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ユキヤの修行

本日二話目の更新です。

 剣聖祭準決勝も終了し決勝はユキヤとスレイの二人での戦いの場となったが、その直後に国王直々に剣聖祭決勝戦の延期が発表された。

 理由は決勝でのスレイの怪我の影響を鑑みてとのことだが、スレイは自身の中の竜の因子の治癒能力だけでなく、その周りには最高位の治癒術師が集まっているので一週間もなく全快するだから、あいつも決勝までに必ず今まで以上の力を付けてくるはずだ。だからユキヤもこの一週間を修行へと当てることにした。


 修行にはタチバナ家がかつて所有していた山の中を選んだ。

 ここはタチバナの家を興したとされる祖先が帝より頂戴した山で、武功を上げる切っ掛けとなった鬼が占拠していた場所でもあったと言われており、その噂通り常に高濃度の魔力を貯めている。だが不思議なことにこの山には魔物が一匹も住んではいなかった、

 おなじ高濃度の魔力を貯め強力な魔物が跋扈する死霊山と違い、この山は魔力を持たない普通の生き物しか寄り付かず、代わりに地下からは豊富な鉱脈資源が取れる。言わばこの山一つが国の大事な資金源の一つになり得るのだが、この山の資源は全くと言って良いほど手付かずで埋まっている。

 その理由が先ほど上げた異様なまでの魔力濃度だ。

 通常大地に溢れる魔力は周りの植物が吸収したり、魔物が吸収しより強力な力を付けると言われているが、この山の濃度が異常すぎるせいでこの山では魔物が暮らせないのだが、なかにはこの山の魔力に適応しようとして、逆に魔力を吸収しすぎて死んでしまうこともある。

 話はそれたがこの山の魔力は並みの人間であれば、一歩でも踏み入れただけで発狂してしまうほどらしく、採掘など出来るはずもないのだ。

 まぁそんな山で修行をしようとする辺りユキヤも大概なのだが、この山に満ちる魔力が修行にはちょうど良いのだとは本人の談だったりする。

 そんな山で修行を初めて今日で四日目、山にある小屋で寝泊まりしながら朝から晩まで修行漬けの日々だがかなり充実しているとユキヤは思っていた。


「ねぇレンカ、あんたってずいぶんと古風なね修行をするのね」

「うるせぇ、闘気コントロールを磨くにはこいつが一番効率が良いんだ」


 そう語るユキヤは今上半身裸に下はいつものズボンという、なんとも変な格好で土魔法で作り出した岩の上で座禅を組ながら滝に打たれていた。

 いわゆる滝業なのだが、実際に滝に打たれているわけではなく頭から降り注ぐ水を一粒ずつ闘気で覆い自分の身体に当たると同時に真下へと受け流しているのだ。


「あんた、あんまり長いこと水につかっていると風邪を引くわよ」

「浸かってねぇ。………がっ、さすがに水の上にいると冷えてきたな」


 ユキヤが全身から闘気の輝きを放つと頭上から降り注ぐ滝の水に闘気の輝きが走ると、滝が中心から別れて吹き飛ぶ。

 滝が吹き飛ぶのを見ていたアカネが感心するような声をあげていると、タンッと岩の上から一瞬で飛び立ったユキヤが側に降り立つと、木の側にかけておいたシャツを着てからそのとなりに立て掛けてあった緋影をつかむと、アカネの方には目もくれずに歩きだした。


「次はどこに行くきなのよ?」

「どこって、上の小屋に戻るだけだ。消費した闘気を回復させたら次は剣の修行な。すべての技を一から鍛え直す」


 全てを鍛え直すと聞いてアカネはハァッと呆れたように大きなため息をつくと、


「全く男ってどうしてそこまで負けず嫌いなのかしらね?」

「うるせぇ、男ってのはそう言う生き物なんだよ」


 今までに何度も共に戦い続けてきた者同士だから負けるわけにはいかない。戦うならば自身の最善の状態で、最高の技で迎え討ちたいとユキヤは思っていた。


「ユフィからスレイもあんたとの試合に向けて修行をしてるって聞いたけど、あんたら一応は前世からの友人同士なのよね?」

「認めたくはねぇが、今も昔もあいつが俺に手を差しのべてくれた相手ではあったな」


 魔王であったときも地球で暮らしていたときも向き合い、そして手を差しのべ続けてきたのはいつだってあいつだった。

 だが、今はそれとこれとは関係がない。ただ一人の剣士としてどちらが上か、いい加減その勝敗を決めるのも良いかもしれないからだ。


「はぁ、やっぱり男ってのはどうしようもないほどバカな生き物ね。勝負の拘りすぎて、私たちのことすっかり相手にしてくれないじゃない?」

「うぐっ、それを言うなよスズネ………これが終わりさえすれば次の予定が立てられるまで、少しは余裕が出来るはずだ。それまで待っていてくれ」

「待ってるわよ。これはただのわがまま。良いでしょ、たまには」


 最近アカネたちとの時間がとれていないことを自覚しているユキヤ、だがそもそも全員が一緒にいるわけではないので、アカネたち以上にミーニャたちとの時間が少ない。

 なので今度一度他の婚約者たちも誘ってどこかに出掛けよう、あるいはゆっくりとした時間をすごそうと考えていたユキヤだった。


「ところで、お前はいつまでここにいるつもりなんだ?」

「なによレンカ、婚約者の私があんたの側にいちゃいけない理由があるわけ?」

「別にこれと言った理由はねぇが、強いて言うなら見られながら修行するのはものスゲェやりづれぇってことと、純粋に邪魔なときがあるってことだな」


 実は修行を初めてからと言うものこの山のことをアカネたちから聞いたミーニャが、高濃度の魔力を吸って成長した薬草の採取をしたいと言いだし、森のなかにはいっていった。

 ちょうどそのとき目隠しした状態で周りの微かな音から森のなかを走る修行をしていたユキヤも森のなかにいた。

 そんな二人が偶然にもばったりあったとき、ユキヤはなにもいないともって居た場所から突如ミーニャが現れ、ミーニャは薬草を採ろうとしたところで走ってきたユキヤとぶつかったが、とっさにユキヤがミーニャを抱えて下敷きになった。

 そのときユキヤの手がミーニャに胸を掴み、胸を揉まれたミーニャが顔を真っ赤にした挙げ句、シルフを精霊憑依した状態で吹き飛ばされた。


 さらに次の日は、修行の応援をしたいと言い出したクレハ姫と、その護衛としてやってきたトキメが前に見た法被をお揃いで着て──トキメは恥ずかしさのあまり表情が死んでいた──楽器まで持参して来た。

 座禅を組ながら闘気を全身に均一に纏いながら、周りの岩を持ち上げてキープし続ける修行をしている横でドンドンパフパフと太鼓や笛をならしている二人──注・ただしトキメは邪魔しないように注意しながら、物凄く小さな音で鳴らしていた──。

 最初の方はユキヤもまだ無視出てきていた、だが時間が経つに連れてクレハが声を出して応援し始め、声が大きくなるに連れてユキヤの集中も切れていった。

 ここまで来るとトキメも不味いと思いさんざん止めようとしたが、最終的には持ち上げていた岩が全て落ちてあわやユキヤは岩の下敷きになりかけた。


 さらに次の日には朝からレティシアが差し入れにやってきてくれ、その少し後にこの前のことを謝りにとミーニャも来た。

 さらに昼の少し前には、昨日のことをトキメ経由で聞いたワカバにコッテリと絞られらクレハ姫がトキメと一緒に謝りに着て、そのままトキメが立ち会い稽古に付き合ってくれた。

 ッと、ここまでは良かったのだが、昼前と言うことでレティシアとミーニャが昼食を作ってくれることになったのだが、そこにクレハ姫も参加したのだが、今までまともに料理などしたことのないクレハがまともな料理を作れるはずもなく、出来たのはゲル状の紫色のなにかだった。

 全員が食べるには不可能と思っているなか、クレハ姫のみ味の感想をも止めてきたため覚悟して食べたユキヤは、その後の数時間の記憶がなかった。

 っとまぁ、これがこの数日の出来事なのだが、今日まで修行がはかどらない。


「正直、お前らは俺の応援に来てるんじゃなく、俺の修行の邪魔をしに来てるんじゃねぇかって気にもなってるんだが?」

「そのほとんどが姫のせいだし、私に関してはあんたとの顔を会わせたの三日ぶりなんだけど?」

「………………………………」


 そっとアカネから眼を反らしたユキヤは、懐から取り出した干し肉を咥えるとそのまま咀嚼し始める。

 時間的にはそろそろ昼頃、闘気の使いすぎで腹が減ったので昼食をとることにしたのだ。断じてアカネのセリフから逃げたわけでも、突き刺さるような視線から眼をそらしてるわけでもない………無いったらないんだ!

 何て心のなかで自己弁護をしているユキヤだったが、アカネが一瞬で回り込み視線を合わせてきた。


「ちょっとレンカ、あんたもしかしてこの数日そんなんばっか食べてるの?」

「ここに来る前に用意しておいた食料は、昨日全て捨てた」

「察したわ」


 捨てたと言うよりもクレハ姫が食材を全てゲル状のなにかにしてしまったので、泣く泣くすべてを焼却処分して灰もなんだか怖かったので、簡単にはそとに出てこれないほどの地中の奥深くへと埋めるほどの徹底ぶりだった。

 なぜそこまでしたかって?決まっているだろう、そうしなければいけないほどヤバイものだったからだ。


 ──うっ、思い出しただけで吐き気が……


 せっかく忘れかかっていたのにあのすさまじい味を思い返してしまったユキヤが、青い顔をしながら口許を押さえかけていると、スッとなにかが差し出された。


「はいこれ」

「なんだこれ?」


 受け取ったのは小さな箱状のなにかだったが、この状況で渡すのはひとつしかないのだろうが……


「なにってお弁当。私とエンジュが真心込めて結んだおむすびだから、お米の一粒も残したらダメだからね」

「あぁ。全てこの腹のなかに納めるさ……一日ぶりのまともな飯、心して食わしてもらう」

「はいはい。召し上がれ」


 小屋の近くの切り株の上に腰を下ろしたユキヤは形が不揃いで、それでいて大きなおむすびをひとつ掴むと少しずつ食べ始める。


「うまい。エンジュのやつ、ちょっと見ない間にこんなにうまい握り飯作れるようになるとは…………」


 ユキヤが泣きながらにおむすびを食べている姿にアカネはちょっと引いた。が、娘の成長を垣間見るのは親としての本望かと納得している。

 ユキヤがお弁当を全て食べ終えるのを見届けたアカネは、座っていた切り株から腰を上げて立ち上がった。


「さてと、あんたの修行の邪魔にならない家に帰ろうかしらね」

「あぁ。それはそうとスズネ、弁当うまかった。エンジュにも礼を言っておいてくれ」

「お粗末さま、エンジュにもちゃんと伝えておくわ、父さまが泣きながらに"うまいうまい"って食べてたってね」

「勝手に記憶を改竄すんな」


 恥ずかしいだろうが、ッとそっぽを向きながら答えるユキヤを見ながらアカネがプレートを取り出してレティシアに迎えに来てもらおうしたそのとき、不意にプレートから鈴の音のような音が流れ出した。


「なんか、スゲェタイミングで通信が来たな」

「えぇ………本当に、でもいったい誰って、ユフィから?」


 その名前が出たときユキヤは、こいつら意外に仲がいいよなッと思っていたりもする


「はい、どうしたにユフィ?えっ?うん、いやこっちは……はぁ?いやまぁ大丈夫だけど」


 何が大丈夫なんだ?ッと思いつつ、チラチラとこちらの様子を伺うようにしてくるアカネを見ながら、プレート越しでユフィとどんな会話をしているのかが気になるユキヤ。


「あぁ~、うん。わかった。それじゃあ、説明が必要だから五分後くらいにお願い。えぇ。じゃあまた」


 話が終わったのかプレートを懐にしまったアカネがユキヤの方に向き直った。


「おい、いったいなんの話してたんだ?」

「それがその……あんたに合いたいって人がいるらしくて、今からこっちに連れて来てもいいかって?」

「会わせたい奴は?俺は別に別に構わねぇが、ここまでどうやってくるんだよ」

「レティシアがゲートで連れてくるみたい」


 こんな場所にゲートを使ってまで連れてくるとは、いったい誰なのか?と考えているとユキヤたちのすぐ側にゲートの入り口が開いたかと思うと、中からレティシア………ではなく、見覚えのある一人の老人が始めにでてきて、その後にちょこんとレティシアが出てきた。



「なんじゃこの魔力は?こんな場所で修行とは、なかなかやるのぉ」

「そう言う爺さんも、平気そうな顔をしてるじゃねぇか。さすがは現剣聖ってところか?」


 なぜこの場に剣聖がとはあえて聞かないが、それでもこれからなにをするためにここに来たのか、それが何となくわかった。


「その剣、まさかあんたの孫娘をあんな眼に逢わした俺を今さら殺ろうって気かい?」

「その気はなさ」

「だったらなんでそんな物騒な剣を刺してるのよ」


 ランバートの腰に刺しているのはただの剣ではなく、剣聖祭準決勝でエルミナが使ったアーティファクト"常闇の剣"だった。

 悪魔の宿る剣などを持ってくる辺り、本当に殺しに来たのではないかと疑ってしまうが、どうやら本当にその気はないらしく、もしものときのことを考えていたユキヤがソッと剣にかけようとした手をおろした。


「それで、剣聖さま、いったいなぜここにおいでになられたのか教えていただけますかな?」

「なに簡単なことさ。このわしが直々に君を鍛えてあげようと思ってね」


 シャランッと腰の剣を抜いたランバート、それを見てユキヤは自然と口許がつり上がっていくのを感じる。

 なにせ相手は現剣聖、全盛期を等に過ぎた老齢であろうとも世界最強の剣士であることには変わりない。


「おいおい、良いのかい?俺にそんなことして、ずるって奴じゃねぇのか?」

「構わぬよ。あちらにはわしが直々に鍛えたフリードがおるからね。その息子ならばわしの技も使えるはずじゃし」


 現にスレイはランバート修める閃刃流の奥義が一つ、"光刃"と"光爆"を使っている。ならばその相手たるユキヤに多少の塩を送るのは許されるであろうとのことだ。

 それに、少しだけどうしても教えておきたい技があった。


「君が以前使った奥義じゃったかな?あれを完全な形で仕上げたくはないかね?」

「なに?」

「まぁ視ておれ」


 抜き放っていた剣を上段からゆっくりと振り下ろす。

 すると目に見えてランバートの目の前が割れる。ごく僅かではあったが、今まさに目の前で()()が斬られた。


「はっはっはっ、マジかよ?」

「ウソ、でしょ?」

「なんじゃそのデタラメっプリは」


 全員があきれた口調で言っているのはまさにそれが原因だ。

 世界を斬った。

 そんなでたらめな事実を目の前で見せつけられたユキヤたちは関心半分、呆れ半分と言った表情でランバートことを視ている。


「閃刃流が奥義の三 閃断。君の技の完成形というわけじゃが、どうするかね?」

「はっ、こんなもん見せれて断れるわけねぇだろ。頼む、俺を鍛えてくれ。礼はいくらでもする」

「君には、孫娘を救ってくれた貸しがある。そんなものはいらぬよ」


 ランバートからしたら孫娘を助けてくれたこれくらいはどうと言うことないらしい。


「スズネ、レティシア。悪いがさっさと帰った方が身のためだぞ?」

「言われなくっても分かってるわ。あんたらの戦いなんて近くで視てたら百回死ねるわね」

「そうじゃのぉ。妾も自分の命が大事じゃし、旦那さまとの子を産むまでは死にとうないからの」


 さりげなくレティシアが変なことを言ったためアカネからシラァ~っとした眼を向けられながらゲートを開いた。

 二人が去っていくのを見送ったユキヤは腰の緋影を抜いて構える。


「行くぜ」

「来なさい」


 こうしてユキヤにとって本格的な修行が始まるのだった。

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