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邂逅と救出 ②

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 聖剣と魔剣がぶつかり合ったことによって精神世界での勇者レオンとスレイの邂逅。

 それは魔剣の所有者であるユキヤの元にも同じ現象が引き起こされていた。だが、造り出された精神世界はスレイとレオンの物とは全くかけ離れた物であった。

 これはイブライムが残した力の影響によるものなのか、それとも未だ精神を過去の燃え盛る屋敷の中に捕らわれてしまっていたせいなのか、造り出された精神世界は燃え盛る炎に照らされ、その中心では頭を抱え踞り炎に身を焼かれ続けるユキヤの姿があった。

 そんな精神世界に降り立ったのは長い黒髪を一つにまとめ、たった一房だけ見える深紅の髪が特徴のその男は、自分のいる場所を見回した男は最後に自分の目の前で頭を抱えながら踞っている青年を見て、全てを納得したかのように頷いた。


「なるほどな、ここは貴様の深層心理の奥深くに眠っていた幼き頃の記憶の現れか、例え仮初の母で有ろうと自らの手で斬り殺したことによる後悔の念の現れか、あるいはその両方によるものなのかは分からぬが、これは速く助け出さねばなるまいな」


 男がユキヤを焼き続ける炎に触れようとしたそのとき、まるでこの精神世界その物に第三者の意識が入り込んでいるのか、そう思わせるようなどす黒い神気が溢れ出すとユキヤの回りで燃え盛る炎を多い尽くし、さらにはこの世界その物を塗りつぶそうと溢れ出すが、その神気は男の前にまでやってきたところで突如消失した。


「たわけが、そのようなただの殺意しか籠められておらぬ神気で、この俺をとらえられるはずがなかろうが」


 男の一喝によって精神世界からイブライムの殺意の神気が、これはあくまでも一時しのぎでしかない。精神世界から出てしまえばユキヤの魂は再び殺意の神気に捕らわれてしまうだろう。

 だが元々この男にはユキヤを救い出すつもりはさらさらないのだが、その男は未だに炎に焼かれながら踞るユキヤの姿を見ながら小さなため息を一つつきながらそちらへと歩み寄っていく。


「全く、我が魂の半身であるはずの貴様が、俺の眼の前でそのような醜態を晒していると思うと俺はかなり悲しく思えてくるな」

「だれ、だ………なんで、ここに、人がいる?死ぬぞ、ここからはやく、立ち去ってくれ」

「はははっ、ようやく話したかと思えば立ち去れか。残された魂の一部より生まれでた虚栄であるこの俺に向かって言われると、さすがに笑えてくるのだが。始めに言っておくが俺は消えるつもりはないぞ?」

「お前はいったい、誰なんだ?なんで、ここにいる?頼むから、俺を一人にしてくれよッ!」


 悲しみに暮れるユキヤの叫び声を無視するかのように男は歩みを止めず、ユキヤの目の前にまで移動すると突如右手の中に一本の剣が現れると、その剣をユキヤの目の前に突き刺すと虚ろな目でユキヤがその剣に視線を向けた。


「ここは精神の世界だ。ここで自らの胸にその刃を突き立てれば現実で死ねよう。この世界は辛いのだろ?ならばその命を捨て去ることで忘れればよかろう」


 男にはそう諭されたユキヤはゆっくりと立ち上がると、目の前に突き立てられた剣に手を伸ばすと震えるような手付きで柄を握り引き抜き、その切っ先を自分の胸に突き立てようとした。だが、そのすんでのところでユキヤはその切っ先を止める。


「どうした、そのまま突き刺せば楽になるんだぞ?」


 男との言葉にユキヤは自問する。

 本当にこんなところで終わらしてしまっていいのだろうか、やるべきことはまだあったのではないか?幼き日に誓ったことがあったのではないか?覚悟を決めたのは、剣を取ることを選んだ理由があった。

 心の底から殺したいと憎んだ相手がいた。そいつはまだ殺せていないのに、本当に死んでのいいのか?そう自問を繰り返したユキヤの出した答えは、否だった。


「悪いが………それだけは出来ない」

「ほぉ、それはなぜだ?」

「俺は………俺はあの日誓ったんだ。あいつを殺と母の亡骸に誓った!まだ誓いは果たしてねぇ、俺があいつを殺すまでは、母の家族の仇を打つまでは死ねない!」


 セファルヴァーゼに対する憎悪と憎しみを思い出したユキヤは、握っていた剣の刃に力を込めると掌から血が滲無と同時に、剣の刃に無数の亀裂と共に剣が砕け散った。すると握りしめた拳を起点に身を焦がし続けてきた炎が集まっていった。

 この炎はイブライムが夢を通して実体化した憎しみの炎、これを取り込めばユキヤは再び憎しみに取り込まれる可能性があったが、ユキヤは迷うことなくその炎を取り込んだ。

 すうとユキヤは胸の奥深くに仕舞ってしまった憎しみの炎が再び燃え上がるのを感じる。だが、今度はその憎しみに飲まれることはなかった。

 炎を飲み込んだユキヤはゆっくりと立ち上がると、それを見ていた男は感心したような顔をしていた。


「ほぉ、憎悪を飲み込んだか。なかなかやるではないか」

「うるせぇよ。ってかてめぇは誰だ?何でこんなところにいやがる?」

「なんだ、お前。俺が誰なのか本当にわからないのか?」

「初めてあったやつにから、分からねぇかって言われても分からねぇもんはわからん」

「ふむ。あぁ、なるほどな。ずいぶんと持ったようだが、あやつはお前が来るよりも先に逝ってしまったか」


 小さな声でなにかを呟いている男の顔を見ながらどうするかと考えていると、男が改めて名乗りをあげる。


「デュークだ。貴様もこの名前くらいは知っているのであろう?」

「七百年前に死んだはずの魔王か?それがいったいなんで俺の………いや、そうか。お前は俺だったんだよな」

「レオンの半身から聞いていたようだが、俺の顔を見てすぐに気が付かなかったとはなぁ」

「気付くもなにも、顔も知らねぇしレティシアの家にもあんたの肖像画の一つも存在しなかったからな。分かるはずがねぇっての」

「レティシア………あぁ。俺の子孫か。なるほどな、あの娘は俺よりもクリステラに似ている。お前がわからないのも仕方がないのかも知れぬな」


 これはいよいよ信憑性のある話しかもしれないと考える。魔王の妻、つまりはレティシアの先祖であるクリステラの肖像画は屋敷に残っていたので名前は知っている。

 ならばこの男は本当に死んだはずの魔王なのだとしても、何で死んだはずのこの男がこの場にいるのかその疑問が残っている。


「なんでお前がいるんだ?死んだはずだろ?」

「記憶の一部を魔剣の中に残していたのだ。お前と勇者の半身が争いを起こしたときにとめるためにな」


 そういう理由があったのかそう思ったユキヤだったが、使徒のせいで操られている今の状況で精神世界に連れてこられただけで、使徒の能力事態はなにも解決していない気がするのだがっと、ユキヤが考えていると謎の男ならぬ魔王デュークが口を開く。


「さて、俺はお前をとめるために出て来たわけだが、元々死人であるこの俺にお前を助け出せるような力もなければ、手段さえもない」

「分かってたことだったが、てめぇを一発殴らせてもらってもいいか?」

「殴ったところで俺は死人だからな、殴られたところで痛みも感じないしな」


 そう言われてユキヤは握りしめた拳を下ろそうとしたとき、ユキヤの背後からここにはいるはずのない第三者の声が聞こえてきた。


「おやおやおや、これはこれは。何百年も前に死んだはずの死人が出てくるとは、本当に面白いですねぇあなたたちは」

「てめぇは、イブライム!なんでてめぇがここにいやがる!」

「それはお前と繋がっていたせいだろうな。んでっ、その使徒がいきなり来た理由はなんだ?」

「決まっているでしょう。私の手駒を返してもらうためですよッ!」


 イブライムの身体が黒い靄へと変化するとユキヤのもとにまで飛来すると、ユキヤはあれに飲み込まれたらどうなるか知っているが、いったいこの場所でどうやったらあの黒い靄を振り払えるのか、迫りくる靄を前にして思考を巡らせているユキヤに向かってデュークが叫んだ。


「そいつの力は意識を飲み込む。ならばお前はその意思に負けぬように心を強くもて!何者にも縛られぬ強靭な意思を貫けッ!」

「はっ!なるほどねッ!」


 強い意思を何者にも負けない強靭な意思を、そういわれたユキヤが思い浮かべるのはただ一つ、先ほどイブライムに見せられた母の最後の姿、助けられなかったことへの後悔と、そして幼き日に誓った復讐の念、もう二度とあんな悲劇を繰り返さないためにと心に誓った決意を胸に抱いた。

 すると、ユキヤを絡め取ろうとした黒い靄が、まるで見えない障壁かなにかに遮られたかのように四散し飛び散ると、そこからイブライムが姿を表した。


「おやおや、取り付けませんでしたねぇ」

「はっ。わりない、もう捕まるわけにはいかねぇんだよッ!」

「うまく払い除けがようですがねぇ、ここは精神世界です。つまりは精神を支配することの出きる私にとってはこれほど最適な場所です。わかりますか、この意味?」

「やってみろよ。もう一度弾き返してやるからよぉ」


 一度はあいつの攻撃を弾き返すことが出来たが、次はイブライムもやり方を変えてくるかもしれない。そうなったときに同じことを出きるかと言われれば、可能性は五分と五分と言った具合か。


「威勢がいいのは結構ですが、あなたには漬け込む隙が多すぎるんですよねぇ。例えば、あなたの身近な存在の死とかが、特に効きそうですしねぇ」

「あぁ?」

「あなた、ご自分でも気づいているとは思いますが、あなたは身近にいる人を大切にしすぎる。だから母親を自分の手で殺したぐらいで動揺し、我を忘れるんですよ。もう一度、あなたの母親を、ついでにおなたの側にいるむ娘にはもっと悲惨な最後の瞬間を見せれば、あなたの心は耐えられますか?」


 イブライムのその言葉を聞いた瞬間、ユキヤの頭の中にアカネとレティシア、エンジュにミーニャたちの悲惨な最後の光景が駆け抜けると、その光景を見せられたユキヤがギリッと奥歯を強く噛み締め叫んだ。


「てめぇッ!」

「バカが!心を乱すな────ッ!?」

「残念。終わりです」


 再び黒い靄へと姿を変えたイブライムが再びユキヤに迫ると、黒い靄がユキヤに絡み付き精神の中に侵入してくる。


「しまっ!?───グアァアアアッ―――――――――ッ!?」


 やられた、そう思ったユキヤは頭に直接流れ込んでくる暗い闇と果てしない殺意の本流、そして支配を強めるために見せられる悪夢は憎悪を増長させる。

 一瞬で頭のなかを駆けずり回る憎悪の本流に耐えられなくなったユキヤは、苦しみの声を上げながら頭を抱え、虚空の広がる空へとがら叫び続けるのであった。




 精神世界でありユキヤの記憶を読み取ることの出きるデュークは、ユキヤが見せられている悪夢を見て小さく舌打ちをすると、背後で黒い靄の一部から実体化をして姿を表したイブライムのことを睨み付ける。


「貴様、こいつを壊すきか?」

「それもいいでしょうねぇ、私はこの男とは敵同士ですし。そうなってくれたら面白いですねぇ」

「ならば、貴様だけでも俺が消し去っておこう!」


 虚空より即座に出現させた剣を握り絞めたデュークは、造り出した剣に自身がもしものためにと魔剣の中に残しておいた力の一部を纏わせると、背後で佇んでいたイブライムに向かって剣を降り下ろした。

 放たれた斬激がイブライムを縦に両断すると、切り離されたイブライムの身体に無数の亀裂が走った。今はなた斬激によって精神世界の中に入り込んだイブライムの意識を完全に切り離した。


「おやおや、残されたわずかな意識だけの存在かと思いましたが、存外にやりますねぇ。まさか意識だけとはいえ神の使徒を超越したこの私を切り離すとは!」

「切り離しただけで、あいつを助けることはできなかったみたいだがな」


 チラリと後ろを見たデュークは今だ苦しみもがき続けるユキヤを見ながらそう呟く悔しと、そうに顔を歪めながら光の欠片となって消えていったイブライムを睨んでいた。

 自身の半身を助けられずに使徒の意識にも逃走を許してしまったことを恥じていると、デュークはふと自分の掌へと視線を向けて小さく息を吐いた。

 デュークが見たのは指先から腕にかけて色素が抜け、透明になっている自分の身体であった。それを見てデュークはもう自分に残されている時間がないことを理解した


「わかりきっていたことではあったが、まぁこれでも多少はもってくれた方だったのだろうな」


 元々魔剣の中に残されていた微かな魂の一部といういつ消滅してもおかしくない不確かな存在、例え精神世界であったとしても存在を確立出きるかさえ分からなかった存在がここまで持ったのだ。

 よかった、そう思いながらも消えかかる手を握りしめたデュークは、残されたわずかな時間でここに現れた最後の役割を果たすべく魔方陣を展開すると、空いている手をユキヤの方へと向ける。


「レンカよ、聞こえておらぬようだが敢えて言わせてもらおう。お前は今までとても辛い経験を繰り返して来たことは知っている。だが忘れるな、それを乗り越えられたのはお前が一人ではなかったからだ。人は一人では生きられぬ、どんなに辛くとも、どんなに悲しくとも、光を見つけろ!さすればお前を包むその闇は自ずと晴れるであろう」


 デュークが展開していた魔方陣が出来上がると、向けられている手を通してユキヤへと流れていく。あの魔方陣魔剣に隠された力を呼び覚ますためのもの、今浜だ使うことができなくともいつかかならずユキヤたちの力になるだろうと信じて託した。

 すると、いよいよ限界なのか展開された精神世界が崩れ始めると、デュークはひび割れる空を見上げながら叫んだ。


「済まぬなレオン、俺ではダメだった。あとはお前の転生者に任せるぞ!」


 悲しそうに笑うデュークは最後を友に託しながら消えていった。

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