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来訪、竜人の里

 朝早くキャンプ地にやってきた竜人族の男たち、スレイたちにとってはまさに千載一遇のチャンスとも言える。しかし、早朝からの来訪に加えて、男の語った里長という方からの呼び出しというのが気になる。

 テントの中から他のみんなも顔を出し、突如現れた竜神族たちに不審な目を向けているので、まずは情報を引き出した方がいいと考える。


「竜人族のみなさん。突然の来訪で我々も混乱しています。まずいくつか質問してもよろしいでしょうか?」

「構わぬ、だが答えられる範囲での質問のみだ」

「助かります。まず一つ目、なぜボクたちは竜を倒したと断言できるんですか?たまたまここでキャンプしていた旅人だったってこともありえるでしょ?」

「冗談はあまり好きではないな」


 竜人の男の発言に誰もが疑問に思ったその時、男はその言葉の意味を告げた。


「この場所は竜の住処として有名だった場所だ。旅人など訪れるはずもなかろう」

「まぁそれもそうですね。じゃあ二つ目、あなた方の族長はなぜ我々を里へ呼ぶんです?仮にギルドへ依頼を出したのがあなた方であるなら可能性はありますが、そうじゃない。いったいなぜ?」

「理由は我らも知らぬ。だが族長の側に遣える呪い師の予言だ。竜を倒しし者の来訪により我らは救われる」


 呪い師とはなんとも嫌なものを聞いたとスレイが顔をしかめると、聞き慣れない言葉にライアが尋ねる。


「……スレイ、呪い師ってなに?」

「簡単に言えば魔術師だよ。だけどその中でも人の運命を占ったりする占術や呪いなんかの呪術、他にも死霊術なんかの怪しい術を専門に扱う術師のことを呪い師っていうんだ」

「死霊術ですか………随分と懐かしいですね」


 懐かしがることでもないが、数年前にグレイ・アルファスタが起こした事件、あのときに共犯となった死霊術師テレジアのことを思い出していた。

 彼女の専門は死霊術だったが、その気になればある程度の呪いも使えていた。


「ついでに説明すると、死霊術を専門に扱う魔術師を死霊術師、呪いを専門に扱う魔術師のことを呪術師と呼ぶんだよ」

「つまり陰険でいけすかんやつってわけか?」

「あぁ純粋な戦士からするとそうですね。戦わずに相手を殺すわけですし実際それを極めた術師なら、離れたところにいても人を殺すことが可能な上、大昔の戦争じゃ呪術師一人で大軍を呪い殺したなんて話もあるくらいですからね」


 スレイの話を聞いていたイグルたちは顔を強張らせているが、実際に呪いというのはそんなに便利なものでもない。

 前にも呪いについての説明をしたが、呪い自体強力な物でなければ簡単に使える。しかし先程の話しのように大量の死者を生み出すような呪いは返されたり、失敗するリスクもかなり高い。

 今話したは呪術師の場合、大軍を呪い殺した代償として自分以外の近親者全てが呪いによってなくなり、自身も多くの人の怨念によって醜い化け物に成り果て討ち取られたそうだ。


「そんな大昔の話はどうでもいいとして、あなた方の理由は大体分かりました。っというわけでイグルさん。どうしますか?」

「えっ!?ここで俺かよッ!?」

「当たり前でしょ。このパーティーのリーダーあなたなんですから」

「グッそうだが………はぁ。こっちは怪我人もいる。俺たちはあんたらにはついて行けねぇよ」


 怪我人ではあるもののリーフとライアはそこまで問題はないが、ゼグルスにちゃんとした医者に見て治療を施してもらった方がいい。イグルの判断は正しいが竜人の男たちはそれを許せなかった。


「できぬ話だ。族長はこの場にいる全員を連れて来いとおっしゃった」

「ですがこちらは怪我人が居るですよ。無茶はできません」

「ならばこれを使え」


 そう言って別の男がスレイに小さな小瓶を投げ渡した。

 それは赤黒い液体だったので、確認のために蓋を開けて匂いを嗅ぐと鉄の臭いが鼻を突いた。


「これは血か?」

「竜の生き血だ。呪い師の助言で持ってきた」

「へぇ。その方かなり高位の術士なんですね………ですが、念のために試させてもらいますよ」


 感心した様子のスレイだったが、いきなり渡された物を使うわけにも行かないので、スレイはナイフで指を斬り瓶の中の血を一口含むと、口の中に独特の風味が広がった後、傷は即座に塞がった。

 手足の痺れなどもないので問題はないだろうと判断したスレイは、残りをゼグルスに差し出した。


「問題はなさそうですのでどうぞ」

「普通に飲みたくねぇよ!」

「まぁ血ですからね。でもこれ以上の回復薬はありませんよ。さぁ一息で飲んでッ!」


 絶対に楽しんでいるであろうスレイを横目にゼグルスが竜の生き血を一息で飲み干すと、あまりの不味さに顔を青くしていた。


「はいこの水呑んで」


 事前に用意していた水の入ったコップを差し出すと、ゼグルスが一息で飲み干したのを見たスレイは一言断りを入れてからそっと額と傷口に手を当ててみる。


「熱も引いてますね」

「凄いな、身体の痛みがなくなったぞ」

「……竜の生き血、やっぱりすごい」

「竜の生き血なんて早々手に入る物ではありませんからね。あれ一本でどれだけするか……」


 今更だが一時期は竜の生き血をパーティーメンバー全員が所持していたのだと思うと、なかなかにおかしいことだと思いながらリーフは、自分もかなり染まっていると感じるのだった。


「怪我人の問題は解消したけど、ボクの剣はどうしようか」

「……そっちもあったね」


 流石にこれは持っていないだろうとスレイが話していると、またしても竜人の一人が答える。


「お前の言う剣とは竜の素材で作られた白い剣のことだな」

「えぇ。そうですけど」

「ならばその二つ先の渓谷を超えた場所にある、ひときわ大きな岩の上に刺さっているぞ」

「なるほど、どうやらマジで有能な呪い師みたいだな」


 ふと呟かれたスレイの言葉にリーフたちは小首をかしげると、背中に翼を発現させると竜人の男たちの中から息を飲むような声が聞こえてくる。

 気にはなったが今は無視したスレイは、振り返りながら空間収納から鍋とパンを取り出しながらみんなに一言声をかける。


「ボクはこれから剣を取りに行ってきます。戻ってくるまで昨日の残りで朝食でも取ってください」

「待ってください。自分も一緒に行きます」

「腕が平気なら来てもいいけど、ライアはどうする?」

「……私はいい。ここにいる」

「了解。それじゃあ行こうか」


 背中の翼を広げて空へと飛び立つスレイ、少し遅れてリーフも空を駆け上がった。


 空を駆けながらリーフは先をゆくスレイへと問いかけた。


「スレイ殿、一つお聞きしてよろしいですか?」

「おおよその予想はつくけど、なんだいリーフ」

「先程おっしゃった、有能な呪い師とはどういうことでしょうか?」

「そのままの意味だよ」


 ここからは少し専門的な分野の話になって長くしまうが、まだ少しかかりそうなので構わず話すことにした。


「さっきも話したけど、呪い師の殆どは占術や呪いを使う魔術師だ。もちろん魔導師であるボクやユフィも使える」

「確か魔導師は様々な分野に秀でている術師のことでしたよね」

「良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏。どの分野にも精通していてるから殆どの術を扱える。っとはいえ先生からは知識のみで死霊術や危険な呪いの類は使えないようにとギアスをかけて禁止されてる」


 もちろん、スレイもユフィもその危険性を理解した上でそのギアスを受け入れている。


「話は逸れたけど、占術ってかなりいい加減なんだよね」

「………どういうことですか?」

「言葉通りだよ。占術ってのは色々な術を使って未来を占う魔術なんだ。例えば先祖の霊を使ってその血族のあり方を見たり、星の巡りを詠んだり、天候を使った物もあるけどそれらを全て含めて占術っていうんだけど、正直に言ってほとんど当たらないし、インチキばかりだよ」

「えっ、インチキなんですか!?」


 その言葉に思わずリーフが聞き返すと、スレイは大真面目な顔をして何度もうなずいてみせた。


「星読みとか天候とか、自然の要素が影響してうまく行かないことが多いんだよ。それこそ子供が適当に言ったことのほうが当たるよ。あとは先祖も霊魂なんてまず見ることは不可能だ。だって存在しないからね」


 昔から霊魂の存在は否定されてきた。

 仮に残っていた場合、その霊魂はレイスとなって滅ぼされる。それに裏世界でウィルナーシュから聞いた話では、死者の魂は次元の狭間から天界へと帰り地上へと戻る。


「だからいい加減で、インチキですか………では有能だと言ったのは?」

「言葉通り。占術を使う術師の多くはその本質がわかっていない。でもこの術師はそれを理解している」

「本質ですか?」

「占術ってのはね、何かを占うより自分を占うほうがよく当たるんだ。なぜだと思う?」

「………自分自身の行動を理解できるから、ですか?」

「正解。まぁ、他者との関わりがある時点でそれでも五割は外すけど、それを条件をかなり限定して行えば確率は上がる。それにその理論を理解している熟練の術者なら、その占術は未来予知にも匹敵する精度だ」


 それは実際に顔を合わせたことのないスレイたちの居場所を当てたり、竜の生き血が必要なことを当てたり、無くした白楼の在り処を言い当てたりすることも可能だ。

 二人は不意に進むのをやめた。その理由はあの竜人の男から聞いた岩の上に、目的のものを見つけたからだ。


「う………これは、我が剣ながらなんともらしいことを」

「何の話ですか?」

「向こうの世界で有名な伝説の剣のようで、ちょっと感動してた」

「そのような物があったのですか?」

「ほとんど物語での話だけどね。さて、さっさと抜いて帰りますか」


 しかし惚れ惚れするような刺さりっぷりだったので、スレイは思わず写真を一枚。後でユフィにも見せようと思いながら、岩から白楼を抜く。

 流石にポーズはやめておいた。

 白楼の刀身を見て問題がないことを確認してから鞘へ収めると、リーフに帰ろうかと言った。


 ⚔⚔⚔


 空を飛びキャンプ地へと戻ると、すでに朝食を済ませてテントを片付けていたライアが二人が戻ってきたことに気づいた。


「……おかえり、剣あった?」

「ただいま。うん。本当に岩に刺さってた」


 ポンッと白楼を叩いて見せるスレイにライアはフッと笑みを浮かべ、良かったと呟いた。


「戻ったのなら出発するぞ」

「いきなりですね。ってか、まだ朝食も食べてないんですが」

「歩きながら食べればよかろう」


 これは頑なに譲らないと思ったスレイはキャンプ地を撤収したあと、竜人の男たちの案内で里へと向かうことになった。


 キャンプ地を出発してすでに数時間が経っていた。

 その間彼らは休憩をすることなく歩きき続け、一行はいつの間にか木々の生い茂る森の中にまでやってきた。

 一体どこまで来たのだろうかと森の中を見回していたスレイは、自分たちの周りに生い茂る木を見てふとあることに気がついた。


「ん?………あれ?この木って、もしかして」


 なにかに気がついたスレイが足を止めて木の幹に手を触れて調べ始めてしまった。


「どうしたんじゃスレイ、その木がどうかしたのか?」

「気のせいだと思うんですけど」


 突然進むのをやめて木々を調べ始めたスレイを見て、みんなの足を止めて立ち止まった。


「おい。何をしている」

「すみません。少し待ってください」


 先を歩いていた竜人族たちも一度足を止めてスレイたちの方へと戻ってきた。


「うん、やっぱりだ。妙に魔力の濃度が濃いと思ったらこのあたりの木、全部トレントの亡骸だ」

「ちょっと待てトレントって魔物だろ!大丈夫なのか!?」


 ゼグルスの発言にイグルたちが一斉に武器を手にとって固まったが、それを咎めるようにスレイが語った。


「大丈夫ですよ。随分昔に死んだみたいですけど………それにしても凄いな、ここにあるの全部エルダー・トレントだ」

「……ノクトの杖と同じ?」

「そう。魔法使いの杖の素材としては最高の素材だね。あとは魔術の媒体や木材としても高価に取引されてる魔物だよ」


 エルダーと付いているが実際は高濃度の魔力がある地域で育ったトレントのことで、凶暴性も高いことで有名だ。間違っても数百年生きたトレントというわけではない。

 もちろん中には数百年生きたトレントも存在するが、こちらの方がより強力な力を持っていたりする。

 死んでいるとはいえそれが見える範囲だけでも十数本、戦えば負けはしないにしてもそれなりの被害を受ける。それがどうして無傷の状態で死んでいるのか、それがスレイには気になった。


「このトレントたち、なんで死んだんですか?」

「死んでいるのではない。こいつらは我らが里の守りの要だ」

「死した魔物が要?お前たち妙な事を言うな」


 竜人の男の個体に聞き返すセッテの言う通り、確か微妙だと思ったスレイはもう一度トレントに手を触れて魔力を流しながら、同時に魔眼で魂を見る。


「なるほど、死んだわけじゃなく仮死状態になってる。それにこれはトレントを使役獣にしたってわけか」

「その通りだ。言っておくが下手に傷つけようとすれば一斉に襲ってくるぞ」


 竜人属の男の一人が剣と斧を構えている二人に忠告をした。


「大丈夫だと一匹くらい」

「そうじゃそうじゃ!ここで見逃したらドワーフの名折れじゃ!」


 などと曰わっているイグルとオルクだったが、辺りから漂っている高濃度の魔力からするに昨日の竜よりは弱いにしても、取り巻きの竜たちと同等のトレントが一斉に襲ってくるのだ。

 倒せるにしてもおいそれと手出しはしたくない。


「セッテさん。本気でやりかねないので、あの二人殺してでも止めてください」

「あい分かった」


 馬鹿なことをやろうとしたあの二人には、セッテからゲンコツが送られ物理的に大人しくしてもらった。

 頭を抑えてうずくまるバカ二人を横目にスレイは竜人族の男に問いかけた。


「このトレントの結界は、他の竜人の里にもあるんですか?」

「いいや無い」

「なるほど、この里独自の物でしたか」


 ライアの産まれた里を探す手がかりになればと思ったスレイだったが、この手は使えなさそうだと諦めていたが男の話はそこでは終わらなかった。


「違う。そうではない」

「えっ?」

「里がないのだ。里同士が混ざりあい、今は我らの里一つだ」

「そうなんですか」


 つまり、今向かっているのがライアの産まれた里なのかとスレイは思った。


 ⚔⚔⚔


 再び歩き出した一行だったが、その途中ゲンコツをもらった二人がブツブツと文句を言っていた。


「トレント、ちょっと惜しかったな」

「全くじゃ。枝の一本くらい問題なかろうに」


 納得がいかないらしい二人がブツブツと文句を言っていたが、スレイたちは無視して前へと進んでいく。

 その途中でもスレイは周りの木々を観察しているといたるところにトレントらしき影が見て取れる。どうやらトレントを使い里を隠しているだと理解したスレイは、これから何が来るかわからない以上少し強めに経過をしておいたほうがいいだろう。


「おいお前たち。もうじき里に着く。着いたらお前たちの持つ武器を預かる」

「あぁッ!?なんでだよッ!」

「よそ者を入れるのだ。それくらいは必要だろうがッ!」

「言われたとおりにするさ。ゼグルスも、今更言い合いをしても無駄だ」

「チッ」


 それからしばらく竜人の男が語ったように里が見えてきた。


「あれが我らの里だ」


 こうしてスレイたちはようやく竜人の里に入ることができたのだった。

ブクマ登録、作品評価ありがとう御座いました!

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