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特別編 桜の下でお花見を

今回は特別編です!


 それは剣聖祭が間近に迫った四の月の五日、その日は長い冬の寒さも終わり暖かな陽気に包まれていた。

 この日、早朝訓練を終えてみんなで朝食を食べていたスレイは、娘のレイネシアからこんなお願いをされた。


「パパ!ママ!レネね。おそとにあそびにいきたいの!」


 子供用の椅子の上に立ち上がり、バンッとテーブルを叩いて主張するレイネシアの主張を前にしてポカンッと目を丸くしていた。


「ちょっとレネちゃん、何言ってるの?昨日もママたちとお外に遊びに行ったじゃない」

「そうだよな。昨日、春物のワンピース買ってもらったって言ってたもんな。よかった夢の中で見た天使の姿じゃなかった」


 思わず口走ってしまったスレイの言葉にユフィたちが揃って首を縦に振っている。

 昨日、ユフィとアニエスがレイネシアを連れて買い物に出かけた。その帰りに新しいワンピースを買ってもらい、早速着て見せてくれたのだ。

 その姿はまさしく地上に降り立った天使、スレイたちはカメラでその愛くるしい姿を連写してすでに両親にも送りつけていたりする。


 あのときのレイネシアは可愛かったと、パパとママたちが揃って頷いている中当人はプンプンっと頬を膨らませて怒っていた。


「ちぃ~がぁ~うぅ~のぉ~!レネ、ばぁばからきいた、おはなみいきたいの!」


 頬をパンパンに膨らませたレイネシアが、バンバンッとテーブルを叩いて抗議する。

 はしたないから辞めさせようとするアニエスの姿を横目に、スレイとユフィは揃ってそういうことかと思っていると、ラーレが神妙な面持ちで考え込んでいた。


「お花見?……なぁ、ノクト。お花見っていったいなんだ?」

「えっ、お花見……その、お花をみるのではないでしょうか………多分」

「……ノクトも知らないんだ」

「わたくしも分かりませんわね」


 ノクトたちが初めて聞く言葉と、レイネシアの言葉のとおりなら何やら楽しそうなことだと想像している。


「花見ってのは、ドランドラで咲く桜って花を見ながら食べて飲んで騒ぐ宴会みたいなもんだよ」

「はぁ~、宴会ね。んじゃうまい飯が必要ってわけだな。頼んだぜ」

「頼んだぜって、あんたねぇ。まさかと思うけど、これから作れっていうの?」


 膨れてバタバタと手足をばたつかせるレイネシアを抱えて宥めていたアニエスがまさかと思って問いかけると、ラーレだけでなくライアまでもがサムズアップで答える。


「期待してるぜ、アニエス!」

「……ん。わたしお肉食べたい、いっぱい」

「無理言うんじゃないわよ!あんたらのお腹を満足させる料理、これから直ぐに出来るわけないでしょ!!」


 叫ぶアニエスの言葉にスレイたちはご尤もとだと頷いていると、アニエスがさらに怒って二人に説教をしていた。


「ところでレネ、あなたいったいどこでお花見など知ったのですか?」

「んとね、パパのばぁばにきいたの!」


 パパのばぁばと聞いてユフィたちの視線が一斉にスレイの方へと向くと、スレイは顎に手を当てながら何かを考えていた。


「ボクの母さんかぁ……多分、先生のほうだよね」

「そうだと思いますよ。直近で来訪されたのはルラ殿でしたので」


 スレイの義母クレイアルラがどういう理由でレイネシアにお花見の話をしたのか、前後関係がわからないので直接本人に聞いてみようと思い、耳に手を当ててコールを唱えた。


『はい、クレイアルラです』

「あっ、先生。スレイです。今、大丈夫でしたか?」

『えぇ。問題ありませんよ』

「実はですね。レネについて聞きたいことがありまして───」


 クレイアルラと話を始めたスレイ、これは長くなりそうかもと思いユフィがお茶のお代わりを淹れている。

 しばらくしてスレイの話が終わった。


「───はい。それじゃあ、失礼します」


 コールを切れたスレイはみんなの方へと向き直ると、みんなにクレイアルラから聞いた話をする。


「なんでも、中央大陸で春祭りがあってそこでお花見をするんだって」

「……ほうほう祭り、いつからなの?」

「今日から三日間やるんだってさ。あと、なぜか来るなら剣を持ってこいって言われた」


 祭りに行くというのになぜ剣が必要になるのかと誰もが思いながら、全員の視線がレイネシアの方に向けられる。

 視線を一身に受けたレイネシアの顔はまだかまだかと語りかけている。


「レネ、お祭り行きたい?」

「いきたいのぉ~!」

「あ、痛っ!?」

「「「「「「あっ」」」」」」



 声を上げながらバンザーイと両手を上げると、バシッとレイネシアを抱きかかえていたアニエスの顔面を叩き、パタンッとレイネシアが床に落ちた。

 幸いそこまで高くないので怪我とかは心配なかったが問題はアニエスの方だった。


「あっ、アニエスさん?大丈夫ですか?」

「えぇ。ちょっと痛かったけど平気よ」


 それは良かったと思いながらノクトが赤くなっている顔に治癒魔法をかけてあげる。

 アニエスが治療を受けている間に、ユフィたちがウキウキと走り回っているレイネシアを捕まえて、アニエスに謝るように言っている。

 もちろんレイネシアもアニエスのことを叩いてしまったことを反省し素直に謝ったが、事故で人を叩いてしまったとは言えすぐに謝らなかったことはしっかりと叱った。


 ⚔⚔⚔


 中央大陸に向かう前に、せっかくお祭りに行くのだから余所行きの服へと着替えようといい出したユフィたちは、早速自分の部屋に戻っていった。

 一人リビングに残されたスレイは、せっかくだからソフィアも誘おうと思いプレートで呼びかけると、すぐに映像が浮かび上がりソフィアが映し出された。


『やぁ、どうしたんだいスレイ。君から連絡が来るなんて珍しい』

「そんなこと言わないでよ、ソフィア。ところで今大丈夫だった?」

『うん。ちょうど仕事終わったところだったから』


 それはいいタイミングで連絡を入れたと思ったスレイは、早速ソフィアに用件を伝えだした。


「実はこれから中央大陸にあるボクの実家?に遊びに行くんだけど、ソフィアも一緒にどうかな?」

『行きたいけど、なんで実家のところが疑問形なの?』

「前に話したでしょ、生まれ育った故郷は西方大陸なの……それで、行けるなら迎えに行くけど」

『うん。執務は一通り終わってるから、父上の許しさえあれば行けるよ』


 一国のお姫様の外出なのだから護衛の問題やらなにやら、色々と面倒な手続きがあるのだろう。


「分かった。許しがもらえたら連絡頂戴。迎えに行くから」

『オッケー。また後で』


 通信が切れたのを確認してから通信機をしまうと、着替えを終えたユフィたちが降りてきた。


「ごめぇ~ん。お待たせぇ~」


 降りてきたユフィたちは、簡素な部屋着から着替えてきた外行きの服は遊びに行くためか、全員動きやすそうな格好であった。


「平気、平気………ところで、なんでレネはふくれっ面なの?」

「この娘、この前買ったワンピースが良かったみたいなんだけど、絶対汚すから別の着せたのよ。そしたら怒ったの」

「あぁ~、そういうことね」


 納得したスレイはムスーっとしたレイネシアの顔を覗き込んだ。

 レイネシアの服は薄桃色のカーディガンにクリーム色のシャツとチェック柄のスカートに、頭には大きなリボンがついたベレー帽と、あまり汚れが気にならない服装だった。


「普通に似合ってるけどな」

「パパのおバカ!レネ、ちがうのがいいの!」

「でもレネ、お祭りじゃ人がいっぱい出し、お料理なんかもお外で食べるんだぞ?お料理で真っ白なワンピースが汚れちゃったらもうきれないだろ?」

「むぅ~、いやなのぉ~」

「それじゃあ、ママたちが着せてくれた服で行こうな」

「分かったのぉ~」


 渋々といった感じだったが、納得してくれたレイネシアだった。


「それじゃあ、出発しようか」

「はい!」


 家族みんなで遠出は久しぶりだ。

 全身で嬉しさを表しているレイネシアの手を引きながら街の門へと向かっていく、その途中スレイはみんなにソフィアに連絡したことを伝えた。


「ソフィア殿も誘ったのですか」

「せっかく旅行に行くんだから、誘わないほうが不謹慎でしょ」

「んで、いつ来るって?」

「それはわからないよ。来れるかどうかもまだ連絡ないし」


 無理なら無理で連絡があるだろうと付け加えたスレイは、門を出てゲートを開くと全員がゲートを潜り最後にスレイも中へと入る。

 ゲートを抜けた先は街から少し離れた街道だった。


「うわっ、すごい人だな」


 久しぶりにやってきた実家の街は観光シーズンとでも言うべきか、人で溢れかえり入街調査の列が出来ている。

 列の一番後ろに並んだスレイたちは、前に並んでいる人数を確認してげんなりとする。


「こりゃ、街に入るまで二三十分は掛かりそうだな」

「スレイくん、領主の息子でしょ。なんとか出来ないの?」

「嫌なので出来ません。以上」


 暇なので本でも読むかと空間収納を開こうとしたその時、スレイの懐から鈴の音が鳴り響いた。


「ごめん、ちょっと離れる」

「おう。いってら」


 みんなに断りを入れてから離れたところでプレートを起動させると、相手は予想通りソフィアからだった。

 今度は通話だったので相手側のプレートと繋げて耳の当てた。


「はい。スレイです」

『あっ、良かった繋がった』

「ごめん、外だったからちょっと人目がね」

『ふふっ、分かってるよ。それより、ぼくもそっちに行けることになったから』

「うん。よかったよ。今からそっちに迎えに行くよ。場所は街の入口でいいかな」

『了解。すぐに向かうよ』


 通信が切れたのでスレイはみんなにソフィアを迎えに行くことを説明し、一人でアルメイア王国へと向かった。


 ゲートを抜けアルメイア王国首都にやってきたスレイは、門をくぐって街の中へと入るとそこでソフィアが来るのを待っている。

 しばらく門を背にして人の流れを見ていたスレイは、不意に込み上げたあくびを噛み殺した。


「ふはっ……こっちは昼過ぎってところか」


 太陽の位置をみながら呟いたスレイはボケっと空を眺めていると、人混みの中から誰かがこっちに近づいてくる。


「おぉ~い!お待たせ、スレイ!」


 フードを目深く被りながら手を降ってやって来た人物、その声を聞いて誰かを察したスレイは背を預けていた壁から離れてその人物の方へと歩み寄る。


「待ってないよ。それより、早かったねソフィア」


 フードの人物、ソフィアはスレイに抱きつく。


「久しぶり!新年祭以来かな?」

「あぁ~、もうそんなにあってなかったっけ?通信はしてたからわからなかった」

「いいよ。気にしてないから」


 スレイから離れてニシシッと笑っているソフィアだったが、剣聖祭に向けて鍛錬で忙しかったからとは言えそんなに会えなかったのは問題だ。

 もう少しこまめに会いに来ようと密かに決意するのであった。


「それじゃあ、行こうか……ところで、ソフィア護衛は?」

「何言ってるんだい、いるわけ無いじゃないか」


 さも当たり前のように答えるソフィアにスレイは頭が痛くなった。


「ユーシス陛下は、ちゃんとその事知ってるんだよね?」

「当たり前じゃないか。第一に、ぼくが一人で街中に出るなんていつものことだから、誰も気にしないよ」


 それもそうだと納得できる一方で、それじゃダメだろうと言う言葉が混ざってしまい結果としてスレイの表情はとても渋いものであった。


「まぁいいか、じゃあ行こうか」

「おぉ~!早く行こう!」


 手を引いて先を行くソフィア、そんな彼女の後ろ姿を見ながらスレイは自然と笑みを浮かべるのであった。


 ⚔⚔⚔


 ソフィアと共にゲートで中央大陸に戻ったスレイは、ユフィたちと合流し時間をかけて街へと入った。

 ちなみに、審査を行うときに顔見知りの衛兵が驚いて今度からは並ばずに直接入るように言われた。


「あぁ言われてましたが、次回からはそうされるので?」

「今日みたいに人が並んで無かったらいいかもね、まぁ普通に並んでたら並ぶけど」

「いつか、怒られるよ~」

「ルール守ってるんだから文句言われる謂れはないよ」


 なんて会話をしながら街を散策しているスレイたちは、普段とは違う温泉街の様子に浮かれている。

 普段は落ち着いた温泉街が、今日だけは屋台が立ち並び観光で訪れた人たちが料理を片手に食べ歩きに興じ、春祭りの名前の通り春にぴったりな三色団子や、桜餅のようなものが売っている。


「なんか懐かしいな」

「そうだねぇ~」


 地球での祭りを思い出してほっこりとしているスレイとユフィだった。

 たまにはいいものだと思いながら、歩いていく二人のもとに何本の団子を持ったラーレがやってきた。


「おいスレイ!この団子っての、めっちゃうめぇぞ!」

「はいはい。それはよかったね。でも一気に食べないでよ、喉に詰まりやすいから」

「そこまでガキじゃねぇよ!あっ、あっちも美味そうだ!!」


 スレイの忠告も聞かずに残りの団子を一気に食べたラーレは次の店へと突撃していった。


「……ラーレ、待つ。私もそれ食べたい」

「おいおい君たち!ぼくを置いていくなよ!」

「お二人共待ってください!!」


 次の店へと突入したラーレの後を追ってライア、ソフィア、ノクトが走っていく。

 なんだか見慣れた光景だとスレイが思っていると、後ろでレイネシアの手を引いていたアニエスが呆れ果てていた。


「まったく、騒ぎすぎでしょ?レネ、あんな大人になっちゃダメよ」

「ハイなの!」


 祭りだからと少しは大目に見ているが、娘への教育はしっかりとしているアニエスだったが、先程から尻尾がパタパタと動いて鼻をヒクヒクと鳴らしている。

 これはお腹が空いているときの仕草だ。


「アニエスさま、お腹が空かれているならお店に入りましょうか」

「そっ、そうね………もう我慢の限界だわ」

「ママ、おなかすいたの?」

「あんなの見せられたらもうペコペコよ」


 我が家は健啖家が多い、獣人であるアニエスも普通の人より多く食べる。そんなアニエスの前であんな豪快に食べられたら誰だってお腹が空く。

 どこかすぐに入れそうなお店はないかと辺りを見回している。


「皆さん、あちらがよさそうですよ」

「よし、あそこにしよう」


 スレイたちはちょうど席の空いた茶屋に座ると、店の店員がやってきた。


「はい、いらっしゃいって、あれま若様たちじゃないですか!?」

「いや若じゃありませんって」

「いいえ、領主様のご子息様は我々にとっては若様にちがいありません」


 全く持って訂正させてくれないのはいつものことと諦めたスレイは、店員が下がった後おいてあったメニューを手にとって注文を決めた。


「みんな、決まった?」


 スレイが問いかけるとみんなが答えたので定員を呼ぶ。


「はい、ご注文お伺いいたします」

「ボクは緑茶とみたらし団子ください」

「私、ほうじ茶とお団子、あんこで!」

「自分はこのお汁粉と緑茶をいただけますか?」

「わたくしもリーフさまと同じものをお願いします」

「わたしは、メニューのお団子を全部一本ずつ」


 アニエスの注文を聞いて本当にお腹が空いてたんだとスレイたちが同じことを思った。


「レネはどうしますか?」

「んとね、レネもママといっしょがいいの!おだんご、ぜんぶたべたいのぉ~!」

「「「「「それはダメ!」」」」」


 父と母から揃ってダメ出しをされたレイネシアは結局、三色団子にした。


 注文した団子が届いたところで、スレイたちのもとにラーレたちが戻ってきた。


「あっ、お前らだけズルいぞ!」

「何を言ってるんだよ、さっきから好き勝手に食べ歩いていましたでしょうに」


 文句を言いながらラーレたちが椅子に座って注文を始める。

 呆れて物が言えないスレイはふぅっと息を吐いてお茶をすすると、楽しみにしていた団子を食べようと手を伸ばすがその手は空を切った。


「あっ、あれ?」

「スレイ殿、どうかなさいました」

「いやボクの団子がないんだけど、アニエス。食べたりした?」

「お腹が減ってても、そんな卑しいことしないわよ」


 それもそうか呟いたスレイは、ならばどこに団子は消えたのかと辺りを見回すとレイネシアの側で見知った女児が団子を食べていた。


「あぁ~、ヴァルマリアさん?あなた、いつからそこに」

「やっほー、おにいちゃん」


 もぐもぐと団子を咀嚼しながら手を挙げるヴァルマリアにユフィたちが驚いた。

 いつもながら、気配もなく現れるのはやめてほしいと思った。


「マリアちゃん。いったい居つからそこにいたの?」

「ん。さっき、おにいちゃんのにおいがしたから」

「いつもみたいに噛みつかれたりしないだけよかったけど、勝手にボクの団子食べるなよ」

「おいしそうだったから」

「はぁ~、頼むから知らない人の食べるなよ」


 店員を呼び追加で団子を注文しようとすると、やってきた店員はヴァルマリアの姿を見て目を丸くした。


「あらあらまあまぁ!ヴァルマリアさまじゃないですか!いらっしゃってたのですね!」

「ん。おだんごもっとちょうだい」

「はい!ただいま!」


 店員はヴァルマリアのオーダーを受けて店の中へと引っ込むと、注文を取ってもらえなかったスレイたちは唖然とした。


「あの、ちょっと注文」

「なんなんだ、アレ?ってか、そいつ誰?」

「あっ、ラーレさん。マリアちゃんとは初対面でしたっけ」


 おうッと答えるラーレ、前に来たときたヴァルマリアだけでなくリーシャとも会っていなかったと思い出した。


「この子はヴァルマリア、勇者レオンと一緒に旅をした聖竜ヴァルミリアさまの娘さん」

「ほぉ~、伝説の竜の娘ねぇ……やべぇなこの街」

「慣れればいつものことよ」


 アニエスも随分とこの家族に染まったと思いながら、スレイたちがお茶をすすっている。


「なぁマリア、父さんたちは近くにいるの?」

「ん。おやしき。おかあさんもいる」

「ヴァルミリアさまが?珍しいな」

「おまつり、よばれたからきたって」


 モグモグと団子を咀嚼しながらそう答えるヴァルマリアに対して、伝説のお方をホイホイと誘うなよっとスレイたちは揃って思ってしまった。


「屋敷か、これ食べたら行こっか」


 みんなにそう告げながら、スレイは次々に出てくる甘味を止めてもらった。


 腹を満たした一行はお代を払ってから屋敷へと向かっていく。


 アルファスタ邸にやってきたスレイたちは、使用人の案内で屋敷の庭に通されるとそこには満開の桜が花開きそのしたでフリードたちは楽しそうに酒を飲んでいた。


「あっ!おにーちゃんだッ!」


 一目散に駆けてきたリーシャがジャンプしたので、スレイは優しく抱きしめた。


「リーシャ、久しぶりだけどもうお姉ちゃんなんだから、はしたないことしない」

「はぁ~い!」


 リーシャを下ろすとクイクイっと袖を引かれ、そちらに視線を向けるとムスッとふくれっ面のレイネシアが見上げていた。


「パパ!レネもだっこ!」

「はいはい」


 レイネシアを抱きかかえながらフリードたちのいるところへと向かうと、快く招き入れられた。

 靴を脱ぎ敷物の上に上がったスレイたちは、出された飲み物を受け取った。


「みんなよく来てくれたな。どうだった、祭りは」

「まだ、そんなに見て回ってないから」

「さぁみんな、お話はそれくらいにして食べて食べて」


 ジュリアがみんなの前に重箱を差し出した。


「珍しい箱ですね。それに敷物の上に座ってお料理を食べるとは」

「ドランドラ式の宴だからね」

「さぁさぁ、どんどん食べてみんなが来ると思っていますたくさん作ってもらってるから」


 フリードとジュリアに勧められると早速ライアたちが料理に手を伸ばした。


「……たくさん食べる」

「うっしゃ!いっぱい食うぞッ!」

「見たことない料理、美味しそうだね!」

「皆さん、本当に底なしですね」


 先程アレだけ食べていたのにと呟いたリーフの顔が引きつっている。


「レネちゃん、食べたいのあったら取ってあげるよ」

「はぁ~い!」


 重箱を覗き込んで何を食べようか悩んでいるレイネシア、そこに小さな影が二つと一羽のウサギと一頭のドラゴンが近づいてくる。

 まぁ、リーシャとヴァルマリア、それに二人のゴーレムのウーちゃんとドラちゃんだ。


「レネちゃん!レネちゃん!リーシャたちとあそぼ!」

「ん。おもちゃいっぱいある」

「あそぶのぉ~!」


 子供たちは子供たちで遊び始めてしまった。


「遊ぶって言ってるけど、ゴーレムファイトじゃないよな」


 前にあの二人がやっていがゴーレムを使って、ポ〇モンバトルのような事をしていたが、まさかレイネシアをそれに誘ってるんじゃないだろうか。

 危険なことをしないとは思うが、万が一があったらいけないので見えるところでやってくれと思っている。

 別のところではクレイアルラがベルとアーニャをあやしている。


「ほらアーニャ、モグモグしなさい」

「うぅ~、やぁ~」

「嫌ではありません。ベルはちゃんと食べてますよ?」

「うぅ~?」


 食べたくないと駄々をこねるアーニャと、逆に素直に食べるベル、そんな双子に手を焼いているクレイアルラの姿はまさに母親のそれだった。


「先生、すっかりお母さんですね」

「半年近く一緒にいますからね。みな将来の勉強に代わってみますか?」

「あっ、それじゃあわたし代わります!」

「じゃあ、わたしも代わるわ。ルラさんもお料理食べてください」

「あら、冗談のつもりでしたが……それでは少しの間お願いします」


 ベルをノクトに、アーニャはアニエスに任せて食事をとろうとたしたクレイアルラの元にユフィとリーシャが料理の乗った皿と飲み物の入ったグラスを差し出した。


「先生。はい、どうぞ」

「飲み物は、ジュースでよろしかったでしょうか?」

「えぇ。いただきます」


 クレイアルラが輪の中に入ったのを見て、スレイは改めてこの家の女子率が多いなと思った一方で、一人足りないようなきがした。


「ねぇ母さん、ヴァルミリアさまもいるって聞いてたんだけど」

「ミリアさん?あぁ、ちょっと山に戻るって出ていったわ」

「ふぅ~ん」


 なにかあったのかと思いながら、重箱の卵焼きを食べようとフォークを伸ばしたスレイ。しかし、伸ばされたフォークが届くよりも早く重箱の蓋が閉められた。

 顔を上げたスレイの視線の先でジュリアが不敵な笑みを浮かべている。


「………あの、母さん?何その笑顔」

「ねぇ、スレイちゃん。剣は持ってきてる?」

「一応、黒幻は持ってきてるよ。それに魔力刀も何本か持ってきてる」


 事前に言われてた通り、剣は持ってきたが何をするにしても黒幻で事足りるだろうと白楼は置いてきた。

 加えて魔道銃は全てメンテナンス作業中にため、一挺も持ち合わせてはいない。大丈夫だろうと思っていたが、目の前のジュリアは顔をし替えている。


「えっ、なんでそれだけしか持ってきてないの?」

「祭りへ遊びに来ただけなのに、いったい何をさせるつもりなの?」

「そんなの、近くに出没したドラゴン退治に決まってるじゃない」

「決まってるじゃないでしょ!?遊びに来てるのになんでドラゴン退治に駆り出されにゃならんのじゃ!!」


 サッとユフィたちの方を見るとまたかという顔をしていた。


「ねぇ母さん、ボクに何か恨みでもあるの?」

「息子を恨むなんて、あるわけ無いじゃないの」

「じゃあなんでボクにドラゴン退治?父さんたちで行きゃあ良いじゃない!」


 いくらドラゴンといえどSランク冒険者が三人もいれば数分で片付くだろう。

 出張れよ、出張ってくれよ!っとスレイが涙ながらに訴えるが、フリードたちは申し訳無さそうな顔をしながら謝罪の言葉を述べた。


「すまん、スレイ………今回ばかりはオレも出れない訳があるんだ」

「なに、理由って。息子を死地に送るどうしようもない理由って何なの?」

「怖い、怖い、目が逝って怖いから離れろ」


 フリードのもとに詰め寄ったスレイは、両目を竜眼に変化させ瞳孔が開いている。

 離れてくれとスレイを押しのけるフリードは、ビシッとスレイの目の前に依頼書を突きつける。


「領主権限による緊急指名依頼だ。理由としては、オレが今この街を離れられないからだ」

「だからなんで、どうして!そこのことを詳しく!」

「祭りのためだ!」


 なんでだよっとスレイがフリードのことを睨みつける。


「ようやく復興したこの街でようやくこの規模の祭りを開けるようになったってのに、その初日で領主であるこのオレが離れたら色々と問題出る」

「だったら、事前に討伐しろよ!」

「オレだってそうしたかったよ!ドラゴンの存在が発見されたのが三日前、ギルドから報告が上がったのは昨日の夜!できるわけねぇだろこんなの!!」


 もはや涙目のフリード、苦労しているんだと思いながらスレイは折れるしか無かった。


「分かった、受ける。受けます」

「助かる、ホントマジで」


 涙ながらに感謝するフリード、ちなみに今日スレイがこの祭りに来なかった場合、祭りの位置日目が終了したと同時にフリードが街を抜け出して一人で討伐するつもりだったらしい。


「ちなみに、みんなは来てくれるの?」

「うん。いやだ」

「自分も剣を持ち合わせていませんので」

「……料理、食べる」


 などなど、皆さんそろって戦闘拒否、スレイは泣きながら一人で討伐に向かうのであった。


 ⚔⚔⚔


 涙を流しながら一人討伐に向かったスレイは、まさかドラゴンが出たというのが本当に目と鼻の先だった。

 ドラゴンばかりは数十匹、それも知性を持たないヤングと少し強力なアダルトが群れをなしており、推定ランクA以上だった。


「はぁ……はぁ……はぁ……おっ、終わっ……た………」


 ドラゴンたちの死体の山の上で荒い呼吸を繰り返すスレイの側に、一人歩み寄る人影があった。


「お疲れ様です、スレイ」

「ヴァルミリアさま……何なんですか、こいつら……いや、マジで」


 疲労困憊のスレイが顔を上げて横を見ると、こちらを見据える女性ヴァルミリアに問いかける。


「春ですからね。若い個体が巣立ったのでしょう。私のことも知らぬ愚か者たちでした」

「……殺してもよかったんですか?」

「構いません。彼らは人を襲うつもりでした。おそかれ早かれ討伐は必然です」


 ヴァルミリアの言葉にスレイは顔を逸らし、空間収納を開いてドラゴンたちの死体を仕舞った。


「帰りましょう。すっかり日が暮れましたけど、祭り楽しみましょう」

「えぇ。そうしましょう」


 ゲートを開き街へと戻るスレイとヴァルミリア、無事ドラゴンを討伐したかことをフリードは喜び、祭りではスレイが討伐したドラゴンたちの料理が振る舞われた。


 ドラゴンの肉を出すことをヴァルミリアたちはどうなのかと思ったが、ヴァルミリアいわく種族が同じと言うだけで、何も感じないとのことだ。


 祭りの間、スレイたちは屋敷に泊まることにした。

 夕食では祭りで振る舞われたことは別に用意されたドラゴンのステーキを食べ腹を満たしたスレイは、一人庭に出て夜桜を眺めながら息を吐いた。


「何たそがれちゃってるの?」

「ユフィ………いや、なんで遊びに来てまで魔物討伐しなくちゃならないんだって、思ってさ」

「まぁまぁ、美味しいステーキが食べられたんだから良かったじゃない」

「良くないよ。軽く二三度死にかけてるからね。ろくな装備無しで戦ったんだから」


 完全に目が逝っているスレイに、ユフィはお疲れ様と言いながらお茶を渡した。


「おじさんにも理由があったんだから許してあげなよ」

「もう怒ってないよ……それより、みんなは?」

「お祭りで遊んでるよ。明日もあるからすぐに帰るって言ってたけどね」


 せっかくの祭りだ、少しくらい遅くなってもいいが出来るなら誘ってもらいたかった。


「ユフィは行かなくてもよかったの?」

「うん。レネちゃんが寝ちゃったし、スレイくんを一人残していけないし」

「それはありがとう」


 お礼を言うスレイの前にユフィは盃と徳利を見せた。


「ねぇ、飲む?」

「あぁ。ありがとう」


 盃を受け取り酒を飲んだスレイは、ユフィと肩を寄せ合いながら夜桜を眺める。


 それから祭りから帰ってきたリーフたちがいちゃつく二人を見つけ、みんなで夜桜見物をするのであった。


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