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二人の魔道具作成

もうすぐ三十話、最初はここらへんで章を終わらせようと思ってたんですけど、後五話位書こうかなって思っています。


 スレイとユフィが付き合いだしてから一ヶ月、年が代わり新たな一年が始まった。

 それを気にスレイとユフィは新たな魔道具作りを始めることにした。


「それじゃあスレイくんの魔道銃作ろっか」


 始まりはその一言からだった。


 早朝練習を終えてスレイの家の一緒に朝食を食べたあと部屋で一人で剣の手入れをしていると、行きなりユフィからそんなことを言われたスレイは、そう言えば数週間ほど前にそんなことを約束していなっとようやくそのときのことを思い出した。


「そう言えばそんな約束してたね」

「もぉ~忘れちゃってたの?」


 プクゥ~っと頬を膨らませるユフィその頬を両端から挟み込みプシュ~ッと空気を抜きながら、ボクの彼女可愛いなっと関係ないことを考えているスレイだった。


「あの日はいろいろあってすっかりね」

「主にスレイくんのせいな気がするんだけどぉ~?」

「その節は誠に申し訳ございませんでした。こんな私めの彼女になっていただき、大変感謝いたしております」


 深々と頭を下げたスレイとは対照的に、あたら右手彼女と言われて顔を赤くするユフィはそれを悟らせまいとそっぽを向いた。


「まっ、まぁその話は置いといて………スレイくんの新しい魔道銃はどんなのにするのか考えてるの?」

「そうだなぁ~片手で使える今みたいなリボルバーか自動拳銃辺りがいいとは思ってるな」

「えぇ~もっとカッコいいの作ろうよぉ~。アサルトライフルとか対物ライフルとか」

「アサルトライフルは良いけど……対物ライフルって……一体何と戦う気なの?」

「うぅ~ん…………………………ドラゴン?」


 対物ライフルが必要になるほどの大物と戦う気は更々ないが、あっても困らないだろうと考えたスレイはとりあえず製作することにした。


「簡単にデザイン考えてよ」

「……言うと思ってたけど、ボク銃のデザインなんて分からないからね?」

「いいのいいの、厨二全快でもいいから」

「誰が厨二だ。まぁアニメやゲームで見たの思い出しながら描いてみるよ」


 早速スケッチブックを取り出したスレイはサラサラサラッと自動拳銃やリボルバー、ライフルなどのデザインを書き上げていった。

 少ししてラフ絵が描き上がり一度は自分で確認してみると、やはり一度は何かのアニメで見たようなそれができてしまったが、ユフィも許してくれたのでまぁいいかとそれを見せることにした。


「こんなところかな」

「見せて見せて」


 スレイの描いたデザインを横から覗きこんでくるユフィはペラペラと一枚一枚確認していき、最後の一枚を見て首をかしげていた。


「ねぇ、このリボルバーってスレイくんのと同じだよね?」

「他に思い付かなかった」

「ふぅ~ん……まぁでも、銃身をもう少し縦長にしてみない?」

「これ以上長くすると上着に入らないんだよ」


 スレイは一度はユフィにも見せるためにホルスターと上着を着て見せると、今の背丈でもギリギリの場所で収まっている魔道銃を見せる。


「じゃあ短くする?」

「まぁ、そうなるね」

「じゃあ早速試作しようか」


 その日からスレイとユフィは昼夜問わず魔道銃の試作に精を出すのであった。


✵✵✵


「最近、あのガキが一日中家の娘と一緒にいるんだが?」


 酒場でポロリと口に出したのはゴードンだった。


「そういやあ、スレイがユフィちゃんと一緒になにか作ってるもんな」


 そう答えるのはフリードだ。

 二人は月に一度くらいのペースで、酒場で集まって一緒に飲む。

初めの頃は家庭で起きた些細な出来事の相談や子育ての悩みなどを相談していたが、いつの間にかどちらかの仕事の愚痴を言い合う会になっていた。

ゴードンの話を聞きながらつまみのジャーキーを摘んでいたフリードは、こう言うのも久しぶりだと思っていた。


「毎日毎日、あのガキは………一度殺さねぇといけねぇもかもしれんな」

「返り討ちにあうぞぉ~、ってか家の子供殺すとかいうんじゃねぇよ」

「ならあのガキと家の娘を別れさせろ」

「そんなことしたらオレがジュリアさんとマリーに殺されるわ」


 そういいながらグラスに注がれた酒を飲むフリードは、急に隣でガタンっと音が鳴った。

音のした方を見るとゴードンが勢いよく立ち上がっていた。


「別れさせれないなら俺が殺す」

「だから返り討ちに会うのが落ちだからやめろっての!」


これは完全に酔っ払ってると思ったフリードは今にでも突撃しそうな勢いのゴードンの襟首をつかみ、無理やり椅子に座らせる。


「お前は心配し過ぎなんだっての!あっ、マスター、そこのボトルとつまみ追加で」

「はい。ただいま」


マスターが二人に前に追加のお酒とつまみを置くと、フリードは用意されたボトルの栓を抜きゴードンに渡した。


「ほれ、今日はオレが奢ってやっから飲め飲め。飲んで忘れちまえ」


差し出されたボトルはこの店の中でもかなり上等なもの、それこそ一本でゴードンの月の小遣い何ヶ月分かわからない。

こんな高い酒はめったに飲めるものではない。幾分化の葛藤の後ゴードンはおとなしくボトルを受け取った。


「………いただこう。ただしお前の財布が空になるまで飲んでやるからな」

「おう。やれるもんならやってみな」


軽口を叩くフリードと、わりと本気で飲み潰してやろうと考えるゴードン、父親二人の夜はこうして更けていくのであった。


✵✵✵


 朝日が差し込んだときスレイは目を覚ました。


「う、うぅ~ん」


 起き上がったスレイは床に直接寝ていたせいで凝り固まってしまった身体をパキパキと鳴らしながらほぐしてから、まだ眠い目を擦りながら隣を見ると同じように床で眠るユフィがいた。


「疲れてそのまま寝ちゃったのか……」


 ポリポリと頭をかきながらユフィの寝顔を見ている。


 ──うぅ~ん……あんまり見るもんじゃないか。


 そう思ったスレイはいつまでもここで寝かしているのはかわいそうだと思い、眠っているユフィを抱き抱えてベッドの上に寝かして部屋を後にした。


 下に降りると朝食の匂いが漂ってくる。


「おはよう母さん、ミーニャ」


 キッチンに顔を出すとそこにはジュリアとミーニャが朝御飯を作っていた。


「おはようお兄ちゃん」

「あら、おはようスレイちゃん、ユフィちゃんは?」

「まだ寝てる。昨日遅くまでやってたから」

「ふぅ~ん、まぁ、あんまり無理しないようにね」

「わかってますよ。あ、ミーニャ今日の朝ごはんなに?」

「スクランブルエッグとベーコン、それにサラダとパンだよ」

「わかった。ってか、母さん依頼はいかなくていいの。最近ずっと家にいる気がするけど?」


 この半年ほどジュリアが家にいる時間が増えた。つい何年か前なら絶対にそんなに長くいることはなかったのにと思ったスレイにジュリアが答える。


「ちょっとずつだけど減らしてるのよ。依頼を受けるの」

「何でまた?」

「何でって………後何年かしたらスレイちゃんは旅に出るんでしょ?」


 スレイももうじき十五才、この世界では一人前の大人として扱われる年齢になる。そうなるとスレイはユフィと共にこの村を出て正式に冒険者としてデビーするつもりだ。


「それにミーニャちゃんもリーシャちゃんもまだ小さいし、今まで依頼ばっかりでお家のことまかせっぱなしだったか少しは慣れておきたいのよ」

「そっか………ごめんね母さん」

「いいわよ。それにもう年齢的にも第一線を張るには厳しかったしちょうど良かったわ。まぁフリードさんにはもう少し頑張ってもらうけどね」

「そっか」


 ジュリアを見るスレイの目はどこか申し訳無さそうな目をしていた。


 ──母さんには悪いことしちゃったかも


 そう思いながらスレイはミーニャの横にたった。


「ミーニャ、もう少し火を落として。でないと炭になっちゃうよ?」

「えっ!?ホント?」

「あぁ。火を落として焦げ目がついたら返して、そうすればミーニャ大好きなカリカリベーコンになるよ」

「わかった。やってみる!」


 ミーニャが言われた通りに火を落として、フライパンの中のベーコンと格闘し始めたのをみたスレイはその隣でサラダの野菜を豪快に切っているジュリアを見て、まだまだだなっと思いながら口を開いた。


「母さんサラダの野菜はもう少し細かく、それだと大きすぎだよ。切るなら一口サイズね」


 そう言いながらジュリアから包丁を受け取ったスレイはぶつ切りにされた野菜を一口サイズに切り直すと、修繕不可能だった野菜と追加で数種類の野菜をきると、新しい鍋に野菜と余っていたベーコンを薄くスライスして炒めてから水をいれて前に作って保存しておいたブイヨンを追加、塩コショウで味付けするとスープが一品出来上がった。


「あら、手際いいわね」

「慣れだよ慣れ。ってか今日から母さんとミーニャにはボクがみっちり料理の指導しようか?」

「ホントに?やったぁ~!」

「お手柔らかにお願いするわね………でもいいの?新しい魔道銃?だっけ、作らなくて?」


 喜びを表しているミーニャとは反対に息子の目が怪しく光っているのをみたジュリアは、なにか嫌な予感がして顔をひきつらせながら別の話題に変えようとした。


「ふっふっふ、その魔道銃だけど昨日ようやく完成しましたよ」

「あら………それはおめでとう」

「まぁ出来ただけで一度使ってみないから調整とかもおいおいしなくちゃいけないんだけどね」


 スレイはその話をしているうちに小さな子供のようにワクワクしながら語っているのを見て、ジュリアは微笑みを浮かべる。


「試したくてソワソワするのはいいけど、やり過ぎないようにね」

「えっ、そんな顔してた?」

「うん。お兄ちゃん嬉しそうだよ」

「………明日からポーカーフェイス練習でもするかな?」


 そんなことを真面目な顔で言うスレイにジュリアとミーニャは顔を見合いながら微笑んだ。


 しばらくして朝食の準備を終えたスレイは自分が未だに寝巻きであることを思いだし、いい加減に着替えてこようと考えた。


「ちょっと着替えてくるついでにユフィ起こしてくる」

「ならユフィちゃんを起こすついででいいから、リーシャちゃんも起こしてきてちょうだい」

「了解」

「スレイちゃん。いくら彼女だからって、朝からユフィちゃんに変なことしちゃダメよ?」

「しませんよ!」


 大声で否定したスレイを見てジュリアとミーニャがクスリと笑った。



 自分の部屋に戻ったスレイはユフィを起こす前に、着替えを済ましてからベッドで眠るユフィに近づく。


「おぉ~い。ユフィ朝だぞぉ~」

「うぅ~ん」


 眠っているユフィの肩を揺さぶってみたが全く効果がない。いつもなら寝起きがいいのだが、限界にまで疲れていたときなどは寝起きの悪いユフィをどうにか起こそうともう一度揺さぶってみる。


「朝だってば起きてって──うお!?」

「うぅ~まだ眠いよぉ~」


 寝ぼけたユフィがスレイを抱き締めてベッドのなかに引きずり込んだ。


「こっ、こらユフィ!寝ぼけるんじゃ──ムガッ!?」

「もぉ~しずかにしてよぉ~」


 耳元で声を出しているとうるさいと思ったユフィがスレイの頭を両手で抱え込み胸元に抱き抱えた。


 ──や、柔らか……じゃない!


 一瞬だけ好ましい感触にこのままでいたい気持ちになったスレイだが、こんなところを誰かに見られると不味いと思い何とかこの拘束から逃れてユフィを起こすかと考え、一つだけ思い付いた最初にして最終の手段を使うことにした。


「さっき、怒り狂ったおばさんがしたに来てたよ」

「──お母さんごめんなさいッ!?」

「うおぉーーーーッ!?」


 抱き締めていたスレイを突き飛ばし器用にベッドの上で飛び上が綺麗な土下座を披露したユフィだった。

 頭を下げてから数秒、何も返事が返ってこないことに気がついたユフィは恐る恐る顔をあげる。


「あれ?……お母さんは」


 誰もいないことに気がついたユフィは回りをキョロキョロと見ていると、ベッドの下から声が聞こえた。


「おばさんならいないよ」

「えっ、スレイくん?」


 声の聞こえたのはベッドの下、ユフィは四つん場の状態でベッドの端に移動して見下ろしてみると、そこには仰向けになって倒れたスレイの姿を見つけた。


「な、何があったのスレイくん!?」

「何があったって………ユフィに突き飛ばされたんですけど」

「えっ?」


 起き上がりながら答えたスレイを見ながらユフィは先程目を覚ます前のことを思い出した。


「ご、ごめんね……だ、大丈夫?」

「あぁ、平気だよ」


 パンパンッと埃を払ったスレイは申し訳なさそうにしているユフィのことを見る。


「おはようユフィ」

「おはようスレイくん」

「起きたなら、早く服着替えて下に降りてきてね。母さんとミーニャがご飯作ってたから」

「はぁ~い………………覗いちゃダメだよ?」

「覗きません」


 スレイは部屋から出て、次にリーシャの部屋に向かい扉を開けると


「おにーちゃん、おはよう」


 その声と共に小さな影がスレイの方へと飛んでくる。


「おっと、おはようリーシャ。だけど危ないからジャンプはしちゃダメだぞ?」

「はぁ~い!」


 長い白髪の女の子、リーシャ元気よく返事をした。


「さぁ、お着替えしようか、リーシャ、一人でできるかなぁ~?」

「できる!リーシャ、もう三さい、だもん!」

「わかったわかった、じゃあ服用意してあげるからお着替えしようなぁ~」

「うん!」


 元気よく返事をするリーシャの頭を撫でてからクローゼットにしまってあったワンピースを取り出しリーシャに手渡すと、たどたどしくも一人で着替えることができた。



 その後、部屋の前でちょうど出てきたユフィと合流し、洗面所で顔を洗った後ジュリアとミーシャとで一緒に作った朝食を食べていると、依頼を終えて帰ってきたフリードがリーシャに抱きつこうとすると無精髭と急いで帰ってきたせいで汚れたままの服を見て、汚い!、とリーシャに言われて崩れ落ちそれをジュリアに慰められたり、そこに娘を取り返さんとするためやって来たゴードンとスレイの一騎討ちが、繰り広げられる前にユフィからの、お父さんのバカ!もう来ないで!!、と言う一言に崩れ落ち、遅れてやって来たマリーに絞め落とされ庭の木に縛られ、朝食まだだったマリーと付いてきたパーシーが一緒に朝食を食べるこにした。


✵✵✵


 いつもよりも騒がしい朝食を終えたスレイとユフィは出掛ける準備をしていた。出掛けると言っても買い物やデート等と言った楽しいものではない。

 少し丈の長い腰には二種類のベルトを付けジャケットを羽織ったスレイと、灰色に近いマントとつばの長い帽子を被ったユフィ、二人がこれから向かうのはスレイの新しい魔道銃性能試験つまりは魔物狩りだ。


「よし、行こうかユフィ」

「うん」


 用意のできた二人は、ゲートで直接森へと向かった。

 ゲートを抜けて森へと降り立ったスレイとユフィは探知魔法で周りの魔物の数を調べる。


「ここから近いのだと、あそこのゴブリンってところかな?」


 始めにユフィが見つけたゴブリンの群れを指差した。


「七匹か、少し数が多い気がするしそれになんか一匹だけおかしくないか?」

「あ、確かにそうかも……異様に魔力が高いような?」


 二人の探知魔法にはゴブリンの魔力の中に一匹だけ、異様なまでに高い魔力をもつ魔物が存在していたのだがこれだけでは終わらなかった。


「ん?反応が減った?」


 急にゴブリンの魔力が消え、魔力の高いゴブリンの魔力が一瞬にして膨れ上がる。

 共食いにしても異常なほどの上がり具合にユフィが驚くと、スレイはまさかと口ずさんだ。


「まさか、変異個体か?」


 スレイがそう呟くのを聞いてユフィは首をかしげていた。


「変異個体?」


 ユフィは聞いたことのない言葉に聞き返したのでスレイは変異個体についての説明を始めた。


 魔物が強化されるには二種類の方法があった。

 一つ目はかなり有名なことで、魔力を吸収することによって魔物の中に存在するコアが活性化され、より強力なコアへと作り替えられ、それにともない魔物も強化されるのだが、今回のことはこれではない。

 ここからが本題で魔物が強化されるもう一つの方法、それが問題だ。

 魔物が日常的に共食いを行うことがある。集団で暮らすゴブリンのような魔物は、群れの中でリーダーになるために周りのゴブリンを殺し、その中にあるコアを食べることがある。

 これはコア喰いと呼ばれる行為なのだが、これは同種の魔物同士だとコアの形が同じためか取り込まれる魔力量も少なく効率が悪いのだが、これは同種の場合の話だ。

 ここからが問題の変異個体についての説明になる。道理はコア喰いと同じだが取り込むコアが違えば、もし弱い魔物が全く別の、それも自身よりも強い魔物のコアを食べたとする。

 すると自身のコアと別のコアが合わさったことにより、コアが取り込んだコアに会わせて肉体を作り替え、もとの種のコアを捕食することによりその魔力をそのまますべて取り込むことも可能になる、そんな魔物のことを変異個体と呼ぶのだが、これが一番厄介なのだ。


 死霊山にいた頃にスレイは一度だけ変異個体と遭遇したことがあった。

 ヘルハウンドが偶然にも自身よりも上位のブラッディータイガーのコアを捕食し、通常の五倍ほどにまで身体を巨大化させ強力な顎と手足を手入れていた。


 その時の体験談を語ったスレイは、この魔物をはやいうちに討伐討伐しなければならないと考えた。


「ユフィ。かなり危険なことだけど、このゴブリンの討伐を優先しよう」

「わかったよ。被害は出てないみたいだけど放置したら大変なことになるもんね」


 うなずきあったスレイとユフィは剣と杖を握り直し反応のあった場所へと急いだ。


✵✵✵


 茂みの中に身を隠したスレイとユフィは目の前で一匹の魔物が行っていることを見ていた。

 二人の視線の先には、ボリボリとゴブリンのことを食べている巨大な魔物を見ていた。


「何あれ、ホントにゴブリンなの?」

「……だと思うけど、こうしてみると断言できる自信はないな」


 もとのゴブリンよりも巨体で全身には短い動物のような毛に筋肉質な手足に動物のような鋭利な爪、そして極めつけに背中に生えたコウモリのような羽、どこからどう見てもゴブリンなんかでは断じてなかった。


「取り込んだのは、ウルフ系の魔物かな?」

「いや、あの大きさからしてコボルドか……それにあの羽、蝙蝠……いやイビル系の魔物かもな」


 こればかりは戦ってみないとわからない。


「ユフィ、いつも通りボクが突っ込んでユフィが援護だ」

「いつも通りだね」

「うん。まぁ初見だしちょっとつついてくるよ」


 そう言い今いた茂みの中から変異個体の背後の茂みにまで移動すると、スレイはユフィの方をみると指を三本たてたのを見て小さく頷いた。


 タイミングはユフィが指示を出す。

 変異個体がゴブリンを捨てたのを見てスリーカウントを開始したユフィは、その間に空間収納から取り出したアタックシェルとガードシェルを起動し、スレイは腰に下げていた剣を抜き左手には短剣ではなく新型の魔道銃を抜き放った。


 ユフィのカウントが一になったところで、スレイは身体を屈めてタイミングを見計らい、カウントがゼロになった瞬間、屈めた身体をバネのように伸ばし茂みの中から駆け出した。

 バサッと茂みが揺れ変異個体が音のしたほうを見る。


「グギッ!?」


 先手必勝、そう決めたスレイは左手に握る魔道銃に魔力を注ぎ銃弾を撃ち放つ。


 スレイの新しい魔道銃は、前のリボルバー型からオートマチックに変更しユフィが新しく考えた魔道回路のお陰で、前みたいに魔力を流しすぎたとしても銃身の爆発することがなくなった。

 銃弾を数は十六発、二人がこの魔道銃に着けた名前はアルナイル、星の名前からとった。

 スレイは新型魔道銃(アルナイル)のトリガーを引いた。


 撃ち出された三発の銃弾。それを見た変異個体の取った行動は今まで食べていたゴブリンの死体を盾にすることだった。撃ち出された銃弾はゴブリンの壁によって阻まれる。


 ──クソッ、なら!


 魔道銃を握ったまま今度は剣で切り付ける。

 スレイが剣を振るうと変異個体はそれをゴブリンの遺体で打ち合うが、ただの死骸なので簡単に切られる。


「ハァァッ!!」


 盾がなくなったところで下から上への切り上げで片を付けようとしたスレイだったが、盾を失った変異個体は振り上げられた剣の一撃を猛獣のような爪で受け止めた。


「────ッ!?か、硬ったい!」


 変異個体は剣を受け止めたことに口元を歪ませると、剣を受け止めている反対の手で斬りかかるがそれを見越していたスレイは魔道銃で斬りかかってきた手を撃ち抜くと、さすがにいくら固くても至近距離からでは意味がなかった。


「グガアァアアァァァッ!?」


 掌を撃ち抜かれたことで叫びながら後ろに後退、つまりは逃げることにしたらしく背中の羽を広げた。バサッと大きく羽ばたかせ土煙をあげる。


「しまっ、まて!」

「私に任して!」


 不意をつかれたスレイが後を追おうとしたがここで今度はユフィが攻撃を仕掛ける。


「アイスロック!」


 逃げようとした変異個体の目の前に突然現れた氷の壁に変異個体は足を止めた。


「逃がすか!」


 強化した足で距離を積めたスレイ、そして声を聞いて振り向いた変異個体が振り向き様に斬りかかる。爪が振り抜かれる寸前、スレイは身体を屈めてかわすと、伸ばされた腕を下からの切り上げで切り落とした。


「ギャァアァァアァアッ!?」


 腕を切り落とされた変異個体は、後ろにたじろぐと背中の羽を使い上空に飛び上がる。


「まて!──フライ!」

「スレイくん!私も行くよ!」


 飛行魔法を発動し空に飛び上がるスレイと、空間収納の中から前に作ったフライイングボードを取り出し浮かび上がった。

 二人は少し遅れて飛び立つと、変異個体の背後から魔法を打ち出す。


「逃がすか!──インフェルノレイン!」

「逃がさないよ!──アブソリュートバレット!」


 スレイが魔道銃から業火の雨を、ユフィが杖から絶対零度の弾丸を打ち出した。

 放たれた二つの魔法が変異個体の羽に穴を開けたせいでうまく飛べなくなり、地面へと落下を始めたのを見たスレイは魔道銃をホルスターに戻し短剣を抜くとそのまま変異個体の元まで降りる。


「これで終わりだ!」


 落下する変異個体に近づいたスレイに無事な手で突き刺そうとするが、空中で身体をひねりそのまま懐に潜り込むと右上に構えた二振りの剣を振り下ろし変異個体の胴を二つに切り落とした。



 空中で二つに両断された変異個体の前に立っているスレイとユフィは、相手が完全に事切れているのを確認してから武器を下ろした。


「何とか倒せたな」


 スレイは地面に激突し粉々となってしまった変異個体を見ながらそう呟く。


「なんとかなったのは良かったけど、結構強かったね」

「うぅ~ん。死霊山の魔物の方が強かったからなんとも言えないな」


 真剣な顔をしているユフィとは違い、微妙な顔をしているスレイ。


「これよりも?」

「あそこのは日常的に濃度の濃い魔力を吸ってるからね。でも、こいつが時間が経って変異した身体に慣れてたら間違いなく死霊山の魔物とためをはれたはずだよ」


 早めに討伐できたことに安堵するスレイは空間収納に変異個体のコアを仕舞い、肉片は焼き払おうかとも思ったが証拠がないと厳しいかと思いそれもしまった。


「目的も果たしたし、帰ろっか。こいつのことも父さんに言わなくちゃいけないし」

「そうだね。他にもいたら危ないからギルドの方に知らせてもらわないといけないもんね」


 なにも言わずにうなずいたスレイは急ぐためにゲートを開いた。



 その後、スレイとユフィは森の中で出会った魔物のことをフリードに説明し、フリードに連れられて王都のギルドに説明に行くことになった。

 初めは子供の妄言だと思われたが、変異個体のコアと証拠の肉片を見せると信じてもらえ冒険者による大がかりな変異個体の捜索が行われた。

 数匹の変異個体が発見され速やかに冒険者によって討伐されたことを聞き、スレイとユフィは安堵の息をついたのだった。


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