解決と新たな装備
あの後、スレイがふん縛った冒険者たちは憲兵に捕まったあと被害者であるギルモアへの事情聴取、そしてあの六人には憲兵所属の魔法使いによる"ギアス"を使った尋問が行われた。
結果から言えばあの冒険者たちは犯罪奴隷として一生を鉱山で過ごすことになった。
男たちは元の腕っぷしから鉱夫として、魔法使いの女は二度と魔法が使えないように喉を完全に潰された後、鉱夫たちの娼婦として一生を終えることになるそうだ。
ちなみに、スレイはその時あの冒険者を痛めつけたことを憲兵から怒られた。理由が理由だったため厳重注意で住んだものの、ようはいつもよりも、ほんの少しだけやりすぎてしまったのだ。
守るためとはいえ腕を切り落としたり、魔法を使わせないためにと顔面を吹き飛ばしたり、闘気の斬撃で斬ったことまではまだ許された。
だが問題はあの男だった。
"ナイトメア"をかけたリーダ核の男は目が覚めたと同時に下半身が酷いことになったそうだ。一体どんな悪夢を観たのか、注意をしに来た魔法使いの憲兵に訊ねられたが、スレイはわからないと答えた。
あの魔法は対象者が抱く恐怖心に依存する魔法だ。
直前にスレイがあの男に特大の殺気を当てていたので、多分だがそれが原因だろうがそれでいったいどんな悪夢を見たかまでは流石にわからない。
ついでにその後、ギルドで起こったことをギルモアから聞いたリーフにも怒られた。
ギルドでの一件の後、スレイたちは数日この街に滞在することになった。
理由はギルモアがこの街で商品の仕入れを行うため、必然的に護衛であるスレイたちも滞在することになった。
滞在中、暇を見つけては竜人族の集落についての情報を集めたが、やはり漠然としたものしか集まらず当初の目的通り渓谷へと向かってしらみつぶしに探すしか無いようだ。
そしてその日、スレイたちはようやく首都へと向かって出発することになった。
出立の時は、初めに訪れた時に門番をしていたサイラスとこの町のギルドマスターが見送りに来ていた。
「ギル。ユアレちゃん。またな」
「あぁ。今度は一月後また来るよ」
「…………………」
固く握手をかわし合うギルモアとサイラスの横で、ユアレは静かに手を降っていた。
「それでは幻楼殿、翡翠の妖精殿、そしてライア殿。今回の件はギルドの不手際、どうか首都まで彼らのことを頼みます」
「良いんです。同じ冒険者の犯したことです。その汚名はしっかり返上させます」
「お二人のことは我々が責任を持ってお守りいたします」
「……ん。だから頭を上げて」
深く下げられた頭を上げるよいうに言いながら、スレイたちは改めてギルドマスターからの感謝のを言葉を告げられた。
「そろそろ出発します。皆さん乗ってください!」
挨拶を終え御者席に座ったギルモアから声がかかったので、スレイたちも馬車の荷台に乗り込むと馬車はゆっくりと街の外へと走り出した。
走り出した馬車が首都へとたどり着いたのは出立から八日後。だが、ギルモア曰く本来なら二日でたどり着けるはずだという。
ならば何故と言われるとその道中に色々あった。
まず初日の夜に盗賊に襲われたのでそれを撃退、二日目からは捕らえた盗賊を全員引きずっての旅路となった。
ちなみに襲撃の際に襲ってきた人数は十五人、その全員を生け捕りにした。なぜ殺さなかったかというと子供のユアレに人を殺すところを見てほしくないと、依頼主の頼みだったからだ。
捕虜がいるせいで進行速度も半減。
さらには途中でその仲間らしき賊にも襲われたがもちろん返り討ちにした。
また襲われては敵わないので、いつかの自白剤でアジトを吐かせて休憩の片手までスレイが全員をひっ捕らえ、盗賊たちが攫ってきた人たちも救出した。
そのおかげでかなりの大所帯となった。
お陰で遅れに遅れてこうなったわけである。
ちなみに襲ってきたのは盗賊だけでなく魔物もいた。そのため途中捕虜の何人かは魔物に食べられてしまったが、保護した人たちはどうにか無事に連れてくることはできた。
首都にたどり着いたスレイたちは、衛兵に事情を説明し捕まえた盗賊たちを引き渡したところ、なんでもここらを荒らしていた有名な盗賊団だったらしく、近々大規模な掃討戦を行うつもりだったそうだ。
盗賊と捕まっていた人たちを引き渡したあとスレイたちは、事情聴取のために一度ギルモアたちと別れ後でギルドで合流することにした。
聴取自体簡単に終わり、すぐに開放されたスレイたちは兵士にギルドの場所を聞いて街を歩き始めた。
「いやはや、今回も大変な旅になりますね」
「そんなのいつものことだろ?しかし、気になるな」
「……なにが?」
「捕まってた人たちのこと」
「やはりスレイ殿も、気になりますよね」
頷くスレイにライアだけはどういうことかと首を傾げていた。
「あの人たち、多少の怪我はあったけど酷いものはなかった。それに女性も暴行を受けた形跡はないし、ボクが助けたときも覚えてはいたけど普通だった」
「……それがどうしたの?」
「盗賊が女性を攫ったとき、殆どは性的欲求を晴らす目的で襲われ、男性は容赦なく殺されていたでしょう。ですがあの盗賊たちはそれをせずにいた。つまり、裏になにかあるということです」
「……つまりあいつらを雇った黒幕がいるってこと」
「十中八九いるだろうね。多分奴隷商か、あるいはこの国の貴族か。ちなみにボクは貴族に一票」
「私もその可能性には同意します」
「……その根拠は?」
「この国は奴隷の所持を認めている。もちろんライアのいた国のワーカーと同じで、人権の保証された職業奴隷も僅かにいる。それでも大半は人権を持たない奴隷が締めている」
スレイが視線を向けた先には首輪をはめられたやせ細った獣人の男を鞭打つ姿が見て取れる。
あれは生まれ時から人に飼われるべく育てられた奴隷だ。生かすも殺すも買い手の主人次第という、本当に腹立たしいことではあったが、スレイたちでは停めることはできない。
それは奴隷はあの商人の持ち物であり財産だから、もしも仮にスレイがあの男を止めようとしたところで、すぐに憲兵が呼ばれ地球で言うところの窃盗罪で捕まる。
「あぁして買われていった先であんな扱いを受ければすぐに死ぬ。それに奴隷の数には限りがある。当たり前だ、奴隷は人、家畜のように短い期間で増えるわけじゃない。ならば足りなくなった奴隷はどこから補充すると思う?」
「……何処かからさらって来る」
「その通り。だけど奴隷商が表立って奴隷狩りをすることはできない。いくら奴隷商でもなんの理由もなしに奴隷を売ることはできないからね」
「……どうして?」
素朴なライアの質問に対して今度はリーフが答える。
「奴隷の身分の方々の多くは、犯罪を犯し奴隷の身分に落とされた犯罪奴隷や、借金の返済ができずに奴隷になった借金奴隷、あるいはその子孫なのです」
「……」
「奴隷はすべて国によって管理されているため、攫ってきた人々を奴隷商が売りに出した時点で正真正銘の犯罪になるのです」
「……じゃあ、なんで貴族は良いの?」
「簡単だよ。国の要職の殆どは貴族だからね、そこらへんの細工は容易いだろう。適当な罪をでっちあげて奴隷として記録してしまえば、新しい奴隷の出来上がりってわけ」
国が管理しているとはいえ違法奴隷が存在しないかと言われればそれはゼロとしか言いようがない。
いくら規制していても国中の街を管理できるわけもなく、国の目を離れた場所ではさらってきた人を奴隷として売ることも珍しくないのだ。
「っとはいえ、あくまでも憶測でいってるだけだから、変なことを言って目をつけられても困るよね」
「……でもスレイも貴族でしょ?同じなら下手に手出しできないんじゃないの?」
「他国の貴族なんてわからないよ。それにボクって名前だけの貴族だから、いなくなったところで大問題にならないんじゃないか」
「スレイ殿、あなたのその自己評価の低さはどうにかならないのですか?」
「だって貴族なんてなりたなかったし、パーティーとかで他の貴族と顔合わせると鼻で笑われて、あからさまに馬鹿にされるような貴族ってどうなの?」
どうして貴族というのは自分の領地の大きさや財力、それに家の歴史でしか人を見ないのだろう。
前にどうしてもと言われて参加したパーティーでは初めは友好的に話しかけてきた男爵なんてスレイが領土を持たないと知った瞬間、手のひらを返したように見下してきた。
「いっそのこと爵位を返上したいよ」
「そういうのでしたら、領地をいただけばいいのでは?」
「ボクに領地を運営する能力はないよ──って、そんな話はどうでもいいんだよ」
本当にどうしようかと呟いているスレイだったが、ふと話がズレたと思い修正した。
「結局、今回の件はこれ以上関わり合いにならないようにしたい」
「ですね。貴族であるスレイ殿が他国と揉めると国際問題に発展しますから」
「……相手側から仕掛けてきたら?」
「逃げる一択……とは言えないね。ギルモアさんたちの安全もあるから」
今回の件でギルモアとユアレも関わらせてしまった。
もしもスレイが今回の件の犯人なら確実に口封じが可能なあの二人から狙う。念のためにスレイのレイヴンに見張りを任せているが、今のところは問題ない。
「相手もバカじゃないだろうから、様子見ってところかな。すぐに旅に出るけど、アラクネに見張らせて何かあればその喧嘩を買う」
「それが良さそうですね」
「……でも悠長にかまえてていいの?」
「狙われるとしたら私たちの方です。ギルモア殿の方は念のため警戒しておくだけです」
「……そっか。そだね」
納得してくれたらしいライアの言葉を聞きながらスレイたちは、ギルモアの待つギルドへと歩いていく。
⚔⚔⚔
それから正式にギルドで依頼を完了させたあと、ギルモアの営む商会へと案内された。
「ここが私の商会"溢れ日の光"です」
案内されたのは小さな一軒家のような店だった。
ギルモアを先頭にユアレと続きその後をスレイたちが続いて入ると、中は本当にこじんまりとした雑貨屋のような印象を与える店内だった。
「みんな帰ったよ」
「商会長!お嬢!おかえりなさい!」
「おやこちらの方々はお客様ですかな?」
ワラワラと集まってきたこの商会の従業員らしき人たちは、スレイたちを見てすぐに接客モードに入ろうとした。
「この方々は私のお客です。さぁみんな、仕事に戻って」
「はいはい」
ギルモアの一言で集まってきた人たちが元の場所へ戻っていく。
「ご覧の通り、従業員も私を含めて五人程度の小さな商会ですが、品物の質は他には負けていませんよ」
「その通りのようですね」
遠目ではあったが棚に並べられていたポーション類の品質はそこらのものよりもかなり良さそうだ。
それだけでなく下手な場所では粗悪品も混ぜて販売するような場所もあるというのに、品質ごとに分けて値段も変えてある。
ポーションの選別にはそれだけ目利きが必要になる。
それができる人材を雇っているか、ギルモア自身の目利きの腕かは分からないがそれを差し引いてもいい商会であると言える。
「それでは奥へ。あっ、おい。応接室にお茶とこのリストの物を用意して」
「はい。すぐにお持ちします」
応接室に案内されてすぐにギルモアは改めて御礼の言葉を口にした。
「改めて皆さん、私どもを助けていただきありがとうございました」
「それにつきましては前にも言いましたが同じ冒険者の犯した罪です。それを代わりに贖っただけです」
「だとしても私達父娘が救われたのは事実です。ありがとう」
これ以上はもういいかとスレイたちも改めて御礼の言葉を賜ると、扉をノックする音共に先程の店員が入ってきた。
「失礼します会長、お茶と先程言われましたものをお持ちしました」
「あぁ。ここに頼むよ」
入ってきた二人の店員はまずスレイたちの魔にお茶とお茶請けのお菓子を置くと、今度はテーブルの横に手押し車を止める。
その上に革製の鎧やグローブなどが置かれている。
「ご依頼されていました装備一式です。まずはライアさんから、こちらをどうぞ」
差し出したのは革で作られた指ぬきグローブ、っというよりも武道家がつかうようなグローブに拳頭や手の甲に金属で補強されているようなものだった。
「……ん。リーフのと一緒だ」
「レザーグローブです。素材はフレアリザードの革を使い、拳頭には蒼炎石を使っています。元は拳闘士が使うべく作られたのですが今では冒険者の方もお使いになります」
「そういえば、この国って拳闘が盛んでしたね」
「……拳闘っ?」
「ライア殿と同じように拳で闘う方々のことです」
「……ふぅ~ん。まっ、いっか」
あまり興味がないのかグローブをはめて何度か握っては開いてを繰り返していると、そのつけ心地に何やら不満があるご様子。
「……ちょっと大きいかな?」
「そうですか。では、少し調整しましょう。それでは次はリーフさんのですが、頼まれていた肩当てと胸当てです」
「ありがとうございます」
差し出された物を受け取ったリーフは早速つけてみようと立ち上がると、スレイが尋ねる。
「肩当てはわかるけど、胸当てって珍しいね」
「昔はつけていたのですが、スレイ殿のジャケットのお陰で軽装でしたけど、今はさらに軽装ですので──あれ?」
話しながら胸当てをつけていたリーフは、なんだかサイズがおかしいと思った。
「どうしたのリーフ?」
「いえ……その、少々胸が苦しいような気がして」
「……リーフ、また育った?」
「育っていません!」
反論しながら叫ぶリーフだったが、鎧のサイズが変わっている時点でそういうことだと理解すると、恥ずかしそうに頬を染めたリーフはワンサイズ上の鎧を頼む。
「胸当てはこのサイズのみでして、ワンサイズ上ですとチェストアーマーしかありません」
「それは、仕方ありません。それでおねがいします」
「ではすぐに用意いたしますので、その間にスレイさんから買い取った素材の代金と護衛の報酬をお渡しします」
ギルモアはわかりやすいように金貨を積み上げてくれていた。
「護衛の報酬である金貨十枚、そして売却金である金貨五枚と銀貨八枚、そこからお二人の武具一式の代金を引いた金貨十三枚と銀貨八枚になりまし」
「はい。たしかに受け取りました」
取り敢えずお金は一旦スレイが預かった後、金貨四枚と銀貨は共通の口座に入れて残りは綺麗に三等分する予定だ。
護衛依頼にしては破格な報酬に加えて魔物の売却、更にはあとから捕まえた盗賊の報酬と今回の依頼はいい事ずくめだと思ったスレイは、何やらギルモアの視線が気になった。
「どうかしました?」
「いえ……あの、もう一度確認なんですが、本当にスレイさんは防具はいらないのですか?」
「それは前にも言いましたが、防具は付けないんですよ。できるだけ動きを阻害したくないので」
「戦い方を見れば分かりますが、せめて手甲は付けたほうが」
一時的にもともに行動したスレイを心配するギルモアだったが、本当にスレイには防具が必要なのでどうやって納得してもらおうかと考えていると、リーフとライアがこう告げた。
「平気ですよギルモア殿。スレイ殿ならば、仮に大砲の一撃を受けても傷ひとつ負いませんから」
「……ん。逆にスレイなら素手で大砲の弾くらい斬る」
リーフとライアの言葉を聞いてギルモアが顔をひきつらせる。
「それは……流石に無理じゃないですか?」
「そうだぞ二人共、止めることはできて斬るのはことは無理だって」
「いや、止めれるんですか!?」
「まぁ斬るのもやろうと思えば出来るかな?」
嘘だろこの人、みたいな顔でこちらを見るギルモア。
もちろんできると言っても直接切るのではなく、"光刃"で斬れば可能という話だ。
それ以外は無理……だと思う、多分。
「スレイさんは、本当に人間なんですかね」
「もちろん人間ですよ。少し竜の因子が入ってますけど」
もはや定番となってきた返しをしていると、部屋の扉がノックされ返事をまたずに先程の店員が入ってきた。
「商会長。ご要望の鎧持ってきました」
「ありがとう。そこに置いてくれ」
「はい」
店員がカーゴの上に新しい鎧を置くと、ペコリと頭を下げて部屋を出ていった。
用意された鎧を改めてリーフが試着したところ、スレイとギルモアは揃って顔をそらすことになった。
「これは、その……少々」
「……エロいねリーフ」
「言わないでください!」
どうやらこの鎧、かなりボディーラインが分かる仕様らしく端的に言えば胸の大きさと腰のくびれがよく分かる。
それに加えて我が家の女性陣の中でも最上位を誇る大きさのリーフのそれは、まさに凶器と言っても過言ではないだろう。
しかし、あれを他の男に見せるのも許せないスレイは、ギルモアに声をかける
「ギルモアさん。前と似た型で上のサイズの鎧ってどれくらいで用意できます?」
「工房をいくつか当たれば見つかるとは思いますが、なければ特注ですので最低でも五日ほどですかね」
「それじゃあ、見つからない場合はこれをもらいます」
「では二日ほど見て貰えればなんとか」
あれよあれよと言う間に話がまとまってしまい、口を挟む余裕がなかったリーフだった。
しばらくこの街に滞在することになったスレイたちだったが、まさかその間に事件に遭遇することになるとは、このときは思いもよらなかった。
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