休みに日は何をしよう
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新人狩り事件──スレイとユフィ誇称の、が幕を閉じてからかなりの時間が経ったある日のこと。
「よし、明日から四日間、休みにしよう」
「そうしよぉ~!」
スレイの提案にユフィは手を上げて同意した。
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事件が解決してその報酬としてランクが上がったその日、スレイとユフィは一躍時の人扱いされた。その理由はたった数日でランクが上がったせいだ。
新人ばかりを狙う犯罪者の事件を未然に防ぎ──二人を狙ったのが運の付きだっただけで、多くの被害者の無念を晴らした。
そんなことがあり、一緒に組んで仕事をしよう、などと言う誘いを多く受けることになった二人は、やんわりと断っては居たものの、断りきれないものもあった。
なので何度かは一緒に仕事に行ったりしていたり、デイヴィッドの依頼だった死霊山行き──メチャクチャデイヴィッドがはしゃぎ一緒について来た受付のお姉さんが泣いた、もあったため、気付いたら一ヶ月近く休み無しで依頼を受け続けていた。
「なぁ、お前ら休みとってるか?」
そう聞いてきたのはヴィヴィアナだった。
今日はアリステラとヴィヴィアナと一緒にパーティーを組んで依頼に出ていた。
「……休み」
「……最後ってあの事件の前だよね?」
事件の前、依頼は受けずにそのままに帰って行った日、そのまま休みにした。
「や、休まないと……だ、ダメ……だよ……?」
適度に休まないと体調を崩しかねないことを、必死になりながら二人に説いていたが、ほぼ毎日修行を行ってきた二人にとって、あまり休まなくても特には問題はないように感じていた。だが、確かに最近疲れがたまっている気がしていた。
「そういえば最近、オールの整備もしてないかも」
生体ゴーレムであるオールとレイヴン、ついでにアラクネたちは、定期的な整備が必要になるのだが、レイヴンとオールの二機はかなり長時間使用しているため、この二機だけはこまめに整備しなければ本当に壊れてしまうのだ。ちなみに村にあるリーシャのうさぎの整備はクレイアルラに頼んでいるので問題はない。
「ボクもやってなかったな」
「じゃあ、危なくないアレ」
二人は揃って上空を飛ぶ二羽の鳥、もとい二機のゴーレムは、いつもならもう少し滑らかに飛んでいるところを、少しだけぎこちなく飛んでいる気がするどころか、あからさまに羽に問題があるようで、今まさに飛び方がおかしかった。
「レイヴン!戻ってこい!」
「オール!早く戻ってきなさい!!」
このまま落ちたらいけないと思った二人は、二機に降りてくることを指示し休憩がてら、レイヴンとオールの整備をしてみることにしたが、一度ばらして整備した方が早かった。
「よし、明日から四日間、休みにしよう」
「そうしよぉ~!」
そういうことになったのだった。ちなみにこの日の依頼は巨大なスライムの討伐だったが、さっさと片付けて帰ってきた。
ついでにスライムの倒しかただが、一般的にはコアを破壊すれば死ぬのだが、それだとコアが割れて買い取りの金額が下がってしまうので、氷付けにして倒した。
この依頼はDランクの仕事だったが、魔法使いが一人いれば済むような簡単な仕事だった。
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休みが決まってから始めの三日は、レイヴンとオールの整備、ついでにアラクネたちや魔道銃の整備で、丸一日使い次の日は、二人が着ていたジャケットやローブも長い間使い続けていたせいで、至るところにほつれや、穴などがあったためそれの補修をしたり、ついでに今まで着ていた服の手直しなども、その日の内にやり終えた。そして三日目は連夜の徹夜の疲れで二人は揃って半日ほどを睡眠に費やした後に、空間収納の中の整理等で一日が終わってしまった。
そして休み最後の一日、この日くらいは一日遊び潰そうとしていた。
「さて、どこ行こうか?」
「そうだ!お弁当作って広場で食べようよ!」
広場と言うのは毎朝二人が訓練をしていた場所ではなく、街中央付近にある少し大きな広場で、数は少ないが子供たちが遊べるような遊具もあり、そこには毎日カップルや家族連れに人気の場所だった。
「あそこか、でもいいのか?そんなので?」
もっといい場所でもあるのではないかと思ったスレイだったが、ユフィはその言葉にムスッとした顔を浮かべていた。
「いいの!最近デートしてなかったんだから!」
「……そうだね。でも弁当の材料って……あぁ、そう言えば昨日整理でいい肉見つけたっけ」
そう言ってスレイは捌いたままの鶏肉──死霊山産のロックバードです、が見つかったのだ。
「作る?」
「作る!」
そんなわけでスレイとユフィは肉以外他の材料を買ってきて、宿屋の厨房を借りて簡単な料理をしていたが、そのときにジャガイモを使ったフライドポテトや、ロックバードの肉を使った唐揚げなどを作っているときに、様子を見に来たアニタとオルカの二人が、見慣れない料理に興味を示したので味見をさせてあげたらかなりの量食べられ、あわやすべて平らげられる勢いであった。
ロックバード自体は何羽も狩っていたので仕込みをもう一度やって、唐揚げは作り直すことになった。
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「まさか、唐揚げ全部食べられるとは……」
スレイは先程あったことを思いだしながら苦笑していた。
「あはは、もしかしたら地球の食べ物でけっこう稼げるのかも知れないね。今度コロッケでも作る?」
ユフィが笑いながら相づちを打っている。
その証拠にミーニャとリーシャ、そしてパーシーのために、フライドポテトやフライドチキン等を作ってあげると、初めて食べたものに感激を受けていた。
ついでに言うとフリードとジュリアやゴードンとマリー、それにクレイアルラにも食べてもらうと、同じような反応をされたあげく、母親二人と先生一人は自分達でも簡単に作れるものだからとかなりの頻度で食べていた。
そのため一ヶ月ほどスレイとユフィの早朝トレーニングに参加していたが、男のスレイからすればそんなに変わってないように見えていたがユフィ曰くかなりふっくらしていたそうだった。
それを思い出したスレイはちらりと隣を歩くユフィの方を見ると、毎日鍛えているせいか余分の肉は全くなく、健康的でみずみずしい肢体の持ち主のユフィ。
「なぁ、ユフィって化粧とかしてる?」
「え、してないけど、どこか変なのかな?」
ユフィがペタペタと自分の顔をさわりだした。
「あ、いや、そう言うことじゃなくて、ユフィが化粧をしてるのって見たことなかったから」
「あぁ~、興味はあるんだけど、お母さんもしてなかったしやり方わかんないの」
「そういや、家の母さんも普段はしてなかったな」
その事を思い出したスレイは、この世界の女性はあまり化粧をしないのかとも思ったが、ギルドの受付のお姉さん方は薄くメイクしていたのと、すぐ横をかなりの厚化粧のオバサンが通りすぎていったのを見て、それはないと思った。
「見てみたいの?」
「いや、そこまで」
ユフィは、スレイがメイクした自分の姿を見てみたいのかと思ったが、すぐに否定さえれ少しだけムッとした。
「だって、今のままでもユフィは十分魅力的だからね」
「化粧水くらいは、つけようかな?」
嬉しそうに頬を染めながらユフィが小さな声で呟いたが、スレイは顔の赤いユフィを見て。
「顔赤いけど、具合悪いの?」
その言葉と同時にスレイの脇腹に綺麗なフックが入ったのだった。
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「あぁ~いって」
広場、というよりももはや公園にやって来たスレイとユフィだったが、スレイは先程ユフィから受けたフックの場所がけっこういたかったらしく、ヒールをかけていた。
「自業自得です」
「なにもしてないんですが」
「スレイくんが鈍感なのが悪い」
「………………………否定はせん」
何せ生まれたときから一緒にいる、もっと言えば生まれ変わってからも一緒にいる彼女の気持ちを、全く気付かなかったほどの超鈍感男だ。
「それにしても、けっこう家族連れ多いね」
スレイが話を変えるように言うと、ユフィも同意するように頷いた。父と子でボールで遊んでいる姿を見たスレイは、地球でのことを思い出していた。
「父親とボール遊びか……」
「どうかしたの?」
「ん~、地球での父さんって仕事が第一でボクや母さんのことはほったらかしだっただろ」
「うん。それでよく喧嘩して私の家に家出してきてたもんね」
「その節はお世話になりました」
スレイが深々とユフィに頭を下げた。
「だけどさ、一度だけ公園に連れていってもらったことがあったんだよ」
理由は分からなかったが、休日にもほとんど家に寄り付かないような父が、あの日は朝からずっと家にいたことがあった。そのときに生まれて初めて公園でボール遊びをしてもらった。
「今思えば、アレが最初で最後だったなって」
「スレイくんは、おじさんのこと今はどう思ってるの?」
ユフィの質問にスレイは空を見上げながら答えた。
「……わからないよ。もう会えないからなのか、それとも時間が過ぎたせいなのか、ボクがあの人のことをどう思っていたのか」
「私も……地球でのことは、もしかしたらリアルな夢だったのかもって、何度も思ったことがあったんだ」
「……ユフィ」
スレイが心配そうな目でユフィのことを見るが、ユフィはすぐに元のような笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ、私には桜木ミユの記憶もちゃんと残ってるし、スレイくんも地球のことを覚えてる。だから、ちゃんとあそこで生きてたって証があるもん」
「そうだな、例え記憶が薄れても、思い出は、記憶は、想いはボクらと共にある」
真顔で見つめ合っていると、二人は揃って吹き出してしまった。
「やっべ、がらにも無いこと言って笑えた」
「私も、あぁ~おっかしぃ~」
突然笑いだしたため周りからは少し好奇な視線を受けたが、すぐに何事もなかったかのように視線を戻してどこかに行ってしまった。
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少し歩いてから昼にしようと言うことになったので、一回りしてみることにした。
「あっ」
「どうかしたの?」
「いやアレ見てよユフィ」
スレイは遊具で遊んでいる家族連れを指差している。後ろ姿だったが、どこかで見たような気がしたユフィは、誰だったかと思い出そうとしていると、その人が振り向き手を降っていた。
「スレイさん、ユフィさん、こんなところでどうしたんですか?」
近寄ってきたのは盾使いのアーロンだった。
「デート中、そっちは家族サービスか?」
「えぇ、あ、そうだ妻と息子を紹介しますね」
アーロンが奥さんと息子を連れてきた。
「こちら前に話したスレイさんとユフィさん、それで彼女が自分の妻のアニーと息子のカインです」
「初めまして、アニーで。話は夫からうかがってました。ほら、カインちゃんもご挨拶しようねぇ~」
「うぅぁ~」
身長は大体百三十前後と言ったところか、写真で見ていて知っていたが実際に見ると、余計に幼く見えた。
「初めましてスレイです」
「ユフィです。よろしくお願いします」
挨拶を返した二人は、三人のことを見てみる。こう言ってはなんだが、身長に差がありすぎるのとアニーがかなり童顔のせいで、赤ちゃんのカインを抱いていなければ、よく見えて少し歳の離れた兄妹、悪く言えばアーロンがロリコンか幼い少女を犯したあげく孕ませたクズ野郎のどちらか二択だろう。
「スレイさん、何か失礼なことを考えていませんか?」
「そ、そっなことはありませんよ」
アーロンがジと目でスレイのことを見る。そしてスレイは目をそらしているせいで真実味は全くない、それを分かっているアーロンの目がだんだんと凄みを増していった。
「すみません、幼女侍らした鬼畜野郎だと思っていました」
「よく言われます」
スレイがアーロンに向かって頭を下げている。
「前も言いましたが、アニーは自分と歳は同じですので」
「誠に申し訳ありませんでした」
いつまでもお説教をしているアーロンと、その説教を甘んじて受けているスレイ、その姿を見ながら少し離れたベンチに腰を下ろして見ているユフィとアニー、ついでにカインの三人は。
「すみません家のスレイくんが失礼なことを言って」
「いいのいいの、わたしも言われるの慣れてるから。あ、抱っこしてみる?」
「いいんですか?」
「いいよ」
「ありがとう!」
何だか仲良くなっているユフィとアニー、その姿を見たスレイとアーロンもそちらに合流して、せっかくなのでみんなでお弁当を食べることになり、案の定、唐揚げやフライドポテトを食い尽くす勢いで食べられたのだった。
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次の日
「休みも終わったし、仕事頑張ろうか」
「そうだねぇ~」
二人は眠そうにあくびを噛み殺しながらギルドの中に入ろうとしたとき、不思議なことに気がついた。
いつもは中で酒を飲んでいる冒険者たちの声が響き、その声は外にまでその喧騒が聞こえてくるのだが、今日はそんなに騒がしくないどころか、全くと言っていいほど声が聞こえてこない。
「なんだ、休業か?」
「そんなわけないでしょ」
アホなことを言い出したスレイの頭に、ポンッと頭に軽いチョップを食らわした。
扉の前には、営業中を表すための、open、と書かれたプレートが掛かっているのだ。
ちゃんとopenの文字が表を向いているにも関わらず、この異様な静けさの理由がわからない。
「あっ!おはようございます」
声を聞いて振り向くとアーロンとパックスがいた。
「おはようアーロン、それにパックスさんも」
「昨日はありがとうね」
「いえ、妻も喜んでいましたし、また我が家に遊びに来てくださいね」
「なんじゃ、お主らこやつの家に遊びに行ったのか」
「えぇ昨日」
そんな話をしていると次々と知り合いが集まってきてしまった。
「おう!お前らこんなとこで何してんだ?」
「お、おはよう……」
「…………………………」
ヴィヴィアナとアリステラそしてベネディクトの三人だった。
「おはようヴィーちゃん、アリスちゃん」
「ベネディクトさんもおはよう」
三人にも挨拶を交わすと、なぜここにいたのかを説明すると全員もようやくギルドの異常に気がついたようだ。
「まぁ入りゃわかるだろ」
「そうだな、よし行こう」
スレイが扉を開けて順番にギルドの中に入っていった。ギルドの中では、なぜだか一角に異様な集団ができていた。
「何だろうね?」
「行ってみるか」
スレイとユフィは人だかりにその中央にいる人物の顔を見るために、中に入っていくと何だか聞こえてくる声に聞き覚えがある気がした。
「「あっ!」」
人混みを抜けた先では二人の男女が他の冒険者としゃべっており、その姿を見たスレイとユフィが声を揃えて驚くと、一気に会話は途切れ静かになり、そして話の中心にいた二人は、スレイとユフィのことを見て。
「ようスレイ、久しぶりだな元気だったか?」
「ユフィちゃんも久しぶりね。二人とも元気そうで安心したわ」
気軽に話しかけてくる二人に、スレイとユフィは盛大に顔をひきつらせている。
「……いや元気だったかって、たった二ヶ月くらいだよね?」
「……うん」
「てか、その前にさぁ」
スレイは二人に顔を見ながら告げた。
「こんなところで何してんの?父さん、母さん?」
そう、そこにいたのはスレイの両親、フリードとジュリアだった。