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剣聖祭 最後の四人

 氷の大剣を握ったことにより氷を纏ったウルスラに対して、ウィルナーシュとヴァルミリアの両方の刻印を解放したスレイは、再びスタジアム中央にて激突した。炎を宿した二振りの剣と氷の力を内包した大剣が斬り結ぶと同時に、凄まじい熱と冷気が吹き荒れる。

 スレイの背後には氷の大剣から吹き荒れた冷気によって凍てつき、ウルスラの背後で二振りの剣から溢れだした熱により地面が焼け焦げる。

 相反する二つの力がぶつかり合いながらも、スレイは次の行動に移すべくウルスラの大剣を押し返す。

 そして、剣を押し返されてわずかに体制が崩れたところで斜め上に飛んだスレイは、空中で回転しながら左右の剣を右上から切り下ろす。

 全体重と空中からの回転切り下ろしを放ったが、ウルスラの腕力からなる大剣の払い上げで押し退けられスタジアムの端にまで吹き飛ばされたスレイが立ち上がると、パリンッとなにかが砕ける音が聞こえてくる。

 音のした方を見ると魔眼対策という方便で──もちろんユフィたちは分かっている──未だに身に付けていた仮面付きのコートの裾が凍りつき砕けていた。

 いくら黒幻と白楼にしか炎を纏わせていなかったとは言え、炎系統の魔法のなかで最高の高温を有する業火の熱量を有に越える冷気とは恐れ入った。


「良いねぇ、俄然やる気が出てきましたよ」


 立ち上がりながら黒幻と白楼に業火の炎よりも強力な聖闇の炎を流し込むと、氷の大剣を真横に引き絞るように構えながら突っ込んでくるウルスラに向かって駆け出す。


「真向勝負ってのもいいもんだろスレイ!───烈風氷覇斬ッ!」

「お望みとあらば喜んで受けますよ!───竜王激進撃っ!!」


 聖闇の炎で形作った竜を纏った黒幻を突きだしたスレイと、両手で握った大剣を真横から振り抜くと同時に吹き荒れる剣圧と大剣からあふれでる冷気を纏った斬激が重なり合うと、先ほどと同じく熱風と冷気が激しくぶつかった。

 ギリギリとウルスラの大剣を押し始めるスレイは、このまま力で大剣を押しきろうと黒幻を握る手に力を込めるスレイだったが、先程よりも高温の熱を与え続けたせいか炎と氷の魔力が爆発した。


「グッ!?」

「ぅおおっ!?」


 爆発を受けて後ろに吹き飛ばされたスレイは、自分に当たると熱湯のような雨粒を触りながら先ほどの爆発について考察する。

 原理は水蒸気爆発に近い。炎の熱と氷の冷気によって空気が急激に暖められ、そして冷やされたことにいって引き起こされた。これが最初の一撃で起こらなかったのは、先程は炎との火力よりも氷の冷気が勝っていたためだろう。

 今この大気中には多量の水分を含んでおり、爆発の影響で起きた白煙によって視界はかなり悪いが、竜眼を持つスレイにはこれくらいの障害はハンデにもならない。

 両手に握る黒幻と白楼に雷と業火の炎を纏わせたスレイは、そのまま弧を描くように旋回してウルスラの背後に回り込んだ。


「ハッ!そこかスレイッ!!」


 背後から忍び寄ってくるスレイの足音に気づいたウルスラが氷の大剣を振り抜くと、剣圧が吹き荒れたと同時に地面が凍りつき剣山のごとき氷の刺が作り出され、ウルスラは完璧なタイミングで入ったと思ったが、そこにスレイの姿はどこにもなかった。


「いないだと!?どこに言った!?」


 いったいどこに消えたのかとウルスラが視線を巡らしていたとき、真上からパチパチと静かになにかが弾けるような音が鳴り響いた、

 バッとそちらに視線を向けたウルスラがみたのは、自分では決して届かないほどの高さに跳躍したスレイの姿であった。それと同時にウルスラは上をとられただでなく、あの剣に纏う黒雷は危ないと直感する。


「俺を守れ───氷花ッ!!」


 氷の大剣を逆手に持ち帰り両手で握りながら氷で作り出したドームの中に隠れるが、スレイはそれを見ても尚、この一撃を放つべく黒雷を纏った黒幻と白楼を振り上げ、そして闘気を剣に流しながらスレイは勢いよく両の剣を振り下ろした。


「───黒雷ノ竜撃ッ!」


 振り下ろすと同時に放たれたと同時に黒雷を纏った闘気の斬激が形を変え、氷のドームの中に隠れるウルスラを襲った。

 ドゴォーンッと巨大な地鳴りと共に降り注いだ雷撃によって地面は焦げるなか、氷のドームだけは炎の熱によって溶けてはいたがそれでも形をしっかりと保っていた。

 空中から落下し着地したスレイは、さすがに死んだか?ッと思いながらもう一度攻撃してドームを破壊しようか、そう考えているとドームが形を変えて中からウルスラが出てきた。


「うぉ~あっぶねぇあぶねぇ。全く、俺を殺す気かよ」

「そこまでやらなきゃあなたは倒せませんからね。行きますよウルスラさん」

「ハッ!さすがはフリードの息子だ。こいよ、全力でぶっ殺す!」


 殺す気でこい、殺気と共に放たれるその意識を読み取ったスレイは左右の剣に聖闇の業火と共に竜のオーラを纏い、白楼をとこれで終わらせると言う意思を込めた殺気を放つと、ウルスラも小さく口許を吊り上げ大剣を両手で握りながら真上に構える。

 準備はできた。

 全身から闘気を纏わせたスレイは一気に地面を蹴り駆け抜けると、白楼を真後ろに黒幻を水平に構えながら駆け抜けるとスレイが飛び込んでくるタイミングに合わせて氷の冷気を纏った大剣を振り下ろした。


「押し潰されろスレイ!────氷花・大切斬ッ!!」

「今さら、そんなの当たりませんよ!────竜王剛炎斬ッ!!」


 自分に向かって振り下ろされる大剣に向かって放たれた白楼の振り上げると、純白の刀身から放たれたそして氷の大剣を真上へと押し上げた。


「ぅおっ!?」

「ここだぁ────聖闇の突撃ッ!」


 聖闇の業火を纏ったスレイの黒幻で狙ったのはウルスラの握る大剣の柄頭、そこに一点に魔力を注ぎ込みながら突きだすと、握りに力を込めていたウルスラからギリッと歯を食い縛った。


「ぐっ、ぐぉおおっ!?」

「弾けろッ!」


 スレイが黒幻の中に押さえ込んでいた業火の炎をすべて氷の大剣に向かって流し込むと、先ほどと同じように小さな爆発が起こった。


「なっ!?」


 爆発が起こった瞬間にとっさに剣を放したウルスラだったが、爆発によって氷の大剣が彼方へと吹き飛ばされてしまった。

 まだ間に合うか、そう考えたウルスラは後ろに飛ばされた大剣の元にまで向かおうとしたが、それよりもさきにシュッと風を斬る音と共に突きつけられ、ウルスラは満足の言った顔をしながらソッと両手をあげた。


「俺の敗けだ」

「えぇ。ボクの勝ちですウルスラさん」


 戦いの激しさと、凄まじい攻防に思わず本来の仕事を忘れて試合に視入ってしまっていた審判だったが、スレイとウルスラの言葉を聞いた審判がピッと旗を持った手を頭上に掲げる。


「そこまで!勝者───スレイ・アルファスタッ!!」


 審判のその宣言を聞くと同時に、観客席からはこの激戦を制したスレイを称えるべく割れんばかりの歓声と拍手喝采が鳴り響くなか、スレイは突きつけていた黒幻を鞘に戻すとスッとウルスラが手を差し出してきた。

 その手を見てからウルスラの顔を見ると、なんとも清々しい顔をしているのを見てスレイは差し出した手をギュッと握り返した。


「いい戦いをありがとうよ、スレイ。俺に勝ったんだぜってぇ剣聖になれよな」

「勝負は時の運………何て言いたくはありませんけど、残ってる相手を見る限り断言はできませんよ」

「ハッハッハッ!そういうときは、ウソでもいいから剣聖になってやるって言えよな?」

「そうですね。必ず父さんたちを倒して剣聖になってみせます」


 ニカッと笑ってみせたスレイを視て、それを視て同じように笑ってみせたウルスラ。二人のその姿を視て再び会場は沸き上がった。



 最後の試合が終わって一時間ほど、ようやく昼食にありつけたスレイはライアに買ってきてもらった串焼きとサンドイッチをいくつか食べ終えると、残りをジュースと一緒に飲み干した。


「ふぅ………おいしかったけど、やっぱりちゃんとした料理を食べたかったかも」

「……ん。それじゃあ終わったらレストラン行こ。もちろんスレイの奢り」

「別にいけどさぁ、今日はレストランじゃなくて街の定食屋でガッツリとしたのが食べたいんだけど」

「おや、スレイさまのお口からガッツリと食べたいなどお珍しい。ライアさまとラーレさまなら分かりますが」


 そうラピスが告げると、少しはなれたところでレイネシアと一緒にアイスを食べていたラーレが叫び返していた。

 そんな声を横にして確かにスレイは普段レイネシアのためにとちょっと甘めの味付けや、家族みんな成長期と言うことあって栄養面を考えた料理を作るようにしていた。

 だが今日は違うのだ!今日だけはそんな考えを殴り捨ててでも、ウルスラとの激戦を終えて疲れまくった身体が安くて濃い味付けの料理を求めやまないのだ!


「今日だけは、今日みたいな日は冒険者御用達の酒場か食堂で作った味の濃いステーキとか、シチューとかそんな料理が無性に恋しくなってきた」

「うちじゃ絶対にとは言わないけど、あんまり作んないもんねぇ~味の濃い料理って」

「まぁ、こういう日は食べたくなりますよね」


 リーフも騎士団にいた頃に食堂で出た料理などは濃い味付けの料理が出てくることが多かった。

 ついでにはなしをきいていたソフィアも、なにかを思い出した。


「冒険者の食堂か~、あそこってたまに当たり外れがあるよな。筋ばっかの肉とか、脂しかない肉とか。でもたまに当たりを引くとスッゴいうまい店とかあるんだよな」


 なんでそんな店の情報を一国のお姫さまが知っているのだろう?と、話を聞いていたスレイたちは思ったが口に出さなかった。


「あんた、マジでお姫さま?なんでそんな店の情報に詳しいのよ?」

「ぼくって国じゃ放蕩王子の異名を持っててね。よく城を抜け出して下町をブラついていたからさ」

「前々から思っていたのですが、ソフィアお姉さんって今でよく拐われたりしませんでしたよね」

「小さい頃から下町で遊び回ってたからし、ぼくを拐っても良いことなんかないからね」


 この人マジで言ってるのかと思ったスレイたちだったが、あの顔はマジだったので敢え追求はしないことにしたのだった。

 そんな話をしていると後ろから誰かが近づいてくる足音を聞き、スレイが振り替えるとなにやら神妙な赴きのユキヤがこっちに来いと指を指している。そのときのユキヤの顔は、まるで不良学生がちょっと校舎裏まで来いと、冗談ではなくわりとマジで見えるような顔だった。

 アレは行かないとあとが怖そうだと思ったスレイが立ち上がると、みんなの視線がスレイのところに一斉に集まった。


「どうかしたんですか?」

「ユキヤに呼ばれた。ちょっと行ってくるけど、心配しないでね」

「そっか。行ってらっしゃい。それといつもみたいに些細なことでユキヤくんと喧嘩なんかしちゃダメだからね~?」

「いつもって、そんなことしてませんっての!」


 なんだいつもって、そんなにユキヤと些細なことで喧嘩することなどやりあうなど………数えるほどしかしていないはずだと、スレイは心のなかでユフィにツッコミをいれていたりした。




 ここでは話しをするのはあれだからと人気のないところに向かったスレイとユキヤは、裏通りの壁に背を向けながら話し始める。


「そんで、どうしたんだよユキヤ」

「テメェが手を結んだあの使徒たち、アレから連絡はあったのか?」


 話しがあるから何事かと思ってはいたが、まさかユキヤの口から使徒の話題が出てくるとは思わなかったスレイは、キョトンとした顔をしてユキヤの顔をみているとギロッと睨んできた。


「おいヒロ、テメェ。なんでそんな顔をするんだ?」

「いや、お前の口から使徒の話題なんて出たもんだからちょっと驚いただけで他意はない」


 そう断ってから表情を戻したスレイは


「今のところ、あの二人からはなにも連絡はないけど、あの二人に限ってあいつに返り討ちにあった。なんてことはないだろうけど、ちょっと心配だな」

「あいつらを心配することはねぇと思うが、もしあの野郎に殺られてたとしたら今頃は」

「もうこの辺りは目を覚ました魔物によって壊滅してるだろうし、不穏な気配も感じないからまだ今のところはあいつは動けていないとみていいと思う」


 まぁそれはあくまでもスレイの見立ての話であり、実際はすでにウルクソルヴェもキーアベルもあいつに負けて消滅しており、イブライムによるこの国の滅亡のカウントダウンが始まっている………のかもしれない。まぁ考えすぎと言われればそれまでかもしれないが、あいつの嫌らしさなんども味わってきたからこういうこともやりそうだというのが分かる。


「そういやぁ、話は変わるが結構前に預けたあの短剣、解析の方はどうなってるんだ?」

「短剣?………あぁ、あれか」

「おい、忘れてんじゃねぇよ!」


 今度こそぶちギレたらしいユキヤが黒刀を取り出そうとしたのをみてスレイが慌てて言いなおる。


「いや、アレはユフィが解析をやってるからボクは詳しくは知らないだけなんだって!」

「んだよ………で、どうなんだよ解析の方は?」

「なんだか苦戦してるみたいだったよ。いろんな資料を引っ張りだしたり古代語なんかの古文書も引いてたけど、分からないことが多いみたい」


 前に少しだけユフィの手伝いをしてしっているのだが、あの短剣に刻まれている魔法文字は今使われている物よりもさらに古い、古代魔法文字と呼ばれるものだった。


 ここで一度今の魔法文字として使われている古代エルフ文字と、この短剣に刻まれている古代魔法文字との違いを説明する。

 この古代魔法文字とは初めてエルフが作り出した最初の文字と言うのは以前説明したが、アレには続きがあった。

 最初にエルフが作り出した魔法文字は世界の現象を操るほどに強力な術だとされている。

 たったひとつの術で天候を操り、海を割り、大地を焼き払った。

 その力を危険視したエルフたちが制御するためにと改編され、安全性を考慮して作り出されたのが今の古代エルフ文字である。そして、その危険性から古代魔法文字について記された書物は極端に少なく、一部の書物は禁呪指定されているものもあるほどだ。


「桜木がお手上げってことは、あの短剣は当たりってことか」

「用途の分からない武器ほど危険なものはないよ」


 そうスレイが答えると、懐にいれていたプレートから通信の入った音が聞こえてきた。画面をみると、ユフィの名前が表示されていたので迷わずそれを繋げると、映し出された映像にユフィに顔が写る。


『二人ともお話し終わった?』

「あぁ。終わってるよ。それより、どうかしたのユフィ?」

『どうかしたのって、そろそろ戻ってきた方がいいと思ったんだけど?』


 そう言われて懐から懐中時計を取り出したスレイが時間をみてうなずいた。


「ありがとう。すぐにそっちに戻るから」

『了ぉ~解~、みんなと待ってるからはやくきてね~』


 プツンッと映像が切れたのをみてプレートを懐に戻したスレイは、ユキヤの方に向き直った。


「じゃあ戻ろっか」

「そうだな。遅れたら洒落にならん」


 そう言いながら並んで歩きだした二人だった。



 その後、スタジアムにて行われた表彰式後のくじ引きにより決勝トーナメントの組み合わせが決まった。

 第一試合スレイ対フリード。

 第二試合ユキヤ対エルミア。

 ッとなった。

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