魔王の参戦と大樹の精霊
エルフの里のはるか上空で繰り広げれられる激闘、武芸の使徒のセファルバーゼ、魔族イグレージスの戦いに割り込む。タイミングを見計らい、二人が離れた一瞬の隙を付き間に入ったクレイアルラとライアはそれぞれの相手へと攻撃を放つ。
『「──暴風よ、吹き荒れ取り囲めッ!」』
その身に風の精霊シルフを憑依させたクレイアルラは、シルフの精霊武装であるレイピアに暴風の嵐を纏わせ、突き出すと同時にレイピアの切っ先ぁら風が吹き荒れセファルバーゼを閉じ込める。
「……お前の相手は私、焼けろ──火炎竜王波ッ!」
ドワーフの鍛冶師謹製のガントレットに刻まれたユフィの魔法陣を起動させたライアは、闘気と炎を宿した拳をイグレージスへと突き出すと吹き荒れる炎の渦が巨大な竜へと変わり飲み込んだ。
二人の放った技が同時に使徒と魔族に直撃するが、これで殺れるなど思っていない二人は畳み掛けるように次の攻撃に入ろうとしたその時、セファルバーゼの覆う嵐の檻が破られ、イグレージスを飲み込んだ炎の竜は腹のあたりから爆発し弾けた。
暴風をかき消し現れたセファルバーゼは次の技を放とうとするクレイアルラに向けて、切っ先を下へと向けた刀を斜めに振り上げる。
レイピアでのガードは間に合わないと瞬時に理解したクレイアルラは、精霊魔法でセファルバーゼの斬撃をそらすと今度はお返しとばかりにレイピアで斬りかかる。
『「──風よ 切り裂けッ!」』
振るわれるレイピアの軌跡をたどるかのように真空の刃が襲うが、セファルバーゼは難なく真空の刃を回避するとクレイアルラから距離を取り、あろうことか刀を鞘に納めて自然体になって立ち尽くした。
戦いの場で武器である刀を収納したことを不審に思ったが、以前スレイとユキヤから聞いたあの使徒についてのことを思い出した。
セファルバーゼはユキヤと同じ剣術を使うということを思い出した。
ならば刀を収納したあの状態こそ一番警戒しなければならないのだと、改めて認識しながらセファルバーゼの正面でレイピアを構えながらいつでも攻撃できる構えを取る。
「エルフの娘。貴様、急に割って入ってきたかと思えば、魔法とは違うおかしな力を使う上にその基本がなっていない、ただ振っているだけとしか見えぬその太刀筋。剣士ではないな」
『「お察しの通り、私は剣士ではなく魔導士……いえ、この場合は精霊魔導士と名乗ったほうが良いでしょうね」』
「精霊魔法か、確かに面白い力ではあるがそれでこの俺が倒せるとは、思っておるまいな?」
『「思えるわけありません……が、私の故郷でこれ以上暴れさせるわけには行きません!」』
「ならば、先に貴様を斬るぞエルフ!」
その言葉が開戦の切り口となり、構えを取り一瞬で間合いを詰めたセファルバーゼの居合いがクレイアルラ目掛けて放たれた。
『「風よ阻め!」』
シルフの作り出した風の障壁がセファルバーゼの斬撃を受け止めると、続けざまに真空の刃を放ったところセファルバーゼは難なく真空の刃を切り裂いてみせる。
「なにかしたか?」
涼しい顔で何もなかったかのように訪ねてくるセファルバーゼに対し、クレイアルラは後ろへと下がりながら冷静に次の攻撃に仕掛ける。
連続で放つ突きに合わせて放たれる風の弾丸をセファルバーゼは難なく斬り落とす。
「逃げの一手か」
『「そう思うのでしたらご勝手に───風よ吹き荒れろ!」』
更に後ろに下がりながらレイピアの切っ先を向け竜巻を作り出しセファルバーゼを包むが、セファルバーゼを飲み込んだ竜巻は又してもその刃によって切り裂かれる。
竜巻の中から抜け出したセファルバーゼが距離を詰めて斬りかかろうとした。
だがクレイアルラはそれを許さず、斬りかかるセファルバーゼの一刀が届くよりも速く後ろへと下がりながら風の弾丸と真空に刃による攻撃を加える。
「無駄だ」
クレイアルラのはなった攻撃をセファルバーゼは斬るでもなく、攻撃と攻撃の間にできる僅かな隙間を縫って接近し刀を上段に構え素早く振り下ろした。
『「────クッ!」』
これは風の防壁を貼っても斬られる。回避も今からでは到底間に合わない。
ならばと、クレイアルラは奥の手を切った。
「何っ?」
セファルバーゼの刀が振り下ろされた瞬間、クレイアルラの身体が一瞬にして消えてしまった。
どこだと辺りの様子をうかがいクレイアルラを探そうとしたが、すぐに背後から独特の風切り音と気配を感じ取ったセファルバーゼが振り向きざまに闘気の斬撃を放って攻撃を返した。
振り返るとそこには先程まで正面にいたと思っていたクレイアルラがそこにいた。
魔法にはあまり詳しくないセファルバーゼだったが、この魔法のことだけは今までに何度か対峙した相手が使っていたため、すぐに判別がついた。
「なるほど空間転移か」
『「そのとおりですッ!」』
もう一度距離を取りながら風による攻撃を開始したクレイアルラ、そしてそれを追ってくるセファルバーゼ。
ちらりとイグレージスとライアの方を見たクレイアルラは、セファルバーゼとかなり引き話すことが出来たと内申ホッとした。
この作戦で大切なのはセファルバーゼをイグレージスから引き離すことだ。
そのためセファルバーゼがうまく引き連れていくことができた。
これはセファルバーゼがクレイアルラを排除すべし敵とみなしたのか、あるいは本来の目的であるイグレージスを捕らえる邪魔者として排除を優先したのかは分からないが、これでまずは作戦の第一段階は完了した。
間合いを一定に保ちながら攻撃を加えていくクレイアルラ、それを追ってセファルバーゼが攻撃をかわしながら隙あらば技を放って居るものの、精霊シルフの力によって斬撃を防がれてしまう。
どちらも決定打にはならず、ただ延々と追いかけっ子が続いているようなこの状況に、セファルバーゼは疑問を覚えながら眼の前に迫る風の槍を斬り裂いた。
クレイアルラの攻撃に不自然なところはない、なのになぜか小さな疑問が拭えない。長年戦いの世界に身を置くセファルバーゼの感がなにかおかしいと訴え続けている。
風に槍に風の矢、デタラメに思える攻撃に対してなにか意図があるように感じ取ったセファルバーゼは、クレイアルラが向かう先が里の中央であることに、そしてあの場所には里から外へと出るゲートがありそこに人が集まっていることに気づく。
「俺をどこへ連れて行くつもりだ?」
『「里の外へ、人のいない場所で戦います」』
「させるわけないだろ!」
クレイアルラの目的を知ったセファルバーゼがもう容赦せず、全力を出して斬りかかろうとした。目で追えずに直ぐ側まで迫ったセファルバーゼの刃、これはまずいと空間転移で逃げようとしたが迫る刃はそれよりも早い。
確実に取ったとセファルバーゼが思ったその時、振り下ろされた刃が僅かな抵抗とともに弾かれる。
「魔法か?」
僅かに見えた魔法陣、だがクレイアルラが発動したようには見えない。ならばいったい誰が?っと疑問を思い浮かべた瞬間、眼の前に複数の魔法陣が展開され雷撃が飛翔する。
魔法陣が展開し雷撃が放たれ用としたその瞬間、セファルバーゼが後ろに飛んで雷撃をかわすが、まるで見計らったかのように下がった場所に魔法陣が展開され水の刃が放たれる。
それを刀で切り裂いたとき眼の前になにかが飛んでいることに気が付き刀を一閃すると、確かな手応えとともに何かが落下して落ちていく。
「幻影魔法を掛けた小さな魔導具、貴様のではないな」
『「えぇ。私の自慢の弟子のものですよ」』
勝ち誇ったようなクレイアルラの笑みを浮かべると同時に、セファルバーゼの背後に無数の魔法陣が展開され放たれた無数の暴風の嵐がその身体を吹き飛ばした。
「人間がよくもッ!」
暴風に飲み込まれよって吹き飛ばされるセファルバーゼは、タイミングを見計らったかのように発動されたゲートに押し込まれそうになったところで、暴風を斬りギリギリのところで難を逃れる。
一度でもゲートを抜けてしまえばセファルバーゼは自力ではエルフの里へは入れない。
失われた古代のエルフの秘技によって、この世から隔絶された世界にある里に入るにはそれこそ展開に居られる神の御業を使わなければならない。
神の手を煩わせるわけにはいかぬと、意地でも踏ん張ったセファルバーゼだったがそれに待ったをかけるものが現れる。
「おい、セファルバーゼ。テメェのいる場所はここじゃねぇだろ」
「───ッ!?貴様は、なぜここにいる」
「後で答えてやっから、先行ってろ!──斬撃の型 桜花・春嵐ッ!」
突如割り込んだ人影が放った斬撃がまるで嵐渦ののようにセファルバーゼを飲み込み、そして吹き飛ばしゲートの中へと押し込んでいった。
「そっちで待ってな。後で存分にやり合ってやっからよ」
割り込んだ人物は片手に握りしめる刀を肩に担ぎながら、セファルバーゼを追ってゲートへ向かおうとしたのだが、背後からやってき他人物によって呼び止められる。
「待ちなさい!なぜあなたがここにいるのですか、レンカ!」
刀を握る人物レンカことユキヤは、精霊憑依を解いたクレイアルラを見てバツの悪そうな顔をした。
「何故と言われても、調査で潜ったダンジョンで見つけた魔法陣の転移先が偶然ここだったってだけだ」
「本当にダンジョンに里へと繋がるゲートがあるのですか?」
「そうだ。ってか俺はもう行くぞ。あの野郎が大人しくしてるとも思えん」
「はい。そちらはあなた方に任せます。ご武運をレンカ」
「了解だ。もう一匹はあんたらに任せたぜ」
ゲートに向かってかけていくユキヤの背中を見送ったクレイアルラは、魔族イグレージスをどうやって里の外へと連れ出すかを考える。
以前フリードと共に戦った魔族も特殊な力を持っていた。
イグレージスもそれをもっているとすれば、あのときとは違いこちらに対抗手段であるフリードもいない。こちらの戦力的にも使える手札は限られている。
戦うに当たっては細心の注意を払わなければならない。
「考えるよりもまずは合流が先ですね」
もう一度シルフと精霊憑依を行い、イグレージスと戦うライアのところへと戻る。
一方その頃イグレージスを相手取っていたライアはというと、なかなかに苦戦を強いられることになった。
その理由はライアの未来視の魔眼を使ってもイグレージスの動きが捉えられないのだ。
「……むむむっ、やりずらい」
イグレージスの戦い方は独特だった。
初めは接近してガントレットで殴りつけていたライアだったが、おかしいと感じたのすぐその後だった。イグレージスはほぼ無抵抗でライアの拳を受け続けていた。
ガードするでもなく、かわすでもなく拳を受けながらこちらへと攻撃を返している。血が出ることをいとわずに向かってくるイグレージスに恐怖を覚えずにはいられなかった。
戦いの中で感じた違和感はすぐに現実のものとなってライアを襲った。イグレージスを殴る度に飛び散った血が突如爆発を起こしライアを襲った。
爆発の衝撃と炎の熱気をもろに受けたライアは、焼けただれた肌を治療しながら戦い方を変えなければと考えながら今度はガントレットの魔法での遠距離戦法に切り替えようとしたが、イグレージスはそれを許さない。
「今度はこっちの番だぞ」
接近したイグレージスの爪が鋭く伸びると鉤爪がライアを切り裂こうと迫る。
振り抜かれた鉤爪をガントレットで受け止めたライアは、イグレージスを牽制するためにハイキックを放ったが難なく受け止められるが、即座に反対の足でイグレージスの頭を蹴りぬく。
「アガッ」
蹴られたイグレージスの頭がおかしな方へと曲がり、確実に入ったという手応えを覚えながらもこれで終わるわけがないと、確信にも似た物があったライアは確実に倒すためにも、もう一撃与えようとガントレットに闘気を纏わせその上から炎を燃え上がらせる。
「……これで、終わり───竜炎拳・閃」
炎を纏った拳がイグレージスを襲おうとした瞬間、折れたと思った奴の首が治りギラリとした瞳がライアを睨みつける。
なにか来ると本能が察したライアだったが、もうすでに遅い。間合いに近づきすぎた今、技は止められない。
ならばなにが来ても打ち砕くと、握りしめた拳に力を込め直したライアが更に加速し拳を撃ち抜こうとしたその時、イグレージスの手に真紅の刃が握られていることに気がついた。
だがそんなこと関係ない、どんな剣でもこのままっとライアが拳を振り抜こうとした瞬間、ライアの魔眼が未来を見せる。
「─────ッ!?」
あの剣は危ないと気づいたときにはもう遅い。振り抜かれた拳と真紅の剣が重なり合った瞬間、巨大な爆発が起こりライアを飲み込んでしまった。
爆炎の吹き荒れる中、真紅の剣がぐにゃりと歪んだと思うと、スライムのように姿を変えてイグレージスの体内に消えていった。
「ふん。他愛もない」
真紅の剣はイグレージスの血で形作られたもの。それを濃縮し剣を形作り斬ると同時に魔族としての力で爆発させたのだ。
アレを間近で受ければもはや肉片すら残ってはおるまいと、ライアから背を向けようとしたその時炎の中からなにかが抜け出しそしてイグレージスを殴り飛ばした。
真っ直ぐ地面に叩きつけられたイグレージスは、地面から起き上がりながら目の前に迫るライアを見て驚く。
「グハッ、なに!?」
生きているどころか始めに負った傷以外どこにも傷がないことに驚きを隠せないイグレージスは、飛び込んでくるライアの拳を受けるわけにもいかないと地面から立ち上がりその場から逃げると、ライアの拳を受けた地面がヒビ割れ陥没する。
地面から拳を抜いたライアがイグレージスを睨みつける中、イグレージスは今思った疑問について尋ねる。
「お前、どうやって生き延びた?」
「……ユフィが助けてくれた」
ユフィとはあの魔法使いのことかとイーレスタであった頃の記憶からそう判断したイグレージスは、この場にいないはずの魔法使いがどうやって助けたのかと疑問を思い浮かべる。
ハッタリか、あるいはシールドを付与した魔導具でも持たしていたのだろうと思考を切り替えると、血から剣を作り出して構える。
「どうでもいいな。殺れなかったのなら、もう一度焼き殺すだけだ!」
地面を蹴り接近したイグレージスが上段からの大振りで剣を振り下ろすと、ライアは半身をずらして紙一重で一閃をかわし続いての斜め上への切り上げを身体をそらしてかわすと、地面に手をついてバク転の形で後ろに下がった。
一度距離を取りクラッチングスタートのように地面に手を付き、一気に地面を蹴ったライアは縮められたバネが弾けるように一気に加速すると全力の拳でイグレージスの頭部に向けて拳を振るう。
「甘いなッ!」
サイドステップでライアの拳をかわしたイグレージスは、グルリとその場で回りライアの真横からの切り下ろしで今度こそ仕留めた、そう思った。
だがライアはそんなことではやられない。
手の突き出された拳を開き、掌に展開された魔法陣から小さな爆発が起こると引き伸ばされた拳の軌道が変わり、グルンと振り下ろされた剣の腹を打ち付け軌道を変える。
「……そんなんじゃ、私は殺れない」
「クソッ、ならばッ!」
大きく弾かれた剣、それにバランスも崩されたこの状況は非常に不味いとイグレージスが剣の形を変えようとしたその時、懐へと潜り込んだライアが叫ぶ。
「……くれえ───爆竜煉獄拳」
闘気と、炎を纏った拳のラッシュが的確にイグレージスの体にダメージを与える。
的確に人体にダメージを与える場所を狙って放たれる拳は、それ一つ一つがまさに必殺の一撃となる。それを途切れることなく渾身の力を込めて放ち続けたライアは最後の一撃を顔面に放つ。
木々を押しのけ吹き飛んでいったイグレージスを見ながら、ライアは大きく息を吐く。
「……はぁ、はぁ………ちょっと疲れたかも」
傷の治癒に加えて闘気と竜力も大幅に使いすぎた。そしてイグレージスの血の爆破を防ぐためにと、最後はガントレットに残っていた魔石の魔力をすべて使ってしまった。
あれでたわけではないので、急いでユフィと合流しなければと考えたと同時に魔眼が発動、それに合わせてイグレージスが吹き飛んだ先から迫りくる針のような触手を手刀で切り落した。
「……意外にしぶとい?」
「貴様に言われたくはないな」
ひらいた場所から現れたイグレージスはネジ曲がってしまった首を戻しながら歩いてくる。
普通、アレで死んでいないのおかしいとツッコミを入れたくなったライアだったが、それを口にするよりも先に襲い来る触手をかわしながら攻撃の一手を探す。
「良くかわす娘だ」
「……あんたは頑丈だね。首折れても死なないって」
「普通なら死んでいる」
やっぱりそうなの?っと心のなかで思ったライアは、未来視の魔眼で背後から来る触手の動きを見ながらかわし、蹴りで触手を斬ると右から回り込むように走り出す。
「逃がすかッ!」
腕を傷つけたイグレージスがライアに向かって血を飛ばすと、血の粒が棘のように鋭く変化するとライアは大袈裟なまでに大きく回避行動を取る。
ライアが避けると同時に血の槍が巨大な爆発を起こす。
「感のいい娘だ!」
「……こんなんじゃ殺れないよ」
「ならば、これでどうだッ!」
遠距離ではライアを殺せないと考えたイグレージスが今度は剣ではなく巨大な血の鎌を創り出す。
来るかとライアが身構えようとしたその時、カンっと乾いた音が二人の間に響いた。
ライアとイグレージスが戦いを中断させ音のした方を見ると、そこにはセファルバーゼと戦っていたはずのクレイアルラがいた。
「……母先生、使徒はいいの?」
「えぇ。任せてきました。変わりなさいライア、あれの相手は私がします」
戦いの場に現れたクレイアルラの宣言を聞いたイグレージスは、可笑しそうに笑い出した。
「お前が俺を倒すか……やってみろクレイアルラ」
「えぇ。やらせていただきます」
そう答えながらクレイアルラは腕輪に嵌め込まれた闇の精霊シェイドの精霊石を取り外すと、懐より新たに別の精霊石を取り出し嵌め込んだ。
「精霊か。やめておけ、下位精霊しか操れぬお前では俺を止められんぞ」
「長老。それはいつのお話でしょうか?私とて、この七十年遊んでいたわけではありませんよ」
掲げられたブレスレットに嵌められた深緑の精霊石、それを見たイグレージスの顔が驚きに彩られる。
「上位精霊の精霊石。契約したというのか!?」
「えぇ大切な家族を守るため私は強くなる、これが私の覚悟です」
クレイアルラが深緑の精霊石に触れる。
「初陣です───大樹に宿りし精霊よ 我が身とともに 精霊憑依 ドライアド」
クレイアルラの声に呼応するように背後より姿を表した深緑の髪の女性が、優しくクレイアルラを抱きしめるとまばゆい光がクレイアルラを包み込んだ。
「───……ッ」
眩しい光に顔を覆ったライアは、光が収まっと時その目に写ったクレイアルラの姿に言葉をなくす。
「……あれが母先生なの?」
光の中から現れたクレイアルラの姿は今まで見てきたどの精霊憑依とも違っていた。
衣装は今までのドレスとは違いノースリーブのテールコートとショートパンツに代わり、両足には木の根のようなもので形作られた重装のグリーブを纏っていた。
髪は金色の髪から薄い黄緑色の髪にかわり、毛先に行くほど色が濃くなっている。首筋から目元のあたりまで蔦の入れ墨のような者が入っていた。
それだけでも驚いているに一番驚いたのが両腕だった。両腕はまるで初めからそうであったかにように二の腕から先が木で作られた手甲で覆われ、見て取れる限り一体化しているようにも取れる。
そして最後に樹皮の手に握られているのは一本の剣だった。
『「成功のようですね」』
ゆっくりと見開かれたその瞳がイグレージスを睨む。
『「これが私の全部です──行きますよイグレージス」』




