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クリスマス・スペシャル

皆さまメリークリスマス!

※注 このお話は本編よりも未来の世界になります。

そのため、本編に出ていないキャラの名前が出てきます。

ネタバレが嫌いな方は読まないことをおすすめします。

 今年も十二の月の二十四日、つまりは前世の地球で言うところのクリスマスイブ。

 そう今年もこの季節がやってきた。

 もはやアルファスタ家の恒例行事となってきているクリスマス・パーティー、今年は子供たちも少し大きくなってきてちょっとずつ出きることも増えてきたので、これは今年のパーティーは盛大に開こうかと何ヵ月も前から色々と計画を立てて、クリスマスイブの朝を迎えた………までは良かったのだが


「ようスレイ!孫たちは今日一日オレらが預かっておくから、今日くらいはユフィちゃんたち連れてデートでもしてこいよ」


 そう言っていきなり朝早くに来客が来たかと思ったら、はるか遠くの大陸にいるはずの義実家が全員で我が家に押し掛けてきたかと思うと、起きがけであまりうまく起動していない頭でどうにか状況を理解しようとしていた。

 だが状況を理解するよりもはやく、あっという間に着替えさせられ──なぜか、リュージュ家の執事、メイドたちに一瞬で着替えさせられた──唖然としている内に外へと送り出された。


「いや、なぜ?」


 唖然としているスレイはビュ~ッと吹き抜ける風を受けて震える。

 空を見上げるとなんとも重い鈍色の雲に覆われ、もういつでも雪が降れますよとでも言いたげな空だった。


「うぅ~、寒いです」

「……ん。もっと厚着すればよかった」

「マジさみぃ」


 先に出てきたのはノクトとライア、それにラーレの三人なのだが、三人ともマフラーや手袋など十分厚着な気がするがどうやらまだ足りないらしい。


「この空じゃ外にいる間に雪が降るかもな」

「えっ、雪ですか!!」

「そいつは楽しみじゃねぇか!」

「……うん。災厄」


 ノクトとラーレは嬉しそうだが、ライアはゲンナリしている。

 まぁ、それは良いだろう。


「ところでユフィたちは?」

「ジークくんたちにおっぱいあげてましたのでもうすぐじゃないですかね」


 そんな話をいると家の玄関が開かれる。


「ごめんね~、遅くなっちゃって」

「いや、構わないよ」


 遅れてやってきたユフィたちが揃い、全員が外行きの服で玄関前に集合した。

 家に戻ることもできないので外を歩きだしたスレイは、こうなる前の状況を整理しようと思い、取り敢えず数日前、スレイたちが冒険者としての今年の依頼を片付けるために奮闘していたときから回想を始めようと思う。



 四日前、今年はいろいろと事件に巻き込まれ過ぎたせいで冒険者としての依頼を溜めにためまくってしまったスレイは、クリスマス休暇と年末年始の休暇を無理矢理にでも取得するべく、一週間ほど前から依頼書に書かれている国を渡り歩き続け、どうにか残った依頼も後少しとなったときのことだった。

 そこは南方大陸にある元帝国領──帝国が滅びた後、隣国のジルベスター王国が占領し今ではいくつか小さな村がある──に出没したブラッディー・グリズリーの討伐のため訪れた。

 これはもともと入っていた依頼とは別のものだったが、近くで出現したワイバーンの討伐の報告に立ちよった街のギルドで依頼されたものだ。

 何でもこの魔物は通常の個体とは別物だったらしく、通常は二メートル弱の体躯なのにたいし四メートルを越える巨体に、さらには通常では使えるはずのない雷撃の魔法にも似た攻撃をしてくるらしい。


 まぁ、そんなことはさておき、スレイたちが立ちよった村の中央には巨大な一本の樹が生えており、この村はその樹を中心に円を描くように広がっている。

 依頼を聞くためにギルドへと向かおうとしていたスレイたちは、キラキラと鮮やかな魔石灯によって彩られた樹を目の前にして、もうすぐクリスマスだったことを思い出した。

 それと同時に、スレイはなんとも言えない表情になりながら綺麗に彩られたツリーを見上げている。


「未だにこの世界でクリスマスツリーを見ると、違和感しか感じないのはなぜなんだろう?」

「……ん。たしか、あの子たちがクリスマスを広めたんでしょ?そんなに不思議なの?」


 ライアが言うあの子たちとは、かつて勇者の代用品として神によってこちらの世界に召喚された異世界人のユタカたちのことなのだ。

 彼らがまだこっちの世界にいたころ、アルメイア王国に滞在中に色々と地球の文化などを伝えていった結果、地球のさまざまな行事がこの世界にも存在するようになり、今ではクリスマスの他にもバレンタインやホワイトデー、ついでにハロウィーンなども普及してきた。

 普及してきたのだが………それがうまく伝わっていなかったのか、あるいはあえてこうしたのかはわからないが、クリスマスツリーの至るところにカボチャのランタン。つまるところ、ジャック・オー・ランタンが怪しい光を放ちながら吊るされていた。


「あれってさぁ、ハロウィーンだろ?なんで聖誕祭に悪魔の祭りが同居してんの?あっちの地球ってクリスマスとハロウィーンが同時開催なの?」


 っと、元地球育ちの一人として叫びたくなったスレイだったが、周りに人の目もあるので少し自重した声の音量で泣かしき事実について叫ぶ。


「でもよぉ母ちゃんところじゃ、あんな不気味なカボチャ下げてなかったぜ?」

「……それに、スレイの父と母たちのところでもあんなの下げてなかった」

「そうだよなぁ」


 まぁアルファスタ家の領地や他のところではあんなおかしなツリーは視たことがないが、たまに違う町にいくとツリーに短冊みたいなものがかかっていたり、どこのホラー?っとでも言いたくなるような、ウサギや鹿の解体された肉が吊るされていたり、人形の首を吊ってそれを樹に吊るしていたところもあった。

 あれか、星を吊るしたりするのを間違えて干し肉、あるいは首吊りになったのか?んなアホなはなしあるか!

 っと、一人で考えて一人でツッコミをいれるスレイだった。


「そんなことよりも、今年のクリスマス・パーティーはどうすんだ?」

「どうするって、やるにきまってるだろ。そのためにこうして少しでも休みを長くするために仕事してるんだから」


 ちなみにこの時であと三日でクリスマスだったりするが、パーティーの準備も子供たちへのプレゼントもまだなにも用意できていなかったりもする。それなのに残っている依頼はまだまだたくさん残っている。

 やってもやっても終わらないのに今日もこうして増えていった。


「……それはさておき、クマの討伐どうするの?」

「ボクが行ってくるよ………もうすでにそいつの居場所も見つけてあるからさ」

「おっ、さっすがオレらのダンナ様。やることが速いねぇ~!」


 バシバシと叩いてくるラーレを止めてから背中に竜翼をはやし、そして広げ飛び上がったスレイは真下を見下ろして二人を見る。


「こっちは任せてもらうけど、先に片付けておいた依頼の報告、お願い」

「了解だ!」

「……ん。行ってら」


 二人に見送られて飛び立ったスレイ。

 その後、村のクリスマスツリーには、巨大なクマの肉も吊るされることになるとは、そのときは誰も知る由がなかったのだった。



 なんや感やあってどうにか昨日のうちに全ての依頼を片付けたスレイたちは、今日は今日とて子供たちの笑顔のため、ひいては愛する妻たちのためにとスレイは朝から狩りに行って──もちろん死霊山に──美味しいウサギと鹿を狩りに行こうと思っていた。

 なのに、なぜフリードたちに邪魔されなければならなかったのか!もういっそのこといつかのように真剣に抗議してやろうかと考えていると………


「最近はなにかと忙しかったし、今年はフィーちゃんも産まれたばっかりだから前みたいにどこかに出掛けられなかったもんねぇ~」

「……ん、あれは酷かった」

「その節は、わたくしの娘が申し訳ありません」


 ユフィのいうフィーちゃんとは、スレイとラピスの間に産まれた娘でアルファスタ家の次女だ。

 本名はサフィーというのだが、今年の始めにラピスの妊娠が判明し、今年の七の月に産まれたのだが、他の子たちと違い外が怖いのかあまり家の外に出ることがない。

 散歩も庭だけ、一歩でも外に出ようものならギャンギャンと泣きじゃくり、抱っこしていたスレイの顔を引っ掻いたり噛みついたり、もう酷いものだった。挙げ句の果てに旅行客か近くを歩いていた人かはわからないが、衛兵まで呼ばれる始末だった。

 そのときは来てくれた衛兵が知り合いで、ご近所さんも事情を説明してくれたので無事だったがこれが出先なら確実に牢屋行き………とまではいかないが、確実に職質を受けてしまうレベルだ。


「まぁ、あの子が特別に感覚が鋭いのか、あるいは何かしらの感知能力をもった魔眼を持っているのかなんだけど、そこら辺はあの子が大きくなってみないとわからないな」

「そうね。でも、気になるんだけどこれからどこにいくのよ?」

「…………………」


 そうアニエスから訪ねられたスレイは小さく小首をかしげてから、演技っぽく両肩をすぼめて手を広げて降参の格好で答えるのであった。


「結局、なんだかよくわからないまま出てきちゃったから、これからどこにいくかも決まってないんだよな~」

「みんなどこか、いきたいところってある?」


 どこかに行こうにも意見がでなければいけないのでユフィがみんなに問いかけるが、いきなりのことでみんな誰もないもいわない。

 そもそも今日は一日明日の準備のための日にしようかと思っていたため、出掛けても近所の八百屋や果物屋にでもいくくらいだったし、スレイもだがユフィたちもどこかに出掛けるスタイルではなかった。

 どちらかというと今からでも冒険者の仕事に行けそうな格好だ。まぁ、もちろん産後のラピスいるため行く気はないがね。


「行きたいところがないなら、そこら辺のカフェにでもはいってお茶でも飲みながら決めよう」

「おや、珍しいねスレイからお茶の誘いなんて」

「お茶の誘いというかなんというか、さっきまで寝てたし昨日も帰ってすぐに風呂とベッド直行だったから、ボク昨日の朝からまる一日なにも食べてなくて、取り敢えずなにか腹にいれたい」


 そんな理由からカフェに入ったスレイたちは、取り敢えず飲み物の他に軽食として食べられるサンドイッチの他に、女性陣の頼んだケーキがツーホール分くらい来た。

 食べるのはいわずもながら、大食い娘三人衆だったりする。


「それで話しを戻すんだけど、みんなどこに行きたい?」

「そんじゃあオレ、武器屋いきてぇ!」

「武器屋ッて、あんた昨日もわたしたちと出掛けた時に行ってなかった?」

「行ってましたね。ついでに竜素材のナイフを買ってましたね」

「へぇ~そうなんだぁ~」


 別にナイフを買うのはラーレの勝手だが、ドラゴンの素材ならいくらでも空間収納に入っている。

 中には古代種の素材もあるので──出所はあまり大声では言えないところ──超一級品のオーダーメイドのナイフも造れなくもないのだが………ラーレが気に入っているようなのでスレイはなにも言わないことにした。


「まぁ、昨日も行ってるんなら武器屋は却下」

「ちぇ~」

「あっ、じゃあぼくオモチャ屋に行きたい!」

「オモチャ屋さんにですか?いいとは思いますが、いったいどうして?」

「よく聞いてくれたよノクト!実はぼく、リヒトのクリスマスプレゼントをまだ選んでないからさ」


 ソフィアの衝撃的な一言にピシャッとスレイたちの間にヒビが入ったかのような音が鳴り響く。

 今年のプレゼントはお父さん(スレイ)が忙しいからお母さんたちで選ぼう、ついでに一つはみんなで、もう一つはお母さんがという手はずで進んでいた。

 そのためもうすでにユフィとリーフはジークとセレナへのプレゼントを用意してあり、今年産まれたばかりのサフィーのためにもラピスがクマのぬいぐるみを作っていた。もちろんレイネシアには、みんなからということで二つプレゼントを贈る予定だったりする。


「ソフィア殿……クリスマス、明日ですよ?」

「いやぁ~、色々迷ってたら決まらなくて。そんなわけで手伝って」

「あんた、ちょっとは母親としての自覚をもちなさいよ」

「自覚はあるんだけどほら、自分でいうのもあれだけどぼくって結構ズボラなところあるでしょ?」


 それを自分で言うなと思いながらスレイたちは呆れたようにため息を一つつき、仕方がないのでオモチャ屋に向かうことになった。

 いくらまだ物心ついたばかりだと言っても、プレゼントが貰えなかったら寂しいだろう。

 なのでソフィアにはしっかり息子のために良いものを選んで貰わなければいけないので、プレゼントが見つかるまではしっかり監視しなければと、スレイたちは無言でうなずき合うのであった。



 オモチャ屋に行ったあと、どうにかソフィアがリヒトへのプレゼントを選び終えた。

 本当ならばもっと早く用意しておかなければならないことなので、来年は絶対に少なくとも一週間前には用意させようと、スレイたちは固く心に誓うのであった。

 それはそうとして、せっかく商業区画に来たのだからもう少し散策してから昼食、その後は日が暮れるまではそこら辺を遊んでから帰ろうとしていると、なんだか今日は人が多いなと感じる。


「なぁ、今日って何かあるの?」

「あぁ~、あんたここ最近こっちにいなかったから知らないのよね」

「……なんか、いろんなくに国からお店だしてるんだって」

「なるほどねぇ~。なにか面白そうなもの売ってないかな?」


 こういう行商やフリーマーケットのようなものを覗くのはなにかと楽しい、たまに面白い魔道具があったり掘り出し物の武具があったり、ちょっとくだらないようなものをみるのも面白い。


「うふふ、スレイさま覗かれるのはいいですが、あまり変なものを買わないようにしてくださいね」

「えっ、ボクそんな変なものを買わないけど?」

「前にわたしがスレイさんのお部屋掃除したとき、変な箱が落ちてて開けたときのこと覚えていないんですか?」


 久しぶりにノクトの周りから黒いオーラが溢れだし黒ノクトが姿を表した。

 突如の黒ノクトの降臨にユフィたちは一様の表情を取りながら少し距離を取るなか、息のかかる距離にまで顔を近づけられ、さらに逃げられないようにコートの襟元をつかみ自分の方へと引っ張った。


「その節は……誠に、申し訳ありませんでした」


 スレイは目をそらしながら謝っている。

 なぜここまでノクトが怒っているかというと、半年くらい前にまで遡る。



 それはつい最近見つかったというダンジョン、その中で見つかったアーティファクトが幾つか売り出されていた。

 たまたまその近くで依頼があり、そこでバザーのようなものがあったため覗いたところ、ダンジョンでいくつも見つかり危険性もないものだと説明されていたそれを何となく買ってみた。それがことの原因となった箱形の魔道具をうっかり机の上においておいたのが間違いだった。

 たまたまノクトがスレイの部屋を掃除に入ったところ、その箱を見つけてうっかり箱の起動スイッチを押してしまい魔道具が起動した。

 麗らかな日差し差し込む午後のひとときに響き渡るノクトの悲鳴。

 なにごとかと念のために武器を持ち、スレイは聖剣まで持ち出し悲鳴のした部屋へと突撃すると、そこには宙吊りにされて全身にロープを巻き付けられ、なんいうかその………あられもない格好に縛られたノクトの姿があった。

 先頭にいたスレイを初めとして全員が固まっているなか、自分の恥ずかしい格好に加えて縛られるときに服がめくり上がっていたせいで、みんなに下着をみられると言う不運が重なっていた。


『『『『『……………………………』』』』』


 たっぷり数秒の間無言になった後、一気に顔を赤くしたノクトの手に魔力が集まりそれを察したユフィたちが待避したが、一番先頭にいたスレイは逃げ遅れた。


『あっ、ちょっ、まっ───』

『いっ、いやぁあああああああ――――――――――ッ!!!』


 ノクトの風魔法に吹き飛ばされたスレイはその日、自分の翼や魔法以外ではじめて空へと飛ぶことになった。



 あれを思い返してちょっと顔を赤くしたスレイ、それに比例してノクトの眼に暗黒面に落ちたジ○ダイのようになってきた。


「スレイさん。あのときのこと、思い出してます?」

「いっ、いえ、そんなことないじゃないですか!!」


 ノクトに睨み付けられたスレイがブンブンッと首を横に振って否定すると、全身からオーラを消して表情を戻してニッコリと微笑む。


「それはよかったですけど、思い出したりしたら承知しませんよ?」

「うッ、ウッス」


 スレイがピシッと敬礼するのをみてから、ノクトがみんなの方に視線を向けようとするがそこには誰もいなかった。


「あれ?皆さんは?」

「ノクト、あそこ」


 スレイが指差すとそこには一つの店に群がっているユフィたちの姿があった。

 なんだろうと思いながら二人でそちらにいってみると、なにかケモノのミミの着いたカチューシャを手にしている。


「みんな、いったいなにをそんな熱心にみてんの?」


 スレイが近くにいたライアに声をかける。


「……あっ、スレイ。ノクト。お話終わったの?」

「えぇ、滞りなく。ところでライアさん、いったいなんなんですか?ネコミミのカチューシャみたいですけど」

「……ん、これ。つけるとこうなる」


 ライアがカチューシャを頭に乗せると腰の辺りに魔方陣が現れたかと思うと、瞬時に猫の尻尾が現れる。


「へぇ~魔道具か。幻覚の魔法かとおも思ったけどちゃんと触れるし、適度な自動化がされてるな」

「さっすがスレイくん。よくわかってるねぇ~」

「まぁな………ところで、なぜアニエスはそんな膨れてんの?」

「別に膨れてないわよ」


 スレイの視線の先には珍しく怒っているらしく、腕を組んで尻尾の毛が逆立っていらりする。


「アニエスさまは、ご自分の立場が危ういと感じているみたいです」

「立場ですか?」

「スレイのモフられ役っていう立場」

「「あぁ~。なるほど」」


 スレイとノクトが納得したように頷いた。

 ここであのカチューシャを買ったら偽物とはいえみんなケモ耳と尻尾が生える。

 そうなると、本物の耳と尻尾をアニエスが霞んでしまうのではないかと感じているのだろうが、スレイからするとそんなもの心配無用だ。


「アニエス。今日も君の尻尾は良い毛並みをしてるね。後でモフラせてくれない?」

「あんた、こんなところでなに言ってのバカ!」


 いきなりモフラせてと言ったらアニエスが赤くなっていたが、その尻尾はものすごく振っていた。自分の立場が犯されることはなかったことに安心しているようだ。


「ねぇねぇスレイ。これ買って良いかい?」

「ソフィアが気に入ったんなら買えば良いけど」

「よっしゃ!おいノクトも選べよ!みんなでケモミミサンタやろうぜ!」

「あっ、ちょっとラーレさん!引っ張らないでください!」

「……あっ、まって私も一緒に行く」


 自分用のカチューシャを手に持ったラーレがノクトの手を引いき、ついでにライアも一緒になって選び出すが、そんなことよりもスレイには聞き捨てならない言葉を耳にした。


「けっ、ケモミミサンタだと!?」


 ケモミミメイドならわかるが、ケモミミサンタとなると想像がつかない。だが不満はないどころか愛する妻たちのケモミミ姿だけでなくサンタコスまで見られるとはまさに夢のようだとスレイが思っている。

 みんなのケモミミサンタの姿を想像して胸を膨らませているスレイ、それを少しはなれたところから見ていたユフィたちがこそこそと小さな声で話している


「ねっ、私の言った通りだったでしょ?」

「えぇ。うすうすは気付いていましたが、やはりスレイ殿はケモミミ好きですよね」

「ケモミミだけでなく、わたくしの羽毛もよくおさわりになりますが」

「あぁ~それわかるわ。わたしもラピスの羽触るの好きだし」

「ぼくはどっちも捨てがたいから選べないなぁ」


 っと、ユフィたちが小声で話しているのだった。

 その後ノクトも自分のカチューシャを選び終えると、何となく店の中を覗いていたスレイが子供用のカチューシャを見つけたので、どうせならレイネシアたちにも買っていこう。ついでに面白い魔道具だったの、分解用と明日のパーティーで自分もつけてみようと思い、ついかで二つ買うことにしたのだった。



 買い物を終えてから出店をいろいろと見て周りながら、一緒に出ていた食べ物の屋台で各国のいろいろな料理を食べてから、途中でクリスマス前に彼女が出来ない独り身──なぜこちらでも恋人の日になってるのかは押して知るべし──の野郎どもが襲ってきたので軽く捻って木に縛り付けてきた。

 まぁこの街でスレイたちに絡む輩はそういないので、旅行客か旅の冒険者あたりだろう。なので全く問題はない。

 そんなこんなで日が暮れていき、たった一日とはいえ有意義な日を過ごすことが出来た。


「日も暮れてきたし、子供たちのこともあるからそろそろ帰る?」

「うぅ~ん。それも良いんだけど、もう少し遊んでから帰ろ」

「良いけど、どこ行くんだ?」


 そう言えば、日が暮れると言うのになんだか人が多い気がする。

 いや、時間的にはまだまだ早い時間なので人がいてもおかしくはないのだが、なんだか男女のカップルが多いようなきがする。後は家族連れか一部は………あまり言いたくない部類なのでスルーする。


「ふふふっ、実は前々から皆で行こうと相談していたところがありまして」

「それってどこ?」

「……行ったらわかる。だから行こっ」


 いつものような眠そうな眼のままスレイの手を引っ張っていくライア、その後ろをユフィたちも小走りでついていき──出産後のラピスを心配して──、案内されたのは魔法学園の敷地内だっ。


「なんで学園?ってか、みんな普通に入れるってどういうこと?」

「まぁまぁ、そこは気にしない気にしない!」

「そうだぜ!ちっちゃいこと気にしてッとふけるぜ!」

「まだそんな歳じゃない!」


 ソフィアはまだいいがラーレの言葉は聞き捨てならんと食いかかろうとしたスレイだが、今度はライアじゃなくノクトに手を引かれた。


「さぁさぁ、こっちですよスレイさん!」

「……ん。はやく行こ」

「あっ、ちょっ!引っ張るな二人とも!」


 ノクトとライアに引っ張られて向かった先は学園の裏庭の方角、そしてそこに近づくに連れて人が増えてきていると感じたスレイだったが、その答えは裏庭に広がっている光景をみて納得した。


「これ、イルミネーション?」


 そこにはさまざまな色の魔力灯を使って作られたオブジェや、木々飾りたてている。

 まさかこっちでもこれが見れるとは思わなかったスレイは、少々驚いた顔をしている。


「あんたは長らく留守にしてたから知らないでしょうね」

「学園が今年からイルミネーションを装飾した裏庭を一般に公開するために解放するそうです」


 なるほど、とスレイはラピスの説明を聞いて納得する。

 綺麗に彩られた学園の裏庭を眺めながら、来年はうちでもやってみようか何てことを考えていたりする。

 そんなことを考えていると、スレイの目の前にヒラヒラとなにかが振ってくる。


「あっ、雪か」


 空を見上げると無数の雪が落ちてくる。


「わぁ~雪ですよ、雪!これは積もりますかね!」

「よっしゃ!デッケェ雪だるま作ってやるぜ!!」

「……うぅ、もう無理」

「はいはい、暖かいお茶持ってきてるから暖まりなさい」


 ノクトとライアが興奮し、寒さが限界に達したライアがふらつき、それを見てあきれたアニエスがポーチ型の魔道具からお茶の入った水筒を取り出しお茶をいれ出す。


「明日は朝から大変ね~」

「子供たちもはしゃぎそうですし、なにより止めるはずのメイドたちがあれですから」

「いやぁ~明日楽しみだね。フィーも初雪だし」

「風邪を引かせないようにしなくてはいけませんね」


 ユフィ、リーフ、ソフィア、ラピスは雪が降って大はしゃぎしそうな子供たちのことを話している。


「ホワイトクリスマスか………」


 雪も降った。

 明日はクリスマスともなれば、今夜はいよいよ。


「雪も降って来たし、そろそろ帰るか?」

「うん。そうしよっか」

「子供たちも眠る時間ですし、帰ったらあれお願いしますね」

「あぁ。任せておいて」


 アレと言うのは言わずもながらスレイサンタのことだ。

 かわいい子供たちのために年に一度現れるサンタクロースを今宵も姿を見せるもであった。




 さて、そんな決意を行った日の深夜、子供たちの寝室の前にやってきたスレイは自分と同じ格好をしたおじいちゃん連中と開墾したのだった。

 ちなみに次の日の朝、子供たちの目の前には十個ほどのプレゼントが置かれていたのであった。

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