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勇者VS魔王 ②

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 それは、俺が幼き日に初めて見た地獄のような光景だった。


 俺の目の前では建物は炎によって燃え盛り、俺の足元には死した人の屍が転がり流れ出た血によって赤黒く染まり、切り落とされた肉片や臓物に汚れている。

 産まれたその日からズッと側にいて、つい先ほどまで共に食事をし、言葉を交わし、笑顔を向けていた家族と何ら変わらない大切な人々に冷たい殺意の籠った刃が振り下ろされる。


『やめろ……やめてくれ』


 その顔には刀の鋭い刃によって与えられた痛みによる苦痛と死への恐怖で固まり、ついには物言わぬ死体へとなり変わっていた。

 過ぎ去ったはずの過去の忌まわしき記憶が今再び俺の目の前に現れた。

 ここはいったい、なんという地獄なのだろうか。

 運命いたずらなのか、はたまた神と言う名の化け物と戦うことを選んだ俺の対する罰なのか。

 俺の目の前で一人、また一人と、かつて俺とスズネを守るために死んでいった大切だった人の死の目が再び現れる。


『やめてくれ………もう、見たくない』


 もしも死後の世界に地獄があるなら、きっとこんな場所のことを言うのだろう。

 尊敬し慕っていた父が神の使徒となって家族を虐殺する光景、脳裏に焼き付き幼き頃から何度も悪夢として現れてきた。

 知っているじゃないか………これはすでに終わった出来事なのだと。

 イブライムが見せている夢なのだということを……だから落ち着け、その声に耳を傾けるな、感覚を殺せ、感じるな。


 絶え間なく聞こえいてくる悲鳴を聞かないようにと、俺は耳を塞ぎながらまるで子供のように膝を抱えて踞る。

 これから起こることは見たくない、絶対に喪いたくなかった母に凶刃が振り下ろされる光景だけは絶対にみたくはない…………母を二度も失うところなんて見たくない、見せないでくれ、俺にそれを頼む………頼むから………


『良いですかレンカ、スズネをつれて共にここからお逃げなさい。何があったとしても決して振り返らず、母に何があったとしても戻ろうとはしないように。生きなさい、生きて────』


 それは母の声だった。

 最後の瞬間に燃え盛る屋敷の中から俺とスズネを逃がそうとする母の姿と、幼い日の俺とスズネがそこにいた。


『………かあ……さま……』


 泣き叫ぶ幼い俺を抱えるのは俺とスズネの後見人となる男だった。


『やめろ………やめて、くれ………』


 嫌だ、もうこんな光景を見るのは真っ平だ!例え夢や幻だとしても大切な人を失うのはもうみたくない。

 俺はいつの間にか腰に下げられていた黒刀の柄を握って立ち上がると、父が母に向かって刀を振り下ろそうとしている瞬間に駆け抜けると、居合の構えから放たれる最速の一閃が母を斬り殺そうとする父の首を落とした………はずだった。

 俺の目の前にいたのは俺の剣で斬られ血を流す母の姿だった。


『ぁ………あぁ、うわぁあああああ――――――――――――――ッ!』


 深々と斬り込まれた黒刀の切っ先から滴って流れ出た母の血が俺の手を濡らしている。温かな、生きている人から流れ出した真っ赤な血と、ユックリと力なく倒れかかってくる母の身体を受け止める。

 俺が母さんをこの手で斬ったのだと理解した瞬間、俺は自分の内側から溢れだしてくるどす黒いなにかに支配されていくのであった。


 ⚔⚔⚔



 聖剣を盾へと変形させたスレイは、ユキヤの握る魔剣から放たれたどす黒い闇の力を内包した闇の斬檄を盾で受け止める。


「グッ……こんのぉッ!!」


 押されながも盾を握る邸力を込めたスレイは、少しでも被害をなくすために闇の斬撃を真上へと受け流した。

 受け流された斬撃が上空で弾けると同時にスレイが駆け抜ける。


「ゥォオオオォォォォ―――――ッ!」


 駆け抜けたスレイは即座に盾から剣へと戻すと黒幻と聖剣に業火の炎を纏わせた。

 業火の炎を宿した聖剣と黒幻の切っ先を後ろに伸ばしたスレイ、対して魔剣を垂直に構えたユキヤが同時に振るった。


「いい加減にしろよこのバカッ!───双牙・業炎十字斬ッ!」


 黒幻と聖剣から放たれた業火の斬激が重なり合って巨大な十字の斬檄がユキヤに向かって放たれる。

 魔剣を両手に握り直したユキヤが魔剣の切っ先を後ろに向けながら大きく一歩を踏み出すと、目の前へと迫り来る炎の十字架に向けて魔剣を振りかざした。


「───斬檄の型 閃華一刀」


 真横へと振り抜かれた魔剣の一刀が炎の十字架を切り裂くと、放たれた斬激がスレイの元にまで吹き抜けると聖剣で斬檄を弾き返した。

 すると炎の中からユキヤが現れ両手に握った魔剣で斬りかかる。


「クッ!───聖剣よ 答えよッ!」


 黒幻で魔剣の一刀を受け流して籠手に変化させた聖剣でユキヤの顔を殴り付ける。


「どうだユキヤ、少しは目が覚ましたかッ!?」


 殴りつけたユキヤの動きが一瞬止まった。

 どうだ、そう思ったスレイに向けて顔を上げたユキヤは虚ろな目がこちらを射抜く。


「───斬激の型 陽炎の舞い」


 魔剣を斜め下から真上へと振り上げる。

 ダメか、そう思ったスレイが振り抜かれるの魔剣をを黒幻で受け止めようとした瞬間、魔剣の刀身が揺めき黒幻の刀身をすり抜けた。

 しまった、そう思い顔をしかめるスレイの元へと魔剣の刀身が入ろうとした。


「クソッ!!」


 魔剣の刃がスレイに届こうとした瞬間、既のところで篭手から短剣へと変えた聖剣を滑らせて受け止めた。


「相変わらずお前の技は動きを読みずらいけど、今のお前の剣は簡単に防げるよ!」


 ギチギチと火花を散らし会う聖剣と魔剣、スレイが聖剣の刀身を傾け魔剣の斬檄を滑らして受け流すと黒幻を握る手を離し再びユキヤの横顔を殴り付けた。


「オラッ!」


 顔を殴られてたたらを踏んだユキヤは思わず後ろへと下がった。

 殴り飛ばされたたらを踏んだユキヤだったが、両足を踏み締め体勢を建て直すと左足を軸に回転し、スレイの右側へ向けて回転横斬りを放とうとした。

 剣を振り下ろされるよりも先に踏み込んだスレイの拳がさらにはユキヤを殴り付ける。


「───フッ、おぅらぁああ―――――――ッ!!」


 渾身の右ストレートがユキヤの左頬を殴り飛ばす。

 今度こそ完全に殴り倒されたユキヤは片手を突きながら立ち上がろうとしているのを見ながら、スレイは地面に転がっている黒幻を拾い上げた。

 拾い上げた黒幻を軽く横に振ってからその切っ先をユキヤの目の前に付き出した。


「普段のお前ならこんなに簡単に当たる訳ないのに、ここまで簡単に拳が当たると結構笑えてくるな」


 自然と浮かび上がってくる笑みによって口元を歪めているスレイ、その笑みを見たユキヤはなにも反応することもなく拳でスレイの黒幻を殴り飛ばし魔剣を突き立てようとしたが、聖剣で魔剣を絡めとり上へと払いのける。

 ユキヤの手から解放された魔剣が空中を回転して遠くへと突き刺さった。


「ホント、お前らしくないな」


 本当のユキヤならば決してこんなにも簡単に剣を手放すことはないだろう、操られているだけで込めるべき思いもなにもない軽い剣。

 ただ振るうだけで強い意思もなにもない技しか放てないユキヤを前に、スレイは胸のうちにくすぶる怒りが吹き上がる。


「いい加減にしろユキヤ、お前、いったいなにやって───ッ!?」


 スレイは魔眼を使ってユキヤの魂を見ると、その魂に燃え続ける憎悪の焔がどんどん広がっていく。

 それはまるで更なる絶望を味わい、絶望からユキヤが自分自身で心を傷つけている。あの魂を覆う焔を見てそう思ったスレイは、ギリッと奥歯を噛み締める。


「あぁそういうこかよ、このバカッ!」


 二人にああ言った手前、無理にでも魂に纏わりついたあの焔やどす黒い靄を切り裂くことはできない。だから、黒幻を突き立て倒れるユキヤの首もとを掴んで自分の方へと引き寄せる。


「おい、さっさと立てよバカユキヤ!今のお前がどんな物を見せられているのか知らない、今のお前がどんなに苦しんでいるのかなんてわからないし、そんなものをボクがわかれるはずもない!………でも、それでも、お前と言う男の覚悟はそんなもんなのかよッ!」


 なにも返して来ないユキヤにスレイは再び拳を叩き込もうとしたそのとき、ユキヤの手に魔力が集まるのを感じた。

 バッと視線を向けたスレイはユキヤの掌に描かれた魔方陣を見て、しまったッ!?、そう思い手を離すと全身に強化と竜燐を纏った。


「───テンペスター・ストライク」


 吹き荒れた暴風を受けてスレイは吹き飛ばされた。


「うわっ!?」


 吹き飛ぶ寸前に黒幻を掴んだスレイはそこまでの距離を吹き飛ぶことはなかったが、それでも僅かユキヤから目を離してしまいすぐに視線で追うと、そこには再び魔剣を手にしたユキヤの姿がそこに合った。

 ユキヤがなにかをする前に動きを止めるべくスレイは胸のホルスターから魔道銃アルニラムを抜くと、トリガーを連続で引き魔力作られた弾丸を放ったが、ユキヤの剣がすべての魔力弾を切り裂いた。


「クソッ、これじゃダメだッ!!」


 ただの魔力弾ではユキヤには効果がないと感じたスレイは、即座にアルニラムを空間収納に投げ捨て手を伸ばすと地面に落ちていた聖剣がスレイのもとに飛んでくる。

 するとまるで示し合わせるかのようにユキヤが鞘へと魔剣を納めると、身を大きく屈める前傾姿勢をとるとまるで弾丸のごとし速度で向かってくる。


「────居合の型 絶華」


 向かってくるユキヤを前に、大きく息を吐きながらスレイは足を開き腰を大きく落とした。

 右手をまっすぐ伸ばし黒幻を真横に構え、左手に握られた聖剣を大きく引き絞るように構えると、聖剣の刀身に漆黒の業火と純白の聖火を織り混ぜた聖闇の業火を纏わせ、スレイもユキヤに続くように地面を蹴った。


「ぅぉおおおおぉぉぉぉ―――――――ッ」


 始めて絶華をみたあのときから頭の中で何度も何度もこの技を破る方法を考えてきた。

 切り上げと切り下ろし、左右からの横凪、さらには左右の切り下ろしと切り上げを抜刀からの一瞬におこなうこの技は、すべての斬激の終わりが一点に集まってくる。

 鞘走りと同時に引き抜かれた魔剣から放たれる八つの斬激、その全てが重なったその瞬間にスレイは引き絞っていた聖剣を付き出す。


「いい加減にしろよッ!───聖闇の突撃ッ!」


 スレイの作り出した最強の炎を宿した突き技と、ユキヤの最強の居合が放たれる。


 居合から放たれる八つの斬檄に魔剣の闇の力を上乗せし、それに対するように突き出された聖剣からは聖闇の炎が吹き抜けた。

 聖剣と魔剣の切っ先がぶつかり合い激しい火花が散らし合い衝撃が周りへと吹き抜ける。

 その中心で向かい合っているスレイとユキヤは同時に聖剣と魔剣へ力を込めると、聖剣からは暖かく輝くような聖の光が、魔剣からは冷たく凍てつくような闇の光が溢れ出した。

 スレイとユキヤを中心として弧を描くように二つの光が吹き荒れると、吹き荒れた力のエネルギーが木々を揺らし地面を割る中で、力を込め続けるスレイは聖剣に視線を落とした。


「もっとッ、もっとだレネッ!力を籠めてくれッ!!」

『んぅ~~~、むぅ~~~りぃぃ~~~~~~ッ!』


 数日前のグレストリアムからの戦いからあまり日にちを置かずに戦闘、そのため聖剣の力も完全に回復しきれていない。

 押し負ける、そう考えた瞬間スレイの聖剣の鍔に埋め込まれている蒼い宝石とユキヤの魔剣の鍔に埋め込まれている紅い宝石が輝いた。


「なっ、なんだこれッ!?」

「………………………………………………」


 驚いたスレイが思わず叫び声を上げるなかでも聖剣と魔剣からは溢れ出す光は輝き続け、その中心にいたスレイとユキヤを光の中へと包み込んでいくのであった。


 ⚔⚔⚔


 光に飲み込まれたスレイが目を開けたとき、そこは以前にも一度だけ来たことがあるなにもない真っ白な空間であった。


「なっ、ここはいったい……どこなんだ?」


 一面に広がり続けるただ真っ白な世界を見たスレイは、一目で以前聖剣との契約の際に訪れた精神世界だと言うことを理解したが、あの暗闇だけの世界とは真逆な世界を見回してから今度は自分の身体を見下ろす。

 服装はいつもの黒一色の服に同じく黒のロングコート、そして腰には白楼が収まっている鞘と空の黒幻の鞘が下げられたベルト、他には胸のホルスターには魔道銃が二挺収まっている。

 これは先ほどまでの戦いで着ていた服でそのまま連れてこられたのだろう、服についた汚れなどもしっかりあった。だが、直前まで握っていたはずの黒幻と聖剣だけがなかった。

 いったいどういう基準でここに連れて来られたのか、そう考えかけたスレイだったがそう簡単に答えが出るはずはなかった。


「聖剣に呼ばれた………いや、それならレネがここにいるはずだし、そうじゃないとしたらいったい誰がボクをこの世界き呼び寄せたんだ?」


 まさか精神世界とは違うのか、ならばいったいここはどこなのだろうか、いったい誰がここに呼び出したのだろうか?尽きることの無い疑問がスレイの頭の中を巡っていると、不意に背後から声が聞こえてきた。


「やぁ。よく来てくれたね。スレイ・アルファスタくん」


 なにもないと思っていた場所から声が届いたと同時に、振り向き様にスレイは腰に残っていた白楼を抜き放ちながら剣を構え切っ先をその声の主に向けた瞬間、スレイの目に映ったのは目を疑うような人物であった。


「はっはははっ、オレの声を聞いてすぐに剣を抜くか」


 スレイが白楼を向けている相手は本来ならば決して出会うことの出来ない人物であり、それがいったいなんの間違いで今目の前にいるのか。


「あなたは、レオン………レオン・アルメイアが、なんでここにいるんですか?」


 そう、七百年以上前に神との戦いに挑み敗れ、人々救うための希望となるべく悪を演じた友を斬り、未来へと希望と託すべくその魂の半分を異世界と送った初代勇者の名を告げると、レオンはニッコリと笑みを浮かべる。


「ようやく会えたな。オレの半身」

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