開けたその時、目の前に広がっていたのが真剣に魔道具を作る二人の姿であった。


 そんなわけでジュリアが二人を正座させて説教の姿勢に入っていた。


「あなたたちねぇ、ダンジョンに潜る前に徹夜とか死ぬ気なの?」

「いえ、そんなつもりは………」

「じゃあ何考えて他の?」

「いやそもそも徹夜はしてませんです、はい」


 どういうことかとジュリアが尋ねると、二人は一度眠ってからつい先程起きて作業を始めたのだ。


「一度眠ったのなら良いわ……それで、何を作ってたの?」

「実はこういうのを作ってまして」


 作りかけの魔道具と設計図をジュリアに渡して説明をする。

 二人の説明を聞いて頭を抱えそうになったジュリアは、なんてものを作ろうとしているのだと叫びたくなったがその言葉を飲み込んだ。


「分かったわ、お説教はこれくらいにして上げるけど、少なくともあと一時間は眠りなさい。良いわね?」

「はい」

「わかった」


 ユフィを自分の部屋に送ったジュリアはそのまま自分の部屋に戻ると、同じ部屋で眠っていたフリードが起きていた。


「おはようジュリアさん、やけに早いけどどこ行ってたの?」

「ちょっと、息子たちの異常性を再確認してきたところよ」


 っと答えるジュリアにフリードが首を傾げる。

 改めて説明を受けたフリードは、口元を引きつらせながらこう答えた。


「あいつらマジかよ……どこ向かってんだろうな」

「さぁ。分からないわ」


 っと、夫婦揃って呆れているのであった。



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