試験の終わり
本日二話目の投稿です。
開始の合図と共に始まった試験は、開始より激しい斬り合いを繰り広げながらもスレイが押されていった。
会場の外に設置された観客席で見守っていたユフィは、珍しくスレイが押されている姿を見て何かあったのかと思った。
相手が老人だからといるわけではない、単純にあの老人が強いのだ。
「スレイくんが押されてるの久しぶりに見たかも………あのおじいちゃん何者?」
先程あのおじいさんの事を見たことがあると言っていたヴィヴィアナとアリステラの方を見るが、二人共目の前で繰り広げられる剣戟に終始圧倒されている。
「なんだよあのじいさん、メッチャ強えじゃねぇか!?」
「そ、それと……ご、互角の、スレイも……す、すごい……ね……」
「だよな!おいユフィ、あいつスゲェな!」
「そうだよ~、スレイくんは凄いの……でも、ちょっと変なんだよね」
スレイの戦いを観ていたユフィはいつもと何かが違うような、そんな感想を漏らすと二人が首を傾げながら問いかけて来た。
「なんだよ、おかしいって?」
「しっ、試験官……の、こと……?」
「それもあるんだけどね」
そんな感想を漏らしながら戦いを観戦している。
二人の感想のようにたしかに戦いは凄いのだが、明らかに今までの試験官役の冒険者とは違い強すぎる。試験だからと他の冒険者も手を抜いていたとは言え、それを差し引いても実力は合わせていた。
いったいなぜスレイにだけあんな相手が用意されていただろうか、そんな疑問が頭の中によぎったがそれとは別にもう一つ疑問があった。
「なんだかさ、スレイくんの動きがいつもよりも遅いんだよね」
あれでかと二人が視線を戻しながら呟く。
二人の目からはスレイが不調だとはわからないようだが、ユフィにはなんとなくいつもよりも遅いと感じた。どこがと問いかけられたら、説明ができない。
モヤモヤと胸の中に不快感を残しながら戦いを見守っていると、少し離れたところから聞こえてくる話に耳を傾ける。
「おの老人、かなりの実力者ですね」
「対するあの小僧もかなりの使い手ではあるようだが、押されているな………お主らはこの戦いをどうみる」
「………………あの白髪、対人戦が不得意のようだな。動きが硬すぎる」
「確かにあの人、動きが硬い……っというより少しぎこちない感じがしますね」
なんて会話を横にユフィも確かにと思いながら、そう言えばとユフィが呟いた。
ルクレイツアが旅だってからスレイが誰かと本気で剣を重ねているのを姿を見たことがなかった。たまにユフィの父ゴードンと斧で切り合っていたり、スレイの父フリードと手合わせはしていたがそれ以外の場で対人戦は見た覚えがない。
一応二人以外で、何度か出先で盗賊と戦ったりしていたけど、それでも本気でやりあったことはユフィの記憶の中では皆無だった。
三人の話しを聞きながらスレイの戦いに視線を戻したユフィは、スレイのあの様子を見ながら小さな声で呟いた。
「そっか……あれって、単にスレイくんのブランクのせいかな」
この数年魔物とばかり戦ってきた弊害のようだと納得したユフィは、心配して損したっと呟きながら戦いを見守ることにしたのだった。
⚔⚔⚔
試験が始まってすぐに自分の戦いに違和感を覚えた。
いつもの通り戦っているはずなのに、剣の速度が、ガードのタイミングが、身体の動かし方の何もかもが噛み合っていない。
自分の戦闘スタイルに対する違和感は、自分だけでなく相手をしている老人にまで伝わっているようだ。
踏み込むと同時に斬りつけてくる老人の剣を弾き返すべく緋色の剣を振り抜こうとしたが、スレイが剣を振り抜くよりも速く老人の剣が迫る。
間に合わないと思ったスレイは、老人の剣を打ち払うのではなく受け止めることにした。振り抜こうとした剣を引き戻し、振り抜かれた剣を受け止めたスレイは鍔迫り合いの状態から至近距離で老人と視線がかち合う。
剣を押し返そうとするも老人が力を入れて押し返されないとする。
「くっ!」
ならばと左手に握る魔道銃に魔力を流してを魔法で牽制するべく、魔道銃を握る左腕を持ち上げようとしたが老人がスレイの腕を掴んで止める。
「どうした、動きが悪いようじゃが?」
「心配してくれてありがとうございます。けど、平気ですよッ!」
不敵な笑みを浮かべたスレイは身体の中の闘気と魔力を解放して身体強化を施すと、老人の剣を押し返し体勢が崩れたところを狙って剣を振るった。
身体強化での最速の一閃が放たれようとしたが、地面に倒れようとした老人が拳を握りしめると拳に闘気の輝きが灯る。老人が握り締めた拳に闘気を纏うと地面を殴った。
拳が地面に当たると同時に、拳の当たった衝撃と闘気が地面を割り足元が崩れる。
「うわっ!?」
足元の地面が砕けバランスを崩しかけたスレイは剣を引き戻し後ろへと飛んで剣を構えなおした。
ふぅっと息を吐いて呼吸を整えたスレイは、拘束を逃れるために膨れ上がらせた魔力と闘気と抑えて落ち着かせると、通常の身体強化に戻した。
パンパンッと身体についた土埃を払いながら老人がスレイの前に立った。
「おじいさん、その細身の身体で地面を砕くなんて。凄い闘気だ」
「なに、歳の功というやつじゃ。この歳になると肉体も闘気も衰える一方じゃ」
「衰えてこれって、すごいって言葉じゃ足りないな」
現役時代ならいったいどれほどの実力者だったのだろうと、スレイは目の前の老人の強さに震えていると、老人はスレイのことを見ながら問い掛けた。
「君、対人戦は久しいのかね?」
「……わかりますか」
「動きが多少ぎこちない。頭と身体の動きが噛み合っていないのだろうな」
まったく持ってその通りだったため、スレイは小さく頷いた。
「魔物とばかり戦ってて、あなたみたいに強い人と戦うのは久しぶりですよ」
「こんな老いぼれを強者と呼んでくれるのは嬉しいが、そろそろ終わりにしようかの」
老人の姿が消える。
左右に頭を振ってどちらから来るか気配を探り、そして左からくる老人の気配を感じ振り向くと、老人は体勢を低くし斜め下に構えた剣を振り上げようとする。
老人が剣を振り上げ一閃、それを受けきれないと察したスレイは後ろに下がりながら身体を傾ける。
振り上げられた剣がスレイの髪を掠め、切り払われた髪が数本宙を舞った。
「危なッ!?」
そうスレイがこぼした瞬間、何か来ると直感が囁いた。
振り上げられた剣の刃を返した老人は剣の柄を両手で持ち直すと、天高く掲げられた剣の刃に闘気の輝きが灯る。
これはまともに受けられないと思ったスレイは、両足に闘気を集中的に纏うと力強く地面を蹴って横に飛ぶと、直後に振り下ろされた剣が地面を二つに斬り裂いた。
「ハハハッ、やべぇ」
乾いた笑みを浮かべながらもその口元は引きつっていのがわかる。
かわしたから良いものを、先程から老人の振るう剣から感じる殺気は死を感じさせる。試験だからと甘い考えをしていたら確実に死ぬ、たとえ結界の効果で本当に死にはしないとわかっていてもだ。
地面から剣を抜きここちらに振り返った老人は、スレイの顔を見て意外そうな顔をしながら問い掛けた。
「なんじゃね、少年。ずいぶんと嬉しそうに笑っているじゃないかね?」
「えっ?」
笑っている。
そう老人に言われてスレイは自分の顔を触ってみると、確かに口元に笑みを浮かべて笑っていた。
「あれ、おかしいな。そんなつもりないのに……でも、懐かしい感覚だ」
そう呟いたスレイは武器を構え直し、そして改めて闘気を纏ったその瞬間自分の中でカチリと何かが噛み合うのを感じた。
スレイの表情を見て何かを察した老人が目を細めながら問いかける。
「少年よ、手加減はいらんかね?」
「はい。もう大丈夫です」
「ならば手は抜かん。存分にきなさい!」
「はい!」
地面を蹴って間合いを詰めたスレイの剣と老人の剣が激しく重なり合った。
⚔⚔⚔
スレイの動きが変わった事をその場にいる誰もが感じ取った。
「なんですかあの人、さっきよりも速いですよ!?」
「……………ふむ。どうやら調子が戻ったみたいだな」
「何じゃ、あの小僧、調子が悪かったのか」
などとあの三人組が話しているのを小耳に挟みながら、ようやくスレイの調子が戻ったことにユフィは自慢げに胸を張っていた。
そんなユフィの横でずっと観戦していたヴィヴィアナとアリステラも興奮を隠せない様子で湧き上がった。
「おいおいユフィ!スレイがさっきよりも速いぞ!どうなってんだ!?」
「す、すごい……ほっ、本当に……すごい、よ」
「ふっふぅ~ん!そうでしょ、そうでしょぉ~!スレイくんは凄いんだよ~!」
っと自慢げに答えているユフィだったが、それとは裏腹に心の中では不安に駆り立てられていた。
いくらスレイの調子が戻ったと言っても二人の戦力差は五分と五分といったところだ。未だに魔法や魔道銃を使っていない、あれの使いどころが勝敗を分けるだろう。
「スレイくん……頑張ってね」
ユフィの祈りの言葉は激しい剣の打ち合いの音にかき消され届かない、だけどユフィはスレイの勝利を願って祈るのであった。
⚔⚔⚔
思うように身体が動くようになったスレイは、老人に勝つ方法を模索する。
現状のスレイの力量差を客観的に分析してみると、剣技の力量は五分、闘気による身体強化も五分といった具合だ。こんな状況から勝利する方法はいくつかある。
一つ目は短剣の変わりに老人の剣を防ぎ弾き返すための武器としているこの魔道銃での攻撃。
二つ目は魔法による遠距離からの攻撃。
そして最後に切り札でもある業火の炎を剣に纏わせて戦う方法だが、こちらは本当の最終手段でありスレイもこの試験中においそれと使うつもりはなかった。
業火の炎を宿した剣であれば、老人の闘気を纏ったあの剣を容赦なく斬り伏せることはできるだろうが、それで勝利を収めたところで後味が悪い。
こんなに強い相手と戦ってて勝つなら純粋な技で勝ちにいきたいのだ。
そう考えながら老人の剣を魔道銃で受けたスレイは、老人の剣を押し返しながら後ろに下がらせると剣を脇に抱えるように構えながら一閃、しかし老人は引き戻した剣で受けきった。
スレイの剣を受けながら後ろに下がり距離を取った老人は、今しがたスレイの剣を受けた腕を見ながら笑った。
「調子が良くなって剣の冴えが凄まじいのぉ!」
「ありがとうございます───まだまだ行きますよッ!」
駆けながら剣を引き絞りながら真横へと一閃すると、剣で受けた老人は身体を浮かしていた。そこに向けてスレイは魔道銃の銃口を老人に向ける。
この距離、この体勢ならば避けきれないそう思いながらトリガーを引いた。
低い重低音とともに放たれた三発の銃弾はまっすぐ老人を撃ち抜くべく放たれる。決まった!そう思ったスレイだったが、老人は上半身の動きだけで弾丸をかわしてみせる。
「ウソッ───グッ!?」
驚きの声を上げるスレイの腹部に老人の蹴りが突き刺さりたたらを踏んで後ろに下がった。
「まだまだかの」
「そんなわけ、ないでしょ?」
魔道銃に魔力を流すと弾丸を地面に撃ち込んだ。
何を、そう老人が思ったその時弾丸が撃ち込まれた地面に魔法陣が浮かび上がる。何が来るのかと思い距離を取った老人が身構えると、魔法陣から白い煙が立ち上った。
「くっ、煙幕か」
距離を取り煙幕でスレイの姿を見失った老人が目を閉じて気配を探る。
するとすぐに何かが撃ち出されるような音が連続で鳴り響くと、音を察知した老人が振り変えると同時に飛来した弾丸を斬り裂いた。
弾丸は難なく切り払える。あまりに見慣れない魔道具では有ったが、原理さえわかれば対処することは容易だ。
足音をおい銃弾の発射音を聞き取り弾丸を切り裂さきならが老人はチラリと地面を見る。そこは地面に打ち込まれた弾丸から絶え間なく溢れ出る。
視界を塞がれた状態で戦い続けるのはこちらが不利だと判断した老人は、次に打ち出された弾丸を掻い潜り魔法陣が展開される場所へと移動した。
「シッ!」
闘気を纏った剣で魔法陣が展開される地面を切り裂くと、展開された魔法陣が消えると老人がその場で回転しながら剣をふるった。
剣圧によって空中に広がっていた白煙を散らすと、視線の先でスレイの姿を見つける。
「お遊びはこれで終わじりゃよ!」
「えぇ、そうですね」
ドンッと重苦しい重音が鳴り響き弾丸が撃ち出される。
今更効かぬと言わんばかりに老人が駆け出しながら剣を振るったその時、弾丸を受け止めたはずの剣が弾き飛ばされた。
剣を押し返され目を見開いた老人の顔を見ながらスレイは小さく笑みを浮かべていた。
今スレイが射った弾丸は重力魔法が付与された弾丸で、弾丸自体は先程の白煙を発動した物とまったく同じものだ。
ならばなぜ同じ弾丸で違う魔法が付与されているとかというと、それは弾丸自体に複数の魔法陣を複数刻みつけているからだ。
この弾丸は打ち出す際、銃口に魔力を流して起動するのだが、その際に流す魔力の性質によって発動する魔法を切り替える特殊弾頭だ。
一発の弾丸を作る手間とコストを考えればそれほど多くは作れず、あまり使いたくないのが本音だ。
加えて重力弾は通常弾よりも弾速が遅く、飛距離も半分に下がり次はもう使えないだろうが、それでもこの一瞬の隙を作ることが出来た。
「このまま押し切らせてもらいますよ」
距離を詰め剣を振り抜くと老人は対抗するように剣を振り下ろした。
激しく火花を上げて打ち合った二振りの剣が離れ、引き戻すと同時に二人に剣が再び重なり合った。
スレイと老人の剣が重なっては離れ、激しく打ち合う中でスレイは銃口を向けて弾丸を打ち出すと、老人は身体を倒して弾丸をかわすと真下から剣が迫る。
「───ッ!?」
剣では間に合わないと悟ったスレイは魔道銃の銃身で剣の一閃を受け止めると、続けて老人の蹴りがスレイに当たった。
とっさに腕を掲げてガードしたが蹴りに押されて離れながらも、スレイは魔道銃のトリガーを引いて牽制するが老人の剣が弾丸をすべて斬り落とされる。
「ハァハァ……さすがに、辛いな」
いまのでもダメなのかとスレイが呟きながら魔導獣を構え直す。
剣技で圧倒するのは無理、弾丸も切り裂かれて終る。唯一効いたのは重力弾だが、あれはもう避けられるだろう。
「さて、どうするかな」
剣を構えなおしたスレイは接近した老人の剣を受け止め、そして切り返した。剣と魔道銃を操りながら攻撃を掻い潜るスレイは、どうするかを考える。
剣技もダメ、魔道銃も効かないなら後は魔法だと思ったスレイは魔道銃に魔力を流し込むと、銃口に魔法陣を浮かび上がらせる。
「これならどうだ───ファイア・ボールッ!」
撃ち出された弾丸が炎の弾となって老人を襲うが、老人は冷静に炎の剣を両断すると左右に分かれた炎の弾が地面を焦がした。
「魔法も斬るかよ!?」
「これで終わりかね?」
「まさか」
っとはいえ、魔法もダメだとなると残りはこれくらいかと思いながら魔道銃に視線を落とす。
銃身に雷の魔力を纏わせたスレイはまっすぐ老人に向けたスレイは、これでダメなら業火の炎を使うことを決める。
「行きますよ」
パチパチッとスパークを放った銃身から撃ち出された弾丸はまっすぐ老人に向かって放たれた。
「今更雷を纏った程度で儂を止められるわけなかろうがッ!」
老人が剣を真上から剣を振り下ろし雷撃を纏った弾丸を両断するべく振り下ろすが、その時老人は弾丸を受けた瞬間剣に凄まじい重さが伝わり剣が軋む音が聞こえる。
「ぬぅぉっ!?」
なんだと思いながら剣を握る手に力を込める老人だったが抵抗虚しく剣は弾かれ、弾丸は老人の遥か後方へと飛んでいく。
スレイが射ったのは重力弾と雷撃魔法による簡易レールガンだ。
老人が剣を弾かれたのを見てスレイは前に踏み込んだ。
「もらったッ!」
踏み込むと同時に老人の剣を狙って放たれる。すると老人も剣を引き戻して迎え撃とうとした。
二振りの剣が重なり合った瞬間、甲高い金属音が鳴り響くと同時に空中に何かが飛んでいく。振り抜かれた老人の剣が半ばから折れた。
「くっ!?」
老人は前に踏み込むと同時に半ばから折れた剣でスレイを切りつけようとしたが、それよりも早くスレイが間合いを詰めながら剣を押さえつけ、魔道銃の銃口を老人に押し付ける。
間近で睨み合うスレイと老人だったが、老人は構えを解いて剣をおろした。
「降参じゃ」
老人のその言葉を聞いて審判の声が鳴り響いた。
「──そっ、そこまでッ!」
審判の言葉を聞いて大きく息をはいたスレイはユフィたちのいる観客席を見る。
すると、ユフィが嫌にご機嫌な顔をして口を大きく釣り上げて笑い、ヴィヴィアナたちが唖然として同じところを凝視している。
「なっ、なんだなんだ?」
どうしたのかとスレイが思っているとユフィと目があうと、突然ユフィが口元を押さえながらスレイの後ろを指さした。
「だから、いったいなんなん……だ、よ?」
後ろを振り返ったスレイの目に映ったのは、ギルドの外壁。しかし、その壁には蜘蛛の巣のような大きな罅が刻まれており、その中心には小さな穴が空いており、キラリと何かが輝いた。
スレイは視力を強化してそれをよく見ると、金属の塊……っというより銃弾が埋め込まれている。つまり、あれは自分がやったのかと思っていると、大きく顔が引き使った。
ギギギッと油が切れた機械のようにぎこちない動きで背後を見ると、笑いを堪えるように口元を押さえたユフィがお返しとばかりに大きなプラカードを掲げていた。
そのプラカードにはデカデカとこんなことが書かれていた。
──スレイくんの方が被害大きいじゃん──
っと。
⚔⚔⚔
試験が終わってすぐスレイは自分で壊したギルドの壁を修復すると、試験を監督していたギルド職員に土下座で謝っていた。
「本当に申し訳ありませんでしたッ!!」
「良いですよ。怪我人もいませんでしたし、壁もきちんと直してもらえましたから」
っということで無罪放免となったスレイだったが、ただ一人ユフィだけは違った。
「えぇ~、人に散々あんなこと言ってたのにねぇ~」
「うぐっ」
「盛大にギルドを壊しちゃうなんて、スレイくんもやりますねぇ~」
「ぐぬぬッ」
ぐうの音も出ないとはこのことかと、うなだれるスレイを見ながらユフィは優しく声をかけた。
「でも逆に言えば、それくらいしなければならない相手だったんでしょ?」
「うん……強かった。なにものだったんだろ、あのおじいさん」
「さぁね。でも、やり過ぎなのはいけないから反省してね」
「はい。猛省します」
なんてやり取りをしていると、試験を見守っていたギルド職員がスレイたちを呼びに来たので競技場に戻った。
闘技場に戻るとすでにみんなが整列し遅れてスレイとユフィも並んだ。
全員が揃ったところでギルド職員が前に出た。
「それでは以上で試験を終了させていただきます。今回の試験を考慮いたしまして、依頼の斡旋やパーティーの紹介などをさせていただきますので、何かご相談がありましたら私共にご相談ください。それでは解散!」
ようやく試験が終わり、ギルド職員が退場するとヴィヴィアナが声を上げた。
「よっしゃぁー!終わりだ、終わりッ!おいアリス、飯行こうぜッ!」
「ヴィっ、ヴィーちゃん……まっ、待ってよぉ~」
ヴィヴィアナがアリステラの手を引いて行こうとするが、何を思ったのか突然立ち止まって振り返った。
「おい、せっかくだしお前らも飯行こうぜ!」
っとヴィヴィアナがみんなにも声を掛ける。
「良いですね。ご一緒させて頂きます」
「…………俺も行こう」
「その店に美味い酒はあるか?」
「おう!あるある!」
「ならばゆこう」
さすがはドワーフとスレイが感心していると、金ピカ鎧を身に纏ったミハエルが立ち去ろうとする。
「私は遠慮させてもらうよ」
「はっ、はなっからテメェは誘ってねぇよ!」
立ち去ったミハエルを見送ったスレイはあまり関わり合うことはなさそうだなっと思うのだった。
「スレイとユフィも来るか?」
「うん!行く行くぅ~」
「ボクも行くよ」
「よっしゃ!んじゃ、行くぞお前らッ!」
ヴィヴィアナを先頭に店へと歩き出そうとしたその時、闘技場にギルドの職員が入ってきた。
「スレイ・アルファスタさんはまだいらっしゃいますでしょうか?」
「はい。ボクですけど」
「アルファスタさん。ギルドマスターがお呼びですので、ご一緒におこしください」
なんだろうと思ったスレイにいきなりの呼び出し、アレが原因だろうと思ったスレイは引きつった笑みでみんなの方を見る。
「ちょっと行ってくるね」
「行ってらっしゃい。終わったら連絡してね~」
っというわけでユフィに快く見送られたスレイはギルドマスターと対面することになった。
ギルド職員の後を追ってギルドの一番最上階の部屋にやってきた。
コンコンっとノックをして部屋の奥から返事が返ってきた。
「入りなさい」
「失礼します。アルファスタさんを連れてきました」
ギルド職員の後に続いて部屋に入ったスレイは、部屋の中央に座る老人の姿を見て驚いた。
「やぁ、さっきぶりだじゃな少年」
部屋の中にいたのは先程スレイと戦ったあの老人だった。




