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ダンジョンまでの道中 ~一夜の語り~ ①

ブクマ登録ありがとうございます。


 初めての野宿と言うことで野宿には慣れているスレイとユフィが代表して作り、みんなは二人の作った死霊山産の食材を使用した料理に舌鼓を打ち、火を囲みながら大いに楽しめたがみんな落ち込んでいるアリステラのことを無理して笑わせようとしていた。

 しかし、アリステラの表情が良くならず、落ち込んだままのただただ相づちを打ったりするだけで終始心ここに有らずと言った感じであった。

 それを見ていたスレイとユフィはホットミルクを呑みながら話し合っていた。


「アリスちゃん、落ち込んでたね」

「そうだな……後、あんまり表には出してなかったけど、パックスも気にしてるみたいだったよ」

「確かにあんまり楽しめてなかったかも」


 食事の時のことを思い出しながら、ユフィが呟いた。


「はぁ~、たっく面倒なこと残してくれたよアイツも」

「ホントだよね……頑張ってねリーダー」

「やめてよマジでさぁ」


 ポンッと肩に置かれるユフィの手と、なんとも言えない優しい目を向けられたスレイは、引きつった笑みを浮かべている。


「パックスのことはいいけどえ、アリスのことはユフィの方が分かると思うんだが?」

「まぁね。でも、私から言っても無駄な気がするんだ」

「難しい問題だからな」

「難しい問題だもんね」


 今まで二人でしか組んでこなかったせいで、今までアリステラのようにあんなことを言われた経験の経験の無い二人が、どうやって元気付けたら良いものか、全く検討がつかなかった。

 困り果てている二人の元に、フリードとジュリアからお呼び出しがかかった。


「そんじゃあ、これから火の番を決めるぞ」

「あぁ、当番制なんだ」

「こんだけの人数がいればな。つうわけで一チーム二時間で交代な」


 フリードがスレイたちに向けて声をかけると、ジュリアが小さな箱を持ってきた。


「男の子たちは右、女の子たちは左の箱から一枚引いてね」


 スレイから順に紙を引いていき、全員が引き終わったところで全員が紙を開いてみると、紙には一桁の数字がかかれていた。


「同じ数字の人と組んでね。順番はその数字の通りだからね」

「ユフィ何番だった」

「わたしは二番だけど、スレイくんは?」

「三番だね」


 スレイがみんなに訪ねる。全員相方のことが気になっていたので、さっさと公開した。


「アタシは二番だから、ユフィとだな」

「よろしくねヴィーちゃん」

「おう!頼むぜ」


 拳を突き上げるヴィヴィアナに、ユフィもコツンと拳を当てていた。

 なんだかんだでノリが合うこの二人、これなら問題はなさそうだと思っている横でジュリアがアリステラの方に歩み寄った。


「私はアリスちゃんとね」

「あ、あのっ……よ、よろしく、お願いします……!」


 緊張気味のアリステラがジュリアに向かって頭を下げている。

 前に憧れの人と言っていたことを思い出したスレイは、先程の夕食の時には見せていなかった笑顔でジュリアと話しているアリステラを見て、これで少しは元気になってくれるといいのだがと、内心でそんなことを考える。

 さて女性チームのペアはこれでいいとして、次に男性チームのペアはどうなったのかと他のみんなの方を見ると、アーロンが持っていた紙を掲げる。


「自分は四番目ですね」

「………………………なら、俺とだな」

「そうですか!よろしくお願いします」

「………………………よろしくな」


 どうやらアーロンとヴェネディクトがペアのようだ。

 残りはフリードとパックスの二人だったが、フリードは紙を引く前に最後に一人でやると言っていたので、最終的に残っていた一人のことを見る。


「悪いの、お主はワシとだ」

「いいや構わないよ。よろしくパックス」


 スレイはパックスに向かって頼んだが、どうも今回の問題がある相手がうまい具合に引き合わされているような気がしたスレイは、くじを用意したジュリアの方を見る。

 するとその視線に気がついたジュリアが、ごめんねと、言う意味で片手をあげていたので、あらかじめなにかを仕込んでいたなと、スレイはおもった。


⚔⚔⚔


 夜の十時、みんながテントの中にはいって寝静まる中、ジュリアはアリステラと一緒に火が消えないように見守っていた。


「ねぇアリスちゃん。あなた、さっきの事まだ気にしてるのね?」

「あ、あの……なんで、わかった……ですか……?」

「夕食の時も、心ここに有らずって感じだったわよ?」

「…………す、すみません」

「いいのよ。気にしなくても」


 アリステラがうつむいてしまい、ジュリアは火に薪をくべながらポツポツと話しを始めた。


「……私もね、新人の時に同じことを言われたわ。お前みたいな役立たずはいらない、さっさと出ていけってね」

「えっ?」


 突然の告白にビックリしたアリステラがうつむいていた顔を上げてジュリアの方に視線を向けた。


「今のあなたたちと同じようにね、勉強のためだって言われて他の新人の冒険者と一緒に魔物の討伐依頼に行ったんだけど、それがもう酷いのなんの」


 パチパチと弾ける焚き火の揺れる炎を見ながら、かつての出来事を思い出しながらその時にあったことを話し出した。


「そのパーティーはね、今のあなた達のようにその日に合ったばっかりの即席のパーティで、魔法使いは私以外にもいたんだけど、その人たち索敵が全くできなくて、結局索敵も何もかも私一人でやってたの。夜になってキャンプしてたんだけど、そこを魔物に襲われたわ」

「ど、どうなったんですか……?」

「ちゃんと撃退したわよ。でもね、被害が酷すぎてとても依頼を続けられる状況じゃなかったのよ」


 食料も治療用のポーションも何もかも魔物にやられ、負傷者も数人出ていた。


「結局引き返すことになったんだけど、そのときにパーティーのリーダーだった人が、今回の失敗の責任は私にあるって言い出してね」

「な、なんで……ですか……?」

「簡単よ。襲われたのがちょうど私が休憩にはいってすぐだったから、索敵役のお前が休んだせいだってね」

「ひっ、酷い……です、そんなの……」

「ありがとう──でね、他のみんなからも口々に罵倒されて、その中でも特に酷かったのは同じ魔法使いの人たちからだったわ。お前は新人なんだから休むんじゃないとか、お前のせいで要らぬ仕事が増えた、お前なんか冒険者をやめてしまえ、何てのも言われたわね」


 その時のことを思い出したのだろう、ジュリアは少し険しい顔をしながらアリステラのことを見ている。そんな目をみて、アリステラはどう答えていいのかわらなかったがひとつ聞いてみることにした。


「そ、そのあとは……どう、言ったんですか……?」

「なにも言えなかったわ。一方的に言われるだけで反論もさせてもらえなかったから、いつの間にか私も、その通りなのかなとも思ったわ。今思えばそのときはただでさえ魔力を使いすぎて疲れてたし、ほとんど徹夜だったから考える気力が無かったのかも知れないわね」


 笑って答えているジュリアだったが、アリステラからしたらそんな話を笑って話せる訳はない。

 本当にそんなことを言われたら、もしもそれを言われたのがアリステラならば、きっと耐えきれずに今頃冒険者をやめてしまっているかも知れない。


「でもね。私の旦那が助けてくれたのよ。魔物に襲われたのはお前らが注意してなかったからだろ!よって集ってこんな女の子一人に罪を擦り付けやがって恥ずかしくねぇのか!って、あのときのフリードさん。とっても格好よかったわ」


 紅潮する頬に片手を当てて唐突にのろけ始めているジュリア、今までは若干シリアスな話をしていたはずなのに、いきなりの桃色空間に早変わりしてしまった。

 いきなりのことに、さすがのアリステラもどう反応していいのものか、なんだかわからなくなってしまった。


「あら、ごめんなさいね。変なことを言ったわね」

「い、いいえ……そ、そんなことはありません……あの、続きは……?」

「えっ、あぁそうね。結局、私以外誰も索敵が出来なかった、だから襲われた。ならみんなのせいだ、そうなったわ」

「……わたしとは……違います、ね……」


 話を聞き終わったアリステラはやはり自分が悪い、そう思って落ち込んでしまったが、ジュリアはアリステラの頭を、まるで自分の娘にやっているようになで始めた。


「そんなことないわよ、アリスちゃん」

「ジュ、ジュリア、さん……?」

「あなたにはあなたの戦いかたがあるの、私やユフィちゃん、それにスレイちゃんでもない。あなたにでしかできないことがあるわ。あんなやつの言い分なんて聞かなくていいのよ」

「で、でも……」

「でもじゃありません!」

「えっ……あ、はい」


 まるで母親に怒られているように感じたアリステラは、自然と背筋が延びた。


「アリスちゃんは強い子よ。あのときだってそうだったでしょ?」

「えっ……あ、あの……お、覚えていたんですか……?」

「えぇ、初めてあった時に気づいてたわよ」


 前にも言った通り、ジュリアとアリステラが会うのはこれで二度目だ。

 初めて会ったときは家族で郊外に出掛けていたまだ子供のアリステラが、街道で魔物に襲われていたときだった。

 そこに偶然にも通りかかったジュリアとフリードの二人が助けた。

 出会いに関してはただそれだけのことだったが、ジュリアはその時のことを今でもしっかりと覚えていた。まだ五歳かそこらのアリステラ、その時に見た目がとても印象的だったからだ。


「あの時、魔物に襲われたあなたを救ったとき、恐ろしい魔物にも負けないとても強い意思を私は見たわ……だからね。あなたは強い、それは私だけじゃない、スレイちゃんユフィちゃん、このパーティーにいるみんなは知っているわ」

「あ、あの……わたし……」

「大丈夫よ。大丈夫だからね」


 今にも泣き出しそうなアリステラのことを優しく抱き締めたジュリア、優しくポンポンと背中を叩いてもらったアリステラは感極まってポロポロと涙を流しながら、ジュリアに無かて何度も何度もありがとう、ありがとうと、自分のことを認めてくれたジュリアに言っていた。


⚔⚔⚔


 ジュリアがアリステラを泣き止ましているその近くで、こっそりと話を聞いていた、というよりも比較的位置が近いため普通の声の大きさでも聞こえてしまったのだが、そんな二人はテントの中で寝転がりながら、回りには聞こえないような声で話していた。


「なんか、父さんと母さんの馴れ初めって初めて聞いたかも」

「お前が聞こうとしなかったからだろ?なんだ、オレから話してほしかったのか?」

「別に聞きたくはないよ。てか、聞いたところで最終的にはのろけに繋がるだけだと思ってたし」

「そりゃあお前、オレとジュリアさんとの愛の軌跡だぞ!あぁ~目をつむれば今でも思い出せる出会いの瞬間」


 また始まったよと思ったスレイが寝返りを打つ横でフリードは熱く語り始める。


「昔も今も素敵で魅力的なんだが、初めてであったときのジュリアさんはそれはそれは可愛らしく、とくにまだ新人だからか決意に満ちたあの瞳が愛らしいほど素敵だったな!今になって言えるが、なぜあのときのオレはジュリアさんの姿を写真に残さなかったのかとな、いや写真だけじゃない映像でも残さなければならなかったと!」

「あぁ~はいはい、どうぞご勝手に」


 一人で若かりし頃の過ちを、まるで演劇でもやっているように語りながら身体全体で表しているフリード、それを横目で見ていたスレイは、ただただしらけた目を向けるだけだった。

 第一、話の内容自体が真面目に聞いてるだけではなく、真面目に答えるのもバカらしく思えてくるような内容だったため、スレイはあまりにも長々と話続けているフリードのジュリアへの愛の一人語りを適当に聞き流し、そしてこれまた適当に答えながらフリードに背を向けて毛布をかけ直した。


「おいおい、スレイ。反応悪くないか?」

「多分ボクだけじゃなくて、同じように父親の母親に対するのろけを目の前で披露された人は、同じように興味にない返ししかしないと思うよ」

「そこまでは酷くないだろ?」

「父さんも同じような父親を持ってたらわかるよ」


 なんとも無茶なことを言うスレイだったが、父親という言葉を聞いたフリードはなんとも意外な返答をする。


「父親ねぇ~そういやあ親父元気にしてっかな?」

「親父……って、それってボクのおじいちゃんのこと、えっ生きてるの?」


 スレイは驚いておき上がると、フリードは寝転んだまま不思議そうな顔でスレイを見た。


「生きてるのって──あっ、そういやお前たち会ったこと無かったな」

「うん、話も聞かなかったしてっきりいないのかと思ってた」

「勝手に殺してやるな、ちゃんと生きてっからな……多分」

「断言しないんだ」

「最後に会ったのは俺がお前くらい、いやもっと前くらいだったな」


 どこかフリードが遠目をしているのをみて、スレイは過去に何があったのかが気になった。


「まぁ、オレが家を継ぎたくなくて一方的に出てきたんだけどな」

「心配して損したよ!」


 もっと深刻な問題で会えないのかと思ったが、ただの喧嘩別れと知ってスレイはあきれた。


「そう言うがな、オレが家を継いでたらお前も生まれてなかったんだぞ?」

「まぁ確かにそうだけど……ってか、父さんの実家って何やってるの、商家?」


 このフリードが商家の跡取り息子だったとしたら、今頃は剣ではなくペンと紙を持ってディスクに座る商会長をしていたかもしれないのかと思うと、全く似合わない姿にちょっと笑えた。


「うぅ~ん、まぁもう絶縁状態だし言っとくけど、アルファスタ家は貴族の家系なんだ」

「はぁっ!?」


 まさかの話しにスレイは驚いて起き上がってフリードを見る。


「おまっ、静かにしろよ?」

「イヤイヤイヤ、初めて聞いたし」

「始めていったしな。あ、言っとくが絶縁状叩きつけられてっから、金ならないぞ」

「いや、十分すぎるほど持ってるし。ってかいきなりそんな話されて実感わかないって」

「だろうな」


 ケラケラと笑っているフリードにスレイは呆れてしまうが、貴族の子が家を出て冒険者になるなどそんなことあるのかとも思ったが、フリードの性格を考えれば貴族みたいなお堅い生き方は向いてないんだろうな、とついつい納得してしまった。


「父さんの実家ってどこにあるの?」

「うん?あぁ、中央大陸のノーザラスってとこだ」


 中央大陸は世界に五つある大陸にある中心の大陸のことで、ここで初めてフリードがこの大陸の出身出ないことを知ったのだった。


「なら、師匠とはこっちに来た時に知り合ったの」

「いや、あいつとはガキの頃からの友人でな、冒険者になるってあいつが十の時に家出してな、それにオレも引っ付いて行ったんだ」

「へぇ~、って、そんなときから冒険者やってたの?」

「ギルドに年齢制限なんてないしな。まぁそん時にルリックスのじいさんに気に入られて、お前と同じように死霊山でシゴかれまくったんだけどな」


 その話は前にルクレイツアから聞いていたスレイだが、シゴかれたとまでは聞いておらず、フリードの悲痛を浮かべた顔を見て、当時は相当大変だったんだろうな、と実感させられた。


「想像つかねぇ~」

「あのじいさんも、年取って好々爺になっただけだ。あのじいさん引退しちまったがあれでもSSランクの冒険者だからな」

「ふぅ~ん」


 衝撃話だが、ここ数日で一番驚いた話だったが、もうそれくらいで驚くようなことはなくなった。


「反応薄いなぁ~」

「いや、だってね。父さんが貴族の跡取りだったって話聞いたあとだとね」

「まぁそうなんだが……いいか。続けるがあのじいさんの元でいろんな大陸の国に行ってな、そこでこの大陸を拠点にしてジュリアさんとマリーとルラ、他にも仲間はいたんだがまぁ色々あってパーティは解散して、いつの間にかSランク認定受けて、これまたいつの間にかマリーがゴードンと結婚、ジュリアさんが妊娠を期にあの村に越してきたってわけだな」


 初めて聞くフリードの若いときの話、のろけを抜いての話のため──いつもは大体のろけが入るが──つい聞き入ってしまっているスレイ。


「オレとジュリアさんは、ゴードンとマリーが暮らしてたあの村で暮らすようになってお前が生まれた。よく考えてみれば産まれたときはあんな小さかった奴が、今じゃオレと一緒にダンジョンに行くんだもんな時が経つのは早いぜ」

「じじくさいよ父さん」

「うっせ、お前もいつか親になりゃわかるよ」

「そのときは大先輩にご指導をお願いしますよ」


 スレイとフリードは小さな声で笑いながら、話を続け、いつの間にか静かに眠りについていった。

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