剣聖祭 魔王対剣聖の孫娘
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エルミナの鞭のようにしなるウルミを相手に奮闘を繰り返しているユキヤ、そんな攻防を真上から観戦していたアカネたちは、ここまで一方的にやられ攻めきれていないユキヤは珍しいと想いながら、楽しそうにたたユキヤを視てどこか安心していると、
「こらぁ~!旦那はん、なにしてはるん!そんな紙切れみたいなもん旦那はんの技でズバァーッと斬ってしまいなはれッ!」
「姫!姫さまッ!おち、落ち着くでござる!落ちる、落ちてしまうでおざるッ!!」
ッと王族専用の観客席の窓から身を乗り出して落ちそうになりながらも、護衛の女剣士トキメに羽交い締めにされて取り押さえられているのは、ドランドラを納める帝ワカバの娘で実年齢十歳というにも関わらず、鬼人族の特性から成人女性並みのプロポーションと恋する乙女の色気を醸し出す鬼人族のクレハ姫………なのだがその格好は控えめに言って凄く残念だった。
身を乗り出しながらメガホンで大声で応援をしているクレハは、額には日本の受験生が試験勉強に額に巻くような必勝ハチマキを絞め、綺麗な紫陽花がらの着物の上からはなにやら気合いの入った刺繍のピンクの法被を着り、ついでに背中には大きく蓮華LOVEの文字書かれている。
もしもこの場にスレイとユフィがいれば、どこのアイドルオタク?ッとでもツッコミをいれていたかもしれない。
なにやら小さな子供には見せてはいけない姿に、アカネとレティシア、それにミーニャはエンジュを連れて少しはなれている。
「今は宮仕えの身であるゆえ、こういうことを主には言いたくないのじゃがあえて言おう……帝さまのご息女はなにやらとんでもない方向へと進んではおらんかぇ?」
そんなレティシアの問いかけは、自分たちと同じようにこちら側へと避難している帝のワカバに向けてなのだが、当のワカバは顔に面でも張り付けているかのように綺麗な笑みを浮かべているだけだった。
「女というのは恋に狂うもの、幼き恋心の暴走というのは母である私にも止めることができぬ物とだけ知っておいてください」
つまり、要約するとあれを止めるのは無理だから、好きなようにさせてあげなさいということだろう。なのでアカネたちはもうなにもいわないし、試合が終わるまではなにもいわない。
例え一人で押さえるのが難しくなって先ほどから涙目で助け求め続けているトキメがいようとも、我冠せずの姿勢を貫き通す。なぜなら面倒だから。
だが、このまま落ちてもいけないので、アカネが鋼糸で編んだロープで、レティシアが風魔法で、ミーニャが風の精霊シルフでクレハが落ちないように支えている。
「スズネさん。レンカさんは大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫なんじゃないの?あいつ結構楽しんでるみたいだし、それにあいつあんたのお兄さんと戦うって意気込んでたし、死ぬ気で勝ちにいくんじゃない?」
「そうじゃのぉ。旦那さまはやると決めたらやる男じゃし、妾たちは旦那さまの勝利を信じて待とうではないか」
レティシアのその言葉にアカネとミーニャは笑ってから、試合に視線を向けるとユキヤの緋影がエルミナのウルミを切り裂いたのだった。
エルミナの操る二振りのウルミから放たれる無数の斬激に対して、さすがに緋影一本では対処しきれなくなってきたユキヤは、もうここで決めるしかないと考えながら真横から放たれたウルミの一撃を空中で真横に回るように飛び、一点に集中しての突き技を放った。
「───突きの型 炎陽突ッ!」
放たれた突きがウルミの刃を貫き、そのまま刃を横に回し一閃するとウルミの薄い刀身が切り落とされ宙を舞った。
片方の刃が切り落とされ、宙を舞ったのを見たエルミナはならばともう一本のウルミをユキヤに向かって放つと、ただその場にたっているユキヤを貫いた。
「なに、この手応え?」
やった、そう思ったエルミナだったがその手に伝わってくる感触は、まるで空を斬ったような感触だった。そう思った瞬間、刃に貫かれたユキヤの姿が消える。
「えっ、ウソ消えた!?」
その驚きの表情は年相応の少女のようだと、一瞬の出来事に観客たちは思わず実言ってしまっていると
「体移動の型 朧霞だ。そしてこれが───斬激の型 桜花一刀ッ!」
消えた残像の変わりに現れた本物のユキヤは、伸ばされたウルミのすぐ真横に立つと緋影を真っ直ぐ振り上げ、そして勢いよく下ろされた。
放たれた振り下ろしがウルミを半ばから切り下ろした。
「ヘッ、これで近付ける!」
「そんなわけ、ないわよ!」
真っ直ぐ走り出したユキヤを前にしながらいくら切り落とされても、リーチはまだこちらが有利だとエルミナは次々に攻撃を放つが、その全てをユキヤは切り返しによって全てを斬り飛ばされていった。
元の長さから半分以上を切り裂いたのユキヤは、このままウルミを全て切り落とし勝負を決めるため、地面を蹴って接近する。
このままではやられると思ったエルミナは、腰に刺さっている一本の剣に眼を落とした。
───これを抜いたら勝てるけど………でも
エルミナは腰の剣を使うのを一瞬ためらったが、その隙にもユキヤはさらに接近してくるのを視て、もう迷っている暇はないと剣に巻き付けられている封印用の縄を引き千切るように剣を抜いた。すると、赤黒い刀身をした剣から黒いもやが溢れだすと吸い込まれるようにエルミナの身体に入り込む。
「うっ、グッ────グアァアアアアアアアア――――――――――――ッ!!」
突然胸を押さえながら苦しみだしたエンネアを前にしながらも、ユキヤはなにかがくる前に倒すと駆けるなかグリンッとエルミナと眼があった。
「───────ッ!?」
その眼を視た瞬間、全身からなにか嫌な汗が吹き出し思わずユキヤは後ろへと飛んでしまった。
「チッ!一体なんだ今のは!?」
自分が感じとった不可解な感覚に困惑しながらも、このままジッと固まっているわけにはいかないと剣を構えて警戒していると、急にエンネアが糸の切れた人形のように全身から力が抜け伏せる。
いつくる分からないなか、ユキヤはエルミナが握っている不気味に光る赤黒い剣を凝視し、その中からあふれでる禍々しい気配に思わず顔をしかめている。
「んだよ、あの剣?アーティファクトか」
それにしてはなにかおかしい、そう思いながらもこのままなにもしないわけにもいかないので、卑怯だなんだと罵られようとも試合中に呆ける相手が悪い。
緋影に闘気を纏う要領で緋影の刃に闘気で作った刃を乗せ、疑似の大太刀を作り出したユキヤは両手で緋影の柄を握ると、頭上に掲げながら勢いよく振り下ろす。
「ちゃんと避けてくれよなッ───大太刀の型 流星群ッ!!」
大太刀となった緋影が振り下ろされると同時に無数の闘気の衝撃波が放たれる。一応は、無抵抗な相手を斬るのは忍びないということから、そう言ったユキヤだったが正直な話し、これ以上は時間をかけないためにもこれで終わらせたい気持ちもある。
放たれた衝撃波が地面を破壊し砂塵を上げていくなか、衝撃波が迫っているというのにエルミナは未だに動こうともしない。このままで技が当たれば勝負が決まる。
だがこんな無抵抗な相手に技を当てて勝負を決めての巻くひきはユキヤとしてもいささか不満はあったが、これは試合なのだと、どこか自分自身に言い聞かせるようにしながら技を放った。だが、技が決まろうとした瞬間、グリンッと眼を見開いたエルミナが一瞬にしてその場から消え去たかと思うと、すぐ目の前にまでのエルミナが接近していた。
「────────ッ!!」
突如目の前に現れたエルミナが真下から剣を振り上げるのを見ていたユキヤは、わずかに遅れながらもその一撃に反応し身体をずらすことによって交わすことができたのが、剣が振り下ろされたと同時に地面が真っ二つに切断され、遥か後方に広がっていた観客席が崩れ落ちた。
「なっ!?」
ガラガラと崩落する観客席、怪我人が出たのか騒ぎだす観客たち、このスタジアムは安全のために防御結界が貼られているはず、なのにそれが意味をなさずに切り落とされた。
これは不味いと思ったユキヤが審判に試合を止めるようにと叫んだ。
「おい審判!試合を一時─────ッ!!」
「させない」
短く発せられたその言葉と共に振り上げられた剣、今度はそれを避けるのではなく緋影で受け止めたユキヤは、真っ正面から放たれた斬劇を一新に受け止める。
「うぐッ!?んだよ、こいつはッ!?」
ギリギリと押し込まれる度に見えない斬激がユキヤを刻み、さらには膠着状態であるこの至近距離から放たれる闘気の斬劇が身体中を駆け抜け、傷口から血が溢れだしユキヤは顔をしかめる。
今はまだユキヤも闘気で身体を覆うことで守っているので薄皮を斬られる程度だが、だんだんと闘気の刃が鋭さを増し深い傷が身体に刻まれていくのを感じたユキヤはこのままでは不味いと思いながら、エルミナの方を見てユキヤは驚きからハッとさせられる。
「ふ、ふふふっ、ふへへへへッ」
不気味に笑っているエルミナの顔にはユキヤやスレイが持つ刻印が広がったときと同じ模様が浮かび上がっており、さらに眼は黒く光っている。これはあの剣の効果なのか?そう考えるユキヤだったが、突如エルミナの剣が怪しい光を放ち出すのを視てこれは不味いと全身が訴えかける。
「クソがッ!」
「消え去れッ!」
「────体移動の型 朧霞ッ!!」
エルミナの赤黒い剣から放たれた光がユキヤどころか、その背後の観客席にまで消し飛ばしたが咄嗟のところで一撃をかわしたユキヤだったが、今のでいったい何人が被害にあったのかそれを想像して、未だに精気もなくただ斬りかかってくるエルミナを前に、緋影でその剣を弾き後ろへと飛びながら叫ぶ。
「アハハハハッ!私は、強い!強いのよッ!」
「クソッ!いったいなんてことをしてくれんだッ!───斬劇の型 烈風月下斬ッ!」
振り抜かれた無数の斬劇の刃がエルミナの足元を駆け抜けると、踏み込もうとしたエルミナの足元に亀裂が走り、そのまま瓦礫と共に穴の中へと落ちていった。
それでも時間稼ぎにかならず、その間に試合を止めてエルミナをもとに戻す方法を考えなければならないのだが
「おいユキヤ!観客はみんな避難させたから安心しして、まわりもユフィたちが避難を進めてるからそっちはそっちで全力で戦えッ!」
「ヒロ!?」
その声の主はユキヤの親友のスレイだったが、いくら観客を避難させているからといってこんな危ない状況で試合など出きるはずもなく………
「んなこと言ってる場合じゃねぇよ!さっさと試合を止めてこっちこいよこのバカがッ!」
意味の分からないことを言っている親友に向かってキレるユキヤだった。
それに対して、せっかく観客を避難させてくれているというのにこの言い種とはなんだ!ッと、スレイは心のなかで思っていると
「アッ!」
「ハッ?───なッ!?」
スレイが視てユキヤが後ろを振り返ると、穴から脱出したらしいエルミナが真上に剣を構えて突っ込んでくる。
「よくも落としてくれたわね!!」
「チッ!もう出ていやがったかッ!」
「クフッ!?」
それを緋影で受け流しながらもう剣だけで戦っていられるかと、おもいっきりエルミナの腹部に蹴りを当てて蹴り飛ばしたユキヤ。
さすがに手加減などしていられず割と本気で蹴り飛ばしたユキヤに、スレイだけでなく避難させていたユフィたちも、思わず足を止めて思いっきり引いた。
「ちょっとレンカ、さすがにそれは……」
「無しじゃろ、妾も引いておるぞ旦那さま」
「女の子を蹴るだけでのあれなのに、お腹を」
「はっきり言って鬼畜でござるな」
避難活動に参加していたアカネたちも、さすがに今のは見過ごせずヒソヒソと話し合っているのだが、試合のために全神経集中していたせいで一字一句聞き逃さなかったので、後で絶対に文句を言ってやる。
っと、ユキヤが胸のなかで呟いていると、背後から凄まじい怒気を感じ振り返る。
「やってくれたわね、お返しよッ!」
「こいつ、急にキャラ変わりすぎだろッ!───斬劇の型 雷光一閃!」
身体を低くしながら走り出し雷光のごとき神速でエルミナの真横を駆け抜けたユキヤは、緋影の背でエルミナの腹部を切り抜いた。だが、手応えからして闘気によって防がれた。
「痛いわ」
「いたいですむかよ普通ッ!───斬激の型 流水」
放たれるエルミナの剣を受け流し、向けられる力のすべて受け流している。ついでに剣を受け流すついでに闘気で剣から放たれる力を誘導して避難活動にいそしんでいるスレイに当たるように受け流した。
「ん?うわっ!?なにすんだよこのバカ!」
咄嗟に黒幻と白楼で斬激を切り裂いたスレイは、こんなことをしてくれたユキヤに叫ぶとそれを聞いたスレイも叫び返した。
「だったらちゃんと説明しろ!こいつはどうしてこうなったんだ!!なにか知ってんだろッ!!」
「時間がないんだっての!説明は後でゆっくりしてやるから!そのこの剣が元凶だから、それをなんとかしろ!!」
「やっぱ、あの剣のせいかよ!!」
やっぱりかと思いながらも、ようやくこの惨事を止められることに勝機を得たユキヤはこの一撃で決めると考えながら、″流水"によっエルミナの剣技を受け流しその状態から真上に構えた緋影を振り下ろす。
「───斬激の型 月下衝波斬ッ!!」
「くッ!?」
緋影に闘気を纏わせたユキヤが真下へと振り下ろすと同時に、緋影の刀身から放たれた闘気の斬激がエルミナに向かって放たれると、当たる前に後ろに飛んでかわした。
空いた隙に緋影を鞘に収めたユキヤは、眼を瞑りながら大きく前傾姿勢になるように身体を屈めながら一気に地面を蹴りエルミナの元にまで駆け抜ける。
「負けないわよッ!」
「こいつで終わらせる。───混成居合の型 無明絶華・絶影ッ!」
鞘から抜いて振り抜いた緋影の刃がエルミナの剣を弾くと、そのまま刃を返し一瞬で放たれた無数の斬激はエルミナの腕を打ち付け、指から腕、そして肩と鎖骨を砕いた。
骨を砕かれ剣を握っていられなくなったエルミナは、ポロリと剣を取りこぼしそうになりあわてて拾おうとしたが
「もうやらせねぇって!───斬激の型 桜花・春嵐」
振り上げられた緋影から放たれた嵐のような斬激がエルミナを捉える。
「きゃっ、キャアアアアアーーーーーーッ!?」
悲鳴を上げながら吹き飛ばされたエルミナは、スタジアムの壁に叩きつけられそのまま意識を失った。
「はぁ、はぁ………はぁっ………これで、終わった………んだよな?」
あの不気味な剣はここにある。
エルミナの顔にあった刻印のような模様も、今はきれいに消え去っているので先ほどのように立ち上がって襲ってくることもないだろう。
そう安心したユキヤは緋影を鞘に収めてから、エルミナが取りこぼしたあの剣を見下ろしながら
「結局こいつはいったい」
なんだったんだ?そんな疑問を口にしながら、ユキヤはゆっくりとその剣を拾い上げるために手を伸ばそうとすると、
「ユキヤッ!その剣に触ろうとするな!!」
「あぁ?」
そう叫ぶのはこちらへと向かって駆けてくるスレイだったが、なぜそんなことを言うのか分からないユキヤが聞き返そうとしたとき、伸ばそうとしていた手になにかが巻き付いてくる。
「なにッ!?」
ユキヤの眼に写ったそれは、剣から伸びた影のような黒い帯状のものだった。




