始めての依頼
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試験を終えた次の日スレイとユフィは、朝早くから揃ってギルドのボードの前に顔を付き合わしていた。
「う~ん、やっぱり魔物討伐かな?」
「薬草採取もあるな、一緒に受けれればいいんだけど」
そう今日ギルドに来たのは始めての依頼を受けるためにギルドに来ていたのだった。
⚔⚔⚔
夜が明けるよりも前に起き出したスレイとユフィは、昨日見つけた広場でランニング等、今まで村でやっていたメニューを一通りこなしてから宿に戻った。
その頃には日も登り朝の早いお客などは、すでに顔を見せている時間であった。
「あら、スレイくん、ユフィちゃん朝からどこに行ってたのかしら?」
「お、お母さん!そんなこと聞いちゃいけないよ!」
なにか変な想像をし始めたアニタにオリガがツッコミをいれていたが、ただのトレーニングなのでそこまで頬を赤く染めることもないのにな、と思ってしまった。
「おはようございます。アニタさん、オリガさん」
「おはようございます」
そんなオリガにいちいち説明するのも面倒なのでそのまま挨拶を返した二人に、同じく挨拶を返した母娘。
「お二人とも朝ごはん食べますか?」
「いただきます」
「はい。ただいまお持ちしますね」
今日の朝食のメニューは、焼きたてのパンにオムレツ、サラダとオニオンスープと飲み物でスレイはコーヒー、ユフィは紅茶だった。
それを食べ終わった二人はこれからの予定を話し出した。
「さて、今日はどうする?」
「どうするって、決まってるじゃん。ギルドで依頼を受ける!でしょ?」
「そうだな、じゃあ行こうか」
朝からそんな話をしてからギルドへ向かった。
⚔⚔⚔
そして冒頭へ戻る。
色々なことを依頼を見たが受けてみたいと思った依頼はランクが足りなかったり、薬草採取に関しては二人の空間収納の中にストックしてある物があったりと、受けてもあまり意味の無さそうなものしかなかった。
「もう仕方ないしこれ受けよっか?」
「どれどれ?」
ユフィが見せたのはゴブリン退治の依頼だった。ちなみに今受けれるのは一つ上のEランクまでだが、張られてないだけか、もうすでに持っていかれたのか討伐系の依頼はFランクの物しかなかった。
依頼の内容は森に生息するゴブリンの退治。数の指定は十匹と書かれてあった。
「そうだね」
「じゃあ受けにいこっか」
下のカウンターで依頼の発行を行おうとしたとき
「お、スレイ、ユフィ、お前らも来てたのか?」
名前を呼ばれて振り向くと、ヴィヴィアナ達がいた。
「やぁ、おはよう。みんな依頼受けに来たの?」
「そうじゃ。お前さんらもか?」
「はい。私たちはゴブリン討伐に」
パックスの問いかけにユフィが今から、出しに行こうと思っていた依頼の紙を見せてみた。
「な、なにか……いい、依頼あった……?」
「討伐系はあんまり、ゴブリン以外はアッシェウルフの討伐くらいだったかな?」
アッシェウルフとは灰色の毛並みの狼で、通常の狼種よりもすばやいのが特徴なだけで、それを除くとほとんどただの狼と変わらない。
「なら、自分達はそれを受けましょうか?」
「そうじゃな、ではまた」
早速上のボードへ向かったヴィヴィアナたち、それを見送ったスレイとユフィは、今度こそ依頼を受けるためにカウンターに向かった。
「すみません。依頼を受けたいんですけど」
「かしこまりました。カードの提示をお願いします」
受付のお姉さんにカードを提示する。
「それでは依頼の受注を承りました。どうかお気を付けて」
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依頼の受注を終えた二人は渡された木のプレートを見ながら森の中を歩いていた。
「これを持ってれば入関税がいらないか、冒険者って便利だな」
依頼の受注と同時に渡された木のプレートは、ギルドが発行している物でこれを持っていれば町に入るときの税金が必要なくなる。
ちなみにこれは簡易の魔道具で、ギルド側には場所を把握できるため、このプレートの紛失はあまり起こらないらしく、依頼が終わたら返す必要があり、紛失したと嘘の報告し不正に所持させないためだ。
さらに言うと、作りは簡単だが先も述べた通り魔道具であるため、関所で本物かどうか調べることができ、偽物はすぐに発覚する。
「そんなことより、ゴブリン見つかった?」
「いや。あ、帰ってきた」
上空を見上げていたスレイが、偵察から戻ってきたレイヴンを腕にのせる。
「お帰り、ゴブリン見つけたか?」
「カァ~」
レイヴンが羽ばたきそのままゆっくり飛んでいき、その後をスレイとユフィは追っていき、少し奥に行った場所でゴブリンを見つけた。
「うわ、ゴブリンのコロニーにでも当たったか?」
「軽く二十匹以上は確実にいるね」
正確には二十七匹、そんなゴブリンを見ているとゴブリンのコロニーの中心に、少し他の個体よりも大きなゴブリンを見つけた。
「あれがこの群れのリーダーか?」
「あれって、亜種……だよね?」
二人の視線の先にあるのは真っ赤な皮膚で他のゴブリンよりも、少しだけガタイのいいゴブリンだ。
「魔力はおかしくないし、そうとしか考えられないな」
前に見た変異個体出はない。感じられる魔力量も通常のより少しだけ高いだけだ。そして、そのリーダーだけは、身の丈ほどの直剣を握っていた。
「なぁ、あれやる?」
「いいけどなにかけるの?」
「夕食で」
「のった」
スレイは魔道銃を空間収納にしまい両手には剣と短剣を握り、ユフィは長杖を構えながら空間収納の中からガードシェルを取り出し起動させた。
「じゃあルールはいつもと同じ、魔道銃、アタックシェル、範囲攻撃無し、どっちが多く倒せるかで勝負な」
「じゃあやるね」
「間違っても倒すなよ」
「わかってまぁ~す」
ユフィは杖を構えるとゴブリンの少し上に杖の宝珠を向け、小さな炎の球を打ち出すと、ゆっくり漂うとゴブリンたちの上空に漂うと花火のように弾けた。
「ギギャァァァァッ!?」
炎の弾が弾け光が溢れたところでスレイとユフィは茂みから抜け出した。
「負けても恨むなよ!」
「そっちこそ!」
走りながらスレイは身近にいたゴブリンの首を切り、ユフィはファイヤボールで焼き払った。
「おいユフィ、討伐部位が必要だから黒こげは勘弁ね」
「なら、これにする。アクアカッター!」
ユフィ杖から水の鎌を生み出し数体のゴブリンを切断した。
「お!やるなぁ~よし、負けられないな」
スレイは短剣を鞘に戻すと、空間収納の中に閉まってあったナイフを数本取り出し勢いよく投げると、数匹のゴブリンは弾いたが、何匹かに突き刺さると雷撃がほとばしり内部から肉体を焼いた。
「うわぁ~、スレイくんえげつないねぇ~」
「ユフィよりはマシだろ?」
今も水のカッターを撃ちまくりゴブリンをみじん切りにし続けている。このままではユフィに負けてしまうと思ったスレイは、魔力と闘気で強化し速さで勝負を決めにかかった。
⚔⚔⚔
二人は揃って最後のゴブリンを倒し、残すは亜種一匹のみとなった。
「何匹殺った?」
「十三匹だね」
「ボクもだ」
二人は最後に残った亜種に視線を向ける。
「つまり、あいつを先に倒せば」
「そう言うことだね」
二人に頭にはあの魔物を倒す以上に、この勝負に勝つ、という一文字しか存在しなかった。
「お先!」
「あ!ずるい!──ダイヤモンドレイン!」
ユフィが氷のつぶての雨を降らした。
「ユフィ!それはやめて!?」
「あ!」
気付いた時のはもう手遅れ、この魔法は相手を無数の氷のつぶてで串刺し、内部から凍らせて砕くという魔法なのだが、そんなことをしてしまえば討伐の証拠も無くなる。
「クソッ!!」
全身極限まで強化したた上に赤黒い業火の炎を纏ったスレイは、剣を捨てて短剣を片手に一直線に走り、魔法が届くよりも先に亜種ゴブリンに近づいた。
──間に合った!
すぐ後ろには当たれば即死確定の魔法を背にスレイは素早くナイフを振り、亜種ゴブリンの耳を切り落としその場から消え、続いて降り注いだ絶対零度の氷につぶてが亜種ゴブリンを撃ち抜きそして砕き、小さな粒となって消えていき、少し遅れてコアがゴトリと落ちてきた。
「あっぶねぇ~、シールドと業火合わせてたけど間一髪だったな」
「大丈夫だったスレイくん!?」
「大丈夫だ、だけどなんであんな魔法使ったの?」
剣と短剣鞘に納めたスレイがユフィに睨むような視線を向けると、ユフィが困ったような笑みを浮かべる。
「い、いやぁ~ついうっかり?スレイくんに負けたくなかったから?」
「前もやったよなそれ」
村にいたとに同じことをやらかして、またも前者の言葉を何度も使っていた。それだけではなくこの町に来る前に、公共の場であるはずの街道をぬかるみに変え、そのときは後者の言葉を使っていた、
大きく肩を落としたスレイは、討伐の証拠に刈り取ってきた耳をユフィに見せる。
「止めはユフィだから、ユフィの勝ちでいいよ」
「ううん、スレイくんの勝ちだよ。スレイくんが行かなかったら討伐の証拠も無いんだし」
こうなったらどちらも引かない、なのでこういうときの答えは決まっていた。
「じゃ引き分けにするか」
「そうだね」
そういうことになった。
その後手分けして自分の倒したゴブリンの耳を切りコアを摘出した。
なれている二人にとっては簡単な作業なので三十分程で終わらせ、血で汚れた土を魔法で入れ換えゴブリンの死骸は他の、魔物に食べられないように丁寧に業火の炎で灰にしてから土に混ぜ終わりだ。
「よし、これで全部終わったな」
「まだ日も高いけど帰る?」
「それもいいけど、早く終わったんだし、なにか食べれる動物でも狩ってかない?」
「いいねそれ、最近は食べてなかったし」
村を出る前はよく森で狩った魔物なり動物なりを食べていたが、旅の間は狩りはできず──血の臭いで魔物を呼ばないため、非常食や保存食しか食べていなかった。もちろん宿の食事に不満がある訳ではないが、たまには狩りたての動物の肉が食べたいと思っていた。
「近くに鹿なりボアなりアルミラージなりロックバードなりいないかな?」
「スレイくん後半から魔物しか出てきてなかったよ?」
「いいじゃん旨いんうまいんだし」
スレイとユフィは探索魔法で見つけたアルミラージを数匹狩ってから帰った。
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ギルドに戻った二人だったが、ユフィがボードの確認に行きたいと言い出したので、スレイがユフィの分も完了報告に向かった。
「すみません、依頼の完了確認をお願いします」
スレイはゴブリンの耳が入った袋と二人分のギルドカードを提出する。
「ずいぶん遅かったですね?」
受付のお姉さんがスレイの顔を見てそんなことを聞いてくる。
それもそのはず、二人が依頼に出掛けたのは朝八時、そして戻ってきたのが十一時少し前、約三時間も時間がかかってしまっていたということになる。
「えぇ、ちょっと探すのに手間取りまして」
ちなみにスレイのこの言葉だが、なかなかアルミラージが見つからず、森をしらみつぶしに探し回りようやく一匹捕まえた、という意味。
「そうですか、確かに見つけずらいですよね」
ちなみにこの受付のお姉さんのは、はぐれゴブリンを探すのはという意味だった。
奇跡的に噛み合っている二人の会話だが、その言葉の意味が全く違っている、そんな会話を聞いている人物がいた。
「なんだなんだ、お前さん新人かい?」
フルプレートの鎧を着た冒険者が声をかけてきた、
──なんだこの人?
スレイはこの冒険者のことが少し怪しい、そんな気がして警戒していた。
「えぇ、二日前に」
「そうか、なら俺のパーティー入れ!なに心配すんな、すぐにお前を一人前の冒険者にしてやる!」
「はい?」
よくわからない自信に満ちた言葉の口調で告げてくる先輩冒険者だったが、特に誰かに教えてもらうようなこともないし、それどころかこんな得体の知れない相手とパーティーを組む気にはなれなかったスレイは、誘ってもらった手前、やんわりと断ることにした。
「すみませんが、一緒に組んでる者がいますのでご遠慮させていただきます」
「ならそいつも一緒に入れ!」
「いや……ですから」
それからなんとかパーティー誘いを断ろうとスレイが頑張ったが、この冒険者は全くもって聞いてはくれないため、困り果てて受付のお姉さんを見ると、お姉さんの方も困った笑みを浮かべているだけで助けようとはしてくれない。
「それじゃあ三日後、八時にな」
「いや、だから」
「じゃあな新人!」
一方的に決められたあげくさっさとギルドを出ていってしまった先輩冒険者、なぜだかあっけにとられたスレイは黙ってその後ろ姿を見送っていた。
「あの人っていつもこうなんですか?」
「すみませんが、私共もよくわからないんです」
「どういうことですか?」
「あの人のパーティー、つい最近ここに来たので」
「なるほど、そうですか……はぁ」
スレイは大きなため息を付きながら。
──変なのに目付けられたなぁ~……あぁ~めんどくせぇ~
ここに来てから色々と巻き込まれてばかりだと思ったスレイは、昨夜の自分の発言を思いだし過去に戻るすべがあるなら自分のことを一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、それ以上に始めに見たあの冒険者の目付きがどうにも気になってしまった。
──厄介なことにはならないといいけどな
そんなことを考えていると、一人でコロコロと表情を変化させていたスレイに受付のお姉さんが声をかけた。
「あの、依頼の確認しますね」
「はい。お願いします」
お姉さんがスレイの渡した袋からゴブリンの耳を確認して、その数の多さにビックリしていた。
「あの、これ多くないですか?」
「すみません、狩りすぎました」
「それと、これって亜種のですよね……コロニーとでも戦ったんですか?」
「はい」
平然と返すスレイにお姉さんは耳を疑っていた。
「あのどうかしました?」
「あ、いえ、それでは依頼はこれで完了ですのでカードの提示を」
スレイは自分のとユフィのカードを提示すると、判子のようなものを一回カードに押した。
「これで完了です」
「ありがとうございます」
報酬を受け取ったスレイはお礼を言ってからスレイは上に上がり、ユフィを呼ぶと次の依頼を選んで明日はこれを受けよう、等と話してから宿に戻った。
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宿に戻り昼の喧騒が落ち着いた頃、キッチンを借りて料理を作って食べようとしたが、アニタとオリガが食べたそうにしていたので少し分けた。
部屋に戻った二人は、少し話していた。
「あぁ~久しぶりのお肉美味しかったね~」
「そうだな……」
どうも歯切れの悪いスレイに、そこかおかしいと思ったユフィは目を細目ながらスレイのことをにらんだ。
──なぁ~んか、怪しいなぁ~
スレイを見るユフィの目が、だんだんと鋭く険しいものとなる。
「な、なにかな?」
「ねぇスレイくん。私になにか隠し事してない?」
スレイが目をそらしながら答え、ますます怪しいと感じたユフィ
「スレイくん、吐きなさい、隠してることすべて吐きなさい」
「…………………………はい」
スレイはギルドの受付であったことを全て話し、それを聞いていたユフィは、やっぱり面倒ごとに巻き込まれたんだ、と思っていた。
「そんな訳でして……三日後頼みます」
正直な所面倒なことこの上ないので、サボりたいと思っているのだがどうも何かある、そんな気がしてしょうがなかった。
「やっぱりスレイくんて巻き込まれ体質だよね?」
「お願いだから言わないでくれ」
ユフィの言葉を聞いたスレイは大袈裟なくらいうなだれていた。
「まぁいいよそれくらい。どんな依頼を受けるか知れないけど、大丈夫だよね?」
「……うん、ごめんね」
こうして三日後、先輩冒険者と一緒に依頼を受けることにした。