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面倒事は早々に片付けるに限る

前回の続きです。

 始めての依頼を受けてから早三日がたったこの日、空には太陽がサンサンと輝き、空には雲一つない見事なまでの快晴、まさしく絵に描いたようないい天気なのだが、そんないい天気にもかかわらず、スレイはとてもげんなりとした顔をしていた。


「なんか、嫌な予感がする」


 食後のコーヒーを飲みながらスレイがそんなことを呟いた。


「なに言ってるの?」


 飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置いたユフィが首をかしげる。


「いや、何て言うか……これから面倒事が起こる、そんな気がするんだよ」

「気のせいでしょ?」

「気のせい……なら、いいんだけどな」


 ズズッ音を立てながらコーヒーをすするスレイは、本当になにも起こらなければいいんだが、そう心の中で祈っていたのだった。


⚔⚔⚔


 約束の時間のギリギリになって二人はギルドにたどり着いた。


「はぁ、着いたか」


 どう不安がぬぐえずに不安でしかないスレイは、あれこれ理由をつけて帰ろうかとも思っていたが、そんなことをユフィが許してくれない。


「ほら、シャキッとしなさい!」


 重いため息を付くスレイのことを、その後ろから軽くこずくユフィは、動こうとしないスレイの背中を押しながらギルドの中に入っていった。


「おう!来たな新人!」


 ギルドの中に入ると、先日の先輩冒険者と仲間らしき冒険者がいた。スレイを誘ってきたフルプレートを纏い、背中には身の丈ほどの斧を背負った冒険者と、軽装の弓使いと剣使いの三人組だった。


「はい、来ました」

「今日はよろしくお願いしますね」


 朝からテンションの高い先輩冒険者とは反対に、元々今日の仕事は全く乗り気ではなくただただめんどくさそうなスレイとは反対に、勝手に決められたとはいえ今日一日パーティーを組む相手なので笑顔で接するユフィだった。


「それでは皆の者行くぞ」


 いきなり拳を突き上げてギルドを出ようとした冒険者だった。


「いや、待てやコラ」


 スレイが先輩云々関係なくツッコミを入れると、先頭を行こうとした斧使いの冒険者が振り向いた。

 他の先輩方は物凄い目付きでスレイのことを睨んだが、ユフィも少しおかしいと思った。


「なんだね新人」

「ボクたち、依頼の内容もカードの提示もしてませんけど?これじゃあ、ボクたちは依頼を受けたことにはならないですよね?」


 依頼を受けるときにカードを提示する必要があるのだが、今回そんなものなにもしていない、その事を訪ねると別の冒険者が答える。


「いや、君たちは私たちの動きを見てもらうだけだからね」

「だから君たちはなにもしなくていいよ」


 そう言われたが、受けていなければ関税は自分たち出払わなければならない、それ以上にパーティーには誘われて入っているにもかかわらず──無理矢理だが、見ているだけ、なにもしなくていいという言い方にユフィもようやく疑いの疑惑が確信に変わったのだった。

 それからしばしばの間、同じようなことをわめく先輩冒険者たちの話を聞いている内に、このままここにいる気も無くなった二人は、顔を見合いながら一言。


「ユフィ帰ろうか」

「そうだね」

「そんなわけでボクたち帰ります」


 しつこく後を着いてこられても困るのでゲートを開き、そそくさと宿に帰っていった。残された先輩冒険者たちは、二人に向かってなにか言っているようだったが聞かないことにした。


⚔⚔⚔


 それから大体ニ時間後、宿に戻って部屋で駄弁っていた二人はギルド内に仕込んできたアラクネの目を通して、あの冒険者たちがいなくなくなったのを確認し、ゲートでギルドに戻ると──突然現れて怒られた、すぐに受付のお姉さんに話しかけた。


「すみません。ギルドマスターのデイヴィッドさんはどちらに」

「三階の執務室ですが、お約束ですか」

「違いますが、少しお話しがありまして」

「それではお通し出来ません。マスターもお忙しい方ですので」


 そういわれてさすがに困ったと思った二人だったが、スレイはあることを思い出して、これならあげてもらえるのではないかと考え、ペンとメモ帳を取り出してサラサラッとなにかを書き、一枚破るとそれを二つ織りにしてから紙をお姉さんに渡した。


「それじゃあ、これをデイヴィッドさんに渡してください」

「かしこまりました。少々お待ちを」


 受付のお姉さんが他の職員にメモを渡してギルドマスターの部屋に持っていき、少しすると戻ってきた職員がスレイとユフィの前にやって来た。


「支部長がお呼びです。こちらに」


 先程とは打って代わり素直に案内をしてくれた職員の後をついていく二人、その道中ユフィがどう言うことなのかとスレイに訪ねる。


「ねぇ、さっき何を渡したの?」

「前にギルマスを死霊山につれてくって話したでしょ?」

「うん」

「それについての話をしたいって書いて渡した」

「ふぅ~ん、そんなに楽しみなのかな?」

「そうなんじゃない?」


 スレイからするとただの迷惑でしかない。そんな他愛もない話をしていると、すぐに目的の場所についてしまった。コンコンと扉をノックする職員の男性。


「マスター、連れてきました」

「うむ、入りなさい」


 職員が扉を開けたと同時にスレイは短剣を抜くと、額の位地に刀身を向けると同時にキィーンと何か金属同士がぶつかる音が鳴り響き、ころんと何かが転がるとユフィがそれを拾い上げた。


「これって、スレイくんの弾丸?」


 ユフィは拾った弾丸をスレイに返した。


「闘技場から見つけての返そうと思ったんじゃ」


 そう声をかけてきたのは、ギルドマスターのデイヴィッドだった。


「返してもらうのはいいですけど、危ないんでこんなやり方しないでください」

「君ならなんの問題もないじゃろ。あ、そこの君は仕事に戻っていいぞ」

「失礼します」


 職員が出ていったのを見たユフィは、デイヴィッドのことを見ながら。


「なんか、雰囲気違う気がするんだけど」

「こんな感じだよ。気にしたら負け」


 そんなことを小言で言い合っていると、デイヴィッドが


「二人ともそこに座りなさい」


 進められたソファに腰を下ろす。


「それで、そちらのお嬢さんかね。今度一緒に連れていくというのは?」

「はい」

「ユフィ・メルレイクです」

「うむ、デイヴィッドじゃ、このギルドを統括しておる」


 挨拶もすみ、スレイはデイヴィッドに本題を話し出した。


「まずは最初に謝ります。今日来たのは死霊山についてのことではありません」

「ふむ、ではなにかね?」

「ちょっとお話があるんですが、ある冒険者についてです」


 スレイは懐から小さなクリスタルをテーブルに置いた。


「映像クリスタルかね?」


 デイヴィッドがクリスタルを見ながら訪ねる。

 映像クリスタルとは、文字の通り映像を記録したクリスタルのことで、撮影機にセットしクリスタルに映像を記録させることができる物で、一般家庭に広く広がっている魔道具だ。ちなみに大きさによって記録出来る時間が代わり、スレイが出した物は二三時間程の物だ。


「これには、その冒険者の会話を記録してあるんです」

「見せてもらってもいいかね」

「はい。構いませんよ」


 ユフィが映写機を取り出し、クリスタルをセットした。

 そこに写し出されたのは、どこかの酒場で話している冒険者たちの姿だった。


『あのガキのせいで』

『まだ次がある。今度連れ出すんじゃなく自分達で出てもらおう』

『と、言うと?』

『だから、依頼で外に出たときに襲うんだよ』

『いいねぇ~、その代わりあの女、先にやらせろよ』

『せっかくの上玉だ、壊すなよ?』

『わかってるって』

『あのガキはどうする?けっこうヤバそうだぞ?』

『なに、囲んじまやすぐすむ』


 その後はゲスい笑い声と、どうやって痛め付けるか、ついでにどうやって黙らせいいように利用するか等を永遠と暴露していったが、聞くに耐えない話になってきたので途中だったが切った。


「そんな訳で、こいつら殺してもいいですよね?」

「ダメに決まっとるじゃろ!?」

「そうだよスレイくん、そんなのダメだって」

「おお、お嬢ちゃんはわかってくれてるようじゃな」

「えぇ。やるなら雷撃で手足を炭にしてから」

「もっとダメに決まっとるじゃろ!?」


 話だけでぶちギレ気味のスレイとユフィが、しきりにこの冒険者たちを殺すと言ったが、何とかしてデイヴィッドが落ち着かせて止めた。


「君たちけっこう物騒じゃな」

「いや、普通にこいつら盗賊かなんかじゃないですか」

「それなら問題無いんじゃないですか」

「考え方じゃよ。まぁこやつらは本当に盗賊のようじゃが、キチンと取り調べをせにゃあかん。それに映像だけでは言い逃れされる場合があるでの」


 それもそうだが、逃げられる可能性を排除する方法はすぐに思い付いたユフィが、デイヴィッドにその方法を話ている。


「確かにそれはいいが、二人だけで平気かね?」

「三人程度なら、ねぇ?」

「そうだよね」


 スレイの強さは十分に知っているデイヴィッド、ユフィも死霊山に行けるほどの実力はあるとわかっているので、危険なこととわかっていたが二人に頼むことにする。


「わかった。新人の君たちに頼むことではないが、よろしく頼む」


⚔⚔⚔


 それから二週間二人は休むことなく依頼をこないしていったのだが、そのすべてがこの町の中で行う依頼ばかりで、前に見つけたポーション作りや手紙配り、道具屋やショップの店番に犬の散歩など、いくつか片手間に受けれる依頼は複数受け、そのお陰でつい先日ようやくランクが一つ上がった。

 こんなことで上がっていいのかと職員に聞いた所、FランクからEランクに上がるのは簡単なので、別に問題は無いそうだ。


「Dランクまでだと、これがいいかな」

「なになに、イエローホースの討伐、へぇ~、銀貨七枚。いいね受けようよ」


 依頼の受注を受けて町の外に出るため町を歩いている。


「ねぇ、付いてきてる?」

「あぁ。ピッタリマークされてるよ」


 スレイの左目には上空から見下ろすような視線が写っている。これは上空を飛んでいるレイヴンの視線を、コネクトによって受け取っているためだが、どこには二人の少し後ろをピッタリとついてくる一人の影があった。


「地球だったらこれで訴えられるんだけどな」


 この二週間入れ替わりで付いてくる、そいつらの顔を思い出してスレイは苦笑する。


「証拠もあるしね」

「この世界は自衛が基本だから仕方ないけどな」


 笑いながら歩いていくスレイとユフィは、門の前でわざとらしく待ち構えている二人の姿を見つけた。


「おぉ!新人!久しいな」


 技とらしいまでの笑顔で手を降ってくるリーダー格の冒険者に、スレイとユフィも笑顔で接する。


「どうもお久しぶりですね」

「これから依頼ですか?」

「そうなんだが、少し遅れてるようでな」


 困ったように肩をすぼめるもう一人の冒険者。


 ──そいつはずっとボクらの後をつけてるよ。


──気づかれてないと思ってるのかな?


 心の中で告げたスレイとユフィは、少し前のことを謝ったりしていた、もちろん芝居です。


「スレイくんそろそろいかないと」

「あっと、そうだったな」

「おや、急いでいるのかね?」


 話に食いついてきたことにスレイとユフィは喜んだ。


「えぇ、討伐依頼を受けたんですが、その魔物が出るのが森の奥なんですよ」

「森の奥か、それは急がないといかんな」


 一瞬だけ後ろの冒険者の目の色が変わったように感じたが、それはきにせいではないだろう。


「それじゃあボクたちはこれで行きますので」

「お仲間が早く来るといいですね」


 それだけ言うとスレイとユフィは森の方へと向かった。


⚔⚔⚔


 それからの話を割愛すると、森の奥の方へと歩いていったスレイとユフィ、それを追ってやってきた冒険者三人組の姿をレイヴンとオールの目で確認し、取り囲むように現れた三人をスレイが一人で撃退、ここだけ詳しく説明すると、フルプレートの冒険者が始めに切りかかってきたので、氷魔法を付与したフリーズバレットで氷付けの氷像と化しておる。

 軽装の剣使いと弓使いは剣戟でスレイが圧倒し、その間背後に回って弓を射ってきたが、魔道銃で打ち落とし、雷撃を纏ったスタンバレットで足の甲を打抜き気絶させ、残る剣使いは剣を二つに斬られ魔道銃の銃身で顎を殴り脳を揺らされて気絶した。

 それから三人を捕縛し荷物をすべて没収、そのままゲートで門の前に投げ捨てる。


「あぁ~めんどくさい」

「文句言わないの。仕方ないでしょ?中にはゲート繋げれないんだから」


 今さらだが、町の外から中へのゲート移動はできない。それは町全体を囲う壁が結界となり外から中、中から外への転移を出来ないように術式が編まれているからだ。これは各家にも備わっており犯罪防止のためだ。その代わりギルドホールへの転移は可能で、緊急を要する案件がある場合があるため、一部の部屋を除いてギルド内へは転移が可能だそうだ。


⚔⚔⚔


 門番に事情を説明した二人は衛兵によって牢へと三人組入れた後、すぐにゲートでギルドに転移しデイヴィッドに、すべてうまく行ったことを告げ、これからやることのために承認と監視役として信頼の出来るギルドお抱えの魔術師を連れてきた。


「本当に二人で倒すとは」


 デイヴィッドは手足に枷と口にも枷がはめられ、牢屋の中で転がされスレイのことを睨みながら何かをわめき散らしている三人を見下ろしている。


「やったのはスレイくん一人ですよ」


 ユフィがご丁寧に説明した。


「ふむ、そやつは凍傷が酷いが特に問題はなさそうじゃな」

「言われた通り生かしてとらえました。じゃあ早速やりますか」


 スレイは衛兵の人に牢を開けてもらい、その中で倒れていた斧使いの口枷を外してもらう。


「ギルドマスター!こいつら俺たちのことを森で襲ってこんなことを!!」


 今まで喚いていたことはこれか、とスレイは納得した。


「言う必要はないんですが、これからあなた方にある魔法をかけます」

「あぁ!?てめぇ!これが犯罪だってわかってんのか!!」

「先にやろうとしたにはお前らだろ。すみませんもういいですよ」


 スレイが衛兵に頼んでもう一度口枷を着けてもらい、牢屋を出たスレイは魔力で空中にこれから使う魔法の魔方陣を描いた。


「それがカースの魔法かね」

「はい」


 カースとは呪いと言う意味で、魔法と言うよりも呪術に近い。制約を立てて相手を呪う、解除は出来ずに永遠にその呪いにさいなまれる物で、誓約は嘘を言う、もし言えば全身に強烈な痛みが走ることになる。


「すみませんが確認をお願いします」

「うむ、マイ、リンダ確認を頼む」

「了解です」

「かしこまりました」


 デイヴィッドが後ろで待機していた二人の魔術師に声をかける。マイは紺色の髪に黒淵の眼鏡が印象的な女性で、リンダは黒髪に黒いローブと魔術師よりも魔女の方がピッタリの女性だ。

 二人はスレイの描いたカースの術式を見る。


「術式の方は問題ありません」

「変なところもないね」

「うむ、それでは頼むよ」


 ギルドお抱えの魔術師のお許しが出たところで、スレイは三人組に向けて魔法を発動する。


「カース!」


 それから何度も保身に走った嘘をつこうとして激痛にさいなまれた三人は、今まで行ってきた悪事、そのすべてを自白した。三人は冒険者として資格を剥奪、今までやって来たことが完全な犯罪行為だったため情状酌量の余地なしで死罪となるそうだが、まずは事実確認が先のため、三人が今までいたとされているギルドへ確認が取られることとなったが、結果として三人は黒と判断され処刑された。そしてこの事件を解決したスレイとユフィは、功績を称えられランクが一つ上がった。

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