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タイラント・レックス ②

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 時は遡り、タイラント・レックスの咆哮によって全員が麻痺してすぐのこと、後衛に待機していたノクトたちもその咆哮の余波によってしばらくは動けないことを覚悟したが、次の瞬間ノクトたちの頭上に現れた一つの魔方陣、そこから放たれた淡い光によって使い物にならなくなっていた耳の調子が戻ってきた。

 数百人をたったひとつの回復魔法で同時に回復させる。そんなことが出来るのは"聖女の再臨"フィーネ・フローラしかいなのだが、その際に使った回復魔法の魔方陣、それを見ていたノクトはギュッと自分の握る杖に力が籠る。


「今の魔方陣、初級の回復魔法ヒールでしたよね」


 通常、ヒールには怪我を治すだけの治癒能力しかなく、耳鳴りなどの軽度の障害はリカバーのような状態異常でなければ治せないはずなのだ。それなのにフィーネはただのヒールだけで治してしまった。

 先ほどから次々と運ばれてきた負傷者の治療を、フィーネと共に行っていたノクトはその横で見てしまったフィーネの地癒術士としての技量を、これが冒険者の頂きにに座する当代最高のヒーラーなのだと思い知らされると同時に、同じヒーラーであるフィーネの技量の高さを前にしてノクトはただただ、自分の力量のなさを改めて実感させられてしまった。

 そんなとき、ノクトたちの目の前に無数のゲートが開かれ中からは全線で魔物たちを押し留めていたはずの冒険者と騎士たちが現れると、肩口から血を流した兵士を担ぎ遅れてやってきたスペンサーが叫んだ。


「おいここに怪我人がいる!誰でも良いから速く治療をしてやってくれ!!」

「スペンサーさん!わたしが治療しますので、こちらお連れしてください!」

「済まんが、頼んだぞストラトス!」


 スペンサーがノクトの近くに怪我人を寝かせると、ノクトが治癒魔法を使って怪我人の治療を始めると、自分たちもなにかできないかと考えたラピスがラーレとライアの方をみると、二人ともラピスと同じことを考えていたのか顔を見合わせながら三人が同時にうなずく。


「スペンサーさま。わたくしも多少でしたら治癒魔法が使えます」

「オレもポーションならいくつかあるから少しは役にたてると思うぜ」

「すまない、お前たちも行ってくれ」


 二人がスペンサーの要望に答えるように怪我人の元に走っていくと、ライアはノクトの手伝い兼護衛としてここに残るといった。


「怪我人はまだ大勢いるぞ!治癒術士だけでなく魔法師団全員で怪我人の治療に当たれ!そこで呆けている騎士団!お前たちも呆けてないで治療に当たれ!仲間をこれ以上は死なせるな!!」

「「「「「ハッ!」」」」」


 スペンサーが魔法師団の面々と呆然と立ちすくんでいた騎士団に渇を入れると、正気を取り戻したらしい騎士や兵士がポーションなどを使って簡単な治療を始めている。この場にいる全員に渇を入れたスペンサーも怪我人の治療をするためにと奔放する。


 治療を行っていたノクトは、今までの戦いで培ってきた治療技術、そしてスレイとユフィ、それにクレイアルラから学んできたものを全てだしきって治療に当たった。ノクトは今までにないほど全神経を集中させ治療に当たっているため、額から流れ落ちた汗が頬をったってポタポタと地面に落ちて行く。

 そんなノクトの隣では、なにか出きることがないかとノクトの側にいたライアが今までにみたことのないような必死な形相のノクトを心配そうにして見守っていた。


「……ノクト、汗すごい。拭こうか?」

「大丈夫です……それよりもわたしのポーチの中にあるポーションをこの人に振りかけてください。傷が深すぎて、わたしの治癒魔法だけじゃ傷を塞ぐには時間がかかりすぎます」

「……分かった。これでいい?」


 ライアがノクトのポーチの中からは取り出したポーションを見せると、ノクトは黙ってうなずいて見せると瓶のフタを開けて中身を怪我人の傷に振りかける。するとノクトの治癒魔法と相まって傷がだんだんと塞がっていくが、それでもまだ完全には塞がっていない。

 傷ついていた重大な血管や神経はすでに繋がっているため、これ以上の出血はないはずだが傷の塞がるのにはまだ時間がかかるだろう。だが、もう大丈夫だろうと思ったノクトはゆっくりと、そして丁寧に治療をしている。


「うんうん。あなた治癒術士としてかなり腕をしてるわねぇ。さすがはクレイアルラさんたちのお弟子さんってところかしら?」

「えぇ、確かにクレイアルラお義母さんから治癒魔法は教わりましたけど、わたしは弟子では───」


 治療に集中していたノクトがその声に向かって反応しているが、いったい誰に話しかけられたのだろう?そもそも今この場には自分たちしかいないはずなのにと思ったノクトとライアが、バッと後ろを振り向くとそこにはしゃがんでこちらをみているフィーネがいた。


「えっ、クレイアルラお義母さんを知ってるって、えっ、そのまえにどうやってわたしたちのうしろに!?」

「……ん。全然気がつかなかった」


 ヒーラーであってもさすがはSランク冒険者と言うことか、全く気配を感じさせなかったフィーネにノクトとライアが驚いている。


「うふふっ、ねぇ二人ともあそこに行きません?」

「あそこって、もしかしてタイラント・レックスのところですか?」

「そうよ。他にないでしょ?」

「……行きたいけど、私たちが行っても足をは引っ張るだけ、だから行かない」


 フィーネの提案に対してライアがきっぱりと拒否する。ノクトもライアと同じ意見なので行かないと言うことで満場一致だったため、二人はこの場に残ることをつげるのだが。


「あら残念。ちょっと大変そうなことがおきそうな予感がしたから、一人でも多い方がいいと思っていたのに、とっても残念ですね」

「大変なことって、なにがあるんですか?」


 ノクトの質問に対してフィーネはうふふっ、微笑んだかと思うとスッと右目の色が変わっていくのを見て、ノクトとライアはフィーネが魔眼保有者であることを知り、同じ魔眼保有者であるライアが訪ねる。


「……あなた、いったいなにが見えてるの?」

「うふふっ、あなたが見えている物と同じ光景が見えているのかもしれないわよ?」


 そうフィーネがライアを見ながら告げるのだが、フィーネがどんな魔眼を持っているのか分からないが今の発言狩らしてライアと同じ未来を視る魔眼かもしれない。

 ならばとライアも魔眼を使って未来を視た瞬間、ブワッと全身から汗が吹き出し口元を押さえながら地面にうずくまった。


「ラッ、ライアさん!?どうしたんですか、いったいなにを視たんですか!?」

「───ッ!?ハァ………ハァ………今のは、いったい、なにッ!?」

「あなたにもあれが見えたのね?」


 フィーネに問いかけられたライアが小さく頭を縦に振って答える。ノクトには二人が何を視ているのかがわからないが、重大なことが起こるのではないかとしか考えられない。


「これを見てもあなたはあの場所に行くきはないの?」

「……ない」

「あなたがそこまで頑なになる理由はいったいなぜなのかしら?」

「……私たちが行かなくても勝てるから。ユフィがいる、リーフがいる。それにスレイがあそこにいるんだから負けるはずはない。ノクトもそう思うでしょ?」

「なにが起こるかは分かりませんが、あそこにはお兄さんたちがいます。だから大丈夫です」


 揺るぎない意思の宿ったライアの眼をみて、ノクトのその言葉に聞いたフィーネは、うふふっ、と笑いながらゆっくりとうなずいて見せた。


「共に信頼しあっているのね。分かったわ。あなたたちの信じる彼がこの未来を変えられるかどうか、見せてもらいましょうかしらね」


 からからと笑っているフィーネだったが、それに反してライアの顔はとても厳しいものであることをノクトは見逃さなかった。



 タイラント・レックスとの戦いを始めたスレイたちは、自分たちの攻撃がタイラント・レックスには届かないことに焦りを感じていた。

 その分厚い皮膚にはスレイの魔法と剣技を合わせた技もリーフの剣技もユフィの魔法も、エヴァンディッシュが魔法によって支配下に置き強化を施されたドラゴンたちのブレスも、人狼となったフィンの爪激も拳もその分厚い竜麟の前では全く通用しないのだ。


 人狼のフィンが放った無数の爪激と拳を凌いだタイラント・レックスは、自身の身体に張り付いているフィンのことを払い落とすが、地面に叩きつけられる瞬間にサッとフィンをかっさらっていく影が一つあった。


「助かったぜジッちゃん!」

「助かったではあらせん。間に合わなんだら今頃は地面の染みになっておったんじゃぞ?」


 投げ飛ばされたフィンを助けたのはエヴァンディッシュの操るドラゴンが一体だった。


「ガハハハハッ!いいねぇいいねぇ!俺のこの爪が気かねぇ相手なんて久しぶりじゃねぇか!」

「えぇいフィン坊!楽しんでおる場合ではないぞい!」

「ワァってるよジッちゃん!───これならどうだ!!」


 フィンが口を開くと幾栄にも描かれた魔方陣が展開されると、氷の息吹がタイラント・レックスの表皮を凍てつかせたがその場で身を捩ったタイラント・レックスは氷を払い落とし、その尻尾の凪払いによって空中に浮かんでいた五匹のドラゴンへと遅い来るが、その前に現れた一つの影と無数の小さな影が間にはいると一つの魔方陣と、それを囲うように展開される無数の小さな魔方陣から現れた物理反射の合わさった防御魔法がそれを受け止める。

 魔法を発動したのは竜翼で空を飛んでいるスレイと、アタック・シェル越しのユフィだったが、タイラント・レックスの尻尾は二人の張ったシールドを容易く打ち破ってみせた。


「くっ、もう破られるッ!?」


 パリンッとシールドが破られ、尻尾が当たる瞬間に空間転移を使ってリーフのそばにまで下がった。


「物理反射のシールドを、力だけで破るって凄いなあいつ!」

「感心している場合ではありませんが、さすがはSランクの魔物と言ったところでしょうか」

「リーフ。次、一緒に合わせてみるか?」

「えぇ。構いませんよ」


 顔を見合わせたスレイとリーフはうなずき合うと、同時にタイラント・レックスにむかって駆け出しすと、すぐに竜翼を広げて飛び上がったスレイと闘気の足場を使って空を駆けるリーフが走る。

 自分に向かってくる二人を見たタイラント・レックスが、自分の身体に生えたトゲを使い斬りつけるが、それを潜り抜けたスレイとリーフは剣に闘気をまとわせ同時に突き技をはなった。


「───竜炎の突撃ッ!」

「───秘技・蒼波烈進激ッ!」


 闘気を纏った翡翠と闘気と漆黒の業炎の竜を纏った白楼が同じ場所を突き付ける。

 ギリギリと火花を散らし合う白楼と翡翠だったが、さすがのタイラント・レックスの表皮、二人の技だったがそれを受けても全く傷が付かない、そう思ったがピキリッと僅かに表皮の一枚に亀裂がはした。


「ここまま押しきるぞリーフ!」

「了解ですッ!」


 二人は闘気と魔力を流し込むと僅かな傷からスレイの業火の炎が流れ込み、身体の内部を焼かれる痛みを味わったタイラント・レックスが苦しみの声を上げた瞬間、タイラント・レックスの口を開けながら空をあおぐと口に魔方陣が描かれる。


「グラァアアアアアアアア――――――――――ッ!!」


 口のなかに巨大な魔力の塊が作られる。まさかあれを放とうとしているのか、そう思ったスレイとリーフがあれが打ち出されるのをどうにかしても阻止しなければ、そう思いながら闘気を解こうとしたそのとき、上空から声が聞こえてきた。


「こっちは私が何とかするから、二人はそのまま攻撃を続けて!」


 剣を突き立てた状態でスレイとリーフが上空を仰ぐと、そこにはボードの上に乗り数百以上もの魔方陣を背にしたユフィが杖を掲げる。


「外がダメなら中からはどうなのかな!────ドラグ・インフェルノ・バースト!」


 ユフィが杖を振り下ろすと同時に背後に描かれた無数の魔方陣が融合し、巨大な一匹の炎の竜を形成しタイラント・レックスの口で形成されていた魔力の塊とぶつかり合った。


「────ッ!さすがに、これ以上は…………」


 巨大な炎の竜と膨大な魔力の塊のぶつかり合いは拮抗しているが、さすがにいつまでもこの状況で魔力が持つかと言われれば、今までの戦いで消費しているせいもあって無理だと答えれる自信がユフィにはあった。

 それを知っているスレイは、少しでもユフィの助けになるならとリーフにこの場を任せるしかないか、そう思いながらリーフの方を視る。


「スレイ殿、こちらは自分一人で何とかします。ユフィ殿の方へ向かってください!」

「………すまないリーフ、ここは任せるよ」


 リーフに言われて転移魔法を使ってユフィの側に行こうとしたそのときだった。


「お困りかなユフィ嬢ちゃん」


 五体のドラゴンを引き連れたエヴァンディッシュが現れると、五体のドラゴンが一斉にブレスを放ちつと、これにはタイラント・レックスも押し負けたかに思えたが、ギリギリのところで耐えていた。


「グガァアアアアアアア―――――――――――ッ!!」


 タイラント・レックス咆哮と共にユフィとエヴァンディッシュの攻撃を押し返そうとしたそのときだった。


「あんまり吠えるんじゃねぇよ、このでか物がァアアア――――――ッ!!」


 その声が聞こえた瞬間、ドスンッと大きな音が鳴り響くと同時に僅かにタイラント・レックスの巨体が揺らいだ。

 その瞬間を視ていたユフィとエヴァンディッシュは、タイラント・レックスの頭上、ちょうど縦長の鼻筋の近くにいる純白の体毛の人狼フィンが、タイラント・レックスに向けて拳を打ち付けたのだ。


「今だぜジジイ!ユフィ!」


 フィンがタイラント・レックスの頭上より飛び降りたのを確認した瞬間、ユフィとエヴァンディッシュは魔力を高めて叫んだ。


「いっけぇえええ――――――――――――ッ!!」

「やるんじゃ!!」


 ユフィの炎の竜とエヴァンディッシュの操るドラゴンたちのブレスが、タイラント・レックスの魔法を飲み込みその口のなかに入り込むと、炎の竜と五つのブレス、そして自身の魔力の塊が合わさり合った結果、巨大な爆発を起こして黒煙があがった。


「グキャアアアアア――――――――ッ!?」


 ユフィの魔法がタイラント・レックスの口のなかで爆発し、その痛みから暴れまわる。すると剣を突き立てていたスレイとリーフもその振動で弾き飛ばされてしまった。

 弾き飛ばされたスレイは竜翼を広げて体勢を整えるが、闘気で足場を作っているリーフはそのまま空中に放り出され落下を始める。不味いとおもッたスレイがリーフの元にまで飛び、落ちる前にどうにか受け止める。


「────ッ!?助かりましたスレイ殿」

「どういたしまして、でもさすがにあれは早くなんとかしないと」


 今までに受けたことのないほどの大ダメージに暴れまわるタイラント・レックス。その巨体が暴れまわるだけでもその地響きはこの地より遠くの町にまで届き、すぐ近くにいるノクトたちにも巨大な地揺れとして伝わっている。

 あれをどうにかしなければ、そう思いながらスレイが考えている中で頭の中でさっきの光景を思いだしながら小さく呟く。


「あれなら、もしかしなくても倒せるんじゃないかな?」

「倒せるってなにをする気ですか?」


 スレイの小さな呟きにリーフが尋ねたと同時に声がかけられた。


「スレイくん!リーフさん!なにか考えてるみたいだけど、策でもあるの!?」

「ユフィ、それにお二人も無事でしたか」


 ボードに乗ったユフィ、それにドラゴンに乗ったエヴァンディッシュとフィンを見ながら、支えていたリーフを下ろして三人の方を見る。

 まだまとまっておらず、さらには本当にあのタイラント・レックスを倒せるのかも分からない賭けの大きな作戦が一つだけあったスレイは、みんなにそれを伝える。


「一か八かの賭けになるけど、ボクとリーフが付けた傷に向かって技を放つ。うまく内部に剣が入ったら、聖闇の炎で内部からあいつを焼き殺す」

「確かに、外内ならばスレイ殿の炎は有効でしたが」

「ただ、あいつの内部から本当に焼けるかも分からないし、失敗したらそれで終わりの賭けだけどね」

「そういうことじゃったら、わしらがあやつの気を引こうかの?」

「いいえ。それは必要ありません」


 スレイが眼をつむりながら両の手の甲に意識を集中させると、全身に刻印が広がり背中に生えている翼がさらには二対、計三対の翼と四本の角、さらには先端が二つに別れた尻尾が生えていた。

 普段はあまり尻尾までは発現させないのだが、刻印を使うと尻尾もこうなるのかと思いながら剣を横に凪ぐと、剣圧によって地面が切り裂かれる。


「スゲェな!スレイ!今度その姿で俺と殺り会おうぜ!!」

「絶対イヤだ!」


 こんな時でも平常運転のフィンにツッコミをいれているスレイは、みんなの方を見る。


「これなら、多分、攻撃を避けてあいつの側にまで近付けるはずです」

「そうか。ならば任せよう」

「では───行きます!」


 スレイが全身に闘気と魔力、それに竜力を巡らせた、文字通りの全ての力をこの一撃に込めるべく、三対の翼を力強く羽ばたかせ暴れまわるタイラント・レックスの方へと飛翔する。




 バサッと遥か後方より翼をはためかせた音を拾ったタイラント・レックスが反転し、自分の方へとむかって来るスレイを見つけた瞬間、この時始めてタイラント・レックスが後ろに下がった。

 自身よりも小さな存在から感じるとてつもない強大な力に、全力で排除しなければと、古より生きる巨大な竜が始めて恐怖する。これ以上近付けては命が危ないと、本能がそう叫んだのだ。


「グラァアアアアアアアア――――――――――ッ!!」


 タイラント・レックスが咆哮と共に魔方陣を展開し小型の魔力弾をスレイにむかって放った。


「それじゃあ今のボクは止められないよ」


 黒幻と白楼に闘気を纏わせその上に聖闇の業火を灯らしたスレイは身を起こすと、白楼を脇に抱えるよう構え黒幻を肩に構えながら技の名前を叫ぶ。


「行くぞ────双牙・竜皇の連激ッ!!」


 次々に打ち出される魔法を聖闇の炎を纏った二振りの剣で打ち払っていくスレイ。自分に振りかかる攻撃のみ切り裂き後ろは顧みない。その理由は、後ろにいるユフィたちが魔法の追撃をしている。


「────ウォオオオオオ―――――――――ッ!!」


 スレイが叫びながらタイラント・レックスの魔法を切り裂きながら翼を強くはためかせ接近する。

 タイラント・レックスがこれ以上スレイの接近させないために、口を大きく開くと先程の放とうとした物と同じ大きさの魔力の塊を作り出す。これを使いスレイを仕留めようとするのだが、魔法が完成する直前に魔方陣に漆黒の業火が燃え上がり爆発を起こした。

 爆発によってその巨体を傾けたタイラント・レックスは、視界の端でとても小さななにかが輝いたのが見えたと同時に、それが一斉にタイラント・レックス横顔に突き刺さると、それは無数の魔方陣が浮かび上がった。


「ソード・シェル・弐式───インフェルノ・ブラストッ!!」


 スレイが空間収納より取り出した追加のソード・シェル・弐式、数は最初に使ったの物の倍にも昇る数百ものソード・シェルが一斉に爆発を起こし、タイラント・レックスの横頭を爆発でぶっ飛ばした。

 魔法が当たり爆煙を吹き上げるが、その爆煙を振り払うようにスレイにむかって攻撃を返そうとしたのだが、そこにスレイの姿はなかった。


「こっちだ!」


 真上から聞こえてきたスレイの声にタイラント・レックスが頭を上げると、遥か上空、雲にまで届く距離まで上昇し背から倒れるように下へと降りる。このままでは不味いと思ったのか、タイラント・レックスが再び巨大な魔力弾を作り出し放った。

 落下の勢いと三対の翼による羽ばたきによって加速したスレイは、両腕を眼前に持っていき黒幻と白楼の切っ先を重ねる。二振りの剣に闘気と漆黒の業火と黄金のようにも見える白銀の聖火の炎を織り混ぜた聖闇の炎を纏うと、炎と闘気がスレイを飲み込み巨大な一匹の竜へと変貌させる。


「おわりだッ!!───飛翔・竜皇激ッ!!」


 巨大な炎の竜と巨大な魔力弾がぶつかり合いその衝撃によって木々が揺れる。技と攻撃はお互いに爆発を起こしながら消し去ったが、そのなかにいたスレイは落下の勢いをそのままにタイラント・レックスへと突っ込む。

 狙うはスレイとリーフがその身に付けた傷、だがタイラント・レックスもただでは殺られない。ビュオンッと風を斬りながら振るわれた巨大な尻尾の一撃は、まりで一本の巨大な剣のようにスレイを切り裂こうとしたのだが、尻尾が振るわれたそこにスレイの姿はどこにもなかった。


 ドスンッ!


 強い衝撃とともにタイラント・レックスは自分の身体になにかが刺さったことに気がついた。僅かに見えるそこには、自分が排除しなければと考えていた一人の人間の姿があった。


「消え去れ!」


 二振りの剣を突き立てたスレイは、ありったけの魔力を込めた聖闇の炎をタイラント・レックスの中へと流し込んだ?


「グガァアアアアアアア――――――――ッ!!」


 断末魔の咆哮と共にその巨体が倒れたタイラント・レックスを見下ろしたスレイは、ようやく終わったと思いながらみんなにも見えるように黒幻を高く掲げると、その瞬間を視ていた多くの冒険者や騎士、魔法師団から喝采の声があがった。




 山のように巨大なタイラント・レックスの上に座ったスレイは、やって来たユフィたちに手を上げながら出迎える。


「お疲れ様、魔力と闘気は大丈夫?」

「ちょっと使いすぎたけど、待ってる間に休めたから少しは回復したから平気だよ」


 立ち上がったスレイはタイラント・レックスを見ながらこれをどうするかと呟いた。


「これの配分ってどうなるんですかね」

「本来ならば倒したスレイ殿の総取りですが、お一人で倒したわけではありませんしね」

「この場合はスレイ坊が五割、残りをわしらで分配ということになるはずじゃ」

「こいつの換金額の五割………考えただけでも恐ろしいな」


 どんなに攻撃しても全く傷つかなかったこの鱗一枚でも飛んでもない金額になりそうなのに、これ全体の半分となるとどうなるか、考えただけでも恐ろしい。


「しっかしこいつを焼き殺すってのもスゲェな!よしスレイ!俺を戦おうぜ!!」

「ぜってぇイヤだ!」


 フィンとの戦いは勘弁してほしいと思いながら、これはどうするのかとエヴァンディッシュに確認を取るとギルドの職員に任せればいいとの事なので、帰ろうかと思ったスレイたちはタイラント・レックスの死体の上から飛び降りようとした瞬間、とてつもない冷酷な気配を感じ振り返ると、スレイたちの眼に飛び込んできたのは信じられない光景だった。


「ごふっ」


 凶悪な腕によって背後から胸を貫かれたエヴァンディッシュがそこにいたのだった。

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