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エルフの隠れ里へ

 すべての種族とともに神との決戦に望むにあたり、戦いへの協力の要請とアーティファクトの解析のためにエルフの里へと向かうことになった。


 メンバーは、エルフの里出身のクレイアルラと、エルフの里と聞いて真っ先に名乗りを上げたユフィと、エルフの魔法に興味があるノクト、前衛組としてライアとラーレに加えて、今更ながらクレイアルラのご両親に挨拶に向かうフリードの系六人プラス神結晶状態のアストライエとなった。


 ⚔⚔⚔


 ユフィたちがエルフの隠れ里を目指して旅立ってからすでに半月が経っていた。

 ここは北方大陸の中央に存在する迷いの森と呼ばれるこの場所は、昔から不吉な噂があった。

 それは、昔からこの森では何人もの人が消えては、数日あるいは数年後に戻ってきたり、全く別の大陸で見つかったり、そのまま姿を消したり………故にこの森は呪われているのではないか。

 これはユフィたちが入る前に立ち寄った村の老婆から聞いた話なのだが、なんでも消えてから数日後にふらりと帰ってきたと思ったら、突如なにもないところで花や蝶の幻影が見えるようになったという。

 その話を聞いたユフィたちは流石にこれからその森に入るというのに、怖気づきそうになったが真相を知っているクレイアルラがこっそりと耳打ちした。


「多分ですが、その者が見ていたのは微精霊、いわば下位精霊よりも更に下の生まれたばかりの精霊でしょうね」

「そんなん普通の人間に視えるもんなのか?」

「通常は見えませんが里で精霊と契約して目をもらったのかもしれませんね」

「目?」

「精霊眼っと呼ばれる特殊な目で、魔眼とは違い精霊が人に与える目です」


 今まで聞いたことがない言葉にユフィの目がキランっと光った。

 なんで今まで教えてくれなかったのか、こんなにも心躍るようなワードを知らなかったなんって!っという顔をしているユフィさん。

それに対してクレイアルラは迂闊だったかっと苦い表情をしていたが……


「詳しい話は長くなるので帰ってからしましょう」

「えぇ!?そんな殺生な!ちょっとくらい、いいじゃないですか先生!」


 っとやり過ごしてみたクレイアルラだったが、そこから半月もかけても未だに里に帰れずにいるのであった。

 当初の予定ではすでに里への入り口である"妖精の抜け穴"を見つけて、エルフの里についている頃だったが思いの外その間全くめぼしい成果を得られることなく、ただただ日にちだけが過ぎていった。


 日もたっぷりと暮れた森の中、薪の火を囲いながらいたたまれない気持ちになっていたクレイアルラは、ここに来てみんなに謝罪の言葉を告げた。


「申し訳ありません。どうやら無駄足になってしまったようです」

「あっ、やっぱそうなのか?」

「えぇ。当初の計算では七日程度はかかると思っていたのですが、ここまで見つからないとすると道が移動したかあるいは里の方で道を閉ざしているか」

「エルフの魔法ってそんなこともできるんですか?」


 初出しの情報にノクトが食いつきを見せる中、クレイアルらは小さくうなずいてから話し出す。


「道は、古代のエルフたちが同族を守護するために作り出した魔法です。そのため里のエルフたちの意志一つで開くことも閉ざすこともできます」

「ってことは、里に何らかの事情があって開けなくなった可能性があるってことか?」

「かもしれませんね」


 そうなると困ったことになった。

 ここはダメ押しになにか手はないのかを聞いてみることにした。


「あまり言いたくはないことですが、精霊樹はエルフの還る樹。つまりエルフの墓地のようなものなのです」


墓場と聞いてフリードが訝しむなか、クレイアルラはユフィに問いかける。


「ユフィ、ハイ・エルフについては以前教えましたね?」

「はい。ハイ・エルフの祖先はは森より生まれたと言われており、別名森の妖精とも呼ばれています。見た目は普通のエルフと同じですが、その髪の色はとても鮮やかでいて深い緑色をしており、通常のエルフ種よりも寿命が長く、永遠にも近い時を生きる種族です」


 流石はエルフ好きのユフィ、クレイアルラが教えていたこと以上の回答が帰ってっきたことにも平然としながら話に付け加える。


「そのとおりです。そしてハイ・エルフはその死後生まれ落ちたを森へと還り森の一部となります」

「……ん。どういう意味?」

「そのままの意味です。人や私にようなエルフとは違い。ハイ・エルフは死した後自身の体を木へと変える。つまり文字通りの森になる」

「なるほど、だから墓場か」

「えぇ。そして精霊樹はかつて争いによって死した者たちの亡骸が合さり出来た大樹でもあります」


 そう言われて思わずユフィたちは自分たちを覆い隠すように並び立っている木々に目を向けた。

 もしかしたらこの木々の一本一本がハイ・エルフたちの亡骸で、自分たちが今焚き木として使っている枯れ木もその一部だったのかもしれないと思うと、なんとも言えない申し訳無さを味わってしまった。


「言っておきますが、ここの木々は自然の物ですよ」

「そうなのか。ってか見分けつくもんなのか?」

「えぇ。エルフの目にはですが」

「てことはラーレちゃんも見えるのか?」

「あ?オレ?」


 話を振られたラーレは小首をかしげている。


「ラーレは見た目がダーク・エルフなだけで、エルフ族の血はかなり薄まっていますから見えはしないかもしれなせんね」

「何だつまんねぇ~」

「ですが、見えなくていいものと言うのはあるものです」


 一瞬だったがなんだか悲しい表情を取ったクレイアルラ、それに気づいたユフィとフリードはその理由が気になった。


「先生。昔なにかあったんですか?」

「……エルフにはハイ・エルフの眠る樹が見分けられると言いましたが、実際にはその樹に宿るハイ・エルフの魂を見ることが出来るのです」

「それって、お兄さんの魔眼みたいにってことですか?」

「似てはいますが人によって程度が変わります。ボンヤリと樹の周りに光が見える者もいれば、限りなく生前の姿に近しい姿を見る者……そして、私のように死者の声を聞け触れられるように錯覚するほど強く感じることのできる者も」


 その一言で全員の表情が強張った。

 死んだはずの人物が目の前にいるだけでなく、触れられた。そう錯覚するほどに感じ取れてしまう特異体質、だからクレイアルラは精霊樹の話をしたときに言い淀んだのかと察した。

 戦死した者たちの亡骸によって生まれた大樹、つまりそこには大量の怨讐の念が集まっている。

 ならばそのものたちの魂に中には生者への怨みを抱いているものも居るのかもしれない。そんな亡霊がいたのならば………そう考えたフリードはすぐにクレイアルラの方へと向き直った。


「なぁルラ、辛いのなら別の手を考えよう」

「いいえ。この案でいきましょう。現状でこれ以上の最適解はありえません」

「だけど!お前がつらくなるだけじゃないか!」

「平気です。それとも、あなたが折れるまであなたの恥ずかしい思い出話を皆に言いふらしてもいいですよ?」

「げっ!?ちょっ───」


 これはマズイと思ったフリードがクレイアルラを止めようとするが、クスクスと笑っているのを見て冗談だということに気付き安堵の息をつく。


「今のは冗談ですましたが、次はありませんのであしからず」

「わかった。わかったから……ただし、危険だと思ったらすぐに止めるぞ?」

「えぇ。おまかせします」


 こうして話し合いは終わった。


 次の日、予定通りクレイアルラのゲートを使い精霊樹の付近にある観光地へとやってきたユフィたちは、まだかなり離れているにも関わらず見上げるほど天高く延びる大樹を見上げていた。


「うわぁ~でっけぇ~」

「ホント大きいねぇ~」


 素直な感想を述べているユフィとラーレ、ちなみに二人以外も天を突き抜けるほど大きな大樹を見上げながら同じような感想を思っていたりする。


「しっかし始めてきたが、流石は有名な精霊樹が見えるってだけで発展した街フェエリーズ・ルーチェ。色んなところに精霊樹の名を関した店が立ち並んでら」

「そうですね。私もあちらから出たときに一度しか来ませんでしたが、それでもどこか以前よりも賑わっているように感じます」

「……ちなみにそれって何年前?」

「私が百を超える前でしたから六十年は経っていないかと」


 見た目はユフィたちとそう変わらないクレイアルラだがエルフは見た目が若いので忘れがちになるが、これでこの場にいる誰よりも歳上なのだ。


「ところで先生。なんでこの街によったんですか?」

「確かに、一気にいきゃあ良かったじゃねぇか」

「あの場所はエルフ族にとっては神聖な場所ですので、同族以外は無闇に立ち寄れないよう結界が貼られているのです」

「それでは、わたしたちはどうやって中に?」

「あちらからゲートを開き招きますので、先程の場所で待機していてください。では、後ほど」


 つかつかと歩き始めるクレイアルラの背中を見送ったユフィたちは、昨日の話が心配で後を追おうかとも思ったが意外にもフリードによって止められた。


「止めときな。あいつが自分で乗り越えるって言ったんだ。やらせてやれよ」

「でっ、でもおじさん!」

「いいから、ルラだって愛弟子に無様な姿は見せたくないんだよ」


 諭すようなフリードの言葉を聞きながらユフィたちは納得した表情で聞いていると、最後にフリードがこう付け加えた。


「それにキッと何事もなかったかのようにすました顔で出迎えるはずだから、そんときは何も言わずに察してやりな」


 ただ静かにそう語るフリードだったが内心ではこれ以上ないくらい心配している。だが、クレイアルラからするとそんな心配自体が無用だと言われるかもしれないが、それでもフリードは心配せざるを得なかった。

 なぜなら長い時間をともに過ごしたクレイアルラが恐怖する精霊樹、そこに向かうのだから何事もなければっとフリードは心の中で祈るのであった。



 フリードたちの元を離れしばらくして精霊樹が見下ろせる場所にまで来たクレイアルラは、改めて忌まわしい記憶を思い出していた。

 クレイアルラは幼き頃よりこの大樹が嫌いだった。

 初めて両親とともに里の外に出たクレイアルラは、エルフ族が神木と崇め奉る精霊樹、それを初めて目にしたとき自身たちの首を絞め、生者に対する恨み言を投げかけ続ける無数のハイ・エルフたちの亡霊の姿に、幼いクレイアルラは涙を流し恐怖した。

 幼きトラウマを思い返しながらゆっくりと進んでくクレイアルラ、するとまるで待っていたと言わんばかりに亡霊たちが集まってきた。


『怨メシイ……ナゼ、オマエノヨウナ者ガ』

『身体……生キタ生身ノ肉体!』

『欲シイ……ヨコセ!!』


 亡霊たちがクレイアルラの首を絞め、覗き込み腕を掴んだ。

 触れられていないはずなのに後も強く感じる。それほどまでに強い恨みを持った亡霊たち、怖くないわけがない………だけど今のクレイアルラに恐はなかった。


「幼い頃より、私はあなた方が恐ろしかった。皆には聞こえるはずのない声が聞こえ、触れられることのないはずの手が触れる。このまま殺されるのではないか、この身体を奪われるのではないかと」


 亡霊にいくら語りかけても返事が返ってくるはずはない。だけどクレイアルラは話を続けながら前へ、前へと進み続ける。


「だけど違う。私はもうただ泣きじゃくるだけの子供ではありません。私は、世界を救おうとする者たちの母であり師なのです!もう姿なき亡霊などに恐れません!」


 強い意志の宿ったクレイアルラのその目に怯んだのか、あるいは迷いのない言葉に怯んだのか、その両方かは分からないが纏わりついていた亡霊たちはクレイアルラのもとから離れ道を開けた。

 ゆっくりと亡霊たちの退いた道を歩んでいくクレイアルラは、精霊樹の幹に触れながら里へと続く扉を開くための言葉を紡ぎ出す。


「盟約により結ばれし精霊に乞い願う。古のエルフの血を引く我の言葉を聞き届け、里へと続く道を開きたまえ」


 言葉を唱え終わるとクレイアルラのすぐ横に光が集まり扉は形成される。

 精霊の力によって作られしエルフの里へと続く扉、ようやく帰ってきたのだと実感したクレイアルラはゆっくりと扉をくぐるのだった。


⚔⚔⚔


 一方その頃、ユフィたちは始めにゲートで来た場所で、クレイアルラから里へとつながるゲートが開かれるのを今か今かと待っていた。


「まっだかな、まっだかかな、まぁ~だっかなぁ~♪」


 魔法で作り出した石の椅子に腰を下ろしながら鼻歌を歌って、今か今かとクレイアルラのゲートが開かれるのを待っているユフィさん。

 普段は見ることのないレアなユフィの姿にみんなが驚きの表情を浮かべる中、ついついノクトが口を開いた。


「ユフィお姉さん。ごきげんですね」

「あったりまえじゃない!エルフの里だよ!生エルフの暮らす、生エルフの里なんだよ!エルフマニアのお姉さんにとっては聖地と言っても過言じゃないの!!」


 悲惨にもガシッと両肩を掴まれてたノクトは、ユフィの溢れんばかりの思いの詰まったエルフへの思いの丈を聞かされている。

 なんとも可愛そうなことになっているが、誰も助けにはいかない。なぜかって?誰もノクトのニノマエにはなりたくないからに決まっている。


「うっわぁ~、なんか魔導具作ってる時よりも饒舌に喋ってんなユフィちゃん」

「オレんときもあんなんだったけど、まじでユフィってエルフ好きなんだな」

「……ん。ノクトも哀れ。わかりきってたことなのに」


 自ら地雷を踏みに行って捕まったノクトに全員が揃って合唱している中、彼らの目の前にゲートが開かれた。

 これはまさかそうフリードたちが思った瞬間、誰よりも速くゲートに向かって飛び込んでいく人物がいた。

 それは誰かって?そんなに決まっているじゃないか


「待ってましたぁ~!」


 いの一番に飛び込んでいったユフィを見送りながら呆れたような表情でフリードたちもゲートを潜っていく。


 ゲートを抜けた先で始めて目に飛び込んできたのは、先程まで目に見えるほど近くにあった精霊樹よりも遥かに巨大で大きな大樹と、武装したエルフたちだった。


「おいおい、どういうことだよこりゃ?」

「流石にこれは……」


 どういうことだと問いただしたくなったフリードたちだったが、その視線の先に拘束されぐったりとしながら頭を垂れるクレイアルラがいた。

 一体何が起きたのか、フリードたちには理解ができないのであった。

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