陛下の願いごと
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ルーレシア神聖国で起こった戦いの後、聖女、並びに教皇と共に啓示として受け取った神、直々の宣戦布告を受け取ったスレイたちは、聖女と教皇から神と繋がりを断つつもりがない旨を伝えられた。
だがそれと同時に、ルーレシア神聖国は神の啓示を受け続けるが、人類側にも神の側にも付かない、言わば中立の立場で戦いの行く末を見守って行くことだ。
聖女と教皇との会話の後、フリードたちは屋敷に残してきた子供たちが心配だからと早々に戻り、ユキヤたちも一度ドランドラに向かうために早々に国を出た。
スレイたちはと言うと、ノクトの両親の要望でストラスト家に厄介になッた後、アルメイア王国に寄ってからマルグリット魔法国の我が家へと帰ろうとしたのだが………
「急で済まないんだがスレイくん。今から一週間後の年の瀬に王国主催の新年祭のパーティーが開かれるのだが君にソフィアのパートナー件護衛として出席してもらいたい」
「はっ、はぁ……わかりましたが、護衛?」
「もちろん護衛なのでギルドを通した正式な依頼という形を取らせてもらい報酬も支払おう」
「………もしかして、ボクがいない間に何かありました?」
そう問いかけながらスレイはユーシス陛下が差し出したギルドの依頼書を手に取りながら返答を待っていた。
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アルメイア王国に立ち寄ったスレイたちはマルグリット魔法国の我が家へと帰る前に、実家に戻っていたアニエスと、ようやく内政も落ち着き政務も少なくなってきたためマルグリットの家に遊びに行きたいと言っていたソフィアを散れていくために王城に行くと、王室に通されてユーシス陛下との対面をすることになり、上記の話となったわけである、
新年祭とは各国で行われる行事の一つであり、王侯貴族が主催して行われる祭りでの前夜祭とでも言うのか、まぁ簡潔に言うと王城で新年を向かえるパーティーをするのだ。
それへの参加を問われたのが上記の台詞だったのだが、一応スレイはアルメイアとマルグリットの両国から子爵の爵位を受けているため、こういうパーティーへの参加は基本自由となり強制されることはないのだが、今回は王族自らの頼まれる形となった。
「実はな。ソフィアが女であるとわかった途端に、婚姻を結ぼうとあの手この手で接触を図ってきた」
「陛下の側室を狙うよりも、ソフィアを娶った方が王室に近くなるか………そもそも、婚約発表をしているのにそんなことしますかね普通」
「婚約しているとは言え、貴族としての位を考えると子爵である君に王族を宛がうには相応しくないというやからは多いんだ」
平民からの成り上がり子爵でありさらには領土もなにも持たない肩書きだけの貴族など、王族の相手としては相応しくないと言われても仕方がないのかも知れない。
「まだそれだけなら良かったのだが、つい先日にも夜会の帰りに強行手段を取られてね。ソフィアとメイドの乗る馬車を連れ去られそうになった。まぁ、君がソフィアに渡していたゴーレムのお陰で何事もなく無事に助かったがね」
王族を守るために配備していた黒騎士のプロトタイプの他に、ソフィア個人を守るためにそれなりの戦闘力を有する鷹型のゴーレムを渡していたが、これ程早く役に立つとは思っていななかった。
「それでソフィアを狙っている人物の目星はついているんですか?」
「御者については捕まえたはいい物のその場で自害されてな。調べてわかったことだが、どうやらある組織の構成員だったようだ」
「その組織って、もしかしなくても闇派閥ですか」
「なんだ。関わったことがあるのかね?」
「半年以上前に、仕事の別件で一度だけ」
そう語るスレイの表情はどこかくらい影が指していた。
闇派閥とはマフィア等のような裏社会の人間のことなのだが、マフィアにはマフィアの流儀と言うものがあるため、過激な活動をしているところは極々少数であり、中には真っ向な慈善事業を行っているところも少なくはないと聞く。
実際にヴァーチェアでであったマフィアのトーラスにしても、取り立てや利子の膨れ方は厳しいらしいが金貸しと言う事業の他にも、返済が厳しい債務者へはワーカーとして仕事の斡旋を行ったり、娼館の経営や街の酒場などの用心棒なんかもしているらしい。
もちろん国からはちゃんと許可を受けて経営していたりもする。
なんでも堅気に迷惑を掛けないのが流儀、ただし逃げる債務者には容赦はしないとかなんとか………だが闇派閥は違う。
闇派閥の人間は金さえ積めばいくらでも悪事を働く。
暗殺や今回のような誘拐だけでなく、トーラスと知り合うきっかけになった事件にも関わっていたことをスレイは後から知った。
「闇派閥が関わるとなると証拠は残されていないでしょうし、変にちょっかいをかけてこちらが狙われる可能性も有ります」
「分かっている。だから今回の件に我々は表だっての調査ができないのだ」
「その判断は賢明でしょうね」
いくら王族であっても闇派閥に目をつけられてはいけない。
この世で不可解な突然死を迎えた容疑者の話は少なくないのだ。
「なにもしなくても今回のような強行手段をとるかもしれません。ソフィアには位置を特定できる魔道具などを幾つか渡させていただきます」
「あぁ。そこは君に任せるよ」
身を守るためなら王族殺しも辞さないそれが闇派閥のやり方だが、そうなるとかなりの危険を伴うのだが、これを仕掛けた犯人はこのためにどれだけの財産を投じたのか…………考えただけで恐ろしくなったスレイは、なにも言わずにおくことにした、
「パーティーへの出席の件も了承しましたが、ボクがいた方が余計に相手側を刺激するのではありませんか?」
「むしろそれを狙っている。娘を囮にするのは気が引けるが、ソフィアもそのことにはちゃんと理解して協力を申し入れてくれている」
ソフィアは了承済み。
つまりはもしもの自体が起こっても覚悟は出来ていることだと言うことを理解すると、これは覚悟を決めておいた方がいいかもしれないと思った。
「分かりました。ソフィアのことはボクが身命をとして守ります」
「あぁ。どうか、娘のことを頼んだよスレイくん」
約束をすると、言ったからにはそれなりの準備をしなければならないのだが、その準備をするにしても手持ちの素材ではいささか心持たない………っと言うよりも、素材その物が今回の件には役不足なのだ。
「陛下、今回も件ですがギルドを通した正式な指名依頼。それも要人の護衛依頼と言うことですので、ボクには資金や物資の支給の要求が可能です」
「もちろん分かっている。それで、スレイくん。何が必要なのか教えてもらえるかね?」
こういった依頼を受ける機会は少ないスレイだったが、要人のそれも王宮の資産と人脈が使えるならと今用意できる限りの準備をしておきたい。
「それでは、小石程度のもので構いませんので純度の高い魔石をいくつかと、加工さえた魔石を一つ」
「他には?」
「後はミスリルのインゴットを一つお願いします。あっ、魔石の属性はなんでも構いませんが、加工された方だけは無属性の物でお願いします」
「ふむ。察するに魔道具の材料のようだが………わかったすぐにでも用意させよう。他に何かあるかね?」
「現状はそれでいいです。必要になったら別途、お願いするとは思いますが」
「わかった。すぐに用意させよう」
ユーシス陛下がベルを鳴らし使用人を呼び、スレイは伝えたものを用意させようとした。
「あっ、陛下すみません。もう一つよろしいでしょうか」
「うむ。かまわんよ。言いなさい」
「個人的なもので申し訳ないのですが、ソフィアには似合う宝石を選んでいただけないでしょうか」
その発言にはさすがのユーシス陛下も驚いたらしく眼を丸くするのであった。
⚔⚔⚔
それからは雑談とでも言うべきか、ユーシス陛下から有る報告を聞き、ついでにレイネシア以外の孫はいつ頃に?などという催促を軽くあしらったスレイは、ようやくアニエスをに迎えに行けると想いながら執事の案内で部屋に向かうと、バタン!ッと音を鳴らして扉が開く。
「「あっ」」
「あぁ~!パパァ~!」
部屋から出てきたのはいつかと同じように冒険者ルックスにマントを羽織ったソフィアと、旅衣装としてスレイが作ったワンピースに革で作った厚手のズボンのレイネシアだった。
ソフィアに引かれていた手を振りほどいレイネシアがスレイに飛び付いてきた。
「おっと、レネ。ソフィアママとどこか行くのか?」
「アイスたべにいくのぉ~!」
「へぇ~………ところでユフィママたちは?」
「あとからくるからおきがえしてるのぉ~」
「そっか。それじゃあレネ、パパは少しだけソフィアママとお話ししなくちゃいけないことがあるからさ、ママたちのところで待っててもらえるかな?」
「わかったのぉ~!」
パタパタと早足で去っていくレイネシア、残されたソフィアはそろぉ~っとスレイと執事の前から立ち去ろうとしたところで、ガシッと肩を捕まれる。
するとソフィアの身体がビックリと震えたかと思うと、ゆっくりと二人の方へと視線を向けられる。
「やっ、やぁスレイ………それにトリスも、なんでここにいるのかな?たしか父上と一緒にいたと思ったんだけどぉ~」
「もう終わったよ。ところで身を狙われている君がのんきに下町に行くって………しかもなんも装備もないって、ちゃんと危機感持ってる?ねぇソフィアさん?」
冒険者スタイルのソフィアのことを上から下まで見下ろしたスレイが小言のようにそう言う。
一応この件は当事者であるソフィアとユーシス陛下、セレスティア王妃を含めて、側付きの侍従が数人しかしならず、案内をしていたトリスもその一人なためソフィアはあからさまに二人から視線をはずしている。
「僭越ながらソフィアお嬢さま。私からも言わせていただきますが、いくら皆さまがご一緒だとしても危険なことにはかわりないかと、この城の中で大人しくしてくださいませ」
「えぇ~」
ふてくされたような顔をしているソフィアだが、実際にこの城は安全その物だ。
あの戦いの後にクレイアルラを初めとしたマルグリット魔法国の学園講師を筆頭に、この城を覆うように魔法の発動の阻害や、既に発動している魔法の解除などが付与された結界を構築し、賢者エデンが城の一室に施している結界に匹敵する物を作り出した。
結界はそれだけでなく、時の精霊クロノスを初めとする七つの精霊の力を借りて、もしも暗殺をされたとしても数秒いないなら甦生は可能と、時の精霊クロノスのお墨付きをいただいたほどのものなのだ。
なのでここにいれば安心なのだが、問題はレイネシアが完全に遊びに行くことを望んでいるということだ。
「まぁ、レネがすごく楽しみにしてるから今回は許すけど、ユフィたちにあの話はしたの?」
「あぁみんなに話したらすごい心配されたけど、なにも被害を受けてなかったんだからさ~、問題ないんじゃない?」
ダメだこの王女、全く身の危険を感じていない。なにぶん男として育ってきた年数の方が上なだから、こういう場合のかもしれないが、淑女としての貞淑さ位はいい加減身につけてもらえないだろうかと考えてしまった。
「ソフィアに自分が女の子だって分からせるには、いったいどうすれば良いんだろうか?」
「僭越ながら、若さまがお嬢さまと寝屋を共にされればよろしいかと」
「えっ、それってぼくとスレイが子作りするってこと?あれ、初めては痛いって聞くんだけどホント?」
なぜに夜の情事についてを語らなければならないのだろうか、そもそも男であるスレイとトリスにそう言う話を聞くものではないだろうと呆れる。
「これは、何をしても無駄な気がする」
「そうでございますな」
もう修正不可能だと思ったスレイとトリスは、大きなため息を一つ着いていると部屋からユフィたちが出てくるのを見てスレイは驚いた。
「どうしたのみんな、その服」
驚いたスレイの台詞通り、いまのユフィたちはここに来る前に着ていた冒険者用の服ではなく、どこかの令嬢が着ているような服に身を包み、ついでに髪にはこれ一つでいったいどれだけのお金がかかっているのかわからないような髪飾りがつけられている。
「エヘヘッ、セレスティア王妃がわたしたちにって用意してくれたんです!」
ノクトが嬉しそうに見に纏ったロングスカートの裾を摘まみながらクルリと一回転する。
こういう服もかなり似合うと思ったスレイは、次に作る服の参考にしておこうと考えていると、ノクトのことをユフィが止める。
「こらこら、ノクトちゃんたら、はしたないよ?」
「あっ、すみません」
「まぁまぁ、そう怒らずに、ノクトさまも嬉しくてしかたがないのですから」
「我々はあまりこういう格好をしませんから、たまにはいいでわないですか」
「……ん。リーフとラピスの言うとおり」
「ライアちゃんはそう言うこという前に、整えてもらった髪を直さないの」
ライアが髪飾りを外しいつのも髪型に戻しているのを見てユフィがとがめているのを見てスレイは小さく声をあげて笑っている。
「こう言うの、見ている分には良いんだけど、着てみるとかなり窮屈よね」
「オレはこんなヒラヒラしたの着るなんてガキのとき以来だから、なんか股がスースーして寒ぃんだよなぁ~」
「文句をいっているわりには二人とも似合ってるじゃん」
スレイがそう誉めるとアニエスとラーレが嬉しそうに頬を赤らめて視線をそらした。
しかし、全員ドレスアップしているとなると一人だけこの格好はなにかと浮くなと思ったスレイは、着替えた方がいいのかもと思っていると、最後に部屋から出てきたレイネシアとセレスティア王妃を見る。
レイネシアも先程までの旅衣装から綺麗なドレスに身を包み、興奮した様子でスレイのもとに駆け寄ってきた。
「パパァ~、レネもおきがえしたのぉ~!レネにあってる?」
「あぁとっても似合ってるよ。レネは飛びっきりの美人さんだからな。その可愛らしいドレスがレネのことをより綺麗に見せているよ」
スレイがそう答えるとふにゃ~っと顔を蕩けさせたレイネシアの頭を優しく撫でてから、スレイはセレスティア王妃に頭を下げる。
「セレスティア王妃、みんなの衣装を用意していただいてありがとうございます」
「良いのよ。娘と孫のためにドレスを選ぶのって夢だったのよ」
「えぇ。それは重々承知しているのですが………王妃はなぜボクを拘束させてるんですか?」
言いたくはないがセレスティア王妃の横に現れたメイドたちがスレイの両腕を掴んでいた。
「なにって、あなたも着替えなくっちゃね」
パチンッと指を鳴らすとメイドの一人がスレイのために用意されたらしい新しいジャケット等が一式あり、タイが苦手なスレイもためにとスカーフが用意されていた。
「ありがたく着させていただきましす」
「ふふふっ、ところでソフィア~、あなたもちゃんとドレスを着なさいって言ったわよねぇ?」
「ギクッ!?」
ビクリと震えたソフィアがゆっくりとセレスティア王妃を見て小さな悲鳴を上げる。
「母上、アイス食べに行くだけなんだし、これでいいでしょ?」
「ダメよ。孫のためにと陛下がせっかく予約をとってくださったレストランに、そんな格好で行かせれるわけないでしょ?」
スレイはアイスを食べに行くとしか聞いていなかったが、どうやらレストランに食べに行くらしいが、それなのにあの格好で行こうとしていたとは………
「はい。みんな、ソフィアをお願いね」
「あっちょっ、あぁ~~~」
メイドに連れられたソフィアが悲鳴をあげて去っていった。
しかたがないので待っている間にスレイも着替えをすましておくことにした。
その後、陛下と王妃も合流して王族御用達のレストランにて食べたアイスはとても美味しかったでした。




