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魔王VS嫉妬の使徒

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 スレイとユキヤの本気の殺気を受けて巨大な竜と凶悪な悪魔を幻想したゼファールは、今戦いを挑んだとしても確実に負けるだけじゃなく、二人の言葉が本当なのだとするとこれから自分が受けるのは、死ぬよりも恐ろしい眼に合うことは明白だ。

 ならばどうするかというと、生き物の行動原理というよりも生存本能が選ぶ選択しなどたった一つの、それもとてもシンプルな答えしかなかった。

 スレイとユキヤに背を向けたゼファールは左右で形の違う翼を──右は悪魔のごとき黒い翼、左は天使のような白い翼──を広げると、勢いよく上空へ飛翔した。つまるところ、ゼファールが取った行動は逃げるという行為だったのだが………


「逃がしませんよッ!───光竜閃刃波ッ!」

「逃がすわけねぇだろッ!───斬激の型 月花烈風斬ッ!」


 スレイが闘気と聖の魔力を宿した聖火で造った竜を、ユキヤが無数の斬激を空中に放った。

 狙うは上空に逃げたゼファールただ一人、だが、まだ殺さない。

 狙うは左右で形の違う翼。

 まずは空からあいつを落としてからなぶり殺すと、仮にも勇者が思ってはいけないことを思っているスレイと、魔王らしい残虐な手でゼファールの息の根を止めようとしているユキヤ。

 二人の放った技がゼファールに届こうとしたそのとき、二つの影が間にはいり技を跳ね返した。


「やっぱ、俺ちゃん最強ッ!そして、そんな俺ちゃんに殺されるお前は最高にラッキーな野郎って訳だ」

「ギャハハハハハッ!!天才である俺が負けるはずない、次こそはお前を殺してやる!!」


 現れたのはゼファールと似通った姿をした使徒の分体だったが、その元となった人間はおおよそというよりも十中八九スレイとユキヤに因縁のある相手だ。

 剣聖祭でこの二人が打ちのめしたあの偽勇者と酔っぱらい天才野郎だった。

 何というか、試合後に行方不明になったと言う噂があったが、まさか本当に使徒に誘拐されて使徒の分体となっていたとは思いもしなかった。

 ある意味悪い意味で予想を裏切ってくれたこの二人を前に、スレイとユキヤは先程までの怒りを忘れ揃って脱力していた。


「おいヒロ、テメェにあの二人任せるから、俺はあいつを追うぞ」

「えぇ~、ただでさえあの偽勇者相手にするのだけでもかなり疲れたってのに、自称天才までボクが相手するのなんて精神的に疲れそうで面倒なんだけど」

「そう言うな………あの野郎が向かった先は街だ。なにが目的で街に向かってるか知らねぇが、あのままほっとく訳にはいかねぇだろうが」


 ゼファールが使徒である以上、なにが目的だとしても人への被害は確実に出るのは間違いない。ならばここはは二人のうちのどちらかがゼファールの追撃に向かう必要がある。

 普通なら転移魔法や空間転移の使えるスレイが出るのが普通だが、転移魔法で先回りしても相手の正確な位置が絞れず、空間転移に至っては目視できる範囲出なければ飛ぶことはできない。つまるところ、純粋な速度で追い付いた方が効率的だ。

 竜の因子を持つスレイも速いがそれ以上に純粋な速度だけで言えば、スレイよりもユキヤの方が速い。刻印の力を使えば追い付けるが、これから戦うのはゼファール以外にもいる可能性があるのでこんなところで力を使いすぎるわけにはいかない。


「んじゃあ任せる。なるべく速く追いかけるけど、死ぬなよ」

「死なねぇさ。テメェも不覚をとるんじゃねぇぞ」

「おあいにくさま、使徒相手に油断なんてしないさ。それにあいつらなんかに不覚をとるいうじゃ、ボクは即刻勇者なんてやめてやるよ」

「ハッ、減らず口を叩くんじゃねぇよクソ勇者が………ここは任せたからな」

「速く行けよ魔王。あいつらはボクがきっちり殺しておく」


 背中に翼を生やしたユキヤが空へと飛び上がると、街へと向かって飛んでいくゼファールを追って飛び立とうとするが、その眼前に現れたのは準々決勝でユキヤに敗れたフランク・マクガーデンだった。


「どこ行こうとして───」


 フランクがなにかを言おうとした瞬間、下からなにかが撃ち上がりズドーンッとユキヤの前に陣取ったフランクに爆発が起こった。黒焦げになり落下を始めるフランクの身体に無数の鎖が巻き付くと、そのまま地面に落下していった。

 ユキヤが下を視るとフランクと同じように鎖に巻かれて地面に伏せているエドヴァンと、ロケットランチャーを肩に担いだスレイがそこにいた。

 ユキヤとスレイの視線が重なると、スレイが眼で行けと言っているので頷いたユキヤが全身に影の茨を纏い背中の翼で勢いよく羽ばたかせ、街へと飛んでいった。


 ユキヤの姿が遠ざかっていくのを見送ったスレイは肩に担いでいた六連式ミサイルポット型魔道銃カペラを空間収納にしまい、地面に突き刺していた黒幻を鞘に戻すとなにもないところで掌を空に向けると、すぐに空中に魔方陣が描かれそこから白楼が落ちてきた。

 カチャッと音を立ててスレイの手の中に落ちてきた白楼と、少し遅れて一匹の蜘蛛が飛び出してスレイの肩に止まった。


「サンキュー、アラクネ。助かったよ」


 スレイがアラクネにお礼の言葉を告げると前足を器用に使って″よせやい、照れるじゃねぇか″っとでも言ってるように見せる。

 このアラクネは女神アストレイアが各地に放つためにと簡易の使徒化させた──正直今何体あるのかすら把握していない──個体の一体だ。

 アラクネを空間収納に戻したスレイは周りを確認する。人の気配はもうほとんどない、どうやらユフィたちが避難を急がしてくれたのだろう。そのお陰で遠慮なくこいつらと戦えると思ったスレイは、エドヴァンとフランクを縛っていた黒鎖を解いて重力の重さから解放する。

 鎖と重力から解放されたフランクがスレイのことを睨む。


「おい、なにしてくれてんだテメェ!」

「なにって、あんたにあいつを追わせるわけにはいかないから邪魔しただけですよ?」

「だったら、先に殺してやる!」


 駆け出したフランクが腰に下げられた刀を握ると、間合いに入った瞬間刀を抜き居合い放った。


「死ねや───絶華ッ!!」


 居合からは当たれ花を描くようにして振り抜かれる八連激は、まさしくユキヤの技である″絶華″その物なのだが、スレイはその全ての斬激を前にして微動だにしない。

 勝ったッとフランクが口元に笑みを浮かべているなか、スレイは大きなため息を一つ付きながらフリーの右手を竜人化させ、さらに刻印での強化が終わると同時にフランクの居合がスレイに放たれた。

 放たれた八連激の刃がスレイを切り刻んだ、かに思われたが振り抜かれたフランクの刃はスレイの手によって受け止められていた。


「なにッ!?完璧に決まったはず!?」

「技としては、あいつの技と何ら遜色はなかったけど、あんたの技はあいつよりも軽すぎるんだよ」


 スレイが握っている刀の刃に力を込めると、バキンッと刀の刃をへし折るとスレイの回し蹴りがフランクを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたフランクがすぐに反撃をしようとしたが、刀を握る手をスレイに捕まれた。一体いつの間に接近したのかと、驚いたフランクだったがその眼前にスレイのアルナイルの銃口が突き付けられた。


「吹き飛べ───バレット・オブ・ヘリオース」


 銃口に集められた疑似太陽の光でを弾丸に終息させて打ち出した、小型版ヘリオースがフランクの身体を撃ち抜くと、手足を残して上半身が消し飛んだ。

 バタリと地面にフランクの手足が落ちると、残された手足が光の粒となって消えていった。銃口を確認してから後ろに振り替えると、エドヴァンに銃口を向ける。


「てっきりあいつと一緒に攻撃を仕掛けて来るかと思いましたけど、仕掛けてこないなんて意外ですね」

「そりゃそうさ。テメェには怨みがあるからなぁ、俺ちゃんじきじきに殺さねぇと腹の虫が収まらねぇんだよッ!」


 そう言ってエドヴァンが握っていた剣を掲げる。

 それは以前スレイがへし折ったはずのあの偽聖剣だったが、あれはイヴライムが用意した偽物だったはずなのでこっちがオリジナルか、あるいはオリジナルの複製品かは置いておいて剣の色が聖剣とは似ても似つかないメタリックの強い紫になっていた


「もうそれ、聖剣って言うよりは魔剣の類いだな」

「こいつは俺ちゃんだけの聖剣だ!魔剣なんかじゃねぇよッ!」


 エドヴァンが偽聖剣を振りかぶると、剣の刀身に濃縮された闇のオーラが溢れだしスレイを襲ったが、闇のオーラが当たる瞬間に真上へと飛んでかわすと、翼を使って飛び上がると上空から魔法を放った。


「悪いね。あまり時間はかけられないから、決めさせてもらう───イルミネイテッド・ヘリオース」


 上空から放たれた光の柱が会場を飲み込むと、エドヴァンごとフィールドを吹き飛ばした。


「ふぅ。ちょっとやりすぎちゃったかな?」


 ちょっとと言うにはいささか語弊があるが、更地となった会場に降り立ったスレイは残された偽の聖剣をみながら、さすがにこのまま放置はできないので破壊しておこうと考えた。


「ヘリオースじゃ無理だったなら、あと可能性があるのはこれかな?」


 ヘリオース以上の魔法は無いので破壊は無理でも消滅なら出来るということで、アヴィス・ルゥートゥーの魔方陣を作り出そうとすると、ゾワリと真上からなにかとてつもない気配を感じ振り返った。


「貴様のその顔、見覚えがあるな。………そうか、我が封じられていた場所にいたあのときの双剣の人間。確か名はスレイ・アルファスタだったか」



 真っ白な髪に両腕には蒼炎の入れ墨を持った長身の使徒がそこにいた。忘れるわけがない、全ての力を込めた技が通じず、全員でかかったところで全く勝てる可能性のなかったあの使徒だ


「おいおい、ウソ……だろ?なんでこんなところに始まりの使徒がいるんだよ」


 ユキヤとの約束はどうやら守れなさそうだと思いながら、スレイは両腰の剣に手をかけるのであった。




 スレイと別れてゼファールを追うユキヤは、自身の翼だけではなく全身に纏った影の茨までを駆使して自身の最高速度で飛んでしばらくして、ようやくゼファールの姿を眼でとらえる距離にまでたどり着いた。


「おいテメェ、ようやく追い付いたぞ!逃げてねぇで、さっさと止まりやがれッ!」

「これは逃げてるわけじゃない!武器を、剣を取りに行くだけだ!」

「剣だと!?」


 使徒とはいえ元はこの国の剣士の一人、剣くらい使えても何らおかしいことではないが、ここは既に街のなかに入っている。

 剣を持っている人間はそこら辺にいくらでもいると言うのに、一体なにを探していると言うのだ?そんな疑問を抱きながらも、ここまで来てしまっているので被害が出る前にさっさと片付けなければならない。

 射程はギリギリかと思いながらなるべく距離を積めるためにと、一瞬だけ刻印で強化してゼファールとの距離を積めたユキヤは空中で停滞し、鞘に収めた緋影を抜き放ち頭上に掲げる。


「なぶり殺すと言ったが時間をかけられねぇからな。死ねや───斬激の型 次元斬ッ!」


 緋影を真っ直ぐ振り下ろすとなにかを察したらしいゼファールが横にずれる。すると、背中の悪魔のような翼が半ばから切り裂かれてゼファールが落下していった。

 落下していくゼファールを見ながらユキヤは小さな舌打ちをしながら、落ちた場所まで急ぐ。


「チッ、あの野郎。俺の″次元斬″の斬激を読みやがったのか!」


 どうやったのかはわからないが、空間を切り裂く″次元斬″をかわして見せたゼファールに称賛の言葉を送りながらユキヤはゼファールに止めを刺すべく、地面に落ちたゼファールの真上から垂直落下からの勢いを使った渾身の居合いを放つ。


「こいつで死にやがれ!───居合いの型 閃華ッ!!」


 引き絞られた身体から放たれようとする神速の一刀がゼファールの首を落とそうと放たれる。

 緋影の切っ先がゼファールの首を捉え切り落としたかに思えたが、ユキヤが目を見開きその場を凝視しながら小さく呟く。


「んなッ!?いねぇだと!」


 呆然としながらも地面にぶつかる直前に翼を強く羽ばたかせ空中に浮かし体勢を戻したユキヤは、空中でホバリングしながら姿を消したゼファールの姿を探した。

 どこを視ても気配を探ってもどこにもゼファールの気配を感じないことにユキヤは焦りを感じながらも、先ほどなにかがおかしかった。

 それはいったいなんなのかと聞かれたところで、ユキヤはその疑問を言葉にすることのできないが、そんな些細な違和感がぬぐいきれずしこりのように頭に残り、グルグルと頭のなかを巡っていた。

 そんな疑問を頭に浮かべていると、背後から突如強い気配を感じとったユキヤは、緋影を腰溜めで構えてから身体を捻りながら振り抜く。


「そこかッ!」


 振り抜かれた緋影の刃がなにかに当たるのを感じ、遅れて視線を向るがユキヤの緋影が斬ったのはゼファールではない、背後にあった巨大な瓦礫の塊をユキヤは切り裂いていた。


「なにッ!?」


 驚きの声をあげげながら緋影を振り上げた状態で固まっているユキヤは、音を崩れ去る瓦礫を見ながら呆然としている。

 なぜユキヤがここまで驚いているかと言うと、それは自分が斬ったこの瓦礫にあった。それは、先ほどまでにユキヤの背後にこんな瓦礫の塊など存在しなかった。

 予想外の出来事に頭の処理が追い付かず思考が止まるユキヤだったが、周りからの悲鳴と騒がしい喧騒にハッとさせられ、いまだにここは避難が終わっていないことを思い出すと、翼を強く羽ばたかせて上昇する。

 民家の屋根よりも少し高いところから逃げたゼファールを探しているユキヤは、探しながら先ほどの不可解な現象について考えていた。


「あの野郎。一体どんな力を持っていやがるんだ!?」


 悪態をつきながらユキヤがゼファールの持つ力について考え出したが、いかんせん情報が全くと言って良いほど不足しており、考えたところで対策も先ほどから考えていると違和感の答えもなにも思い付かないどころか、ゼファールの気配すら関知できないのだ。

 完全に万策尽きたこの状況でもユキヤは思考を止めることはしない。止めてしまえばそこで全てが終わり、止めない限りは何らかの正気が見えてくるはずだ。

 上空からゼファールの姿を探していたユキヤは逃げ惑う人々のなかで一人異様な出で立ちの人物を見つけ、そのすぐ側に降り立った。


「おい、たしかテメェ、エルミナとか言ったよな!こんなところでなにしてやがる!」


 ユキヤが声をかけたのは病衣に腕には包帯を巻かれ、片手で武骨な剣を持った少女エルミナだったが、空から現れたユキヤに驚いた様子だった。


「いっ、いまあなた空から」

「んなこったどうでも良い!ここは危険だ、怪我人が出歩いてんじゃねぇよ!」


 ゼファールを探していたはずなのになぜこんなことを、っと思いながらエルミナを病院へ連れていこうとしたユキヤだったが、掴んだその手をエルミナが振り払った。


「ダメ!あそこには、おじいさまが一人残って!」

「あぁ?」


 顔をしかめたユキヤがエルミナの話に耳を傾け、しばらくして全てを聞き終えたユキヤはギリッと奥歯を噛み締めながら、この襲撃がやはりあの使徒のせいなのかと言う結論に至った。


「事情はわかったが、その身体でここにいさせるわけにはいかねぇ。緊急時のための避難所くらいはあんだろ。そこへ行け」

「でっ、でもおじいさまが!それにあのとき一瞬だけ映ったあの人は、わたしの父様だった!あれはなんなのよ!あなた、なにか知ってるんでしょ!教えてよ!」


 逃げている最中、町中に写し出されていた映像を視ていたエルミナは、確かにあのとき試合に乱入しユキヤとスレイを吹き飛ばしたゼファールの姿を視ていた。

 真実を話すことは出きるが、それで納得するかは分からない。


「あぁ、確かに知ってはいるが説明に時間がかかる………だが、これだけは教えておいてやる。あいつはもう人じゃねぇ。魔物よりも厄介な化け物だ」

「化け物って、ウソよ!そんなの信じられないわ!」

「ウソじゃねぇ!お前の親父はいま、各国で噂になってる人の形をした化け物、それと同じ存在になった。こうなっちまったら人には戻れねぇ」

「それじゃあ………助けられないの?なには方法は」

「なにもねぇ。出きるのは、あいつが人を殺す前に殺してやることだ」


 ユキヤの答えに力なく座り込んだエルミナ。

 ようやく再会できた父が化け物となり、殺さないといけないと聞かされれば仕方がないことだが、こんな場所でそうされても迷惑なだけだ。


「ここはあぶねぇしあいつの狙いもなにか………いや、まさかな」


 ユキヤはエルミナの抱えている剣を視ていると、エルミナがユキヤの視線の先を追って自分の胸元にあると思いバッと身体をかばうように身をよじる。


「ちょっと!こんなときにどこを視てるんですか!!」

「あぁ、なに言ってんだ?んなことより、その剣″常闇の剣″だよな。なんでお前がそれをまた持ってる?」

「これのこと?おじいさまから受け取ってそれで………そう言えば、わたしたちを襲った人がこの剣を狙ってたような」


 エルミナの話から察するにイヴライムが″常闇の剣″をほっしていた理由は分からないが、もし、もしもゼファールの狙っている剣がこれなら、もう既に奪いに来ているはずだがまだ来ていない。

 いくら逃げ惑っている人でごった返していると言っても、さすがに目立つ出で立ちの少女を見逃すはずもない。ならばゼファールの目的は他にあるのか?っと考えたユキヤはもしかしたらと思い、エルミナに積めよった。


「きゃあっ!?なに!?」

「おい、お前この街のなかでその剣以上の剣ってあるか?」

「なんの話をしているのよ?」

「重要なことだ、ねぇってんならその剣を俺に貸せ」

「イヤよ!なんであなたなんかにわたしの剣を!」

「命に関わることだ。さっさと言え!」


 ユキヤの気迫に負けたエルミナがしばし考え込む仕草を取ると、すぐに答える。


「常闇の剣以上の剣となると、確かに一本だけあるわ」

「それはどこにある!」

「おじいさまが所有してる剣だから、おじいさまのお屋敷にあるはずよ」

「そうか、なら抱えて飛ぶ。案内しろ!」

「えっ、いやちょっと、待って!?」


 ユキヤによって問答無用で抱えられたエルミナは、まさかお姫様抱っこで抱えられて空を飛ぶことになるとは思いもよらなかった。


「えっ、うそ、飛んでっ!?」

「おい。あん慌てて喋ってっと舌噛むぞ!」

「分かったから絶対に落とさないで!」

「あっ、あぁ………ってかお前、試合の時と雰囲気が違いすぎねぇか?」


 ユキヤがそう言いながら顔をひきつらせながらホバリングの状態から空中を回って見せる。


「おいどっちだ?」

「あっちよ」


 エルミナが指をさした方をみたユキヤが、ゆっくりと速度をあげながら飛んでいく。

 飛ぶのになれていないエルミナのために速度はそこまであげていないのでつくまでにしばらくかかる。


「おい、その剣ってどんな能力なのか詳しく教えろ」

「剣の能力?なんでまた、そんなことを聞きたがるの?」

「テメェの親父がその剣を狙ってる可能性がある。なら、殺り合うときに少しは情報があった方が戦いやすいんだ」


 父親を殺すと言われればハイそうですかと言って情報を開示できるはずない。


「十二年前、俺の親父も化け物となって街一つ消し、何十人もの無関係な人を殺した。そんなかには俺の母も含まれてる」

「────────ッ!?」

「お前は、自分の親父にもそんな道を歩かせたいか?」


 ショックを受けたようにうつむき息を飲んでいるエルミナの顔をみずに、これ以上はなにも言うことはないのか、二人はしばしの間無言でいる。


「剣の銘は″無銘″」

「なに?」

「だから剣の銘よ。″無銘″それが名前よ」

「銘が名無しなんて、変なことだな」

「名前がない訳じゃなくて、他のどんな剣にも引けを取らない、何者にも負けない天下無双の剣だから名前は必要ない。だから″無銘″だそうよ」

「はっ、だったら最強の剣の力って、一体なんなんだ?」

「知らないわ」


 ユキヤは一瞬この女落としてやろうかと本気で思いながらも、続くエルミナの言葉にユキヤは考えを改めることになった。


「おじいさまから教えられたのは名前だけ、そもそもこんな剣は人が持ってちゃダメだって言ってたくらい危険らしいわ」

「人が持ってちゃいけない?」

「分からない。だから、おじいさまはあの剣を封印したっていってた………けど、ダメだったとも言ってたわ」


 本当にランバートはどんな剣を持っていたのかと、ユキヤはおもいながらならばいっそうゼファールにその剣を渡してはならないと、速度をあげていくのであった。

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