冒険者ギルドへ
ようやく二章スタート!いよいよ冒険者編のスタートです!!
どうか楽しんでいってください
ブクマ登録ありがとうございました。これからも読んでいただく皆様には楽しんでいただけるものを書いていきますので、どうかよろしくお願いします。
フィフニス聖王国にある首都 デイテルシア。
そこは都市や町と呼ばれる場所になら必ず存在する冒険者ギルドが存在し、年間百人ほどの人が冒険者となるべく訪れまます。
わたしはそんな冒険者ギルドの受付をしていますが、最近はめっきりダメです。いい新人は全くいませんよ。
それなのに上司なんて、いつもいつも新人がダメなのはわたしたち受付のせいだって、ざけんじゃないですよ!
大体あぁ、この人は期待できるな~、なんてただの受け付けの私がわかるわけないじゃない!
あぁもう!!ホントいい新人入ってくれないかしら……。
なんて考えてたら今日もまた、冒険者になるべく新しい人が現れた。どうか、冒険者志望の人じゃありませんように、なんてこと考えちゃダメなんだよね。
「ようこそ冒険者ギルドへ、ご依頼ですか?」
精一杯の営業スマイルで訪ねる。
「すみません。依頼ではなく冒険者登録をお願いしたいのですが」
そこに立っていたのはここら辺じゃ珍しい白髪と桃色の髪の若いお二人でした。
私は思った。
この年若い二人もまた冒険者を志してやってきた口だろう………はぁ~、また怒られるのかな?
⚔⚔⚔
スレイとユフィがフィフニス聖王国の首都 デイテルシアにたどり着いたのは、故郷の村を出て二十日後の昼過ぎだった。
歩いていく街道の先に見えてくる街の外壁を見ながら二人は呟いた。
「見えてきた。ようやくたどり着いたな」
「うん……結構遠かったね~」
村を出てから二十日。
本当ならばその倍の時間がかかる道のりを身体強化によってその半分の日程でこれた。
このペースならあと数時間ほどで付くだろうとあるき続けて行き、ちょうど街までまっすぐ一本道に差し掛かったところでユフィがこんな事を言いだした。
「ねぇねぇスレイくん。ただあそこまで行くなんてつまんないし勝負しない?」
「いいけど、勝負ってなにするんだい?しりとり?」
「しりとりは旅の間でやりきっちゃったよ」
たしかにそうだねとスレイも同意していると、うぅ~んっと顔をしかめたユフィはすぐにニヤリと笑みを浮かべながらピンッと指さした。
「門まで駆けっこ!なんてどうかな?」
「いいね。ルールは?」
「身体強化なしの真剣勝負!負けた方は夕食を奢る!なんてどうかな?」
「乗った!……スタートの合図は、これで良いかな」
道端の小石を一つを手に取ったスレイは、それをユフィに見せると素直にコクリと頷いた。
ユフィは手に持っていた杖を空間収納にしまうと、準備ができたのを確認してからスレイは空高く小石を投げる。二人は身をかがめてスタートの準備をする。
二人の直ぐ目の前に小石が落ちた瞬間、同時に地面を蹴った。
⚔⚔⚔
一時間後、スレイとユフィの姿は街の外壁中を歩いていた。
「いやぁ~久しぶりにこんなに走ったね~」
「そうだね」
「ふっふっふぅ~ん。勝負は私の勝ちだったねぇ~」
「確かに負けた。けどさぁ、さっきのは反則だろ?」
いい汗かいたと爽やかな顔をしているユフィの横でスレイはジト目を向けていた。
その理由はユフィが勝負の最中に行った妨害工作が原因だったが、当のユフィはどこ吹く風といった様子だった。
「えぇ~、何のことぉ~?」
「とぼけないでくれ」
暇つぶし程度で始めたはずの駆けっこ勝負はスレイの圧勝だった。
普段からこの世で一番危険な山道を踏破し、魔法による荷重トレーニングを続けているスレイの足腰は堅牢その物、身軽なユフィ相手に武具を全て装備した状態でも負けるはずがなかった。
そんなスレイが負けた原因はたった一つ、妨害の他ならなかった。
「ボクの足元にぬかるみを作って、危うく転びかけたんだからな?」
そう、ユフィがおこなった妨害工作はスレイの進行方向にぬかるみを作ったことだ。
走る勢いを殺しきれずにスレイはぬかるみに足を取られ、抜け出してぬかるみを直している隙にユフィはスレイを追い抜いてゴールしたのだ。
「ぬかるみは埋めたけど、魔法を使うのは卑怯だろ」
「えぇ~?私、魔法は禁止だ。言ってないもぉ~ん」
「そんなはず───あっ」
確かにそうだとスレイは思った。
ルールを決めたときにユフィは身体強化は禁止と言ったが魔法を禁止するとは一言も言っていない。そのことの気づいたスレイが言葉を切って押し黙ると、ユフィがしてやったりと笑った。
「約束。ちゃんと守ってねぇ~」
「……わかったよ。今夜の夕食はボクが奢ります」
「それでよし」
納得は行かないものの負けは負け、敗者は大人しく勝者に従うだけのことだ。
頭を切り替えたスレイはニッと口元を釣り上げてユフィに問いかける。
「さて、夕食の話はこれくらいにしてこれからzどこに行こっか。今夜から泊まる宿屋?ちょっと遅めの昼食?それとも──」
「そんなの、決まってるでしょ?」
そう二人ともこの町について一番先に向かうところは決めていた。
「「冒険者ギルド!」」
声を揃えて最初に行きたい目的地の場所を告げた。
⚔⚔⚔
初めて冒険者になろうと話してから早十年あまり。二人はようやく冒険者の集まる場所、冒険者ギルドの建物の前へとやって来ていた。
「ついに来たね、冒険者ギルド」
「ようやくここまで来たね」
「入ろうか」
「うん、入ろう!」
スレイは戸を押して先に中に入り、それに続いてユフィも中に入った。
ギルドの中はカウンターと酒場が敷居をまたいで併設されていた。すでに一仕事を終えてか、酒場の席には何組かが座って酒を飲み交わしていた。
地球にいた頃に漫画やアニメで見た風景がそのまま存在していることに二人は興奮を隠せずにいた。
どうにか平静を装いながら二人はカウンターに歩いていく。
その途中、冒険者たちの視線が向けられたがすぐに仲間との会話に戻っていく。
注目を受けていると思いながら受け付けに向かうと、受付嬢が微笑みながら声をかけてきた。
「ようこそ冒険者ギルドへ、ご依頼ですか?」
受け付けのお姉さんは二人の事を見ながらそう訪ねる。
「すみません。依頼ではなく冒険者登録をお願いしたいのですが」
スレイがそう言うと、受け付けの女性は一瞬顔をしかめたように見えたが、見間違いだったのか元の営業スマイルに戻った。
「わかりました。少々お待ちください」
受付のお姉さんが席を外すと奥から用紙を数枚持ってくる。
「それではここにご記入を。文字が書けなければ私どもで代筆も行っていますがどうしますか?」
「自分で書けます」
「私も大丈夫です」
「それでは、そちらでご記入ください」
受け付けのお姉さんがカウンターから少し離れたところを指差した。
二人は用紙を持って少しずると、黙々と用紙に必要事項を確認しながら書き始めた。
用紙に書かれていたのは氏名と年齢、そして出身、魔力の有無などだった。記載を終わった二人はそろって用紙を提出する。
「えぇっと、スレイ・アルファスタさんでよろしいですね」
「はい」
今さらであるがこの世界では普通に家名が存在する。
前世の地球ならばこう言う時代、平民等は家名を持たないのが物かもしれないがそこは異世界なので普通に平民でも家名がついているのが当たり前のようだ。
「そして、ユフィ・アルファスタさんで──」
「こらこら、ちょい待ち」
よろしいですね、と受け付けのお姉さんが言い終わる前にスレイがツッコミをいれた。
「どうかされましたか?」
「もぉ~、なんで止めるの?」
「いや、おかしいからでしょ!」
頬を膨らませて抗議するユフィにスレイが容赦なくツッコミを入れた。
「何、かってに籍入れてるの!」
「いいじゃん。どうせ結婚するんだから!」
「まだしてないでしょ!?」
こんな会話をしてからスレイは受付のお姉さんに向き直り頭を下げる。
「すみません、彼女の家名、アルファスタじゃなくてメルレイクに直してください」
「あ、はい。分かりました」
受付嬢がどこか納得した様子で記載用紙を書き直していると、ユフィの口から残念そうな声が漏れ出ていた。
改めて記載事項に誤りがないかを確認された。
「確認は以上になります。それでは、こちらがギルドカードになります」
用紙を二人の前に置いた受付嬢は続いて黒いカード、それに一本の小さなナイフを二人の前に差し出してきた。
「それでは最後に、お二人の血を一滴ずつこちらのカードと用紙に垂らしてもらえば終了です」
差し出されたナイフで指先を少し傷つけ、血を一滴ずつカードと用紙に垂らす。すると垂らされた血が吸い込まれ一瞬だけ光った。
光が収まったところで二人はカードを手に取ってみている。
「以上で手続きは完了となります。このカードは冒険者の身分証となり、カードの隅にはランクが表示されています。無くされたり破損した場合はすぐにギルドまでお越しください」
「はぁ~い!」
ここでギルドのランクについて話をする。
ギルドでは下からF、E、D、C、B、A、S、SSの八つに分けられている。ランクは以来を受けて一定の評価を得てから昇格試験を受けてランクをあげていく、そしてCランクからようやく一流の冒険者と呼ばれている。
ギルドに登録したばかりの二人のカードにはFと書かれていた。
「おめでとうございます。これで、あなたがは今日よりギルドの一員です。ようこそ、冒険者ギルドへ!」
「ありがとうございます!」
「頑張りますね!」
ようやく冒険者になったのだと、二人の顔がほころんだのを見て受付嬢は小さく微笑んだ。
「さてお二人共、冒険者登録はこれで終わりですので、ギルド施設の説明をさせていただきたいのですがよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「それでは、まずは依頼に付いて説明致します。まずは依頼は二階にあるボードに張り出されます」
二階と聞いてスレイはカウンターのすぐ横にある階段に目を向ける。
先程から幾人かの冒険者が上がった降りたりしているのを観ていた。
「依頼自体は様々なものがあり、ランクに合わせた依頼を探していただきます」
「あの質問なんですけど依頼ってやっぱり、魔物退治が多いんですか?それとも採取系?」
「そういった依頼もたしかにありますが、中には街の清掃や商店の手伝いなど色々ありますよ。人気は……あまりありませんが」
そう言う受付嬢の表情は少し険しかった。
何でもそういった依頼は作業量に比べてかなり薄給だそうで、拘束時間に比べて見返りが少ないからと残りやすいのだとか。
「次に依頼についてですが、依頼のランクは自分のランクの一つ上まで受けることができますが、これが適応されるのはAランクまでですので気を付けてくださいね」
「Aランク以上ってSランクの依頼なんて貼り出されるんですか?」
「極稀にですよ。ほとんど張り出されません」
念の為にと言うことらしく、間違えないようにと釘を指すだけだった。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「ボクは大丈夫です」
「私もです」
一通りのことはスレイの両親から教えてもらっているので、本当に確認のために聞いている。
「では続けますね。依頼の完了の受け付けと素材の買い取りもここでできます。それでギルドの説明はこれで終わりなのですが、新人の方にはこれから試験を受けていただくことになります」
「試験ですか?」
「はい。ギルドは魔物と戦う依頼もありますので新人の方の実力を調べる意味があります。受けること自体は任意ですが、私どもとしましては是非とも受けていただきたいのです」
「分かりました、当面のお金は問題ないからいいよね?」
「ボクもいいよ」
「それでは明日九時にまたお越しください。そこで他の方とご一緒に受けていただきます」
複数人でその試験を受けるのだとわかり、ちょうどいい時期に来たんだなと思った二人はこれから宿を探さなければならないのでそろそろギルドを出ようと思ったとき。
「あっ、そうだ。ここで素材の買い取りもできるんでしたよね?」
「はい。受付で査定できますよ」
「なら魔物のコアの買い取りお願いします」
そう言いながら、スレイは空間収納と同じ効果が付与された鞄の中からコアを一つ取り出し、受付嬢に手渡す。
「お預かりいたしますが、只今混んでいますので明日、お金をお渡しします」
「それでいいですよ」
「あの最後にいい宿ってないですか?」
「それでしたらギルド提携の宿があります。地図を書きますのでそこでカードを提示していただけば割引もしてもらえますよ」
受付のお姉さんにその宿までの道順を書いたメモを受け取りお礼を言う、
「本日はありがとうございました」
これだけでギルドを後にした。
⚔⚔
ギルドを後にしたスレイとユフィは、少し街の中を見回ってから日が暮れた辺りで今日から泊まる宿を探しだした。
「ギルド提携の宿ってあれかな?」
「そうじゃない」
宿の名前は《月明かりの光》と書かれていた。
「入ってみようか」
「そうだね」
スレイが扉を開けて宿の中に入る、するとそれとほぼ同時にスレイに向かって椅子が飛んできた。
「はぁ?」
「あれ?」
飛んできた椅子を見てスレイはそう呟いたと同時に、鞘に納められていた剣を抜刀し椅子を二つに切り落とした。
綺麗に二つに斬られた椅子がガタンと音をたてながら地面に落ちたが、中がすでにうるさいので誰も椅子が落ちた音に気がついていない。
「あ、ヤバ」
「なにやってるのかな、スレイくん?」
隣のユフィがしゃがみこんで、惚れ惚れするほど綺麗に真っ二つに斬られてしまった椅子を手に取った。断面をスゥーっと触っているとすぐにこの宿の店員がやって来た。
「お客様お怪我はありませんか!?──って、ひぃ~!?」
「あ、ごめんなさい」
「ちょっとスレイくん」
年の頃はスレイとユフィより歳上の女性が現れ悲鳴をあげた。その訳はスレイの抜身のままの剣を見たからだったので、スレイは慌てて剣を鞘に納めた。
「平気ですが………すみません椅子を壊して」
「いいえ、悪いのはあちらのお客様なのですから。こちらはすぐに片付けますので」
「あぁ、いいですよ。壊したのこっちなので弁償も修繕もしますから」
「そんなことをしていただくわけには」
「いいですよ、この人が責任もって直しますから」
椅子を真っ二つにした張本人を指差したユフィ、もちろん壊してしまった責任を取って初めから椅子を修理するつもりだったスレイは、鞄の中から一枚の布を取り出した。
「なんですか、それ?」
「まぁ、見ていてください」
宿屋のお姉さんにそう答えたスレイは下にひいた布の上にその上に椅子の残骸を起き魔力を流すと、一瞬にして椅子は修復された。
「すごい……もしかして錬金術ですか?」
「まぁ、そんなところです」
答えが曖昧なのはこれは物質加工しか出来ないものだからだ。
普通の錬金術は物質の分解、合成等を行えるものなのだが詳しく説明するのも面倒で、専門的な話で付いていけるか分からなかったからだ。
「あのぉ~……ところでさっきから気になっていたのですが、これなんですか?」
スレイは今もまさに起こっているこの喧嘩についてウェートレスのお姉さんに訪ねる。
「お客様にこんな話をするのもあれなのですが、じつは」
お姉さんの話を要約するとこうだ。
初めは依頼を終わらせて仲間内で飲んでいただけだったが、いつしか倒した魔物の大きさの話になったところでおかしくなったそうだ。
俺の獲物が大きかった、いいや俺だ、等とやり続け結果として周りで雑談をしていた冒険者たちを巻き込んでの大喧嘩となったらしい。
「なんてアホな上にはた迷惑な話なんだ」
「ホントだね」
「ホントですね」
スレイの感想にユフィとお姉さんが激しく同意した。
「それで本日はどんなご用で」
「部屋を借りたいんですが空いてますか?」
「かしこまりました、ではあちらの受付へ………どうやっていきましょうか?」
お姉さんの言う通り、喧嘩のせいで受付までの迂闊に動いたら巻添えを食いそうだ。
「これいつになったら収まるのかな?」
「私の経験上、最後の一人になるまでは収まりませんね」
困った顔をしているお姉さん、今日からお世話になる宿の人が困っている。
なんとか出来ないものかとユフィがそっと隣の方を見るとその視線を感じたスレイはため息を一つついた。
「すみませんが、他の従業員の方はどちらに?」
「えっ?それでしたら、母があそこに」
お姉さんが指差す方には少し歳の行ったと言うよりも、お姉さんにもう少し色気を出さしたような人がなんとか宥めようと動いていた。
「すみませんがどうにかしてこちらに呼んできてください。後ユフィ、シェル貸して」
「分かりました」
「いいよぉ~」
お姉さんがこの店の女将を呼んでくる間にスレイはユフィから受け取ったアタックシェルを起動し、魔力のラインを繋げた。
「どうするの、それ」
「ちょっとね」
起動させた二十機ほどのシェルは静かに喧嘩している冒険者たちの前に飛んでいった。
「あの、呼んできました」
「お客様、いったい何を」
「喧嘩止めます。ちょっと眩しいことになりますけど………ユフィ、サングラスって人数分ある?」
「ふふふっ、こんなこともあろうかと用意しておきましたよ~」
「さっすがユフィ」
眩しいといった辺りでユフィは、スレイが何をするのか察したので空間収納の中から人数分のサングラスを出していた。
「じゃあ行きますよぉ~───フラッシュ!」
スレイが魔法の名前を口にすると、至るところから目映い光が溢れだした。
「「「「「ギヤァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」
そろって野太い声をあげて転げ回る冒険者たちは、目を押さえながら昔の名作アニメ映画に出てくる大佐のような台詞を口にしながらのたうち回っている。
「もうはずしていいですよ」
そう言うとユフィはサングラスをはずしながら大きくため息をついた。
「はぁ~、ねぇスレイくん、この人たちどうするの?」
「うぅ~ん………どうしよっか」
発した光は極力まで抑えたが、さすがに気を失ったりした人もいた。
「……………すみません、こういう場合はどうすればいいんですか?」
その後スレイは女将さんとお姉さんの指示に従い、意識のあった冒険者も気絶させ水路の脇に捨ててきた。
その際に女将さんの書いた店の飲み食いの代金を書いた領収書を懐に忍ばして帰った。
⚔⚔⚔
すべてが終わった後、スレイとユフィは壊された家具の修理、及び店の掃除を手伝っていた。
「すみませんねぇ~、お客様にお手伝いいただいてしまって」
「いいですよ。私の旦那が悪いんですから」
「こらこら、まだ旦那じゃないって何度言えばいいんだろうか?」
「ご結婚されるんですか」
「当分先ですけどね、よしこれでいいかな?」
錬金術で最後のテーブルを直し終えたスレイはそれを運んで並べ、ついでにフキンで天板を拭いていた。
「これで終わりですか?」
「えぇ、そうですね」
なんだか今日は錬金術大活躍だったな、と思ったスレイは錬成陣の書かれた布を仕舞い、スレイは直したばかりの椅子に腰を下ろした。
その向かい側の椅子にユフィも腰を下ろした。
「なんか疲れたね」
「そうだねぇ~」
昼間の全速力疾走に始まり夕食を食べずに、他の冒険者のやらかした後片付けだ。
疲れた以上に空腹感に教われた二人は、そろってお腹を鳴らしてしまうと、二人の前に皿が置かれた。
「助けていただいた上に後片付けを手伝っていただきありがとうございます。これは私たちからのお礼です」
そういって皿を置いたのは女将さんだった。
「すみません、いただきます」
「ありがとうございます。いただきます」
お礼を言ってから出された料理に手をつけ出すと、今度はお姉さんが声をかける。
「そうだお客様、宿泊のお手続きまだでしたね」
「あぁ、色々あって忘れてましたね」
「本来の目的だったんだけどねぇ~」
前振りが長すぎて忘れてしまっていた二人は、少しだけ反省した。
「当面の間ここの宿の部屋を借りたいのですがいいですか?」
「はい、構いません。それで、部屋は二人部屋でしょうか?」
「一人部屋二つでいいよね、スレイくん」
「うん。それで、とりあえず二三ヵ月でいいよね」
そう答えると女将さんは少し驚いた顔をしていたがすぐに顔を戻した。
「一泊銅貨一枚なのでお一人銀貨九枚いただきますが、冒険者の方でしたら銀貨七枚と銅貨五枚です」
「そういえば受け付けにお姉さんから、そんなこと言われてたね」
そんなことも忘れていた二人は、懐からカードを出して女将さんに見せた。
「では冒険者割引ですので、銀貨七枚と銅貨五枚いただきます」
二人は財布の中から金貨を一枚ずつ取り出して女将さんに渡す。
「それでは、こちらがお部屋の鍵になります。食事は別料金になりますのでお忘れなきよう。それと今さらではありますが、私はこの宿の女将のアニタともうします」
「私は娘のオリガです」
女将とお姉さんは名前を名乗りながら頭を下げた。
「スレイです。これからお世話になります」
「ユフィです。よろしくお願いしますね」
夕食を食べ終えた後、オリガの案内で部屋に行きその時この宿には、大きな浴場があることを教えてもらったユフィは、部屋に荷物を置くとすぐに出掛けていった。
スレイも少ししてから入りに行ったが、男女に別れていて足まで伸ばせるほどの湯船につかりながら、この宿を教えてくれた受け付けのお姉さんに明日お礼を言おうと決めた。
⚔⚔⚔
その頃ギルドでは。
一日の仕事も終わって、さぁ!どっかで飲むぞ~!と思ってたんだけど……何でかギルマスに呼び出された。
「帰り際に呼び出してすまんね」
「いいえ、構いませんよ?」
そう思うなら呼ぶんじゃねえよ、この髭ジジイ!なんて口が避けても言えないけど、いったい何で呼び出されたのかな?
「すまないが、このコアに見覚えはあるかね?」
コトンとディスクの上に置かれたコアを見たわたしはうなずいた。
「それが何か?」
「うむ、このコアを持ってきたのは本当に今日冒険者登録をした者なのかね?」
「はい、そうですが……何か問題でも」
わたしが聞くとギルマスは蓄えられた髭を撫でながら答える。
「このコアの査定価格は金貨にしては十枚だ」
「…………えっ?」
わたしは耳を疑った。
だってその金額って、わたしの給金の何年分になるの?
「驚くのも無理はなかろう、だが事実じゃ」
「…………そ、それでギルドマスターはわたしにいったい何をしろと?」
「なに簡単じゃ、明日このコアを持ってきた者の試験を見学し、その後直接話を聞く。その間わしの付き人をやってもらえぬかの?」
「分かりました。ご用件はそれだけですか?」
「あぁ、もう行ってよいぞ」
「それでは失礼いたします」
軽くお辞儀をして部屋を出たわたしは、小さくガッツポーズをした。
よっしゃあーー!初めは面倒なんて思っちゃったけど、ありがとう!久しぶりに怒られなくてすむわ!!
そう思ったわたしは誰もいないギルドホールの中をスキップしてしまった。
そしてこの受付嬢だが、翌日地獄を見るとはそのときは思っても見なかったのだった。