帝国の悪魔と反逆の使徒
突如現れた謎の男、それが振り返ったと同時になにかとてつもなく重い衝撃に襲われたことで意識を暗い闇のそこへと沈めたノクトは、自分を呼ぶ声にゆっくりと意識を覚醒させる。
それと同時にズキリと激しい痛みが体中を駆け抜け、覚醒しきっていなかった意識が再び落ちそうになった。
「うぅ……ぅうっ………わたしは……いったい、どうなって?」
「良かった、生きてたみたいね」
「アリア、ドネさん……わたし、いったい────ッ!アリアドネさん、その腕ッ!」
未だに激しい痛みのせいで意識がはっきりしていなかったノクトだったが、自分のことをずっと呼んでくれていた相手であるアリアドネ、その姿を目にして混濁していた意識が一気に覚醒した。
自分のことを必死になって呼んでいたアリアドネの左腕が、二の腕から先が何かに食いちぎられたかのように失っていた。
それだけではなく、全身にも細かい傷が多数あり何かと戦ったのは明らか、それに今もどこかの民家の影に隠れて息を潜めている。ノクトは自分が倒れていた間にいったい何があったのかをアリアドネに訪ねようとしたが、それよりも先にやらなければならないことがあった。
「アリアドネさん。腕の治療をします。なるべく動かないでください」
「やめておきな。魔法を使えばあいつらに気づかれる。それに傷は焼いて血は止まってるから、そうかんたんに死ぬことはないさ」
あっけからんととしているアリアドネだったが、その顔色は白く血の気を失って今にも倒れそうなほどだ。
腕と一緒にかなりの血を失ったはずだ。
血治癒魔法を使っところで貧血が治るかと言われればそうではないが、きっと今まで守ってくれていたであろうアリアドネのために何かをしたいという気持ちもあったが、先程の忠告もあるのでそれもできそうにない。
ならばとノクトはポーチの中から、小瓶を数本取り出すと一本を自分の手元に残し、残りをすべてアリアドネに向けて差し出した。
「わたしが調合した増血剤と痛み止め、それにポーションと傷口に塗る軟膏です」
「助かるよ」
薬を受け取ったアリアドネが一息に瓶の中身を飲み干し、ふさがった傷口に軟膏を塗っているなかノクトはジッと傷だらけのアリアドネの姿を見ていた。
「何があったか、聞くかい?」
「はい、教えて下さい。わたしに何はあったのか、それにアリアドネさんに何があったのかを」
「わかったよ。まず最初なんだが、ノクト。あんた一回死んだよ」
「はっ───ムグッ!?」
「静かにしなッ!アイツらに見つかっちまうじゃないかい!」
驚きのあまり叫ぼうとしたノクトの口を塞ぎながら、小声で必死にノクトを止めるアリアドネ。念の為瓦礫の隙間から外の様子をうかがい、奴らが来ていないことを確認してからはないし出す。
「驚くのも無理はないが、アタシだって驚いたんだよ。あいつらの一人があんたのことを斬り飛ばしたと思ったのに、慌てて駆けつけてみたら全くの無傷だったんだからね」
そう言われて改めて自分の体を確認してみたノクトは、痛みのあった付近のローブがバッサリと斬られて……などということはなく斬れたようなうっすらとしたあとがあるだけだった。
でもいったいどうして?っという疑問があったが、すぐにこのローブに使われている素材を思い出して合点がいった。
このローブはスレイの作った特製の金属繊維で、魔法使いのノクトのためにと防御面と着心地を追求するために黒竜の鱗と一緒にミスリルを混ぜ込んだ物だ。
そこに常時発動する簡易の防御結界の魔法陣を書き込んだ魔道具でもあった。
なので簡単には斬られはしなかったが、流石に衝撃までも吸収することはできずにノクト自身にダメージが通ったのだと推測した。
「お兄さんのローブがわたしを守ってくれたんですね」
離れていても自分のことを守ってくれたスレイに愛おしい気持ちが溢れ、ギュッとローブの裾を握りしめながら深い感謝の気持ちを送っている。
そんなノクトを横目にアリアドネは話しを続ける。
「そんで、あんたが生きてるのを確認したあと、あいつらと戦ったんだがしてやられちまったよ。やられて吹き飛んだすきに隠れたんだけど、今ん所は見つかってないみたいね」
食いちぎられた腕を触りながらアリアドネが悔しそうにうねる中、ノクトはそのことについて一番聞きたかったので尋ねる。
「あの、その腕はいったいなにがあったんですか」
ノクトの質問に対してアリアドネは答える代わりに外を見るように指を指した。恐る恐る瓦礫の隙間から外の様子を見たノクトは、目に写った化け物の姿に息を呑んだ
「あの男の側にいたあのローブの奴らさ。あんたを襲ったやつを斬ろうとしたら、逆にこっちが食われちまったってわけさ」
「あれ、前に帝国に襲われたときに襲ってきたキメラに似ていますね。じゃああの人が?」
「違うわ。確かにあのキメラ里を襲ったのに似てるが、あいつじゃない。さすがに若すぎるわ」
違うとしてもあの化け物を使役しているということは、エルフの里を襲った者と関わり合いがあるということ、ならばこの場でなんとしても捕獲しなければとノクトが考えると、ふと視界の先に何かが写った。
「あっ、アレって……まさ、か」
小さく息を呑みノクトをみて。
化け物もその足元に転がっている無残に斬り刻まれ貪られたあとのある死体の数々だった。
無残に斬り刻まれ顔の判別することはできなかったが、中には損傷の少ない死体もあり顔の判別ができた。その顔の主は、あのときあの場所にいた人たちの顔があった。
一度は助けることができたかもしれない、そう思った命が無残に散らされた。助けられなかったことに対する激しい後悔と怒りがノクトの中に渦巻くと、その気持ちを察してかアリアドネが残された腕を使い優しくノクトを抱き寄せた。
「悔しいだろうが、我慢しな。アタシだって悔しい……でもね、全員じゃない。何人かはアタシのゲートで逃がせれたんだ」
「はい……はいっ!」
「アイツを倒したら、助けてやろう。間に合わなかったとしても、出来ることをしてやろう。だから、あまり泣くな」
「ぅッ、はい」
悔しくて涙が出てきたノクトはアリアドネの言葉にコクコクと頷きながらもしばらくアリアドネの胸の中で息を殺して泣いている。
アリアドネが優しくその背中をさすりながら外の様子を探っている。
化け物たちは未だに周りを巡回し、それを統率しているらしきあの男は化け物たちが斬り殺した死体を漁っている。
もしもあの化け物たちがここに隠れていることに気がついたら太刀打ちできるかはわからない。何分こちらは手負いの精霊術者と支援魔法使いの二人だ。
数的にも戦ったところで不利なものになるには明らか、戦いの音を聞きつけてフリードたちが帰ってくるのを待つしかないのだ。
その頃フリードとラーレはというと、この帝国の中心部元王城があったと思われる場所にやってきた。
「やっぱ王さんが関わってたなら、研究施設なんかは王宮に作るよなぁ~」
ガラガラっと瓦礫を除けながら話しているラーレは、なに手掛かりはないかと探しているのだがそれに水を指すようにフリードが告げる。
「やる気出してるところ悪いけど、ここにはないと思うよ。研究施設」
「エェッ!?マジかよ!」
「危険な研究するなら王城なんかじゃなくって別んところに施設を作るはずだ。それに、今も実験が続いてるんだとしたら、地下室かあるいは別の場所に研究所があるはずだ」
「なるほどなぁ~。んでもよぉ、スレイもユフィも自分の部屋で色々やってんぜ。ついでにこの前もスレイが実験とか言って部屋黒焦げにしせたし」
「……あぁ~、親としてもすまん」
村にいた頃、スレイとユフィの魔道具や魔法薬の研究は自室で行っていたので、もう少し底らへんは考えるようにとキツくしつけるべきだったかと、今更ながら後悔したフリードだった。
「んで、スレイの父ちゃんはなんで王城跡地を調べてんだよ?」
「施設はないにしても、なんらかの資料は残ってるかと思ってさ。あとは貴金属か金貨なんか出てこないかって」
ガラガラっと瓦礫を漁っていたフリードの側でガタンっと何か重いものが落ちる音が聞こえ、そちらに視線を向けるとラーレが引いた顔をして固まっていた。
「うっへぇ~、スレイの父ちゃんって意外とがめついところあんだな」
「いや、別に俺が欲しいってわけじゃなくてだな、あいつらが生きてくためには金は必要だろ。それにもとはあいつらの金だから、少しでも返してやりてぇんだ」
なんだかこういうところはスレイと似てる、やっぱり親子なのだと思ったラーレはふと思うところがあった。
「なぁ、おれの親父っておれに似てた?」
不意に問いかけられた質問にフリードは驚いてしまった。
「どうしたんだい急に?」
「いや、なんつーか、ちょっと思っちまってさ」
「どうだろうな……あいつに似てるとは思うけど……うん。そういうのは俺よりもスレイに聞いてくれ」
「やっぱ、そうだよな」
聞く相手が違ったとはラーレも思っていたが、なんとなく父ルクレイツアの親友であったフリードなら答えてくれるのではないか、そう考えたのだがやはりフリードにもわからないらしい。
「でもまぁ、血はつながってなくても君はちゃんとあいつの娘だよ」
「なんでわかんだ?」
「だって、目が一緒だ。あいつの不屈の闘志を宿した眼を」
笑いながらフリードがラーレの頭を撫でると、一瞬キョトンッと言う顔をしながらも嬉しそうに笑った。
「あんがとなスレイの父ちゃん」
ニヤッと笑ってみせるラーレに実の娘にもこういうふうに素直になってもらいたいと思っていた。
彼氏ができてからというもの、露骨にミーニャとの会話が減ってきた今日この頃、義理の娘でもいいのでこういう親子のふれあいは大切なのだと、改めて実感させられるフリードだった。
「さて………ラーレちゃん。気付いてるかい?」
「あぁ。なんかやばい気配がいくつかいやがんな」
「それもだがもう一つ」
グルリと視線を空へと向けるフリードに続くように、ラーレも視線を空へと上げる。すると、そこにはフリードとラーレがよく知る人物がいた。
「テメェ、あんときの!」
「殺意の使徒 イブライム………だったか?」
スレイとの因縁深き使徒イブライムがそこにいた。
いったい何が目的でこんな場所にいるのか、警戒とともに腰の剣に手が伸びるフリードとラーレだったが、そんな緊張感も忘れ去るようなイブライムのおちゃらけた口調が響き渡った。
「おやおや、これはこれはお久しぶりでございますね」
「久しぶりなんて間柄じゃねぇよ。ほぼ初対面だな」
睨みつけながら殺気を放つフリードに対し、イヴライムも笑顔で殺気を押し返していた。
「おや怖い怖い、凄まじい殺気ですねぇ」
「そう言うんなら少しは怯めよ───んで、なにしに来やがったんだ?」
「おやおや、忙しない方ですねぇ。まぁ良いでしょう」
常に笑顔を絶やさなかったイブライムが一点した。
その顔から一瞬にして表情が抜け落ちると、背筋が凍るほど恐ろしい殺気を感じたラーレがゾクリと身を震わせる。
「フリード・アルファスタ。あなたの持つアーティファクト。幻竜バハムートとの繋がる剣をよこしなさい」
今回のイブライムの目的を聞いた二人が揃って身構えた。
「なんであれを欲しがる?」
緊張感の流れる空気の中フリードがイブライムに問いかけると、イブライムは表情が抜けた顔に笑みを作り答える。
「決まっているでしょう。我が主を斬るためです」
イブライムを始めとした数柱の使徒が上に謀反を起こしたことはスレイから聞いていた。
人を小馬鹿にしたような態度をとるイブライムだが、今語ったことは嘘には聞こえない。
本当に神を殺すためにこの剣を欲しているのかもしれない。
そう思ったフリードだったが、根拠にたる確証がない。ならばとフリードは話を引き伸ばすことにした。
「あんたのことはうちの息子から聞いたぜ?あんた、前に自分だけの聖剣を作ったそうじゃないか」
「えぇ。造りましたとも」
「だったら何でこいつが必要なんだ?いらねぇんじゃねぇか、そんなすごい剣があるんなら」
「そうですねぇ。確かにあの剣は素晴らしい!あのお方を殺すために生み出した私だけの剣ですからねぇ!」
両手を広げて高笑いを上げるイブライムにフリードが目を細め、ラーレが思わず顔をしかめていると再びイブライムの雰囲気が変わった。
「でもねぇ、それだけじゃ全然足りないんですよ。」
聖剣や魔剣と同等の力を持った神剣、
今の話がどこまで本当でどこまでが嘘なのか、あるいは全てが嘘である可能性も無きにしもあらずといったところか。そんなことを考えているフリードに、ラーレが話しかけてきた。
「なぁ、あいつをどうする気だ?」
「どうもこうも、あいつの言ってる真意を知りたい。すこしでも話を引き伸ばして情報を引き出せたら幸いだな」
「あんな嘘っぽい話、信じるのかよ?」
「嘘とも真実とも断言できないからな」
今の話でも色々わかったことがあるのも事実なので、ラーレはそのままフリードがイブライムから情報を聞き出すというのなら、会話を続けるなら邪魔にならないようにと口を紡ぐことにした。
「おい。いくつか聞かせてもらうが、あんたの目的はなんだ。神とやらを殺して何をしたい?」
「何をする、そうだな───私が神そのものになり変わる。そう答えたら、君はどうする?」
「はっ、ゾッとするね。何かい、あんたは今の神様に成り代わって俺たちを見守ってくれるのかい?」
「それは違います。私の目的はあくまでも神の力そのもの。あなた達下等な人風情がどうなろうが知りません」
神も対外だと思ったが、このイブライムと言うやつもなかなかにぶっ飛んだやつだと思ったフリードは、最後にこれだけは聞いておきたかった。
「最後に一つ聞かせてくれ、剣聖祭の日、ランバートの爺さんを殺ったのお前か?」
「えぇ。そうですよ」
フリードの問いかけにそう答えるイブライム。
ふぅっと大きく息を吐いたフリードは、自分でも驚くほど心の中が落ち着いていると感じた。正直、スレイとユキヤからランバートのことは聞いていたし、誰が殺ったのかもなんとなくだったが分かっていた。
ランバートには二十年も前に師事を受け、少なからず恩を感じていた。その敵がこうして目の前にいるのだから少なからず、黒い感情は芽生えるものかと思ったが、どうやら違ったらしい。
「不思議だな。あんたが爺さんの敵だってわかったのに、全然怒ってねぇわ。逆にすっげぇ冷静になった」
「ほぉ、これはすごいですねぇ」
「スレイの父ちゃん、マジギレってか?」
至って冷静でありながら全身から放たれる凄まじい殺気にイブライムは驚き、近くにいたラーレは身を震わせながら恐怖する。
「これは凄い殺気だ!フリード・アルファスタさん!」
「ふざけるなよ。俺たちの前に現れたんだ。殺り合うつもりならさっさと来いよ」
「これは、あなたから剣さえ奪えればよかったのですが、これもまた一興。良いでしょう。お相手願いますよ」
空虚に向けて手を伸ばしたイブライムの前に魔法陣のような幾何学模様が浮かび上がったかと思うと、その陣の中から以前見た双刃剣が現れ抜き放つと回転させながら構える。
イブライムが武器を取り出したと同時に腰の鉄剣を抜きながらその剣へと闘気を流したフリードは、ラーレに向かってこういった。
「ラーレちゃん。これから使う技しっかり見ときなよ」
「えっ、あっ、おい!」
ラーレの静止の声も聞かずに地面を蹴り空中へと飛んだフリードは、闘気を足場に使いさらに加速するとそれを迎え撃つように双刃剣を握ったイブライムが駆けた。
「そんな剣で私に挑むなど、死にに来ましたか!」
「んなわけあるか!!」
まっすぐ構えられたイブライムの双刃剣、対するフリードは剣を両手で握りしめ大きく後ろへその切っ先を向けた。
「死になさい!」
突き立てるように双刃剣の切っ先を放ったイブライムのいち劇を交わしたフリードは、イブライムの懐へと入ると剣を一閃させる。
「爺さんへの手向けだ───絶技・神凪」
フリードの剣が振るわれた瞬間、イブライムの身体がぶれたかと思うと一拍の間をおいて凄まじい衝撃と斬撃が襲った。
「グハッ、斬撃が、遅れ……った、だと!?」
自分の身になにが起こったことがわからないらしいイブライムは、バラバラに切り刻まれ消えようとしている自身の身体を見ながら悔しそうに歯を噛み締めている。
「遅れたわぇじゃない。お前が殺したランバートの爺さんの"断界"、あれをさらに突き詰め空間を切り裂く一刀をより鋭く、より強力に収束させたことで、斬ったことを身体が認識するまでのラグが生まれたんだ」
「つ……まり、気づかぬ間に……斬られ……たと」
「そういうわけだな」
フリードの言葉を聞きながら光の粒となって消えていくイブライム。その消滅を見送ったフリードはゆっくりとラーレの側まで降りていくと、下で見守っていたラーレが駆け寄ってくる。
「スゲェスゲェ!スレイの父ちゃん、あんなのまで出来たんだな!」
ひとしきりフリードに称賛の言葉を送ったラーレは、ふと消え去ったイブライムの方を見ながらこんなことを呟いた。
「なんか、呆気ない最後だったな」
「そうだな……っと言いたいが、まだ終わってないな」
「ハッ?どういうことだよ」
唐突なフリードの言葉にラーレが質問を返すが、帰ってきた答えはラーレの欲するものではなかった。
「おい。下手な芝居早めて出てきたらどうだ?」
空虚に向けて叫ぶフリード、さすがに何をしているのかとラーレが思っていると突如声が帰ってきた。
「おやおや、バレてましたか」
そうして現れたのは先程、確かにフリードによって斬られたはずのイブライムそのものだった。
死んだと思ったイブライムが現れたことで腰の曲刀を抜こうとしたラーレだっがが、フリードが柄頭を抑えて剣を抜くのを止める。
「なんで止めんだよ!」
「やめときな。どうやら最初っから戦うつもりもねぇみてぇだ」
「おやおや、私のことをよくおわかりで」
「わかりたくねぇけどな………んで、どうする。と俺の剣がほしいんだろ?」
挑発するつもりでポーチの中から"暴龍の剣"の柄を取り出してイブライムに見せると、なにやら困った顔をしながらうねった。
「そうなんですよねぇ~、まぁでもアーティファクトはとても魅力的ではありますが、やっぱりやめておきましょうかねぇ」
「おや、どうしてだ」
「そちらの剣、選ばれなれば担い手を喰らうのでしょう?」
剣が担い手を喰らう、そんなことがあるのかとフリードの方を見ると、それを肯定するかのようにうなずいてみせた。
「別に死にゃしねぇが、数分意識を持ってかれるだけだ──試すかい?」
「私もまだ、死にたくはないので諦めました。それに、ここでのようは済みましたので」
なにか聞き捨てならない言葉を聞いたような気がしたフリードとラーレだったが、それよりも先にイブライムが立ち去ろうとする。
「その力は後ほど頂かせていただきます。そういうわけで、さようならぁ~」
ヒラヒラと手を降って消えていったイブライムを見送ると、ガシガシと頭をかきむしりドシッと地面に座り込んだフリードは、別の大陸にいる息子に向けて呟いた。
「おいスレイ。お前の戦ってたやつ、聞いてた以上に癖ものみてぇだな」
帰ったらどうやってスレイに説明するか、それを考えていたフリードは帰ったら考えるかと思っていると、なにか遠くから嫌な気配が感じる。
「急で悪いんだがラーレちゃん、一度戻るぞ」
「えっ、どうしてだ?」
「なんかノクトちゃんたちのところから不吉な気配を感じるんだよね」
そう言われたラーレもそちらの方へと気配を探るとたしかに不穏な気配があった。
「こりゃ、急いだほうがいいよな」
「あぁ。行くよ!」
先を走るフリードとその後をおうラーレは、この先に待つノクトたちの安否を思いながら駆けるのであった。




