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ダンジョンまでの道中 ~一夜の語り~ ②

ブクマ登録ありがとうございます。

その話ですが、次で締めくくりようやくダンジョンへと向かいます。もう少しだけお付き合いください。

 ジュリアとアリステラが始めの火の番を初めてから二時間、ようやく交代の時間になったので二組目のユフィとヴィヴィアナに交代し、休むべく自分達のテントに戻った。


「それじゃあアリスちゃん。おやすみなさい」

「お、おやすみ、なさい……あ、あの……今日は、ありがとうございました……!」

「いいのいいの、こんなおばさんの話しを聞いてもらっちゃったんだからね」

「そ、そんなこと、ありません……!わ、わたしの方こそ……泣いちゃって……すみませんでした」


 アリステラは自分がおもいっきり泣いてしまったことに、恥ずかしさを覚えているアリステラだったが、そんなことを言われなくても気にしなくていいと思っているジュリアは、小さく苦笑しながらもう一度自分の娘にやるように優しい手つきで頭を撫でてあげた。


「気にしなくていいっていったでしょ?それにね、泣きたいときは泣けばいい、誰かに聞いてもらいたいことがあれば聞いてもらえばいい、それこそ酒の力を借りていい、けどね。仲間の前で黙って溜め込むのだけはしないこと、それだけは約束してね」

「……………はい」

「分かったらもう寝なさい」

「は、はい……おやすみなさい」


 アリステラが頭を下げて、ヴィヴィアナと一緒に使っているテントに戻っていくアリステラを見送ったジュリアも、ユフィの寝ているテントの中に入っていった。


「ユフィちゃん。交代の時間よ」

「うぅ~ん……おばさん、もうそんな時間なんですか?」

「そうよ。早く準備しなさい」

「はぁ~い」


 起き上がったユフィは脱いでいたローブを着直して、身支度をしている時に眠る前に聞こえていた話し声について思い出した。


「おばさん、一ついいですか?」

「いったい何かしら?」

「アリスちゃんのこと……どうなったんですか?」


 ユフィに聞かれたジュリアは、少し考えてから当たり障りの無いことくらいなら、話してもかまわないと思ったジュリアはユフィに先程あったことを話すことにした。


「ちょっとだけ昔話をしただけよ」

「えぇ~なんですかそれ?」

「ふふふっ、これ以上は内緒よ」


 ムムムッとユフィがうねっているが、ジュリアは妖艶に微笑みながら笑った。


「どうしても知りたかったら、スレイちゃんに聞いてみなさい」

「えぇ~、なんでスレイくん知ってるんですかぁ~?」


 ユフィが不服そうに告げるが、呆れるようにユフィが大きなため息をはいた


「それがね、あの子ったらフリードさんと一緒に起きて話を聞いてたみたいなのよ」

「わぁ~、盗み聞きですか?」

「そうなの、明日ガツンと言ってやろうかしら?」


 笑いながらいっているジュリアの顔を見て、ユフィはジュリアがそんな気は更々無いということが目に見えていたので、少し笑顔を浮かべていた。


「それじゃあ、行ってきますね」

「えぇ。行ってらっしゃい」


 テントを出たユフィは先に着ていたヴィヴィアナのことを見た。


「お待たせ、ヴィーちゃん」

「遅ぇんだよユフィ、何してたんだよ?」

「未来のお義母さんに、あなたの息子さんを頂いてもいいですかって」

「お前、こんなときに何聞いてんだよ?」


 ユフィの変な言葉にヴィヴィアナは顔を真っ赤にして反論したが、ユフィはヴィヴィアナのうぶな反応を見てクスクスと笑っていた。


「ヴィーちゃんって、このての話しは苦手なんだね」

「うっせぇ、ワリィかよ」

「ううん、大丈夫だよ。私だってまだ経験無いからね。それどころか、キスだってまだだもん」

「はぁ~!?マジかよ?」

「もぉ~マジもマジおおマジだよぉ~」

「うっそだぁー」


 大きな声でユフィが笑うと、ヴィヴィアナは全く信じられんと言いながら顔をひきつらせている。第一に恋人同士のはずなのにどうしてなにもしてないのか、まさかスレイは不能なのかとヴィヴィアナがそ考えていると、ユフィからしっかりと訂正が入った。


「家のお父さんがね、けっこう厳しい人でね。毎回毎回キスしようとするときに限ってお父さんの邪魔が入っちゃってたから、私もスレイくんも変な癖がついちゃったみたいなんだぁ~」

「うっわぁ~、そいつは大変だな」

「うん。大変だった。スレイくんがものスッゴく大変だった。もっと言うとそのあとのお父さんも大変だった」

「聞く気はなかったが、一応聞くぞ。いったい何があったんだ?」

「私とスレイくんがデートに行こうとする度に、お父さんが邪魔に邪魔してお母さんに、毎回のように引きずられていってたんだ」

「なんだそりゃ?お前の母ちゃんヤベェな」

「うん。そんな訳でね、なんか変な癖ができちゃって、今でもキスできないの」

「いいのかよそれ?」

「何度かね、してみようかなって思ったんだけど、なんだか毎回邪魔されてたせいで背後に視線を感じたり、二人っきりなのに視線を感じるようになっちゃってね本格的にヤバイ感じなの」


 話しているユフィの目からハイライトが消えていき、それを見たヴィヴィアナはさすがにこの話題をこれ以上は続けるのはまずいと感じ、あれこれ考えて立ち上がったヴィヴィアナは、一番近くのテントの中で寝ていた白髪の少年の腹部に拳を叩き込んだ。


「────ゲホッ!?」

「てめぇユフィの旦那だろ!嫁を何とかしやがれ!」

「嫁をとった覚えないし、行きなり殴んな!」

「な、何やってんだ?」


 いがみ合っているスレイとヴィヴィアナ、そしてその騒動で目を覚ましたフリードだった。


⚔⚔⚔


 ヴィヴィアナによってたたき起こされ完全に目が覚めてしまったためスレイは、このまま自分の番まで起きていることを決め、ホットミルクを淹れながらなぜ自分がたたき起こされることになったのか、スレイはその理由を二人から聞いていた。


「なるほど、つまりユフィが闇を吹き出したからなんとか押さえてほしい、そう言うわけね」

「あぁ、つうわけで何とかしてくれ、アタシじゃあれは無理だ」

「まぁ普通はそうだよ。あれを止めるのは至難の技じゃないからな」


 昔のことを思い出して泣きに泣いてしまっているユフィからは、どす黒いほどの真っ黒なオーラを横目で見ているスレイだった。

 この話しにはスレイ自身もかなり苦い思い出であったので、ユフィほどではないにしろ、黒いオーラが漏れだしているのであったが、このままでは火の番をやっているのではなく、ただただ駄弁って終わりになってしまう。

 スレイが焚き火に木をくべながらユフィを見る。


「ほらユフィ、こっちに来なさい」

「スレイくぅ~ん」

「はい。よしよし、いい子いい子」

「えへへぇ~、スレイくぅ~ん。大好きぃ~」


 スレイはユフィを膝の上に座らせて抱き絞めて、子供にするように優しい手つきで頭をナデナデと何度も頭を撫でていると、だんだんとどす黒いオーラが消え去り、変わりに顔がだらしないほど顔を緩めている。そ

 の笑顔に釣られるように、スレイも黒いオーラを解いて顔を緩ませている。

 そんな二人の周りにはどす黒いオーラの代わりに、薄い桃色のオーラが立ち込めはじめてしまった。そのオーラは見ている者が思わず吐き出してしまうほどの甘ったるい空気が立ち込める。

 そしてその爆心地に一番近い位置で見ていたヴィヴィアナは、目の前で見せつけるようにイチャつきだした二人に向けて、不機嫌そうに年頃の乙女がしてはいけない顔をしていた。


「ケッ!」


 ついでに大きな舌打ちをしたが、自分たちの世界に入ってしまった二人には届かなかった。


⚔⚔⚔


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」

「……本当にごめんなさい」

「全くだぜ、独り身の悲しみを味わえ!」


 ある一定の時間いちゃいちゃした後、ハッと我に帰ったスレイとユフィは隣でしらけた目を向けてきているヴィヴィアナの視線をこちらに向けてきていた。

 二人は揃って頭を下げていたが、ずっと人のイチャイチャシーンを見せられていたヴィヴィアナの怨みは恐ろしかった。


「明日の昼、アタシの好きなメシ作れ」

「材料次第だけど」

「作れる限りのものは作るから許して」

「前に作ってくれた、からあげ?とか言うの作れ」


 数日前にみんなで以来に行ったときにアーロンが持ってきたお弁当。

 その中にアニーが作った唐揚げが入っていて珍しがったみんな、その時にアーロンが作り方を教えたのはスレイとユフィだと語り、みんなが物欲しそうな目で見ていたため、アーロンが一つだけという約束で唐揚げを分けることになった。

そこでみんな──スレイとユフィ以外──がトーナメント式のじゃんけん大会を開催し、そこで勝ち上がったヴィヴィアナが景品の唐揚げを食べた。

 ちなみに後日アリステラから聞いた話なのだが、唐揚げを食べたあとヴィヴィアナは料理に目覚めたらしく、日夜料理の本片手猛特訓しているらしい。しかしながら料理は失敗し続けているようだ。

 そしてお詫びに唐揚げを作れと言われたスレイとユフィは、頭を押さえながらあきれていた。


「無茶言うなよヴィー」

「そうだよぉ~、ここじゃ油もないしお鍋もシチューくらいならできるけど」

「第一材料の小麦粉も卵もない、さらに言えば前にストックを大放出しちゃったから肉もない」


 少し前に久しぶりに二人の料理が食べたいと言い出したフリードとジュリアのために、宿の一階の定食屋が休みの日に、知り合いを全員呼んで──とはいえ二十人未満──前の死霊山行きで溜まりにたまった食材大放出目的でパーティーをやってしまっため、今の二人の空間収納の中にはあまり入っていない。


「なんだ出来ねぇのかよ?」

「すまん」

「帰ったらちゃんと作るから許して」

「……しゃあねぇな、その代わり山盛りで頼むぞ」

「はぁ~い」

「わかったよ」


 ガッポーズで喜ぶヴィヴィアナだったが、ここでスレイが要らぬ一言を告げた。


「だけど、あれって油物だから食べ過ぎると太るぞ?」


 その一言にユフィとヴィヴィアナは揃ってスレイを睨み、スレイはスレイで自分の言った言葉が女性に対して禁句だったことを思い出したが、すでに二人から殺意の視線が飛んできた。


「ご、ごめん、前に母さんが食べ過ぎてダイエ──ッ、冷た!?」


 突然テントの中から冷気を纏った水弾が飛んできてスレイに命中、どうやら要らぬことは言わなくてよろしい、と母からのお怒りの一撃らしい。


 ──母さんまだ起きてたんだ


 スレイはタオルで濡れた頭と身体を拭きながら、着ていたシャツを脱いで火に当てて乾かしていたのだが、隣に座っている少女二人からの視線にスレイはジと目で見た。


「…………えぇっと、なに?」

「スレイくんて、いつ見てもいい身体してるよね」

「お前ら、やっぱりやることはやってんのか?」

「待てヴィー、やってないし。ってかユフィも、そんなに見せた覚えはないぞ?」

「旅の間に見てたもん」

「……なるほど、道理で視線を感じると思った」


 スレイが呆れたようにため息を吐いているその横で、ヴィヴィアナはチッと舌打ちをしている。


「つーかさっさと服着ろや」

「あ、ごめんごめん」


 びしょ濡れの服が乾くまでにまだ時間がかかるので空間収納から、新しい服を取り出したスレイは、濡れいた服はそのままにして着替え、ついでに空間収納の中から色々なものを取り出している。


「今度はなにしようとしてんだ?」

「時間があるからね、ちょっとゴーレム作り」

「もしかしてミーシャちゃんの?」

「誰だそれ?」

「ボクの妹、もうすぐ誕生日だからね。プレゼントにゴーレムを贈るつもりだったんだ」


 そう言いながらスレイは作りかけのゴーレムの骨格を取り出し、このときですでに七割方は完成しているのだが、この依頼が終わったら帰ると両親が言っているので、終わる前に完成させておきたいスレイは、材料を並べたところで一緒に取り出した黒い革手袋をはめると、素材の上に手を乗せて魔力を流し込むと、一瞬にして金属の塊は文字の刻まれた部品へと変換され、それをモノクルで観察しているスレイ。実はこのモノクル、ユフィが作った物をベースに、闇視効果を付け加えた物だったりする。

 だが、そんなことよりもヴィヴィアナは、目の前で起きた現象に気をとられていた。


「今のなんだよ!?いきなり鉄が形変えたぞ!?」


 そう言い出したヴィヴィアナに二人は揃って首をかしげた。


「錬金術だよ」

「珍しくもなんともないだろ?」

「いや、錬成陣はどうした!」

「あぁ、これ」


 スレイは自分の手にはめられている手袋を見せるが、この革手袋事態はどこにでもあるような物、と言うわけではなく、魔物素材で出来た少し丈夫な手袋だと思ってもらおう。


「この手袋の甲の部分に錬成陣が刻んであって、魔力を流せばこんな感じに出来るんだ」


 スレイが実践して見せると、ヴィヴィアナの目が輝いていた。


「面白そうだな!アタシにもやらせろ!」

 実践を見るだけは簡単に見えるが、実際にやってみるとでは全く違う、その事を諭すべくユフィが口を開いた。


「そんなに簡単じゃないよヴィーちゃん、それに魔力が無いと使えないし」

「あぁ、平気平気、アタシ一応魔力持ってるし……メッチャ少ねぇけどな。だから貸してくれ!」


 スレイがユフィの方を見ると、ユフィが仕方ないよと言う顔をしながら空間収納の中から、自分用の手袋を取り出してヴィヴィアナの前に差し出した。


「はいこれスレイくんのと同じのだから」

「サンキュー、ユフィ!」


 ヴィヴィアナが受け取った手袋をはめている時、スレイは余った金属片をヴィヴィアナの前に置いた。


「これ好きに使っていいよ」

「サンキュー!んで、これどうやんだ?」

「この金属片に手を置いて」


 ユフィがスレイの変わりにヴィヴィアナに説明を始める。


⚔⚔⚔


 それから一時間ほど、ヴィヴィアナへ錬金術を指導する片手間にユフィは火の番を勤め、元々叩き起こされなければ寝ているはずのスレイは、ゴーレム作りも一段落着いたところで仮眠を取っていた。


「それじゃあスレイくん後お願いね」

「りょーかい、おやすみ二人とも」

「おやすみぃ~」

「後頼んだぞ」


 二人がテントの中に消えていったのを見たスレイは、もう少ししたらパックスを呼びに行こうと考えていると、すぐ後ろからパキッと何かが折れる音が聞こえた。

 反射的にホルスターから魔道銃を抜いたが、すぐに銃を下ろしてホルスターに戻した。


「パックスか」

「警戒するのはいいが、ワシを撃たんでくれよ」

「撃つ気はありませんよ」


 少し早い時間であったが、二人で火の番を始めることになった。


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