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幼馴染みへのプレゼント

少し空きましたが、読んでいただく皆様には楽しんでいただきたいと思っています。

 この騒動が起きたのはある日の朝食の席でジュリアから聞かれたことが原因だった。


「ねぇスレイちゃん」

「なぁ~にぃ~」


 寝起きのせいで頭が回っていないスレイは、ぽけぇ~っとしながらモソモソッとパンを咀嚼しながら、正面で紅茶を嗜むジュリアに答える。


「あなた、来月お誕生日でしょ?なにか欲しい物ない?」

「ん~………欲しい物かぁ~」


 聞かれて考えて見たスレイは、なにかないかと考えるがこれと言ってほしいものが思い浮かばない。

 新しい本を考えたが、今読んでいる本もまだ途中だし、父の頼めば色々と貸してくれるだろうから借りる必要はなさそうだ。


「欲しい物、ないかなぁ~」

「あら、そうなの?じゃあ、スレイちゃん。プレゼントはもう決めたの?」

「プレゼントって、誰の?」

「あら?忘れちゃったの?今年はユフィちゃんへのプレゼント、自分で用意するって言ってたじゃない」


 ジュリアの言葉を聞いて次に食べようと口に運んでいたハムエッグをスレイは落としてしまった。

 ポトッと皿に卵が落ち、割れた黄身が皿の上で広がっていく。


「大丈夫?汚れてない?」

「あっ、うん………大丈夫………だよ」

「スレイちゃん?どうしたの、顔真っ青よ?」


 ジュリアに指摘された通りスレイの顔は真っ青、加えて汗もびっしょりであった。


「わっ、忘れてた……どうしょ、忘れちゃってたよ」


 頭を抱えてしまったスレイの顔は、まるでこの世の終わりだと言わんばかりに絶望に彩られているのであった。


 ⚔☆⚔


 朝食を終えたスレイはしばらく部屋にこもってユフィに送り誕生日プレゼントを考える。しかし、全くいいアイデアが浮かばないので、気分転換に散歩に出かけることにした。


「お母さん。ボク、お散歩してくるねぇ~」

「スレイちゃん。お外は寒いから暖かくしていきなさいよ」

「はぁ~い」


 ジュリアに返事を返してから外に出たスレイは吹き荒れる風を浴び思わず身震いした。部屋から持ってきたマフラーと手袋を身につける。

 今は十一の月、季節は冬真っ盛りだ。空には鉛色の分厚い雲に覆われ、この分では近いうちにでも雪が降り出しそうな空模様であった。


「来月で五歳………ここに来て、もう五年か」


 曇り空を眺めながら一人呟いたスレイは、ゆっくりと歩き始める。

 今から約一ヶ月後の十二の月の二十日、その日がスレイとユフィの合同誕生会の日だ。

 なぜその日になったかというと、その日がちょうど二人の誕生日の間だからだ。スレイの誕生日は年の瀬の十二の月の十八日、ユフィが十二の月の二十二日だ。

 ちなみにこの世界の一年は三百七十六日で一年は十二ヶ月と、ここは地球とさほどかわらず四季もある。


 話はそれてしまったが、スレイはユフィになにを渡そうかと考えながら歩いていく。

 四歳の誕生日から始まったプレゼント交換、初めは母ジュリアに手伝ってもらったが今年は自分で何かを作って送ろうと考えていた。

 その為、何も助言を貰わなかったことが仇となった。


「はぁ、どうしよかなぁ~」


 部屋で考えていても纏まらないからと外に出たが、そう簡単に良いアイデアが出てくるわけではない。かと言って送る本人に聞くわけにもいかないのでどうしようかと悩んでいると、前からスレイの名前を呼ぶものが現れた。


「おぉ~いスレイ。一人でなにしてるんだ?」


 声のした方に振り返ると、珍しく一人で冒険者の仕事に出ていたフリードだった。

 その姿に気づいたスレイはトコトコッと小走りで走っていく。そんなスレイの姿を見たフリードは、待ち構えるようにそこに佇むと、大きく手を広げる。

 フリードの側にまで駆け寄ったスレイはピョンと飛び上がり、フリードの腕の中に収まった。


「お父さん!おかえりなさい!」

「おう。ただいま、スレイ!」


 スレイの両脇に手を入れて高く持ち上げたフリードは、クルクルっとその場を回ってからスレイを地面におろした。

 地面に下ろされたスレイは、帰ってきた父の姿を見上げながらあれッ?っと小首をかしげる。


「ねぇお父さん。帰ってくるのってまだ少し先じゃなかった?」

「あぁ。オレもそのつもりだったんだが、意外に速く仕事が片付いたんだよ。そんでお前たちに会いたかったから、全速力で帰ってきたってわけだ。ビックリしたか?」

「うん。びっくりした」


 ニッと笑いかけてくるフリードにスレイも同じ表情で笑い返すと、フリードの大きな手がスレイの頭に置かれワシャワシャッと頭を撫で回した。

 しばらく親子のスキンシップを頼んだスレイとフリードは、一緒に手を繋いで歩き始める。


「そういやぁスレイ。お前一人でなにしてたんだ?」

「なにって、お散歩」

「それは見りゃわかる。なんか悩んでただろ。いったいなに悩んでたんだ?」

「あぁ~うぅ~ん……それがね、実はボク、すっかり忘れてて」


 スレイは自分がユフィに送る誕生日プレゼントを用意するのを忘れたこと、それでなにを送ればいいか考えていたことを包み隠さずに話した。

 話を聞き終わったフリードは、神妙な面持ちでうねっている。


「なるほどなぁ、なにを送ろうか考えて結局決まらなかったから散歩してたと、んでなにかいいのは決まったか?」

「それが全然………ユフィにどんな物あげればいいのかもわかんない」

「確かに、女の子に物を贈るのってなにげに難易度が高いんだよな」

「お父さんも経験あるの?」

「ったりメェだろ。俺がジュリアさんにプレゼントを送った回数は十や二十じゃない。その点はお前よりは玄人ってやつだ」


 エッへんと胸を張るフリードだが、自分の子供相手に何マウント取っているんだろうとスレイは白い目を向ける。


「まぁ、なにか贈るにしてもお前まだお金持ってねぇだろ?買うのは無しだから、なにか手作りのプレゼントにするしかないな」


 今更だが五歳の子供にお小遣いなどあるはずもなく、プレゼントは家にあるものを使って手作りしか道はない。ちなみに去年はジュリアに手伝ってもらって作ったクッキーを渡した。

 それをわかっているのに、なぜ去年あんな事を言ってしまったのかとスレイは頭を抱えてしまう。


「去年みたいにお菓子作るんじゃ嫌なんだろ?」

「うん。あんなコゲコゲのクッキー、また渡したくないもん」


 去年渡したクッキーはあまりいい出来とは言えなかった。

 何度も失敗した中で、幾分かマシなものを選んだがそれでもところどころ焦げてしまったものをユフィは美味しそうに食べてくれた。

 だから今年は食べ物以外で、出来るならなにか形に残るものをプレゼントしようと思ったのだが、それを忘れてしまった自分がなんとも情けなかった。


「歩き回ってもいいことねぇし、なぁスレイなにか食べていかないか?」

「えっ?でもボクお昼食べたよ?」

「実は俺、朝からなにも食べてなくてな。昼も抜いてるから腹減っちまって」


 さっきそんな事を言っていたなと思ったスレイは、そう言う事ならと頷いた。


「よし。そんじゃあそこ行こうぜ」


 フリードに連れられていくのはこの村で唯一の食堂で、行ったことはないが夜になると酒場になるらしい。

 食堂の扉を開けるとカランッと音がなった。


「いらっしゃい。あらフリードさんとスレイちゃんじゃんない。二人共、珍しいわねぇ!」

「やぁおばちゃん。ただいま」

「こんにちわ」

「はいはい!ふたりともよく来たねぇ。こっちに座りな」


 進められるがままカウンターに座ったスレイとフリード、メニューを持ってきた女将はそのまま話し始める。


「しかしまぁ、ふたりで来るのも珍しいけど、フリードさんは随分久しぶりじゃないの。いつ帰ってきたんだい?」

「ついさっきだよ。そんで、朝からなにもくってなくてさ、軽く食べれるもんだしてくれね」

「はいよ。それでスレイちゃんの方はどうするんだい?お父さんと同じのにするのかい?」

「ボク、お昼食べたから別のがいい!」

「はいよ。それじゃあ飲み物は何にするんだい?」

「こいつにはジュースで、俺にはエールって言いたいけどコーヒーくれるかい」

「はいよ。ちょっとまっててね」


 注文を取ったおばさんは奥に引っ込んでいく。店の中はスレイとフリード以外にお客はいなかった。静かだなっとスレイが思っている。


「なぁスレイ。お前裁縫得意だっただろ。それでなんか作ったらどうだ?」

「お裁縫かぁ~」


 それもいいかもしれないと思いながらスレイはなにを作ろうかと考える。


「せっかく作るんだし、ユフィちゃんに似合いそうな洋服でも縫ってやったらどうだ?」

「一ヶ月じゃ無理ぃ~」


 得意とは言っても一人で服を縫うと時間がかかるので、今回は別のものにしたほうが良さそうだ。


「服を作るのは冗談として、縫い物やるときは気を付けろよ。針は危険だからな」

「わかってるよぉ~」


 裁縫をすることで固まったユフィへのプレゼントは、帰ったら母のデザイン本を参考にして作ろうと考えていると、調理場に引っ込んでいたおばさんが戻ってきた。


「はい。おまちどうさん。スレイちゃんにはジュースとりんごのタルトね」

「わぁ~、おばちゃん。ありがとう」

「たぁ~んとお食べね。そんでフリードさんにはこいつね。コーヒーと超特大ステーキプレート」

「おぉ〜、こいつはうまそう───いやデケェッて!?」


 思わず食い気味でツッコミを入れるフリードの前には、今のスレイの手のひらと同じくらいの厚みのステーキが置かれている。

 これ一枚でいったいなんポンド有るんだろうと、スレイは横目でステーキを見ている。


「ちょっ、おばちゃん!?俺、軽く食べれるものって言わなかったっけ!?さすがにでかすぎねぇか!?」

「なに言ってんだい。冒険者さまは肉体が基本だろ?」

「だからってなぁ~………うぅ~、食べます。いただきます」


 ナイフとフォークを手に取ったフリードはガチャガチャッと切り分けて食べ始める。

 その顔は食べきれるか自身がなさそうだったが、少しずつ食べ進めていく。時間をかけてどうにか食べきったフリードは、とても苦しそうだった。


「うっぷ。んじゃ、ごちそうさん」

「おばさん。また来るね~」


 食べ過ぎで苦しそうに歩くフリードを支えて歩くスレイ、もう速く帰ろう。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃねぇ……気持ち悪りぃ。ちょっと落ち着くまで休ませてくれ」


 肩を支えながら腰掛けれる場所に移動したスレイとフリード。

 腰掛けて休んでいると、目の前を見覚えるのある少女が通り過ぎていく。


「あれ、ユフィ!」

「ん?あっ!スレイちゃん!」


 目下悩みの種であったユフィが目の前を通り過ぎたので声をかける。するとユフィもスレイを見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。


「どこ行くの?」

「お買い物~。スレイちゃんは、おじさんとお散歩?」

「うん!」

「ようユフィちゃん。久しぶり」

「おじさん!お帰りなさい!」


 ニコニコとしているユフィを見てスレイはなにかいつもと違う気がした。


「あれ?ユフィ、今日は髪おろしてるんだ」


 いつもはゆったりと一本でまとめられている髪が降ろされていた。


「うん。いつも使ってた髪留めキレちゃったの」

「そうなんだ」


 髪留めがないのは不便そうだと思ったスレイは、髪留めを贈るのもいいかもしれないと考えている。すると、それを感じ取ったフリードはユフィに声をかける。


「ユフィちゃん。あんまり遅くなるとあいつらが心配するから早く帰りなよ」

「はぁ~い。それじゃ、また遊ぼうねぇ~」

「うん。じゃあねぇ~」


 商店の方へ向かっていくユフィを見送ったスレイは、ニヤニヤとこっちを見ているフリードの顔を見る。


「ユフィちゃんへのプレゼント決まったみたいだな」

「うん。リボン贈ろうかなって」

「いいんじゃねぇか。さて、腹も落ち着いたし、帰ろうか」

「うん」


 立ち上がったフリードがスレイを肩に載せて家まで帰っていく。


 ⚔⚔⚔


 家に帰ったフリードは、予定よりも速く帰ってきたフリードを見て驚いているジュリアを抱きしめる。


「ただいまジュリアさん」

「フリードさん。あなたどうしたの、えらく早いけど」

「仕事が早く終わってな。急いで帰ってきたんだ」

「そうだったのね」

「ところでミーニャは?」

「お昼寝よ。ところでフリードさん、お昼は食べたの?」

「あぁ。さっきスレイとな」


 超特大ステーキを思い出して顔をしかめるフリード、それを見てなにがあったのかと考えているジュリアだった。

 両親のイチャつきを見ていたスレイは、用件を済まして速く上に行こうと考えた。


「お母さん!ボク、布が欲しいんだけどなにかない?」

「えっ、有るけど、布なんてなにに使うの?」

「ユフィのプレゼント!リボン作るの!」


 どう言うことなのかとジュリアはフリードに事情を聞くと、帰ってくるまでにあったことを理解したジュリアは快く了承してくれた。


「はいこれ、前にミーニャちゃんのお洋服を縫ったときの余りね。それとこれは裁縫セット。針には気をつけるのよ」

「はぁ~い……あれ、ハサミは?」

「ハサミはダメ。これ指も斬れちゃうんだから、布を切りたいときはお母さんに言う事。良いわね」

「はぁ~い!」


 布と裁縫セットの入った箱を持って上へと駆け上がっていくスレイ。それを見送る二人はニッコリと微笑んでいる。


「子供って、あぁやって成長していくのね」

「もう、十年もすればあいつも大人だ。親になるってのもいいもんだな」


 フッと笑っているフリードとジュリアだった。


 ⚔⚔⚔


 部屋に戻ったスレイは早速布を選んでいく。

 作るのはリボンだが、せっかくなので練習も兼ねて他にも何か作ろうと考えている。


「そういえば、ミユにもリボンプレゼントしたな……ずっとつけてくれてたし」


 一人言葉をこぼしながらリボンの布を探していくスレイは、ちょうど良さそうな長さの布を見つける。

 若草色の布を手に取りながら、あのリボンのように蝶の刺繍を入れるのもいいかもしれないと思いながら、これを渡したとのユフィの顔を思い浮かべながら早速リボンを作り始めるのだった。

誤字脱字がありましたらご報告ください。

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