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剣聖の技と竜人の奥義

 スレイとリーフと別れたライアはミカエラの家へと向かった。

 あそこなら普段人が寄り付かないので、少し激しく戦っても周りに被害が出ることはないのだそうだ。それにミカエラの妻ルリアがもう一度遊びに来てほしいと言っていたそうだ。


 ミカエラの家に付いたライアはふと有ることに気づいた。

 家の前に広がっていたはずの草原が全て掘り起こされ、まるでなにかが暴れ回ったかのように地面の土が掘り起こされ、ついでとばかりに昨日までなかったはずの大きな岩が一つおいてあった。


「……ねぇ、昨日あれからいったいなにしてたの?」

「あぁ、随分と戦いからは身を引いた生活をしていたからね。感覚を戻すのに修行してたんだよ。この岩なんかはその名残りでね」


 感を取り戻すためにたった一晩修行したとして、いったいどんな修行をしたら一面に広がる草原を消しされるのだろうと、疑問が浮かんだ。


「さて、私のことはこれくらいにして、ライア君。今から全身に竜力を纏ってくれないかな?」

「……竜力を?竜化すればいいの?」

「出来るなら今の君が出せるすべての竜力をだしてくれないか。もちろん危うくなったら私が止めてあげるから」


 ミカエラの言葉に少しカチンと来たライアだったが、やれと言うならやってやるとコクリとうなずくとそっと目を閉じて意識を自分の身体の内側へと向ける。

 普段はそれほど強く竜力を纏っていないライアは、自分の内にある竜力の多さに驚愕した。

 スレイたちと旅を始める前はあまり使うことのなかった竜力だったが、数々も戦いを経てその量は増しいつの間にかライア自身が掌握できる量を大きく超えてしまっていた。

 闘気の修行ばかりを優先して竜力の修行をおろそかにしてしまったことを悔やんだライアは、今更悔やんだところで意味がないと切り替え少しずつ竜力を制御下に置く。


「随分と手こずっているようだけど、大丈夫かい?」

「……ん。平気………もう少しで出来るから、黙ってて」


 集中し少しずつ掌握した竜力を引き出し、コントロール出来るようになったところから竜力を全身に巡らすと、最後に一気に竜力を解放し肉体を作り変える。

 頭の側頭部から後ろへと真っ直ぐ二本の角が伸び、顔の頬を含めた露出している肌がヒビ割れたようわれ竜の鱗に置き換わっていく。

 背中には折りたたまれた翼が生え尾てい骨のあたりからは赤い鱗と鱗とその先には同じ赤い毛が生えた尻尾が現れる。最後に目を開いたライアは、竜眼の瞳で自分の全身を巡る竜力の輝きを見て驚いた。


「……凄い、思っていた以上に強くなってた」

「このぐらいの歳ならよくあることさ。成長時が一番竜力が増えやすい、何度も危険な戦いを繰り広げてきたそうだからそれで急激に増えたのだろうね」

「……暴走しそうで、ちょっと危なかったかも」

「それをよく防いだね。上出来だ」


 優しい目でライアのことを見るミカエラ。そんなミカエラの表情を見てライアは何故か胸の奥が暖かくなるのを感じた。

 ギュッと胸の前で手を握りしめたライアはは今まで感じたことがないその感覚が何なのか分からずに小首をかしげていると、正面に立っていたミカエラが不思議そうにこちらを見ていた。


「どうしたんだい、調子でも悪いなら少し休もうか?」

「……いい、平気。それより教えて、なんでこんなことさせたのか」

「あぁ。それはね、真化を教えるに当たってまずは君が今出せる全力がどの程度のものなのを知ってもらいたかったんだ」

「……ん。確かにわかって良かったかも」


 サボっていたとはいえ、確実に力をつけていたことが実感できたライアは、これで使徒とも殺り合えると自然と口元がつり上がっていた。


「喜んでいるところ申し訳ないが、君に真化を教えるに当たってもう一つ、その姿を維持した状態で実際に真化を扱う者と戦ってもらおうと思う」

「……戦うの?」

「あぁ。相手は私がする、と言うかそのために修行し直したんだからね」


 そのとおりだと思う一方でライアは、本当に大丈夫なのかと心配になってきた。

 先程スレイと戦ったグラートの様子を見た限りだと、真化を使えばかなり身体能力が向上する。しかし、ミカエラはどう見ても戦いに向いているとは思えない。

 そんなライアの考えを読み取ったのか、フッと笑みを浮かべたミカエラはもう一度説明を始める。


「さっきの説明に付け加えることがあった。真化は竜が与える刻印を人為的に真似たものだが、これを習得するには強靭な肉体と精神力が必要になるんだよ」

「……つまり、どゆこと?」

「つまり、私は一般的な竜人族よりも強いってこと。それこそ、彼がさっき戦ったグラート君よりも私のほうが強いよ」

「……それでも、スレイより弱い?」


 コテンと小首をかしげながら尋ねるライアを前にして、ミカエラは一瞬目を丸くするとクスッと笑みを浮かべてからコクリとうなずいた。


「比べるまでもないよ。彼は普通の人の域を超えているからね、仮に同じ状態で戦っても私が負ける………確認なんだけど、彼って本当に人間族なの?生まれる種族間違えてない?」


 真面目な顔から一点、なんともこわばった表情で問いかけるミカエラを見て今度はライアがクスリと笑みをこぼした。


「……スレイは竜の因子は持ってるけど、人間族。怪我してヴァルミリアさまからもらったんだって」

「ヴァルミリアって、あの伝説の聖竜ヴァルミリア様!?いや、あれ程の力を持ってるなら、ありうるのか?」

「……あっ、でも身体は元からだって、師匠さんから死ぬよりもつらいような、地獄の鬼でも恐れて涙を流して逃げ出す?特訓を受けてきたからがどうとか言ってた」

「なんだか、スレイ君って若いのに壮絶な人生を歩んできているみたいだね」


 よくわからないがスレイが元からおかしいのだと理解したミカエラは、話がそれてしまったので一度咳払いをしてから話をもとに戻した。


「うぅん!はなしはそれてしまったが、これから私が実際に真化を行ってライア君と組手を行う。もちろんライア君は、好きに攻撃をしてくれて構わないよ」

「……ん。わかった。全力で行くね」


 家の前から少し離れてミカエラが更地にした場所に移動した二人は、少し離れてから向かい合った。


「それじゃあ、私の真化を見せてあげよう」


 問いかけてきたミカエラの言葉に答えるようにライアはそうとうなずいた。

 それを了承と受け取ったミカエラがそっと目を閉じると、一瞬にしてミカエラの纏う空気が変わったのを察した。竜化と共に側頭部から後ろに角が生え、ミカエラの皮膚に鱗が現れたが、それだけでは終わらなかった。

 ミカエラを中心にして力の渦が吹き荒れ、それがミカエラの力の高まりに合わせ出るように吹き荒れていく。


「……ッ、クッ………すごいプレッシャー」


 ミカエラの放つ圧に押されて身が竦みそうになったライアだが、これしきのことでプレッシャーは今までに何度も味わってきた。

 ここで気圧される訳にはいかないと気を引き締め直すと、しっかりとその両足で踏みとどまった。


「こんな物か」


 聞こえてきたミカエラの声と共に放たれていたプレッシャーは収まったのを感じたライアが、ミカエラのことを見るとその姿は同じ真化を使ったグラートとは全く違っていた。

 グラートは肉体そのものが竜に近くなったのに対して、ミカエラの真化はとてもスマートだった。

 竜化によって生えた角が枝切のように二つに別れ、真化を発動した影響か髪が伸びている。そして大きく変わったのはミカエラの両腕だった。

 ノースリーブのシャツから見える両腕は、肩から赤い竜の鱗に覆われ指先は黒曜石のように黒い輝きを放っている。

 説明を受けたときある程度は予想していたが、本当に人によってここまで変わってくるのかとライアがお揃いる。


「どうだ、これが俺の真化だ。グラートの野郎とは随分と違うだろ」


 ニカっと笑ったミカエラは先程までの穏やかなものではなく、とても荒々しい性格に変わっていたのでライアは驚いていた。


「……ん。それになんか性格変わった?ちょっと偉そう?」

「そうだな。竜の力を極限にまで引き出した状態だからな。それに合わせて精神も引っ張られるってわけだ。お前も穏やかな方だからな、真化を会得すると多少は性格が変わるかもしれんな」


 そうなったらどうなるのだろうかとライアは想像してみたが、あまりにも自分じゃない感じがしたのですぐに忘れることにした。


「さておしゃべりは終わりだ。ライア、これから俺と組手をして実際に身体で体感してもらうが、遊びじゃねぇんだ。全力で来いよ」

「……ん。分かってる」


 あれほどまでのプレッシャーを浴びせられたのだ、余力を残している余裕はライアにはない。竜力だけではダメだと思ったライアは、即座に闘気を身に纏うと赤竜戦のときに編み出した闘気の鉤爪を作り出す。

 両腕と両足に鋭い闘気で形作った鉤爪を発現させたライアは、そこに手足の延長として竜力を流し込むと赤い真紅の輝きが放たれる。


「……行くよ」

「来いよ」


 静かに開戦の合図が響くとライアは今の自分に出来る全力でミカエラに立ち向かうのであった。


 ⚔⚔⚔


 ライアがミカエラに指導を受けているとき、リーフもまたスレイに技の指南を受けていた。

 これから教える技の的として、まだ切り分けていない薪を用意しているスレイは作業しながらリーフに話しかける。


「リーフはさ、闘気や斬撃を飛ばす事はできるよね。光刃はそれに近いんだよ」

「あれとですか?」

「そう。まぁ似てるってだけで原理は違うんだけどね」


 空間収納から木剣を抜き放つと、設置した的に向かって剣を振り下ろした。

 すると的にしていた木は見事に真っ二つに分かれる。


「光刃は刃を飛ばすんじゃなくて、目標を斬るってイメージをそのまま斬撃に変えたような技なんだ。だから、斬ろうと思えば服の内部を斬ることだって出来るんだ」

「なるほど、イメージで斬る………無理ではありませんか?」

「いきなりは無理だから、今日のところは一通りの技の特徴を覚えてもらって、別のことを覚えてもらうよ」


 もう一度剣を構え直したスレイは垂直に剣を構え、剣を勢いよく突き出すと的が内側から破裂した。


「今のが光爆。相手の内部を切り裂き衝撃を伝える技、それをより鋭く突き抜けるようにやったのがあれ。そして最後の断界は世界を斬る斬撃だけど、こっちは似たような技しか出来ないから」


 木剣を脇に抱えるように構えたスレイは、一度目を閉じて集中してから剣を一閃。すると台の上に載せられていた薪木が、なにかに吸い寄せられるように引き寄せら地面に落ちた。


「今のは、何が起きたのですか?」

「世界を斬ったんじゃなくて空間を斬ったんだよ」

「空間を斬ったって、切れるものなのですか、そんなもの」

「世界が切れるんだから空間くらいどうとでもなるよ。斬ろうと思えばこの世に斬れないものはない、意識だって簡単に切れるよ」


 実際、剣士の頂きの技光刃を身に着けてからというもの、この世に斬ることのできないものなどないのではないかと思えるようになった。


「今日のところは別の技。殺意の斬撃を覚えてもらうよ」

「殺意の斬撃、ですか。聞いたことのない技ですね、いったいどのようなものなのですか?」

「技名は適当につけたから、まぁようはボクがよくやっている殺気で相手をきること、それを出来るようになってもらいたいんだよ」


 先程も話した通り光刃は斬ることを突き詰めた斬撃、確固たるイメージを持って相手を切る技なのだ。

 これが出来れば光刃習得の足がかりになるはずだ。


「殺気の刃なんて本当はない、だけど一流の剣士ならば剣を持たずとも真剣のごとく幻想の刃を作り出す。それを気に置き換えるんだよ」

「それは何度か試したことはあるのですが、どうもうまく行かないのです」

「慣れれば出来るよ。さて、実際にやって見るに当たってボクに殺気をぶつけてみて」

「はっ、はい」


 少し離れてからスレイとリーフは向かい合った。

 ふぅッと息を吐いたリーフは、まっすぐスレイの目を見ながら殺気をぶつける。


「うん。いい殺気だ。じゃあそれでボクを実際に斬り殺してみて」

「いきなり無理難題を……わかりました」

「良し。それじゃあルールだけど、ボクが眠っているときやトイレのときなんかはなし。それ以外ならいつでも来てくれて構わないから」

「分かりました。そのルールで結構です」

「じゃあ、ボクはミカエラさんたちのところに持っていく手土産を作るから」


 踵を返してスレイが背を向けたその時、リーフは殺気を強めてスレイに向けて放った。しかし、そのときリーフは自分の首元にパッと冷たい感触があった。


「────ッ!?」


 見えない刃が首筋にあたった。

 斬ったと思ったら切り替えされていた。このことにリーフは思わず膝をついてしまうと、スレイがこちらに振り返りながら声をかけてきた。


「いい忘れてたけど、出来てなかったらかわりにボクが斬るから」

「先に行ってくださいよ」

「言ったら練習にならないだろ。さっ、次々」


 いい笑顔で笑っているとリーフに向けて語りかけているスレイ、それを見たリーフは表情を引きつらせながら乾いた笑いがでた。


「あはははっ。前々から思っていましたが、スレイ殿ってかなりスパルタですよね」

「そりゃそうでしょ。あの悪魔と化け物を織り交ぜたような鬼畜な師匠の弟子なんだからさ」


 それを自分で言うのかとリーフは更に呆れるのであった。


「そうでした……それでは、自分も遠慮なくッ!」


 それからしばらく、スレイに向けて殺意の刃を放ったがリーフの放った刃はただの殺意の塊であり、そのたびにスレイの殺意の刃がリーフの首を切り落とした。


 かれこれ二時間ほど殺意に刃を振るい続けるリーフだったが、一本もスレイに当てることが出来ず息を切らしながらついにリーフは膝をついてしまった。


「大丈夫かリーフ?」

「むり……です」


 息も絶え絶えになりながら答えるリーフ、だいぶん煮詰まってきてしまったので休憩にしようといいながら、焼き上がったばかりのクッキーを差し出した。


「昨日もらったシナモン使って作ったクッキー、差し入れも兼ねて色んな種類を作ったから味見も兼ねてちょっと休憩しよ」

「はい……いただきます」


 一枚手にとってポリポリと食べ始めるリーフ、その表情は暗かった。気分転換も兼ねていたが全く変わらなかったので、気分を変えて家の外で食べることにした。

 土魔法で椅子とテーブルを用意したスレイは、ぐったりとテーブルにうつむいているリーフの前に冷たいお茶を用意して置いた。


「冷たいお茶、シナモン入り」

「……シナモンづくしですね」

「時間があればパンとかパイも作りたかったんだけどね」


 コップの中に浮かんだ氷をカラカラッと弄りながらリーフはクッキーを口に運ぶ。


「美味しいです、ドライフルーツですか?」

「そっ、保存食で持ってきたやつだけど、空間収納の肥やしになってたから掃除も兼ねて使いました」

「そうなのですか」


 パクパクッとクッキーを食べ続けるリーフにスレイは話しかける。


「リーフが殺意の刃ができない理由、教えてあげようか?」

「ッ!?わかるのですか!?」

「なんとなくだけどね………イメージが固まってないんだよ。リーフは今殺意を刃のようにして当てようと考えてるだろ?」

「むっ。違うのですか?」

「うん。殺意の刃は刃を当てるんじゃなくて、殺意で斬るんだ」

「殺意で斬る……ですか」


 椅子から立ち上がったスレイは、黒幻を腰から引き抜いてその刃をリーフへと向ける。


「今リーフの眼の前に実際に剣を向けてるけど、そこに恐怖はある?」

「いいえ、殺気がありませんので」


 リーフの答えを聞いたスレイは黒幻を鞘に戻すと、今度はリーフを見つめながら殺気の刃を眼の前に向けてはなった。


「じゃあ今度は」

「眼の前に刃を突きつけられる恐怖があります」

「そうボクは殺気を君に突き立てるイメージで放った。これはボクとリーフの違いであって、リーフが殺意の刃を使えない理由だよ」

「なるほど、イメージの違いですか」


 考え出すリーフの表情を見ながらスレイは、これなら近い内に殺意の斬撃を習得できそうだと思った。



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