ダンジョンまでの道中 ~一夜の語り~ ③
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ユフィとヴィーから引き継いだボクは、薪木を焚き火の中に入れながら隣で黙って自分の斧の手入れをしているパックスのことを横目でみるが……ヤバい、なに話していいのかわからない!?
困り果てているボクは、笑顔のまま固まってしまり、パックスが真剣な表情で斧の刃を研いでいた。
そんなボクたちの間には、薪の燃えるパチパチという音と、パックスの斧の研ぐシュッシュッという軽快な音だけが響いていたのだった。
⚔⚔⚔
結局なにも話せないスレイは黙って薪をくべる作業にいそしんでいるまま、ついに三十分ほどたった頃、自分の斧の手入れを終えたパックスからスレイに話しかけてきた。
「お主、自分の剣の整備は終わったのか?」
「はい。寝る前にやっておきました」
「そうか……」
短くそう言ったパックスはそのまま黙ってしまったので、スレイも自然と黙ってしまい焚き火をじっと見ていたのだが、なぜだか空気が重くなってきたので、だんだんとスレイがいたたまれない気持ちになってきた。
「あ、あの……その……」
「なんじゃ?」
「……いえ、すみません」
いつもなら他愛のない話しもできるのだが、ミハエルのことがあった手前、同じ人間の自分にもなにか思うところがあるかもしれない、そう思ってしまったスレイはどう切り出していいものかわからなくなってしまったい、それと同時になぜか敬語になってしまった。
「お主も、ワシがドワーフであることを気にしてるのか?」
「それはないです」
「即答じゃな」
「当たり前だって」
パックスの伏せた顔を見ながら、スレイはあきれたようなため息をひとつついた後に、パックスの顔を見ながら確固たる意思をもって告げる。
「前にも言ったけど、ボクの魔法の先生はエルフだったし、ボクは人種絶対主義者じゃない。それにパックスはボクたちの仲間だろ?」
「………そうじゃったな」
「そうだよ。だからさ……何て言うか、話せることだけでもいいから話してよ。ボクじゃなくてもいい、ユフィでもアーロンでもベネディクトでも、ここにいるのにミハエルのような奴はいないからさ」
「………………………………………」
スレイの心からの言葉を聞いたパックスは、なにかを思い出すように夜空を見上げ、それを見たスレイも吊られて満点の星が輝く夜空を見上げる。
「……あの日も、こんな星の輝く夜じゃったな」
不意に語りだしたパックスの横顔をスレイはじっと見た。
「お主はワシ以外のドワーフを見たことはあるかね?」
「昔、南方大陸で一度だけ」
「他には?」
「その人だけですね」
「……ドワーフはな、自分の生まれ育った集落から出ずに一生を終える者が多いんじゃ」
この世界に転生してから、スレイはいろいろな本を読んだ。
その中でこの世界で生きている人種について色々と調べたことはあったが、あまり詳しいことがかかれておらず、結果としてわかったのはスレイやユフィのような人間の他に、クレイアルラのようなエルフ、パックスのようなドワーフ、そしてまだ出会ったことはないがアニメの異世界物の定番である獣人──犬や猫の獣人など色々な種がいる──そして竜のような姿の種族の竜人、魚の鱗をもつ海人、鳥のような羽を持つ天人などがいるが、どれも名前や身体的な特徴だけがかかれていた。
なので、その中で知っているのは昔一度だけクレイアルラから、エルフについて詳しい話を聞いたことがあるくらいだった。
「自分の生まれた集落で鉄を打ち、子をなして一生を終える。それがドワーフの一生なんじゃが、中にはワシのように外に出て行く者も、ごくごく少数じゃがおる」
「……なんで、パックスは外に出たの?」
スレイは小さな疑問を口にする。
「簡単じゃ外に憧れたからじゃ」
「外に……?」
「そうじゃ、まだ見ぬ世界に憧れ、ワシ自身の手でどこまでやっていけるのかが知りたい、この地の先をみせみたい、世界のすべてを知りたい。子供の時からそんな幻想に駆られておったんじゃよ」
「ボクも同じことを思ったことあるよ」
「ほぉ、そうなのか」
「本の中で見た世界に憧れて、自分の目でいつか見てみたい、そう思ってボクは冒険者になったんだ」
「眩しいな……ワシも昔はそうじゃった」
話し続けているパックスの顔はだんだんと暗く落ち込んでいった。
その表情からスレイは何かあったのかと察したが、その理由までは全くわからないが、これ以上のことは聞かない方がいいのかもしれない、そう思ってしまったからだった。
「話したくないなら、話さなくていいよ?」
「いいや、話させてくれんか?今は、誰かに聞いてもらいたいんじゃ」
「……………………わかったよ」
誰かに話して楽になることがある、その事をよく知っているスレイはなにも言わずに話を聞くことにした。
「昔、集落を出るときじゃがな、親に勘当されたんじゃ」
「なぜですか?」
「ドワーフが集落を出るということは、もう二度と戻れないということでもあってだな、そのせいでワシは外の世界の出たんじゃ」
「……………辛く、ないの?二度と帰れないのって」
「辛いぞ……じゃがなもう七十年もまえじゃからな」
「七十年……あぁ、そうか、ドワーフも長齢種だったね」
「そうじゃな、まぁそれは置いておくがな、少なからず昨日のミハエルの小僧っ子の様なこともたまにあったんじゃよ。お前のような化け物はここから去れとな」
その時聞いた話は、スレイが想像していたものとは全く違う物だった。
人種絶対主義者のものたちによる人間以外の種族の殺戮、迫害、今まで話でしか聞いてこなかったようなこの世界の暗い面を聞いたスレイは、今までの自分がどれだけ世間知らずだったのか、うわべだけのことしか知らなかったのかを、このとき初めて理解した。
「…………………」
「なんじゃ、お主その顔は?」
「……ごめん。気軽に聞くような話じゃなかったのに」
「いや、聞いてくれて少しスッキリしたわい」
今までのように暗い顔ではなく、口元をつり上げた笑顔をするパックスにつられて、スレイも少し笑顔を向けていると、背後から人の気配を感じて振り替える。
「お二人とも交代ですよ」
声をかけながらやって来たのはアーロンとベネディクトだった。
話をしているうちに、いつの間にか交代の時間になってしまったことに気がついた二人は、今度は苦笑いを浮かべてしまっていた。
「二時間も話してしまったみたいじゃな」
「ははっ、そうみたいだね」
アーロンとベネディクトは、目の前で苦笑いをしているスレイとパックスのことを見ながら、揃って首をかしげてしまっていた。
二人に後を頼んだスレイは、自分のテントに戻ろうとしたスレイをパックスが呼び止める。
「すまんな、あんな話を聞かせて」
「いいえ、ボクも聞けて良かったと思ってます」
「そうか……呼び止めてすまんかったの」
それだけいうとパックスは自分のテントに戻ろうとしたが、スレイはパックスのことを呼び止めた。
「パックス。一つだけ聞かせて」
「なんじゃ?」
「……集落を出て、世界に出て、嫌な思いをしてパックスは後悔したことはない?」
「…………ないな。この人生はワシが選んで悩んで、そして選んだものじゃ。悔やみはしても後悔はせんな」
「そっか。じゃあおやすみ」
スレイは笑いながらテントの中にはいっていった。
⚔⚔⚔
テントの中に入ると、そこにはすでに起き上がって身支度を整えているフリードの姿があった。
「お帰りどうだった?」
「どうだったって、なにもなかったけど……それより何してるの?まだ時間じゃないでしょ?」
そう、フリードの番は一番最後、時間で言うならば後二時間近くは後のはず、にもかかわらずフリードの格好はすでに万全、今にでも出発が出来る格好だった。
「朝食の食材狩りに行ってくるだけだ。たまには新鮮なの食いたいだろ?」
「はぁ……ならこいつを連れてって」
スレイは空間収納で休ませていたレイヴンをフリードに預ける。レイヴンには便利機能として暗視化での索敵も可能で、ついでに言えばタイマー機能も有している。
なので、時間を忘れてもレイヴンさえいればひと安心だ。
「悪いな、少し借りてく」
「ハイハイ、行ってらっしゃい。ボクは少し寝るから帰ってきたら教えて、朝食作るの手伝うから」
あくびを噛み殺しながら告げるスレイに、フリードはばつの悪そうな顔をしていた。
「お前なぁ~、あんま寝てないんだろ?準備くらいやっとくし、出来たらちゃんと起こしてやるからお前はそれまで寝とけ」
「徹夜くらい何度もやって慣れてるし、少しは寝てるからまだ大丈夫だよ」
事実少しは寝ているお陰でこれから戦闘も可能なほど元気なスレイ、と言うよりもただ単に深夜で無駄にテンションが上がってしまっているだけだ。
「いいから寝とけ、たまには親の言うこと聞けっての」
「ちょっと……それじゃあボクが父さんの言うことを全く聞かない不良息子みたいじゃないか?」
「母さんの言うこと聞かずに起こられてる姿はよく見たな」
「それを言われると………そうなんですが」
「ほれほれ、さっさと寝ろ寝ろ」
「わかった。わかりましたよ」
フリードが出ていったのを見たスレイは、仕方なしと思いながらスレイはブランケットをかけて横になり目をつむると、すぐに夢の世界へと旅立っていってしまった。
⚔⚔⚔
月が沈み太陽が登り出す頃、スレイは目が覚めた。
「ぅぅ……朝か」
いつもならとっくに起きている時間だが、昨夜のこともあるのでここはフリードの忠告通り、もう少しだけ寝て誰かに起こしてもらうのもいいかもしれない、そう思ったスレイは二度寝──で良いのかはわからないが、にしゃれこもう、そう思って日の射す方に背を向けるべく寝返りを打つ……すると
モニュッ
っとなにか柔らかい物が手に触れた。
なんだか?と思ったスレイは、目を開けてそちらを見ると顔を真っ赤にしてこちらを見ているユフィと視線があったのだが、それ以前にスレイの頭の中は疑問で一杯で一瞬で頭が冴え眠気が吹っ飛んだ。
「…………………………………なにしてんですか?」
「…………スレイくんを起こしに来ました」
「…………では、なぜに隣寝てるんですか?」
「スレイくんが気持ち良さそうに寝てたから、私も一緒になって寝ちゃいました」
「そうか、もう今までにないくらい頭が冴えてるから」
「それは良かったね。でねスレイくん、手……放してもらってもいいかな?」
「えっ?」
スレイは視線を下げると、スレイの右手がユフィの胸部、つまりは胸を揉みしだいていた。それに気づいたスレイは、先程寝返りを打ったときに感じたのはこれかと、妙に納得してしまったのと同時に、今も手に感じている好ましい感触の理由を察した。
ここまで一瞬で考えたスレイは、全身に冷たい汗が流れる。
「ご、ごごごごめん──オワァッ!?」
「あっ、スレイくん──ッキャア!?」
ユフィに離れるために起き上がったスレイだったが、起き上がるときに下に落ちたブランケットに足をとられ、前に倒れかかる。その時に支えようとした一緒にユフィも、一緒になって倒れた結果スレイがユフィを押し倒したような形になってしまった。
「ご、ごごごごめん!?すぐに退くから!?」
「いいの、このままで」
「ちょ、ちょっとユフィさん!?」
起き上がろうとしたスレイの首にてを回し、自分の方へと引き寄せるユフィ。
「ねぇ……このままキスしよ」
「えっ?……で、でも」
「大丈夫だよ。この中は私たちだけからね」
熱のこもったユフィの目、そこに吸い込まれるように近づいていくスレイ。
もう少しで唇が重なる、そう思った瞬間──
「おぉーぃ、いつまで寝てんだ………はっ!?」
「「あっ」」
テントの中に入ってきたのはヴィヴィアナだったが、抱き合ったままの二人を見て固まった。そして見られてしまったスレイとユフィも、ヴィヴィアナを見て固まった。
少しして我に返ったヴィヴィアナがプルプルと震えながら
「てめぇら朝っぱらからなにしてんだコラァァァーーーーーーッ!!」
怒り狂ったヴィヴィアナを落ち着かせる頃には、全員が起き出しスレイとユフィがしようとしたことが知れ渡り、朝食の時間に二人は恥ずかしい思いをするはめとなったのだった。
それから次の日の昼過ぎ、スレイたちはようやくダンジョンの入り口、その前に存在する町へとたどり着いた。
次はダンジョンの調査偏に行きます。どうかよろしくお願い致します




