従魔と決闘
お久しぶりです。
最近は前に投稿した話の書き直しを行ったりと、更新が止まっていました。
話の流れは変えずに加筆や修正を行いましたので、よければそちらも確認ください!
最後にブクマ登録と作品評価、ありがとうございました!
インペリアル・タイガーを討伐を終えた二人がスレイたちと合流を果たした。
その直後リーフとライアは、スレイのそばで大人しくしていた白い大虎をみて驚きの声を上げると、元凶であろうスレイのもとに詰め寄り問い詰める。
「なんですかスレイ殿!この虎、どこから連れてきたんですか!?」
「……どっから拾ってきた!元いた場所に捨ててきなさい!!」
「ボクは子供か……ってか、連れてきてもないし、拾ってきてもいませんからねッ!?」
「じゃあどこから連れてきたんですか!」
「だから、もとからこのオアシスを狙ってた奴で、タイマンでやり合ったら何故か懐かれた」
「……もっと詳しく!」
簡単に説明したはずが詳しく説明するようにと言われたが、本当に合ったことといえば二人がインペリアル・タイガーと戦っているうちにこの白虎と戦い、拳と蹴りで圧倒したところ白虎は仰向けになって腹を見せた。
ついでにもはや猫ではないかと思うほど甘えるようになったっと、ここまで話したところでリーフは大きく長い溜息をして脱力していた。
「もう、スレイ殿ってなんでもありな気がしてきました」
「ボクも倒した魔物が起き上がって仲間になるんて、物語の中だけだと思っていたよ」
一応機密扱いの話を身内以外にはできないため、言葉を濁したスレイだったが実際は地球で有名なあのゲームの紫色のターバンを巻いた魔物使いのようだと思っていた。
それはそうとしてスレイも白虎の扱いには困っていた。
「しかし、どうしたものかな」
「ゴルルルぅ~」
白虎を見ていると遊んでもらえると勘違いしたのか、頭を下げて腕に擦り寄り甘えるようにゴロゴロッと喉を鳴らしてきたので頭を撫でると、今度は顎を撫でて欲しいのか首を上げたので顎をワシャワシャと撫でる。
すると今度はゴロンっと寝転がり脇腹をワシャワシャと撫でる。
「なんか、癖になるな」
「……ヤバい、可愛く見えてきた」
「くっ、なんと可愛らしいのでしょうか」
大きい虎のはずなのに、何故か可愛く見えてきたスレイたちだったが、そこに待ったの声をかけるようにイグルが声をかけた。
「和んでるところ申し訳ないんだが、その白虎はするつもりだ?」
「そうですねぇ。とりあえずボクの従魔ってことで連れて行こうかと」
「はぁ!テメェ何いってんだ、バカじゃねぇのか!?」
すかさず言い放ってきたのは案の定ゼグルスだった。
「白虎を獣魔にするだ?殺すべきだろ!そいつ一匹でいくらになると思ってる!」
「この子を手懐けたのはボクです。あなたの指図は受けません」
「あぁ!?ザコの癖に俺に意見するんじゃねぇぞ!」
もういい加減ブチギレようかと思ったスレイがイグルの方に声をかけようとした瞬間、ライアが割って入ってきた。
「……私、あいつ倒した」
「だから何だカス」
「……約束した、お前を殴るって」
「あぁ───ぶげらっ!?」
突き出された拳がゼグルスの顔面を正確に撃ち抜くと、殴り飛ばされたりゼグルスは綺麗な放物線を描いて飛んでいった。
「……ふん。スッキリした」
「いや、やりすぎです!スレイ殿回復魔法を」
「もうアラクネにやってもらってる。鼻陥没してからか」
鼻を治すのに殴られるのと同じくらいの痛みを味わっているかもしれないが、気絶していたらわからないだろうと思い麻酔も何もせずにやるように指示を出した。
もちろん仕返しなどではない、ないったらないのだ!
「悪いな。あいつが」
「悪いと思うなら彼を止めてください」
「あれくらいの年頃は、暴走しやすい。俺の忠告なんじゃ聞きゃしない。分からせるには手痛い失敗か痛い目を見るに限るだろ」
同意を求めてくるイグルを睨みながら、つまりは投げやりかとスレイは言葉には出さずに心のなかで呟いたが、同意せざるはいられない自分もいた。
「イグルさんの言うことも最もですが、そういう輩に限って一度プライドを傷付けられたらなにするかわかりませんよ」
「そんときはオレがきっちり潰す。まぁ、一番はお前が徹底的に潰してくれるのが良いんだがな」
「あなたは彼を廃人にしたいので?っとまぁ、冗談はさておきボクらの実力はわかってもらえましたか?」
スレイがイグル以外の四人、もといすでに認めてくれたアルフィスとライアがノックアウトしたゼグルスを除いた二人を見ると、オルクもセッテも揃ってうなずくのであった。
「そんじゃ、あそこで伸びてるゼグルス以外はこいつらを認めたってことで、マジでこいつどうする?」
「…………スレイ、従魔にする。ホント?」
「実際に使ったことはないので、失敗するかもしれませんが」
頭をかきながらスレイは魔物を従えるための魔法について思い出す。
魔物を従える魔法はいくつかあるが今回スレイが使おうとするのは制約型の魔法だ。
以前使い魔や召喚術について説明したことがあった。
あれは儀式型の魔法であり、魔物のコアに直接魔法陣を刻みつけて魔物を使役する魔法なのだが、これは相手への一方的な従属、つまりは縛り付けて魔物の意思などをすべて排除する。
いい例が"パペット・マスター"エヴァンディッシュが使った使役魔法のように一方的に縛り付けるのだが、今回のように魔物側が心を開いているのなら別の魔法を使う。
「──テイム」
浮かび上がった魔法陣が白虎に吸い寄せられ、首の周りに魔法陣のようなものが描かれていた。
「うん。コレで成功かな」
「……スレイ、この子になにした?」
「リンクを繋いだ。ようはレイヴンたちみたいに色々できるってわけ」
「えぇっと、以前アルファスタ邸で戦ったあの魔物と同じになったという認識で良いのでしょうか?」
「いいや。あっちは使い魔。この子は使役獣、まぁわかりやすく言うとペットにしたってとことかな」
本当はもう少しややこしいのだが、わかりやすさ重視でこれでいいかと思ったスレイ。その証拠に二人は納得したご様子だ。
「にしても、初めてテイムしたけどやっぱり強くなってるな」
魔物をテイムすると術者の力の一部が魔物側に移る。
この白虎の場合はスレイの魔力が大きく伸びているように感じる。流石にスレイ側に白虎の力が移っているようには思えないが、それでも元のポテンシャルも合わさり、更に強くなっている。
「よし、そろそろ帰るぞ~」
ゼグルスを抱えたイグルが馬車へと戻るように指示を出し、スレイたちもそれに続くのだった。
馬車を走らせしばらくしてスレイたちはようやく街にたどり着いた。
街に入るために順番を待っていると、そこに巨大な白虎が待っていることを聞きつけた門番がやってきて、この白虎をテイムしたことを伝えたところ、手続きが必要とのことで一人別行動をすることになる。
その為スレイは自分のギルドカードを二人に預け、スレイは門番の詰め所で書類を書いていた。
「はい。それで以上になります」
「ふぅ、結構量があるんですね」
「魔物を連れて歩くわけですからね。しかし、白虎ですか。ここらでは神獣と呼ばれる稀有な魔物をよく」
「偶然ですよ───それで後はどうすれば良いんですか?」
「書類の方は問題ありません。最後にこちらも書類をギルドに提出しタグを受け取ってください」
「わかりました。ありがとうございます。行こうか」
スレイが部屋の隅にいる小さな白いモフモフの毛玉、もとい白虎に向かって声をかける。
「あれが白虎、あの大きさからこんなに小さくなるとは」
「魔物の中には成長とともに身体の大きさを変える個体もいますから、テイムを受け入れてボクの力を得へかなり力を増してますから子供でもこれくらいは出来るようになりますよ」
小さくなった白虎が起き上がり小さなあくびをしたかと思うと、スレイの方へとテコテコと歩いてくる。
「みゃー」
一声子猫のような声で鳴くと、ぴょんッとはねながらスレイの方に飛び乗ったかと思うと、どうやらちがたったようで今度は頭の上に飛び乗りそこが気に入ったそうだ。
「頼むから、爪は立ててくれるなよ」
「みゃ~」
本当にわかっているのかと思いながら、もう一度お礼を言って街の中に入りギルドを目指した。
その途中街の人達から頭の上に居座る白虎を好奇の目で見ている。
早くギルドに向かおうと思いながら急ぐ。
ギルドに入ったスレイはリーフたちの姿を探す。
「スレイ殿、こちらです」
「あぁ、ってイグルさんたちは?」
酒場のテーブルに座っていたのはリーフとライアだけ、イグルたちの姿がないことについて尋ねる。
「イグル殿たちでしたらゼグルス殿が目覚めるまで上で休ませると」
「この上、確か冒険者の救護スペースか」
「……目が覚めたら、ここで宴会だって」
Sランクと言ってもやはり冒険者、宴は好きなのだと思っているとリーフとライアの視線がスレイの頭の上に注がれていた。
「スレイ殿、その小さいのは?」
「あぁ。白虎だよ。小さくなれるらしい」
「……可愛い。もこもこ」
「これは、レネと一緒に愛でたくなる愛くるしさですね」
リーフの言葉にスレイとライアも想像してみる。
子猫と戯れる愛娘、想像しただけで顔がだらしなくニヤけてしまいそうになりスレイたちは慌てて口元を抑える。
「っと、そうだ。この子の従魔登録書を提出してくるから少しお願い」
「……ん。預かる」
「みゃっ、みゃ~」
「大人しく待っていましょうね。ふふふっ」
白虎を二人に預けて先程依頼の手続きをしてくれた受付の人に申請書を提出する。
「はい、確かに受け付けました。それではこちらが従魔の認識タグですので紛失された際はすぐにお申し付けください」
「ありがとうございます」
タグを受け取り席に戻ったスレイはライアの膝の上で眠っていた白虎を抱き上げると、その首に紐を通した認識タグをかける。
「はい、これでいいらしい」
「にゃ〜ん」
「似合ってるな」
子猫の頭を撫でながら微笑むスレイにライアが訪ねた。
「……ねぇ、この子名前はどうするの?」
「そう言えばまだだったな……とりあえず白虎は?」
「そのままではありませんか!この子、女の子なんですからもっと可愛らしい名前をつけてあげてください!」
リーフから却下されたスレイは白虎の姿を見てからもう一度。
「じゃあシロ」
「……却下、捻りがない」
「それじゃあ……コユキはどうだろう?」
白で連想させる言葉から選んだ名前、これならどうだとスレイが自信満々で呼んでみると白虎は嬉しそうにじゃれて……は来なかった。
ついでにスレイの膝から飛び降りてライアの膝に飛び乗った。
「猫って、気まぐれだものな……うん。そうだよな」
「……スレイ、ドンマイ。ぷくくっ」
「失礼ですよライア殿……それはそうとしてコユキ、良いではありませんか」
「ありがとうリーフ。取り敢えずこの子の名前はコユキで」
名付けも終わり白虎改めてコユキがスレイたちのペット兼仲間になった。
イグルたちが来るまで適当にお茶を飲んで待っていると、上の階からイグルたちが降りてくる。
「おう、遅くなったなって、何だその猫?」
「さっきの白虎です。名前はコユキになりました」
「にゃー!」
「全く分からんが、何はともあれ新しい仲間のために今日は飲むぞッ!」
早速盛り上がったイグルが店員に宴会の準備を頼もうとする中、ゼグルスがそれに待ったの声をかけた。
「待てよ。先にあれをやらせろ」
「おい、ゼグルス。お前本気でやる気か?」
「当たり前だ!おい、白髪頭ッ!」
真っ直ぐこちらを睨みつけるゼグルスだったが、等のスレイはキョロキョロとあたりを見回してから自分のことを指さした。
「テメェ意外に誰がいるってんだよ!!」
「それで、なんですか?」
「俺と戦え!俺はまだ認めてねぇんだ!」
もはや意地になっているとでもいいゼグルスの言葉にスレイは面倒だと感じた。
十分に力は示しただろうと思い、ことの収拾をしてくれないイグルに視線を送るとスマンと謝っているだけだった。
「わかりました。イグルさん、試験用の闘技場ってここにもありますよね?」
「申請はしてある。すぐにでも使えるぞ」
「用意周到ですね……ゼグルスさん。決闘は一戦だけ、決着方法は?」
「どちらかが倒れるまでだ、負けた方は勝った方の奴隷だいいな!」
これにはさすがのイグルたちも止めようとしたが、リーフとライアが彼らを止める。
「こちらもいい加減に我慢の限界です、それにイグル殿も仰っていましたよね。痛い目にあえばと」
「……ん。もう我慢の限界。スレイ慈悲なんていらない存分にやっちゃって」
ゼグルスの言動にいい加減堪忍袋の尾が切れた二人、仏の顔も三度まで、コレでもう三度目なのでスレイも容赦はしない。
「わかりました。その方式でお受けします……ですが、手加減しませんからね」
「三下が粋がんな。殺すぞ」
バチバチと火花を散らし合うスレイとゼグルスは、ギルド裏の闘技場へと向かう。
ギルド職員が魔法陣を起動させ結界を張るとスレイは黒幻と白楼をゼグルスもククリナイフを二本、抜き構える。
二人の中央で決闘の合図を取ることになったイグルが、二人に何か説得をするように話をしている中オルクが隣に立つセッテに声をかけた。
「セッテよ。この戦いをどう見る」
「どうもこうも、ゼグルスに軍配が上がるだろうな」
「わし同意見じゃ。スレイの坊やのパワーは凄まじいが、当たればの話」
「ゼグルスはAランク間近、スピードだけならイグルをも超える」
身内を贔屓しているわけではないが、やはり実力はゼグルスのほうが上だろうというオルクとセッテ。
これでスレイが負けてもゼグルスがいったあの条件はなかったことにしなければとオルクが考えながら、もう一人の仲間であるアルフィスにも同じ問をしたところ、意外な答えが帰ってきた。
「…………スレイが勝つ」
「ほぉ。珍しいな、なにか理由があるのか?」
「…………思い出しただけ、でも見てれば分かるよ」
どういうことかとオルクが思ったその時、震えるような声でセッテが声をかける。
「おいオルク、悪いが前言撤回だ。この戦い分からないぞ」
どういうことかとオルクが闘技場に視線を戻すと、その中央でゼグルスの連撃をすべて紙一重でかわし続けるスレイの姿があった。
「速い、速度だけならゼグルス以上じゃと!?」
「それだけではない、剣術もかなりの腕だ」
「…………やっぱりそうだ」
「アルフィス。お前、なにか知っておるな?」
「…………数ヶ月前の剣聖祭のファイナリスト」
なんの話だとオルクが首を傾げる中、セッテが何かを思い出すかのように何度もスレイの名前を復唱し、ついに記憶の中からそれを呼び起こした。
「スレイ……そうか、思い出したぞ!スレイ・アルファスタ!Sランク冒険者、剛剣のフリードと白魔のジュリアの息子でAランク冒険者!幻楼のスレイか!」
「幻楼、そうかあやつが!」
イグルが連れてきた謎の冒険者の素性を知ったオルクたちは、目の前で繰り広げられる勝負はスレイの勝だと確信していたのだが、次の瞬間オルクたちの目の前でスレイはゼグルスの剣に切り裂かれるのであった。
⚔⚔⚔
決闘が始まる瞬間にらみ合うスレイとゼグルスの横で、審判を押し付けられてしまったイグルはどうにかしてこの無謀な決闘を辞めさせようと尽力していた。
「なぁゼグルス。今ならまだ間に合う。頼むからやめてくれ」
「おいイグル。それを言うならそこの三下に言ってやれよ」
「イグルさんボクは平気ですから」
「だがな、あっ!よし、それならあの条件だけは撤廃ってことで」
「いいからさっさと合図出せ!」
スレイはともかくゼグルスは止まらないと悟ったイグルは、脱力しながら手を挙げる。
「それじゃあ、両者構えて───始め」
やる気のない声とともに振り下ろされたイグルの合図とともにゼグルスが踏み込むと一瞬にして間合いを詰める。
構えを取ったまま微動だにしないスレイを見てゼグルスが叫びながらククリをふるった。
「死ねよ三下ァアアアアッ!」
振るわれたククリの刃がスレイの首をかすめる。
いくら闘技場の結界によって致命傷を負っても死なないとはいえ、迷いのない殺意の籠もった一閃が振るわれたのだが、ククリを握るゼグルスの手には人を切る感触が伝わらない。
「なにッ!?」
かわされたことに驚くゼグルスだったが、相手は自分の動きを捉えられない相手、今のはまぐれなのだと次の一撃を繰り出す。
「これならどうだッ!」
次に繰り出した高速の連撃、これならかわせまい。
確実に殺ったと思ったゼグルスだったがそれは違った。最初はただの偶然だと思ったそれは、一閃、二閃とことごとくかわされ続けたことでようやく理解した。
「ざけんなよッ!」
スレイは自分の動きをすべて見えて交わしているのだと、知るやいなや蹴りを合わせた戦い方へと変化すると、今までかわしていた攻撃を受けるようになっていった。
スレイはククリでの攻撃は避けるが、蹴りはガードするのを見たゼグルスはこのまま崩せば勝てる。
「ッ!そこだッ!!」
ククリで連続で切りつけながら間髪入れずに、さらに下半身への蹴りを加えて足を止めさせたあと、間髪入れずに上半身の蹴りを加える。
ガードを入れて蹴りを防いだスレイ、そこにゼグルスは更に蹴りを加えてガードを崩した。
「少しはやるようだが、これで終いだッ!」
足を止めガードも崩れたところへのククリの一閃これで終わりだとゼグルスは確信した。
格下だと思い侮っていた相手にここまですることになるとは思わなかったが、これで勝てると振るったククリから伝わる皮膚を裂き肉を立つ感触。
確実に殺ったとゼグルスが口元を釣り上げた次の瞬間、目の前にいたはずのスレイが姿を消した。
「はぁっ!?なっ、あぁ!?どこ行きやがった!!」
眼の前にいたはずのスレイを見失ったゼグルスが叫ぶと、その背後から返事が返ってくる。
「ボクならここにいますよ」
「──ッ!」
声のした方へと視線を向けたゼグルスが、たしかにそこに立っているスレイを見つけた。
「テメェ、どうやってそこに」
「どうやってって普通に、あなたがボクのいた場所を切っていた間に移動しましたよ」
「魔法かッ!巫山戯んなよ!」
「ふざけんなって、別に魔法を使うなとは言われてませんよ。それにボクは魔法も使っていません」
「じゃあどうやって避けた!それに俺確かにお前を斬ったはずだろ!なんで生きてやがる!!」
「なんでって、あなたが斬ったのはボクの影と気配だからですよ」
「あぁ?」
スレイの言っている意味がわからないと言うゼグルスにために、わかりやすいように簡単なレクチャーをしようとスレイは黒幻を持ち上げると、真上からゆっくりと振り下ろした。
「──ッぅああああぁっぁぁぁぁっぁぁぁ―――――――――――――ッ!?」
剣が振り下ろされたと同時にゼグルスの口から声にならない叫びが発せられ、何度も確かめるように自分の腕を触っていた。
確かにあると手で触れて分かるのに、頭がそれを理解しようとしない。剣が振り下ろされたときに感じた刃の冷たさ、皮膚を裂き、肉を切り骨が断たれるあの感触、全身を突き抜けるようなあの痛みは幻覚なんてものではなかった。
「おっ……お前……なに、しやがったッ!」
「何もしてませんよ。ただ、強いていえばボクが剣を振ったときに殺気を込めてあなたを斬っただけです」
「殺気、だと……?」
「今しがたあなたが体験したように、さっきのあれもボクが殺気を使いあなたに斬らせたと誤解させたんです」
わけがわからないとゼグルスが思考を止めながら、そんなふざけた事あるはずないと次こそは殺すと間合いを詰める。
「ふざけたことを抜かしてんじゃねぇ!」
鋭い一閃がスレイに向かって振るわれる中、スレイは白楼を逆手に持ち替えククリの一閃を受け止めると、そこにすかさずゼグルスが蹴りを放とうとするが、振り上げられた脚と逆の軸足をスレイが蹴りぬいた。
脚を払われたゼグルスの身体が宙に浮いたところでスレイの回し蹴りがゼグルスを吹き飛ばした。
「ごふっ、クソッ………っテメェ」
口から血を吐きながらも起き上がると、落ちていたククリナイフを拾い構えるとそれに合わせるように距離を詰めたスレイが白楼を斜め下から上へと切り上げた。
「クッ!?」
振るわれた白楼の速度は体制を崩されたゼグルスでも反応できる。
ガードは間に合うとククリナイフを交差させて白楼の一閃を受け止めるゼグルスだったが、次の瞬間ゼグルスの両足は地面から離れて空中へと浮かび上がっていた。
「………はっ?」
吹き飛ばされた、その事実に衝撃を受けながらも転がりながらもどうにかし地面に足をつけ体勢を立て直そうとする中、次の動きはやはりスレイのほうが早かった。
「終わりです───竜王烈閃爪」
脇に抱えるように構えられた黒幻を真横へ弧を描くように振るうと、竜の爪撃の直撃がゼグルスを襲った。
爆発を起こし黒煙が上がる中を転がり出たゼグルスは、こちらを見て涼しい顔をするスレイを睨みつける。
「グッ、俺じゃなかったら……ヤバかったぞ」
とっさに闘気で身体を守りながら同じように闘気の斬撃を放つことで防いでみせたが、次は同じことができるとは思えない。
どうするかと考えることもゼグルスに、闘技場の外に避難していたイグルが声をかけた。
「おいゼグルス、もういい加減わかっただろ。お前じゃスレイには勝てない」
「うるせぇぞイグル!まだ負けてねぇ!次こそはあいつをたたっ斬ってやるんだ!」
「見苦しいぞゼグルス!お前は、スレイが手加減してることにまだ気付かねぇのか!!」
「なっ!?手加減……だと?」
自分が全力で戦っているのに相手は手加減しているなど、これ以上にない侮辱だ。
「貴様ッ!それは本当かッ!?」
「……さぁ、どうでしょうね」
「ふざ、けんなァアアアアアアアアアッ!!」
全身から闘気を立ち昇らせるゼグルスがスレイに向かって斬りかかる。
その動きは怒りに任せての直情的な単調な攻撃、もう終わらせようとスレイは黒幻に闘気と竜の力を込めながら腰と落とし、脇に抱えるように構える。
「死ねぇええええええ――――――――――――ッ!」
叫びながらククリを振るうゼグルスに対してスレイはただ静かに、それでいて力強い一閃で答える。
「───竜王閃刃激」
振り上げられた黒幻の一閃がゼグルスの身体を切り裂くとともに、竜のオーラがその身を吹き飛ばしたところで結界が解かれた。
結界が解けたということはその時点でどちらか一方が戦闘不能、つまりゼグルスの負けだ。
勝負に破れ地に伏せたゼグルスのもとにイグルが歩み寄ると、ゼグルスの顔は負けたこと、そして手加減をされていたことの対する屈辱の表情に彩られていた。
「ゼグルス。どうだ、感想は?」
「うるせぇ、話しかけんじゃねぇ!」
「いいや言わせてもらうが、お前はスレイに負けた。その事実は受け止めろ」
負けた、その一言を聞いた瞬間ガバッと起き上がったゼグルスがイグルに掴みかかった。
「俺は負けてねぇ!おいテメェ!もう一度だ、もう一度俺と戦え!!本気でだ!本気で俺と戦いやがれ!!」
「ゼグルス、お前いい加減に──」
「良いですよ。もう一度だけなら」
「スレイ!?」
まさかの快諾にイグルが驚きの声を上げる中、スレイは続けざまに告げる。
「もう一度結界を張ってもらうのもあれだ、このままやりましょうか」
「何バカなことを言ってるんだスレイ!?」
「それで良い!殺してやる!」
「ゼグルス!お前もやめ───ッ!?」
止めに入ろうとするイグルをスレイは殺気のこもった目で睨みつけた。
「イグルさん。これはボクと彼の決闘です、邪魔しないでください」
「………分かった。だがお互いの命が危ういと思ったら止めに入るぞ」
「えぇ。頼みます」
止めても無駄と悟ったイグルがもう一度審判を勝って出てくれた。
一定の距離を取って向かい合ったスレイとゼグルスは、審判のイグルが手を上げたと同時に構える。
「両者構えて───始めッ!」
掲げられた手が振り下ろされたと同時にゼグルスが飛び出し、間合いに飛び込むと同時にククリを後ろへと振り上げた。
「死ねぇええ!三下ァアアアア!!」
怒りとともに振るわれるゼグルスのククリの一閃に対して、スレイはゆっくりと構えを下ろしながら小さくこう呟いた。
「───光刃・連」
その言葉がゼグルスに届いたと同時に、その身体を不可視の斬撃が襲った。
「ガハッ!?」
全身をすべて打ち付けられたような衝撃を受け肺の息をすべて吐き出したゼグルスが再び地面へと伏せた。
それを見たスレイはゆっくりと剣を収め、この決闘は終幕を迎えるのであった。




