勇者VS魔王
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助けを求める連絡をいれてからいったいどれだけの時間がたっていたのだろうか、十分?一時間?それともすでに半日以上がたっていたのだろうか?
永遠とも思えるような長い時間を生き抜きようやく助けが来てくれた、そう思ったアカネとレティシアは、安心したからなのか全身から力が抜けていくのを感じていた。
「ユフィ、スレイ、あんたたち助けに来るならもっと早く来なさいよ………こっちがどれだけ大変だったか、今回ばかりは本当に死ぬかと思ったのよ」
「ごめんね、アカネ~。三十分くらい前にはこれてたんだけど、ちょっと分体と戦ってて遅くなっちゃって。でも間に合ったんだから許して」
安心しているからなのか今にも泣きそうなアカネがユフィとスレイに対して、文句とも取るような言葉を言っているが声のトーンからしても文句を言っているわけではないことが分かるユフィは、それに対して軽口を返していた。
そうしていると今度はアカネと同じような表情のレティシアが、カラカラと笑いながら少し無理をしたような笑みを浮かべながらポンッとアカネの肩に手を置いた。
「はははっ、アカネやせっかく助けに来てくれたんじゃ文句をいったらいかぬぞ?それにミーニャ、お主も妾たちを助けるため、よう来てくれた。感謝する」
『「助けに来るのは当たり前ですよ!私だってレンカさんの彼女なんですから!」』
ミーニャの成長に少しだけ寂しさと悔しさを覚えながらも、いつかはリーシャとアーニャ、それにレイネシアもこうなるのかとまだまだ先のことを考えているスレイだったが、そんなことよりも今は気になっていることを二人に訪ねる。
「ねぇ二人とも、あいつにいったい何があったのか教えてもらえないかな?」
魔眼が映し出す魂の色には今までに何度も戦ってきたあいつと同じか、それ以上にどす黒い靄のようなものと共に、魂の奥底からもう一つ、全てを憎みその身を焦がそうとするかのような焔がユキヤの魂を包み込もうと燃え上がっている。
あれはユキヤ自身の後悔の念や怨恨の念が実体化したいわばユキヤの心の変化か、あるいは魂の奥深くへと刻み込まれた過去のトラウマのようなものなのか、あるいはその両方なのか………この眼はそう言った変化を見ることは出来るだけでそれが何かまでは読み取れない。
そしてもう一つ、魂に纏わりつくどす黒い靄だがそれがユキヤの隣にいる使徒にまで合ったのだ。
「あれは支配の使徒ゼルビアナよ。………それで、支配の力を奪ったイブライムがレンカを支配下に置いてるみいたいよ」
「………あの野郎、ここでそんなことをやってたのかよ」
想像はついていたが要約するとつまりはこういうことだろう。本来この国をまかされていた使徒のゼルビアナの支配の力を奪ったイブライムが、その支配の力によってユキヤと、ついでにだがその力を持っていたゼルビアナまでも自分の支配下に置いているらしい。
「全く、ミーニャを泣かせただけでなくあの野郎の支配下に落ちただって?………フハハハハッ、どう絞めてくれようかあのバカ野郎を」
精気のこもっていない眼がこちらを見ているユキヤに向けてスレイが殺気を放つと、その殺気に反応したユキヤが小さく口を開くと、手の中に収まっている魔剣が輝きその手には銀色の弓が握られた。ユキヤが魔弓を真っ直ぐスレイたちの方へと向けるとその弦に手に触れて引き絞るのを見て、スレイはみんなの前に立ちはだかる。
「みんなボクの後ろの隠れてくれ!」
そう叫ばれるとユフィたちもユキヤの手に収まった魔弓を見て慌ててスレイの後ろに隠れると、魔弓の弦に指を掛け大きく引き絞ると同時に闇の光を濃縮した矢が作り出される。
来るかと思ったスレイが魔力を流すと同時に、ユキヤが手を離した瞬間にスレイは再び聖剣を盾に変化させ受け止める。
「ぐっ、重ッ!?」
矢を受け止めがスレイがジリジリと後ろに押されていく。
「スレイくん頑張って!」
「お兄ちゃん!」
「「スレイッ!」」
ユフィたちからの応援の声を聴きながら、スレイはギリッと盾を握る手に力を込める。
「言われなくても、頑張るってのッ!!」
盾を握った手に力を込めて上空へとその矢を受け流した。
上空へと受け流された闇の矢が爆発すると、爆風が吹き荒れるなか突っ込んでくるゼルビアナを前にしてスレイは盾から剣へと戻し白楼を抜こうとしたそのとき、背後から魔力を感じて横へ飛ぶ。
「そっちの使徒は私たちにまかせて!───ドラゴニック・ブレス!」
『「兄さんはレンカさんをお願い!───風よ吹き荒れろ!」』
ユフィが放った魔法はヴァルミリアのブレスを解析して造り出したオリジナル魔法で、その威力はスレイのヘリオースに匹敵するが、そこにミーニャの精霊魔法が合わさり威力をましたその魔法がスレイの横を抜けゼルビアナを射つが、ゼルビアナが作り出した水晶の盾がそれを防ぎきった。
っと、ここまではいいのだのだが、スレイはひとつどうしても言いたいことがあった。
「ちょっ、ユフィ!ミーニャ!ボクを殺すきかッ!」
軽く横へと飛んだだけの人間に対していったいどんな威力の魔法を使っているのか、攻撃の余波を受けて吹き飛ばされたほどだった。
一歩でも跳ぶのが遅れたり跳躍が足りなかったらどうなっていたかと、これ以上ここにいたらユフィたちに殺されると思い竜翼を展開して上へと飛び上がる。
するとユキヤも影を使って作り出した翼で飛び上がると、剣に戻していた魔剣を再び弓に変えて連続で矢を放つと、スレイもそれに合わせて聖剣を弓に変える。
「弓は苦手なんだけどなッ!」
スレイとユキヤが同時に弓を引き絞り矢を放った。
二人の中心で光と闇の矢が空中でぶつかり合い、爆炎が吹き荒れるなかを進むスレイ。
「もらった!」
接近したと同時にゼロ距離で矢を放ったが、矢はユキヤの魔弓によって切り裂かれる。
視ると弓の両端に鋭い刃のようなものが現れ、それによって切り裂かれたらしい。そう分析していると今度はユキヤが接近し魔弓で斬りかかる。
「クッ!?」
振るわれる刃を空中で身を反転させてかわし、空中ならではに体勢から矢を放ったスレイだったが不安定な体勢からの矢はユキヤに当たることなくかわされ、逆に矢を打ち返される。
「危ないなッ!」
矢が当たるよりも早く空間転移で逃れたスレイは次の矢を作り出しながら考える。
そのままこのまま矢を打ち合っていれば確実に両方が力尽きるだろうが、魔剣を使い始めて長いユキヤの方が力の押さえ方や引き出し方に一日の長があり、先に倒れるのは確実にスレイの方が先だ。
それでもスレイは迷うこと無く弓を引いている。
ここに来る直前にジュリアから与えられた時の精霊クロノスの精霊石があるからだ。
これは、クロノスの力で作り出した物で限定的ではあるが力の回復が望めるため、これが砕けるまでの間は存分に力を使い続ける。
「クッ、レネ!矢に込める力を増やせ!」
『わかったのぉ~!』
次の矢が作り出されると同時に身体の中からごっそりと力が抜け、そしてクロノスの力によって失われた力が戻ってくると言う、なんとも奇妙な体験をしながらユキヤに狙いを定めていると、スレイが力を貯めていることに気が付いたのか魔剣を刀に変えたユキヤが突っ込んでくる。
「くるかッ!」
もともと矢では命中率が低いスレイ。ここはじっと射程を短くするためにユキヤが近づくのを待ち、放とうとした瞬間、それよりも早くユキヤが技を放った。
「───斬激の型 次元斬」
ユキヤが魔剣を振るうとスレイの手の中に合った光の矢、さらにはスレイの右手が縦に切り裂かれる。
「なっ、にっ!?」
すぐに竜の治癒能力が発動し傷をふさいだスレイは、翼を羽ばたかせて空中を飛び回った。
今ユキヤが使ったのは空間を切り裂く技は、ルクレイツアの光刃と同じ原理の技なのだろうと察し一ヶ所にとどまらないようにする。
「ユキヤ、お前そんな技使えたんだな!」
「…………………………………………………………………………」
スレイの言葉に対してユキヤは答えようとはしない。
技の名前を言えるようになっているので、話すことが出来ないと言うわけではなく、ただ単にイブライムの力によって感情を殺されているだけもしれない。
「───斬撃の型 次元斬・閃」
だが結局のところは憶測でしかないので確証はない。ないのだが、たぶんそれが一番正しいのだろうと思ったスレイは次々と振るわれる不可視の攻撃回避しながら考える。
こう言う場合は感情に揺さぶりを掻けるのが良いのだと思い、動きを止めないまま話をするために口を開いた。
「そう言えばさぁ、お互いの素性を知ってから最後にやりあったのってあのときが最後だったよな。初めは痛み分け、二度目は引き分け、三度目と四度目は途中で中断………だったかな?」
突然語り始めるスレイに対してユキヤはさらに攻撃の手を変え、矢による遠距離攻撃を開始したためスレイは剣に戻した聖剣で矢を打ち落としながら接近すると、弓から刀へと変えた魔剣を両手で握ったユキヤが一直線に向かってくる。
聖剣による下からの切り上げを魔剣が真上からの振り下ろしで受け止める。ギリギリと火花を散らし合う聖剣と魔剣、それを担う二人の視線がぶつかり合うなかでスレイはさらに昔のことを口にした。
「勝負と言えば、地球にいた頃にお前と喧嘩したときのこと覚えてよな」
「……………………………」
問いかけに対しての返答の変わりにユキヤはつばぜり合いに持ち込んでいたスレイの聖剣をいなすと、懐へと潜り込みがら空きとなった腹部へ影の鎧をまとった拳を叩き込もうとしたが、拳が振り抜かれる瞬間にスレイは空間転移で避けた。
振り上げられた拳が空を切ると少し遅れて雷鳴と共に赤雷の稲妻がユキヤ目掛けて放たれたが、ユキヤは全面にシールドを張って受け止める。
「話の腰を折るなよユキヤ。せっかく昔話をしてるってのにさ」
「────突きの型 瞬光・五月雨」
冗談で言ったスレイに対してユキヤが無数の突きで返答してきた。
これはさすがに不味いと思ったスレイは聖剣を左手に持ち変え、空いた右手に黒幻を鞘から抜いて構えると刻印の一部を解放し動体視力を引き上げ、放たれた無数の突きに剣を当てて防ぐがユキヤの技の方が早く弾けなかった突きがスレイの頬や身体を切り裂き血が飛び散った。
「くっ、痛ってぇなぁ!───雷鳴・竜閃牙ッ!」
繰り出される突きをかわしたスレイは雷撃を宿した黒幻を真下から真上へと振り上げると、雷を宿した闘気の竜が現れるとユキヤの元へと駆け抜けるが、ユキヤは魔剣から放った闇の力によってスレイの攻撃を打ち消すと、その中を駆け抜けたユキヤがスレイの懐へと潜り込むと両の手で握られた魔剣から放たれたのは嵐のごとき斬激であった。
「────斬激の型 桜花・春嵐」
「ぐっ、うわっ!?」
嵐のよう吹き抜ける斬激の嵐を受けたスレイだったが、まともに受ける前に全身に闘気と魔力を纏ったことでどうにか直撃は防げたが、それでもユキヤの技をまともに受けたせいで地面のすぐ近くにまで落とされたスレイはどうにか翼を広げて耐えたが、顔を上げた瞬間に真上に剣を斜め上へと構えるユキヤの姿がそこにあった。
「────斬激の型 夢想影斬」
放たれた無数の斬激、それは全て影であって本当の技ではないのだと知っているスレイだったが、今まで何度もすぐそばで見てきたはずの技だったが、初めて正面から受けたその技はあまりにも洗礼されていたせいで見切れたのたった数激だった。
黒幻と聖剣を操りどうにか見切ることの出来た数激を受け止めた、そう思ったスレイだったが剣がぶつかり合ったと思ったその時、スレイの剣がすり抜けていってしまった。
「しまっ─────ぐがぁあああっ!?」
すり抜けた剣がスレイの背中の翼を切り落とされると、今までに体験したことのない鋭い痛みが背中から脳天にまで駆け抜け思わず叫び声を上げてしまうほどだったが、スレイはすぐに痛みを我慢するように風魔法を使い空中に停滞しようとしたが、そこにユキヤの蹴りが当たり地面へと落とされる。
上空から叩き落とされ地面に叩き付けられたスレイは、森林公園から離れて街の中央、貴族の家が立ち並ぶ高級住宅街とでも言うべき場所の石畳を砕いて小さなクレーターを作った。
ガラリと起き上がった拍子に身体に乗っていた瓦礫が落ち、それと一緒に頭から血の雫が垂れ落ち露出した地面を赤く染めている。地面の落ちた拍子にどこかを切ったのだろうと思ったが、すでに傷はふさがり血も止まっている。
『パパァ~、だいじょーぶ?』
「あぁ。平気だよ。パパは丈夫だからね、これくらいの傷なんてかすり傷だ」
心配そうに訪ねてくる娘に対しての精一杯の痩せ我慢だった。竜翼を切り落とされた背中はいまだにズキズキと痛みを訴えかけ、叩き付けられた拍子に折れたのか左足と脇腹にも鋭い痛みがあったが、こちらはすでに再生が始まっているので時間をおけばすぐに治るだろうが、問題なのは背中の竜翼だ。
翼の再生は今までにしたことがないが再生は可能なもだろうが、そもそも竜人の疑似気管を再生させること事態が初めてのことなので、腕を再生させたときのように神経が鈍くなっている可能性があった。そんな状態で空中戦など出来るはずがない。
さてどうするかっと、スレイが考えていたところでユキヤが下へと降りてくる。
「なんだよ、結構優しいところあるんだな。翼をなくしたボクにあわせて地上に降りてきてくれるなんてね」
「……………………………………………」
「だから、いい加減なにか話してくれよ。ボクばっかり喋ってたらおかしい奴みたいじゃないか?」
「……………………………………………」
表情を全く変えていないユキヤに対してスレイが笑いながらそう言っているが、ユキヤからの返答は全くなっかった。やはり喋っていても無駄なのだろうと諦めたスレイは、目の前で制止しているユキヤの姿を見ながら、こうなったらなにがなんでも目を覚まさせてやろうと思い再び昔話を恥める。
「なぁユキヤ、最後にこうやってお前と戦ったときにさ。お前、ボクと初めて喧嘩したときのことを言ったの覚えていってたよな」
「……………………………………………」
「答えないのは分かってるから勝手に続けるけどさ、あのときの原因は今回みたいにお前が原因で変な奴らに絡まれて、学校やめるとか言い出したお前と殴りあって、それが見つかって二人で仲良く警察に怒られて、ついでに親にも叱られて、それで色々あってお前と友達になって」
「……………………………………………」
「初めはミユに言われてだったけど、そのときからだろうな、ボクとお前って結構似てるところがあるなって思えるようになったのは…………いや、違うな。実際に似ているんだよな。ボクたちの魂の片割れであるレオンとデュークは」
話を始めるスレイの言葉を聞いてピクリとユキヤが微かな反応を示した。その表情や魔眼で見える魂にはなんの変化もなかったが確かに今ユキヤは微かな反応を示した。
このまま話を続けていればなにかが変わるかもしれない、そう思ったスレイは剣を握り手にギュッと力を込めながら話を続ける。
「自分が傷付いたとして誰かのために手を伸ばし続けていたレオンと、傷つけられても誰かのためにと戦い続けたデューク、ボクたちがそんな二人の転生者だからなんだろうな。お前が隣にいるだけで、どんなことがあっても大丈夫だってそう思えたのは」
「………ぅっ、うぐっ…………あぁぁああ…………」
話を聞いていたユキヤが突然頭を押さえて呻き声を上げ始めるが、スレイは動揺することはなかった。
その理由は常時発動されていた魔眼がユキヤの魂を映し出していたからだ。
魂の周りに纏わりつくどす黒い靄と、魂の奥底から溢れだしメラメラと心を燃やし続ける焔広がり魂を燃やしていた。
魂を焦がす勢いで燃えている焔の奥に見えてくるのは暗い闇、世界をすっぽりと覆ってしまったかのような光すら届くことのない暗い世界を見ながら、ようやくその闇の正体を理解したスレイは小さく俯いた。
一つ目にスレイは大きな間違いを犯していた。
それはユキヤの魂から溢れていあの焔は心の奥底にある過去の記憶、そしてその奥に見える闇こそが心の奥底へと押し込め続けていた憎悪の塊が具現化したものなのだ。
それを理解したスレイは俯いていた顔を少しだけ上げると、右手に握られている黒幻をジッと見つめていると黒幻の中から声が聞こえてくる。
『どうした小僧。また我に魔王の小僧の魂にある傀儡の力を斬れと頼むつもりか?』
「いや、今はウィルナーシュを借りるつもりはないし、もしも今ユキヤの心のなかにあるあの靄を斬ったらたぶんもう戻らない」
『ふむっ、詳しく聞こうか』
「簡単なことだよ。人は誰しもがいつかは過去を乗り越えなきゃいけないときが来る。ただし、それはあのクソッたれの神気が混ざってるせいで簡単には手を出せないってだけだよ」
ラピスのときは心を殺意で埋め尽くそうとしていただけだったため迷いなく斬ることができたが、今回は洗脳の他も力を使って夢のような形で記憶を呼び覚ましていると思われるため、下手に斬ってしまったら最後、二度と目覚めることのないかもしれないのだ。
「だからさ、ウィルナーシュ。それにレネも、ボクが合図するまでは力を押さえてくれないかな?」
『はっ、面倒なことを言ってくれる小僧だ』
『わかったのぉ~』
あまり乗り気ではないウィルナーシュと元気な返事を返してくれるレイネシアの返事を聴きながら、スレイは小さくうなずくと聖剣を黒幻の鞘に納め代わりに魔道銃を抜いて構える。
まっすぐと向けられる視線の先には、頭を押さえながらどす黒い闇が身体中から溢れ出すと、微かに残っていたユキヤの意思が完全に奪われた。
「なぁユキヤ、お前は今何を見ているんだ?」




