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剣聖祭 勇者対魔王

 爆発の起きた病室のなかでは、身体の半身を失いおびただしい量の血を流しながら地に伏せたランバートが残された手で剣を握りしめている。

 その顔には今までに感じたことのないほどの恐れの色が見えていた。

 自分が斬られたことは分かるが、いったいいつ、どうやって斬られたのかが全くわからないのだ。

 まるで自分の身体が金縛りにでもあっていたかのようだと思いながらも、


「おやおや、これは困りましたねぇ。あなたには、私と同じ使徒になっていただ予定だったのに、ついつい新しく手に入れた力の加減を間違えてしまいました」

「いッ今……なにを……したんじゃ………」

「死にゆくあなたに教える必要はありませんね」


 イヴライムが双刃剣を回してから地に伏すランバートの首をおとすと、深いため息を一つついた。


「さて、予定とは違いますがこうなってはしかたがここにはもう一人、優秀な素材がありますしねぇ」


 カツカツとイヴライムが部屋の端にあるベッドに近付くとそこで眠り続ける男の額に手をおいた。


「さぁ、私の力で目覚めなさい」


 神気を流しながら笑みを浮かべるイヴライムは、これでもっと面白くなると、これから起こすことの準備を着々と進めていくのだった。



 地面を蹴って真上に飛び上がったスレイは、空中で身黒幻と白楼を右上に担ぐようにして構えると、身体を捻りながら空中で回転し、落下の勢いを加えた回転斬りをユキヤへと放ったが、剣が当たる瞬間ユキヤの身体が霞のように消える。

 それを視てスレイは、しまった!?そう思いながらも必ず次に来るであろうユキヤの追撃に対するべく、急いで体勢を立て直そうとする。が、それよりも速く視界の先に現れたユキヤは、右手に握る緋影を逆手に持ち変え、さらには両手で持ちながら走り込む。


「体移動の型 朧霞、そして───斬激の型 逆月」


 ユキヤが逆手に持った緋影から放ったのは、なんの変哲もない闘気を纏った一閃だった。だがユキヤがただの剣閃を放つなどあり得ない、そう思ったスレイは剣閃を受けずに着地した姿勢のまま両足で地面を蹴って、立ち上がる要領で空中に飛び上がって回避した。

 すると先ほどまでスレイが居た場所にまで剣閃が届くと、一つしかないと思っていた闘気を纏った剣閃が解れていき、無数の細かい剣閃が縦横無尽に辺りを切り裂いていくのを視て、あの時かわしたのは正解だったと心のなかで思った。

 地面に着地したスレイは左右の剣を構えながら間合いを詰められないようにしているが、すでにユキヤは緋影を鞘へと納め腰を落とし前傾姿勢で構え、そして一気に地面を蹴り弾丸のように突っ込んでくる。

 あの構えをみてユキヤの放とうとする技に当たりを着けたスレイは、それに対抗するべく技を放つべく地面を蹴りユキヤに接近する。


「いくぞッ!ヒロォオオオッ!───混成居合いの型 雷鳴斬・朧ッ!!」


 雷鳴が鳴り響くかのような超神速で駆け抜けたユキヤが、自分の間合いに入ったと同時に緋影を引き抜いた瞬間空中に無数の斬激の軌跡が描かれたかともうと、その軌跡の先に緋影の刃が重ねられる。


「来いよッ!ユキヤァアアアッ!!───双牙・竜王連刃激ッ!!」


 放たれたユキヤの居合いに対してスレイは黒幻と白楼に宿る竜力を解放した連激で迎え撃った。黒幻と白楼の刃が放たれた緋影の刃を弾き返し、お互いに技の最後の一撃を放ち終わるとまずはスレイが白楼の返す刃で斬りかかった。

 振り下ろされる白楼の一閃をユキヤは引き戻した緋影を回転させ、真下から掬い上げるようにして白楼の刃を弾き返したユキヤは、そのまま真上に緋影を掲げると闘気で緋影の刀身を伸ばし、さらには雷の魔力を纏っているのか闘気の刀身にスパークが見える。

 とっさに回避行動に移ったスレイが後ろに飛ぼうとしたが、それよりも早くユキヤが緋影を振り下ろしながら叫んだ。


「いくらなんでもこの距離なら避けられねぇだろッ!───混成大太刀の型 流星群・雷霆ッ!」


 振り下ろされる緋影の刀身から闘気の流星が放たれる。身体強化で足回りを集中的に強化したスレイが後ろへと飛んだが、地面へと射ち放たれた闘気の流星が当たった瞬間、纏っていた雷撃が空中に放たれ避けたはずのスレイに直撃した。


「グッ───ゥァアアアアアアッ!!?」


 雷撃が身体を駆け抜けスレイが全身に走る痛みから叫び声をあげながらも、このままやられるわけには行かないと全身に雷の魔力を纏い、降り注ぐ雷撃の嵐を耐えながら自分も一つでも多くの技を返そうと、黒幻に闘気と竜のオーラ、そして黒雷を纏った。


「負けッ、るかぁアアアッ!───双牙ッ!・雷竜咆激閃ッ!」


 黒幻と白楼を大きく振りかぶったスレイは、二振りの剣を交差させるように振り下ろすとクロスを描くように黒雷を纏った闘気の斬激が放たれると、闘気の斬激が重なり解け合い一匹の巨大な竜へと姿を変えユキヤへと向かって駆け抜ける。

 黒雷を纏った竜が迫り来るなか、ユキヤは正眼に構えられた緋影に闘気を流しながらゆっくりと振り下ろした。


「───閃刃流奥義が三 閃断」


 ユキヤが緋影を振り下ろした瞬間、漆黒の竜が切り裂かれたのを視たスレイはどんな技かは分からないが、裂けないと不味いと全身が訴えかけ、それに従って未だに痺れの取れない身体に鞭射って横に転がった。

 するとか今までスレイが立っていた場所を初めとした空間………いいや、その世界が縦に二つに斬り裂かれていた。


「今、本当に世界を斬ったのかよ?」


 ゴロゴロと地面を転がっていたスレイが痺れから回復した身体で立ち上がりながら、実際に目の前で視たことを信じられないと言った顔で問いかける。

 緋影を降って土煙を払ったユキヤはただ淡々とした口調で語り始める。


「こいつは俺が剣聖のじいさんから学んだ技だ。対象だけを斬る″光刃″、対象を斬り破壊する″光爆″そして対象を世界ごと切り捨てる″閃断″、この三つが剣聖の剣の奥義だとよ」

「確かに、剣を握るものが生涯をかけて会得するべき技だな。これは」

「あぁ。そして、俺と同じ場所に立ってるお前も出せる技だろ」


 挑発的なユキヤのその言葉と台詞を聞いてスレイはギリッと奥歯を噛み締めながら、まだ雷撃を受けた影響で少し感覚がぼやけている両手に力を入れ、黒幻と白楼をギュッと強く握ってから大きく息を吐いて構え直した。


「さぁね。使えたとして、戦っているお前に対してそんなことをいちいち教えるはずないだろ?」

「そうだな。だが、もうお遊びは終わりだぜ」


 ユキヤは腰から緋影の鞘を引き抜き目の前に掲げた鞘に緋影を納めると自然体で立っている。

 あの構えからユキヤが出そうとしている技を察しここが正念場だと確信したスレイは、いつものように足を大きく開きながら腰を落とすと、黒幻を引き絞り白楼の切っ先を正面に向けて構えると、大きく息を吐いてから、全身に闘気と竜力を巡らせる。

 このまま睨み合っていてもなにもならないと思ったスレイは、左右の剣に竜のオーラと漆黒の業火を纏わせると、迷わず前へと駆け出した。


「迷わずにたな………悪いが勝つのは俺だ──居合の型・奥義 月華絶影」


 駆け出したスレイが自分の間合いに入った瞬間、ユキヤが緋影を引き抜き様に放たれた斬激がスレイの身体を切り刻み、少し遅れて空気が振るえ目の前の空間が斬れたが、ユキヤは目を見開き驚きを露にした。

 その理由は至って簡単、スレイならば簡単にとは行かずとも避けられる。もし避けられなくてもこんな斬られるためだけの突撃などするはずがない、何かしらの技で対抗すると、そう信じていたからこそ目の前で信じられなかった。

 技は決まり空間が切断され無数の剣閃が空中に刻まれ、無数の剣閃がスレイの身体を切り裂いたのを目の前でみていたユキヤの頭のなかにスレイの死の文字がよぎったその瞬間、ふと疑問が頭のなかをよぎる。

 斬ったにも関わらず、なぜ血が流れないのか?っと、そんな疑問と共に目の前で斬られたはずのスレイの身体が消える。


「こいつは俺の────ッ!?」


 気配を察したユキヤが後ろを振り返りながら緋影を一閃すると、そこには先ほどまでそこにいたはずのスレイだった。振り抜かれた一閃がスレイの身体を両断した。が、ユキヤの緋影がスレイの身体を切断し通過した瞬間、確かにそこに合ったはずのスレイの身体がまるで影が消えるかのように一瞬にして消えていく光景に唖然とする。

 スチャッと緋影を構えたユキヤは次々と現れるスレイを斬り伏せるユキヤの顔は、先ほどとは全く違う理由から驚愕に彩られひきつった笑みを浮かべている。


「おいおい、どうなってやがる。俺の技かと思ったがちょっと違げぇよな、こいつはッ!!」


 右横から来たスレイに対して身体を大きく捻り下からの切り上げる。

 その際、緋影から伝わってくる感触はまさに人を斬ったときのものだった。刃が人の肌を切り裂き肉に食い込み、そして骨を切断する。その感触が確かに伝わってくるのに、次の瞬間にはその場にスレイの姿はなくなっている。

 ユキヤの回避技の″朧霞″と無数の分身を作り出す″無明天音″、この二つに似ているが全く違う。そもそも、あの分身は斬った感触があった、明らかに本体と行っても過言がないのだ。


「テメェ!こいつはいったいなんなんだよ、この技はッ!!」


 ユキヤが叫ぶと同時に目の前に真上に現れたスレイの斬り下ろし、それを緋影が迎え撃つ。これもまた分身か、そう思ったユキヤだったが緋影が左右の剣をぶつかった瞬間、確かな手応えと共に火花が散る。

 それにハッとしたユキヤは緋影を押し返し、離れたところに鋭い横蹴りを放った。腹にまともに蹴りを受けたスレイの身体がくに字に折れ曲がり、吹き飛んだかに思われたが次に瞬間にはその姿が消えていた。


「どうだユキヤ、ボクの技は?」


 その声に驚いたユキヤが振り返ると、僅かに離れた場所。双方の剣の間合いの外に佇むスレイの姿がそこに合った。


「正直、驚いたぜ。まさかテメェが俺の技を真っ向から受けねぇで、回避するなんてなぁ」

「ボクじゃ、お前の奥義は破れない。そもそも世界を斬るなんて技をどうやって防ぐんだって話しだ……だからボクは考えたんだよ、その速度が目で追えるなら、その速度に身体が追い付くなら、技で対抗するのではなく、それを避けるための技を作り出そうってな」

「そつが、俺の技と似たあの技だってのか?」

「あぁ。″亡霊(ファントム)()舞踊(ダンス)″それがボクの編み出した、お前に対抗するための技だよ」


 ″幻影の舞踊″確かにその名前がぴったりだとユキヤは一人納得していた。


「どういう原理か、なんて聞いたところで教えねぇだろうな」

「いや、簡単だよ。ッと言うよりも、お前なら察しはついてるんじゃないのか?」

「憶測だが俺の″朧霞″と同じで特殊な歩法による回避技、だが分からねぇのはなぜ空を斬っているはずの俺の剣や、さっきの蹴りにもその感触が残っているってところだ」

「それは簡単だ。ボクは殺気だけで相手を斬れる………きや、斬ったと誤解させることが出来る。あの技はそれを応用した技ってことだよ」


 その説明にユキヤは一人納得していた。

 確かに殺気の刃を作り出せるなら、気配をその場に残し実際に斬ったと思わせられるのだと、つまりはさっきまでのことはユキヤが勝手に斬ったと思い込まされていた。そう言う類いの幻覚を見せられていたのと同義なのだ。

 種を明かされてしまえばどうと言うこともないが、実際にそれが出来るかと聞かれればユキヤは間違いなく否と答えるだろう。

 回避だけなら出来る。だが、気配を完全に消しその場にいないようにすることはできるだろうが、かわしが上に斬ったように相手を錯覚させるほどの気配操作など、常人には出来るはずがない。

 身体が興奮して振るえてくる、ユキヤは狂った笑みを浮かべながら叫んだ。


「やっぱり、テメェは最高じゃねぇか!それでこそ、斬りがいがあるってもんだろ!」

「簡単に斬らせるわけないだろッ!」


 スレイとユキヤが同時に駆け抜ける。大きく後ろに構えられた黒幻と白楼を振り上げるスレイと、真上に掲げられた緋影を振り下ろし、刃が重なり火花をあげる。

 剣が離れた瞬間、スレイの黒幻が左斜め下へと斬り下ろすが、スレイが剣を振り下ろすのに合わせてユキヤが身体を屈めてかわし、その場で回転しながらスレイの足をかける。


「うをっ!?」

「───斬激の型 桜花天翔斬ッ!」


 左手の甲を刀の背に当てながら真上へと飛んだユキヤ、このままだと斬られると思ったスレイはフリードとの戦いで見せたのと同じように、左右の剣を重ねならが空中で回転しユキヤの剣を受け流した。

 空中で回転しているスレイは黒幻に竜のオーラと業火、それに雷の魔力を纏わせると真上にいるユキヤに向かって剣を振り上げる。


「お前はどこのるろうにだッ!───竜王天昇斬ッ!」


 ユキヤの放った技にツッコミを入れたスレイが放った斬激が竜へと姿を変え天へと登っていく。

 空中で身を翻したユキヤは迫り来る竜を前にして緋影を弧を描くようにして振り下ろす。


「俺が考えた技じゃねぇ!───斬激の型 弧月一閃ッ!」


 弧を描くようにして振るわれた一閃がスレイの技を両断すると、爆風を受けたユキヤがそれに煽られて後ろへと吹き飛ぶ。


「チッ!飛べねぇのがキチィ!」

「ほんと、それだよなッ!───竜王連刃覇ッ!」

「負けるか!──斬激の型 夢想影斬・覇刃ッ!」


 スレイとユキヤの斬激が空中でぶつかり合い火花と共に凄まじい衝撃が吹き荒れる。

 衝撃から後ろへと下がったスレイは、負けじと一歩踏み込みながら黒幻を振るうとユキヤは緋影で受けずに僅かに身体を傾けて剣をかわす。

 ここに来てユキヤが剣で受けるのではなく回避に切り換えた。

 ここまでの戦いで二人とも数々の技と共に闘気をかなり消費している。奥義が不発に終わった今、長期戦になると踏んだユキヤは少しでも体力と闘気を節約するべく、この戦法へとシフトした。

 黒幻と白楼を操り次々と剣技を放っているのにも関わらず、ユキヤは一向に攻撃を返して来ないことからなにかがおかしいと思い、すぐにユキヤが長期戦を視野にいれた戦法へと切り換えたことを察する。

 長期戦になるのはスレイも百を承知、だがスレイは長期戦になると分かっていても全てを出しきってやり合いたいと考えている。


「それならッ───氷雷ノ息吹キ・天雷ッ!」


 白楼に氷と雷の魔力を纏い空中に弧を描きながら一閃すると、その軌跡をなぞるように闘気の斬激とそれと共に放たれた吹雪と雷撃が放たれる。

 ″雷鳴・鳴神″と″氷嵐ノ息吹き″の合わせ技、一刀で広範囲をカバーする二つの技を合わせることでユキヤにも技を出させようと言う作戦だった。が、スレイの思惑は意外なところで崩れた。


「喰らわねぇよ」


 闘気を纏った右足を高く振り上げたユキヤは渾身の力を込め、おもいっきり地面に振り下ろした。

 すると振り下ろした足が地面を砕くと、ユキヤは闘気を地面へと流し込んだことで地面を競り上がらせ石壁を作った。

 スレイの放った技を石壁が受け止める。

 受け止められたのならば、今度は直接技を叩き込もうとかけたスレイが白楼を一閃させ石壁を斬り、その後ろにいるであろうユキヤに向かって技を放とうとした。がっ、そこにユキヤの姿はない。


「こっちだ───居合いの型 絶影斬りッ!」


 スレイの背後へと回り込んだユキヤが居合いを放った。

 居合いの速度は視きっているスレイは″亡霊ノ舞踏″で避けたが、振り抜かれた刃が自信の影を斬ったと思った次の瞬間、スレイのコートピッと閃が走り脇腹かプシュッと鮮血が舞った。


「ようやく一撃入ったな」


 スレイの″亡霊ノ舞踏″は確かに恐ろしい技だ。特殊な足運びからくる幻影を産み出しての回避だけでなく、斬ったと錯覚させることで一瞬の気の弛み与える。だが、それでも攻略が出来ないわけではない。

 その攻略の一手として放った″絶影斬り″、これは最初の一振目は闘気で作り出したただの残像、その背後に隠た真の一刀が相手を斬るという技なのだが、なぜこれが攻略の一手となるのかと言うと答えは簡単だ。

 つまるところ回避の技である″亡霊ノ舞踏″は剣の振られるタイミングに合わせての回避をとっている。ならばそのタイミングをずらしてやれさえればいいのだ。その結果が回避したと思ったスレイがああして斬られていたのだ。

 緋影を振り上げた状態でニッと笑っていたユキヤは、緋影を両手で持ち直し次の技で少しでもダメージを与えようと構えたが、次の瞬間左肩に物凄い衝撃が走りゴキッと肩の骨が砕かれる音と共に上体を起こされてしまった。


「なっ、なにがッ!?────ッ!!」


 何をされたのか、なにが起こったのか理解できなかったユキヤだがここにいていはまずいと、スレイから距離をとるために後ろへ飛ぶ。


「一撃だけなら、ボクも入れたぞ」


 その声に釣られたユキヤが視線を向けると、白楼を逆手に持ち変えた手で血の滴る脇腹を押さえながら黒幻を付き出した状態でいるスレイが視線にはいる。

 あの状態から放てる遠距離技などないはず、それも突き刺すでも吹き飛ばすでもなく打ち砕く技など、今までにスレイが使うところなど視たことがないユキヤだったが、一つあることに気がつきチッと舌打ちを一つついた。


「光刃かッ!」

「ご名答。まぁ一か八かの賭けだったがうまく行ったよ」


 斬るための″光刃″で突きを放つ。

 アイデアとしては前からあり、スレイもかくし球の一つとして密かに練習していたが、いくら挑戦してもなかなか習得出来なかったが、こうして土壇場で出来たことは僥倖だ。

 スレイは切り裂かれた脇腹の傷を確認し、傷があまり深くないことに安堵しながら闘気で血を止め先に流れ出ていた血を凍らせて止血し立ち上がった。

 対するユキヤは一度左手を動かしてみたが肩骨が砕けているせいで動かせない。なので砕けた肩骨を闘気で繋げもう一度動かしてみる。ズキズキと動かすために激痛うが走るが、どうにか腕が動くことを確認した。

 お互いにまだ闘気も魔力も余裕はあるが、身体が先に限界を向かえそうだ。だからもうこの一撃にかけようと構える。

 スレイは黒幻を握る手を大きく後ろに引き竜のオーラと漆黒の業火を纏わせ、ユキヤは緋影を鞘に収め闘気剣へと流しながら軽く前傾姿勢を取り足を肩幅に広げ腰を落とす。



「おいヒロ、テメェ。その傷でまだやろうってのかよ。さすがに死ぬんじゃねぇか?」

「あいにくとそこまで深くはないから平気だよ。ってか、そういう君こそ、その肩じゃお得意の居合いは無理なんじゃないか?」

「ハッ、俺はテメェみたいに柔な鍛え方はしてねぇよ。それに、これくらいテメェを斬るのにゃあ、ちょうどいいハンデってなもんだ」

「その言葉、絶対に後悔させてやるからな」


 軽口を叩きあっている二人だったが、その言葉とは裏腹に二人の集中は最大限にまで高まっている。

 いつでも、どのタイミングでも今までにない最高の一撃が放てると確信しているスレイとユキヤは、じりじりと間合いを詰めたり、わざと距離を取ったりと、位置を変えながら牽制し合っている。

 二人は位置を変えながらお互いの出方を読みあっている。

 先ほどまでのようにお互いがなにも考えずに斬り合っていた戦いではない、この勝負の勝敗を決めるための最後の技だ。

 この勝負に勝つため確実に相手に一撃を与えるため、スレイもユキヤも気を抜かずに睨みあいながら、お互いの出方を観察し合う。

 会場に流れる緊張感が人々に伝染し、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになった。永遠とも取れる長い沈黙が過ぎ、二人はついにその瞬間を向かえる。


「───竜王煌炎斬ッ!!」


「───居合の型・奥義 月華絶影・纒ッ!!」


 駆け抜けるスレイとユキヤはこの一撃にすべての力を込めて放つ。

 この技には、この剣聖祭で下してきた多くの人たちの想いと、自分を応援し支えてくれたみんなのためにも必ず勝つという強い想いを宿してこの一撃を放つ。

 スレイの漆黒の業火と竜のオーラを宿した一閃と、ユキヤの世界をも両断する居合の一閃が放たれる。


 フィールドのちょうど中央、スレイは後ろに構えられた黒幻を振り抜き、ユキヤは鞘に収められていた緋影を引き抜く。

 振り抜かれた刃が重なりあおうとした次の瞬間、突如会場の端より現れた黒い影が二人のそばにまで駆け寄ると、ちょうど二人の剣の重なる中心にたった。


「死ね」


 短くつげられたその言葉と共にスレイとユキヤは後ろへと吹き飛んだ。ドンッと強く打ち付けられると同時に壁には大量の血が飛び散っていた。

 これをみていた人々にはいったいなにが起こったのか分からない。ただ突然二人が後ろへと吹き飛んでいったとしかわからない。

 ならば一体だれがそんなことをしたのか、その疑問の答えは一体だれが答えたのか、ただ一言、とても簡易なその一言がすべてのこたえだった。


「悪魔」


 っと

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