ギルドマスターとの対話と酒場の騒動
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おじいさん、改めてギルドマスターのデイヴィッドさんと対面していた。
「いやはや、今日はいい戦いをありがとうの」
「いえ、ボクもまさかギルドマスターのような方に手合わせいただき、うれしい限りです」
やっぱ、この人相当な手練れじゃねぇかよ?何が隠居だよこの人?
笑顔を浮かべながらボクはそう思っていたのだった。
⚔⚔⚔
受付のお姉さんがお茶をスレイとデイヴィッドの前には置いた。
「ギルマス、わたしはこれで失礼します」
「おぉ、すまんの」
「失礼いたします」
お姉さんが頭を下げて部屋を退出していった。
「それで、ボクになんのお話があったんでしょうか?」
始めここに呼ばれたのはギルドの闘技場の壁を、雷の魔力で作った即席のレールガンの一撃で破壊してしまったせいだと踏んでいたが、ギルドマスターが相手でさらには間近で見ていたので、その事で怒るのならその場で身分をあかして叱りつけていたはずだと考えたスレイだったが、ここに呼ばれたのが壁の破壊が理由ではないならば、なぜここで呼ばれたのか、その理由が全く思い浮かばなかった。
「なに、先日君が売却を依頼したコアのことでね」
コトンと置かれたのは、間違いなく昨日スレイがここで売却を依頼したコアだった。
「これがなにか?」
売却の時におかしな物を渡した覚えのないスレイは、コアを見ただけでは呼ばれた理由にピント来ていなかった。そんなスレイにデイヴィッドは説明を始めた。
「確認じゃが、君はこのコアの魔物を自分の力で狩ったのかね?」
「えぇ、ですがそれをもしボクが狩った物でなくても、売却には問題ないですよね」
その証拠に過去に何度かルクレイツアがスレイの狩った魔物のコアを売却していた。
「確かにの……じゃが、これを狩った冒険者を殺して奪ったもの、だったらどうかね」
デイヴィッドど目が鋭く光、スレイはようやく先程の試験でのことと、今この場所での質問の意図が結び付いて納得した。
つまりこのギルドマスターはスレイが犯罪をおかしたのではないかと思っているのだ。
そう思ったスレイはどうやって納得させるか考えるが、正直に言って死霊山に連れていくのが手っ取り早い。だが勝手にギルドの重要人物であるギルドマスターを国外に連れ出しても構わないのか、結論から言って百パーセント問題になるので却下だ。
「まぁ、初めからそれはないと思ってたがの」
「すみませ、それを先にいってください」
今まで必死になって考えていた方がバカではないかと思ってしまったが、今の会話でそこまで見抜いた理由について全くわからなかった。
「……一応理由を聞いても?」
「ここいらでこんなに品質のいいコアは手に入らんし、これほどのコアの魔物を狩れる冒険者もここいらにはおらんからの、それにお主の剣は真っ直ぐじゃった、間違ったことには使っとらん、ワシはそう感じたの」
誉められたスレイはなんと言っていいのか分からず、どこか気恥ずかしさを覚えた。
「じゃあなぜボクを呼んだんですか?話したかったそれだけじゃないですよね?」
「なに、ちと相談したいことがあっての」
「相談……ですか」
ニヤニヤとする老人の顔をみて、スレイはなぜかとっても面倒なことに巻き込まれそうな予感がした。
「うむ、このコアの魔物、多分じゃが死霊山の魔物のじゃな?」
「…………えぇ、そうです」
元々隠す気の無かったスレイが肯定すると、先程よりも嬉しそうにしているデイヴィッド。
「一つ頼みじゃが、ワシを定期的にそこに連れていってもらえんか?」
そうだろう、死霊山の名前を口にした瞬間、デイヴィッドが嬉しそうにしていたのをみて、そんなことだろうと思っていたスレイは、言うことは決めていた。
「えっ、普通に嫌ですけど」
初めから言おうと思っていたことを言った。するとデイヴィッドが顔を驚愕させた。
「なぜじゃ!」
「イヤだって、ギルマスに何かあれば一大事じゃないですか。それに依頼を受けてこの町にいない時もあります、もっと言えばボクはこの国に永住する気はありませんので定期的には無理です」
スレイは死霊山に連れていけない理由を答えると、デイヴィッドはとても残念そうにする。
「そうか、君は隣の国から来ていたのじゃったの」
「えぇ、三ヶ月ほどでこの国を出るつもりです」
「ならこの国にいる間に一回でいい!連れていってくれ!」
「えぇー!?」
諦めてもらいたかったスレイは普通に面倒な顔をしたが、何度も行かなくていい、たった一度だけでいい、そう自分に言い聞かすことにした。
「……わかりましたが、その代わりボクともう一人つれていきますがいいですね?」
「構わん構わん、それでいつ行くかね?ワシは来月のはじめが空いておる」
「わかりました。その時連れていきます」
「約束じゃぞ?」
「えぇ、それでは失礼いたします」
部屋を出たスレイは大きくため息をついてから一言。
「なんか、もう面倒なことにしかなってないな」
がくりと肩を落としたスレイは、ゆっくりと歩き始めた。
⚔⚔⚔
「カァ~」
「ハイハイ、右ね」
「カァカァ~」
「次は真っ直ぐね」
スレイは肩に止まっているレイヴンの指示にしたがい道を歩いていく。こう言うときだけレイヴンと意思疏通が出来て──ただ鳴いているだけだが、良かったと思うが、未だにこの鳴き声の正体は不明で、いつか意思に目覚めるのではないかと心配している。
「カァ~!」
「お!ここか」
スレイはようやく見つけた店の上には、ユフィが置いていったのだろうオールが看板を止まり木に休んでいたが、スレイを見ると羽ばたきながらレイヴンが乗っている逆の肩に乗った。
「ホォー」
「お疲れ様、オール」
オールにお礼を言ったスレイは扉を開けて中には言った瞬間、テーブルが飛んできた。
なぜかデジャブを感じたスレイと、テーブルをみてすぐに危険を察し肩から離れたレイヴンとオール、すぐ目の前にテーブルが迫ったのを見たスレイは瞬時に強化した手でテーブルを受け止めた。
今回切らなかったのは、ただ単に受け止めやすかったからだ。
受け止めたテーブルをおいて飛んできた方を見ると、そこにはどこかで見たことのある三人組と戦うヴィヴィアナと、なぜか共に戦うベネディクトの姿にそれを捲し立てる外野、ついでに騒いではいないが椅子に座って呆れているユフィと、慣れてますと言いたげな店員たちがいた。
「うわぁ~マジでデジャブ」
昨夜のようになっていることが分かり、なぜこうなったのか事情を聴くためにユフィたちの元に駆け寄った。
「おぉ~いユフィ、これどうなってんの?」
「あ、スレイくん来たの?」
「うん、ついて早々これ、なので説明お願い」
「りょーうかぁ~い」
ユフィがここに着いてからの出来事を端的に説明し出した。
曰く、ここに着くまでは何もなく、安全にこれたそうだ。ついでに言うとここに着いたときはまだ安全だったのだが、今二人と戦っている三人組の冒険者が入ってこうなったそうだ。どうやらあの三人組は昼間にスレイが倒した三人組のようだ。そして入ってきたときにユフィと鉢合わせ、そこで白髪のガキ──スレイのこと、を出せ!朝の決着をつけてやる!と言い出したのだとか、そこで止めに入ったアリステラが突き飛ばされ、それを見てキレたヴィヴィアナが喧嘩を始め、女一人では、とかなんとか言ってベネディクトも参戦し、いつの間にかどちらが勝つかで賭けを始めたそうだ。すべてを聞き終わったスレイは、腕を組ながらユフィを見る。
「うん。つまりボクのせいか」
「そう言うこと、そんな訳でスレイくん、何とかしてきなさい」
「ヘイヘイ、あぁ~今日は厄日か」
スレイは中央で暴れる五人の方に掌を向ける。
「ウォーターボール」
威力を最低限にまで落とした水の球を五つ作り出すと、風魔法で誘導し五人の頭の上で割った。
奥から悲鳴のような声が聞こえてきた。
「だ、誰がやりやがった!」
「出てきやがれ!!」
いかにもな言葉を聞いたスレイは、野次馬の間を抜け中央に向かった。
「て、テメェは!」
「どうもお久しぶりです。すみません、ツレがご迷惑を、ほらヴィーもベネディクトさんも気が済んだだろ、一緒に謝ってあげるから、謝って」
「おい、アタシらが謝る必要ねぇだろ?ユフィから聞いたが、最初もこいつらがやってんじゃねか!」
「……………………………」
自分は悪くないアピールをするヴィヴィアナとベネディクトだったが、もう面倒事は御免なスレイは少しだけ脅しの意味を込めて二人に向けて殺気を放つと、それに感ずいた二人プラス喧嘩を途中で止めたスレイにブーイングをしていた回りの面々は押し黙った。
「で、でもよぉ──ひぃ!?」
スレイがヴィヴィアナに向ける殺気を強める、ヴィヴィアナはすでに涙目で震えてしまっている。
「まだ何か?」
「な、何でもありません!!」
「……………………………………………!!」
ヴィヴィアナとベネディクト高速で首を縦に降る。それを見たスレイも殺気を解くと野次馬の周りでは何人かがヘタリと腰を下ろして座り込んでいた。スレイは問題の三人組の方を見ると、どこかへ行こうとしていた。
「あの、待ってください」
「な、なんだ!?」
怯えるように肩を震わすリーダー格の男、その男にスレイは銀貨を数枚手渡した。
「今朝はすみませんでした。あなた方を止める方法はもっとあったはずなのに」
「い、いや、こっちもすまなかった、お前の女に手を出そうとして」
「それはもういいです。それでこれ少ないですが、これで飲み直してください」
「お、おう、すまないな」
「た、助かるよ」
そう言って三人組はさっさと店を出ていった。
「みなさんお騒がせしてしまいすみませんでした、お詫びにみなさんに一杯おごりますので、どうか飲んでください」
スレイがそう言うと他の客たちは歓喜の叫びをあげたのだった。
⚔⚔⚔
他の客の一杯分の勘定が幾らになるかは分からなかったスレイは、店員に金貨を一枚を会計のために握らせたがどう多かったらしいが釣銭は受け取らず、騒がしたお詫びだと言ってからユフィの隣の席に腰を下ろした。
「今日、絶対に厄日だ」
「まぁまぁ、明日の朝ごはん奢ってあげるから」
「ありがとうユフィ」
もはやなんでも良かったスレイは、とりあえず何か腹にいれたいと思っていると、今まで涙目だったヴィヴィアナが勢いよく立ち上がった。
「ど、どうしたの……ヴィーちゃん……?」
アリステラが訪ねるがヴィヴィアナは答えない。
「よ、よし!スレイも来たしおばちゃんエール七つ頼む!」
「あいよ、ヴィーちゃんにアリスちゃん、今日はお友だちが一杯ね」
馴染みと言うのは嘘ではないらしく、女将と親しげに話す二人だったが、それよりもまず。
「………昼間っからエールって」
「ボクは、先に何か食べたかったんだけど………」
「自分、酒はあまり得意では」
「ワシはもっと別の酒がいいの」
「……………………………………」
相変わらずなにも言わないベネディクト、そして他のみんなは不満を口にしたのだった。




