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旅立ちと父の居ぬ間の騒動

 アーレックス王国を旅立つユキヤたちへの用事を済ましたスレイとリーフは、せっかく来たのだからと一度もゆっくりランバートの墓参りをしていなかったと思い、二人連れぞって墓参りをしてから少しだけ街の様子を見るために町中を歩いていた。


 戦いが終わり、当初の思惑とは違ったが目的であったアーレックス王との面会を果たしたスレイたちはそのままマルグリット魔法国に帰ってしまった。

 当初は復興の手伝いもしようかと思ったが、事前に始まりの使徒グリムセリアから伝えられた事実を魔法国のクレイヴ陛下に伝えると、至急の帰国命令が言い渡された。

 そこから数日間、スレイは王宮でクライヴ陛下を始めとした国の重鎮、そして神や使徒との戦いを実際に経験した各国の王たちが一同に会す………ことは流石にできず、投影魔法による遠隔会議という手法で行われた会議に出席していた。

 なお、このとき本来ならば魔王の転生者のユキヤと今回被害を受けたアーレックス王も参加するはずだったが、ユキヤは邪精霊との戦いで無茶をしすぎたツケが回って、しばらくまともに動ことができない状態だったため不参加。

 アーレックス王も王都が壊滅的な被害を受けた後だったため参加を見送った。

 会議ではスレイがグリムセリアから聞かされた決戦までの残された日数で対策を練る必要があった。だが、この場に集まっただけでは足りない。

 この戦いは全人類と神による戦い。この星に住むすべての人たちが力を合わでなければ神を打ち倒すことなどできるはずもないのだ。


「今更で申し訳ないのですが、結局のところ会議ではどのような方針が決まったのですか?」

「そうだな。まずは事態を知らない各国に向けての詳しい情報公開と神との決戦に向けての兵力の増強、そしてこれから起こるであろう神との決戦を国民に向けて開示する」


 剣聖祭で起こった出来事は全世界へ向けて配信されていた。あれだけ堂々と使徒との戦いを中継され見られていたのだ、今更隠しきれるわけもなく、なし崩し的に国民への公表が決まった。


「そうですか、暴動など起きなければいいのですが」

「あぁ。だから各国の王も慎重になっているよ」


 世界の危機など眉唾もの、だが実際に神の使徒を名乗る超常な存在の襲撃や、ここ最近期起きた様々な事件などがその信憑性を増している。

 だがそれでもその情報によってひき起こされるであろう様々な不安要素が解消できるわけではない。


「暴動が起きても陛下たちが対策してくれるはず。ボクたちはボクたちにしか出来ないことをするだけだ」

「えぇ。そうですね……そのために我々ができることをする」

「あぁ。神との戦いに向けてボクたちは国に所属していない種族味方に付けるための説得を、ユキヤたちはレオンたちが残したアーティファクトの回収をすることになった………って、これは知ってるよな」

「えぇ。そしてこれから我々が行く場所も聞いていますけど、本当に行けるのでしょうか」


 スレイたちが向かおうとしているのは外界から完全に切り離されたとされるエルフの里だ。

 エルフの里は"妖精の抜け穴"と呼ばれる特殊な回廊を経由しなければたどり着けないと言われており、エルフでなければその回廊を見つけることができないとされている。

 さらに問題なのは回廊の入り口とされる"妖精の抜け穴"だ。

 入り口である"妖精の抜け穴"はとある森に存在するそうなのだが、まるで生き物のように移動しているらしく一度見つけたからと言って同じ場所にいつまでも有るというわけではないらしい。

 それに、エルフの里自体に外部からの侵入を阻害する結界がはられているらしく魔法で行くこともできないそうだ。

 そのため森についたらひたすら探し回らなければならないと義母のクレイアルラが教えてくれた。


「それについては先生がいるから大丈夫だって」

「しかし、その"妖精の抜け穴"とはいったいどういった仕組みなのでしょう」

「古の時代に魔法の使えるエルフを捉えて戦争の道具にしようとした人族から実を守るため、古代ハイ・エルフが創り出した魔法だとかなんとか言ってたね」

「なるほど……やはり魔法とは凄いのですね」

「確かに凄いけど、それは古代だから出来たことで現代で同じようなものは再現できないよ」

「そうなのですか?」

「古代とは魔法形態が大分変わってるからね。そもそも、ハイ・エルフが使ってた魔法は魔力も介さずに使われる人知を超えた技だったって聞くし、"妖精の抜け穴"もそれと同様、今の魔法技術じゃ再現不可能なものだろうから」


 スレイの説明に納得したようにうなずくリーフ。

 そんなリーフの横顔を見ながら大きく息を吐いたスレイは、雲ひとつない空を見上げながら話を続ける。


「しかし、色々準備があるから先生たちの出発は半月後っていってたけど、そこからボクは二人が帰ってくるまで一人で学園の授業を任されるのか」

「それはご愁傷さまですね」


 ゲンナリとしているスレイを横目にクスクスと笑っていたリーフ、しかし話の中であることに気が付きそれをスレイに尋ねる。


「あの、確か以前伺った記憶ではミーニャ殿がもう少しで期末試験と言っていましたが、そのような大事な時期にルラお義母さまが留守にされてもようのですか?」

「あぁ。うちの学科必修科目じゃないから試験もなかった………去年まではね」


 実は去年スレイたちの実戦魔法学科の授業を受けた生徒たちの成績が例年よりも上がり、さらには魔法師団に入団した生徒たちが成績を残している事実から正式に実戦魔法学科のカリキュラムが授業に組み込まれることになった。

 授業時間は以前とは変わらないが、より質の高い授業を要求される結果となり実技だけでなく座学の時間も増えていた。


「ホントはさ、実技の試験はボクが、座学の試験は先生とユフィがって話だったのに、今回こんなことになったから両方ともボクがやることになりまして、唯一手伝ってくれそうなノクトも居ないから死にそうなくらい忙しい」

「でっ、ですが、週二日の授業なのですよね?」

「実を言うとさ、うちの先生の教育方針って広く深くが売りでね、そのお陰で学校でやってる大体の授業のことなら何でも教えられるんですよ」


 無表情のスレイの口から出てきた言葉からあることを察したリーフは、とてつもなく優しい目をしながらゆっくりと頷いた。


「つまり、他の生徒さんたちへの補習も行うことになっているのですね」

「はい。そういうことです」


 疲れた顔をしながら頷いたスレイを横目にリーフが話を続ける。


「ユフィ殿たちが帰られたら、次の場所へ向かうのですよね」

「あぁ。それまでに他の二箇所の場所もおおよその目星はつけておきたいよね」

「竜人の里と、天人族の浮遊島でしたか……どちらも場所がわからないんでしたっけ」

「浮遊島はその名の通り空に浮いていて各地を転々として、人の目じゃ見つからないし、竜人の里も古い資料をあたって調べてるけどなかなか場所を特定できてないのが現状です」


 現状、自由に動けなおかつ迅速に移動が可能なのはスレイたちとユキヤたちだけなので仕方がないのだが、場所が特定出来ていない以上、動くのもままならない状態となっている。


「先生や学園の人たちも協力してくれてるけど、日食までの残り時間の算出にいま現状で国に属さない種族属の割り出し、その地域の特定、それに現地まで赴いての交渉と、他にもまだやることがあるからな」

「そうですね。我々だけでは難しいところもありますし」

「本当に難しいところはユーシス陛下やクライヴ陛下を頼るさ」


 両陛下にいままでに随分と迷惑をかけられているので、少し無茶な要望でも可能な限りは叶えてもらえると両陛下から言質はしっかり取っているので、面倒なことになりそうなときは丸投げ──ではなく、口利きでもしてもらおう。

 もしも無理ならその時はその時、なにか別のことを考えて今までの仕返し──ではなく、お返しをしてもらおうかと考えていると………


「スレイ殿、顔が何やら悪いことを考えてる時の顔をしてますよ」

「嫌だなぁ~そんなわけないじゃないですかぁ~」


 ハッハッハッっと何かをごまかすように笑っているスレイに対して、何かを疑うようにリーフがジト目で睨んでいた。


「「…………………………」」


 スレイの笑い声も止み、二人の間に静寂が流れる。

 リーフからのジィ~ッと無言の圧を受け続けたスレイは、なにかに耐えきれなくなりそっとリーフの方から視線を外した。

 それを見たリーフが勝ち誇ったような顔をした。


「くっ、なんでわかった!」

「これでもあなたの家族ですので……それよりも、そろそろ戻りませんか?」

「だな。いい加減、勝負を挑まれるのも面倒になってきたし」

「そうですね」


 ツカツカと歩いていくスレイとリーフ、そんな二人の後ろには死屍累々の山──などではなく、ぐったりとしてうつ伏せになった剣士たちの山が積み重なっていた。

 何があったかというと、中止になったとはいえ剣聖祭決勝進出者であるスレイと決勝トーナメント出場者のリーフが連れ立って歩いてた。

 ここであの二人を倒せば剣聖の称号はは俺のもの!みたいな輩が勝負を挑み、その成れの果てがあの山だった。


 正々堂々真っ向から挑んでも、卑怯と罵られようとも背後から斬りかかっても、複数人で囲んでも、遠距離からの斬撃を放っても、魔法を載せた斬撃も全く意味をなさず一撃で落とされ他人たちの姿があれであった。

 ちなみにスレイとリーフは剣を抜かず、手刀のみで相手をしていた。

 何なら割と話しながら、スレイに至っては大きな隙を見せていたのに一撃どころか傷一つ与えられずに負けた剣士たちのプライドはボロボロに打ち砕かれたのだった。


 ⚔⚔⚔


 あの日から数日、ユフィたちがクレイアルラと共にエルフの隠れ里へと旅立った。

 その際、スレイがユフィとノクトを必死に引き留めたり──学園の仕事をすべて押し付けられて死にそうなため──、レイネシアがママたちが旅に出るのを泣きながら引き留めたり──こちらは純粋に寂しいから──と、旅立つ前からひと悶着あった。


 そんなこんなで一人で授業を行うことになったスレイの一日の流れを簡単に説明したいと思う。

 まず朝早くから家を出て授業の教材の準備から始まる。

 日中は実技と座学の講義を交互に行い、空いた時間を使って学園の施設である図書室の膨大な書物の中から竜人の里と天人族の浮遊島の場所の調査をした。

 学園の放課後は希望者のために開かれる補習授業、家に帰ったらママたちのいない寂しさで暴走しているレイネシアの相手をして、次の授業の資料作りが待っている。

 授業がない日も学園に通っては別の学科の授業の手伝いをしたり、他の学科の先生からネチネチ嫌味を言われたり、学園で起きた生徒たちの乱闘騒ぎを鎮圧したり、素行不良な生徒の面倒を押し付けられたりと業務外の仕事も回されたりもする。

 果には待ち構えていたジャルナから緊急の依頼を受けさせられたり、急に魔法師団から呼び出しを受けて遠征の引率役として連行されたりもしていた。

 はっきり言ってキャパオーバー、オーバーワークも良いところだと言いたくなるスレイは、日に日に目から精気が消えていくのだった。


「そんなわけで、もう身体が限界なんです。死にそうなんです。ってか、もういっそ殺せって言いたくなるんです」


 だらしなくテーブルの上に身体を投げ出してぐちを言っているスレイ。

 ここまで酷使されたら誰だって愚痴の二十や三十くらい言いたくもなる物だと思いながら、普段は見せないような醜態を晒している。

 流石にこんな姿をリーフたちには見せられないため、ある人のところで愚痴を言っているのだ。


「そうねぇ。そんなに忙しい中呼び出しちゃって本当に申し訳ないとは思ってるけど、口よりも手を動かしてもらいたいわ」


 今愚痴を言ってるのは中央大陸にいるスレイの母ジュリアだった。

 なぜこんなにも忙しいはずのスレイが中央大陸来んだりにまで来ているかというと、今回クレイアルラたちと共に街の領主であるフリードもエルフの隠れ里に行ってしまったのが理由だ。

 ではなぜフリードもエルフの隠れ里に向かったかと、理由は快気明快。フリードは去年クレイアルラを第二夫人に迎えたが、未だにというかクレイアルラの両親に結婚の報告をしていなかったからだ。

 普通に会いに行けないという理由もあったが、こうして向かうのならせっかくだからとフリードも同行したのだ。

 結果として残されたジュリアはフリードの代わりに領主の仕事を代行しようとしたのだが、こうなったらやってくる厄介者、前領主であるバンがやってきた。


 ジュリアに次の領主としてエルをっとか、跡取りにふさわしい教育をさせるためにわしが育てるっとか、いろいろ言ってきたらしく、早々に匙を投げスレイにヘルプを頼んできた。

 なので殺して地の底に埋め───なんてことはせず、普通に殺気で脅してゲートで今住んでいるという家に捨ててきた。

 これで一件落着、っとはいかずに数日の間隔を開けてまた襲撃し、エルを狙ってあれよこれよと策をめぐらして、嫁は鬼畜だとか、嫁はまともな子育てもできないクズだっとか、領民にあることないこと吹き込んでエルを奪おうとした。

 前領主の言うことだけありその影響力は凄まじく、普段の溺愛っぷりを知っているはずの領民たちからも説明を求める声が殺到していた。

 名君と言われたりバンが落ちぶれ害悪老人と化している現状と、日々の領民への対応で精神的にもやられてしまいもうダメだと思ったジュリアは、ついにスレイたちを呼び出してバン対策をしているのだ。


 母と幼い弟妹の危機ならすべてを投げ出して駆けつけ………たいのだが、それができないため代案として学園の授業は新たに制作した大型プレートを使ったリモート授業だったりする。

 そんなわけで護衛をしながら授業も並行で行い、ついでに補習組にはものすごぉ~っくわかりやすく作った補習プリントを配布し、


「ねぇ母さん。もういっそのことあのジジイ沈めない?」

「そうね。私も何度も考えたんだけど、フリードさんのお父様だし、身内だし」

「あんな害悪老人、死んだほうが我が家のためだと思うけど」

「それは同感なのよね」


 それができたら苦労はないのだが、それができないのが現実だった。

 もうどうにか出来ないのかとハァ~っと二人が揃って大きなため息をついた。


 そこから数日の間、様々な嫌がらせに加えて街なかでの誘拐未遂に真夜中の不法侵入、果にはジュリアを悪漢に襲わせて不貞を理由にエルを奪おうとしたりと、もはや行為が犯罪化してきていた。

 こうしてついにブチギレたスレイが反撃し、バン含めた悪漢数人を半殺しにしてからバンにもうこの街に近づけてさせないためにと着ていた服を全部剥ぎ取り、全裸で亀甲縛りアンドとてつもなく恥ずかしい格好に加えて、残り少ない髪の毛どころか全身の毛という毛をすべて脱毛してから吊るしておいた。


 そしてバンが雇った悪漢たちはこんなもんでは済まさなかった。

 なぜかって?そんなのジュリアだけでなくリーフたちまで襲おうとしたのだ、殺されなかっただけありがたいと思ってほしいが、もうこんなことが出来ないようにと魔道銃を使って男のシンボルを撃ち抜いた。

 ちなみにこれで死なせないようにちゃんと治癒はしておたのであしからず。


 さて彼らの処刑もといお仕置き方法はこれでは終わらなかった。

 前に知り合った裏社会の人に頼んで色んな理由で社会から処分されそうなっていた男たちを集めてもらい、彼らにあるものを注射してから悪漢たちと一緒にコンテナのような場所に放り込んだ。

 するとその数秒後に悪漢たちの叫び声が響いたかと思うと、数時間後には野太い嬌声が響き渡った。

 何をしたのかというと集められた男たちに媚薬を注射しただけ、しかもスレイが間違えて作った失敗作の薬のため色んな意味で危ないものだったりする。

 ちなみにどんなにヤバいかというと小瓶一本程度なら普通の媚薬と同じだが、それ以上接種すると同性異性問わずに襲いかかる性欲モンスターの出来上がりとなる。

 なぜそんなことを知っているかというと、実際に使ったっというよりも封印してあったものを勝手に見つけてこれまた勝手に使われたからだ。

 あれは酷い事件だった。


 元々竜の血のせいで毒も効きにくいため媚薬も効果を示さずに一度に複数本を服用し、理性を失いただ性を貪る夜獣と化してしまった。

 そのせいで効果が切れるまでの数時間もの間、取り押さえることもできず逆に襲われる始末。もう何も手の打ちようがなくなり際限なく暴れ回ってしまったのだ───ライアが。


 ……この話はここまでにして、その後全身脱毛されたバンにこれ以上何かさせるわけにもいかないので、これ以上なにかしようとするならあの媚薬を飲ましたホのつく人種の跋扈する折の中に閉じ込めるっと脅したところ、泣いて帰っていった。


 これで一件落着となり、ジュリアたちに安息の時が戻ったのであった。




 おまけ


 あの悪漢たちはというと、男としての機能を失っただけでなく新たな扉を文字道理開通させられたせいで、オネェになったそうな。

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