タイラント・レックス
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世界五大陸に同時に現れたSランクの魔物に対抗することになった。
スレイたちの暮らす北方大陸に現れたのは地球で言うところのティラノサウルスのような魔物、タイラント・レックスとそれに付き従うように進軍してくる数万の魔物大軍。それに対抗するため、北方大陸のSランク冒険者と国中から集められたスレイたち冒険者、それに各国の騎士団や兵士、それに軍人を含めた数百人で、数万もの魔物との戦うことになった。
初めの内は人側が押していたのだが戦いが始まって一時間ほどが経過したとき、だんだんと魔物側が押し始めてきた。
「わかってたけど、押されだしてきたな」
冷静に魔物を倒しているスレイは、いつかこうなるのはわかり切っていた。
普段から魔物との戦いに慣れている冒険者でも、ここまでの大群と戦う事自体がまずない。
それが騎士や軍人ならばなおのことだ。
数では圧倒的にこっちが不利倒、倒しても涌き出るように襲いかかってくる魔物の群れ、さらにはそれを従えている強大な力を持ったタイラント・レックスの影、更にはいつ後ろから打たれるかわからない恐怖。
今まで体験したことのない様々なプレッシャーを受けながらの戦いは想像以上に人を疲弊させる。
「わかっていた………わかっていたけど、これは不味いぞ」
戦場に出ているメンバーを変えるかとも考えたが、今そんなことをしても乱戦になってしまうだけだとすぐに否定する。
「援護に行ってる余裕も、流石にないよなッ!」
そう呟きながら棍棒を振り上げて向かってきたレッド・ゴブリンの一撃を、魔道銃アルニラムで受け止めたスレイは、もう一方の魔道銃アルナイルの銃口を向ける。
「邪魔すんなッ!」
アルナイルのトリガーを引き絞りゴブリンの脳天を撃ち抜くと同時に身を翻す。
「バレバレだってのッ!」
背後から首なしの騎士甲冑のような魔物デュラハンが斬りかかる。
二丁の銃を交差させデュラハンの剣を受け止め、押し返すと身を翻しながら弾き返した剣の腹に銃弾を撃ち、大きく弾き返した。
倒れるデュラハンに向けて魔道銃の銃口を向ける。
「喰らっとけッ!」
ノックバックにより仰け反ったデュラハンど胴体を弾丸が撃ち抜くが、運良く中のコアの破壊を免れたのか空いた穴から紫色の煙──何でも個の煙の元は人間の魂だとか──が抜け出てくるだけだった。
外したと思いながらもスレイは地面を蹴って前へとでる。
「悪いな、今度お前と戦うことがあれば剣で倒させてもらうよ」
立ち上がったデュラハン剣が上かスレイを両断するべく振り下ろされるが、振り下ろされるよりも速く真上へと飛び上がった。
対するデュラハンの剣が地面を斬りつける。
「───ハァアアアァァァッ!!」
真上に飛びながら落下の勢いに空中で回転しを合わしたスレイのかかと落としがデュラハンの胴体を縦に両断する。
カシャガシャと崩れ落ちるデュラハンを見ていたスレイは、背後に現れた気配に反応し魔道銃の銃口を向けたが、すぐに銃口を下ろした。
「もぉ~冷静に周りの状況を分析しているみたいだけど、私に銃を向ける時点でスレイくんも十分冷静さを失ってるんじゃないかな?」
「………別にそなんじゃなくて、いろんな気配が密集しているせいで気配が読みづらいんだよ。それと後ろ危ないって」
ユフィの背後から襲いかかろうとして来るオークの頭に弾丸を撃ち込むと同時に、倒れ始めるオークの背後に回り込んだスレイがオークの巨体を横に蹴り飛ばした。
「おぉ~ナイスキック!」
「嬉しくねぇ~」
蹴り飛ばした先に集まっていた複数の魔物をその死骸で押し潰した。
これだけやってもまだ数千以上の魔物が残っている。
「さすがにこの数を相手にするのはつかれるな」
頬を伝って流れ落ちてくる汗をぬぐいながら、スレイが小さな声でそう呟いた。
いくら死霊山で複数の魔物との戦いに慣れているスレイであっても、この数を相手にしたことはさすがにない。精神的にもかなりの疲弊を隠し得ないのだ。
「まったく、スレイくんらしくない台詞だねぇ~」
「自分でもそう思う。まぁ、大見えきった手前頑張るけど」
「そうだね。私も同感だよ───アイシクル・ランス!」
ユフィが杖を掲げながら魔法の詠唱をすると、この戦場の至るところにちりばめられたアタック・シェルより、同時に魔方陣が展開されて氷の槍が打ち出される。
常時繋いでいるシェルは全部で五十個、そこからオートで動かしているシェルが五十個、計百個のシェルを操り魔法を放っていユフィは、すでに尋常じゃない量の魔力を消費している。
それは、普通の魔法使いならば確実に倒れる量の魔力だ。
いくら魔力量が多いユフィとて、それを何度も使い続けていればいつかは魔力切れを起こしてしまうため、こまめにマインド・ポーションを飲んで回復を図っている。
だが回復するよりも消費する魔力量の方が大きいため、あまり効果が見えない。
「あぁ~もう!こんなに人が多かったら魔法が使いづらいよぉ~!!」
「そう言うなって、ボクだって同じ気持ちなんだからさぁ!」
こういう乱戦の場合、ユフィのガンナー・シェルやスレイの特殊弾頭のような強力かつ、範囲を絞ることの出来ない物は使えないため、地道にコツコツと頑張っているのだ。
余談ではあるのだが、ユフィのヒーリング・シェルも使用できない。
なぜなら、あのシェルは蝶の羽よりヒールの光が鱗粉のように降り注ぐのだが、あれはもともと屋内、あるいは限定された場所での使用を想定されたシェルだ。
そのためこんな戦場で使えば見方だけでなく敵である魔物も癒してしまうた。
なので今は後衛で負傷者の手当てを行っているSランク冒険者フィーネと共に使われている。
ちなみに戦場から負傷者を後衛へと運び出す役割を担っているのは誰かと言うと
「スレイ殿!ユフィ殿!近くにいた重症の負傷者は全て送り届けましたが、まだ増えるかもしれませんのでポーションの追加をお願いします!」
そう言って駆けてきたリーフは空になったバックを差し出してくる。
実は戦場が押され始めたのを気に、スレイとユフィが援護しながらリーフには戦場を駆け回って負傷者の救護をしてもらっていた。その際に応急処置が必要な場合があるので、二人が持っているポーションを渡しているのだが、渡したポーションを全部を使いきるとは思わなかった。
すぐに空間収納を開いたスレイは残ったポーションの数を確認して顔をしかめると、すぐにポーションのつまったバックをリーフに投げ渡しながら叫ぶ。
「悪いリーフ!ボクの手持ちの予備はそれでラスト、ユフィのは方はまだあるのか!?」
「私はまだあるけど、さすがに上位品は使えないらあと出せても百本が限界だよ!」
「それだけあれば十分だと思いますが、我らが使う分はちゃんと確保しているんですよね?」
押し寄せる魔物を斬り伏せるリーフが二人に確認を取るように叫ぶと、二人は魔道銃と杖を同時に振り上げると目の前に迫ってくる魔物を弾丸と魔法で撃退している。
「心配しなくってちゃんとあいつと戦うための分は確保してあるよ~」
「ポーションのことよりもリーフの方はどうなんだ?さっきから戦場を端から端まで駆けずり回してるけど闘気はまだ持つの!?」
「身体強化だけならばそれほど闘気は使いませんし、これくらいの魔物ならば技も必要ありませんからね」
そう言いながらリーフも手甲と一体型の盾を使って魔物を殴り、怯んだところに翡翠の鋭い一閃によって魔物を一刀の元に斬り伏せていった。
今のところはまだまだ余力を残していられる状態だが、このまま戦いが長引けばポーションもすぐに底をつき、魔物による無惨な蹂躙を受けて戦線は崩壊、スレイたちも魔力と闘気を使い果たしてしまうかもしれないのだ。
考えうる最悪の未来を想像しながらも、まずはこの魔物たちを倒さなければ、そう考えているスレイたちは少しでも死者を減らすために行動を再開しようとしたそのときだった。
「グラァアアアアアアア―――――――――――ッ!!」
ビリビリと大気を振るわせ、腹の底までに響き渡るような巨大な咆哮を受けてスレイたちはたまらずに武器を手放し、両手で耳を押さえながら踞った。
「────ッ!?なっ、なんなんだよいきなり!?」
先ほどの咆哮のせいで両耳がイカれたのか周りの音がなにも聞き取れない。
幸いにも竜の聴力にしていなかったため鼓膜が破れたわけでないので、時経てば回復の見込みはある。
ただ、しばらくの間は聴力がまともに使えないせいで索敵が難しくなるかもしれないが、気配探知に長けている者さえいればすぐにでも建て直せるだろうが、そう思っているスレイだったが全身を揺さぶるよう巨大な地響きにスレイが顔を上げると、ニィッとその口元をつり上げながら笑みをこぼす。
「なるほどねぇ、ようやくその山よりも重い腰を上げたって訳ね」
ようやく停滞を止めて動き出したタイラント・レックスは、先ほどの咆哮によって麻痺している自分の配下の魔物をその巨大な両足で踏みしめ、鞭のように振るわれる長い尾によって吹き飛ばしながらこちらへと向かってくる。
ようやく前進を始めたタイラント・レックスを前にして、スレイは全身から溢れ出す高揚を押さえられずにいるとポンポンッと肩を叩かれてそちらを視ると、耳に手を当てた姿のユフィと周りを警戒しながら盾を構えているリーフがそこにいた。
「楽しそうにしてるところ悪いんだけどさぁ~、さすがにそろそろ動かないと魔物たちも正気を取り戻しちゃうしんじゃない?」
こんな状態で声が聞こえて来たと言うことはコールを使っているのだと思い、スレイも耳に手を当てながらコール小さく呟きユフィに繋ぐとスレイも話し出した。
「まぁそうだね。ユフィ、ヒールでこの耳って治せるかな?」
「治せるとは思うけど、治すのは私たち三人だけでも良いかな?さすがに全員を治すのは面倒だし」
「ボクたち三人だけで良いよ。その代わり他のみんなは魔法師団と連携してゲート・シェルで全員を後衛に戻して。スペンサーさんには事前に取り決めてあったから今頃、退避を始めてるはずだ」
「了ぉ~解ぃ~。それじゃあ要望通りに──オーロラ・ヒール!」
ユフィの杖の石突が地面を叩くとスレイとユフィ、それにリーフの周りに虹色の輝く光が降り注ぐと三人の聴力は回復した。
オーロラ・ヒールは通常の回復魔法の他に身体の不調を癒す能力を持っている。これによって聴力を回復したリーフがスレイとユフィに話しかける。
「聴力が戻ったのは助かりましたが、残った魔物はいったいどうされるおつもりですか」
「あれれっ、私たちの話しリーフさんにも聞こえてたの?」
「聞こえていませんがお二人の口の動きであらかたは察しましたので」
前に一緒に戦ったアリステラからでも習ったのか、良いものを持っていると思いながらスレイは腰のベルトを外し、黒幻と白楼を引き抜くと空間収納から無数の剣の大軍を呼び出すと、それに呼応するようにユフィも自身の操れる最大数のシェルを取り出した。
これからやるのは殲滅、見方がいるせいで使えなかった物量による殲滅戦をここに来てやろうとしているのを察したリーフは、少しでもこの二人の負担を減らすようにと翡翠に闘気を纏わせる。
「ユフィ、避難状況は?」
「半径三キロに人影ありません!どうぞ!」
「オッケー、それじゃ行こう────」
「ヒャッハァアアアア―――――――――――――ッ!!ようやく俺の出番だぜぇええええ――――――ッ!!」
スレイがソード・シェルを放とうとした瞬間、風のように駆け抜け魔物を蹴散らしていく純白の体毛を持ったワーウルフ………ではなく、フェンリルの因子を持っているSランク冒険者のフィンが走り去っていくと、その後を追って一人の老人が疾走する。
「これフォン坊!わしの従魔候補まで倒さんでもよいじゃろう!」
そう叫びながら駆けていくエヴァンディッシュは馬型の魔物の背にのっているのだが、あれはアッシュ・ホースと呼ばれる馬で別名は"灰食い馬"その名のとおり灰を食べる魔物なのだが、その灰と言うのが全身から溢れ出す炎によって焼かれた獲物の灰だ。
そんなアッシュ・ホースから吹き荒れる炎が魔物たちを焼き、一瞬のして灰にしていく。
出鼻を挫かれたスレイたちは先を行く二人の蹂躙劇を見ながら、この戦場にはあの二人だけがいればよかったのではないか、そんなことを思いながらもあの二人が走り去っていった場所以外にも、まだこの戦場には魔物は残っている。
「取り敢えず、先手はあの二人に任せてこっちは先に残った魔物を仕留めるぞ!」
「オッケー!」
「了解です!」
ユフィが杖を真上へと構えると一瞬にして百を越える数の魔方陣が浮かび上がり、さらに離れたところでは広域に展開しているアタック・シェルからも似たような数の魔方陣が展開され、そも数はなんと千もの魔方陣が戦場を埋め尽くした。
「行くよ!───複合魔法!ミスティック・ボルト!」
ユフィの放った霧と合わせて放たれた雷撃をまともに受けた魔物たちは、全身が焼け焦げ身体中から白い煙をあげてパタパタと倒れていった。
「なるほど、ユフィ殿の広範囲魔法ですか」
「そう。まぁ、多少は生き残ってる奴らもいるだろうな」
霧は戦場の全てに広がっていき魔物を次々と倒れていくなかで、倒れずにいる魔物が数体だけが倒れずに立っている。
集められた魔物もなかで雷属性の魔力を持っている魔物がまだ数百体単位で残っているが、そのなかで巨大な魔物が二体いる。
一体は雷をまとった巨大な鳥、もう一匹は鈍色の身体を持った鉱石の身体を持つ魔物、それを視た瞬間スレイとリーフが一斉に駆け出すと、ユフィは二人に魔法が当たらないようにと魔法を解くと、霧の赤を駆け抜けたスレイがリーフに声をかける。
「相手はアイアン・ゴーレムとサンダー・バードだけど、リーフはどっちに行きたい?」
「ゴーレムは自分が行きます!バードの方をお任せします!」
「了解───行け、ソード・シェル!」
スレイの放ったソード・シェルが今この場で立っている魔物たちを貫き、目の前にあるその障害を斬り伏せながら駆けていくスレイとリーフは、そろって剣に闘気と纏わせるとスレイは背中に竜翼を広げながら跳躍し、リーフは闘気で強化し速度を上げる。
「本来は雷雲の中に住まい、自在に雷を操るとされているサンダー・バード、ここで斬られろよ」
「キュアァアアアア―――――――――――――ッ!!」
サンダー・バードが吠えると同時にスレイに向かって無数の雷撃が飛来する。スレイは空中を自在に駆け抜けながら雷撃をかわしていくが、サンダー・バードが巨大な雷撃を生み出し放つと、この大きさの雷撃をかわの不可能だったスレイに直撃し白煙が上がった。
それを視てサンダー・バードが勝ちを得たと思ったそのとき、白煙の中から現れたスレイを視てサンダー・バードが驚きのあまり声を上げる。
「ギュアッ!?」
白煙の中より飛び出したスレイは黒幻を大きく後ろに下げ白楼を真横に構え、突進をかけるように翼を強く羽ばたかせサンダー・バードの元に駆け抜ける。
すると闘気によって形作られた黄金の龍が黒幻に絡み付くと、黒幻の刀身の中に黄金の龍が刀身の中に飲み込まれていき、黒幻の刀身からの黄金の輝きが炎のように揺らいで輝く。
黄金の炎を宿した黒幻をみたサンダー・バードは、不味いと感じたのか真上へと上昇し逃げようとしたが、瞬時に空間転移を使いサンダー・バードの頭上をとった。
「逃がすわけないだろう!────龍皇煌炎激!!」
放たれたスレイの黒幻の一閃がサンダー・バードの胴を狙って放たれたが、剣が振るわれる瞬間に身体を傾けて直撃をかわした。そのため、黒幻の一撃はサンダー・バードの翼を切り落とした。
翼を失い飛行することが出来なくなったサンダー・バードは地面へと落下すると、その横に降り立ったスレイはまだ微かに息のあったサンダー・バードの首を白楼で切り落とした。
「こっちは終わったけど、リーフは………問題ないよな」
サンダー・バードの死骸と魔物を倒し終えたソード・シェルを空間収納に納めたスレイは、すでに切り刻まれたアイアン・ゴーレムの前でたたずむリーフを見て小さく笑った。
この場に残っていた魔物を倒し終えた三人は、魔物を操るエヴァンディッシュと純白の体毛を持ったワーウルフとなったフィンが戦っている。
「行こうか二人とも、恐竜狩りの時間だぜ!」




