試験の開始
ブクマ登録ありがとうございます。
昨日お知らせした通り、連続投稿です。この後十二時にもう一話投稿します。
スレイたちが観客席に移動すると、修練場の周りに杖をもった魔法使いが円形に囲った。
魔法使いたちが杖を掲げると地面に魔法陣が展開され、小さな光の幕のようなものが形成された。
⚔⚔⚔
試験が始まりスレイとユフィは、これから始まろうとしている試験をジックリと見ようとしていた。
正直な話し、二人は今まで自分と同じ歳くらいの冒険者の実力が全くわからなかった。なのでこれから始まる試験で、しっかりと確認することにした。
「それでは一人目、アリステラさんこちらへ」
「は、はい……」
試験の最初は、白髪の魔法使いの少女だった。
名前を呼ばれた少女は、少しおどおどしながら試験を行う競技場の中央へと歩いていく。
「あの子、大丈夫かな?」
「ボクにはなんとも、ユフィはどう思うんだい。同じ魔法使いとして?」
「うぅ~ん。さすがに分からないかな~」
そんな話をしながらこれから少女の戦いぶりを静観しようとしていると、近くに座っていたダガーの少女が二人に話しかけてきた。
「アイツは強いぜ」
ダガー使いの少女に話しかけられて少しビックリした。
「えっと、あの子と知り合いなんですか?」
「おう!アタシの幼なじみさ」
だからかとスレイは納得した。
先程の会話から知り合いなのだろうとは予想していたが、まさか幼馴染だとは思わなかった。
「そうなんだ。私はユフィよろしくね」
「アタシはヴィヴィアナ、ヴィーって呼んでくれ。んで、そっちのは?」
「スレイです、よろしくお願いします」
「硬えな。もっと砕けていいぜ」
「わかった。君がいいならそうさせてもらうよ」
「おう。よろしくな、っとお前ら始まるみたいだぞ?」
そう言われてスレイとユフィはヴィヴィアナと同じように、中央で向かい合うアリステラと先輩冒険者のことを見る。
アリステラの相手の冒険者はショートソードと小型の盾を持っている軽戦士のようだ。
魔法使いと戦士、一対一で戦うとしたら相性はかなり最悪だが大丈夫だろうか。
「ちゃんと見てろよ、あいつの戦い」
ヴィヴィアナの自身に満ちた目を見てその言葉を信じ、見守ることにした。
用意が出来た二人の側に審判役のギルド職員が立つと、そっと手を真上に挙げた。
「それでは──始めッ!」
審判役の職員が勢いよく手を振り下ろした。
軽戦士の男は盾を正面に構えながら地面を蹴った。
魔法使い相手に距離をとって戦うのは得策ではない、距離を詰め魔法が撃たれるよりも早く攻めようとしたのだろう。しかしアリステラの方が早かった。
軽戦士がアリステラの近づこうとした瞬間、踏み込んだ足がなにかにとられて足を滑らしたかと思うと、今度は一瞬にして地面が凍てつく。
足元から現れた氷が現れ軽戦士の身体を凍らせて捕縛した。
これでは続行が不可能だと判断した審判は手をあげた。
「そこまで!」
審判が声を上げ試合の終了した。
開始から一瞬で決まった試合を見てスレイとシエルはアリステラの使った戦法の分析を始めた。
「今あの子が使ったの水魔法だよね。魔法陣が見えなかったな」
「うん、でもあの子は魔力返還だけで戦ってたみたい」
「そうか、杖を通じて地面に水の魔力を流して、それをそのまま氷の変換したってわけか」
「魔法陣を使わずに戦うなんてすごいね~」
魔法陣を使わずに魔力操作だけでやってのけたことの賞賛の声を上げる。
二人ともアリステラがやったことと同じ事をすることはできるが、それを実戦で行えるかと言われれば同じレベルで出来る自信はあまりなかった。
「へへぇ~、スゲェだろアイツ」
「えぇ、ホントにすごいよ」
ヴィヴィアナはアリステラの勝利をまるでから自分のことのように喜んでいた。そんな彼女の姿を見て、二人の仲の良さがうかがる。
スレイとユフィが笑みを浮かべていると、試験を終えたアリステラが合流した。
「ヴィ、ヴィーちゃん……た、ただいま」
「アリス!試合、良かったぜ」
「あっ、ありが……とう………とっ、ところで……そっ、その人たちは……?」
「そうだった。こいつらスレイとユフィってんだ。さっきダチになった」
そう言うとヴィヴィアナは隣に座っていたスレイの背中をバンバンと叩いた。
女の子の力であっても勢いよく振り下ろされたヴィヴィアナの張り手は痛く、スレイが口許をひきつらせている。
「次、ヴィヴィアナさん。前にっ!」
「おっ。次はアタシか。ちょっくら行ってくるわ」
そう言うとヴィヴィアナはスレイと叩くのをやめ中央へと向かっていった。
「スレイくん、大丈夫?」
「あ、あぁ」
ヴィヴィアナに叩かれたスレイの背中を優しくさすっているユフィ、そんな二人にアリステラが声を描けた。
「あ、あの……アリステラ、です……アリスって、呼んでください」
「スレイです。こちらこそよろしく」
「私はユフィ、ねぇアリスちゃん、さっきのどうやったのか教えて?」
「え、あ……はい……い、いいですよ……」
直ぐに打ち解けたユフィとアリスは、同じ魔法使いとして話があったのか魔法談義に花を咲かせた。
「二人とも……ヴィーの試験始まるけど、見なくていいのかな?」
魔法談話に話を咲かしている二人の魔法使いを尻目に、スレイは中央で始まっているヴィヴィアナの試験を見ていた。
本当は二人の話も気になったが、見ておかないと後で恐ろしいことになりそうなので試験を見ることにした。
ヴィヴィアナの試験官は魔法使いのよう。
見た目通り素早い動きをするヴィヴィアナの動きを阻害するため、バインド系の魔法で拘束しようとした。さらに近づけさせないために複数の魔法を使っていた。
「へっ、こんくらいアリスに鍛えられてんだ!関係ねぇな!」
そんなヴィヴィアナの声がスレイたちのもとにまで響いたが、ユフィとアリステラは話しに夢中で気づいてはいなかった。
試験官の魔法使いが氷の槍を放つと、今まで逃げていたヴィヴィアナが真っ直ぐ走り出す。
全身に闘気を纏ったヴィヴィアナは向かってくる氷の槍を踏み抜き真上に飛ぶと、空中で数回転しながら落下の勢いに任せ、上空から魔法使いを斬った。
決まったかと思ったが魔法使いが咄嗟にシールドを張っったらしく、パリンッとガラスの破れるような音が鳴り響く。
シールドが割れ次が展開されるよりも早く前へと出たヴィヴィアナのダガーが魔法使いの首先に当てられた。
「──そこまでッ!」
審判の声を聞いてヴィヴィアナが止まると、相手を倒したことを喜びガッツポーズを取る。
だがそんな彼女の幼なじみはユフィとの話に夢中になり全く見ていなかった。
⚔⚔⚔
「たくよぉ!話に夢中になって視てないなんて、アリスのバカ!」
「ご、ごめんね……ヴィーちゃん」
自分の試合を視ていなかったアリステラに対して、膨れているヴィヴィアナ、見た目が小柄なせいでそのしぐさから小さな子供のようにしか見えない。
ちなみにこの二人、今年で十七らしくスレイとユフィよりも年は上なのだが、どう見てもヴィヴィアナの方が下に見えてしまうがそれは黙っておく。
「いつまでも膨れてないで、もう決着がつきそうだよ?」
ユフィがそういう視線の先には盾持ちの少年が大きな戦斧の試験官との戦っていた。
少年の名前はアーロン、彼は身の丈ほどの盾を自在に操り試験官の攻撃を凌いでいる。
「アイツ、中々やるな。さすがはアタシのことを止めようとしただけはある」
「でも攻めもしてないよね?どうなのスレイくん」
「いや、あの子、ちょくちょくカウンターを狙ってるポイな」
スレイに言われてユフィもアーロンの動きを見ていると、確かに攻撃を受け止めながら隙をうかがっているようにも見えた。
「だが、相手が悪かったな」
「あぁ」
スレイとヴィヴィアナがそう呟くと同時に審判が手をあげる。
「──そこまで!」
タイムアップだった。
相手は一撃一撃が重く、それでいてアーロンに弾かれないように連激で押していた。
少し落ち込んだようすで戻ってくるアーロンは、座っていた場所にまで戻ると直ぐにドワーフがやって来て慰めだした。
ちなみにアーロンですでに五人目で、三番目はドワーフの戦鎚使いで名前はパックス、彼は魔法使いが相手となり集中砲火を受けて敗北、四番目はガントレッド使いで名前はベネディクト、相手は同じガントレッド使いの武闘家で、激闘の末に勝利した。
そして次の試験なのだが、
「えぇっと、ミハエルさんこちらへ」
名前が呼ばれるとスレイとユフィ、ついでにアリステラとヴィヴィアナが金色の鎧のイケメン改めミハエルに視線を向けた。
「ふっ、私の番か」
「けっ」
いちいちキザったらしく前髪を後ろになびかせると、ヴィヴィアナは不機嫌な顔をした。
「ヴィーちゃん、ああいうの苦手そうだよね」
「逆に聞くがユフィはどう思うんだ、あれ?」
「私はスレイくん一筋だから」
「けっ」
ヴィヴィアナに聞かれたユフィは隣に座るスレイの腕にしがみついた。
それを見て不機嫌になるヴィヴィアナとは反対に、スレイはうれしいやら恥ずかしいやらで視線を中央に向ける。
「二人とも、ちゃんと見なよ?あいつまた何か言ってるよ」
スレイがチカチカと光る鎧を鬱陶しそうにしながら見ている。どうやら相手はヴィヴィアナ並みの軽装で、どちらかと言うとアサシンのような女性だ。
目で何かを言っているのは見えたが、それが何を言っているのかは分からない。
「え、えっと……あ、貴女のような……じょ、女性に戦いは似合わない……かな……?」
突然アリステラが目を細目ながら話し出したのを見て、いったい何を?と思ったが、すぐにアリステラが語っている言葉が、中央にいるミハエルの今言ったことだとわかった。
「アリスちゃん、それって読唇術?」
「う、うん……そ、そう……」
「すごいね、アリスちゃん」
「そ、そうかな……?……え、えへへ……」
ユフィに誉められたアリステラが帽子を目深く被ってうつむいた。
「こいつ照れやがった」
「~~~~~~~~ッ!!」
怒ったのかポカポカとヴィヴィアナを叩き始めた。この光景を見ているとなぜだか、幼馴染みと言うよりも仲のいい姉妹のようにしか見えなくなってきた。
「おいおい、いい加減に───あっ」
二人のことを注意しようとしたスレイだったが、視界の端であることが起きたので声をあげる。
「うん?」
「おぉ!」
「あっ……あれ……?」
スレイの言葉に全員がそちらを見ると、ミハエルが首を切られ血を流しながら倒れていた。
そんなミハエルに向けてさらに攻撃をしかけようとしておる冒険者の女性を、控えていた冒険者たちが押さえ込み、審判が他の冒険者にタンカーを持ってこいと叫んでいた。
「………あの人も切れてたんだね」
「………そうみたいだね」
首を切られたミハエルはそのまま外に出され傷は塞がったが、それでもあの中では死んだのと代わりないほどの痛みを受けていたので、そのまま意識を失い医務室連れ出されていった。
運ばれていくミハエルを見ながら、決定的な場面を見逃してしまっていたユフィが、試験をしっかり見ていたスレイに訪ねる。
「さっき、どうなったの?」
「背後に回ってナイフで首をカッ切って終わり」
「いったい何て言って怒らせたのかな」
「さぁね、ってかユフィの番みたいだよ」
スレイは前の闘技場を指をさすと、審判がユフィの名前を読んでいた。
「あっ、ホントだ。ちょっといってくるね」
「やり過ぎないでよ」
「分かってるよ~」
「大丈夫かな?」
やり過ぎて闘技場全壊にならないことを願うスレイは、どうせユフィが早々に終わらせるだろうと思い、剣や短剣のチェックし、ついでに魔道銃のマガジンを変えていた。
試験の準備をしているスレイにヴィヴィアナが話しかけた。
「おいスレイ、ユフィって強いのか?」
「ん~、強いよ」
「どっ……どれ、くらい……?」
「見てればわかるって」
そう言いながらホルスターから魔道銃を抜き出し、残りの銃弾を確認し足りない弾を補充してからホルスターに戻そうとしたところ、魔道銃を初めて見たらしいヴィヴィアナが好奇な目を向けた。
「なんだそりゃ?」
「ボクの武器」
空間収納の中から予備のマガジンを取り出し、腰のポーチにマガジンを二本仕込んでおく。
準備を終え中央を見ると、ユフィがシェルを使い相手のことを滅多うちにしていた。
⚔⚔⚔
闘技場の中央に立った私は空間魔法の中から、アタックシェルとガードシェルを取り出した。
「準備はいいですか?」
「はい」
私は長杖を右手で構えて空いている左手には二種類のシェルを転がしながら、私は目の前の相手を見る。片手スレイくんのと同じくらいの剣、それにスモールシールドか……私に魔法を撃たせないようにするかもね。
私はまっすぐ構えられたシールドに注意を向けておくことにした。
「では───始めっ!」
案の定相手は私に向かってきた。
予想通り!それなら私だって!
「起動!」
私は二種類のシェルを起動と同時に投げ捨てて、シールドで攻撃を受け止めた私は連続で斬りかかってきた所に、シールドを解いてからシェルのシールドにすり替える。
「──リフレクション!」
「ウグッ!?」
剣が当たる瞬間に私はシェルに新しく付与したリフレクションを起動させ、剣を弾き次に試験官を取り囲むように配置していたシェルに魔力を流す。
「──ミストプラズマ!」
シェルと杖から二種類の魔方陣が現れ、霧とスパークが試験官を襲った。
少しの間大気を震わすほど大きな落雷の音が響いたけど、少し経って霧を消すと試験官の人がプスプスと煙をあげて倒れた。
私も近くに居たけど雷の魔力を纏っていたから平気だったよ?
大出力の雷撃を見た審判の人が、驚いて口がポカンと空いていた。
「そ、そこまで!」
少し遅れて終わりを言ったけど、なんだろう?審判の人の顔がちょっと引いてるけど、どうしたんだろ?
そう思ってスレイくんの方を見ると、少し大きなプラカにデカデカとやり過ぎだ!って書かれてた。
⚔⚔⚔
ユフィが観客席に戻ると、スレイが注意した。
「全く、地面黒こげじゃん」
「ごめんね」
「保護の術式があったからいいけど、なかったら完璧に死んでたよあの人?」
「本当にごめんなさい」
少しの間ユフィをしかったスレイは、名前を呼ばれたので向かうことにした。残されたユフィは
──うぅ~ん、やっぱりやり過ぎちゃったかぁ~
スレイに怒られて少し落ち込んでいた。
「おいユフィ!オマエ、スゲェな!」
「う、うん……!と、とっても、凄かった……!」
「ありがとぉ~、でも、スレイくんに怒られちゃったけど……」
「あぁ~ましゃーねーな」
ヴィヴィアナの一言に再び落ち込むユフィ。
「ま、まぁ……いいじゃねぇか。っとスレイの奴、始まるみてぇだぞ」
「ホントだ」
ユフィがスレイの方を見ると何かやっているのが見え、そして空間収納から何か取り出していた。
「なにやってるんだろ?」
ユフィは相手の方を見ると、少し白髪混じりのおじいさんが相手のようだったが、どうもその佇まいからただならぬ雰囲気を感じた。
「あっ……あれ……?」
「あのじいさんどっかで見たな」
「ホント?」
「うぅ~ん……思い出せん。アリスはわかるか?」
ヴィヴィアナがアリステラに訪ねるとフルフルと首を横に降った。
それを見たユフィは、スレイなら大丈夫だと信じた。
⚔⚔⚔
老人と対面したスレイは、老人の発する気が今までの試験官の比でないことに気がついた。
「なんじゃね少年、その顔は?」
「いえ、相当な手練れですね」
「なに、ただの老いぼれじゃがの、所でもう初めてもよいかね」
「うぅ~んと、申し上げにくいんですが少し待っててもらってもいいですか?」
「構わんよ」
スレイは胸のホルスターから銃を抜いて、マガジンを取り外すと別のマガジンを空間収納から取り出した。
「ホォ~、珍しい物を使うの」
「えぇ、幼なじみと作った物です。先に言っておきますが差し上げれませんよ」
「そう言うつもりで言っておらんわい」
スレイは話ながらポーチの中に入れてあった予備のマガジンをしまい別のマガジンと取り替える。
準備を終えたスレイは左手に魔道銃を握ったまま、鞘から抜いた剣を右手に握った。
「すみません。お待たせしました」
「構わんよ。それでは、初めてもらおうか」
「は、はい!」
どうも先程から審判の反応がおかしいと思ったスレイだが、気にしないで銃を真っ直ぐ構え右の剣を腰の位置で構え、老人は真っ直ぐ中段の位置で剣を構えた。
「おっと、そうじゃ、悪いがの少年、制限時間は無しでもいいかね」
「え、えぇ。構いませんよ」
「なら、そうしてもらえんか?」
「はっ、はい!わかりました!」
審判が手をあげた。
「それでは──始め!」
審判が手を振り下ろすと同時に、スレイは魔力と闘気で身体を強化し前に構えた銃を打ち出した。
⚔⚔⚔
もぉー!あのじいさん何であんなことするのよッ!
わたしは今まで大人しくしていたギルマスが、いきなり、昔の血が騒いだ、何て言っていきなり剣を持ってきて試験に参加したことに焦っていた。
参加するなんてぇえ!!しかも後で呼ぶあの子と戦うなんてホントなに考えてんのよ!あのジジィ!!
焦っていた、というよりも怒っていた。
これ、後でなにも言われないよね?大丈夫だよね?
いろいろと考えて痛くなったお腹を押さえて、わたしは大きなため息をついた。