この世界の幼馴染み
三話目です。更新が速いですが、この話の半分まで書き溜めしていただけです。
薄暗い部屋の中、たった一つの小さな光源が照らす中、白髪の少年がたった一人で本を読んでいた。
この少年はかつて地球で亡くなり、この世界で赤子として転生した月城 ヒロだった。
ボクがこの世界に転生してから四年と数ヶ月の時間が経っていた。
転生直後は赤子の肉体に精神が引っ張られてはいたが、成長した今ではしっかりとボクと言う人格が確立したのか、はっきりと自分の意志で動くことが出来るようになった。
それからどうやら、っというかこの世界の言葉は地球の言葉とは違った。はじめは意味が分からなかったが、子供になったおかげか段々とその言葉の意味がわかった。
そしてどうやらこの世界のボクの名前はスレイ。スレイ・アルファスタそれがボクのこの世界での名前だ。
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ボクことスレイが転生したこの世界は地球で言うところの中世あたりのようだが、生活レベルだけで言えば現代に近いレベルだった。
当たり前のことだが、世界が違うのなら文明レベルが全く同じというわけではない。それにこの世界には地球にはなかった魔法という力があった。
人の身体の中には魔力というものが存在し、それを使い人は魔法を扱えるそうだ。あいにくとスレイは魔法を使ったことがない。
「一度でいいから魔法は使ってみたいよな」
一人愚痴をこぼすスレイは、読んでいた本を一度床に置いて手を空に掲げて、フンッと力んで見たものの特になにか出るわけでもない。
「やっぱり、出来るわけないよな」
何も起こらないことに脱力し、床においた本を手にとって読みかけのページに目を通した。
今読んでいる本は伝説の英雄が魔物と呼ばれるこの世界の生き物使い世界を滅ぼそうとした魔王を打倒したと言う物語で、何でも実際に起こった出来事らしく勇者も魔王も、何百年も昔に本当にいたそうだ。
母が読んでくれた絵本も小さい子供が分かりやすいように書かれていた。
そんな両親だが父はフリード、母はジュリアというらしく身内贔屓かもしれないが二人共、美男美女の夫婦であった。
父フリードはくすんだ金髪に蒼色の瞳の青年で、母ジュリアは白髪に灰色の瞳を持った女性だ。
そんな二人の職業は冒険者、つまり魔物と呼ばれる化け物や古代の遺跡を探索する者たちの総称だ。
世界を巡り人々を救う立派な仕事だと父フリードは誇らしく語っていた。
今は仕事で遠くに行っているので、こうして普段は一人では入れない父の部屋で勝手に本を読んでいるのだが、一つどうにも気になることがあった。
それはここにある本すべてが同じ文字でかかれていることだ。
以前、父フリードと一緒にこの部屋に入ったとき、父は自慢するようにこう言っていた。
ここにある本はすべて、世界中を旅したときに見つけた自慢のコレクションだ。っと、確かにフリードは言っていた。
なのになぜ、異国の言葉が一つもないのだろうか?あえて、自分の分かる言葉で書かれたものしか購入しなかったのか?理由はいくつか考えられたが、結局この世界の文字も言葉も今話して読んでいるものしかわからない。
パタンと読んでいた本を閉じて顔を上げたスレイは、部屋の隅に貼られた地図を見る。
貼られている地図は、この世界の地図だ。
この世界は大きく分けて五つの大陸に分かれ、一つの大陸に無数の国々が存在している。スレイが暮らしているのは西方大陸にある国の一つ、そこの小さな村だった。
これだけの大きな世界でたった一つの文字だけが広がっているなどあり得るのか、スレイにはどうしても思えない。しかし考え、答えを決めることもまだ早計だ。
なにせ初めてまだ半年なのだから、結論を急がずにじっくりと見定めていけばいい。
読み終わった本を元の場所に戻したスレイは、壁にかけられた時計をみる。
「もうこんな時間か、お昼ご飯用意しなきゃ」
両親が仕事で留守にすることが多いため、一通りの家事は仕込まれており簡単な料理も出来る。
ちなみに両親は泊まりで仕事にいくことはほぼないが、極稀に泊まりで仕事をすることもありそんなときは隣の家に預けられる。
今日のところは日帰りで仕事をするとのことで、スレイは留守番をしているのだが四歳の子供に留守番をさせるのはどうなのかと思ってしまったが慣れれば気にならないものだ。
部屋を出ようとしたとき、廊下の奥から突然声が響いた。
「ほぎゃぁあああぁあぁあぁぁーーーーーーッ!!」
赤ん坊の鳴き声を聞いたスレイは急いで声のする方へと走っていった。
⚔☆⚔
急いで声の聞こえる部屋に駆け込んだスレイは、部屋の中央に置かれたベビーベッドに駆け寄ると足場を登って中を見る。
ベッドの中には黄金色の髪をした赤子がグズっている。
赤子は涙の浮かんだ目でスレイを見つけると、短い手足を必死に伸ばしてくる。
「あぁ~うぅあぁ~!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
安全柵の一部を取り外し赤子を抱きかかえたスレイは、ポンポンッと背中をたたきながらあやし始める。
「ほぉ~らミーニャ、お兄ちゃんが来たよぉ~」
「うぅ~」
ベッドに寝ていたこの赤子はスレイの妹のミーニャだ。
歳は今年で一歳になったばかりだが、まだまだ目が離せないミーニャをあやしながらスレイは泣いている理由を考える。
「ミルクはさっきあげたばっかりだし、おしめは………うん、湿ってないから違うな」
ミーニャが泣いていた理由を考えながらスレイは泣き止ませるために語りかける。
「どうしたんだぁ~、怖い夢でも見たのかなぁ~?」
「ふぅえぇ~ん」
「ほぉ~ら、お兄ちゃんがいるから怖くないよぉ~」
ポンポンッとゆっくりリズムを取りながら背中を叩いている。
すると少しずつミーニャの泣き声が落ち着いていき、少しずつウトウトとし始める。もう少しかと思いながら続けていると、ミーニャは再び眠りについた。
「お休み、次起きたらミルク飲もうな~」
起こさないように慎重にミーニャをベッドに寝かしたスレイは、風邪を引かないように優しく毛布をかけ、安全柵をもう一度取り付けた。
柵の上に肘を付き、幸せそうな寝顔のミーニャを見つめていたスレイはツンツンッと、柔らかなほっぺを堪能してからベビーベッドから離れる。
せっかく眠ったミーニャを起こさないよう、なるべく足音を立てないように窓に歩みより窓を開ける。するとふわっと穏やかな風が吹き、風と共に花の香を運んでくる。
「うん、いい天気だよな」
季節は春、暖かな日差しとともに吹き荒れる風が春の花々の香りを運んでくる。
春というのはどこの世界でも一緒だ。暖かく過ごしやすいこの季節は、少しでも気を抜いてしまえば一瞬で眠りに落ちてしまいそうだ。
理由は他にもありそうだが、抗いがたい眠りに誘われる。
「ふぅはぁ~。やっぱりいい天気だよなぁ~。眠っちゃいそう」
窓枠から離れて床に寝転がったスレイは、このまま少し眠ろうと考える。
暖かい日差しを浴びながら眠りにつこうとするスレイ、これはいい夢が見れそうだ。そう思いながら深い眠りに落ちようとしたその時、外から大きな声が聞こえてきた。
「スぅ~レぇ~イぃ~ちゃ~ん~!あぁ~そぉ~ぼぉ~!」
外から聞こえてきた女の子の大きな声で飛び上がったスレイは、バッとミーニャの眠るベビーベッドに視線を向けるとほぼ同時に、ベッドの中から鳴き声が響き渡った。
「うにゃぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」
大声で泣きはじめたミーニャ、これはまずいと飛び起きると同時にスレイはベッドに駆け寄った。
「ワァーッ!?ミーニャッ!?大丈夫だか───あっ、いってぇ!?」
「うにゃあああぁァァァーーーーーーっ!?」
慌てすぎて取り外した安全柵を自分の足に落としたスレイ、その声にミーニャの鳴き声はさらに大きくなる。
足の痛みを堪えながらミーニャを抱きかかえたスレイは、抱きかかえ体を揺らしてついでに背中もポンポン叩きながらあやし始める。
「ほぉ~らミーニャ、大丈夫だからねぇ~」
「やぁあああーーーーっ!!」
スレイは自分の持ちうるすべての育児スキルを総動員させてミーニャを泣き止ましているが、外から聞こえてくる少女の大声のせいで泣き止んでくれない。
「おぉ~いぃ~!いるのはわかってるよぉ~!」
いつまでも続いてくる少女の声を無視しつつ、窓際に移動して少しでも外の声が入ってこないように窓を閉める。
バンッと窓ガラスが割れないか心配になる力で閉めると、その音で更に火がついた。
「おぎゃあ!おぎゃあッ!おぎゃあッ!!」
「わぁああああっ!?ごめんねミーニャちゃん!?怖かったねぇ~!」
「オギャァアァアァァァァァアアアアッ!?」
「あぁあああーーッ!?これ、ジュース飲まないとダメなやつだぁァああああーーーーーーッ!?」
ジュースなど用意していないため、どうやって泣き止まそうかとプチパニックに陥るスレイ。しかし、外から聞こえてくる声をどうにかしなければ泣き止まない。
「あぁ~!クソッ!ごめんミーニャ~!ちょっとまっててね~!!」
「うにゃぁぁあぁぁぁぁーーーーーーっ!」
泣き続けるミーニャをベッドに寝かして窓にかけ、ようとして急ブレーキで踵を返すと安全柵を急いで取り付けたが、再び足に落としてついでに指まで挟んだ。
痛みに涙目になりながら窓際に駆け寄り、窓を開けてこちらに叫び続ける少女に向けて叫んだ。
「ユフィちゃん!ミーニャが寝てるから静かにして!」
窓から顔を出してこちらに向けて叫んでいる薄い桃色の髪の女の子 ユフィに辞めるように注意すると、ユフィはスレイの顔を見てブンブンッと手を降ってくる。
「スレイちゃん遊ぼうよぉ~!」
「だから静かにして!」
ユフィに連られたスレイの大きな声を聞いて、ミーニャは大きな声で泣き出してしまった。
⚔⚔⚔
外で騒ぐユフィを家に招き、どうにかしてミーニャを泣き止ませたスレイは哺乳瓶の中にいれたジュースをミーニャに飲ましている。
「ほぉ~ら、ミーニャ、たっぷり飲みなぁ~」
「んぐ、んぐ………」
たくさん泣いて喉が渇いたのか、ゴクゴクとものすごい勢いで飲んでいく。落ち着いてくれてよかったと胸をなでおろすスレイは、横目でちょこんっと椅子に座って小さくなるユフィを見る。
「本当にごめんねスレイちゃん」
申し訳なさそうに小さくなっているユフィに悪気がなかったことはわかっているスレイは、別に怒ってはいなかった。
「もう怒ってないよ。それに今回だけじゃないしね」
「うぐっ」
ユフィはこの世界での幼馴染だ。
家は隣同士で産まれた日も数日違いと、スレイとは幼馴染というよりも兄妹のように育ってきた。そのため、ほぼ毎日こうして遊びに来ては運悪くミーニャを起こしてしまうことも何度もあった。
「気にしてないからいいよ、ただ少しおとなしくはしてほしいけど」
「はぁ~い……それじゃあ。遊ぼっか!」
ニッコリと微笑みながら答えるユフィの顔を見て、スレイはここでない世界での幼馴染だった少女の顔を思い出した。
「ん?どうかしたの?」
「あっ、いや、なんでもない」
一瞬、彼女のことを思い出してほうけてしまったスレイは、すぐに平静をとりもどした。
「遊びにいきたいけど、お父さんたち帰ってきてないから外じゃ遊べないよ?」
「じゃあお家の中で遊ぼっか!」
「うんっと、ちょっと待ってて」
今日は一日仕事で両親は夕方まで帰ってこない。
なので両親が帰ってくるまで、ミーニャの面倒を見なければならない。
腕の中でジュースを飲んでいたミーニャが、哺乳瓶から口を離すとポンポンッと背中を叩いた。
「けっぷ」
「よぉ~し、全部のんだしねんねしようなぁ~」
ジュースを飲み終わり再びウトウトしだしたミーニャを抱きかかえ、ベッドの上に寝かせるとすぐに夢の世界へと旅立った。
眠ったミーニャに毛布をかけたスレイは、ユフィに目配りをして起こさないように静かに部屋を出る。
階段を降りてリビングに来たスレイは、ユフィを椅子に座らせて冷蔵庫の中を確認する。
「ジュースあるけど飲む?」
「飲むぅ~!」
ユフィの返事を聞いてコップを二つ用意すると、ジュースを注いで片方をユフィに渡すとスレイも向かいの席に座った。
「ミーニャも寝たし、何する?」
「じゃあねぇ~おままごと!」
「ダメだよ。うるさくしたらミーニャが起きちゃうでしょ?」
「そっかぁ~、なら絵本読もうよ~」
「わかった。すぐに取ってくるよ」
立ち上がったスレイを見てユフィも立ち上がる。
「私も行く~」
一緒に絵本を選びに行こうとしたユフィ、その手にはジュースのコップが握られておりなんだか嫌な予感がした。
「あっ!」
「えっ?」
なにもない場所でこけたユフィは、コップの中に入っていたジュースをスレイに向けて盛大にぶちまけた。それも、丁度スレイの下半身に向けて。
「キャァァァ!スレイちゃんごめんなさい!?」
「あぁ~あっ、びっしょりだけどジュースだから平気──って何してるの!?」
ユフィがハンカチでスレイのズボンを拭き始めた。
「早く拭かないとシミになっちゃうじゃん!」
「いやだからって!?」
ジュースで濡れたズボンを拭こうとするユフィを引き離そうとする。なにもやましいことはなくても、こんなところを見られてはあらぬ誤解を与えてしまう。
そう考えユフィを引き離そうとしていると、ガチャッと部屋の扉が開かれる音が聞こえてくる。
「スレイ!ミーニャ!お父さんが帰ったぞ!」
「スレイちゃん。ミーニャちゃん。二人っきりにしちゃってごめんなさいね」
まさかのタイミングでフリードとジュリアが帰ってきてしまった。
「「「「…………………」」」」
四人が何も言わずに黙り混む。
ちなみにユフィは二人が入ってきたときに冷静さを取り戻し、自分が今スレイのどこをさわっているのかを思いだし顔を真っ赤にしてうつむいている。
「あぁ~、とりあえずスレイ早く着替えてきなさい」
「うっ、うん……」
いち早く硬直から復帰したフリードがスレイに着替えるようにといい、それに従うことにしたスレイは何も言わずに自分の部屋に戻っていった。
⚔⚔⚔
その後スレイは何も言われなかった。その訳は着替えてきている間にユフィから聞いたらしい。
日も暮れていき遅くなる前に、家に帰ることになったユフィは、未だにさっきの事を謝っていた。
「本当にごめんねスレイちゃん!」
「もう気にしてないよユフィちゃん」
「じゃ、じゃぁねスレイちゃん」
「じゃぁジュリちゃん。ユフィちゃんを送ってくるよ」
「行ってらっしゃいあなた。ユフィちゃんまた遊びにいらっしゃい」
「はい!」
手を振りながら帰っていくユフィを見送ったスレイは、しばらくして家の中に入っていった
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その日の夜、眠る前に自分の部屋で本を読んでいたボクはふと今日の事を思い出した。
ユフィと遊んでいたとき、地球で幼馴染だったミユの姿を重ねてみていた。
「前から思ってたけど……ユフィってミユに似てるよな」
どこかおっちょこちょいでそれでよく叫ぶところなんかが良く似ていた。
思い出しながらなんだかおかしくなったボクは、下にいる両親に聞かれないように声を押さえて笑っていると自然と目から涙が流れた。
流れた涙を拭きながら地球の幼馴染みの事を思い出す。
「もう一度、ミユに……みんなに会いたいな」
それは叶わぬ願いだと解ってる。
だけど、それでももう一度会いたい。
その願いが思わぬ形で叶うとはそのときのボクは思ってもみなかった。
誤字脱字がありましたら、教えてください。